遊戯王ARC-V LDS総合コースの竜姫   作:紅緋

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新規リミットレギュレーションを見る。

デッキから大嵐を抜く作業開始。また折角だからデッキも大幅に改造する。
(ヴェルズでウロボロスとトリシュを並べられるようになった)

年末休みに合わせて飲み会やデュエル、麻雀を満喫。

気付いたら年が明けていた。

せめて連休初日に間に合わせて満足するしかねぇ!←今ココ
(※字数3万7千超えてるんで、結構長いです)

2015/1/10 13:44追記
感想にてモンスター効果についてミスがあったと指摘を頂いたので、近日中にデュエル内容を修正します。なお、勝敗に変化はありません。また同様に感想で指摘して頂いた本文中の誤字等も合わせて修正します。申し訳ありませんが、修正作業が完了するまで感想返しが遅れることをご了承下さい。
……リアルでも使っているのに間違えるなんて…!おのれぇ…!

2015/1/12 15:10追記
デュエル構成の修正完了。今回は酷いミスを幾つも重ねてしまい、申し訳ありません。感想コメントにても改めてお礼を申し上げますが、一度この場を借りてカード効果の指摘、誤字報告をして頂いた方々にお礼申し上げます。また、後ほど以前のデュエル構成・今回のデュエル構成の比較を活動報告を用いて弁明させて頂きます。


7話:《サイバー・ドラゴン》(リスペクト)

「私の先攻。カードを1枚伏せ、魔法カード《手札抹殺》を発動。互いに手札を全て捨て、その枚数分デッキからカードをドローする。私は3枚捨て、3枚ドロー」

「ふむ……私の手札は5枚。これらを全て捨て5枚ドローだ」

 

 手札がそれなりに良かっただけに恭子は僅かに表情を曇らせながら初期手札を全て捨て、新たにデッキから5枚のカードを引く。その中の最初にドローしたカード、つまり最初にドローすべきカードを目にして恭子は不敵に微笑んだ。

 

(ほう――最初のドローがこのカードだったか。流石は橘田、と言っておこうか。これを見越して私の手札を墓地に送ったか…)

 

 その笑みには自身の写し身とも言うべきカードの召喚を阻止されたことに対しての自嘲、そしてこの戦術をさり気なく出す龍姫への称賛があった。むしろこの程度のことはやってもらわねば面白くない、とでも言うように恭子は龍姫に痛いほどの視線を送る。

 尤も、龍姫本人は『ヤバい、事故った』と内心で冷や汗をかきながら、手札に来てしまった最上級モンスターと上級モンスター、及びこの時点では使えなかった魔法カードを墓地に捨て強引に手札を入れ替えた。恭子が無造作に墓地へ捨てた手札の数枚をチラリと目で追いその中に少々面倒なカードがあると思いつつ、自身は新たに手札に加えられた3枚のカードを見て一先ず安堵する。だが手札のカードの都合上、いつもとは少し違う動きになりそうだと不安に感じながら伏せたカードを発動させた。

 

「セットした魔法カード《儀式の準備》を発動。デッキからレベル7以下の儀式モンスター1体を手札に加え、その後墓地から儀式魔法1枚を手札に加える。私はデッキからレベル6の儀式モンスター《竜姫神サフィラ》、墓地から儀式魔法《祝祷の聖歌》を手札に」

「《手札抹殺》で消費した分を回復させたか」

 

 《手札抹殺》発動後の龍姫の手札は3枚。それをあらかじめ伏せていた《儀式の準備》でカード・アドバンテージを確保することは良い戦術だと恭子は感心する。このまま儀式召喚が来るかと身構える中、龍姫は手札のカード()枚をデュエルディスクに差し込んだ。

 

「儀式魔法《祝祷の聖歌》を発動。自分フィールド・手札から合計レベルが6以上になるようにモンスターをリリースし、《竜姫神サフィラ》の儀式召喚を執り行う――私は手札のレベル5《聖刻龍-アセトドラゴン》とレベル5《聖刻龍-ネフテドラゴン》をリリース――祝福の祈りを奏で、聖なる歌で光を導け! 儀式召喚! 光臨せよ、《竜姫神サフィラ》!」

「ハァっ!?」

 

 普段からよく龍姫の相手をする沢渡が観客席から身を乗り出して声を荒げる。手札の『聖刻』モンスターが光の粒子となり、その光が《竜姫神サフィラ》の姿となって儀式召喚される――これだけならば別に構わない。しかし、リリースするモンスターがいつもよりも1体多い分手札の消費が激しくなり、5枚もあった龍姫の手札が一気に僅か1枚になったことに対して沢渡は目を丸くした。いくら自身のエースカードを出したかったとはいえ、これで大丈夫なのかと心配した故に声を荒げたのだが――

 

「おい橘田! お前そんなに手札を使って大丈夫――」

「リリースされたアセトドラゴンとネフテドラゴンのモンスター効果発動。自身がリリースされた時、手札・デッキ・墓地からドラゴン族・通常モンスター1体を攻守0にして特殊召喚する。私はデッキからレベル8《神龍の聖刻印》とレベル1チューナー《ガード・オブ・フレムベル》を特殊召喚する。そして《神龍の聖刻印》をリリースし、手札から魔法カード《アドバンス・ドロー》を発動。このカードは自分の場のレベル8以上のモンスター1体をリリースすることで、デッキからカードを2枚ドローする。さらに通常モンスターの《ガード・オブ・フレムベル》を墓地に送り、《馬の骨の対価》を発動。このカードは自分の場の効果モンスター以外のモンスター1体を墓地に送ることでデッキからカードを2枚ドローする。さらに魔法カード《闇の量産工場》を発動。墓地の通常モンスター2体を手札に戻す。私は《神龍の聖刻印》と《ガード・オブ・フレムベル》を手札に。そしてレベル8の《神龍の聖刻印》を捨て魔法カード《トレード・イン》を発動。手札のレベル8モンスター1体を捨てることでデッキからカードを2枚ドローする」

「沢渡さん、橘田さん大丈夫そうッスね」

 

 ――そんな心配など杞憂だったかのように龍姫は淡々と魔法カードをプレイし、手札を増やす。1枚しかなかった手札はいつの間にか4枚に増えた。流石のドロー力だと恭子と権現坂、取り巻き達が感心する中、沢渡は声を荒げたことが急に小恥ずかしくなり、心配して損したと言わんばかりに顔を顰めて席に着く。

 

「手札から速攻魔法《銀龍の轟咆》を発動。墓地のドラゴン族・通常モンスター1体を特殊召喚する。私は墓地から《神龍の聖刻印》を特殊召喚。さらに手札から《ガード・オブ・フレムベル》を召喚」

 

 黄金色に輝く球体《神龍の聖刻印》と《ガード・オブ・フレムベル》が龍姫の場に現れる。レベルの異なるチューナーと非チューナーの存在からシンクロ召喚かと沢渡は考えるが、彼の記憶に龍姫のエクストラデッキのモンスターで現在の条件に適したモンスターは居ただろうかと首を傾げた。レベル9ならば以前(強引に)付き合わされた特訓で相手の墓地・フィールド・手札のカードを対象に取らずに除外する《氷結界の龍 トリシューラ》というとんでもない効果を持ったモンスターが居るが、あれは非チューナーを2体以上要求するので今の条件では呼び出すことはできない。《トライデント・ドラギオン》という攻撃回数を3回まで増やす効果を持つドラゴンならばチューニングするモンスターの数に縛りはなかったはずだが、あのドラゴンのレベルは10。だが龍姫の場のモンスターのレベルは8と1であり、レベルが合わない。それに先攻1ターン目で出すようなモンスターではないし、龍姫が呼び出すチューナーを間違えたとも考えにくいと沢渡があれこれ考えている最中、龍姫がデュエルディスクのエクストラデッキから1枚のカードを取り出す。

 

「私はレベル8の通常モンスター《神龍の聖刻印》にレベル1の《ガード・オブ・フレムベル》をチューニング――堅牢にして至高! 究極の伝説が新たな力で龍を守護する! シンクロ召喚!」

 

 《ガード・オブ・フレムベル》が緑のリングへと姿を変え、《神龍の聖刻印》がその中に包み込まれる。《神龍の聖刻印》が白い星へ変わると同時に一筋の光が走り、その光から1体の龍が姿を現す。雄々しくも美しい白銀の体躯、蒼く透き通った眼はかの伝説のドラゴンを彷彿とさせ、一同の目が驚愕の色に染まる。

 

「現れよ――レベル9! 《蒼眼の銀龍》!」

「ぶ、《青眼の白龍》!?」

 

 デュエリストならば誰しもが知っている存在、《青眼の白龍》に酷似したドラゴンの姿を見て声を荒げる沢渡。その昔、デュエルモンスターズ界の貴公子と呼ばれた伝説のデュエリストがこよなく愛したモンスターを何故龍姫が、と疑問に思うがふと先日の真澄と刃のやりとりを思い出す。

 

『伝説って?』

『ああ! こいつはあの伝説のレアカードだ! ちょっと違ぇけど』

 

 あの時のカードか、とそこで沢渡は納得した。確かに龍姫のシンクロ召喚した《蒼眼の銀龍》は《青眼の白龍》と姿は瓜二つだが、よく見てみれば攻守の数値が逆だ。ステータスを重視したのか龍姫も守備表示で場に出しており、守備力3000の壁は並のモンスターでは太刀打ちできないだろう。龍姫の口上にもあった『堅牢』という言葉は伊達ではないと沢渡が思った。

 

「《蒼眼の銀龍》のモンスター効果発動。このカードが特殊召喚に成功した時、私の場の全てのドラゴン族は次の相手ターン終了時までカード効果の対象にならず、カード効果では破壊されない」

「はぁっ!? 何だその完全耐性!? インチキ効果もいい加減にしやがれ!」

「橘田さん! マジ堅過ぎッスよぉ!」

 

 『堅牢』にも程が過ぎると沢渡は再度声を荒げ、取り巻き達は感心や畏怖の念が混ざった声を張り上げる。一方で恭子の応援席側に居る権現坂は『良い守りだ』と内心で龍姫のプレイングを高く評価したが、対峙している恭子は平静な表情を崩さない。それどころかまるでカード効果による除去は必要ないと言わんばかりに、自身に満ちた顔だ。龍姫はそんな恭子を見て『カード効果耐性の付与は無駄だったかな?』と思うが、別に耐性付与だけが目的で《蒼眼の銀龍》を呼んだつもりはないのですぐにプレイングに戻る。

 

「カードを2枚セットし、エンドフェイズ。この瞬間、《竜姫神サフィラ》のモンスター効果発動。このカードが儀式召喚に成功したターン、または手札・デッキから光属性モンスターが墓地に送られたターンのエンドフェイズに発動する。3つの効果から1つを選択し、それを適用。私は’’デッキからカードを2枚ドローし、その後1枚手札を捨てる’’効果を選択する。デッキからカードを2枚ドローし――1枚捨てる」

「では私のター――」

「まだ。ここで速攻魔法《超再生能力》を発動。このターン私が手札から捨てた、またはリリースしたドラゴン族の数だけエンドフェイズに私はドローする。私はこのターン《手札抹殺》で2体のドラゴン族を捨て、アセトドラゴンとネフテドラゴンを儀式召喚のためにリリースし、《神龍の聖刻印》を《アドバンス・ドロー》のコストでリリースし、《トレード・イン》のコストでも捨てた。よってデッキから6枚ドローし、改めてターンエンド」

「カード効果で6枚もドロー――流石ッスよ橘田さん!」

「あいつがただのターンエンドで終わらせる訳ないからな」

 

 ふふん、と(特訓などで)龍姫と付き合いの長い沢渡が自慢げに取り巻き達にそう言う。そして内心『俺も今度何かエンドフェイズに何かするデッキ使う時は、含みのある言い方でそれっぽく演出しよう』と考えていた。

 そんな沢渡の不純な笑みを横目に恭子は一気にカード・アドバンテージ差を付けられたことに多少の不安を感じながら自分のターンを開始する。

 

「私のターン、ドロー」

 

 ドローカードを一瞥し、続けて恭子は龍姫の方へ視線を移す。既に自分のターンを終えた龍姫は無表情で《蒼眼の銀龍》の背に跨り、そのまま飛翔してアクションカードの捜索に走っていた。途中、何故か《蒼眼の銀龍》の背を撫でたり頬を埋めたりと意味不明な行動があったが、その行動は一切無視して恭子は龍姫のフィールドに見る。

 モンスターゾーンには攻撃力2500の儀式モンスター《竜姫神サフィラ》、守備力3000の《蒼眼の銀龍》の2体。さらに《蒼眼の銀龍》のモンスター効果により対象を取る効果、及びカード効果による破壊をこのターンまで受けないという鉄壁の守り。

 魔法・罠ゾーンには2枚のセットカードがあり、恭子の手札のカードを使えば1枚を破壊することができるが、先日龍姫のデュエル映像を観た限りでは龍姫はフリーチェーンや破壊されて墓地に送られることで発動するカードが多いので、無闇に破壊することは得策ではないと考える。

 カード効果によるモンスター除去はほとんど封じられ、龍姫の場にはステータスの高いモンスターが2体――ならば自分が取るべき行動は1つしかないと恭子はデュエルディスクのディスプレイ画面に指を伸ばす。

 

「私は墓地から《サイバー・ドラゴン・コア》のモンスター効果を発動する」

「破壊されて墓地で発動するんじゃなくて――」

「能動的に墓地から発動するモンスター効果!?」

「良いリアクションだ。やはり観客が居ると滾るな――さて、効果処理だ。相手の場にモンスターが存在し、自分の場にモンスターが存在しない場合、墓地の《サイバー・ドラゴン・コア》をゲームから除外することでデッキから『サイバー・ドラゴン』と名のついたモンスター1体を特殊召喚することができる。私はデッキから《プロト・サイバー・ドラゴン》を特殊召喚。このカードはフィールドに存在する限り、カード名を《サイバー・ドラゴン》として扱う」

 

 鈍い銀色の機光竜が突如フィールドに現れる。『サイドラの方がドラゴンっぽい見た目で好みなんだけど…』と見当違いのことを考えつつ、龍姫は《蒼眼の銀龍》に乗りながら近場にあったアクションカードを素早く手札に加えた。その様子を確認した恭子は続けざまに手札へ指を伸ばす。

 

「さらに手札から《サイバー・ドラゴン・ツヴァイ》を召喚する。そして《サイバー・ドラゴン・ツヴァイ》のモンスター効果を発動。1ターンに1度、手札の魔法カード1枚を相手に公開することでこのカードはこのターン《サイバー・ドラゴン》として扱う。私は手札の《パワー・ボンド》を公開する」

「――っ、」

 

 公開された魔法カードを目にし、ほんの僅かに龍姫の表情が歪む。対照的に恭子は笑みを浮かべながらこれで準備は整った、とフィールドと手札のカードに視線を移す。自身の真のエースモンスターを出せないことは多少残念だが、こちらのモンスターでも充分に場を制圧することは可能だろうと自分の戦術に確信を持つ。

 

「さぁ行くぞ橘田! 魔法カード《パワー・ボンド》発動! 自分の手札・フィールドから融合モンスターによって決められた融合素材モンスターを墓地に送り、機械族の融合モンスター1体を融合召喚する! 私はフィールドの《プロト・サイバー・ドラゴン》と《サイバー・ドラゴン・ツヴァイ》を融合素材とする! この2体は現在カード名が《サイバー・ドラゴン》! よって私は2体の《サイバー・ドラゴン》を融合!」

「ぬ、来たか! リスペクトデュエルの要!」

 

 守備を重視する権現坂道場の’’不動のデュエル’’とは真逆の、攻撃を重視するサイバー流道場の’’リスペクトデュエル’’。思想こそ相反するものだが、だからと言って嫌悪している訳ではない。互いに互いの流派のことは認めており、何度もデュエルをしているので権現坂はどのモンスターが来るかは容易に予想ができる。

 

「原型たる機光竜よ、次代の機光竜よ、今こそ交わりて新たに進化せよ! 融合召喚! 襲雷せよ、双頭の機光竜! 《サイバー・ツイン・ドラゴン》!」

 

 《プロト・サイバー・ドラゴン》と《サイバー・ドラゴン・ツヴァイ》が緑と橙の光と共に交わり、一瞬強い光がフィールドに輝く。次の瞬間には白銀の体躯を持った双頭の機光竜――《サイバー・ツイン・ドラゴン》が恭子の背後で雄々しく堂々と立っていた。

 

「攻撃力2800!?」

「あれじゃあ橘田さんの《竜姫神サフィラ》が…」

「で、でも守備力3000の《蒼眼の銀龍》には及ばないぜ! 流石橘田さん! これを見越してあえて守備表示で《蒼眼の銀龍》を――」

「《パワー・ボンド》で融合召喚したモンスターの攻撃力は元々の攻撃力分アップする。まぁ端的に言えば倍だ。よって《サイバー・ツイン・ドラゴン》の攻撃力は5600となる」

「「「ヤバいッスよ橘田さん!!」」」

「うるさいぞお前ら!」

 

 龍姫が『何でサイドラ系列はドラゴン族じゃないんだ…!』と頭の中では全く関係ないことを考えている中、騒ぎ立てる取り巻き達を制する沢渡。内心では『俺が観ている前で無様な姿だけは晒すんじゃねぇぞ』と、攻撃力5600の《サイバー・ツイン・ドラゴン》を見ながら龍姫の身を案じる。

 

「バトルだ! 私は《サイバー・ツイン・ドラゴン》で《竜姫神サフィラ》を攻撃! エヴォリューション・ツイン・バースト!」

 

 《サイバー・ツイン・ドラゴン》の片方の頭が《竜姫神サフィラ》の方を向き、その口を大きく開けて光線を放つ。真っ直ぐに襲いかかる光線をまともに受けたら洒落にならないダメージが飛んでくる、と龍姫は先ほど回収したアクションカードをデュエルディスクに差し込んだ。

 

「アクション魔法《回避》を発動。相手モンスター1体の攻撃を無効にする」

「よし! 避けた!」

「それは――どうかな…!」

 

 丁度よく防御用のアクションカードを手にしていたかと沢渡が声に出して喜んでいると、いつの間にか恭子が元居た立ち位置から移動していた。溶鉱炉の真上に吊るされた鎖を掴みながらターザンロープの要領で別の鎖に掛かっていたアクションカードを取り、そのまま流れるように発動させる。

 

「アクション魔法《エラー》を発動! バトルフェイズ中に発動した魔法カードの効果を無効にする! これで橘田の《回避》は無効だ! このままバトルを続行する!」

「――っ、墓地から儀式魔法《祝祷の聖歌》のさらなる効果を発動…! 場の《竜姫神サフィラ》が破壊される場合、代わりに墓地のこのカードをゲームから除外する…!」

「だがダメージは受けてもらう!」

 

 攻撃力5600の《サイバー・ツイン・ドラゴン》の攻撃を攻撃力2500の《竜姫神サフィラ》がまともに受け、龍姫のライフポイントが大きく削られる。墓地にあった儀式魔法《祝祷の聖歌》で破壊こそはされなかったが、一気に3100ポイントものダメージによって残りライフポイントは僅か900。内心で『またミカエルの除去効果が使えない』と僅かに苛立ちを感じつつも、続く攻撃に備え険しい眼差しで《サイバー・ツイン・ドラゴン》へ視線を移す。

 

「よし! モンスターが残った!」

「これで次のターン、橘田さんがあのモンスターをカード効果で除去すれば勝てる!」

「手札が6枚もあれば何か引いてるだろうし、イケるッスよ橘田さん!」

「――いや、今のはプレイングミスだ」

 

 山部・大伴・柿本ら3人がはしゃぐ中、神妙な面持ちで権現坂が小さく呟いた。その言葉に3人は頭上にクエスチョンマークを浮かせながら権現坂の方を見る。

 

「はぁ? 今のどこがプレイングミスだよ!」

「ダメージは受けたけど、モンスターがちゃんと残ってるじゃねぇか!」

「そういうのは橘田さんのライフが0になってから言いやがれ!」

「ならば0にしてやろう。《サイバー・ツイン・ドラゴン》は1度のバトルフェイズ中に2回の攻撃ができる――このまま攻撃表示の《竜姫神サフィラ》を攻撃すれば橘田のライフは0だ」

「「「マズイッスよ橘田さん!」」」

 

 はしゃいでいた3人の態度が一転、焦りと困惑の表情に変わった。攻撃力5600の2回攻撃をまともに食らったら即1ターンkillが成立してしまう。龍姫のセットカードも先の攻撃の時点で発動しなかったことから攻撃反応系ではないと思っており、このまま一瞬で勝負が付くのかと3人は不安げな表情で龍姫の方を見る。

 

「バトル! 再び《サイバー・ツイン・ドラゴン》で《竜姫神サフィラ》に攻撃! エヴォリューション・ツイン・バースト、第二打ぁ!」

 

 再度《サイバー・ツイン・ドラゴン》の口から光線が《竜姫神サフィラ》へと向かう。もうダメだ、これで橘田さんはおしまいだ、と取り巻き達3人が絶望の顔に染まっている中で沢渡1人だけは対照的に余裕の笑みを浮かべていた。

 

「ふん、橘田がプレイングミスだと? ロマンチストも甚だしいぜ」

「なぬっ!?」

「あいつがそんな凡ミスをする訳ないだろ――なぁ橘田?」

「当然」

 

 そんな沢渡の問いに答えるように龍姫はデュエルディスクのディスプレイへ指を伸ばす。そして直前まで迫っていた《サイバー・ツイン・ドラゴン》の光線が突如霧散し、光の粒子が《竜姫神サフィラ》の全身を覆い始めた。一体何が起こったんだ、と龍姫と沢渡を除く5人が目を点にしている中で、龍姫の場に伏せられていたカードがゆっくりと表側になる。

 

「《サイバー・ツイン・ドラゴン》の攻撃宣言時に罠カード《光子化(フォトナイズ)》を発動。相手モンスター1体の攻撃を無効にし、攻撃モンスターの攻撃力分だけ私の場の光属性モンスター1体の攻撃力を次の相手ターンまでアップする。これで《サイバー・ツイン・ドラゴン》の2度目の攻撃は無効となり、次の私のターンまで《竜姫神サフィラ》の攻撃力は5600アップの8100になる」

「――っ、攻撃反応型の罠だと…!? 何故――いや、そうか…!」

 

 何故そんな罠があるのなら何故最初の攻撃で使わなかったのだと恭子の目が細くなった。初めに使えば《竜姫神サフィラ》の攻撃力は上昇し、2度目の攻撃で自ずと攻撃対象は守備表示の《蒼眼の銀龍》となってこのターンにダメージを受けることはなかったハズだと考える。

 しかし、そこでふと恭子は視線を《竜姫神サフィラ》から《蒼眼の銀龍》へと移した。あのシンクロモンスターはドラゴン族に一時的なカード効果による耐性を付与させるだけの存在だと思っていたが、まさかまだ自分が知らない効果があるのではないかと勘繰る。

 仮に最初の《サイバー・ツイン・ドラゴン》の攻撃で《光子化》を発動されていれば、攻撃力8100を超えた《竜姫神サフィラ》に攻撃する訳にはいかず、続く2回目の攻撃は自ずと《蒼眼の銀龍》に向かう。そこでアクション魔法の《回避》を使っても自身の手にあったアクション魔法《エラー》を発動すれば《回避》は無効になり、《蒼眼の銀龍》を破壊していただろう。だが最初に《竜姫神サフィラ》と墓地の《祝祷の聖歌》の効果でダメージを受けつつモンスターを破壊されなければ、《光子化》を温存した状態となる。最初に攻撃が通っていれば2度目も通ると一般的なデュエリストならば誰しもが思うだろう。その心理を突いて《光子化》を発動させ、モンスター2体を残し、攻撃力の上昇を狙っていたのかと、恭子は龍姫の肉を切らせ骨を断たんとするその意思に感嘆した。

 

「涼しい顔をして中々大胆な戦術を取る……見事だ。それでこそ倒し甲斐がある」

「……負けっぱなしは趣味じゃない」

「中々の負けず嫌いだな――さて、メイン2に入る。私はカードを2枚セットし、墓地から罠カード《ダメージ・ダイエット》をゲームから除外しその効果を発動。このターン中に私が受ける効果ダメージを全て半分にする」

 

 ここで沢渡とその取り巻き達は訳がわからない、と言いたげな顔を浮かべる。墓地の《ダメージ・ダイエット》自体は先の龍姫の《手札抹殺》で墓地に送られたのだろうが、このターンで恭子が効果ダメージを受けるようなことはなかったハズだと思い返す。そんな観客の疑問に答えるように恭子は次の言葉を口から紡ぐ。

 

「《パワー・ボンド》は強力な融合魔法だが、発動したターンの終わりに融合召喚した融合モンスターの元々の攻撃力のダメージを受けるというデメリットも持つ。だが《ダメージ・ダイエット》の効果により私が《パワー・ボンド》の効果で受けるダメージを2800の半分の1400へ軽減させる。これで私はターンを終了させる」

「……そのタイミングで私は永続罠《復活の聖刻印》を発動。相手ターンに1度、デッキから『聖刻』モンスター1体を墓地に送る。私は《聖刻龍-トフェニドラゴン》を墓地に送り、デッキから光属性モンスターが墓地に送られたことで《竜姫神サフィラ》のモンスター効果を発動。今度は’’自分の墓地の光属性モンスター1体を選んで手札に加える’’効果を選択。私は墓地の《聖刻龍-アセトドラゴン》を手札に加える」

「さらに手札を増やしたか……しかし今の私にできることは何もない。ターンの終わりに《ダメージ・ダイエット》の効果で半分にした《パワー・ボンド》の効果ダメージを受け、私のターンは終了だ」

 

 恭子がターンを終えると同時にソリッドビジョンのディスプレイに映し出された恭子のライフポイントが4000から2600へ減少する。5分の2近くものライフポイントを失ったが、ライフ・アドバンテージ自体は未だ自分の方が上。しかし総合的に鑑みてみると自身の方が圧倒的に不利かと恭子は改めて状況を見る。

 自分の手札は2枚、場には攻撃力5600を誇る《サイバー・ツイン・ドラゴン》と、2枚のセットカード。ライフポイントは2600と初期ライフポイントの半分も切っていない。

 対して龍姫の手札は7枚、場には攻撃力8100にもなった《竜姫神サフィラ》と守備力3000の《蒼眼の銀龍》、そして永続罠の《復活の聖刻印》。ライフポイントは900と初期ライフポイント4分の1を切っている。

 流石にライフコストを必要とするカードは使えないと恭子は考えているが、それでも龍姫を相手に大量の手札を残したままターンを渡すことに多少の恐怖を感じざるを得ない。昨日、資料として映像で見た龍姫のデュエルでは《竜姫神サフィラ》、《エクスプロード・ウィング・ドラゴン》、《竜魔人 クィーンドラグーン》、《始祖竜ワイアーム》の攻撃力2000超えのドラゴン4体で相手を完膚なきまでに叩き潰すデュエルもあった。あれだけ手札が潤っていればそれと同じことも充分に可能。さて、どんな手で来るのかと半ばスリルを楽しむような表情で恭子は龍姫の方に視線を向けた。

 

「……私のターン、ドロー。スタンバイフェイズに《蒼眼の銀龍》のさらなるモンスター効果を発動。1ターンに1度、自分スタンバイフェイズに自分の墓地から通常モンスター1体を特殊召喚することができる。私は墓地から《神龍の聖刻印》を特殊召喚。さらに手札から《聖刻龍-アセトドラゴン》を召喚。このカードはレベル5の上級モンスターだけど、自身の攻撃力を1000にすることでリリースなしで召喚できる――そしてアセトドラゴンのモンスター効果を発動。1ターンに1度、場のドラゴン族・通常モンスター1体を選択し、場の『聖刻』モンスターは選択したモンスターと同じレベルになる。私はレベル8の《神龍の聖刻印》を選択し、アセトドラゴンのレベルを8にする」

「レベル8のモンスターが2体――」

「――ってことは橘田さんのあのカードだ!」

「やっちゃって下さいよ橘田さん!」

 

 沢渡の取り巻き達の盛況ぶりに表面上はため息を吐き、内心では『応援されて煮えたぎってきた!』と浮かれながらも、龍姫はエクストラデッキから1枚のカードを取り出す。ここ最近使っていなかったことに僅かな罪悪感と、いざ出した時の頼もしさにより龍姫は自信に満ちた表情でそのカードをデュエルディスクにセットする。

 

「……私はレベル8となったアセトドラゴンと《神龍の聖刻印》でオーバーレイ。2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築――聖なる印を刻む龍の神よ、その力を振るい神罰を与えん! エクシーズ召喚! 顕現せよ、ランク8! 《聖刻神龍-エネアード》!」

 

 2体の龍が黄金色に輝く光となって渦巻き、1つへ混ざる。直後、眩い光が閃光となってアクションフィールド《サイバネティック・ファクトリー》を覆う。そしてその光が晴れた途端、龍姫のフィールドに巨大な龍が佇んでいた。真っ赤な体色に黄金の装飾を身に纏う立ち姿は’’神’’の名を冠するだけあって威厳が溢れている。その圧倒的な存在感に権現坂は息を飲み、それを従え、儀式・シンクロ・エクシーズ召喚を巧に使う龍姫に一種の恐れを抱く。

 

(まさか橘田が幾つもの召喚方法を操るデュエリストだったとは――この男権現坂、級友である橘田をただの物静かな人間と思っていたが、よもやここまでとは…!)

「オーバーレイ・ユニットを1つ取り除き、エネアードのモンスター効果を発動。自分の場・手札のモンスターを任意の数だけリリースすることで、リリースした数だけフィールドのカードを破壊する」

「――っ、流石にそれは止めさせてもらおうか! 罠カード《ブレイクスルー・スキル》を発動! 相手モンスター1体の効果をターン終了時まで無効にする! 対象は当然エネアードだ!」

「……エネアードのモンスターをリリースする行為はカード効果。無効にされた場合、リリースすることはできない…」

 

 ただ手札のモンスターをリリースし、その数だけ対象を取らずに場のカードを破壊し、このターンで決めようと考えていただけに龍姫は心の中で静かにため息を零した。セットカードの除去すらできなかったが、それでも盤面的には未だこちらが有利。最低でも攻撃が2回通れば勝てるのだから、そこまで急くこともないかと手札に目を落とす。

 

「……手札から攻撃力1000のチューナーモンスター《ギャラクシーサーペント》を墓地に捨て、魔法カード《調和の宝札》を発動。攻撃力1000以下のドラゴン族・チューナーモンスターを捨てることでデッキからカードを2枚ドローする……《蒼眼の銀龍》を攻撃表示に変更し、バトルフェイズに入る。まずは《光子化》の効果で攻撃力8100となっている《竜姫神サフィラ》で《サイバー・ツイン・ドラゴン》に攻撃――ホーリー・ブライト!」

「ちぃ…!」

 

 《竜姫神サフィラ》の背から幾つもの光が矢のように《サイバー・ツイン・ドラゴン》へと襲いかかる。アクションカードで何か対策はできないかと恭子は周囲に目を走らせるが、生憎と《回避》や《奇跡》といったアクションカードは自分の周囲にはない。常に攻めてを重視するあまり、自然と攻撃系のアクションカードのある場所に足を運んでしまう自分の悪い癖が出たと、自らの浅慮さに舌打ちした。

 それと同時に《竜姫神サフィラ》の攻撃が《サイバー・ツイン・ドラゴン》へと直撃し、ボディに無数の弾痕のような穴が空く。一瞬《サイバー・ツイン・ドラゴン》の全身に目に見えるほどの電流が走り、その直後に轟音を響かせながら無残に爆散した。

 《竜姫神サフィラ》の攻撃力が8100もあったものの、《サイバー・ツイン・ドラゴン》も《パワー・ボンド》の効果により攻撃力は5600まで上昇しており、幸いにもダメージは2500で済んだ。とは言え、残り2600だった恭子のライフポイントはこのダメージで一気に残り100まで減少し、些細なダメージすら許されない状況にまで追い込まれる。自分のライフポイントがここまで削られることは久しく、恭子の顔には不思議と笑みが零れていた。

 

「ここまで私のライフを削ったのは師範や昇以来だ…! やるな橘田! 私がこの試合を引き受けた甲斐がある!」

「……熱くなるのは構わない。けど、何もなければ次のドラゴンの攻撃で藤島のライフは0になるけど、その伏せカードは飾り(ブラフ)?」

「その心配は無用! 永続罠《リミット・リバース》を発動! 自分の墓地から攻撃力1000以下のモンスター1体を攻撃表示で特殊召喚する! 私は墓地から攻撃力400の《サイバー・ラーバァ》を特殊召喚!」

 

 ガラ空になっていた恭子のフィールドに小さな機械竜の幼生《サイバー・ラーバァ》が現れる。その姿を見るなり龍姫は僅かに眉間に皺を寄せるが、すぐに普段の冷淡な表情に戻り《蒼眼の銀龍》の背に乗りながら《聖刻神龍-エネアード》の方へ視線を移す。

 

「…このままバトルを続行。エネアードで《サイバー・ラーバァ》を攻撃する。ヘブンズ・パニッシャー…!」

「ここで攻撃対象となった《サイバー・ラーバァ》のモンスター効果発動! このカードが攻撃対象となった時、このターン私が受ける戦闘ダメージは0になる!」

「だがモンスターは破壊させてもらう」

 

 突如壁モンスターが現れたが、構うことなく龍姫は《聖刻神龍-エネアード》に攻撃の指令を下した。すると《聖刻神龍-エネアード》の掌に光が収束し、それが波のように《サイバー・ラーバァ》を襲う。攻撃力3000を誇る《聖刻神龍-エネアード》ならば攻撃力400程度の《サイバー・ラーバァ》を葬ることは容易であり、かつ残りライフ100ポイントしかない恭子のライフポイントを0にできる戦闘ダメージが入るハズだったが、それを《サイバー・ラーバァ》の効果でダメージを回避される。姑息な手を使う、と龍姫が内心毒づく中で《サイバー・ラーバァ》が《聖刻神龍-エネアード》の攻撃で光に消えゆく――

 

「ここで《サイバー・ラーバァ》のさらなる効果を発動! このカードが戦闘破壊で墓地に送られた時、デッキから同名モンスター1体を特殊召喚する! 再び現れよ、《サイバー・ラーバァ》!」

 

 ――だが光の中に消えたハズの《サイバー・ラーバァ》が再びフィールドに姿を現す。戦闘ダメージを0にする効果に加え、同名モンスターをデッキから特殊召喚する効果は存外鬱陶しいと思う龍姫。

 

「……《蒼眼の銀龍》で《サイバー・ラーバァ》に攻撃。極光のセイント・バースト…!」

「無駄だ! 攻撃対象にされた《サイバー・ラーバァ》ので再度戦闘ダメージを0にし、戦闘破壊により墓地に送られたことで3体目の《サイバー・ラーバァ》をデッキから特殊召喚する!」

 

 《蒼眼の銀龍》の口から放たれた蒼銀の光が《サイバー・ラーバァ》を襲う。しかし、先ほどの《聖刻神龍-エネアード》のバトルの時と同じように、光の中から新たな《サイバー・ラーバァ》が場に出現する。

リクルーターモンスターを破壊しても相手のデッキ圧縮の手助けをするだけで悪手なのではないかと沢渡は考えたが、すぐにハッと龍姫の狙いに気付く。《サイバー・ラーヴァ》を除去するには《聖刻神龍-エネアード》の効果で戦闘を介さずに破壊すれば良い。だがあの手のリクルーターモンスターは、大抵のデッキならば2~3枚積まれることが必須。例え相手のデッキを圧縮することになろうと、《サイバー・ラーバァ》をデッキから消せばリクルート効果は使えない。また《サイバー・ラーバァ》の戦闘ダメージを0にするという効果も中々に厄介であり、相手の防御札を墓地に送っていると考えればこの攻撃は正しいのだろう。

 

「メイン2。私は手札のカードを2枚セットし、エンドフェイズに移行。このターン、私は《調和の宝札》の効果により手札から光属性モンスター《ギャラクシーサーペント》を墓地に送ったので、《竜姫神サフィラ》のモンスター効果が起動する。私はもう1度’’ デッキからカードを2枚ドローし、その後1枚手札を捨てる’’効果を選択。デッキからカードを2枚ドローし――1枚捨て、ターンエンド」

 

 しかし打開策がないのならばそれを引けば問題ないと言わんばかりに龍姫は再度《竜姫神サフィラ》の手札補充効果を使う。そして引いたカードの1枚を見るなり表情が変わり、一層真剣なそれになる。手札・フィールド・墓地の状況を即座に判断し、次ターンの展開次第では自身が持つ最凶のコンボを遺憾なく発揮できると、内心で下卑た笑みを浮かべてしまう。

 今現在龍姫自身の手札は6枚。フィールドには攻撃力3000の《聖刻神龍-エネアード》、攻撃力2500の《竜姫神サフィラ》、《蒼眼の銀龍》の3体のモンスター。表側表示の永続罠《復活の聖刻印》とセットカードが2枚。ライフポイントは僅か900しかないが、これほど万全の態勢を整えれば如何に恭子とはいえ不用心に攻めることはできないだろうと考える。

 恭子の方は手札が2枚、場にはリクルート効果が使えない《サイバー・ラーヴァ》が居るのみで、残りライフポイントは僅か100。自身の経験から残りライフポイント100からはこの状況を覆し、逆転するためにはカードを大量に消費するだろう。あの少ない手札ならばここから自分のフィールドを突破することは難しいハズだと龍姫は思った。

 

「私のターン、ドロー――よし! 私は手札からモンスターカード1体を墓地に送り、魔法カード《ワン・フォー・ワン》を発動! デッキからレベル1モンスター1体を特殊召喚する! 私はデッキからレベル1の《サイバー・ヴァリー》を特殊召喚し、このタイミングで速攻魔法《地獄の暴走召喚》を発動! 相手の場に表側表示でモンスターが存在し、私が攻撃力1500以下のモンスター1体を特殊召喚に成功した時に発動できる! 私は特殊召喚したモンスターと同名モンスターを手札・デッキ・墓地から全て攻撃表示で特殊召喚する! この時、相手は自身の場の表側モンスター1体と同名モンスター1体を選択し手札・デッキ・墓地から特殊召喚できるが、今の橘田の場のモンスターは儀式・シンクロ・エクシーズのみ! よって召喚条件を満たせず、私だけが展開させてもらう!」

「――っ!?」

 

 しかしそんな龍姫の予想を裏切るように恭子は残された3枚の手札を全て消費し、一挙に3体の《サイバー・ヴァリー》を呼び出す。さらに《地獄の暴走召喚》は通常であれば相手のモンスターも特殊召喚させるデメリットがあるが、自身のデュエルスタイル(融合・儀式・シンクロ・エクシーズ)の所為で龍姫には今の状況で呼び出せるモンスターが居ない。まさか《地獄の暴走召喚》を使われるとは夢にも思わず、龍姫はその鉄仮面の内で1人慌てふためいた。

 

「《サイバー・ヴァリー》の第2の効果を発動! 自身と私の場のモンスター1体をゲームから除外することで、デッキからカードを2枚ドローする! 私は場の《サイバー・ヴァリー》自身と《サイバー・ラーバァ》をゲームから除外し、2枚ドロー――よし! 魔法カード《アイアンコール》を発動! 私の場に機械族モンスターが存在する場合、自分の墓地のレベル4以下の機械族モンスター1体を、効果を無効化して特殊召喚する! 私は墓地の《サイバー・ラーバァ》を特殊召喚! 2体目の《サイバー・ヴァリー》の効果で《サイバー・ヴァリー》自身と《サイバー・ラーバァ》をゲームから除外し、デッキからカードを2枚ドロー――来たか! 2枚目の《アイアンコール》を発動! 墓地の《サイバー・ラーバァ》を特殊召喚し、3体目の《サイバー・ヴァリー》の効果で《サイバー・ヴァリー》と《サイバー・ラーバァ》をゲームから除外し、デッキからカードを2枚ドロー!」

「…………」

「お、おい橘田さんの顔を見てみろよ」

「普段は自分が延々とプレイ(ソリティア)する側だから、相手にやられて険しい表情になっちまってる…!」

「俺、橘田さんのあんな顔初めて見た…」

 

 《ワン・フォー・ワン》、《地獄の暴走召喚》、《サイバー・ヴァリー》の第2の効果でデッキ内のモンスターの数を減らしつつ、着実に手札を補充する恭子。自身のエースモンスターを出すためならばいくらデッキ圧縮のカードがあっても足りないと、次から次へとデッキを掘り進んでいく。鬼気迫る勢いでキーカードを揃えようとする恭子のプレイングに沢渡の取り巻き達は恐怖に身を震わせ、龍姫は真剣な表情で恭子のプレイングの一挙一動に注目した。

 手札増強カードが尽きたのか恭子は《サイバー・ヴァリー》の効果で新たに加えられたカードを見て、僅かに眉を顰める。現在の恭子の手札は4枚。内モンスターカードが0枚、魔法カードが3枚、罠カードが1枚あるが、生憎融合関連のカードを引くことが叶わず自身のエースモンスターの召喚が不可能だと理解すると、己の引きの弱さに憤りを感じた。

 しかし、それでも今の状況であれば得意の融合召喚はできずとも、新たな力を見せつけることはできる。ならばこのデュエルは自分が手にした新たな切り札で幕を閉じてやろうと、相手を射抜くような鋭い眼光で龍姫の方を見た。

 

「魔法カード《サイバー・リペア・プラント》を発動! このカードは墓地に《サイバー・ドラゴン》が存在する時に発動できる! 私の墓地の《サイバー・ドラゴン・ツヴァイ》は墓地に存在する場合、《サイバー・ドラゴン》として扱われるため発動条件は問題なく満たされる! そして’’デッキから機械族・光属性モンスター1体を手札に加える’’もしくは’’自分の墓地から機械族・光属性モンスター1体を選択してデッキに戻す’’の2つの効果のどちらかを使用できる! 私は前者の効果でデッキから《サイバー・ドラゴン・コア》を手札に加え、そのまま召喚! このカードが召喚に成功した時、デッキから『サイバー』または『サイバネティック』と名の付いた魔法・罠カード1枚を手札に加えることができる! 私はデッキから《サイバー・ネットワーク》を手札に加える! さらに魔法カード《機械複製術》を発動! 私の場の攻撃力500以下の機械族モンスター1体を選択し、その同名モンスターを2体までデッキから特殊召喚できる! 《サイバー・ドラゴン・コア》は場・墓地では《サイバー・ドラゴン》として扱う効果を持つ! よって私はデッキから2体の《サイバー・ドラゴン》を特殊召喚! さらに私の場に《サイバー・ドラゴン》が存在することで、魔法カード《エヴォリューション・バースト》を発動する! このターン、私の《サイバー・ドラゴン》の攻撃を放棄することで相手の場のカード1枚を破壊する! 私は橘田の《聖刻神龍-エネアード》を破壊!」

「――っ、」

 

 白銀の機光竜《サイバー・ドラゴン》の口が大きく開き、そこから1本の光線が《聖刻神龍-エネアード》に向けて放たれる。龍姫は前のターンに《竜姫神サフィラ》の効果でドローした罠カードをもっと早くに引けていればと、内心で苦虫を噛み潰した表情を浮かべ、何の抵抗もなく無残に光線で貫かれる《聖刻神龍-エネアード》に対し申し訳なく感じた。

 

「これで除去効果持ちは潰した……さぁ、ここからが本当の勝負だ! 私はレベル5の《サイバー・ドラゴン》2体でオーバーレイ!」

「何っ!? この召喚方法は…!」

「まさか…!」

 

 観客席にいる権現坂、沢渡とその取り巻き達が一斉に身を乗り出す。同じレベル、かつ非チューナーモンスターが複数体揃った状態で行える召喚方法は例外を除いて1つしか存在しない。

権現坂は以前の遊勝塾とLDSの3本勝負の折に。沢渡とその取り巻き達はLDSの講義はもちろん、以前出くわした忌まわしきエクシーズ使い(ユート)のことから、次の展開を予想できる。

 

「2体の機械族モンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築! 機光竜よ、留まることのない進化を重ね、新星となりその力を振るえ! エクシーズ召喚! 襲雷せよ、ランク5! 《サイバー・ドラゴン・ノヴァ》!」

 

 2体の《サイバー・ドラゴン》が2つの白銀の光へその身を変え、吸い込まれるように1つの光へと交わり、強い輝きを放つ。光が段々と姿を形成していき、長い胴体と巨大な翼が視認できるようになると次の瞬間には光が晴れる。白銀の光沢を放つ機械の体と翼、各部には黒い追加装甲のようなものが施され、全身に赤く光るラインが走っているその姿は今までの機光竜とはどこか一線を画す。

 

 融合一辺倒だと思っていた恭子のエクシーズ召喚に沢渡ら4人は息を飲んだ。よもや、LDSではない他塾の人間が融合とエクシーズの両方を使いこなしているとは予想だにしなかった。先の融合モンスター《サイバー・ツイン・ドラゴン》は攻撃力2800で2回攻撃という非常に攻撃的なカードだったが、今回のモンスターには一体どんな効果が秘められているのかと、興味と恐怖半々の感情で《サイバー・ドラゴン・ノヴァ》に注目する。

 

「むぅ…」

 

 だがそんな沢渡達とは違い、デュエルを静観していた権現坂は複雑な気持ちであった。恭子は自身と同じく道場の跡取りという立場でありながら、道場の教え(融合)とは異なるもの(エクシーズ)を使うことに抵抗感を抱く。それを後継者自らが率先して使うことに権現坂は少なからず嫌悪し、何故、自分と同じ境遇でありながら平然とそんなことができるのだと、困惑した表情で恭子を見る。

 するとそんな視線に気付いたのか恭子の方もチラリと権現坂の方を一瞥し、その表情から権現坂の思っていることを汲み取った。

 

「ふむ、『納得がいかない』といった表情だな昇」

「…………」

「無理もないか。融合召喚を伝統としたサイバー流にエクシーズ召喚を組み込んだ私は道場の跡取りとして褒められた行為ではないだろう――しかし、サイバー流、ひいては’’デュエリスト’’として間違ったことはしていないと、私は胸を張って言うぞ」

 

 ポン、と胸を叩き堂々とした表情を浮かべる恭子。その顔には伝統を穢したという後悔や、自分の選択に間違いはないと言わんばかりに自信に溢れている。

 

「伝統や格式も大事だが、サイバー流の根源は’’進化’’だ。融合はもちろんのこと、別の進化をした《サイバー・ドラゴン》も居る。時代に取り残されぬよう、環境に合わせて《サイバー・ドラゴン》は進化した――そして、それはデュエリストも同じ。己の戦術に固執していては、進化(成長)はあり得ん」

「――っ!」

 

 瞬間、権現坂の目が大きく見開く。確かに道場の伝統を守ることは後継者としては大事なことだが、それでデュエリストが進化しなければ何の意味もない。

 

「そこで私と師範は先日、LDS――レオ・コーポレーションとある提携をした。《サイバー・ドラゴン》の一般流通化と引き換えに《サイバー・ドラゴン》のさらなる進化、新たなカード開発を」

「な――道場の看板モンスターを一般流通化だと! 正気か恭子!?」

「初めは私や師範も悩んださ。しかし、昨今では融合のみならずシンクロやエクシーズも台頭してきた。そこに《サイバー・ドラゴン》が求められるのならば、惜しくない。事実、この《サイバー・ドラゴン・ノヴァ》もエクシーズモンスターであるからな」

 

 そう言いつつ恭子は視線を《サイバー・ドラゴン・ノヴァ》へ移す。融合だけでは辿り着けなかった新たな進化の結晶である、そのモンスターを見る眼差しはどこか誇らしげに見えなくもない。

恭子のそんな顔を見て、権現坂は自然と体の内にあった怒気がどこか薄れていく。それどころか自身の道場の象徴とも言える《サイバー・ドラゴン》の独占化を放棄してまで、どこまでも進化しようとするその意思には一種の尊敬さえ抱くほどだ。

 

「……そこまでの覚悟があったのなら、これ以上俺が言うことは何もない。デュエルを中断させてすまなかったな」

「構わん――と言いたいところだが、話が過ぎたな……これ以上は1分の規定に達する。続けるぞ橘田! 私はオーバーレイ・ユニットを1つ取り除き、《サイバー・ドラゴン・ノヴァ》のモンスター効果を発動! 墓地から《サイバー・ドラゴン》1体を復活させる! 私は墓地より《サイバー・ドラゴン・ドライ》を守備表示で特殊召喚!」

 

 《サイバー・ドラゴン・ノヴァ》の周囲に漂っていた光球が胸部のコアに吸い込まれ、光が弾ける。すると恭子の場の床から黒い円が出現し、そこから這い出るように流線形のボディの機光竜《サイバー・ドラゴン・ドライ》が身を固めた状態でゆっくりとその姿を現す。

 

「《サイバー・ドラゴン・ドライ》は《サイバー・ドラゴン・コア》と同じく場・墓地では『サイバー・ドラゴン』として扱う」

「あんなモンスターいつの間に墓地に…!」

「おそらくさっきの魔法カード《ワン・フォー・ワン》の手札コストで捨てたモンスターだ。それ以外にあいつが自ら墓地にモンスターを捨てることはなかった」

 

 山部の反応に対し、沢渡は冷静に返す。何度も龍姫とデュエルを重ねていく内に沢渡自身、相手の行動にはそれとなく注意を払うようになっていた。その為、些細な行動であろうと自然と目で追うようになっており、観客席からでも恭子が《ワン・フォー・ワン》の手札コストでモンスターカードを捨てたことを視認し、それがあの復活させたモンスターなのだろうと結論付ける。

 

「バトル! 私は《サイバー・ドラゴン・ノヴァ》で《蒼眼の銀龍》に攻撃する!」

「ハァ!? 《サイバー・ドラゴン・ノヴァ》の方が攻撃力は低いのに何で――」

「その攻撃宣言時に罠カード《ダメージ・ダイエット》を発動。このターン、私が受けるダメージを全て半分にする」

「うぇっ!? 橘田さんも何であんなダメージを軽減するカードを――」

 

 両者の目論見が全く読めない取り巻き達は困惑した表情になるが、沢渡は静かに2人の狙いを推察する。《サイバー・ドラゴン・ノヴァ》はランク5のエクシーズモンスターだが、攻撃力2100しかなく効果も今の時点では《サイバー・ドラゴン》を復活させるだけ。ライフポイントが残り100しかない恭子にとっては自爆特攻ならぬ自決特攻でしかないものの、おそらく他にも何か秘められた効果があるのだと察し、もしもそれがダメージステップ等で発動する効果ならば龍姫は攻守変動効果を持たない《ダメージ・ダイエット》をこのタイミングで使うしかなかったのではと考える。

 

「――っ、察しが良いな橘田…! ダメージステップで私は《サイバー・ドラゴン・ノヴァ》のさらなる効果を発動! 場・手札の《サイバー・ドラゴン》1体をゲームから除外することで、自身の攻撃力を2100ポイントアップする! 私は場の《サイバー・ドラゴン・コア》をゲームから除外!」

「2100アップ!? それじゃあ《サイバー・ドラゴン・ノヴァ》の攻撃力は――」

「4200。実質倍」

 

 そしてその予想が当たったことに沢渡は心の中で小さくガッツポーズを取り、自分もそれなりのデュエリストになってきたなと自賛した。そんな自惚れている沢渡を横目に龍姫は大伴へ短く言い放つと、安全を考慮して今まで乗っていた《蒼眼の銀龍》の背から(惜しむように)飛び降り、フィールド内にあった巨大なクレーンを掴み振り子の要領で床に着地する。同時にチラリと《サイバー・ドラゴン・ノヴァ》の方へ視線を移した。件のモンスターは既に攻撃態勢に入っており、ダメージステップまでいってしまってはアクションカードを捜しても無意味か、と仕方なしに諦める。

 

「いけ《サイバー・ドラゴン・ノヴァ》! エヴォリューション・クロス・バースト!」

「――っ、」

 

 《サイバー・ドラゴン・ノヴァ》の放った光線は《蒼眼の銀龍》の胴を貫き、容赦なく粉砕した。攻撃の余波で衝撃波が龍姫の元まで届き、その場で身構える中で龍姫のライフポイントが一気に減少する。

攻撃力4200と攻撃力2500で1700ものダメージを負うハズだったが《ダメージ・ダイエット》の効果で半分の850ダメージにまで留め、残りライフポイント900しかなかった龍姫のライフポイントを僅か50に繋ぎ止めた。

 手札に機械族必殺のカード《リミッター解除》がなくて良かったと龍姫が安堵している中で、恭子は実に愉快そうな、それも自信に満ちたような笑みを浮かべる。

 

「ふふ、一時的に《サイバー・エンド・ドラゴン》の元々の攻撃力すらを凌ぐ《サイバー・ドラゴン・ノヴァ》の攻撃を耐えきるとは――流石だと言っておこう。だがその残りライフではどんなダメージであろうと勝負は決する。次のターンで決着を着けてやろう」

「……残りライフが100しかない藤島も同じ状況だと思うけど」

「ダメージを通さなければ良いだけのことだ、策もある。私はカードを2枚セットし、ターンを終了する」

 

 大した自信だと恭子と龍姫を除く全員が思うが、その言葉に嘘偽りがないことは誰しもが分かった。権現坂は古くから遊矢と同じぐらいの付き合いの恭子が次のターンに決めると宣言した際には例外なく相手を沈めており、沢渡の取り巻き達も自分らの所属する総合コースの首席である龍姫をここまで追い詰められたことは彼らが記憶する限りでそう多くはない。まさかこのまま押し切られるのかと不安に思う中、龍姫は淡々とデュエルディスクに指を伸ばす。

 

「エンドフェイズに永続罠《復活の聖刻印》の効果を発動。相手ターンに1度、デッキから『聖刻』モンスター1体を墓地に送る。私はデッキから《聖刻龍-シユウドラゴン》を墓地へ。さらにデッキから光属性モンスターが墓地に送られたことにより、《竜姫神サフィラ》のモンスター効果を発動する」

「させんぞ! 私は墓地から罠カード《ブレイクスルー・スキル》をゲームから除外し、その効果を発動! 自分のターンで墓地にあるこのカードをゲームから除外することで、相手モンスター1体の効果をこのターンの間無効にする! これで《竜姫神サフィラ》の効果は無効だ!」

 

 その瞬間、『あぁ…』と沢渡の取り巻き達が落胆の声をあげる。おそらく龍姫のあの5枚の手札の中に起死回生のカードがなく、《竜姫神サフィラ》の手札増強効果で何かを引こうとしたのだと察した。だがそれを普段は龍姫が愛用する墓地からの罠で妨害され失敗に終わる。ここまでか、と取り巻き達が諦めかけている中で沢渡1人はやや苛立った顔で龍姫の方を見ていた。

 

(あいつ……昨日、俺が食らったコンボをまだ出してないじゃねぇか! ここで出さなくていつ出すんだ! あのコンボがあればあんな奴速攻だろ!)

 

 昨日自信が食らった龍姫のコンボのえげつなさを思い出しつつ、何故そのコンボを出さないのかと歯軋りする沢渡。そんな沢渡の思いを知ってか知らずか、龍姫はあくまでもポーカーフェイスを崩さず普段の表情のままデッキトップに指をかける。

 

「私のターン、ドロー」

「この瞬間私は永続罠《サイバー・ネットワーク》を発動! 私の場に《サイバー・ドラゴン》が居る時、デッキから機械族・光属性モンスター1体をゲームから除外する! 私の場には『サイバー・ドラゴン』扱いの《サイバー・ドラゴン・ドライ》が居る!これにより発動条件は満たされ、私はデッキの《サイバー・ドラゴン・ドライ》をゲームから除外! さらにゲームから除外された《サイバー・ドラゴン・ドライ》のモンスター効果発動だ! このカードがゲームから除外された場合、私の場の《サイバー・ドラゴン》1体は戦闘・効果でこのターン破壊されない! よって私の場の《サイバー・ドラゴン・ドライ》はこのターン破壊されん!」

 

 ここで再度沢渡の取り巻き達から落胆の声が響く。相手の場に《サイバー・ドラゴン》が居なければ《サイバー・ドラゴン・ノヴァ》は攻撃力2100のモンスターでしかない。場の《サイバー・ドラゴン・ドライ》さえ消えれば、龍姫は幾分か攻め易かっただろうに、無情にもそれに破壊耐性を付与する辺り恭子の強かさを改めて取り巻き達は思い知った。

 

 今の龍姫は手札が7枚、場には《竜姫神サフィラ》と永続罠《復活の聖刻印》。そして先ほどの攻防では発動する気配のなかったリバースカードが1枚。残りのライフポイントは僅か50と、良いのか悪いのか判断が難しい状況だ。

 対して恭子は手札は0枚、場にはこのターン破壊されない《サイバー・ドラゴン・ドライ》と《サイバー・ドラゴン・ノヴァ》、永続罠の《サイバー・ネットワーク》とリバースカードが1枚。ライフポイントの残りは100だが、先のターンの流れから不思議と恭子の方が優勢に感じられなくもない。

 ここから一体どうやって勝てるのかと、取り巻き達が諦めた表情を浮かべる中、龍姫は1枚のカードをデュエルに差し込んだ。

 

「魔法カード《龍の鏡(ドラゴンズ・ミラー)》を発動。場・墓地から融合モンスターによって決められた融合素材モンスターをゲームから除外し、ドラゴン族の融合モンスター1体を融合召喚する」

「今更融合召喚なんて…」

「橘田さんの融合モンスターって、《始祖竜ワイアーム》くらいしか居なかったよな」

「もうダメだぁ…」

「――いや、待てお前ら」

 

 龍姫が発動したカードを見るなり取り巻き達は顔に諦めの色になるが、逆に沢渡はニヤリと不敵な笑みを浮かべる。墓地に素材のモンスターが居たかどうかはこの時点では分からないものの、沢渡は龍姫が最初の《手札抹殺》や、《竜姫神サフィラ》の手札増強効果が2回発動させていたことから素材のモンスターを落とす機会は充分にあったと確信していた。そしてその確信通り、龍姫の真上に沢渡が予想していた2体の融合素材モンスターが半透明の姿で浮かび上がる。

 

「私は墓地のデュアルモンスター《ダークストーム・ドラゴン》と、デュアルモンスター《龍王の聖刻印》をゲームから除外し、融合する」

「デュアルモンスター!?」

「いつの間にあんなカードを――あれ? てか、この組み合わせで出せるモンスターって居るのか?」

「すぐにわかるさ、まぁ見てろって」

「……吹き荒ぶ闇の嵐よ、封じられし龍の王よ。今1つとなりて二重(ふたえ)の力を解放せよ!」

 

 龍姫の頭上に映し出されていた2体の龍は融合召喚特有の橙と青の光と共に渦巻き、1つの光を形成していく。直後に光が弾け、その中から異形とも言える1体のドラゴンが姿を現す。頭・首・胴体・手足の全てが元は別のものを無理矢理に下手な裁縫で縫い合わせたように付けられ、ドラゴンというよりかはアンデット族と言われても納得しかねない容姿。沢渡以外は初見であろうそのモンスターの姿を見て、息を飲む――

 

「融合召喚! 現れよ、《超合魔獣ラプテノス》!」

 

 ――が、沢渡の取り巻き達3人はそのモンスターの攻撃力、2200という数字を見るなりハァとため息を溢す。この程度のモンスターならば《始祖竜ワイアーム》を守備表示で立てていた方がまだマシだったのではないかと思うほどだ。

 

「手札から速攻魔法《聖蛇の息吹》を発動。場に融合・儀式・シンクロ・エクシーズモンスターが2種類以上存在する場合、その数によって効果を得る。今、フィールドには儀式モンスター、融合モンスター、エクシーズモンスターの3種類が居る。私は2種類以上の効果’’自分の墓地またはゲームから除外されたモンスター1体を手札に加える’’効果で、除外された《ダークストーム・ドラゴン》を手札に加え、3種類以上の効果’’自分の墓地から罠カード1枚を手札に加える’’効果で《光子化》を手札に戻す。さらに《復活の聖刻印》のさらなる効果を発動。自分のターンに1度、ゲームから除外された『聖刻』モンスター1体を墓地に戻す。私は《龍の鏡》で除外した《龍王の聖刻印》を墓地に戻す」

「橘田さん、何やってんだ?」

「モンスターや罠を回収したり、除外から墓地に戻したり……」

「まるで意味がわからねぇ…」

 

 龍姫の行動の1つ1つが理解できない3人は、ただただ頭にクエスチョンマークを浮かび上がらせるばかり。この後に起こることをその身に体感した沢渡としては、この3人の顔が数十秒後には驚愕のそれに変わると思うと、楽しみで仕方ない。早く下準備を済ませろと、目で龍姫にプレイングを急かすように威圧する。

 

「……カードを2枚セット、ここで罠カード《光の召集》を発動。自分の手札を全て墓地に捨て、その数だけ墓地の光属性モンスターを手札に加える。私は5枚の手札を捨て、墓地から《聖刻龍-アセトドラゴン》、《聖刻龍-ネフテドラゴン》、《聖刻龍-トフェニドラゴン》、《聖刻龍-シユウドラゴン》、《アレキサンドライドラゴン》の5枚を回収」

 

 そんな沢渡の視線を受けてか、これで準備は整ったと言うように龍姫はさも当然と言いたげな顔で手札を整えた。手札に加えられたカード達を見て、沢渡は『良し!』と内心で声を張り上げる。

 

「さぁ見てろよお前ら、これから橘田のいとも容易く行われるえげつないコンボ、『聖刻・インフィニティ・ジャッジメント』が出るぞ!」

「聖刻――」

「インフィニティ――」

「ジャッジメント?」

「…ほう、まだ奥の手を隠していたか」

「ぬぅ、一体どんな戦術なのだ…」

 

 声高らかに沢渡がコンボ名を宣言し、この場にいた各人が各々の反応を示す。取り巻き達3人はその謎のコンボ名に疑問の声をあげ、恭子は未だ見ぬ龍姫の戦術に期待し、権現坂は真剣な表情で龍姫を見る。なお、当の本人は表面上では涼しい顔をしているが、内心では真顔で『やめろ』と沢渡に侮蔑の視線を送っていた。

 

「……手札から《聖刻龍-アセトドラゴン》をリリースなしで召喚。このカードは上級モンスターだけど、攻撃力を1000にすることでリリースなしで召喚できる。さらにアセトドラゴンをリリースし、手札から《聖刻龍-ネフテドラゴン》を特殊召喚。このカードは場の『聖刻』モンスター1体をリリースすることで、手札から特殊召喚できる。そしてリリースされたアセトドラゴンのモンスター効果発動。リリースされたことにより、手札・デッキ・墓地からドラゴン族・通常モンスター1体を攻守0にして特殊召喚。私は墓地では通常モンスター扱いとなるデュアルモンスター、《龍王の聖刻印》を特殊召喚する」

 

 だがコンボ名を言われたところでやることは何も変わらず、龍姫は淡々と場を整える。まずは邪魔なカードの一層からか、と恭子のセットカードに視線を移す。

 

「《超合魔獣ラプテノス》のモンスター効果。このカードが表側表示である限り、私の場のデュアルモンスターは再度召喚された状態――つまり、効果を発動できる。私は《龍王の聖刻印》のモンスター効果発動。自身をリリースすることで、手札・デッキ・墓地から《龍王の聖刻印》以外の『聖刻』モンスター1体を守備表示で特殊召喚する。私はデッキから2体目の《聖刻龍-シユウドラゴン》を特殊召喚」

「…モンスター破壊効果持ちと魔法・罠破壊効果持ちが揃ったか……」

 

 何度か龍姫のデュエル映像を観た恭子は静かに龍姫の状況を分析する。場に除去効果持ちが2体揃い手札も全てが『聖刻』モンスターとはいえ、この状況では精々場と手札のシユウドラゴンの効果で魔法・罠カードを2枚破壊し、場のネフテドラゴンの効果で《サイバー・ドラゴン・ノヴァ》を破壊する程度で終わるだろうと予想した。その程度であれば自分の場は崩れない、むしろ《サイバー・ネットワーク》のさらなる効果でよりモンスターを展開できると内心で愉悦に浸る。

 

「まずは《聖刻龍-シユウドラゴン》の効果。場・手札の『聖刻』モンスター1体をリリースすることで、相手の魔法・罠カード1枚を破壊する。私は手札の《聖刻龍-トフェニドラゴン》をリリースし、そのセットカードを破壊」

「残念だったな橘田、対象となった罠カード《無謀な欲張り》を発動する! 私はデッキからカードを2枚ドローし、ドローフェイズを2回スキップする!」

 

 『あぁ…』と本日何度目になるかわからない取り巻き達の落胆の声があがった。あんなデメリットが付いたドローカードを使ったということは、次のターンで確実に仕留めるという殺意しか見えない。この状況で無駄にモンスターをリリースすることになるなんて、とより一層敗北ムードが取り巻き達の中で漂いかけた――

 

「リリースされた《聖刻龍-トフェニドラゴン》のモンスター効果発動。墓地のデュアルモンスター、《龍王の聖刻印》を特殊召喚する。そして《超合魔獣ラプテノス》が居ることにより《龍王の聖刻印》のモンスター効果発動。自身をリリースし、デッキから3枚目の《聖刻龍-シユウドラゴン》を守備表示で特殊召喚する」

「……ん?」

 

 ――が、ここでふと違和感を覚える。いつもなら『聖刻』モンスターの適当なドラゴン族・通常モンスターを出してシンクロやエクシーズに繋げるハズだが、何故未だに『聖刻』モンスターが場にいるのか。

 

「後から特殊召喚した《聖刻龍-シユウドラゴン》のモンスター効果発動。最初に特殊召喚した《聖刻龍-シユウドラゴン》をリリースし、永続罠《サイバー・ネットワーク》を破壊する」

「構わん。だが、破壊された《サイバー・ネットワーク》の効果を発動させてもらうぞ! このカードが墓地に送られた時、私の場の魔法・罠カードを全て破壊し、ゲームから除外された私の機械族・光属性モンスターを可能な限り特殊召喚する! 帰還せよ、《サイバー・ドラゴン・コア》2体と《サイバー・ドラゴン・ドライ》!」

 

 恭子の場に自身の効果や《サイバー・ドラゴン・ノヴァ》、《サイバー・ネットワーク》の効果で除外された機光竜達が一斉にフィールドを埋め尽くす。先程までであれば沢渡の取り巻き達は『ヤバいッスよ橘田さん!』とでも声を荒げていたのだろうが、不思議とその声は出ない。

 

「リリースされた《聖刻龍-シユウドラゴン》のモンスター効果を発動。墓地のデュアルモンスター、《龍王の聖刻印》を特殊召喚する。そして《超合魔獣ラプテノス》が居ることにより《龍王の聖刻印》のモンスター効果発動。自身をリリースし、デッキから2枚目の《聖刻龍-ネフテドラゴン》を守備表示で特殊召喚する」

「あれ?」

 

 『まただ』と再び違和感が取り巻き達を襲い、同時に権現坂も同じような違和を感じた。『何故モンスターが尽きないのか?』、あの手のモンスター効果ならば普通はコストでリリースされたら場か手札のカードの数が減るハズだが、龍姫の場のモンスターは5体のままで、手札も2枚から全く動かない。

 

「1体目の《聖刻龍-ネフテドラゴン》のモンスター効果発動。場の《聖刻龍-シユウドラゴン》をリリースし、破壊耐性のない《サイバー・ドラゴン・ドライ》を破壊する」

「構わ――ん?」

「リリースされた《聖刻龍-シユウドラゴン》のモンスター効果発動。墓地のデュアルモンスター、《龍王の聖刻印》を特殊召喚する。そして《超合魔獣ラプテノス》が居ることにより《龍王の聖刻印》のモンスター効果発動。自身をリリースし、墓地から《聖刻龍-シユウドラゴン》を守備表示で特殊召喚する」

 

 ここでやっとデュエルの当事者たる恭子も違和感を覚えた。一体いつシンクロ・エクシーズ召喚に繋げるのかと待っていたが、このままではただ自分の場のカードが破壊されていくだけなのではと冷や汗が頬を伝う。

 

「2体目の《聖刻龍-ネフテドラゴン》のモンスター効果発動。場の1体目の《聖刻龍-ネフテドラゴン》をリリースし、1体目の《サイバー・ドラゴン・コア》を破壊する」

「あ、あぁ……」

「リリースされた《聖刻龍-ネフテドラゴン》のモンスター効果発動。墓地のデュアルモンスター、《龍王の聖刻印》を特殊召喚する。そして《超合魔獣ラプテノス》が居ることにより《龍王の聖刻印》のモンスター効果発動。自身をリリースし、墓地から《聖刻龍-ネフテドラゴン》を守備表示で特殊召喚する」

 

 おかしい、先ほどから魔法・罠カードとモンスターカードを破壊しているのに、聞こえてくる言葉はほぼ同じようなものばかり。このような状況に陥ったことのない恭子はただ力なく龍姫のカード効果の処理に了承し、困惑した表情でカードを墓地へ送る。

 

「後から特殊召喚した聖刻龍-ネフテドラゴン》のモンスター効果発動。場の効果を発動した《聖刻龍-ネフテドラゴン》をリリースし、2体目の《サイバー・ドラゴン・コア》を破壊する。リリースされた《聖刻龍-ネフテドラゴン》のモンスター効果発動。墓地のデュアルモンスター、《龍王の聖刻印》を特殊召喚する。そして《超合魔獣ラプテノス》が居ることにより《龍王の聖刻印》のモンスター効果発動。自身をリリースし、墓地から《聖刻龍-ネフテドラゴン》を守備表示で特殊召喚する」

「――っ、まさかこれは…!」

「ふ、今頃気付いたかよ」

 

 自身の場のモンスターが《サイバー・ドラゴン・ノヴァ》と破壊耐性を持つ《サイバー・ドラゴン・ドライ》になったところで恭子は大きく目を見開き、自分が抱いていた違和感の正体に気付いた。その様子を見て沢渡はこれ以上ないほどに満足げな表情を浮かべ、ゆっくりとその場で立ち上がる。

 

「このコンボはシユウドラゴン、ネフテドラゴンの効果で相手のカードを除去し、墓地に《龍王の聖刻印》、場に《超合魔獣ラプテノス》が存在することで発生する。これが橘田の相手の場のカードを全て破壊するまで止まらない、いとも容易く行われるえげつない最凶最悪の無限ループコンボ。その名も――『聖刻・インフィニティ・ジャッジメント』だ!」

 

 ビシィ! と、沢渡は右手人差し指を真っ直ぐ恭子の方へ向けてそう言い放つ。相手でないにも関わらず、妙に勝ち誇ったその表情は常人からすれば不愉快でしかないが、今の恭子や権現坂にとってそんなことは些細なこと。

 

「す、すげぇ……すげぇぜ橘田さん!」

「俺、無限ループなんて実戦で初めて見たよ!」

「『聖刻・インフィニティ・ジャッジメント』最強だぜー!」

 

 2人共今は沢渡の取り巻き達と同じように、実戦で、なおかつこれ程有効な戦術を生み出した龍姫に畏怖と尊敬の念を感じざるを得ないのだ。デュエルモンスターズの仕様上で確かに無限ループを発生させるアルゴリズムもあるが、そのほとんどは公式試合や実戦に向いたものではない。だがそれをいとも容易く――という言い方では語弊があるが、少なくとも場に《超合魔獣ラプテノス》、墓地に《龍王の聖刻印》と手札に展開できる『聖刻』モンスターが2体以上存在することで発生するこのコンボは凶悪極まりないものだ。

 昨日、沢渡も初手で龍姫に手札融合からの『聖刻』モンスターの展開を許し、伏せていた魔法・罠カードを全て破壊することで対策を潰され、壁となるモンスターも全て破壊された挙句、ガラ空きになったところで《超合魔獣ラプテノス》と《星態龍》の直接攻撃で1ショットkillされた。その身に体感したからこそ分かる、このコンボの凶悪さ。見る見る内に自分の場のカードが1枚、また1枚と破壊されていく様はまるで処刑台の階段に昇るようだと錯覚するほど。このコンボを受けて無事では済むまいと、下卑な笑みで沢渡は恭子の方を見る。

 

「後から特殊召喚した聖刻龍-ネフテドラゴン》のモンスター効果発動。場の効果を発動した《聖刻龍-ネフテドラゴン》をリリースし、《サイバー・ドラゴン・ノヴァ》を破壊する」

「――っ、《サイバー・ドラゴン・ノヴァ》の最後のモンスター効果を発動! このカードが相手のカード効果で墓地に送られた場合、エクストラデッキから機械族の融合モンスター1体を特殊召喚する! 現れよ! 《重装機甲 パンツァードラゴン》!」

 

 しかし、当の恭子はこの残虐なコンボを食らっているにも関わらず、闘志が衰えている様子は見られない。苦悶の表情を浮かべているものの勝負自体を諦めるような顔ではなく、必死に耐え忍んでいる。

 その恭子の忍耐に応えるように鉄屑と化した《サイバー・ドラゴン・ノヴァ》の破片が集まり、竜を模した装甲車《重装機甲 パンツァードラゴン》を守備表示で場に呼び出す。ドラゴンの姿だったために龍姫が即座に反応しかけたが、機械族と理解するなり冷めた眼差しになる。

 

「《重装機甲 パンツァードラゴン》は破壊され墓地に送られた場合、場のカードを1枚破壊する効果を持っている! さぁ、こいつも破壊するか橘田!?」

「……リリースされた《聖刻龍-ネフテドラゴン》のモンスター効果発動。墓地のデュアルモンスター、《龍王の聖刻印》を特殊召喚する」

 

 相手のフィールドを『全て壊すんだ』はできなかったか、と龍姫は誰にも気付かれないような小さいため息を吐きながら次手を考え始めた。今の時点で自分の場には《竜姫神サフィラ》、《超合魔獣ラプテノス》、《聖刻龍-シユウドラゴン》、《聖刻龍-ネフテドラゴン》、《龍王の聖刻印》の5体のモンスター。セットカードは2枚で、手札は《聖刻龍-シユウドラゴン》と《神龍の聖刻印》の2枚。ライフポイントは僅か50しかないものの、セットしたカードがあれば戦闘ダメージは受けないだろうと思案する。

 対して恭子の場にはこのターンの破壊耐性を持つ《サイバー・ドラゴン・ドライ》と、被破壊で墓地に送られた場合に除去カードと化す《重装機甲 パンツァードラゴン》の2体。手札は2枚と少なく、さらに次ターン以降は《無謀な欲張り》の効果でドローフェイズはスキップされる。

あの限られた2枚の手札で次ターンに恭子がどう動いてくるのか不安を感じる龍姫。だがこのターンで勝てないと理解している以上、今の自分にできることは限られている。ならばせめて回収したカードの発動条件を満たせる場には整えておこうと、自分の考えをプレイングに移す。

 

「……私はレベル6の《聖刻龍-シユウドラゴン》と《龍王の聖刻印》でオーバーレイ。2体のドラゴン族モンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築――聖なる印を刻む龍の王よ、その力を振るい新たな龍を呼びださん! エクシーズ召喚! 顕現せよ、ランク6! 《聖刻龍王-アトゥムス》!」

 

 沢渡とその取り巻き達がよく見る龍姫お馴染みの龍王がフィールドに現れる。その姿を見るなり、沢渡は龍姫の狙いを一瞬で把握した。

 

(なるほどな。確かあいつのエクストラデッキには《迅雷の騎士 ガイアドラグーン》が居たな。あのカードはランク5・6のエクシーズモンスターの上に重ねることでもエクシーズ召喚できるとか言う訳の分からない召喚ルール効果を持っていたが、それとは別に貫通効果を持っていたハズだ。あのモンスターで守備表示の《サイバー・ドラゴン・ドライ》を攻撃すれば、例え破壊は免れてもダメージは避けられない。今まで魔法・罠カード、モンスターを徹底的に破壊していたのは安全に攻撃できる状況にし、《サイバー・ドラゴン・ノヴァ》を残していたら攻撃力を上げる効果をダメージステップで使われて的が避けられる――全ては、この攻撃を通すための布石。ふふん、俺も段々わかってきたじゃねぇの)

 

 自身の龍姫とのデュエル経験から導き出される沢渡の答えに間違いはない。事実、800しか守備力のない《サイバー・ドラゴン・ドライ》を攻撃力2600で貫通効果持ちの《迅雷の騎士 ガイアドラグーン》で攻撃すれば、その超過ダメージだけで龍姫は勝利する。沢渡命名の『聖刻・インフィニティ・ジャッジメント』により恭子の場には魔法・罠カード類はおろか、唯一の逃げ道であった《サイバー・ドラゴン・ノヴァ》さえも除去され、攻撃を防ぐ、ないしは戦闘ダメージを0にするカードはフィールド上に見受けられない。このまま龍姫が攻撃宣言をして相手のライフポイントは0、めでたくゲームセットかと沢渡は思い込んだ。

 

「オーバーレイ・ユニットを1つ取り除き、《聖刻龍王-アトゥムス》のモンスター効果発動。デッキからドラゴン族モンスター1体を攻守0にして特殊召喚する。私はデッキから《ラブラドライドラゴン》を特殊召喚」

「――ん?」

「私はレベル5の《聖刻龍-ネフテドラゴン》にレベル6のチューナーモンスター《ラブラドライドラゴン》をチューニング――集いし星が新たな煌めきを呼び起こす! 天駆ける輝きを照らせ! シンクロ召喚! 光誕せよ、レベル11! 《星態龍》!」

 

 しかしその沢渡の予想とは裏腹に、フィールドに龍姫の最強シンクロドラゴン《星態龍》が姿を現す。何故ここで《星態龍》を出すのかと沢渡は怪訝に思ったが、どうせ目一杯ドラゴンを召喚したいだけだろうと決め付ける。普段はスタンディングデュエルが多いが、不思議と龍姫はアクションデュエルになると余計にドラゴン族モンスターを召喚していることが多い。また余計な召喚をしやがって、と沢渡は龍姫の方を呆れるように見る。相手の場にセットカードがないから良いものの、もしも《激流葬》などの演出が派手なモンスター除去効果に引っ掛かったらどうするつもりだと目で訴えようとした――

 

「……このままエンドフェイズ。このターン、私は《光の召集》の効果で手札から光属性モンスターの《エレキテルドラゴン》を墓地に捨てた。光属性モンスターが手札・デッキから墓地に送られたことにより《竜姫神サフィラ》のモンスター効果を発動する。私は――」

「――って、うぇええええぇっ!?」

「ど、どうしたんですか沢渡さん!?」

 

 ――が、その前に龍姫の突然のエンドフェイズ宣言に沢渡が観客席から身を乗り出し、驚愕の表情で声を張り上げた。その奇行に沢渡の取り巻き達3人は体が跳ね、慌てた様子で沢渡に近寄る。しかしそんな取り巻き達に目も配らず、怒りの形相で龍姫を睨む。

 

「橘田ァ! 何でお前――」

「口を挟まないで沢渡。今は公式戦のデュエルをしている」

「おまっ…!」

「ふむ、橘田の言う通りだ。そこの…さわ、沢蟹(さわかに)君とやら、今は公式戦の真っ最中。デュエルの進行に影響を及ぼす発言は控えてくれ」

沢渡(さわたり)だ! あぁ、もうどいつもこいつも…!」

「さ、沢渡さん――あ、ほら『スイートミルク・アップルベリーパイ とろけるハニー添え』がありますから、これを食べて落ち着いて下さい」

「えぇい…!」

 

 文句の1つや2つを言いたいところだったが、デュエルをしている当事者2人にそう言われて沢渡は自然と言葉が引っ込んでしまう。そして隣に居た山部が差し出した『スイートミルク・アップルベリーパイ とろけるハニー添え』を乱暴に掴み取り、自棄になって口に押し込む。もしゃもしゃとハムスターのように頬張るが、乱雑に口の中に入れた所為か、途中でノドを詰まらせる。ゲホッゴホッと咳き込む沢渡に取り巻き達はすぐに反応し、飲み物を差し出した。それを再度慌ててノドへ流し込むと、そこでまた咳き込む。途中、『なんなのだ、あ奴は…』と権現坂が不思議そうな目で沢渡らを見るが、沢渡が黙っているこの間にやることを済ませようと龍姫はデュエルに戻った。

 

「《竜姫神サフィラ》のモンスター効果発動。今回は’’相手の手札をランダムに1枚選んで墓地へ捨てる’’効果を選択する」

「ふむ、良い判断だ。ドローフェイズがスキップされた私の手札を削ぐことも立派な戦術だからな」

「……これで私はターンエンド…」

 

 《竜姫神サフィラ》は手を恭子の方へ向けると、その掌から光球が放たれる。それが恭子の2枚あった手札の内の1枚に当たり、墓地へ捨てるカードを示す。恭子は特に顔を顰めるようなことはなくそのカードを墓地へ捨てた。

 その様子を見て龍姫は内心で珍しいと感じる。大半のデュエリストならば手札破壊(ハンデス)戦術を忌み嫌うものだ。自分であれば『やめろ…やめてくれぇ…! これ以上私に絶望を与えようと言うのか…!』と某絶望の番人の如く酷く嫌っているが、手札破壊を特に非難することなく素直に受け入れる恭子はデュエリストとして器が大きいと思った。

 同時にチラリと墓地へ捨てられたカードに目を移す。恭子の手札から墓地へ捨てられたカードは3枚目の《サイバー・ドラゴン》。フィールドの《サイバー・ドラゴン・ドライ》だけでなく、さり気なく次の自分ターン用に《サイバー・ドラゴン・ノヴァ》の発動コストを確保していたとは姑息な手を、と心の中で苦笑する。

 

「私のターン!」

 

 そう龍姫が思っている中、ターンが恭子へ移る。たった1枚の手札ではできることはほとんどないだろうと龍姫は少なからず確信していた。前のターンに手札補充したとはいえ、そうそう都合よく逆転の切り札を引けるとは到底思えない。また恭子が融合を主として扱う以上、融合召喚には例外を除いて融合を可能とする魔法カードと素材となる2体以上のモンスターが必要であり、今の恭子にモンスターは《サイバー・ドラゴン・ドライ》と《重装機甲 パンツァードラゴン》しか居ないのだ。この2体で召喚される融合モンスターは限られるだろうし、そのモンスターを出せるとも思えない。

 さらに今の自分の場には《竜姫神サフィラ》、《超合魔獣ラプテノス》、《聖刻龍王-アトゥムス》、《星態龍》の4体のモンスター、それに加え2枚のリバースカードがある。自身のライフは50しかないが、この状況を打破できるとは思えず一体ここからどうするのかと龍姫は比較的気楽に考えていた。

 

「私は魔法カード《オーバーロード・フュージョン》を発動! 自分フィールド・墓地から融合素材となるモンスターをゲームから除外し、機械族・闇属性の融合モンスター1体を融合召喚する!」

 

 しかし、恭子が発動した魔法カードを見るなり内心で吹き出す。この状況でそのカードを出すなんて、どこのアカデミアの帝王だと怒鳴りたいほど。しかし、そんなことよりも《オーバーロード・フュージョン》を発動したということはこれから呼び出されるモンスターは1体しか龍姫の記憶に該当せず、恭子の墓地に何体の機械族モンスターが居たのかを慌てて思い出す。

 

「私はフィールドの《サイバー・ドラゴン・ドライ》と《重装機甲 パンツァードラゴン》――そして墓地に存在する《プロト・サイバー・ドラゴン》、《サイバー・ドラゴン・ツヴァイ》、《サイバー・ドラゴン》3体、《サイバー・ドラゴン・ドライ》、《サイバー・ドラゴン・コア》2体、《サイバー・ツイン・ドラゴン》、《サイバー・ドラゴン・ノヴァ》、《超電磁タートル》の計13体の機械族モンスターを全てゲームから除外し、この13体を融合素材とする!」

「えぇっ!?」

「合計13体のモンスターで融合召喚!?」

 

 沢渡の取り巻き達も総合コースの塾生とは言え、それなりには融合召喚のことはわかっている。だが、その中で10体以上ものモンスターを素材とした融合召喚は見たことも聞いたこともない。

 

「闇に眠る機光竜達よ、今無数のマシンと共に1つとなりその暴威を振るえ! 融合召喚! 現れよ、数多の首を持つ最凶の機闇竜! 《キメラテック・オーバー・ドラゴン》!」

 

 恭子の頭上に今回のデュエルに登場した多くの『サイバー・ドラゴン』達が透けた姿で現れ、それが融合召喚の光の中に吸い込まれる。一瞬、暗礁色の鈍い輝きがフィールドに光り、フィールドの床を隆起させながら巨大な機械の球体が姿を現す。それは最初1本の首しか持たない不格好な機械の竜のように見えたが、胴体とも言うべき球体に空いた無数の穴から次々と新たな竜頭が首を出していく。2本、3本と増えていくそれは最終的には計13本もの数になり、その無機質な目で龍姫のドラゴン達を計るように見る。今までに召喚された『サイバー・ドラゴン』系列とはどこか違うそれは異質に感じられ、観客席に居る全員が思わず身震いするほど。表示されるべきである攻撃力も現在は『(不明)』を示し、より一層不気味さを際立たせていた。

 

「この《キメラテック・オーバー・ドラゴン》は私の裏のエース。普段はこの凶暴な姿故に滅多に出すことはないが、橘田相手にはこいつを出さねば私は全力を尽くしたデュエル――リスペクトデュエルになるとは思えん。こいつの力を以て、全身全霊で行かせてもらうぞ!」

 

 そんな恭子の熱い闘志に応えるかのように《キメラテック・オーバー・ドラゴン》が低い唸り声をあげる。次いで今まで『?』だった攻撃力に数値が表示され、800、1600、2400と800の倍数で段々と攻撃力が加算されていく。

 

「《キメラテック・オーバー・ドラゴン》は融合召喚に成功した時、このカード以外の私の場のカードを全て墓地に送る――まぁ、今はこのカード以外何もないから意味はないがな。そして、こいつの元々の攻撃力は融合素材にしたモンスターの数の800倍となる」

「融合素材のモンスターの800倍!?」

「ち、ちょっと待てよ……あれって13体も融合素材にしたよな?」

「13体の800倍って――!」

 

 異常な攻撃力もいい加減にしろ、と取り巻き達が叫ぼうとした瞬間、《キメラテック・オーバー・ドラゴン》の攻撃力が初期ライフの4000を早々に上回り、5000、6000と壊れた計器のように段々と攻撃力が上がっていく。一体どれほどの攻撃力になるのかと取り巻き達が困惑の表情を浮かべる中、恭子は静かに、それでいて力強く言い放つ。

 

「私と『サイバー・ドラゴン』の進化は4桁の数字で収まるつもりはない。13体の融合素材の800倍により、《キメラテック・オーバー・ドラゴン》の攻撃力は10400となる」

「「「い、10400!?」」」

 

 そんな馬鹿げた攻撃力になるのかと取り巻き達の顔が驚愕の色に染まる。10400もあったら2.5人分のライフポイントが消し飛ぶ数値。いくら何でもやり過ぎなのではないかと、渇いた笑みさえ出てくる。

 

「――あっ! でもさっき橘田さんは罠カード《光子化》を回収した!」

「そういえばそうだ! あれがあればいくら攻撃力が高かろうが、攻撃を止めちまえば何の問題もねぇ!」

「攻撃力に走ったプレイングミスだぜ!」

「それも問題ない。《キメラテック・オーバー・ドラゴン》は融合素材にしたモンスターの数だけ相手モンスターに攻撃できる効果も持っている。例え1度攻撃を止められようが、また攻撃すれば良い」

「「「橘田さん! マジヤバ過ぎッスよ!」」」

 

 まさか総合コースの首席がここまで危機的な状況に晒されるとは、取り巻き達全員が予想だにしなかった。このままで相手モンスターの攻撃によって4回連続攻撃を受け、残りライフ50しかない龍姫のライフは7回分のライフを失うに等しい。ここまでなのか、と取り巻き達が絶望する中で恭子の口は開く。

 

「さぁ、バトルだ! 私は《キメラテック・オーバー・ドラゴン》で橘田のモンスター4体に攻撃する!」

「――っ、罠発動!」

「《光子化》は無駄だぞ橘田! さぁ、食らうが良い! エヴォリューション・レザルト・バースト――4連打ァッ!!」

 

 恭子の攻撃命令が下され、《キメラテック・オーバー・ドラゴン》の中央の首と左右下の首がゆっくりと鶴のように伸び、各々の口が大きく開かれる。口内には破壊の光、とでも言うべきレーザーが充填されていく。そして龍姫の4体のドラゴンにしっかりと狙いを定め、4本のレーザーが一斉に襲雷する。それらは真っ直ぐに伸び、4体のドラゴンに着弾。巨大な爆発を起こし、爆風にフィールドが包まれる。フィールド内には黒煙が立ち上り、4体のドラゴンはおろか龍姫の無事さえ確認できない。『あぁ…』と取り巻き達の力ない声が響く中、今まで不動の姿勢で観戦していた権現坂が立ち上がり、フィールド内の様子を確認しようと息を凝らすようにじっと見る。だが黒煙は中々晴れず、じれったくなった権現坂はつい声をあげた。

 

「やったか!?」

 

 思わず、口から出た言葉。現在、姿を視認できる者にこの問いに答えられる者はいないため、ほんの僅かな沈黙が流れる。

 

「……それはどうかな?」

「――っ、何!?」

 

 一拍置き、権現坂の問いに答えるように段々と薄れていく黒煙の中から冷たく、静かな声がフィールドに響いた。その声に反論する如く恭子が声を荒げると、晴れた黒煙の中から龍姫が姿を見せる。瞬間、沢渡の取り巻き達がわぁと喜び出し、冷や汗をかきながら見ていた沢渡はふぅ、と安堵の息を溢す。

 すっかりと晴れたフィールドに龍姫は無傷のまま凛々しく立ち、同じように4体のドラゴン達も1体も欠けることなく場に姿を留めている。そんな状況を目にし、恭子は半ば動揺の色を見せながら龍姫とそのドラゴン達を睨む。

 

「くっ…! 何故橘田はおろか、4体のモンスターも無傷なのだ…!?」

「……私は《キメラテック・オーバー・ドラゴン》の攻撃宣言時に《光子化》ではなく、このカードを発動した――」

 

 恭子の疑問への返答として、龍姫の場で裏側になっていた罠カードが表側になる。《光子化》とばかり思っていたそのカードを目にし、恭子は気付くように目を大きく見開いた。

 

「――この《ブレイクスルー・スキル》を」

 

 瞬間、恭子は全てを察する。最初にもったいぶって《光子化》を発動させたことによりその存在を印象付けさせ、《サイバー・ツイン・ドラゴン》か《キメラテック・オーバー・ドラゴン》でないと突破できないこの布陣にしたことは、全てはこの瞬間のため。

《キメラテック・オーバー・ドラゴン》を滅多に出さなかったとは言え、恭子の公式デュエル記録には少なからずその存在は確認できる。龍姫は自分が必ず《キメラテック・オーバー・ドラゴン》を出すと考え、今まで温存していた《ブレイクスルー・スキル》をここで発動したのだ。

恭子自身も龍姫が《迅雷の騎士 ガイアドラグーン》で貫通ダメージを与えようとしたところで、《ワン・フォー・ワン》の発動コストとして捨てた《超電磁タートル》の効果を使いバトルフェイズを強制終了させ、《光子化》に対応しない風属性故に攻撃を誘ったものの、それすらも見越して前のターンで攻撃しなかったのだろう。

 思えば今回のデュエルで龍姫は常に《蒼眼の銀龍》の背に乗っていた。あれはあくまでもアクションカードを探すためではなく、上からこちらのプレイングの一々を細かに確認するためだったとも取れる。

 全て――今回のデュエルで全てが龍姫の方が上だったと恭子は認めた。駆け引き、展開力、魔法・罠カードの適宜使用。

 

「……なるほど、今回は私の負けだ」

 

 しかしそんな中で恭子の表情はどこか晴れやかだ。恭子自身、ここ最近はそのほとんどが融合召喚による1ターンkillによる勝利が多く、どこか満足のできないデュエルばかりだった。それを今回のようにギリギリまで互いに魔法・罠カードを引き付け、その身で体感した互いに全力を尽くすデュエル――リスペクトデュエルは中々経験できない。どんな勝利よりも気持ちの良い、敗北。

 

「《ブレイクスルー・スキル》の効果により、《キメラテック・オーバー・ドラゴン》は自身の効果で攻撃力を800倍にする効果が無効となり、その攻撃力は0となる。藤島――攻撃宣言した以上、その反射ダメージを受けてもらう」

「あぁ――」

 

 《キメラテック・オーバー・ドラゴン》の13本の首全てが力なく垂れ、先ほどまでの威圧感が嘘のように感じる。そんな機械竜に攻撃宣言された龍姫の4体のドラゴンが一斉に反撃の光を放つ。既に力を失くした《キメラテック・オーバー・ドラゴン》にこれを止める術はない。ドラゴンの逆鱗が《キメラテック・オーバー・ドラゴン》を襲い、紛い物の竜をただの鉄屑へと変える。同時に恭子のライフポントが0を告げ、試合終了のブザーが鳴り響いた。

 

「――良いデュエルだった。満足させてもらったぞ、橘田」

 

 

 

――――――――

 

 

 

「「「橘田さん、流石ッスよ!」」」

 

 デュエルが終わり、アクションフィールドから沢渡達のところへ戻った途端、取り巻き達が口を開くや否や絶賛の声が揃えられる。龍姫本人としては『いや、残りライフ50まで削られたんだから流石って内容でもないと思うんだけど』と言いたいところだが、先の攻防で体力的にも精神的にも疲弊し、3人に言葉を返すことなく無言で横を通り過ぎた。

 ふぅと疲労を口から吐き、観客席の1つに腰を落とす。アクションデュエルで龍姫自身ほとんど運動(アクション)していなかったようにも見えるが、実際ドラゴンの背に乗ることは存外体力を使う。落とされないようバランスに気を遣ったり、体温を確かめたり、鱗の感触を確かめたりなど。かなりの体力を浪費したものの、本人は《蒼眼の銀龍》の背に乗り『フハハハー! すごいぞー! カッコイイぞー!』と某伝説の白龍使いごっこを満喫できたので、内心では非常に満足している。

 

「中々やるじゃねぇの」

「……沢渡…」

「ま、昨日この俺が調整に付き合ってやったんだ。これぐらいやってもらわなきゃ困るぜ」

「……その点については感謝する。ありがとう」

 

 そんな状態の龍姫にいつの間にか眼前に立っていた沢渡が声をかける。デュエルの途中途中で冷静だったり荒げたり自慢げな顔をしたりと、百面相を繰り広げていた沢渡を思い出し、心の内でつい苦笑する。

 

「で、何でさっきの場面で守備表示の《サイバー・ドラゴン・ドライ》を相手に《迅雷の騎士 ガイアドラグーン》を出して攻撃しなかったんだ?」

「それは――」

「待て橘田。それは私の方から彼に説明しよう」

「はぁ?」

「先ず当時の状況だが――」

 

 そういえば《聖刻龍王-アトゥムス》を出した辺りで騒いでいたなぁ、と龍姫が思っていたところで沢渡の背後から恭子が口を開く。沢渡が後ろを向いた途端、恭子は先ほどのデュエルで使用したカード、ないしはこっそり落としていた《超電磁タートル》を見せながら沢渡に解説する。初めは『負けた奴が偉そうに』と思っていたものの、いざ聞いてみると龍姫よりも幾分か饒舌であり、説明もそれなりにわかりやすく、いつの間にか沢渡は食い入るように恭子の言葉に耳を傾けていた。

 あの様子なら自分が話に混ざらなくとも大丈夫だろうと龍姫が決め付けると、体を伸ばすようにぐっと体を大きくのけ反らせる。今回のデュエルは最初の登山の件も含め、本当に疲れたなぁと休息を取っていると、ふと顔に影が掛かった。『雨雲かな? 山の天気は変わり易いし』などと考えながら顔を上げた途端、権現坂の顔が目に映る。

 

「……何か用?」

「――この男 権現坂、貴殿を1人のデュエリストとしてお頼み申す!」

 

 直後、龍姫は上げていた顔が自然と下へ向く。直立不動だった権現坂が急に膝を屈し、両手と額を地に付け、龍姫に頭を垂れる。突然の行動に龍姫は目を丸くし何度か瞬きをした後、土下座している権現坂に対してキョトンとなった。

 

「……何?」

「どうか……この俺に橘田の技を教授して欲しい…!」

 

 請い願う、その切実な声色は本気そのもの。この態度や行動からその覚悟が生半可なものではないことが分かる。

 龍姫は半ば呆然となっていた顔を先のデュエル時と同じように引き締め、真剣な眼差しで権現坂の方へと顔を向け、口を開いた。

 

「――断わる」

 




主人公が使うような戦術じゃない(断言)
でもラプテノスって、ドラゴン縛りでも出せるんですよね。それに今回の話でやったように《龍王の聖刻印》なら除外融合でも《復活の聖刻印》の効果で墓地に戻せて便利ですし(リアルのエクストラデッキからラプテノスを外し、赤き龍を入れながら)

そしてアクション要素薄くて申し訳ないです。おのれ…今度のアクションデュエルはもっとアクションさせねば。
でも次回はスタンディングデュエル。アニメの遊矢の公式戦の間みたいに1つ休憩(スタンディング)を挟ませて頂きます。

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