遊戯王ARC-V LDS総合コースの竜姫   作:紅緋

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 更新が既存の修正で申し訳ありません。以前活動報告で述べたように、やはり特別なカード(シグナー龍、決闘龍、No.など)は安易に出してはダメだと思い、4話を修正しました。話の流れはほとんど変わっていませんが、デュエル内容を大きく修正、他文章がおかしいところを修正。
 ただデュエル序盤でやらかした部分もあるため、少々強引に整合性を取る形に。久々の更新が修正となってしまい、申し訳ありません。
 これからサブタイトルに訳を付けます。流石にカード名だけじゃわかり辛いと思いまして。
 また、今回は近況報告の意味も兼ねて修正版4話を一時的に最新話に持って来ており、旧4話をGW明けに削除。本修正版の4話を元の箇所に入れる予定ですので、どうかご理解お願いします。


4話:《火竜の火炎弾》(ドラゴンには炎が似合う)

 

 レオ・コーポレーション内にある社長室。普段であればここには現社長たる赤馬零児が1人、もしくは専属補佐の中島と共に通常業務に当たっている。それ以外の人間がここに来る場合は大抵社長の認可が必要な書類の通し、もしくは他企業との会談や市議会議員等の来賓が来た際の応接の場となる程度だろう。

 しかし、この場には明らかに1人だけ不釣り合いな人間がいる。現在この社長室に居る人間は3人――1人はレオ・コーポレーションの社長である赤馬零児。その社長補佐である大柄なスーツ姿の男性、中島。そして最後にこの場にそぐわない人間――橘田龍姫。

 デスクを挟んで社長の前にいる龍姫は普段と同じように、冷たく静かな雰囲気。だが彼女とは対照的にデスク脇にピッと背筋を伸ばして直立している中島の表情は険しく、どこか物々しい雰囲気を(かも)し出している。そして零児はと言うと特段雰囲気に変化がある訳ではなく、よく塾内で見かける毅然とした表情。

 龍姫は数時間前に零児から話があると呼び出されこの社長室にいるのだが、何故か一向に話を始める気配がないので内心で困り果てている。何かやらかしてしまったのか、はたまた先日勝手に遊勝塾でデュエルしたことがバレたのか、それとも以前陳情したカードの価値分D P(デュエルポイント)を請求されるのかと、気が気でないのだ。それを顔に出さないように心の奥底で焦っていると、デスク脇に居た中島がコホンっと軽く咳払いし、沈黙を破るように口を開く。

 

「橘田龍姫、君は何故この場に呼ばれたか分かるか?」

「…いえ、わかりません……」

「…だろうな。逆に分かっていても困るのだが――まぁ良い、君をここに呼び出した理由を話そう。橘田龍姫、君のエクストラデッキのカードを全て回収させてもらう」

「…………えっ…」

 

 一瞬、龍姫は何を言われたのか分からず、普段からは想像もつかない素っ頓狂な声をあげた。数秒の間呆け、そしてその意味を理解するとまるで《轟雷帝ザボルグ》を2回召喚され、その効果でエクストラデッキを全て破壊されたように絶望の表情を浮かべる。

 普段の冷淡な顔からは考えられない龍姫の表情を見て零児は内心珍しい顔を見ることができたと思ったが、すぐに補足するように言葉を付けたす。

 

「勘違いしないで欲しい。これは先日分かったことなのだが私が君に渡したカード、及び君が使用した融合・シンクロ・エクシーズモンスターカードに不具合が見つかったため、それを回収し調査するだけのことだ」

「……使用していても特に問題はなかったのですが…」

「それはあくまでも君の個人的な印象だ。現にレオ・コーポレーション内で保存されている君のデュエルの記録では異常が見つかっている。それに君のカードを一時的に預かるだけで、その間君には同名のカードを賃与すると約束する――理解はできるな?」

「…はい、わかりました……」

 

 あまり納得できるような説明ではなかったが相手は自分よりも格上の存在。下手に駄々をこねても龍姫自身の立場を悪くするだけであり、何より以前カードを賞与してもらったので強く反論することもできない。龍姫は渋々手持ちのエクストラデッキのカード全てをその場で取り出し、脇に居た中島が手を差し出したのでそのまま手渡す。

 

「理解が早くて助かる。残りのカードは近日中にLDS内のショップで返却するように。また、カードもそこで受け取りたまえ」

「…わかりました」

「話は以上だ。あとは下がってくれ」

「…失礼します……」

 

 腑に落ちない、という表情をしつつも龍姫はそのまま踵を返して零児達に背を向ける。そしてそのまま扉の方へ向かい、完全に社長室を出たところで中島がふぅ、と息を溢した。

 

「全く、人騒がせな召喚反応を……」

「そう言うな中島。彼女は我々の目論見を知らないのだ。デュエリストにデュエルで手加減をしろと言う方が無粋だろう」

「しかし社長、あそこまで巨大な召喚反応を常々出されていては襲撃犯の捜索に不具合が――」

「そのためのレプリカだ。アレならば召喚反応のエネルギーは格段に落ちる――襲撃犯の捜索に支障をきたすこともあるまい」

「…確かに、その通りです」

「これで憂いはなくなった。以後、襲撃犯の捜索により一層力を尽くせ」

「ハッ、承知致しました。制服組にもそのように通達しておきます」

 

 中島はそう言うとそのまま龍姫と同じように社長室を後にする。1人残った零児は手元のPCを軽く操作し、立体投影ディスプレイに1つの画面を映し出す。内容は先日龍姫が遊勝塾でデュエルした際の召喚反応のエネルギーと、彼女のデュエルディスクに記録されているデュエルの内容。

 召喚反応は各コースのエリートに劣らない程巨大なものだが、ラストターンで検出された融合召喚に限り今までとは桁違いの数値。一体何をどうしたらここまでのエネルギーが出るのかと零児は疑問に思ったものの、レオ・コーポレーションに転送された龍姫のデュエル記録を見て納得した。

シンクロモンスターとエクシーズモンスターを素材に融合召喚――それに加え融合召喚されたモンスターも極めて高レベル。ここまでの条件が揃っていてはあの桁違いな召喚反応にも合点がいく。

 だがその所為で一時は巨大な召喚反応が遊勝塾周辺に出たことで制服組を急遽向かわせたが、原因が分かるや否やとんだ無駄足に終わった。LDS襲撃犯を捜索している上層部からしてみれば迷惑以外の何ものでもなく、仕方なくという形で零児は龍姫にレプリカのカードを渡したのだ。本来ならば贋作ではなく本物のカードを使わせるべきなのだが、いかんせんLDS襲撃犯の捜索に彼女のデュエルで発生する召喚反応エネルギーは紛らわしい。せめてこの件が落ち着くまで龍姫にはレプリカのカードで我慢してもらうことに彼は僅かながら罪悪感を覚えた。

 しかしこれで憂いはなくなり、零児は椅子を半回転させて体を窓の方へと向けてふぅと息を溢す。そして龍姫のあの冷淡な表情とそれに見合わない剛胆なプレイングを思い出しつつ、静かに今の心境を口から溢す。

 

「……橘田龍姫、君はどこまでも私を驚かせてくれる…」

 

 そう零児が呟き外の様子を何気なく見ると、レオ・コーポレーションの入口にふと気になるものが映った。そこには先ほど社長室を訪れていた龍姫と、ジュニアユース部門各コース首席の北斗・真澄・刃の3人の姿。彼ら4人はその場で軽く話をすると、そのまま何処かへ歩を進めていく。

 先日の1件があったので彼ら4人が共に行動することに何ら不思議なことはないのだが、零児はデュエスト特有の第6感で何とも言いえない不安を感じる

 

(あの4人……何かおかしなことをしなければ良いのだが…)

 

 だがそんな零児の不安など露知らず、4人は仲睦まじ気にそのまま舞網市内の中心部の方へ向かって行った。

 

 

 

――――――――

 

 

 

「へぇー、んじゃ社長の呼び出しってのは、ただのカードの交換か」

「良かったじゃないか龍姫、社長からのお咎めじゃなくて」

「…元から怒られるようなことはしていない……」

 

 いつもの4人――龍姫・真澄・北斗・刃は縦横2列に並んで舞網市内の中央通りを歩いていた。今日は4人で(くだん)のLDS襲撃犯の捜索をすることになっていたのだが、朝になって龍姫が零児に呼び出されたため残った3人は一時レオ・コーポレーション入口で待機。用事が終わった龍姫を迎えて改めて襲撃犯捜索のために歩を進める。その最中に龍姫は零児の用件を軽く説明したが、社長直々の呼び出しだったので面白い話を期待していた刃にとっては拍子抜け、北斗に至っては以前龍姫が零児に陳情した高額カードの件で叱責されると予想していただけに、わざとらしく皮肉った。だが龍姫はそんなことは気にするような性格ではなく、前方を歩く2人の言葉を軽く流して隣に並ぶ真澄の方へと顔を向ける。

 

「そういえば真澄、今日はどう探すの?」

「そうね……まだ詳しくは決めてないけど、どうしようかしら?」

「昨日は各自で探して、一昨日は2人1組、3日前――龍姫がいない時は纏まって捜索したからなぁ…」

「効率を考えて各自で探すか、安全を考えてペア以上で纏まって行動するか――それとも別の方法で探すか…」

 

 うーん、と4人は歩きながら首を捻る。前回、前々回、前々々回と探し方を変えてはみたが成果はなし。単純に運が悪かっただけか、それとも単純に見落としがあったか。どちらにせよ襲撃犯の姿はおろか、手掛かりさえ掴めていない。幸いあれから被害者は出ていないものの、それでも行方不明になった融合コースの講師、マルコに関する情報すら得ていないことに4人は少しばかり焦りを感じる。

 効率を考えると各自個別に舞網市内を捜索した方が良いのだが、もしもの時の安全性を考慮すると最低でも2人1組で行動はしたい。それか対襲撃犯を想定したバトルロイヤルルール下での《セイクリッド・プレアデス》2体、《XX-セイバー ガトムズ》、《XX-セイバー ヒュンレイ》、《竜姫神サフィラ》、《氷結界の龍トリシューラ》によるバウンス・ハンデス・バック破壊・除外のコンビネーションコンボをいつでも使えるように4人で纏まっておくべきか――

 

 一向に良案が出ないまま、一行はそのまま舞網市内の公園付近まで辿り着いた。そこでふと龍姫が公園の中へと目を向けると、そこにはデュエルディスクを付けてスタンディングデュエルをしている小学生が2人に、それを観戦している同級生かクラスメイト、もしくは同じ塾生が5~6人程。遠目からだが、デュエルは接戦のようで観戦者からは『頑張れー!』や『もう少しで勝てるよ!』、『今はまだ君が動く時ではない』といった声援が絶え間なく送られている。そんな光景を龍姫が微笑ましく(恐ろしく冷たい目で)見ていると、不意に脇腹を隣に並んでいた真澄に肘で小突かれた。

 

 

 

「こら。今はデュエルを見ている場合じゃないでしょ」

「…ごめん。でもあの子が使っているのは《タイガードラゴン》。普通なら《氷帝メビウス》で良いのに《タイガードラゴン》を愛用している辺り、あの子供はよくわかっている。彼はきっと将来優秀なドラゴン使いになるだろう」

「単に《氷帝メビウス》が高価で持ってないんじゃないか? きっとメビウスの代用で使いたくもない《タイガードラゴン》を仕方なく――げふぅっ!?」

 

 刹那。龍姫は無言で手刀を北斗の左脇腹に突き刺した。左足を一歩前に出して軽く腰を落とし、右腕を大きく後ろに引いて腰の回転と合わせて放たれた手刀は正確に北斗の脇腹に入り、その威力に上半身と下半身が横方向へくの字に曲がる。転倒こそはしなかったものの、打撃と刺突を併せ持ったその手刀がもたらす痛みは尋常ではなく、一瞬で彼の額に油汗が結露のように浮き出す。激痛に耐えながらもその場で脇腹を抑え、終には膝が地に着いてしまう北斗。真澄と刃そんな彼を見て僅かばかりの同情の念は送るが、今の発言は北斗の自業自得。龍姫の前でドラゴン族を低評価した方が悪いのだ。

 

「…バーカ……」

「…次は止めない……」

「いや、当ててんじゃねぇか。北斗の奴めっちゃ痛そうだし――ん?」

 

 刃は足元で(うずくま)る北斗に一度目をやり、続いて先ほど龍姫が見ていた公園のデュエルへと視線を移す。どうやらデュエルは終わったようで、先ほど《タイガードラゴン》を使っていた少年の勝ち。その結果に龍姫はどこか満足そうな表情だったが、そんなことよりも刃は公園でデュエルをしていたグループとその周囲に目を向ける。

 小学生のグループは続いて別の組み合わせでデュエルを始めるらしく、嬉々として準備を始め同グループの子供達は次のデュエルがどのようなものになるか期待の眼差しを向けていた。そしてその眼差しは子供達だけではなく、この公園に居る過半数の人間が同じ。

 デュエル、集団、眼差し――単語のピースを刃は自分の脳内で一筋の光となるように繋ぎ合わせ、ふとある考えが閃いた。

 

「待てよ――そうか、その手があったな!」

「…何か思い付いたの、刃?」

 

 流石にやり過ぎたと思い北斗を心配していた龍姫は真澄と共に刃の方へ顔を向ける。その刃はしたり顔で笑みを浮かべ、自信満々にたった今思い付いた作戦を2人(と足元で蹲っている北斗)に説明。作戦の概要を理解した龍姫は静かに頷き、真澄はやや怪訝な表情を浮かべる。北斗はまだ痛みに耐えているのでそれどころではない。

 

「その作戦は良い、私は賛成。すぐに実行しよう。早く、Hurry、マッハで」

「だろ?でもこんな街のド真ん中でやる訳にはいかねぇから、場所を変えようぜ」

「…まぁ、他に良い案が浮かばないから今回は刃の作戦に乗るわ。場所は港区の倉庫街で良いんじゃないかしら?」

「じゃあ港区に行こう。急いで。早急に。可能な限り速やかに」

「おう! おら、いつまで寝てんだよ北斗! さっさと行くぞ!」

「ま、待ってくれ…まだ脇腹が――」

 

 早足で歩く3人の背中を見ながら、北斗は文字通り体に鞭を打って後を追う。この状態は自業自得とはいえ、まるで《ホルスの黒炎竜 LV8》と《D-HERO Bloo-D》と《王宮のお触れ》が相手フィールドに並んでいるくらい理不尽だと思いながら、痛みに耐えつつその足を動かした。

 

 

 

――――――――

 

 

 

 最初はすごくビックリした。まさか朝一番で社長から『レオ・コーポレーションの社長室に来い』って連絡を受けるとは思わなかったよ。呼び出しについては心当たりが多くて、一体何について言及されるのか気が気じゃなかったし……DPの請求なのか、時間外まで無断でプラクティス・デュエルフィールドを使っていたことなのか、勝手に遊矢とデュエルしたことなのか――どの件で言及されるのかとビクビクして社長室に入っても、しばらく社長と中島さんは無言を貫くし。あまりにも無言状態が続くものだから(無言の手刀)が飛んでくるんじゃないかって、余計な不安を感じていたところで中島さんと赤馬社長からやっと説明が入った。

 要約すると『お前のエクストラのカード、エラーカードだから全部正規品と取り替えろ』とのこと……えっ、別に使っていても特に違和感とかないんですけど。デュエルディスクだってきちんと反応してるし、デュエルには何の支障もないし、別に良いじゃないですかー!

 と、内心で猛反発していたところで社長から『良いからはよ交換しろ』(※私の解釈)と催促。うぅ、しがない非力な塾生の私が社長に抵抗できないのを良いことに……これが権力ってやつか。まぁ交換程度なら別に構わないんですけどね!

 ――そう思っていた私が馬鹿でした。いざLDS内のショップで事情を話してカードを受け取ると、そこで明かされる衝撃の真実。なんとエクストラのカードが全てノーマル仕様になっていた。どういう…ことだ…? 何でわざわざウルトラレアからノーマルに――ハッ! まさかドン・サウザンドが書き換えた…? おのれドン・サウザンド!絶対に許さん!

 

 まぁ入口で待ってもらった真澄達と合流した途端にそんなことは忘れちゃったんだけどね! で、今日の私は真澄達と例の襲撃犯の捜索。ここ最近ずっと市内を探してるんだけど、全くと言って良いほど見つからない。まさか手掛かりの1つすら掴めないなんて――No.同士が惹かれ合うみたいに簡単には見つからないのかな?

 そんなアホなことを考えながら私達4人で今日はどうやって探すか話しながら歩く。前は各自、2人1組など効率や安全を考えながら捜索していたけど、よからぬ結果に。私は正直どれでも良いんだけど、強いて言えば真澄抜きで編み出したバトルロイヤルルールのコンボのために纏まって探したい。

 まず北斗が《セイクリッド・シェアト》を特殊召喚し《セイクリッド・ポルクス》を召喚する。ポルクスの効果でさらに手札から《セイクリッド・グレディ》を召喚し、グレディの効果で《セイクリッド・カウスト》を特殊召喚してモンスターを4体展開。カウストの効果でカウスト自身とグレディのレベルを5にして《セイクリッド・プレアデス》をエクシーズ召喚する。次いで《スター・チェンジャー》でポルクスのレベルを1つ上げてシェアトの効果でポルクスと同じレベル5に。ポルクスとシェアトで2体目のプレアデスをエクシーズ召喚。

 次に刃が手札から《XX-セイバー ボガーナイト》を召喚し、その効果で手札から《X-セイバー パロムロ》を特殊召喚する。フィールドに『X-セイバー』が2体以上いることで手札から《XX-セイバー フォルトロール》を特殊召喚。ボガーナイトとパロムロで《X-セイバー ウェイン》をシンクロ召喚し、シンクロ召喚成功時の効果で手札から《XX-セイバー フラムナイト》を特殊召喚する。フォルトロールの効果でパロムロを墓地から特殊召喚し、ウェインとパロムロで《XX-セイバー ヒュンレイ》をシンクロ召喚し、その効果で相手のバックを可能な限り破壊。フォルトロールとフラムナイトで《XX-セイバー ガトムズ》をシンクロ召喚し、このタイミングで襲撃犯の場にモンスターが居れば北斗のプレアデスでバウンスする。そしてガトムズの効果でヒュンレイをリリースしてハンデスし、《ガトムズの緊急指令》をセットして次弾装填。

 最後に私が手札から《聖刻龍-トフェニドラゴン》を特殊召喚し、《祝祷の聖歌》で手札のレベル6聖刻龍をリリースして《竜姫神サフィラ》を儀式召喚する。リリースされた聖刻モンスターの効果でデッキから《ガード・オブ・フレムベル》を特殊召喚し、トフェニをリリースして手札から《聖刻龍-アセトドラゴン》をアドバンス召喚。トフェニの効果でデッキから《アレキサンドライドラゴン》を特殊召喚し、アセトの効果で自身のレベルを《アレキサンドライドラゴン》と同じレベル4に。そしてレベル4の《アレキサンドライドラゴン》とアセトにレベル1の《ガード・オブ・フレムベル》で《氷結界の龍トリシューラ》をシンクロ召喚。このタイミングで北斗がプレアデスの効果を使って相手のカードをバウンスし、私はトリシューラの効果で手札・場・墓地のカードを3枚除外する。で、まだ相手に手札が残っていればサフィラの効果でさらにハンデス。これで相手の手札・場は焼け野原と化す。このコンボを初手で揃えるために何度ドロー特訓をしたことか…。

 正直、イジメレベルの鬼畜コンボだけど相手が襲撃犯ならこれぐらいやっても罰は当たらないと思う。むしろそれぐらいやらなきゃ私らの怒りは収まらない!バウンスしても(ぶっ倒しても)ハンデスしても(ぶっ倒しても)除外しても(ぶっ倒しても)!襲撃犯には私達の友達を泣かせた罪を償わせてやるんだ!流石にこの鬼畜コンボを食らえばダメージを抑える墓地発動の罠カードや、手札1枚でエクシーズ召喚するカードさえ使われなければほぼ勝てる!それに相手が《究極恐獣》や《バーサーク・デッド・ドラゴン》みたいな全体攻撃効果や、《偉大魔獣ガーゼット》や《クリアー・バイス・ドラゴン》みたいな脳筋効果じゃなければ問題ない。流石にそんな強力モンスターが居る訳がないしね!

 今考えればふつくしいコンボだ……沢渡を練習台に何度も練習した甲斐があったよ。ありがとう沢渡、お母さんに次の市長選で沢渡のお父さんに投票してくれるようにお願いしておくね!

 

 そんな完璧なコンボを思い返していると、ふと公園内でデュエルしている子供達を発見。使っているカードに《タイガードラゴン》の姿が――少年、良いセンスだ。《氷帝メビウス》で充分なこの時代にあえてそのカードを使う心意気、感動した! 君はよくわかっている、メビウスは確かに汎用性の面では優秀だけど、守備力が1000と少し物足りない。だけど《タイガードラゴン》は守備力1800と並の下級モンスターのアタッカーと同じ数値。フリーチェーンの《重力解除》や《エネミーコントローラー》等のカードで表示形式を変更されても生き残る可能性が僅かにある――少年、きっと君は良いドラゴン使いになるだろう。昔の私も君みたいなデッキだったよ!私にも覚えがある。

 うんうん、と感心していたら真澄から(無言の肘打ち)を食らった。痛くない。流石真澄、優しい。そして怒られちゃったけど、別に良いもん! 真澄のメッ! って可愛い顔見れたし!そのことで私が内心ほっこりしていると、北斗の『使いたくもない』の一言でイラっときた私は(無言の手刀)を全力で叩き込んでやった。スカっとしたぜ! ――って、思っていたらあまりの痛さに身を屈める北斗……あ、北斗ごめん。まさかそこまで痛がるとは思わなかった……それか途中で刃が『やめろ龍姫』って言って(無言の手刀)を止めると思ったの。だから私は悪くない! ――ごめん、嘘です。本当に痛そう…ちょっとハリキリ過ぎちゃった、ごめんなさい。今度何でも好き食べ物奢るから許して!

 そう私が北斗のことを心配していると刃が脳内にカン☆コーンと閃いたようで、今日の襲撃犯捜索の作戦を思い付いたらしい。そこで刃が考えた作戦の大まかな内容を私と真澄(と蹲っている北斗)に説明――うん、うんうん、なるほど。それは良い作戦だよ刃!流石LDSジュニアユース部門シンクロコースの首席…! 蟹さんのように頭の回転が早く、こういう作戦を瞬時に思い付く辺り素晴らしいね!この作戦に異論なんて全くない! 大賛成の私はもうさっさとその作戦を実行に移したいよ!さぁ急ぐよみんな!何だったら走っても良いくらい! ほら、もっと早く疾走(はし)れー! 北斗もいつまで蹲ってるのさ! あの程度でダウンするなんてそれでもデュエリストなの! え、脇腹? 知らん、そんなことは私の管轄外だ。

 

 

 

――――――――

 

 

 

 舞網市港区の倉庫街に4人は無事到着。脇腹を抑えながら何とか付いてきた北斗も時間の経過と共に脇腹の痛みが治まったのか、普段通りのやや高慢な雰囲気に戻る。まず4人はそれぞれ周囲を軽く散策し、人が隠れられそうな場所を探した。倉庫と倉庫の間の狭い通路、無造作に開かれた廃棄コンテナ、トラックの荷台など候補が3つほど。途中、龍姫が『No.34』と書かれた倉庫を見て『テラバイト先生!?』と内心驚いて固まっていたが、そんな龍姫を真澄が無理矢理連れて行き、再び4人で集まって作戦の再確認を行う。

 

「――よし、んじゃあ俺は廃棄コンテナの中。北斗はトラックの荷台でそれぞれ待機」

「私と真澄はこの通りでデュエルをする…」

「LDSの塾生がデュエルしているとなれば襲撃犯は私達に近付くかもしれない――考えたわね、刃。こっちから探すんじゃなくて、逆にあっちを(おび)き出すなんて」

「あぁ、けどこれは龍姫が公園のデュエルに夢中になっていたから思い付いたんだよ。デュエルをすれば人はそれを観に来る――だが、俺らLDSが目立つ所でデュエルしていちゃ襲撃犯のヤロウはそう簡単には姿を現さない。なら逆に人目の少ないところで、かつ少数ならホイホイ誘い出せるって訳だ」

「なるほど…まさか龍姫、あの公園のデュエル見学でそこまで考えて…!」

「………当然…」

 

 口調と顔はいつも通り冷淡に、しかし内心では『ちげーよ北斗』と震えながらも龍姫は自信あり気にそう答えた。その普段と同じ振る舞いに3人は《神の宣告》、《神の警告》、《激流葬》、《大革命返し》、《ブレイクスルー・スキル》のセットカードが揃っている程の安心を感じる。まさかあの公園でのデュエル見学でこの作戦発案を思い付かせるとは――やはり単独で融合・儀式・シンクロ・エクシーズを使う奇想天外さは伊達ではないと、刃は改めて龍姫の底知れぬ思考に慄いた。そして4人は改めて作戦の最終確認を行う。

 

 作戦は大まかに説明するとこうだ。

・龍姫と真澄がこの人気(ひとけ)のない港区の倉庫街でデュエルをする。

・デュエルの間、北斗と刃は身を隠す。

・LDSの各コースのジュニアユース部門トップ同士がデュエルしているとなれば襲撃犯はそれに誘い出される。

・襲撃犯の姿を確認したところで北斗と刃がLDSへ連絡し、襲撃犯が逃げられないように退路を塞ぐ。

・襲撃犯をデュエルで拘束する(LDSから増援が来るまで)。

 この方法ならば仮にデュエル中の龍姫や真澄に危害が及びそうになっても、隠れていた北斗か刃がすぐ救援に向かうことができ、さらにLDSへの連絡も迅速に行うことが可能。まさに完璧の布陣――さながら《マジック・キャンセラー》、《人造人間-サイコ・ショッカー》、《エンジェルO7》、《大天使クリスティア》、《異星の最終戦士》が場に並んでいる程の盤石な体制である。

 作戦を再確認すると、龍姫は懐からデュエルディスクを取り出し腕に装着。準備は整ったと言わんばかりに真澄の方へ目を向けた。

 

「早速始めよう。作戦とはいえ不本意だけど、デュエルするしかない。本当に残念。仕方ない。だから早くやろう」

「素直にデュエルができて嬉しい癖に…」

「まぁ最近はシングルでやってなかったからな。んじゃ、本気でやってくれよ真澄、龍姫。でなきゃ襲撃犯の野郎を誘き出せないかもしれねぇ」

「当然」

「アンタ達もしっかりやりなさいよ?ほら、さっさと荷台とコンテナの中に隠れるのよ」

「わかっているさ。危なくなったらすぐに大声を出すんだ真澄、龍姫」

「ちゃんとわかっているわよ、ねぇ龍姫?」

「当然。だから早くデュエルしよう」

 

 本当にデュエルが好きな奴だなと、刃と北斗は苦笑しつつもそう思う。彼らは一度2人に軽く目配せし、サムズアップしてそれぞれの持ち場へと向かった。刃は廃棄コンテナの中、北斗はトラックの荷台へ。

 そして龍姫と真澄は一定の距離を取ると、腕に付けたデュエルディスクを展開。作戦とは言え、デュエルはデュエル。全力でやらねば相手はもちろんのこと、デュエルモンスターズに対しての無礼だ。お互いにそのことを理解しており、2人の目は真剣そのもの。両者共にデッキからカードを5枚引き、デュエルの準備を整えた。示し合わせた訳でもなく、互いに一拍置いてから高らにデュエルの始まりを発する。

 

「デュエル」

「デュエル!」

 

 

 

――――――――

 

 

 

「私の先攻。まずは手札から儀式魔法《高等儀式術》を発動する。手札の儀式モンスター1体を選び、そのモンスターのレベルと等しくなるようにデッキから通常モンスターを墓地に送ることで、選んだ儀式モンスター1体を特殊召喚する」

 

 いつもの専用儀式魔法ではなく聞き覚えのない儀式魔法に真澄は目を細めるが、その効果を聞いて納得した。普段であれば《祝祷の聖歌》で『聖刻モンスター』をリリースすることで儀式召喚し、『聖刻』モンスター共有のリリースされた時の効果でモンスターを展開。そこからシンクロ召喚やエクシーズ召喚に繋げるのが龍姫の基本戦術であるが、今回はデッキに重点を置いた。

 確かにモンスターの展開も戦術としては非常に有効ではあるが、何も展開するだけがデュエルではない。展開すればする程カードの消費は増え、防御札を満足に用意することができない可能性もある。またデッキの通常モンスターに限れば手札に抱えても余らせてしまうことは多々あるので、それを直接引かずに墓地へ送ることができれば魔法・罠カードを引く確率は多少上がるだろう。それに上級通常モンスターの場合を引いた場合は目も当てられない状況になってしまうことは真澄自身も《ジェムナイト・クリスタ》で経験しており、僅かな手札事故を回避するためにもこの戦術は正しいのだ。むしろ能動的に通常モンスターを選んで墓地に遅れる点で真澄は羨ましくさえ思う。

 

「私は手札のレベル6・儀式モンスターの《竜姫神サフィラ》を見せる。そしてデッキからレベル6・通常チューナーモンスターの《ラブラドライドラゴン》を墓地に送ることで、《竜姫神サフィラ》の儀式召喚を執り行う――祝福の祈りを奏で、聖なる歌で光を導け! 儀式召喚! 光臨せよ、《竜姫神サフィラ》!」

「来たわね、龍姫のエースモンスター…!」

 

 普段のように6本の光が降り注ぐソリッドビジョンではなく、龍姫のフィールドの地面に突如として緑色に輝く魔法陣が出現した。黒く濁った虹色の鱗を持った竜《ラブラドライドラゴン》がその魔法陣の中に光の粒子となって吸い込まれる。

 いつもは天空から神々しい光と共に現れるサファイアブルーの鱗を持った竜人型モンスターの《竜姫神サフィラ》が、今回は地面から樹木の生長ように現れた。しかし普段の神々しさは変わらず、その後ろ姿を見て龍姫は冷淡な表情を浮かべつつも内心では満足気だ。

 そしてこれだけはまだ終わらないと言わんばかりに龍姫は残った3枚の手札の1枚へと指を伸ばし、そのカードをモンスターゾーンへと慣れた手つきで置く。

 

「手札から《ドラゴラド》を召喚。このカードが召喚に成功した時、墓地から攻撃力1000以下の通常モンスター1体を守備表示で特殊召喚する。私は墓地より攻撃力0の《ラブラドライドラゴン》を特殊召喚。そして特殊召喚された《ラブラドライドラゴン》を墓地に送り、魔法カード《馬の骨の対価》を発動する。私の場の効果モンスター以外のモンスター1体を墓地に送ることでデッキからカードを2枚ドロー」

 

 小さな体躯の可愛らしいドラゴン《ドラゴラド》が現れたと思えば、そのまま流れるように上級モンスターの《ラブラドライドラゴン》が墓地から蘇り、3秒とフィールドに滞在することなく《馬の骨の対価》のコストとして再度墓地へ送られた。

不憫な子、と真澄が思いつつもこれで龍姫の手札は3枚。カードアドバンテージ的にはサフィラを儀式召喚した時と同じ手札枚数であり、違う点はフィールドに《ドラゴラド》が居ること。しかし今回は『聖刻』モンスター特有の自身の特殊召喚・妥協召喚は通常召喚権を使った今ではさらなる展開は不可能。ここからシンクロ召喚やエクシーズ召喚に繋げられることはないだろうと思っていた――

 

「ライフを1000支払い、《簡易融合》(インスタントフュージョン)を発動。エクストラデッキからレベル5以下の融合モンスター1体を融合召喚扱いで特殊召喚。ただし、この効果で特殊召喚したモンスターはこのターン攻撃できず、エンドフェイズに破壊される……現れよ、レベル4《暗黒火炎龍》」

「――っ、」

 

 ――が、その予想は早くも裏切られる。ライフポイントの4分の1を犠牲にして発動できる《簡易融合》の存在は知っていた。自身の在籍する融合コースの中でも通常の融合召喚で行うカードの消費をかなり抑えるため、効果は強力。ただしレベル5以下・攻撃不可の条件から融合コースの生徒からもライフポイントの4分の1を払ってまで使う必要はないと軽視されていた。

 だが龍姫が使うとなるとその用途は大きく広がる。普段のシンクロ・エクシーズはもちろんのこと、先ほど使った魔法カード《馬の骨の対価》の条件を満たしたモンスターを、通常召喚権を温存した状態で使えるならば手札交換用に採用する価値はあるのだろうと真澄は思った。そして龍姫の場にレベル4のモンスターが2体揃った――この状況ならば、あの少々面倒なモンスターが出るのだろうと察する。

 

「…私はレベル4の《ドラゴラド》と《暗黒火炎龍》でオーバーレイ。2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築――竜弦を響かせ、その音色で闇より竜を誘え! エクシーズ召喚! 降臨せよ、ランク4! 《竜魔人 クィーンドラグーン》!」

 

 今度は予想通りといった形ではあるものの、真澄の表情は険しい。本来ならば真っ先に《竜姫神サフィラ》を倒したいところだが、自身以外の自軍ドラゴン族に戦闘破壊耐性を付与させる《竜魔人 クィーンドラグーン》の存在で余計にアタッカーを出さなければならない。攻撃力は2200とさほど高くはないが、それでも上級モンスター並のステータスのモンスターを出さなければ突破できないのだ。また、それだけではなく――

 

「……オーバーレイ・ユニットを1つ使い、クィーンドラグーンのモンスター効果を発動。墓地のレベル5以上のドラゴン族1体の効果を無効にし、このターンの攻撃不可の条件で特殊召喚する。蘇れ、レベル6《ラブラドライドラゴン》」

 

 ――この展開補助能力も厄介だ。もし墓地に『聖刻』モンスターが居て、手札に特殊召喚できる『聖刻』モンスターが居ればさらにフィールドは厄介なことになっていたことは想像に難くない。クィーンドラグーンの効果対象が通常モンスターの《ラブラドライドラゴン》であったことは幸いだろう(守備力2400は中々に面倒ではあるが)。

 

「カードを2枚伏せてエンドフェイズに移行。ここで《竜姫神サフィラ》の効果が発動する。このカードが儀式召喚に成功したターン、もしくはデッキ・手札から光属性モンスターが墓地に送られたターンのエンドフェイズに3つの効果から1つを選択して発動。私は''デッキからカードを2枚ドローし、1枚捨てる''効果を選択。デッキからカードを2枚ドローし、その後1枚捨てる――私はこれでターンエンド」

「…私のターン、ドロー」

 

 ドローカードに目を配り、それをそのまま手札に加えて真澄は状況を確認する。今の龍姫のモンスターは《竜姫神サフィラ》と《竜魔人 クィーンドラグーン》、《ラブラドライドラゴン》の3体で、セットカードは2枚。手札は先のドロー効果で補充したが僅か1枚――いつものように展開しつつ、今回は防御(バック)も十全。セットカードが怖いが、何度もデュエルしている経験から龍姫はモンスター除去のカードをほとんど入れていないことはわかっている。となると伏せカードはドラゴン族のサポートカード、もしくは汎用性のある防御系だろうと察した。

 そして自分の手札を改めて見る。一応は動けるものの、この程度の攻めでは龍姫の牙城を崩すことは難しい。ならばここは自分のドロー力を信じ、多少無理をしてでも徹底的に攻め込もうと手札のカードに指をかける。

 

「手札から魔法カード《吸光融合(アブソーブ・フュージョン)》を発動よ。デッキから『ジェムナイト』カードを1枚手札に加えるわ。私はデッキから《ジェムナイト・フュージョン》を手札に。このカードを発動したターン、私は『ジェムナイト』モンスターしか特殊召喚できない――そして手札から《ジェムレシス》を召喚。このカードが召喚に成功した時、デッキから『ジェムナイト』モンスター1体を手札に加えることができる。私はデッキから《ジェムナイト・オブシディア》を手札に加えるわ」

 

 魔法、効果モンスターの効果で状況に適したカードをデッキから手札に加える真澄。その様子を今はただ静観するしかない龍姫は何も行動は起こせないが、どの融合モンスターが呼び出されるのかと心の中では緊張感が張り詰めている。何度もデュエルしている相手だからこそある程度の戦術は予想できるが、下手をすれば1ショットkillをされかねない。そんな緊張感を持ち龍姫はどの融合『ジェムナイト』モンスターが来るのかと身構えた。

 

「さぁ、行くわよ――私は手札から魔法カード《ジェムナイト・フュージョン》を発動! 手札・フィールドから『ジェムナイト』融合モンスターによって融合素材モンスターを墓地に送り、その融合モンスター1体を融合召喚する! 私は手札の《ジェムナイト・ガネット》と《ジェムナイト・オブシディア》を融合! 紅の真実よ、鋭利な漆黒よ! 光渦巻きて新たな輝きと共に1つとならん!」

 

 真澄のフィールド上空に真紅の炎を纏った騎士《ジェムナイト・ガネット》と黒曜の数珠をその身にかけた騎士《ジェムナイト・オブシディア》が一瞬ソリッドビジョンとして映し出される。融合モンスターを融合召喚する独特の赤と緑光が渦巻き、《ジェムナイト・ガネット》と《ジェムナイト・オブシディア》がその光の中へその身を投じ、新たな光が強く輝く。そしてその光の中から青い衣を背に、真紅の鎧と紅蓮の槍を持った騎士がその姿を現した。

 

「融合召喚! 現れよ、熱情の求道者! 《ジェムナイト・ルビーズ》!」

「《ジェムナイト・ルビーズ》…」

 

 融合召喚された《ジェムナイト・ルビーズ》の姿を見て、龍姫は僅かに眉を(ひそ)める。効果を持った『ジェムナイト』融合モンスターの中では第2位の攻撃力2500を誇り、その効果も実に攻撃的なものだ。また、状況的にも考えられる一手ではある。だが、龍姫の注意は《ジェムナイト・ルビーズ》ではなく墓地に送られた方のカードに向かう。

 

「ここで融合素材として墓地に送られた《ジェムナイト・オブシディア》のモンスター効果発動!このカードが手札から墓地に送られた場合、私の墓地からレベル4以下の通常モンスター1体を私の場に特殊召喚する! 私は同じく融合素材として墓地に送られた通常モンスター、《ジェムナイト・ガネット》を特殊召喚!」

「……場には《ジェムレシス》と《ジェムナイト・ガネット》。そして墓地に『ジェムナイト』モンスターと《ジェムナイト・フュージョン》…」

「何度もデュエルをしているだけわかっているわね――と言いたいところだけど今の私の手札では攻め切れない。だからここは一旦ドローに賭けるわ。私は場の《ジェムナイト・ガネット》を墓地に送り、手札から魔法カード《馬の骨の対価》を発動。さっき龍姫も使ったから説明は不要ね。デッキからカードを2枚ドローよ」

 

 颯爽と場に現れた《ジェムナイト・ガネット》だったが、その姿は10秒と保たずにフィールドから姿を消す。その身を魔法カードと共に2枚のドローカードへと捧げ、その2枚を見た瞬間真澄の口端が僅かに吊り上がった。

 この手札であれば牙城を崩すどころか、《簡易融合》を使用し残りライフが3000しかない龍姫のライフを削り切れると確信する。真澄は不敵な笑みを浮かべつつ、指先をデュエルディスクのウィンドウにタッチし、そのプレイングを実行に移した。

 

「私は墓地の《ジェムナイト・フュージョン》のさらなる効果を発動。墓地の『ジェムナイト』モンスター1体をゲームから除外することで、墓地のこのカードを手札に加える。私は墓地の《ジェムナイト・オブシディア》をゲームから除外し、《ジェムナイト・フュージョン》を手札に加えるわ」

 

 先ほどの龍姫の呟きを体現するかの如く、真澄は予想通りと言わんばかりにその呟きの続きをプレイングで示す。後攻の6枚スタートの手札は融合召喚で3枚にまで減った筈だが、それがドローカードと自己回収効果を持った《ジェムナイト・フュージョン》によって手札は5枚。

融合モンスターと下級モンスターがフィールドに存在しつつ、何故まだ5枚も手札があるのだと龍姫は(自分のことを棚に上げながら)目を細める。尤も当の真澄はそんな龍姫の内心などお構いなしに次の一手のために再度手札の魔法カードを手に取った。

 

「もう1度行くわよ、手札から《ジェムナイト・フュージョン》を発動! 手札の《ジェムナイト・ラピス》と《ジェムナイト・ラズリー》を融合! 神秘の力秘めし碧き石よ、今光となりて現れよ! 融合召喚! レベル5、《ジェムナイトレディ・ラピスラズリ》!」

 

 再び真澄のフィールドに瑠璃色の光が渦巻き、少女のような2体の宝玉が1つとなる。一瞬、激しい光が走った途端、その光の中から瑠璃色の装いの少女の人形《ジェムナイトレディ・ラピスラズリ》が姿を現した。

 そのモンスターを目にした途端、龍姫は内心で酷く顔を歪ませる。表面上はいつもと同じ冷淡なそれであるため真澄には気付かれないが、実際は《ジェムナイトレディ・ラピスラズリ》の登場で少し焦っていた。一応対策手段こそはあるものの、こんな序盤で出されるとは思わなかったのだ。セットカードは別の『ジェムナイト』融合モンスター対策に伏せていたが、まさかこっちを相手に使わせられることは完全に予想外だった。

 

「融合素材として墓地に送られた《ジェムナイト・ラズリー》のモンスター効果発動。このカードがカード効果で墓地に送られた場合、墓地の通常モンスター1体を手札に加えることができる。私は墓地の《ジェムナイト・ラピス》を手札に。そして《ジェムナイトレディ・ラピスラズリ》のモンスター効果を発動! 1ターンに1度、デッキ・エクストラデッキから『ジェムナイト』モンスター1体を墓地に送り、場の特殊召喚されたモンスターの数×500倍のダメージを相手に与える!」

「――っ、罠カード《ダメージ・ダイエット》を発動…! このターン、私が受けるダメージを全て半分にする…!」

 

 真澄に流されるままにされてたまるものか、と龍姫は精一杯の抵抗をセットカードで示す。表情は相変わらず冷淡なそれだが、心の内では滝汗を流していた。

 今フィールドに存在する特殊召喚されたモンスターの数は5体。このままでは2500もの効果ダメージを受けることになるが、素直に受けては龍姫の残りライフは僅か500になってしまう。場に居る3体は自分で場に出したモンスターだが、それを逆に利用する真澄の強かさに龍姫は感服する。

 

「あら残念、通っていれば1ショットkillができたのに」

「…そう簡単に1ショットkillされたら困る……」

 

 その真澄は口では残念と言う割に、表情からはそういった印象は微塵も感じられない。精々、サイクサイク大嵐が通れば良いくらいの表情だ。

 対して龍姫も極力涼しい顔をしているものの、内心では『ジェムナイト』の1ショットkill豊富さ、そしてそれを難なく、かつ躊躇いもなく使う真澄に恐怖を感じている。いつもなら《ジェムナイト・プリズムオーラ》辺りで除去し、そこから戦闘ダメージでの決着を狙って来る筈だが、今回はまさかの効果ダメージ。やはりライフ4000の世界でバーン対策を多少は入れておかないとこの先生き残れないと龍姫は静かに思った。

 

「まぁ龍姫相手に素直に1killできるとは思ってないわ。効果処理を続けるわよ? 私はラピスラズリの効果でデッキに眠る2体目の《ジェムナイト・ラズリー》を墓地に送り、フィールドに特殊召喚されたモンスター数の500倍のダメージを龍姫に与える! フィールドに特殊召喚されたモンスターの数は5体! よって2500のダメージを――って言いたいところだけど、《ダメージ・ダイエット》の効果で半分の1250のダメージを受けてもらうわ!」

 

 《ジェムナイトレディ・ラピスラズリ》が両手を胸の前で広げ、掌から球体状の光が龍姫へ向けて放たれる。龍姫に直撃する直前で半透明の壁のようなものがその光球を遮ろうとするが、それでも龍姫のライフポイントが3000から1750へと減少。1000ポイントは自分で支払ったものの、よもや2ターン目でライフが半分になったことに龍姫は少しばかり気を落とす。

 

「そして《ジェムナイトレディ・ラピスラズリ》の効果で墓地に送られた2体目のラズリーの効果も発動。墓地の通常モンスター、《ジェムナイト・ガネット》を手札に加える。さらに墓地のラズリーをゲームから除外し、再び墓地に存在する《ジェムナイト・フュージョン》の効果を手札に戻してそのまま発動!」

 

 だがそんな龍姫の心情など自分の管轄外だと言わんばかりに真澄はこのターン3度目の発動となる《ジェムナイト・フュージョン》をデュエルディスクにセット。

先の2回の融合召喚に使用された《ジェムナイト・ガネット》と《ジェムナイト・ラピス》が真澄の真上にソリッドビジョンで現れ、紅色と瑠璃色の光となって渦巻きその身を1つにする。

 

「紅の真実よ、碧き秘石よ、今1つとなりて新たな光を生み出さん! 融合召喚! 現れよ、幻惑の輝き! 《ジェムナイト・ジルコニア》!」

「……ここでジルコニア…?」

 

 内心で『ワンターンスリィフュージョン…』と龍姫が呑気に考えていた最中、本デュエル2度目の想定外の展開にボソリと呟く。

 3回目の融合召喚で現れる融合モンスターは《ジェムナイトレディ・ラピスラズリ》とガネット、ラピスを素材とした《ジェムナイトマスター・ダイヤ》だと龍姫は思っていた。素材にしたラピスラズリをダイヤの効果でコピーして効果ダメージを与え、さらにルビーズの効果でダイヤをリリースして高攻撃力で攻撃すれば真澄の1ショットkillが成立する。自分の伏せカードを警戒して攻撃モンスターを増やしたか、それとも何か別の戦術が真澄の残されている2枚の手札にあるのかと龍姫が思案する中、真澄の背後のコンテナの中から刃がひょっこりと顔を出し、口だけを動かして龍姫に何かを伝えようとしていた。

 

(龍姫、これは襲撃犯の野郎を誘き出すデュエルだ。本気で、かつ、長くやってもらわなきゃ意味がねぇんだよ)

(『龍姫、これは真澄のエンターテイィ↑メントデュエルだ。だが、しかし、まるで全然お前のプレイングでは程遠いんだよねぇ!』――なるほど、そういうことだったんだ)

 

 だが、しかし、まるで全然意見が伝わらない。龍姫は無言のまま内心でサムズアップして『うん!』と答え、刃へ小さく頷く。それを見た刃も『あぁ!』と笑顔で返す。’’不動性ソリティア理論’’講義好きな2人としてはよくこれで日常的に互いの意思が伝わっていたものの、何故かこの時ばかりは会話のドッチボールとなってしまった。

 そんな2人のやりとりを知る由もない真澄はそのまま次のプレイングへと移る。

 

「ここで《ジェムナイト・ルビーズ》のモンスター効果を発動! 場の『ジェム』モンスター1体をリリースし、リリースしたモンスターの攻撃力を自身の攻撃力に加える! 私は《ジェムレシス》をリリースし、ルビーズの攻撃力を1700アップさせる!」

「攻撃力4200…」

「これで私の場の3体のモンスターは龍姫の3体のモンスターの攻守を上回ったわ! バトル! 《ジェムナイトレディ・ラピスラズリ》で《竜魔人 クィーンドラグーン》、《ジェムナイト・ルビーズ》で《ラブラドライドラゴン》、《ジェムナイト・ジルコニア》で《竜姫神サフィラ》に攻撃!」

 

 声高らかに真澄は3体の『ジェムナイト』融合モンスターに攻撃宣言を下す。《ジェムナイトレディ・ラピスラズリ》の放つ光弾は《竜魔人 クィーンドラグーン》を飲み込み、《ジェムナイト・ルビーズ》の槍が《ラブラドライドラゴン》を貫き、《ジェムナイト・ジルコニア》の巨腕が《竜姫神サフィラ》を襲う。

 それぞれ攻撃力の差分、さらに守備表示モンスター相手との戦闘でもダメージを与えることのできる《ジェムナイト・ルビーズ》の貫通効果により、龍姫のライフは1750から一気に650ポイントにまで削られる。

また、今回召喚されたサフィラは専用の儀式魔法《祝祷の聖歌》以外での儀式召喚のため、《祝祷の聖歌》が墓地に存在するハズのない今、真澄にとってサフィラは単なる攻撃力2500のモンスター。破壊耐性のないサフィラは恐れるに足らないと思っての攻撃。しかし――

 

「サフィラとジルコニアの戦闘時、墓地から儀式魔法《祝祷の聖歌》の効果を発動。自分の場の《竜姫神サフィラ》が破壊される場合、代わりに墓地のこのカードをゲームから除外することで破壊を無効にする」

「なっ、そのサフィラは《高等儀式術》で召喚されたハズ! 墓地にあるハズが――」

 

 『ない』とまで言い切る寸前で真澄はハッと思い出した。確かにあの《竜姫神サフィラ》は《高等儀式術》で召喚された――その事実は変わらない。しかし、《祝祷の聖歌》自体(・ ・)を墓地に送る機会はあった。それも初ターンに。いつもの龍姫ならあそこでドラゴン族を捨て、《超再生能力》を発動させて手札補充(ドローターボ)していただけにこんな単純なことを見落としていたのかと、真澄は自分の浅慮さに苛立ちを覚える。

 

「くっ、最初のターンでサフィラの効果で《祝祷の聖歌》を墓地に捨てたのね…!」

「ご明察。よってサフィラはこの戦闘では破壊されない」

 

 涼しい表情で龍姫は言い切るが、内心では『儀式魔法落ちてなかったらヤバかった』と慌てふためく。そんな龍姫の本心など知らない真澄は顔を顰め、一呼吸置いてから落ち着きを取り戻すと普段の余裕を持った表情へ変わる。

 

「中々姑息な手を使うじゃない龍姫、そこまでしてエースを守るなんて」

「…何とでも言っていい。私とてサフィラを守らなければならない」

「それはカードアドバンテージの確保? それとも好きなカードだから?」

「両方」

 

 真澄は嫌味ったらしく言うものの、当人である龍姫は某白き盾の言葉をもじって即答。本当にブレることがなく、気持ちの良いほど真っ直ぐ答える龍姫に苦笑しつつ、真澄は残った2枚の手札に指をかける。

 

「これ以上は何もできないから無駄ね。私はカードを2枚伏せ、ターン――」

「エンドフェイズに永続罠《復活の聖刻印》を発動。この永続罠は自分のターンと相手のターンで適用される効果が変わる――今は相手ターン、よって私は’’相手ターンに1度、デッキから『聖刻』モンスター1体を墓地に送る’’効果を使う。デッキから《聖刻龍-ネフテドラゴン》を墓地に送る」

 

 真澄が『エンド』と言い切る前に龍姫得意のエンドフェイズ罠が発動する。いつものことなのだが油断していたところに突如として発動宣言されたため真澄の体が軽く跳ねるも、すぐ普段通りに振る舞う。

 

「やっぱりそのカードね。エンドフェイズに入った以上私は何もできないわ。さ、やりたいことをしなさい龍姫」

「言われなくても。デッキから光属性モンスターが墓地に送られたことで《竜姫神サフィラ》の効果が発動する。私は再びデッキから2枚ドローし、1枚捨てる効果を選択。デッキからカードを2枚ドローし、1枚捨てる」

「…他に発動する効果は?」

「ない」

「じゃあ今度こそターンエンドよ」

「私のターン、ドロー」

 

 ドローカードを横目で見て、龍姫は改めて状況を確認した。現在真澄のライフポイントは4000の無傷、手札は0と次ターン以降攻勢には出にくく、フィールドには融合モンスター3体――攻撃力2900の《ジェムナイト・ジルコニア》、攻撃力2500の《ジェムナイト・ルビーズ》、攻撃力2400の《ジェムナイトレディ・ラピスラズリ》、そして2枚のセットカード。

 一方の自分のライフポイントは僅か650で手札は3枚、フィールドには攻撃力2500の儀式モンスター《竜姫神サフィラ》、永続罠の《復活の聖刻印》のみ。

ライフアドバンテージでは大きく引き離され、カードアドバンテージに限ればほぼ互角。だが残っている3枚の手札があればその両方を覆すことも充分に可能。何を引けるかにもよるが、一旦手札補充とモンスターの展開が先決かと手札の魔法カードをデュエルディスクにセットする。

 

「永続罠《復活の聖刻印》を墓地に送り、手札から魔法カード《マジック・プランター》を発動。自分フィールドの永続罠を墓地に送ることでデッキから2枚ドローする――さらに墓地に送られた《復活の聖刻印》の効果も発動。このカードが墓地に送られた場合、墓地の『聖刻』モンスター1体を特殊召喚する。私は真澄のターンで墓地に送った《聖刻龍-ネフテドラゴン》を特殊召喚」

 

 魔法カード1枚の利益がおかしい、と真澄はいつものことながら思った。2枚もドローしておきながらモンスターも墓地から特殊召喚されるなんて理不尽ではないのかと感じる。しかし実際に龍姫のデッキには《復活の聖刻印》や《竜魂の城》、《竜の逆鱗》といった永続罠が投入されているので《マジック・プランター》が入っていても別におかしくはない。ただ使う時は発動コストが決まっているかのように《復活の聖刻印》。何故毎回毎回あんな引きと状況を作れるのかと、真澄は不思議に思う。

 一方、当の本人は新たに引いて4枚に増えた手札を見て心の中で首を傾げた。場に『聖刻』モンスターが居るのだから展開とネフテドラゴンのコスト用に新たに『聖刻』モンスターを引けるハズだと思っていたが、この手札か察してもう少しだけデッキを掘り進める必要があるのだろうと強引に納得する。

 

「私はネフテドラゴンをリリースし、速攻魔法《神秘の中華鍋》を発動。自分フィールドのモンスター1をリリースすることでそのモンスターの攻撃力か守備力、どちらかの数値分ライフポイントを回復する。私はネフテドラゴンの攻撃力を選択し、ライフを2000回復。さらにリリースされたネフテドラゴンのモンスター効果。デッキからドラゴン族・通常モンスターの《神龍の聖刻印》を攻守0にして特殊召喚。そして《神龍の聖刻印》をリリースし、魔法カード《アドバンスドロー》を発動。自分の場のレベル8以上のモンスター1体をリリースして2枚ドロー」

 

 やっていることは2枚の手札交換。だが、ここで新たに引いた2枚のカードを見て龍姫の頬が僅かに緩んだ。この手札なら新たにデッキに投入したモンスターを披露できる上、真澄の場の3体の融合モンスターも一掃できる。

 

「私は手札から《聖刻龍-アセトドラゴン》をリリースなしで召喚。このカードは攻撃力を1000にすることでリリースなしで召喚できる。さらにアセトドラゴンをリリースし、手札からネフテドラゴンを特殊召喚。この瞬間、リリースされたアセトドラゴンのモンスター効果発動。デッキからドラゴン族・通常チューナーモンスターの《ギャラクシーサーペント》を攻守0にして特殊召喚する」

「…どうやら準備が整ったみたいね」

 

 レベル5のモンスターとレベル2のチューナー、それも両方ドラゴン族――この条件であればここで《エクスプロード・ウィング・ドラゴン》だと真澄は考えていた。この状況であれば効果の適用範囲的に《ジェムナイトレディ・ラピスラズリ》を破壊して2400の効果ダメージを与えるつもりかと勘繰る。

しかしこの状況ならば《エクスプロード・ウィング・ドラゴン》を出すより、レベル1チューナーの《ガード・オブ・フレムベル》を呼び出し、レベル6シンクロモンスターで攻撃力2600を誇る《大地の騎士ガイアナイト》を出した方が良策なのではないかと感じた。ダメージ量こそ劣るが、その方が自分の融合モンスター2体を葬れる上、次ターンでの被害も最小限に抑えられる。一体何の目的があってレベル7シンクロモンスターを出そうとしているのかと真澄は訝しげに龍姫の場に注目した。

 

「…この子は真澄の前では初めて見せる」

「えっ――」

「――私はレベル5・光属性のネフテドラゴンにレベル2の《ギャラクシーサーペント》をチューニング。大いなる光道の守護者よ、仇成す者に裁きを与えん! 」

 

 青く輝く星のような煌めきを持つ竜《ギャラクシーサーペント》が緑色のリングへ身を変え、その中に紫色の鱗を持つ金色の装飾で彩られた龍《聖刻龍-ネフテドラゴン》が駆ける。そして一瞬眩い光が照らし、光の中から神々しくも巨大な龍と、その背に剣を振り上げた天使が姿を現す。

 

「シンクロ召喚! 光臨せよ、レベル7! 《ライトロード・アーク ミカエル》!」

「これは…」

 

 龍姫の言う通り、真澄が初めて見るシンクロモンスター。シンクロモンスター自体は何度か見たことはあるものの、どれも比較的安価なDPで手に入れられるものばかり。一応LDSショップ内で名前程度なら見たことはある《ライトロード・アーク ミカエル》だが、そのステータスや効果までは把握していない。ソリッドビジョンで表示される攻撃力は2600と龍姫が稀に使用する《大地の騎士ガイアナイト》と同じ。ならば一体どのような効果を持っているのかと気を引き締める。が――

 

「…《ライトロード・アーク ミカエル》のモンスター効果発動。1ターンに1度、1000ポイントのライフを支払いフィールドのカード1枚を選択して除外する」

「な――除外効果ですって!?」

「1ターンに1度しか使えない上、ライフコストもあるから使えてもあと1回だから安心して良い」

「そっちじゃないわよ!」

 

 ――その効果は予想以上に凶悪だった。除外と言えば除去効果では最高峰の効果だ。通常のデッキで除外はあまり多用せず、使ったとしても自分の《ジェムナイト・フュージョン》のように発動コストで使われてそれっきりという場合が多い。除外されたカードをデッキ・手札・場・墓地に戻すカードも限られる上、今の状況ではそのようなカードはない。破壊等で墓地送りにせず、除外という手段を取って来る辺り流石は総合コース首席と言いたいところだが、せめて自分以外の相手の時にやってもらいたいと真澄は静かに思った。

 

「私は《ライトロード・アーク ミカエル》の効果で《ジェムナイト・ジルコニア》を除外す――」

「――っ、そう簡単にはやらせないわよ! 私は罠カード《輝 石 融 合(アッセンブル・フュージョン)》を発動! 手札・場の融合素材となるモンスターを墓地に送り、『ジェムナイト』融合モンスター1体を融合召喚する! 私は場の《ジェムナイト・ジルコニア》、《ジェムナイト・ルビーズ》、《ジェムナイトレディ・ラピスラズリ》の3体を墓地に送って融合!」

「――っ!?」

 

 《ジェムナイト・ジルコニア》、《ジェムナイト・ルビーズ》、そして《ジェムナイトレディ・ラピスラズリ》の3体が各々の放つ宝玉の輝きと共に1つに交わる。今までで最も強い煌めきがフィールドを照らし、その輝きがゆっくりと形を成していく。

 王の如き威圧感と荘厳さ。その存在をさらに引き立てるように白銀と金剛石が散りばめられた鎧を纏い、その手には各宝玉が埋め込まれた大剣が握られている。『ジェムナイト』モンスターの究極にして至高の輝きを持った騎士がその姿を現す。

 

「幻惑の輝きよ、熱情の求道者よ、神秘の碧き秘石と1つとなりて新たな光を生み出さん! 現れよ――全てを照らす、至上の輝き! 《ジェムナイトマスター・ダイヤ》!」

 

 真澄の持つエースモンスターの登場に龍姫は少しばかり目を細める。本来の目的通り真澄の場の3体の融合モンスターは一掃できたものの、その代わりに『ジェムナイト』最強モンスターが出てくることは完全に想定外だ。折角《神秘の中華鍋》回復してから使えるようになった《ライトロード・アーク ミカエル》の発動コスト1000ポイントも無駄に終わり、自分の残りライフは1650。また――

 

「《ジェムナイトマスター・ダイヤ》の攻撃力は私の墓地の『ジェム』モンスターの数×100ポイントアップする! 今の私の墓地にいる『ジェム』は6体! よって攻撃力は3500!」

 

 ――この高攻撃力も非常に厄介だ。一応龍姫の手札には攻撃力強化のカードがあるものの、罠カードである上に上昇値的に《ジェムナイトマスター・ダイヤ》に及ばない。次の真澄のターンの行動にもよるが、下手をしたらやられかねない(本来なら既にやられているが)。

 龍姫は残った2枚の手札に目を通し、せめて次ターンで真澄がマスター・ダイヤを強化するカード、もしくは展開するカードが来ないことを祈りつつ、それらのカードを静かにデュエルディスクにセットした。

 

「…カードを2枚セットし、エンドフェイズ。このタイミングで《ライトロード・アーク ミカエル》のモンスター効果発動。自分のエンドフェイズ毎にデッキの上からカードを3枚墓地に送る。私はデッキトップ3枚――《招来の対価》、《聖刻龍-トフェニドラゴン》、《召集の聖刻印》の3枚を墓地に。さらに光属性モンスターであるトフェニドラゴンが墓地に送られたことでサフィラのモンスター効果が発動。私は再度’’デッキからカードを2枚ドローし、1枚捨てる’’効果を選択する。私はこれでターンエン――」

「ここで罠カード《針虫の巣窟》を発動! 私のデッキの上から5枚を墓地に送る!」

 

 一瞬、龍姫の顔が僅かに歪む。つい先ほど強化・展開用のカードが来ないことを願った瞬間にこれだ。デッキの上から5枚も落とすことは結構な博打だが、『ジェムナイト』ならどのモンスターが落ちようが結局は《ジェムナイト・フュージョン》のコスト、及びマスター・ダイヤの攻撃力強化に繋がる。せめて魔法・罠カードが多めに落ちてくれればと龍姫が祈る中、真澄はデッキトップの5枚を墓地へと送り始めた。

 

 1枚目:《ジェムナイト・ルマリン》

 2枚目:《ジェムナイト・サフィア》

 3枚目:《ジェムナイト・クリスタ》

 4枚目:《ジェムナイト・エメラル》

 5枚目:《ジェムタートル》

 

 『ふざけるな真澄!』と蜘蛛の叫びをあげたくなる衝動を抑え、龍姫は真澄の方を強く睨む。その真澄はこれ以上ない程のしたり顔を浮かべ、当然の結果と言わんばかりの空気を醸し出している。一流デュエリストならばこれぐらいできて当然、そもそも貴女(龍姫)も似たようなことをしているだろうにとその表情が物語っている。

 

「『ジェム』モンスターが5体墓地に送られたことでマスター・ダイヤの攻撃力は500ポイントアップし、その攻撃力は4000になるわ」

「……私はこれでターンエンド…」

 

 エンドフェイズまで進行した以上、龍姫はこのターンで何も行動はできない。

自分のライフは1650、場には《竜姫神サフィラ》、《ライトロード・アーク ミカエル》の2体のドラゴン。セットカードは2枚に、手札は1枚のみ。

 対して真澄の場には攻撃力4000を誇る《ジェムナイトマスター・ダイヤ》が居り、それ以外に場・手札にカードは存在しない。

 次の真澄のドローにもよるが、この状況で凌ぎ切れるかどうか不安を抱えながら龍姫は真澄にターンを渡す。

 

「私のターン、ドロー!」

 

 その真澄はドローしたカードが罠カードだったことに小さく舌打ちした。このターンで龍姫のセットカードを破壊できるカード、もしくはさらにモンスターを展開できるカードならば手放しで喜んだものの、今引いた罠カードは次ターン以降にしか使えない。

 昔から龍姫のことを知っている真澄からすれば、このターンで龍姫は何が何でも足掻いてくるハズ。ならばその希望の芽を摘んでしまえばと思っていたが、先の《針虫の巣窟》で力を入れ過ぎたのか目的のカードは引けず仕舞いだ。

 仕方ないかと割り切り、ならば現状で徹底的にやるしかないと真澄はフィールドに目を見張る。

 

「《ジェムナイトマスター・ダイヤ》のモンスター効果発動! 墓地のレベル7以下の『ジェムナイト』融合モンスター1体をゲームから除外し、そのモンスターと同じ効果を得る! 私は墓地の《ジェムナイトレディ・ラピスラズリ》を除外し、その効果をマスター・ダイヤに! そしてラピスラズリの効果を得たマスター・ダイヤの効果を発動! エクストラデッキから《ジェムナイト・マディラ》を墓地に送り、場の特殊召喚されたモンスターの数×500ポイントのダメージを相手に与える! 場の特殊召喚されたモンスターの数は3体! これにより1500のダメージを龍姫に!」

「…墓地から罠カード《ダメージ・ダイエット》をゲームから除外して効果を発動。このターン、私が受ける効果ダメージを半分にする……よってダメージは半分の750」

 

 《ジェムナイトマスター・ダイヤ》は手に持った大剣を高く振り上げ、垂直に叩き付けるように振り下ろす。その切っ先から朱色の光が真っ直ぐに龍姫の方へ向かう。

 龍姫の方も素直に受ける訳にはいかないとばかりに、先の攻防で使用した《ダメージ・ダイエット》の第2の効果を発動。龍姫の眼前に再度透明な壁が出現し、マスター・ダイヤの放った朱光をある程度分散させ、ダメージを抑える。これで龍姫の残りライフポイントは900。攻撃力4000のマスター・ダイヤがサフィラかミカエル、どちらかに攻撃すればその超過ダメージだけでも龍姫の敗北は確定する。

 

ここで真澄はほんの数秒だけ思考時間を取った。時間にしてみればさほど気になるほどではないが、1分間というターンの制限時間があるので自然と思考時間が早くなる。今の状況ならばマスター・ダイヤでどちらを攻撃してもその超過ダメージで勝利できることは頭の中で理解しており、問題はそのどちらかに攻撃する選択だ。

 サフィラを放置しているとエンドフェイズの効果で手札補充をされる可能性がある。だが《復活の聖刻印》がない現状ではただの攻撃力2500のモンスターと考えて良い。

 一方のミカエルは1000ポイントのライフコストがあれば除外という極めて強力な効果を持ったモンスター。だが今の龍姫のライフポイントは1000を下回っており、使える効果は墓地肥やしのみ。

どちらを攻撃するか悩ましいこの状況。本当に僅かな間だけ置いた後、真澄は――

 

「――バトル! マスター・ダイヤでサフィラを攻撃!」

 

 ――サフィラを攻撃対象に選んだ。無論、理由もある。

 《復活の聖刻印》がなくなったとはいえ、龍姫のデッキにはまだ《光の召集》という相手ターンでも能動的に光属性モンスターを手札から墓地に落とし、墓地の光属性モンスターを回収する罠があるのだ。残った2枚のセットカードのどちらかがそれの可能性もあり、このターンで決め切れなかった場合に手札補充効果を使用され、返しのターンで反撃に遭うことを考えるとサフィラを優先して葬るべき。

 ミカエルは龍姫のデッキに《神秘の中華鍋》以外の回復系カードが入っていなかったことを考えれば放置しても構わないと感じたのだ。また、龍姫のデッキの都合上もしかしたら過剰な墓地肥やしによるデッキデス(自滅)の可能性も僅かにある。

それ故、真澄はサフィラを叩くという結論に至った。

 

 主の攻撃令を受けた《ジェムナイトマスター・ダイヤ》はマントを翻し、大剣を高く振り上げながら疾風の如く駆ける。その巨躯に見合わない速度で一瞬の内に《竜姫神サフィラ》の目前まで迫り、振り上げた大剣を今まさに振り下ろさんとした――

 

「…永続罠《竜魂の城》を発動。1ターンに1度、墓地のドラゴン族モンスター1体をゲームから除外し、私の場のモンスター1体の攻撃力を700ポイントアップする。私は墓地の《暗黒火炎龍》をゲームから除外し、《竜姫神サフィラ》の攻撃力を2500から3200にアップさせる…!」

「悪足掻きを…!」

 

 ――が、その寸前で龍姫の場に伏せられていた《竜魂の城》の力で《竜姫神サフィラ》の全身に黄金色のオーラが纏い、その攻撃力を上げる。攻撃力を上げたところで攻撃力4000と3200ではその差は歴然。このままサフィラはマスター・ダイヤ無残に両断されるだろうと真澄は思った。

 

「墓地から儀式魔法《祝祷の聖歌》を再度発動。墓地のこのカードを除外し、サフィラを1度だけ破壊から守る」

「――っ、2枚目ですって!?」

 

しかし、真澄の予想はまたしても崩れる。1ターン目に使わせたからもうないだろうと油断していた。だが今思えば2ターン目、3ターン目でも龍姫はサフィラの’’2枚ドローし、1枚捨てる’’効果を選択。《祝祷の聖歌》を墓地に送る機会は最低でも2回はあったのだ。ミカエルの墓地肥やし効果で落ちていなかっただけに、すっかり油断していた。してやられた、と真澄は目を鋭くさせる。

 

「くっ、破壊はできなくてもダメージだけでも受けてもらうわよ!」

「…0にならなければ問題ない……」

 

 マスター・ダイヤの斬撃をその身に受けるサフィラ。だが《竜魂の城》、《祝祷の聖歌》の効果によりかろうじて存命する。

 主たる龍姫のライフポイントはこの戦闘によって900から100まで下がったが、自分のエースモンスターを守るためならこの程度のライフは当然。むしろこの痛みこそが自分のサフィラへ対する’’愛’’なのだと1人勝手に某レベル10・攻守0の悪魔族のような思想に走る龍姫。薄らとだが、その表情はどこか恍惚としている。

 相対する真澄はそんな龍姫の表情が恍惚というよりはまるで冷笑のそれに近く、自分は龍姫の掌の上で踊らされているのかとさえ錯覚した。だが今回のデュエルの本質はあくまでもLDS襲撃犯を誘き出すためのデュエル。本気で、かつデュエル時間を長くするための処置だと考えればこれも龍姫の予想の範疇なのかと納得する。

また、攻撃力4000のマスター・ダイヤの突破は困難であり、自分の残った1枚のカードをかわし、無傷の4000のライフポイントを1ターンで削り切れる訳がない。むしろこの状況から逆転できるものなら、してみせろと言わんばかりに真澄は龍姫へと視線を移す。

 

「……私はカードを1枚セット。これでターンエンドよ」

「――っ、エンドフェイズに罠カード《光の召集》を発動。手札を全て捨て、捨てた枚数分墓地の光属性モンスターを手札に加える。私は手札の《聖刻龍-トフェニドラゴン》を捨て、そのまま墓地から回収。そして光属性モンスターが手札・デッキから墓地に送られたことでサフィラの効果を発動する。私は再度’’デッキからカードを2枚ドローし、1枚捨てる’’効果を選択」

 

 やっぱりそのカードが伏せてあったか、と真澄は自分の予想が正しかったことに安堵を覚える。これで龍姫は次のターンのドローを含め、3枚のカードで自分に対処することになった。

 攻撃力4000のマスター・ダイヤ、そして1枚のセットカードをどう攻略するか見せてもらおうかと真澄は静かに口を開く。

 

「ターンエンド」

「……私のターン、ドロー」

 

 真澄のターンが終わり、龍姫は静かに自分の手札を改めて確認する。手札は先ほどサフィラの効果で入れ替えた2枚+たった今ドローした1枚の計3枚。場にはサフィラとミカエル、永続罠の《竜魂の城》。対して真澄の場にはマスター・ダイヤと1枚のセットカードがあるのみ。

 手札のモンスター・魔法の連鎖、そこから呼び出すことのできるモンスターと場・墓地にあるカードの連携を、ほんの僅かな時間で龍姫は脳内の信号が回路を走るイメージでその答えを導き出す。

 

「……手札から《聖刻龍-ドラゴンヌート》を召喚。そして速攻魔法《銀龍の轟咆》を発動する。墓地からドラゴン族・通常モンスター1体を特殊召喚――私は墓地から《ラブラドライドラゴン》を特殊召喚する」

「――っ、」

 

 龍姫の場に金色の装飾具を身に纏った竜人《聖刻龍-ドラゴンヌート》が現れ、そのすぐ隣に《ラブラドライドラゴン》が墓地から蘇る。これでレベル4のモンスターとレベル6のチューナーモンスターが揃い、合計レベルは10。

普段のデュエルで龍姫が呼び出すシンクロモンスターはレベル7の《エクスプロード・ウィング・ドラゴン》やレベル5の《転生竜サンサーラ》、もしくはレベル6の《大地の騎士ガイアナイト》程度しかいなかったハズだと真澄は思い返す。

しかし先日の赤馬社長との一件で何か新たなシンクロモンスターを手に入れたのかと、警戒の眼差しを向ける。レベル10と言えば刃の《XX-セイバー ガトムズ》よりも高いレベル。攻撃力・効果共に強力なモンスターが出てくるだろうと身構えた。

 

「――私は、レベル4・ドラゴン族の《聖刻龍-ドラゴンヌート》にレベル6・ドラゴン族・チューナーの《ラブラドライドラゴン》をチューニング――この世の全てを焼き尽くす煉獄の炎よ、紅蓮の竜となり劫火を吹き荒べ! シンクロ召喚!」

 

 《ラブラドライドラゴン》が6つの緑色のリングとなり、その中に《聖刻龍-ドラゴンヌート》が白い4つの星となって包まれた。4つの星が一筋の光となるように一直線に並び、その直後に赤光(しゃっこう)が走る。

 深紅の光は龍姫のフィールド上に1本の柱となって降り、それは隕石と見間違うほどの巨大な炎の塊が現出する。その紅蓮の中から1つ、2つ、3つと火柱が立ち、中心部は燃え盛り続け、背部の猛火は扇の如く吹き上がる。そして確固とした形を持っていなかった劫火は徐々にその姿を形成していき、3本の火柱は竜の頭を、燃え盛る中心部はその巨大な体躯を、背部の猛火は翼へと形を成した。

 

煌臨(こうりん)せよ、レベル10! 《トライデント・ドラギオン》!」

 

 その強大な姿を前にし、真澄は無意識の内にたじろいだ。レベル10にして攻撃力3000のモンスター――いくら攻撃力は《ジェムナイトマスター・ダイヤ》が1000ポイント上回っているとしても、実際に対峙するとその圧倒的な威圧感が猛る炎のようだと真澄は戦慄する。

 

「《トライデント・ドラギオン》のモンスター効果発動。このカードがシンクロ召喚に成功した時、私の場のカードを2枚まで破壊する――私は永続罠《竜魂の城》と《ライトロード・アーク ミカエル》を選択。さらにこの瞬間、《竜魂の城》の効果発動。墓地の《ドラゴラド》を除外し、《トライデント・ドラギオン》の攻撃力を700ポイントアップさせる」

「自分のカードを破壊…!?」

 

 《トライデント・ドラギオン》の左右の竜が咆哮をあげ、そのまま首だけをぐるりと回して右隣に居た《ライトロード・アーク ミカエル》と左後ろにあった《竜魂の城》に剛炎を放つ。《ライトロード・アーク ミカエル》と《竜魂の城》は深紅の炎に包まれ、刹那の内にその身が焼き尽くされる。

 初めて見るシンクロモンスター故にその効果を真澄が知らないのは当然だが、再び龍姫が自分の場のカードを破壊したことに怪訝な眼差しを向けた。また破壊された時に発動する魔法・罠が伏せてあるのか、それとも破壊することがシンクロ召喚成功時のデメリットなのかと考えていると、龍姫が右手を前に突き出し人差し指・中指・薬指の3本を立たせる。

 

「《トライデント・ドラギオン》がシンクロ召喚に成功した時、このカード以外の私の場のカードを2枚まで破壊することで、このカードはこのターン破壊したカードの数だけ追加攻撃ができる。つまり、《トライデント・ドラギオン》はこのターン3回攻撃が可能」

「さ、3回攻撃ですって!?」

 

 そんなふざけた効果があるのかと真澄は思ったが、少し冷静に考えればシンクロ召喚にドラゴン族のチューナーとドラゴン族の非チューナー、そして破壊するカード2枚を用意しなければならないのだから充分に条件は厳しいのだと険しい表情で納得する。

 また3回攻撃が可能とはいえ攻撃力は《竜魂の城》で強化しても3700。今の《ジェムナイトマスター・ダイヤ》の攻撃力は4000もあり、龍姫の手札は残り1枚だ。あの残った1枚が攻撃力強化のカードならば諦めざるを得ないが、複数回攻撃能力があろうと、今のままでは宝の持ち腐れに等しいと安堵した。

 

「破壊された《竜魂の城》の効果発動。表側のこのカードが破壊され墓地に送られた時、除外されている私のドラゴン1体を特殊召喚する。私はたった今除外した《ドラゴラド》を特殊召喚――そして、《ドラゴラド》の第2の効果を発動。1ターンに1度、自分フィールドのドラゴン1体をリリースすることで、私の場のモンスター1体のレベルを8に変更し攻撃力を800ポイントアップさせる。《ドラゴラド》自身をリリースし、《トライデント・ドラギオン》のレベルを8に。そして攻撃力は4500になる」

 

 しかし、真澄の安心は一瞬にして崩れる。まさか純粋に攻撃力勝負で《ジェムナイトマスター・ダイヤ》を上回られることは完全に想定外だ。いつもの《ドラゴラド》なら召喚成功時の効果で墓地から《ガード・オブ・フレムベル》を蘇生させ、《転生竜サンサーラ》のシンクロ召喚の素材となっていたため、もう1つの効果をすっかり忘れていた。

 

「バトル。《トライデント・ドラギオン》で《ジェムナイトマスター・ダイヤ》に攻撃――トライデント・フレア、第1打」

 

 《トライデント・ドラギオン》の中央の首が引き絞った弓の弦のように後ろに反れ、矢のように突き出すと同時にその口からは灼熱の劫火が光のように《ジェムナイトマスター・ダイヤ》へ走る。攻撃力で《トライデント・ドラギオン》が勝り、かつ真澄のセットカードも今の状況では使うに使えないため、灼熱の劫火は波濤の如く《ジェムナイトマスター・ダイヤ》を包み込み、宝石の輝きは全て炎の中へと消えた。そして攻撃力差の500ポイントのダメージが真澄のライフポイントから引かれ、無傷だったライフポイントは3500へと減少。ライフポイントにはまだ余裕がある――しかし、龍姫の場には未だ2回の攻撃を残した攻撃力4500の《トライデント・ドラギオン》と、攻撃力2500の《竜姫神サフィラ》が残っている。

 

「…次。《トライデント・ドラギオン》で真澄に直接攻撃――トライデント・フレア、第2打」

「そう簡単にはやらせないわ! 罠カード《廃 石 融 合(タブレット・フュージョン)》を発動! 融合素材となる墓地のモンスターをゲームから除外し、『ジェムナイト』融合モンスター1体を融合召喚する! 私は墓地の《ジェムナイト・サフィア》と《ジェムナイト・エメラル》をゲームから除外! 堅牢なる蒼き意志よ、幸運を呼ぶ緑の輝きよ、光渦巻きて新たな輝きと共に1つとならん!」

 

 このまま大人しく攻撃を受ける訳にはいかないと、真澄は残っていた最後のセットカードを発動させた。本来ならば次の自分ターンで発動し、状況に合った融合モンスターを出そうと思っていただけにここで消費させられることは苦しい。だが、ここで発動しなければ敗北するのは自分だ。少しでも可能性があるならばそれに懸ける、それがデュエリストだろう。

 真澄の場に半透明の状態で青い騎士《ジェムナイト・サフィア》と緑の騎士《ジェムナイト・エメラル》が一瞬だけ姿を現した。2体はすぐに融合召喚特有の光の渦に溶け込み、新たに融合モンスターとして真澄の場に降臨する。

 

「融合召喚! 現れよ、聡明なる考究者! 《ジェムナイト・アクアマリナ》!」

 

 現出した融合モンスター《ジェムナイト・アクママリナ》の姿を見て、龍姫の目尻が僅かに動いた。《ジェムナイト・アクアマリナ》はフィールドから墓地に送られた場合、相手の場のカード1枚を手札に戻す効果を持っている。

 確かにこの状況ならば《トライデント・ドラギオン》の攻撃を壁として受け止め、墓地に送られた際の効果で《トライデント・ドラギオン》をエクストラデッキに戻し、サフィラの直接攻撃を受ければ真澄のライフは残り1000ポイントになる計算だ。

 

「……バトル続行。このまま《トライデント・ドラギオン》で《ジェムナイト・アクアマリナ》に攻撃」

 

 その勝負を決して諦めない心意気はデュエリストとして尊敬できるものであり、龍姫自身も同じ立場になれば同じ行動をする。

 しかし、今回のデュエルで真澄が《針虫の巣窟》で大量の墓地肥やしに成功したことと同じように――

 

「さらに攻撃宣言時に墓地の《スキル・プリズナー》を除外して効果を発動。私の場のカード1枚を選択し、このターンそのカードを対象としたモンスター効果を無効にする…」

「――っ、墓地から罠…!」

 

 ――龍姫も《竜姫神サフィラ》のドロー・墓地肥やし効果で万全の態勢を築いていた。

 真澄は墓地から発動された罠を視認するなり、表情が曇る。もう自分に残された手はなくなったのだ。 《トライデント・ドラギオン》の右の頭から紅蓮の炎が放たれ、それが《ジェムナイト・アクアマリナ》を襲う。攻撃力4500と守備力2600の差は覆しようがなく、成す術がないまま《ジェムナイト・アクアマリナ》はその劫火に身を焼かれた。

 

「…《ジェムナイト・アクアマリナ》のモンスター効果発動。龍姫の《竜姫神サフィラ》を手札に戻す」

 

《ジェムナイト・アクアマリナ》の効果により、《竜姫神サフィラ》が龍姫の手札へと戻る。龍姫は無言のままサフィラのカードを手札に加え、改めてフィールドに視線を移す。

現在フィールドには《トライデント・ドラギオン》1体のみが存在するだけ。3回の攻撃回数も残りは1回。そして真澄のライフは残り3500――《竜魂の城》、《ドラゴラド》の効果で攻撃力4500に強化された《トライデント・ドラギオン》の1撃を受ければ終わる。

 釈然としない表情(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)のまま龍姫は静かに攻撃令を下す。

 

「……ラスト、《トライデント・ドラギオン》で真澄に直接攻撃――トライデント・フレア、第3打…」

 

 真澄は《トライデント・ドラギオン》の猛火を一身に受け、残り3500もあったライフポイントが一瞬にして0になる。そしてデュエルディスクがデュエル終了を告げるブザー音を鳴らし、ソリッドビジョンが静かに消失していく。

 

 

 

――――――――

 

 

 

 デュエルが終わり龍姫はすぐに真澄の元へ駆け寄った。当の真澄は何故龍姫がそんなに真剣な表情なのかわからず、キョトンとした表情を浮かべている。そして龍姫は真澄の眼前まで来ると、突然真澄の両肩を掴みキッと目に力を入れた。

 

「真澄、もう1回」

「――え、あぁ、もう1回ね」

 

 何だそんなことかと、真澄は変に身構えて損したという風に龍姫の手を払う。が、再度龍姫は真澄の肩を掴み、先ほど以上に力を入れる。

 

「ちょ、痛いんだけど」

「真澄。さっきのデュエル、本当なら私が負けていた。後攻1ターン目で真澄がジルコニアを出さずにラピスラズリとガネット、ラピスでマスター・ダイヤを融合召喚してラピスラズリの効果をコピーして効果ダメージを与え、ルビーズでマスター・ダイヤをリリースして強化した攻撃力で攻撃されていれば1ショットkillだった…」

「あー…まぁ確かにそうだったけど、今回のデュエルは――」

「だから次は真澄に情けをかけられないよう、もっと強力な布陣を敷く」

 

 『人の話を聞きなさい、そしてさらりと恐ろしいことを言わないで』と真澄は目の前の少女に本音をぶつけたかった。だが今の状態の龍姫なら聞く耳を持たないことはこれまでの付き合いでわかっており、真澄は静かに龍姫の言葉に耳を傾ける。

 

「今度は《光子化》や《反射光子流》で戦闘面を万全にして、場には《竜魔人 クィーンドラグーン》と《竜魔人 キングドラグーン》を一緒に並べて戦闘・対象耐性を――」

「龍姫ぃー! 真澄ぃー!」

 

 聞いているだけでもおぞましい内容に真澄が顔を顰めてる中、物陰のコンテナから刃が声を荒げ慌てて2人の元へ駆け寄る。刃の姿を見て2人はハッと今回のデュエルの目的を思い出す。

 

「ちょっと待って刃! すぐににもう1戦始めるからそんなに焦らないで!」

「そう、すぐに始めるから許して欲しい。真澄、2戦目をやろう」

「ちげーよ! んなことよりあっちを見ろあっちを!」

 

 声を一段と荒げながら刃は北斗が隠れているハズのトラックの方を竹刀で差す。するといつの間にかトラックはその場には存在せず、残っているのは空虚な空間のみ。

 

「…あれ? 確かあそこにあったトラックって、北斗が中に居たハズじゃ――」

「そうだ! お前らがデュエルに夢中になっている間にいつの間にか消えちまっていたんだよ! それでデュエルディスクに北斗からこんなメールが――」

 

 そう言って刃は自身のデュエルディスクのディスプレイを2人に見せる。そこにはメール受信画面で北斗から『閉じ込められた!』の一文。次の文面では『何か動いてる!』、その次は『まさかこれは襲撃犯の罠か!?』といった具合に次々と逼迫した状況が綴られていた。

 

「…………」

「…………」

 

 龍姫と真澄はゆっくりと顔を見合わせ、そのままギギギと『スクラップ』モンスターが出しそうな音で刃の方へと首を回す。やっと察したのか、と刃は逸る気持ちを抑えながら2人の顔を見る。

 

「……ど、どうする?」

「……中島さんに連絡しよう」

「……それしかねぇか…」

 

 

 

 後日、4人は社長秘書の中島にこっぴどく叱られ、3人は北斗のメールに気付けなかったことで必死に謝った。

 なお、いち早くメールに気付けたであろう刃は、龍姫と真澄のデュエルに夢中になっていたため北斗のメールに気付くことができず、別の日に北斗とデュエルし先攻プレアデス2体を前に涙目になっていたと、一時期LDS内で噂となる。

 




《簡易融合》はノーデン専用カードじゃない(真顔)
《ドラゴラド》は存在をすっかり忘れていましたので、今回から強引に登場。釣り上げ効果はやっぱり強い。聖刻なら自然に入りますし、レベル・攻撃力アップ効果もマッチしますので。

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