二度目の人生は艦娘でした   作:白黒狼

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とりあえず一区切りです。

前回の最後のコンゴウさんの登場シーンでガイナ立ちしながら登場する姿を想像した方が何人かいらっしゃったので、描いてみました。


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帰還★

 北方ちゃんの後を追って海面に出た。

 目に入ったのは真っ青な青空で、雲一つない絶好の出撃日和である。艤装を展開し水面に立ち上がると、水に沈んでいた時の違和感は綺麗に無くなった。

 隣に視線を向ければ北方ちゃんが耳に手を当てて遠くをジッと見つめている。どうやら深海棲艦が使う無線で情報を得ているようだ。

 

「ミツケタ、ココカラ東ニ姫ノ反応ガアル」

 

「了解、すぐに向かおう」

 

「ワタシハ足ガオソイカラ、コンゴウハ先ニ行ッテ」

 

 北方ちゃんに頷いて返事を返すと、全速力で反応がある場所に向かう。北方ちゃんに私の無線コードを教えているので、無線越しに細い航路の指示を受けながらとにかく急いだ。

 きっと、今この瞬間にも岩川鎮守府の仲間達が飛行場姫と激しい戦いを行っている筈だ。たぶん、優しく仲間想いな皆のことだから撤退するなんて考えてもいないだろうし、一刻も早く合流しないと。私が合流すれば撤退という選択が取れるし、もし誰かが一人でも轟沈しているようなら……。

 

 私は、きっと自分が許せなくなる。

 

『コンゴウ、聞コエル?』

 

「北方ちゃん、聞こえるよ」

 

『姫ガ連レテイッタ第一艦隊ガ壊滅シタヨ』

 

「みんな……」

 

 ひとまず安心して肩の力を抜く。しかし、まだ油断はできない。第一艦隊がいるなら第二、第三の艦隊が編成されている可能性があるし、疲弊したところに強力な個体が現れる可能性もある。

 

『第二艦隊モ壊滅……ッ、姫ガ、レ級ヲ呼ンダ』

 

「レ級だって!?」

 

 北方ちゃんの報告に思わず叫んでしまった。でも、それ程レ級という個体が持つ力は強力であり、恐ろしいのを知っている。

 

「……みんな、待ってて!!」

 

 機関の回転を上げ、更にスピードを出して進む。機関の妖精さん達が慌てて落ち着くように言ってくるけど、今は構ってる暇なんかない。大切な私の仲間がピンチなんだ、間に合わなかったなんていう事にはなりたくない!!

 

『レ級ト艦娘達ガ戦闘ヲ開始』

 

「北方ちゃん、残りの距離は!?」

 

『アト半分クライ』

 

「くっ、なんてもどかしい……!!」

 

 思わず拳を握りしめて下唇を噛む。何もできないのが本当に悔しい。

 

『コンゴウ、ダイジョウブ』

 

「……北方ちゃん?」

 

『艦載機デ様子ヲミテルケド、レ級アイテニ善戦シテル。タブン、カテルヨ』

 

「……でも」

 

『コンゴウ、仲間ヲ信ジテ。ワタシヲ信ジタミタイニ』

 

「……北方ちゃん」

 

 北方ちゃんの言葉で冷静になった。焦っていた気持ちを落ち着ける為に深呼吸をして機関の回転を落とす。ホッとした妖精さん達に謝りながら再び前を向く。

 

「北方ちゃん、ありがとう」

 

『ドウイタシマシテ……ン、姫ノ隠シタ別ノ仲間ヲミツケタヨ』

 

「レ級の後にまだ戦力を隠してるのか。先ずは其方を片付けるべきかな?」

 

『ワタシガ話ヲツケル。ダカラ、コンゴウハ先ニススンデ』

 

「うん、任せるよ、北方ちゃん」

 

『マカサレタ、ガンバル』

 

 北方ちゃんと皆を信じてひたすら目的地を目指した。最初に見た青空は既に茜色になりつつある。どれだけ時間が過ぎたかわからないが、水平線に夕陽が沈み始めた頃、遂に皆が戦闘している海域まで到着した。

 妖精さんから双眼鏡を受け取り覗き込む。ボロボロになった皆と彼女達を艤装の上から見下ろしている飛行場姫。睨み合う互いの緊張が高まる中、北方ちゃんからの連絡が入った。

 

『コンゴウ、残リノ艦隊ハゼンブ帰シタヨ』

 

「ありがとう、北方ちゃん」

 

『ウン……コンゴウ、オ願イガアル』

 

「なにかな?」

 

『姫ハワタシ達デドウニカシタイ』

 

「つまり、止めはささないでほしい、と?」

 

『ウン……ワタシカラ姫ニ言イタイコトガアル』

 

「……わかった」

 

 通信を切り、ゆっくりと歩いて皆の下へと向かう。どうやら皆はレ級を倒せたらしい。これには素直に驚いた。岩川鎮守府にいなかった艦娘も何人かいるものの、皆の成長が嬉しく、誇らしい気持ちになって自然と口元が緩む。そのまま気づかれないように接近していくと言い争う声が聞こえてきた。

 

「本当に嫌な奴だぜ!!」

 

「オ褒メニ預カリ光栄ダワ、ソレジャア、次ノアイテモガンバリナサ……」

 

「いや、終わりだよ……飛行場姫」

 

「……ナニッ!?」

 

 驚いた顔の飛行場姫から仲間を庇う様に立つ、艤装は展開せず、ただ腕を組んで彼女の前に立ちはだかる。北方ちゃんとの約束通り、私は彼女を倒さない。しかし、仲間を傷つけられた報いは受けてもらおう。

 

「君の仲間はもう来ないよ。既に手は打ったからね」

 

「……ナゼ、オマエガココニイル?」

 

「運良く逃げ出せただけだよ」

 

「……小サナ姫ハ、オマエヲステタノ?」

 

 どうやら、飛行場姫は私が北方ちゃんに捨てられたからここまで来れたと思っているようだ。だが、今の言葉で確信した。彼女はやはり北方ちゃんのことを理解できていない。

 北方ちゃんが私を捨てた? 違う、あの子は誰一人として自分から捨てた事なんかない。あの子は仲間が欲しかっただけなんだ。自分と対等に接し、共に生きることができる仲間。

 最初に出会ったのが飛行場姫だったから、あの子はあんなにも知らない事が多すぎたんだ。飛行場姫は深海棲艦として力の制御と破壊することしか教えてこなかった。あのまま私と出会わずに成長していったなら、あの子はどうなっていたのだろう。

 きっと、今よりもっと寂しい生き方をしていたんだと思う。そんな意味でも、私はこいつを許せない。

 

「どうだい、飛行場姫……私の仲間は強いだろう?」

 

「……ナニ?」

 

「君には色々と言いたい事があるけど、それは全部あの子に言ってもらうとするよ……だけど!!」

 

 拳を握り、海面を蹴る。

 一歩目、我に返った飛行場姫が機銃をこちらに向けてくる。私の後ろにいた駆逐艦達の援護射撃が飛行場姫の艤装に着弾し、彼女はバランスを崩した。

 二歩目、まだ一歩届かない。相手の艦載機が発艦するが、赤城と加賀の艦載機と響の狙撃で全て撃ち落とされた。

 三歩目、機関を最大まで回転させ、そのままの勢いで海面を再び蹴り、引き絞った右腕を飛行場姫の顔面に叩き込んだ。

 

「……ッガァ!?」

 

「一発くらい殴るのは構わないよね?」

 

 戦艦の私が全力で殴ったからか飛行場姫は艤装ごと数メートル吹き飛び、海面に叩きつけられる様に倒れた。私の拳も軽く砕けて出血しているけど帰って入渠すれば問題ない程度だ。

 

「……グ、キサマ!!」

 

 流石は基地としての特性を持っているだけあってかなり頑丈だ。全力で殴ったにもかかわらず小破……いや、基地だから混乱程度の傷しか負っていない。

 だが、やはり一人で戦うのは不利だと感じているのだろう。艤装と共に海の中へと沈んで行こうとしている。

 

「やろう、逃げる気か!?」

 

 天龍が艤装を構え、比叡や榛名も連装砲を構えるが私がそれを手で制した。彼女は北方ちゃんに任せると約束したのだから。

 

「金剛お姉様、いいのですか?」

 

「構わないよ……もう大丈夫だから」

 

 飛行場姫が見えなくなり、周りの海域にも深海棲艦の反応は無い。これで漸く終わった。

 

「金剛さん!!」

 

「金剛お姉様!!」

 

「金剛!!」

 

 抱きついてくる比叡や駆逐艦の子達を抱きしめ返し、皆を見回す。全員が安堵の笑顔を浮かべていた。

 

「よかった……本当に良かったのです」

 

「酷い事とかされなかったっぽい?」

 

「みんな、心配かけたね」

 

 こうして私を心配してくれる姿を見ると、本当に優しい子達ばかりで嬉しくなる。涙が出そうになるのを堪えていると、通信機から七海の声が聞こえてきた。

 

『……金剛』

 

「提督……戦艦コンゴウ、只今から艦隊に復帰します」

 

『……ええ、おかえりなさい』

 

 七海の声は機械越しでもわかるくらい震えていた。きっと私と同じように泣くのを堪えているんだろう。それを悟られないように、私は振り向きながらわざと大きな声で叫んだ。

 

「さぁ、みんな帰ろう……私達の鎮守府へ!!」

 

 頷く皆の顔を横目に、私は通信機をあの子に繋げる。

 

「ありがとう、また会おうね……北方ちゃん」

 

 

◇◇◇

 

 

 暗い深海に作られた基地の出撃ドックに飛行場姫は帰ってきていた。

 赤く腫れた頬は冷たい深海の海水でだいぶマシになっていた。それでも追い詰めた艦娘達に逆に自分が追い詰められたのが気にくわないのか、側にあったバケツを思いっきり蹴飛ばした。

 

「……ク、ナンテ無様。次ニ会ッタラゼッタイニ沈メテヤル」

 

 その飛行場姫の目の前に小さな影が現れた。この基地に姫はもう一人しかいない。もちろん北方棲姫である。

 無言で目の前に立つ北方棲姫を飛行場姫は睨みつける。

 

「小サイ姫、ナゼアノ艦娘ヲニガシタ!!」

 

「……」

 

 無表情で自分を見上げる北方棲姫とは反対に飛行場姫の顔はどんどん歪んでいく。数分間睨み合い、ついに飛行場姫が再び怒鳴ろうかと口を開こうとした時、北方棲姫が先に口を開いた。

 

「姫、オマエハワタシニ何ヲシテホシカッタ?」

 

「……ナニ?」

 

「オマエハ何ノタメニワタシニ構ッテイル」

 

「小サナ姫、オマエノ秘メタ力ハ魅力的ダ。ダカラワタシガ強クシテヤロウト思ッタノ。ソシタラ、ワタシノ戦力モサラニ大キクナルカラナ」

 

 飛行場姫の答えに北方棲姫は目を閉じ、小さく溜息をつくと、先程までの無表情とは違った鋭い視線で飛行場姫を睨む。彼女の答えは北方棲姫が望んでいたものではなかった。コンゴウと出会う前なら何も感じなかったのに、今ならわかる。この姫は自分の力だけが目当てで、それ以外はどうでもいいのだと。

 

「ワタシハ強サナンカイラナイ。ワタシハ仲間ガ欲シカッタダケ。姫、オマエニハモウ従ワナイ」

 

「……ナンダト!?」

 

 遂に我慢の限界を迎えたのか飛行場姫が艤装を展開し、主砲を北方棲姫へと向けた。北方棲姫は黙ってその様子を見ているだけだった。艤装すら展開していない。

 それを馬鹿にされたと捉えたのか、飛行場姫が主砲を撃とうとして―――

 

 先に放たれた砲弾に艤装を撃ち抜かれた。

 

「……ッ!?」

 

 大破した艤装の砕けた破片から咄嗟に体を庇った飛行場姫は大きく吹き飛ばされ、壁に激突してから床に倒れた。

 北方棲姫は動いていない。ならば、今の砲撃は誰がやったのか。その答えは通路の奥からゆっくりと歩いて現れた。

 

 闇に隠れる様な長いウェーブのかかった黒髪。同じく黒いフリルの付いた服を着た少女。その真っ赤に輝く瞳と、頭の帽子の隙間から見える二本のツノ。それらから、この少女が『鬼』クラスの深海棲艦であるとわかる。

 

「……オマエハ」

 

「……飛行場姫、コノ姿ニナッテカラオマエニ会ウノハハジメテネ」

 

 少女は真っ直ぐに飛行場姫の目の前に歩いて行くと、艤装の主砲を突き付ける。

 

「ワタシハ離島棲鬼。北方ガアル資材ヲツカッテ建造シタ深海棲艦ヨ」

 

 自嘲するかの様に吐き捨てた内容に飛行場姫が目を見開き、北方棲姫は悲しげに目を細めた。

 

「……アル資材?」

 

「ソウ、ワタシハ…………オマエト北方ニ壊サレタ駆逐艦ノ艦娘ヲ使ッテツクラレタ」

 

「ナン……ダト……」

 

「デモ、北方ニハ感謝シテイル。死ンダ〝私達〟ニ生キル機会ヲクレタ。ダカラ、コウシテオマエニ復讐スルコトモデキル」

 

 砲塔から次弾が装填される音が響き、離島棲鬼の目が更に細まる。この距離なら余程のことがない限り外すことはないだろう。飛行場姫の頬を冷や汗が流れる。

 

「ソレニ、三人一緒ニナッタカラ……恨ムキモチモ三倍ナノヨネ」

 

「マチナサイ、ワタシノ態度ガ気ニ入ラナイナラ今度コソ仲間トシテ共ニ生キテイキマショウ。ソレナライイデショウ?」

 

 飛行場姫の言葉に離島棲鬼は呆れ、北方棲姫は首を横に振って否定した。その時に首から下げた白銀の指輪が揺れる。それを見た飛行場姫は驚愕の表情を浮かべる。

 

「ソレハ……ナゼ、オマエガソレヲ……」

 

「ワタシノ友達ハワタシヲ信ジテクレタ。ダカラ、ワタシモ友達ヲ信ジル。……デモネ飛行場姫、ワタシハオマエヲ信ジレナイ」

 

「マ、マッテ———」

 

 最後まで言葉を発することもなく、飛行場姫の頭は離島棲鬼の砲撃により吹き飛んだ。首から上の無くなった体は出撃ゲートから滑り落ち、ゆっくりと深海へと沈んでいった。

 

「……イコウ、離島」

 

「了解ヨ、北方」

 

 沈んでいく飛行場姫を見送り、二人は暗い通路の奥へと消えていった。

 

 




離島棲鬼は駆逐艦の子達以外に大量の資材が使われました。北方ちゃんの基地の資材が危ない!!
次回は番外編となります。

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