アクションデュエルを初めて書いたんですが、意外と難しいですね。これは1話完結にするには尺が厳しいですし、テンポも崩さないように適度に回さなくちゃいけないのでアニメであんなことになってることに納得。でもアクションカードで調整できるのは便利ですね……これはデュエル小説にとって諸刃の剣ですわ…。
あと露骨な調整が2~3箇所ありますけど、そこは目を瞑って頂けると助かります。
柚子達は隣接されている観戦用ウィンドウから龍姫と遊矢がデュエルフィールドへ入ったことを確認すると、遊矢は見るからに闘志を剥き出しにし、対照的に龍姫は冷淡な表情だ。管制室に居る修造がデュエルフィールドに入ったその2人の姿を視認し、彼の声がスピーカーを通してデュエルフィールドに響く。
≪お、素良じゃなくて遊矢が相手をするのか≫
「あぁ、橘田は俺にとっての壁――あいつに勝てない限り、俺のエンタメデュエルは貫けない!」
≪――っ、良いぞ遊矢!その意気…熱血だぁ!≫
先日のLDSとの3番勝負の後の熱血指導デュエル――あれを経てから遊矢は多少前向きになった。以前は嫌なことがあるとそれに目を向けないようにゴーグルで隠したり、些細なことですぐに落ち込んだりと精神面での未熟さが取ってわかるほどだ。
だが今はどうだ。遊矢は今過去に自分を苦しめ、一時はドラゴン族がトラウマになるほどの印象を残した相手に自ら堂々と立ち向かっている。前向きになったと言ってもそれは決して容易なことではない――それを言葉だけでもなく、行動で示そうとしている遊矢を前に『すぐ後ろ向きになる性格』と非難することはできないだろう。
「――フィールドは?」
「塾長に任せる。塾長、《アスレチック・サーカス》以外のフィールドで。俺の得意なフィールドでデュエルしてもそれは甘えになるし、かと言って橘田の得意なフィールドを俺達は知らない。だからアクションフィールドは第三者である塾長に任せる形で良いだろ?」
「…その意見に賛成。それなら条件はフェア」
「ありがとう――塾長、アクションフィールドをお願い」
遊矢の心意気に感動して薄らと目尻に涙を浮かべていた修造だが、デュエルフィールドにいる遊矢からの呼びかけで改めて自分の役割を全うしようと考えを切り替える。相手は遊矢がジュニア時代に1度も勝てなかった相手、橘田龍姫。龍姫――龍――ドラゴンと、龍姫の名前をさながら連想ゲームのように思い浮かべていると、修造の思考がそれ一色に染まり彼の脳裏にあるアクションフィールドが思い浮かんだ。
≪それじゃあこのフィールドだ!いくぞ、アクションフィールドオン!《ドラゴニック・バレー》!≫
手元のコンソールを操作し、ソリッドビジョンシステムがそのフィールドを形成していく。暁に染まる空、隆起の激しい岸壁、激しい流れの渓流――緑が繁栄しなかった大自然の過酷さを象徴するようなアクションフィールド、それが《ドラゴニック・バレー》。
今回のアクションフィールドが《ドラゴニック・バレー》だとわかった瞬間、龍姫は感情に出さないように静かに微笑んだ。このアクションフィールドは彼女が得意としているフィールドの1つ――このフィールドの特徴はもちろんのこと、アクションカードの位置、このフィールド固有のアクション魔法の効果をほとんど把握している。また改造したデッキの披露会場としてはこの上ないほど最高の舞台と言えるだろう。
「準備は良いか橘田?」
「いつでも」
「よし――いくぞ!」
そんな龍姫の心情など知らない遊矢はデュエルディスクを装着し、龍姫もそれに応えて腕にデュエルディスクを付ける。次いで2人は背中合わせに立ち、アクションデュエルで行う宣言の準備を整えた。
「戦いの殿堂に集いしデュエリスト達が!」
「モンスターと共に地を蹴り宙を舞い」
「フィールド内を駆け巡る!」
「見よ」
「これぞデュエルの最強進化系!」
「アクション――」
最初に遊矢が年相応に力強く言い、龍姫は普段と同じように淡々と述べる。時にはその身を翻し、時には互いの動きをシンクロさせ、初めて合わせるがそれでも中々様になった形。また本来ならばある程度宣言する順番も決まっているが、龍姫の口数の少なさを考慮した遊矢が彼女の分もしっかりとフォローする。
そして――
「デュエル!」
「デュエル」
――デュエルが始まった。
――――――――
「アクションフィールドの決め方は俺の方でしたから先攻は橘田に譲るよ」
「…一応、もらっておく。私は手札から《マンジュ・ゴッド》を召喚。このカードが召喚・反転召喚に成功した時、デッキから儀式モンスターか儀式魔法を手札に加える――私はデッキから儀式魔法《祝祷の聖歌》を手札に加える」
その名が示すように万の手を持った鉄色の人型モンスター《マンジュ・ゴッド》が龍姫の場に現れ、《マンジュ・ゴッド》は全ての腕を天高く掲げると龍姫のデッキが光を帯び、その中の1枚が彼女の手札に加えられた。聞き慣れない『儀式』という単語に柚子は小首を傾げていると、そんな彼女の様子を察したタツヤがすかさず解説する。
「儀式っていうのは儀式召喚のことだよ柚子姉ちゃん。手札に儀式モンスターと儀式魔法、リリース素材となるモンスターが手札・フィールドにいる時に儀式魔法を発動することで、儀式魔法に記されている条件でモンスターをリリースして手札の儀式モンスターをフィールドに出すんだよ」
「へぇ…カードの消費は多いけどリリースが手札からもできるアドバンス召喚みたいなものかな?」
「まぁ大雑把に捉えるとそうだね、通常召喚権の分を儀式魔法でカバーしてる感じだし。そして龍姫は儀式使いか――どんなモンスターを見せてくれるのかな?」
柚子に儀式のことを簡易的に補足説明していた素良は視線を龍姫の方へと戻す。彼女の目はかつてここでデュエルをした他のコースの首席らと違い、決して驕りや見下したりするソレではない。藍色の瞳は零氷のように冷たく、それは如何なる時であろうと感情的にならないという印象を与える。そんな龍姫がどんなモンスターを出すのか、ただそれだけが素良は気になるのだ。
「――手札から魔法カード《召集の聖刻印》を発動。デッキから『聖刻』モンスター1体を手札に加える……私はデッキから《聖刻龍-トフェニドラゴン》を手札に。そして儀式魔法《祝祷の聖歌》を発動。この効果により私は手札にいるレベル6のトフェニドラゴンをリリース――これによりレベル6の《竜姫神サフィラ》の儀式召喚を執り行うことができる。祝福の祈りを奏で、聖なる歌で光を導け! 儀式召喚! 光臨せよ、《竜姫神サフィラ》!」
一瞬《聖刻龍-トフェニドラゴン》がソリッドビジョンで映し出されるが、すぐに光の粒子となって天へと昇る。そして天空から6本の光が六角形の角を描く形で矢のように龍姫のフィールドに突き刺さり、その中央に一際巨大な光が降り注いだ。巨大な光の中から龍姫とよく似た名前のモンスター――《竜姫神サフィラ》がその姿を顕現する。
「――っ、攻撃力2500のモンスターを1ターンで…!」
「…ここでリリースされたトフェニドラゴンのモンスター効果を発動。このカードがリリースされた時、手札・デッキ・墓地からドラゴン族の通常モンスター1体を、攻守を0にすることで特殊召喚する。私はこの効果でデッキからレベル4・ドラゴン族・通常モンスターの《アレキサンドライドラゴン》を特殊召喚する」
龍姫のフィールドの中央に《竜姫神サフィラ》、その隣の《マンジュ・ゴッド》に並ぶ形で《アレキサンドライドラゴン》がフィールドに姿を現した。リリースされた時に効果を発動するモンスターで損失を上手く防いでいるなと素良が感心していたところで、ふと並んでいる2体のモンスターのレベルが等しいことに気付く。
(あれ?これもしかしたら遊矢危ないんじゃ――)
「私はレベル4の《マンジュ・ゴッド》と《アレキサンドライドラゴン》でオーバーレイ。2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築――竜弦を響かせ、その音色で闇より竜を誘え!エクシーズ召喚!降臨せよ、ランク4!《竜魔人 クィーンドラグーン》!」
そんな素良の心配など余所に龍姫のプレイングは続き、《マンジュ・ゴッド》と《アレキサンドライドラゴン》は白金の光となって黒い渦の中へと誘われ、その中から《竜魔人 クィーンドラグーン》が姿を見せる。儀式モンスターとエクシーズモンスター――それもどちらも攻撃力2000以上のモンスターが揃ったことに遊矢は目を見開く。
「くっ、儀式召喚だけじゃなくてエクシーズ召喚まで…!」
「…私はクィーンドラグーンのモンスター効果発動。オーバーレイ・ユニットを1つ取り除き、墓地からレベル5以上のドラゴン族モンスター1体を特殊召喚する。ただしこの効果で特殊召喚されたモンスターの効果は無効になり、このターン攻撃できない――蘇れ、トフェニドラゴン」
クィーンドラグーンが手に持っていた琴を奏で、龍姫の墓地よりサフィラを儀式召喚するためにリリースされたトフェニドラゴンがフィールドに現れる。攻撃力2000以上のモンスターが3体も並び、遊矢はもちろん柚子もその光景に戦慄した。
「攻撃力2000オーバーが3体!?」
「それも先攻であんなに展開するなんて…やっぱり橘田はすごい……」
「――驚くのは…まだ…早い。私はトフェニドラゴンをリリースし、手札から《聖刻龍-シユウドラゴン》を特殊召喚。このカードは自分の場の『聖刻』モンスターをリリースすることで手札から特殊召喚できる。そしてリリースされたことでトフェニドラゴンのモンスター効果が再び発動。デッキからレベル6・ドラゴン族・通常モンスターの《エレキテルドラゴン》を攻守0にして特殊召喚」
呆気に取られている遊矢と柚子を横目に龍姫はさらに展開を続ける。フィールドに現れたトフェニドラゴンが再び光の粒子となり、そこから青い体色のドラゴン《聖刻龍-シユウドラゴン》と《エレキテルドラゴン》が現出した。モンスターをリリースして自らを特殊召喚しつつ、更なるモンスター展開をする――これが『聖刻』モンスターの基本であり、恐ろしさである。
「レベル6のシユウドラゴンと《エレキテルドラゴン》でオーバーレイ。2体のドラゴン族モンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築――聖なる印を刻む龍の王よ、その力を振るい新たな龍を呼びださん!エクシーズ召喚!顕現せよ、ランク6!《聖刻龍王-アトゥムス》!」
金色の装飾を纏った藤色の鱗を持つ竜人、《聖刻龍王-アトゥムス》がフィールドに舞い降りる。先ほどまでの『聖刻』とは違い、王の名を冠するだけあってその神々しさは隣に並ぶサフィラにも引けを取らない。その圧倒的な力を目の前に、遊矢は奥歯を強く噛み締めながら龍姫を強く睨む。
「アトゥムスのモンスター効果を発動。オーバーレイ・ユニットを1つ取り除き、デッキからドラゴン族モンスター1体を攻守0にして特殊召喚する。私はこの効果でデッキから最上級ドラゴン――《レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン》を守備表示で特殊召喚」
「な――今度は効果モンスターのドラゴン族を特殊召喚だって!?」
先ほどまでの通常モンスターのドラゴン族ではなく、今度は効果モンスターのドラゴン族。攻守0で特殊召喚するとはいえ、それ以外のデメリットなしでレベル10の最上級ドラゴン族モンスターが出て来たのだ。いくらステータスを偏見する時代とはいえ、これには遊矢も驚きを隠せない。
唖然としている遊矢を尻目に龍姫は近場にあった岩に飛び乗り、そこから《レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン》の背に乗る。うなじ部分の突起に腕を回してバランスを取り、そのまま公園のベンチに座るような自然さでダークネスメタルドラゴンの背に座った。そして守備表示で特殊召喚されたにも関わらず、ダークネスメタルドラゴンはその場で羽ばたきアクションフィールドの天高い場所まで一気に飛翔し、辺りを軽く旋回し始める。一見すればこれはデュエルの遅延行為に見られかねないが、一応龍姫自身アクションデュエルにおける1分間にカードプレイをしない者は敗北となるルールは理解している。だが、これは決して無駄な行動ではない。いくら龍姫が慣れているアクションフィールド《ドラゴニック・バレー》と言えどアクション魔法の位置は必ずしも完璧に同じ場所ではなく、その場所の確認の意味も込めて上空から見回しているのだ。一瞬の内にアクション魔法の在り処を把握した龍姫は最後のひと押しとしてプレイングを続ける。
「ダークネスメタルドラゴンのモンスター効果発動。1ターンに1度、私の手札・墓地からドラゴン族モンスター1体を特殊召喚する。私はアトゥムスのオーバーレイ・ユニットとして墓地に送られた《エレキテルドラゴン》を特殊召喚。そして魔法カード《馬の骨の対価》を発動する。このカードは自分の場の効果モンスター以外のモンスター1体を墓地に送ることで、デッキからカードを2枚ドローする。私は通常モンスターの《エレキテルドラゴン》を墓地に送り、デッキからカードを2枚ドロー」
「くっ…ダークネスメタルドラゴンの効果で何度でも墓地からドラゴン族を特殊召喚できるから、別に1体ぐらいモンスターが減っても構わないのか…!」
「そういうこと。さらにクィーンドラグーンがフィールドにいる限り、このカード以外の私のドラゴン族は戦闘では破壊されない効果を持つ――この効果で攻守が0になったダークネスメタルドラゴンを戦闘破壊しようと思っても、まずはクィーンドラグーンを破壊しない限り私のドラゴンは何度でも蘇る」
ただ力によるゴリ押しという訳ではなく、その実は種族間でのシナジーを考慮した展開。また最低でも攻撃力2200を超えるモンスターでクィーンドラグーンを戦闘破壊、そしてそれとは別にダークネスメタルドラゴンを破壊するモンスターを出さねばこの状況を突破できない。かと言ってアトゥムスを放置してもほぼノーコストでデッキからドラゴン族が飛んでくる上、攻撃力2500を誇るサフィラも野放しにはできないだろう。単純に《ブラックホール》や《聖なるバリア―ミラー・フォース―》といったパワーカードならば容易に突破できるが、逆に言えばそれぐらいでしか突破できないのだ。これほどの布陣を敷いた龍姫の方を見て、素良はこっそりとタツヤに呟く。
「君のお姉さん、随分とえげつないフィールドに整えるね」
「そ、それは言わないで…」
タツヤ自身、龍姫がこのようにソリティアをしては相手の戦意を喪失させるデュエルをするとわかっていた。だがそれを改めて他人に指摘されると、何とも言い難い恥ずかしさが込み上げてくる。
「私はカードを1枚伏せてエンドフェイズに移行する。ここでサフィラのモンスター効果が発動。このカードが儀式召喚に成功したターンのエンドフェイズ、もしくは手札・デッキから光属性モンスターが墓地に送られたターンのエンドフェイズに3つの効果から1つを選んで発動できる。私は''デッキからカードを2枚ドローし、1枚捨てる''効果を選択。これでターンエンド」
だがそんなやりとりは龍姫の耳には聞こえず、エンドフェイズに発動するサフィラの効果を処理してターンを終えた。龍姫のフィールドには――
攻撃力2500の《竜姫神サフィラ》、
攻撃力2200の《竜魔人 クィーンドラグーン》、
攻撃力2400の《聖刻龍王-アトゥムス》、
攻守0の《レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン》
――以上、4体のドラゴン族。そしてセットカードが1枚に、《馬の骨の対価》やサフィラの手札増強効果で手札は2枚。
遊矢にとっては先日の赤馬零児を彷彿とさせる状況であり、以前のままであれば圧倒的な展開力で驚愕していたことだろう。しかし、あの時とは違い今回はシンクロモンスターも融合モンスターもいない。効果も全て判明しているのでそこまで厳しい状況ではないと、遊矢は自分に言い聞かせる。そしてこの圧倒的に不利な状況を覆してこそ、真のデュエリストでありエンターテイナーでもある自分の目指すデュエルがあるのだ。
勇気を持って前に。望みを託して彼はデッキトップのカードを勢いよく引く。
「俺のターン、ドロー!」
ドローカード、そして現在の手札のカードを見てどうすればあの布陣を突破できるかを考える。手札にはペンデュラムカードこそあるが、今のままでは龍姫のフィールドを崩すことはできない。その他のカードも決して攻めに使えるようなカードではなく、現時点での突破は厳しいだろう。それならば、と遊矢は次のターンに備えるべき一手を打つ。
「俺はスケール8の《時読みの魔術師》とスケール4の《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》でペンデュラムスケールをセッティング!」
黄昏色だったアクションフィールドの空が済んだ藍色になり、遊矢のフィールドの両端に青い柱が現れた。その柱には黒衣に身を包んだ魔術師《時読みの魔術師》と、双色の異なる眼を持った竜《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》がそれぞれ鎮座している。先日の零児とのデュエルでペンデュラム召喚とデュエルした経験があった龍姫は上級モンスターの大量展開が来るであろうと身構えるが――
「これでレベル5~7のモンスターが同時に召喚可能!――だけどまずは手札から《
「…サフィラは攻撃力1900、クィーンドラグーンは攻撃力1600、アトゥムスは攻撃力1800に下がる」
――その前の下級モンスター通常召喚によるモンスター効果で自分のドラゴン達のステータスが下がり、静かに目を細める。600も下げる、600しか下げない――考え方は各々であるが、決して低い下げ幅ではないと龍姫は思った。これで自分の愛するドラゴン達の攻撃力は全て2000を下回り、並の上級モンスターに容易に戦闘破壊されるステータスになったのだ、油断はできない。
「お楽しみはこれからだ!揺れろ、魂のペンデュラム!天空に描け、光のアーク!ペンデュラム召喚!出でよ、我が
遊矢のフィールド上空に緩やかな円錐状の石が円を描き、その中から黄金(こがね)色の光がフィールドに降り注ぐ。そして光の中からは星柄の尻尾を持った愛くるしい姿のサソリ《EMカレイド・スコーピオン》が現れる。攻撃力こそ100と低いが守備力は2300と、現状の龍姫のフィールドのモンスターでは戦闘破壊できない。
「ここで《EMソード・フィッシュ》のさらなる効果が発動!このカードがモンスターゾーンに存在し俺がモンスターの特殊召喚に成功した場合、相手モンスター全ての攻撃力をさらに600ポイントダウンさせる!」
「上手い!これで橘田のモンスターの攻撃力はこのターンだけで1200ポイントのダウンね!」
「ソード・フィッシュの攻撃力は低いけど、その効果で相手モンスターを弱体化させてダメージを最小限に抑える――流石遊矢兄ちゃんだ!」
わぁ、と観戦席側が盛り上がる。相手が大量展開するのならば、それを逆手に取れば良い――それが遊矢の考えだ。ソード・フィッシュの効果で相手モンスターのステータスを下げ、反撃を受けても最小限のダメージで済ませることができる。さらに龍姫のモンスターゾーンは1つしか空いておらず、そこからシンクロやエクシーズに繋げても1体しか出せないハズ。例え1体ならばダメージこそ多少食らうものの、それ以外なら弱体化したステータスでカレイド・スコーピオンを破壊することは不可能だ。
「よし、俺はバトルをしないでこのままカードを2枚伏せ――エンドフェイズ! この時ペンデュラムゾーンの《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》のペンデュラム効果が発動!ペンデュラムゾーンのこのカードを破壊することで、デッキから攻撃力1500以下のペンデュラムモンスター1体を手札に加える! 俺はオッドアイズを破壊! フィールドで破壊されたペンデュラムモンスターはエクストラデッキに表側で置かれる! そして効果デッキから攻撃力1200のペンデュラムモンスター《星読みの魔術師》を手札に加え、これでターンエン――」
「エンドフェイズに罠発動《光の召集》」
「なっ――俺のエンドフェイズに罠だって!?」
モンスターの召喚時でもなく、戦闘を行う時でもないタイミングで罠が使われた経験がほとんどない遊矢はその突拍子のなさに声をあげて驚く。しかし当の龍姫は別段特別なことをやっている訳ではないと思っており、その表情は普段と同じく冷淡なまま。遊矢の反応には我関せずといった態度でプレイングを続ける。
「《光の召集》は私の手札を全て墓地に捨て、捨てた枚数分墓地から光属性モンスターを手札に加える。私はこの効果で2枚の手札を全て捨て、墓地から光属性の《マンジュ・ゴッド》とトフェニドラゴンを手札に加える」
「た、ただの墓地回収か…ふぅ、じゃあ改めてターンエンd――」
「待って。私が《光の召集》で捨てたカードには《聖刻龍-ネフテドラゴン》が居た。光属性モンスターが手札・デッキから墓地に送られたことでエンドフェイズにサフィラの効果が発動する。私はデッキから2枚ドローして1枚捨てる効果を選択。デッキから2枚ドローし、手札のトフェニドラゴンを墓地に捨てる」
「…なるほど、その効果を使うためにこのタイミングで――他にも何かこのタイミングで発動するのか?」
「流石にこれ以上はないから安心していい」
「よし、じゃあ改めて俺はターンエンドだ」
「私のターン、ドロー――手札から魔法カード《調和の宝札》を発動。手札の攻撃力1000以下のドラゴン族チューナーモンスターを墓地に捨て、デッキからカードを2枚ドローする。私は手札の《ギャラクシーサーペント》を墓地に捨て、デッキからカードを2枚ドロー」
チラリと龍姫はドローカードに目を配り、続けて現在の状況を改めて確認した。
自分の場にはソード・フィッシュの効果で弱体化した攻撃表示のサフィラとクィーンドラグーンにアトゥムス、そして守備表示のダークネスメタルドラゴンがおり、手札は4枚。
対して遊矢のフィールドにはペンデュラムゾーンに《時読みの魔術師》、モンスターゾーンには攻撃表示のソード・フィッシュ、守備表示のカレイド・スコーピオン、さらにセットカードが2枚で手札はオッドアイズの効果でサーチした《星読みの魔術師》のみ。
先の遊矢のターンでサフィラの手札破壊効果の方を使えば次のペンデュラム召喚を防げたかもしれないが、龍姫は次のターンでペンデュラム召喚を防ぐよりもこのターンで攻めに転じたかったという思いの方が強かったのだ。セットカード2枚ならばその対策のカードをドローできると思いドロー効果を選択し、さらに冒頭で手札交換もしたが生憎目的のカードは引けずにフィールド・手札の状況は芳しくない。また弱体化した自分のドラゴンでは満足に戦闘をできる訳がなく、龍姫は否応なしに新しくモンスターを展開し直さなければいけないことを歯痒く感じた。仕方ないと思いつつ、ダークネスメタルドラゴンの背からクィーンドラグーンの背に乗り移り、自分のプレイングを続ける。
「…ダークネスメタルドラゴンのモンスター効果発動。墓地よりトフェニドラゴンを特殊召喚する――そして手札から速攻魔法《神秘の中華鍋》を発動。自分の場のモンスター1体をリリースし、そのモンスターの攻撃力か守備力どちらかの数値分、私のライフポイントを回復する。私は今呼び出したトフェニドラゴンをリリースし、その攻撃力2100ポイント分のライフを回復」
「くっ、これで橘田のライフは6100に……しかもリリースされたってことは――」
「当然トフェニドラゴンの効果が発動する。その効果で私はデッキからレベル1・ドラゴン族・通常チューナーモンスターの《ガード・オブ・フレムベル》を攻守0にして特殊召喚」
「チューナーモンスターって――まさか!?」
「まだシンクロはしない。私は手札から魔法カード《アドバンス・ドロー》を発動。自分の場のレベル8以上のモンスター1体をリリースしてデッキから2枚ドローする。私はレベル10のダークネスメタルドラゴンをリリースし、デッキから2枚ドロー。そして手札から先ほど回収した《マンジュ・ゴッド》を召喚し、召喚・反転召喚に成功時の効果を発動。デッキから2枚目のサフィラを手札に加える」
モンスターの展開、ライフ回復、手札増強と少しでも手順を間違えればプレイングミスに繋がりかねないが、龍姫はそれを一切の迷いもなく淡々と進める。その龍姫の凛々しい顔を見て、素良は感心した眼差しを向けた。
「――なるほど、遊矢に常勝しているだけあって龍姫のプレイングには無駄がないね。モンスター・魔法・罠の効果を余すことなく活用してる」
「お姉ちゃんは頭の回転も早いし、ここぞのドロー力も強いから遊矢兄ちゃんにはちょっと厳しいかも…」
「で、でも今の橘田のモンスターの最高攻撃力は《マンジュ・ゴッド》の1400。それにあんなにモンスターが居たんじゃ新しく展開も難しいし、レベル1のチューナーとレベル4のモンスターなら出て来るモンスターはレベル5でしょ?その程度のモンスターなら対してステータスは高くないんじゃ――」
「私はレベル4の《マンジュ・ゴッド》にレベル1の《ガード・オブ・フレムベル》をチューニング。その身を深淵へ投じる時、新たな生命の糧とならん! シンクロ召喚! 廻れ、レベル5! 《転生竜サンサーラ》!」
《ガード・オブ・フレムベル》がその身を緑色のリングへ姿を変え、そのリングに《マンジュ・ゴッド》が包まれる。そしてリングに一筋の光が閃光となって走り、その中から漆黒の鱗を持ち両翼を大きく羽ばたかせながら1匹の竜――《転生竜サンサーラ》が姿を現す。呼び出されたシンクロモンスターは守備表示、守備力こそ2600と高めだがアタッカーではないことに遊矢は安堵し、観客席の柚子もやはりレベル5だからさほど強力なモンスターではないと感じた。
「――ほらね、あの程度のモンスターなら遊矢のカレイド・スコーピオンはもちろん、ソード・フィッシュすら倒せないわ。このターン遊矢は問題なく守り切れ――」
「アトゥムスの効果発動。オーバーレイ・ユニットを1つ取り除き、デッキからレベル6・ドラゴン族・通常チューナーモンスターの《ラブラドライドラゴン》を攻守0にして特殊召喚する――私はレベル5のサンサーラにレベル6の《ラブラドライドラゴン》をチューニング。集いし星が、新たな煌めきを呼び起こす!
柚子が自信満々に守り切れると断言しようとした口を開いた瞬間、その口はしばし開いたまま硬直する。レベル11・攻撃力3200のシンクロモンスター――《星態龍》の登場は龍姫を除く全員に衝撃を与え、その竜が放つ輝きに目を奪われた。先日の刀堂刃を彷彿とさせるような連続シンクロ召喚からの強力モンスター――それも攻撃力が3000を超えているのなら当然の反応だろう。
文字通り桁違いな強さを感じさせる《星態龍》の登場に遊矢は動揺したが、すぐにハッと意識を切り替える。如何に強力なモンスターであろうと攻撃を防げれば良い、そう考えて自らの足で防御手段として働くアクション
「――このカードは自分の場のランク5・6のモンスターをエクシーズ素材として、エクストラデッキから直接エクシーズ召喚できる……私はランク6の《聖刻龍王-アトゥムス》でオーバーレイ・ネットワークを構築。エクシーズ召喚!
オーバーレイ・ユニットを全て消費し、攻撃もできず攻守も下がったアトゥムスが一筋の光となって天高い場所に吸い込まれる。そして一瞬眩き光がフィールド全体を照らし、光の中から朱色の鎧を纏った竜とその竜の背に双槍を携えた騎士《迅雷の騎士ガイアドラグーン》が風と共にフィールドに舞い降りた。
これで準備は整った、と龍姫は視線を遊矢の方へ向ける。彼は丁度アクションフィールドの岸壁を登り、その頂上にあったアクション魔法を手に取ったところだ。龍姫はあの場所に設置されていたアクション魔法の効果を考慮し、攻撃モンスターと攻撃対象を即決する。
「バトル――《星態龍》で《EMソード・フィッシュ》に攻撃……コズミック・ブレス!」
「させるか!俺はアクション魔法《回避》を発動!相手モンスター1体の攻撃を無効にする!」
《星態龍》が放った光の奔流はソード・フィッシュに当たる直前で澄んだ青色の壁のようなものに止められ、その攻撃を防ごうと傘で放水を受け止めるように光が四方に散り始めた。高攻撃力モンスターの攻撃を防ぐことができたと、遊矢が右腕を大きく掲げて喜びを露にする。観客席に居た柚子達も’’やった!’’と声を揃えていた時――
――ピキ、という氷にヒビが入るような音が聞こえた。嫌な予感を覚えた遊矢は先ほど掲げた右腕が力なく下げ、恐る恐る音の聞こえた方向――今攻撃を受けているソード・フィッシュの方へと視線を戻す。すると先ほどのアクション魔法《回避》によって出現した壁に亀裂が入り、それが徐々に全体に広がりを見せ始め、遊矢は唖然とした表情となる。
「な、何で…」
「……言い忘れた。《星態龍》がバトルする場合、ダメージステップ終了時まで《星態龍》はカードの効果を受け付けない。よって、アクション魔法《回避》の効果で攻撃は無効にならず――」
そしてソード・フィッシュを守っていた壁は飴細工のように砕け散り、《星態龍》のブレスがソード・フィッシュを飲み込んだ。レベル11にして攻撃力3200というド級モンスターの攻撃は、その余波だけでも相当な衝撃を与えアクションフィールドが大きく揺れる。
ソード・フィッシュの後方に居た遊矢は直撃ではないとはいえ、ソリッドビジョンによって発生した爆風でそのまま後ろに地面と水平に吹き飛ばされ、無様に何回も転げ回ってしまう。
「――攻撃は有効となる」
「く…そ…!」
「まだ私のバトルフェイズは終わっていない。続けて《迅雷の騎士ガイアドラグーン》でカレイド・スコーピオンに攻撃……ボルテック・ランス!」
倒れ込んで醜態を晒す遊矢の安否など知ったことではないと言わんばかりに、龍姫は冷酷に攻撃宣言を下す。そしてクィーンドラグーンの背に座りながら悠々と飛行していた際に拾ったアクション魔法をデュエルディスクへ差し込んだ。
「このタイミングでアクション魔法《ドラゴン・ダイブ》を発動。このカードは自分モンスター1体の攻撃力をエンドフェイズまで1000ポイントアップさせる――よってガイアドラグーンの攻撃力は3600となる」
「――っ、けど俺のカレイド・スコーピオンは守備表示! いくら攻撃力を上げても俺にダメージは――」
「ガイアドラグーンは守備表示モンスターを攻撃した時、その守備力を攻撃力が超えていれば、その数値だけ相手に戦闘ダメージを与える……つまり貫通効果を持っている」
龍姫の淡々とした説明はまるで死刑宣告に等しく、遊矢の顔は一瞬にして青ざめる。そして遊矢がショックを受けている中、ガイアドラグーンは両手に持ったランスから轟雷を放ちそれがカレイド・スコーピオンへと直撃。カレイド・スコーピオンの守備力は2300で、ガイアドラグーンの攻撃力は3600――当然耐えられるハズがなく、カレイド・スコーピオンは雷が当たった木々のように黒コゲになり、さらには貫通効果によって遊矢のライフポイントがその数値差分引かれた。
初期ライフ4000から最初に《星態龍》とソード・フィッシュのバトルで2600のダメージを食らい、残り1400となったところでガイアドラグーンの貫通効果で1300のダメージ――これにより遊矢のライフは残り100まで減り、その衝撃はソリッドビジョンとして遊矢に襲いかかる。
「う、うわぁあああああぁっ!」
「遊矢!」
「遊矢兄ちゃん!」
1ターンで3900もの戦闘ダメージによる衝撃を受けた遊矢は、叫び声を上げながら崖を転がり落ちた。その光景に柚子とタツヤは声を荒げ、素良は普段の可愛らしい目を細める。崖から転がり落ちた遊矢は心身共にボロボロになりつつも、気力を振り絞って倒れたままの姿勢でデュエルディスクを強引に操作した。
「ぐ…お、俺は罠カード《EMリバイバル》を発動…! このカードは自分のモンスターが破壊された場合、手札・墓地から『EM』モンスター1体を特殊召喚する!俺は、墓地の《EMソード・フィッシュ》を守備表示で特殊召喚! そしてソード・フィッシュが召喚・特殊召喚に成功したことで、相手フィールドのモンスターは全て攻撃力が600ポイントダウンする!」
「……《星態龍》は攻撃力2600、ガイアドラグーンは攻撃力3000、サフィラは攻撃力700、クィーンドラグーンは攻撃力400になる…」
「まだだ! 俺はさらに伏せていた速攻魔法《ドロー・マッスル》を発動! このカードは自分の場の守備力1000以下の守備表示モンスター1体を対象として発動できる! 俺は守備力600のソード・フィッシュを選択! そして俺はデッキからカードを1枚ドローし、《ドロー・マッスル》の効果を受けたモンスターはこのターン戦闘では破壊されない!」
なるほど、と龍姫は内心で遊矢の細かなプレイングに感心した。破壊をトリガーに発動できる罠なら最初にソード・フィッシュが《星態龍》によって戦闘破壊された時に使っても良かっただろう。そうすればガイアドラグーンの攻撃力は600ポイント下がり、アクション魔法がなければカレイド・スコーピオンの守備力を超えることができなかった。
しかし、それを良しとせず遊矢は’’わざと’’このタイミングであの罠を使ったのだ。《星態龍》は攻撃する場合、ダメージステップ終了時まで相手のカード効果を一切受け付けない――あの罠カードはおそらく戦闘・効果破壊の両方に対応して発動できるものだろうが、《星態龍》に戦闘破壊されたタイミングで《EMリバイバル》を発動しソード・フィッシュを特殊召喚すればそれは’’まだ’’ダメージステップの範囲となる。この辺りは中々シビアなルールだがモンスターの戦闘破壊はダメージステップの終了時――よって《星態龍》の効果が適用された状態であり、そうなるとソード・フィッシュの効果で《星態龍》を弱体化させることはできず、攻撃力は3200のまま。
だがそれはあくまでも《星態龍》自身が攻撃をした時に限る。それ以外ならばただの攻撃力3200の大型モンスターであり、他のモンスターの攻撃時には耐性は一切ない。その僅かな隙を突き、遊矢は自らのライフと引き換えに龍姫のモンスターを弱体化させたのだ――この咄嗟の判断力は流石あの榊遊勝の息子と言えるだろう。龍姫はそんなことを思いながらこれ以上のバトルフェイズは無駄だと判断する。
「…バトルフェイズを終了し、メインフェイズ2に移る。私はサフィラとクィーンドラグーンを守備表示に変更。そしてクィーンドラグーンの効果を発動する。オーバーレイ・ユニットを1つ使い、墓地から《転生竜サンサーラ》を特殊召喚。さらにカードを3枚セットし、エンドフェイズ……このターン、私は最初に《調和の宝札》で光属性の《ギャラクシーサーペント》を墓地に捨てた――手札・デッキから光属性モンスターが墓地に送られたことにより、サフィラの効果が使える。私はデッキからカードを2枚ドローし、1枚捨てる効果を選択。デッキからカードを2枚ドロー、そして《マンジュ・ゴッド》の効果で手札に加えた2枚目のサフィラを捨てる」
「よし、俺のター――」
「まだ私のエンドフェイズは終わっていない。ここで速攻魔法《超再生能力》を発動。このターン、私がフィールド・手札からリリースしたドラゴン族、そして手札から捨てられたドラゴン族の数だけデッキからカードをドローする。私はこのターン、トフェニドラゴンとダークネスメタルドラゴンをリリースし、《ギャラクシーサーペント》とサフィラを手札から捨てた。よって4枚のカードをデッキからドロー。そしてここでアクション魔法《ドラゴン・ダイブ》の効果が切れ、ガイアドラグーンの攻撃力は2000になる」
「よ、4枚のドロー…」
ただ淡々と、さも当然であると言わんばかりに龍姫は流れるようなプレイングを見せつける。カードを大量に消費しようが手札を増やせば次に備えられ、それでも足りなければさらにドローすれば良い。一部の者は偶然やインチキと喚くかもしれない――しかし、真のデュエリストであればデュエルで引くカードに無駄なカードは存在せず、それは全て必然となる。よって龍姫の大量ドローも運命によって定められたもの――この程度のことで反論していては真のデュエリストには成り得ない。
これで龍姫の場には守備力1200のサフィラ、守備力0のクィーンドラグーン、守備力2600のサンサーラ、アクション魔法の効果が切れて攻撃力2000となったガイアドラグーン、攻撃力2600の《星態龍》の計5体がモンスターゾーンを埋める。魔法・罠ゾーンには3枚のセットカード、手札は先のドロー補助カードの効果で計5枚。ライフポイントに至っては遊矢と6000ポイント差の6100。
遊矢にとってはこれまでに経験したことがない程の圧倒的不利な状況――だが、その瞳は絶望の色に染まってはいない。カード・アドバンテージ、ライフ・アドバンテージ共に圧倒的に劣っているが、この状況を覆してこそ真のデュエリストであり、遊矢の目指すべきエンタメデュエルがある。公式戦のように1度でも負けられない切羽詰まった状況という訳ではないが、いずれこのような時が来るかもしれない。この程度の障害を乗り越えずして、前に進むことはできないだろう。遊矢は顔を引き締め、デッキトップのカードに指をかける。
「俺のターン、ドロー!」
引いたカードを確認し、周囲を軽く見回す遊矢。現時点でもそれなりに戦えるが、それでもまだ一手足りない。その一手に届くように1枚の
「いくぞ橘田、お楽しみはこれからだ!俺はスケール1の《星読みの魔術師》とスケール8の《時読みの魔術師》でペンデュラムスケールをセッティング!これでレベル2~7のモンスターが同時に召喚可能!揺れろ、魂のペンデュラム!天空に描け、光のアーク!ペンデュラム召喚!現れろ、我が僕のモンスター達よ!」
片方の空いていたペンデュラムゾーンに白き衣に身を包んだ魔術師《星読みの魔術師》が現れると、その頭上に1の数字が浮かび上がる。そして最初に行ったペンデュラム召喚の時と同じようにフィールド上空に振り子が揺れて円を描き、3つの光がフィールドに降り注ぐ。
1つは《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》、
1つは《EMカレイド・スコーピオン》、
最後に紫色の体色をした愛嬌のある蛇《EMウィップ・バイパー》がその姿を見せる。
そして遊矢は現れたオッドアイズの背に飛び乗り、先ほど視界に入った
「俺はここでソード・フィッシュの効果を発動!このカードがモンスターゾーンに存在する時に俺がモンスターを特殊召喚した場合、相手フィールドのモンスターの攻守を600ポイント下げる!」
「……防ぐ手はない。全員ステータスが下がる」
クィーンドラグーンの背に座っていた龍姫はアクションカードを取ろうとしている遊矢の妨害をすることはなく、ただその様子を横目で見ながら弱体化した自分のドラゴン達に申し訳なさそうな眼差しを送る。生憎ソード・フィッシュの効果にカウンターするようなカードはなく、さらに現状の位置からは遊矢のアクションカードの入手妨害はおろか、その効果に対する手も打てない。仕方ない、と龍姫は小さくため息を吐きながら適当な崖の上に降り、そこからアクションカードの位置を再確認しようとするが――
「よし!アクションカードゲット!俺はアクション魔法《巨竜の咆哮》を発動!このアクション魔法は自分の場の最もレベルの高いモンスターのレベル×100ポイント、ターン終了時まで相手モンスター全ての攻撃力を下げる!俺の場で一番レベルが高いのはレベル7のオッドアイズ!よって700ポイントのダウンだ!」
「――っ、これも防ぐ手はない…」
――ふと、違和感を覚えた。龍姫の記憶が正しければ遊矢があの場所で拾ったアクション魔法は攻撃を無効にする《回避》だったハズだ。それが何故戦闘補助系である《巨竜の咆哮》なのか。改めて龍姫はこのアクションフィールドにあるアクションカードの位置を目で確認しようとした時、その疑問に気付いた。
アクションカードの’’位置’’がズレていたのだ。本来ならばこのような事態はさほど起きないが、思い当たる節が1つだけあった。前のターンで《星態龍》が攻撃した時、フィールド全体がその衝撃の余波に襲われた――もしかしたら、いや、あれが原因でアクションカードが吹き飛んだのだと考える。
またこの状況で下手にアクションカードを取っても遊矢とストロング石島のデュエルを動画で視聴した際、ペンデュラムゾーンの《星読みの魔術師》と《時読みの魔術師》がペンデュラムモンスターに攻撃時に相手の魔法・罠の発動を封殺する効果を付与する。そんな中で《回避》等のアクションカードを取っても完全な死に札であり、どこか遠くから『あらら~?龍姫ちゅわ~ん、ちょっとイケてないんじゃな~い?』という幻聴が聞こえてくるかもしれない。何か他に手はないかと、龍姫は焦りを表情に出さないようにしていたところで遊矢が追い討ちをかける。
「俺はソード・フィッシュを攻撃表示に変更し――ここでカレイド・スコーピオンのモンスター効果を発動! 1ターンに1度、自分のモンスター1体を対象に発動する! 俺は《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》を選択! そして選択されたモンスターは相手の特殊召喚されたモンスター全てに攻撃することができる! 橘田、お前の場にいる5体のモンスターは全て特殊召喚されたモンスターだ! よってオッドアイズはこのターン、5回の攻撃が可能となる!」
「…合計5回の攻撃…!」
「バトルだ!オッドアイズよ、その二色の眼で全てを焼き払え!螺旋のストライク・バースト、五連打!」
遊矢を背に乗せたオッドアイズは軽快に荒野を走り、その身を龍姫のドラゴン達の元へと急がせる。そして赤と緑の眼が妖しく輝き、大きく開かれた口から赤光が横薙ぎに5体のドラゴンに襲いかかった。自分以外のドラゴンに戦闘破壊耐性を与えるクィーンドラグーンが真っ先にその標的となり、次いで龍姫のエースモンスターのサフィラがその身を光の奔流に飲み込まれる。この2体は守備表示だった故に戦闘ダメージは発生しない――しかし、《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》の恐ろしさはここから発揮されるのだ。
「オッドアイズが相手モンスターとのバトルで相手に与える戦闘ダメージは2倍となる! リアクションフォース!」
「――っ、」
2回発動したソード・フィッシュの効果で1200ポイント、アクション魔法《巨竜の咆哮》の効果も合わせ攻撃力が1900ポイント下がっていた《星態龍》の攻撃力は1300、ガイアドラグーンに至っては僅か700の攻撃力。オッドアイズどの攻撃力の差はそれぞれと1200と1800――それの2倍もの戦闘ダメージとなると2400と3600にまで達する。合計で6000ポイントものダメージとなり、ライフポイントが6100もあった龍姫のライフは一気に残り100まで下がった。
さらに最後まで守備表示で場に残っていたサンサーラも破壊され、龍姫のフィールドは土煙に包まれる。あとはウィップ・バイパーかソード・フィッシュの直接攻撃で勝てると遊矢は思ったが――
「――私は墓地から魔法カード《祝祷の聖歌》のさらなる効果を発動していた。フィールドのサフィラが破壊される場合、代わりに墓地のこのカードをゲームから除外することで破壊を免れる。さらにサンサーラのモンスター効果発動。このカードが相手のカード効果で墓地に送られた場合、もしくは戦闘破壊で墓地に送られた場合、自分または相手の墓地からモンスター1体を特殊召喚する。私は墓地から《レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン》を特殊召喚する」
「くっ、5回も攻撃したのにモンスターが2体…! しかも攻撃力2800…!」
――そう簡単に終わらせないのが、LDS総合コースの首席だ。自身のエースモンスターであるサフィラだけは頑なに守り通し、追撃も許さないと意志表示するように真紅の眼を持つ竜は威嚇する咆哮をあげ、二色の竜を圧倒する。遊矢は苦虫をすり潰したような顔を浮かべるが、ふと近くの木の枝にアクションカードが引っ掛かっていることに気付く。
「あそこだ、オッドアイズ!」
そして一度ダークネスメタルドラゴンに背を向け、新たな
「アクションカードゲット!よし、アクション魔法《ドラゴン・ダイブ》を発動!橘田、これはお前も使ったからわかるよな?」
「――モンスター1体の攻撃力をエンドフェイズまで1000ポイントアップさせる…」
――その祈り
「ここで私は永続罠《竜魂の城》を発動。墓地のドラゴン族モンスター1体をゲームから除外し、自分のモンスター1体の攻撃力を700ポイントアップさせる。私は墓地のトフェニドラゴンを除外し、ダークネスメタルドラゴンの攻撃力を700ポイントアップ――攻撃力3500にする」
その予想を龍姫は覆す。まるで発動する気配のなかった3枚のリバースカードの内の1枚が開かれ、その効力をダークネスメタルドラゴンが得る。全身が青いオーラに包まれたダークネスメタルドラゴンを見て遊矢は一瞬眉をひそめるが、今の状況を考えて攻勢に出た。
「な――くっ、でも直接攻撃さえ通れば勝てるんだ!ここは相討ちしてでも倒す!オッドアイズでダークネスメタルドラゴンに攻撃!行け、オッドアイズ!螺旋のストライク・バースト!」
「…迎え撃て、ダークネスメタルドラゴン。ダークネスメタルフレア…!」
双竜共に攻撃力は3500。オッドアイズ、ダークネスメタルドラゴンは互いに自身の口を大きく開き、眩い破壊の光を放った。紅蓮と漆黒の光が双方の中央で弾き合いそのエネルギーは四方八方に飛び散り、アクションフィールドのオブジェクトが巻き込まれるように壊れる。そして中央で弾け合っていたエネルギーは一度そのエネルギーが拳大ほどの大きさに凝縮され、直後に凝縮されたエネルギーは行き場を失い急激に膨張――相討ちとなるエネルギーは龍姫と遊矢の間で爆発し、その衝撃波と爆音がアクションフィールドを襲った。
両デュエリスト共にそのインパクトに身構え、何とか体勢を維持する。衝撃によりアクションフィールドは見るも凄惨な状況になっているが、幸いにも龍姫と遊矢に目立った外傷はなくデュエルに影響はない。
オッドアイズとダークネスメタルドラゴンが相討ちとなったが、遊矢の場にはまだ攻撃していないウィップ・バイパーとソード・フィッシュ、カレイド・スコーピオンが居る。龍姫の場には先ほど自身の降臨に使用した儀式魔法のさらなる効果で破壊を免れたサフィラが守備表示で存在するものの、その守備力は度重なるソード・フィッシュの効果によって今は0。例え《回避》や《奇跡》等のアクション魔法で1度戦闘を回避したとしても、第2、第3の攻撃は防げず、ライフポイント僅か100の龍姫になら例えカレイド・スコーピオンでもフィニッシャーになれる。
‘’この状況なら龍姫に勝てる’’――そう確信した遊矢は高らかに攻撃宣言を下す。
「…バトルっ!俺はソード・フィッシュでサフィラに攻げ――」
「罠カード《竜の転生》を発動。私の場の表側表示で存在するドラゴン族1体をゲームから除外することで、手札・墓地からドラゴン族1体を特殊召喚する。私はサフィラをゲームから除外し、墓地よりダークネスメタルドラゴンを特殊召喚」
「――えっ」
「モンスターの数が変わったことにより巻き戻しが発生する――榊、攻撃を続ける?」
一瞬、遊矢には何が起こったのかわからなかった。弱体化したサフィラをソード・フィッシュで戦闘破壊し、続けてウィップ・バイパーかカレイド・スコーピオンで直接攻撃すれば自分が勝つ――そう思い描いていた未来は、たった1枚の罠カードによって閉ざされてしまった。1ターン目で攻守0の状態で特殊召喚され、3ターン目で《アドバンス・ドロー》のコストとなり、現在4ターン目でオッドアイズに破壊されたダークネスメタルドラゴンが、まるで龍姫の前に守護竜の如く立ちはだかる。勝利を目前にしてこの仕打ち――これは何かの悪い夢なのかとさえ思ってしまう。
しかし、これは現実。ソード・フィッシュのサフィラへの攻撃は通らず、手札にはこの状況を打破できるカードもない。さらには先のオッドアイズとダークネスメタルドラゴンの相討ちでアクションフィールドはボロボロの状態だ。これではアクションカードも満足に探せず、探そうとしても1分の時間経過で失格になるだろう。ここまで来ると遊矢が取れる行動は限られ――
「……俺は…攻撃を中断する……カードを1枚、伏せて…ターンエンドだ…」
――それは自然とターン終了まで流れる。ソード・フィッシュの効果によって相手のドラゴン族を弱体化し、カレイド・スコーピオンの効果でオッドアイズの連続攻撃で一掃。あとは直接攻撃を決めるだけ――しかし、それさえも許さない龍姫のデュエルタクティクスが1枚上手だった。遊矢はこのターンで仕留めきれなかったことを悔やみながら頬に汗が滴るのを感じる。
だが、遊矢自身勝負を諦めた訳ではない。残りライフポイント100で低攻撃力モンスターを攻撃表示で晒してしまっているが、たった今遊矢が伏せたカードは《エンタメ・フラッシュ》。このカードは自分の場に『EM』モンスターが存在する場合に発動でき、相手モンスターを全て守備表示にし、そのターン表示形式の変更をできなくするフリーチェーンの罠カードだ。龍姫が大量召喚することは先の戦術でわかっており、バトルフェイズに入ったところで《エンタメ・フラッシュ》を発動。次の自分のターンで再びカレイド・スコーピオンとオッドアイズの連続攻撃コンボでフィールドを一掃し、今度こそ直接攻撃を決めれば勝てると考えていた。
あと少し、もう少しで今まで辛酸を舐めさせられていた相手に勝てると思っている遊矢は胸の鼓動が高鳴っていることを感じる。まるで父榊遊勝が華麗にアクションデュエルを披露し、それに胸を躍らせた時に似た高揚感。これでやっと龍姫の呪縛から解放され、大きく一歩を踏み出せる――
「――榊、私のターンを始める前に1つだけ聞きたいことがある」
「ん?何だよ橘田」
――そう思っていた矢先、珍しく龍姫がデュエル以外のことで口を開いた。遊矢は既にターンエンドを宣言しているので今は龍姫のドローフェイズ。よって遊矢がアクションデュエルのルールで失格にはならず、この場合は龍姫がそのルールを被ることになる。だがそのことを加味した上で、龍姫は常々思っていた疑問を言葉で吐き出した。
「榊にとってエンタメデュエルって何?」
「…俺にとってのエンタメデュエル?」
‘’エンタメデュエル’’――言葉や文字にすれば意味は何となくわかる。100人が100人、エンターテインメント溢れるデュエルのことだと答えるだろう。しかし龍姫はそんな答えを求めているのではなく、より深い答えを欲している。普段の冷たい眼差しがいつも以上に細められ、先の質問に対する真剣さを遊矢は感じた。生半可な答えでは無礼に当たると察し、遊矢は龍姫と同じく真剣な表情で彼女の質問に答える。
「…みんなを驚かせたり、笑顔にするデュエルかな。どんな方法であれ、見ている人にとって予想外のことをしたり、ワクワクさせるデュエル――それが俺にとってのエンタメデュエルだ」
「……具体的には何をするの?」
「具体的に?うーん……今の俺だとペンデュラム召喚かな。ほら、沢山のモンスターがバァーって出るし、何が出てくるかわからないからワクワクするだろ?それって俺の目指すエンタメデュエルになると思うんだ」
「……そう…」
遊矢の答えに理解する訳でも、納得する訳でもなく龍姫は静かにそう返した。そんな態度に遊矢は少しムっと顔をしかめたが、龍姫はそのままデッキトップのカードをドローし、時間経過による敗北だけを防ぐ。そして手札・フィールドの状況を軽く眺め、再び遊矢に視線を戻した。
「……それじゃあ、今から’’私のエンタメデュエル’’を披露する」
「えっ?」
「まずはダークネスメタルドラゴンの効果を発動。墓地よりシユウドラゴンを特殊召喚する。続けて永続罠《復活の聖刻印》を発動。このカードは相手ターンと自分ターンで異なる効果を発動する――私は自分のターンで使える’’ゲームから除外された『聖刻』モンスター1体を墓地に戻す’’効果を選択。私はこの効果で前のターンで《竜魂の城》の効果によってゲームから除外したトフェニドラゴンを墓地に戻す。そして手札から魔法カード《巨竜の羽ばたき》を発動。自分の場のレベル5以上のドラゴン族1体を手札に戻すことで、お互いのフィールドの魔法・罠カードを全て破壊する」
‘’私のエンタメデュエル’’と言われて一瞬遊矢は反応が遅れ、その間に次から次へと耳に入る龍姫のプレイング用語。そこで最後にあまりにも危険な言葉――’’魔法・罠カードを全て破壊する’’という言葉が聞こえ、遊矢はハっとフィールドの方へ視線を移す。
「何もなければ《巨竜の羽ばたき》の効果処理を行う」
「ま、待って!俺は効果にチェーンして罠カード《エンタメ・フラッシュ》を発動する!このカードの効果で橘田のモンスターを全て守備表示にする!これで橘田のドラゴンの攻撃は通さな――」
「ではまず《エンタメ・フラッシュ》の効果で私のモンスターは全て守備表示になる。次いで《巨竜の羽ばたき》の効果でダークネスメタルドラゴンを手札に戻し、フィールドの魔法・罠カードを全て破壊」
「くっ…」
遊矢が悔しそうな表情をする中、ダークネスメタルドラゴンは巨竜と呼ぶに相応しいその漆黒の翼を大きく羽ばたかせてフィールド全体に突風を起こす。その暴風は遊矢がたった今使った《エンタメ・フラッシュ》はもちろん、ペンデュラムゾーンの《時読みの魔術師》、《星読みの魔術師》さえも巻き込まれ、龍姫の《竜魂の城》と《復活の聖刻印》もその暴風の餌食となる。これで互いに魔法・罠カードは存在しなくなり遊矢の場には3体の『EM』モンスター、龍姫の場には《エンタメ・フラッシュ》の効果で守備表示になった《聖刻龍-シユウドラゴン》1体のみが存在する――そう、このデュエルを見ていた龍姫以外の全員が思った時だ。
「ここで破壊され墓地に送られた《竜魂の城》と《復活の聖刻印》の効果発動。《竜魂の城》が破壊され墓地に送られた時、ゲームから除外されたドラゴン族モンスター1体を特殊召喚できる。《復活の聖刻印》は自身が墓地に送られた場合、墓地から『聖刻』モンスター1体を特殊召喚する――私はこれらの効果でゲームから除外されたサフィラと、墓地にいるトフェニドラゴンを特殊召喚」
「………はぁっ!?」
「私はトフェニドラゴンをリリースして手札の《聖刻龍-ネフテドラゴン》を特殊召喚。トフェニドラゴンがリリースされたことで墓地からレベル2・ドラゴン族・通常チューナーモンスターの《ギャラクシーサーペント》を攻守0にして特殊召喚する。さらにネフテドラゴンのモンスター効果発動。手札・場の『聖刻』モンスター1体をリリースし、相手モンスター1体を破壊する。私は手札に存在するシユウドラゴンをリリースし、カレイド・スコーピオンを破壊」
「え、ちょ――」
「リリースされたシユウドラゴンのモンスター効果発動。墓地よりレベル6・ドラゴン族・通常モンスター《エレキテルドラゴン》を攻守0にして特殊召喚――私はレベル5・光属性のネフテドラゴンにレベル2の《ギャラクシーサーペント》をチューニング。光の君主たる聖竜よ、その眩き光で全てを浄化せよ! シンクロ召喚! 光臨せよ! レベル7、《ライトロード・アーク ミカエル》!」
「ここでシンクロ召喚!?くっ、このままじゃ――」
「私はここで手札から《聖刻龍-アセトドラゴン》をリリースなしで召喚。このカードは攻撃力を1000にすることでリリースなしで手札から召喚できる――そしてアセトドラゴンのモンスター効果発動。私のドラゴン族・通常モンスター1体を選択し、フィールドの『聖刻』モンスターは全てその選択したモンスターと同じレベルになる。私はレベル6の《エレキテルドラゴン》を選択し、アセトドラゴンのレベルを6に。私はレベル6となったアセトドラゴンと《エレキテルドラゴン》でオーバーレイ。2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築――稲妻の如き光放ち、護りの白き盾となれ! エクシーズ召喚! 光臨せよ、ランク6! 《フォトン・ストリーク・バウンサー》!」
「え、エクシーズ召喚まで――」
「そして魔法カード《龍の鏡》を発動。私のフィールド・墓地から融合モンスターによって決められたモンスターをゲームから除外し、ドラゴン族の融合モンスター1体を融合召喚する――私はフィールドの戦士族モンスター《フォトン・ストリーク・バウンサー》と、墓地のドラゴン族・シンクロモンスターサンサーラをゲームから除外。竜の波動を写す竜騎士よ、疾風の速さを以て敵を穿て! 融合召喚! 現れよ、レベル10! 《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》!」
「ゆ、融合召喚!?ちょっと待て橘田!お前いつの間に融合まで――」
「ドラゴエクィテスの効果発動。このカードは1ターンに1度、墓地のドラゴン族・シンクロモンスター1体をゲームから除外し、そのモンスターと同名カードとして扱い同じ効果を得る。私は墓地の《星態龍》をゲームから除外し、その効果をドラゴエクィテスが得る――さらにフィールドのシユウドラゴンをゲームから除外し、《巨竜の羽ばたき》の効果で手札に戻ったダークネスメタルドラゴンを特殊召喚。そしてダークネスメタルドラゴンの効果を発動する。私は墓地のガイアドラグーンを特殊召喚」
「なっ――そ、そんな…」
先ほどまでモンスター1体しか存在しなかったフィールドから突然2体の上級ドラゴンが現れ、さらにそこからシンクロ召喚・エクシーズ召喚・融合召喚に繋げては暴力的なまでの戦線に整える。
攻撃力2500、ドロー&墓地肥やし、ハンデス、光属性サルベージの3種の効果を持ったレベル6・光属性・ドラゴン族・儀式モンスターの《竜姫神サフィラ》。
攻撃力2600、ライフコストこそ要求するが万能除去効果を持ったレベル7・光属性・ドラゴン族・シンクロモンスターの《ライトロード・アーク ミカエル》。
同じく攻撃力2600、比較的容易なエクシーズ召喚条件と貫通効果を持ったランク7・風属性・ドラゴン族・エクシーズモンスターの《迅雷の騎士ガイアドラグーン》。
攻撃力3200というド級のパワーを持ち、自身の効果で墓地のドラゴン族・シンクロモンスターをゲームから除外することでそのモンスターの写し身となるレベル10・風属性・ドラゴン族・融合モンスターの《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》。
攻撃力2800であまりにも簡単な召喚ルール効果、手札・墓地から何の制限もなしでドラゴン族を特殊召喚する汎用性の高さを持つレベル10・闇属性・ドラゴン族・効果モンスターの《レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン》。
ドラゴンという神話の世界でしか語られない生物が、文字通りカードの枠を超えて揃っている光景は圧巻の一言に尽きるだろう。先程まで龍姫が異なる召喚方法を繰り出しては一々驚いていた遊矢だが、流石にこの状況を目の当たりにすると言葉も出ない。各ドラゴンが持つ圧倒的な強者としてのオーラが遊矢の全身にヒシヒシと伝わり、その強大さを感じた瞬間、遊矢は自分が震えていることに気付く。
しかし、この震えは恐怖や緊張からくるものではなく――感動によって生まれたものだ。
(…すごいな、橘田は……さっき俺が『何が出るかわからないからワクワクする』って言ったことを、このデュエルで表現してる。ペンデュラム召喚じゃなくても、何が出るかわからないワクワクは伝えられるんだな。それにこのデュエル中、ずっと俺は驚いてばっかりだった――融合、儀式、シンクロ、エクシーズのどの召喚方法をするのか、どのモンスターを召喚するのか……それが橘田の人に驚きやワクワクを与えるデュエル、これが橘田の’’エンタメデュエル’’なんだ…)
ふと、遊矢は静かに笑みを浮かべていた。圧倒的な劣勢の中で出た苦笑いでも、頭がどうにかなって出た笑いという訳でもない。ただ、’’エンタメデュエル’’の在り方は1つじゃないと気付いたからだ。
見ている人に驚きやワクワクを与える方法は1つではない。デュエリストの数だけ、デュエルの数だけ、デッキの数だけ、それらの組み合わせによって無限の可能性を生み出す。
そして今遊矢の眼前に広がる光景が、龍姫の――龍姫流の’’エンタメデュエル’’。儀式・融合・シンクロ・エクシーズ、ペンデュラム以外の全ての召喚方法を用いてドラゴンを並べる。これを驚かずして何と言うか。
今まで外敵に酷く怯える子リスのような態度はどこへやら、遊矢は顔をしっかりと上げて対峙する龍姫の方へと目を向けた。ダークネスメタルドラゴンの背に座っている彼女は依然表情に変わりはないが、この状況を作り出したことにどこか満足気な雰囲気を感じられ、遊矢は今まで龍姫に抱いていた恐怖や軽蔑などの感情が消える。昔こそはただのリアリストだと思っていたものの、今の遊矢にとって龍姫は’’エンタメデュエリスト’’だ。そんな彼女に前述の感情を抱くのは無礼だろうという考えが遊矢の頭に浮かぶ。
が――
「――あれ?」
「……何を呆けていたの、榊?」
――ふと遊矢が視線を龍姫から自分の周囲へ移すと、いつの間にか四方に巨大なそり立つ壁が立っていることに気付く。尤も正しくは壁でなくドラゴンであり、右前をサフィラ、左前をドラゴエクィテス、右後をミカエル、左後をガイアドラグーン、目の前にはダークネスメタルドラゴンと龍姫という豪勢な布陣。一瞬状況を理解できずに目が点になった遊矢だが、すぐに自分の置かれた状況を察する。
「え、いや――何これ!?何で俺囲まれてるんだよ!?」
「アクション魔法を取られたら困る――ので、閉じ込めた」
「……はぁっ!?」
別にルール違反ではない。アクションデュエルはその特性上アクション魔法を使用すれば自分が有利になり、相手は不利になる――また、その逆も然り。それならばアクション魔法を取られなければ良いという考えの下、相手の行動を妨害・抑制することも立派な戦術なのだ。実際、遊矢は以前LDSとの3番勝負の折に北斗のエースモンスター《セイクリッド・プレアデス》で妨害された経験もあるので、そういったプレイングも有効的であることは知っている。
だが現在の状況を整理すると、有効的どころの話ではない。相手の場には攻撃力2500超えのドラゴン族が5体。自分の場には攻撃力1700のウィップ・バイパー、攻撃力600のソード・フィッシュが棒立ち。魔法・罠カードはペンデュラムゾーンを含めて《巨竜の羽ばたき》で全て破壊された。そして龍姫のドラゴンに周りを囲まれているのでアクションカードを取りにいけない――少年よ、これが絶望だ。
「…バトル。ダークネスメタルドラゴンでソード・フィッシュに攻撃――ダークネスメタルフレア…!」
「え、ちょ――っ!!」
今まで散々弱体化されたドラゴン達の恨みを一身に受けたソード・フィッシュは、その身をダークネスメタルドラゴンの漆黒の炎に焼かれ、こんがりと香ばしい焦げ目のついた焼き魚へと姿を変える。そして放たれた炎の向きが悪かったのか、遊矢の首から上も焼き魚へと変貌したソード・フィッシュと同じ焦げ色になり、その瞬間デュエルディスクから遊矢のライフポイントが0になったことを告げる音がフィールドに響いた。
――――――――
「遊矢!」
「遊矢兄ちゃん!」
デュエルが終わり、アクションフィールドを形成していたソリッドビジョンが光の粒子となって消える。その直後に観戦していた柚子とタツヤは床に仰向けのまま大の字になっている遊矢の元へ駆けつけた。
以前と同じ――もしくはそれ以上に凄惨な負け方をした遊矢の心は大丈夫なのか、またあの時のようにゴーグルをかけてしまうのかと柚子達の不安は募る。かなりのショックを受けているであろう遊矢の顔を2人が覗き込むと――
「――えっ?」
「遊矢…兄ちゃん?」
――意外なことに遊矢は絶望した顔も、落ち込んだ顔も、悔しそうな顔も、泣きそうな顔のどれでもない。ただ、優しそうな笑み――それも澄んだ表情で、まるで何か憑き物が落ちたような顔のそれだった。
「――悪いみんな、あれだけ大きいこと言っておきながら負けた」
「え、あ……た、確かに負けちゃったけど…」
「ゆ、遊矢兄ちゃんは大丈夫なの?」
遊矢の言葉は妙に落ち着いており、その声色からも敗北したショックや悔しさは感じられない。予想外な反応に柚子とタツヤは戸惑う。もしや先のアクションデュエルで頭でも打ってしまったのかと別な心配をしていると、いつの間にか龍姫が遊矢達の方へと歩を進め、遊矢の顔がよく見える位置で足を止める。
「…橘田……」
「…榊、良いデュエルだった。ありがとう」
「――お礼を言うのは俺の方だ。橘田、お前のエンタメデュエル…見せてもらったよ。ありがとう」
「そう」
龍姫はそう短く返した。遊矢の言葉がちゃんと伝わったのかはわからない。しかし、それでも遊矢はこの時だけは何となく龍姫が微笑んでいるように見えた――尤も、遊矢の目にはそう見えただけであり、傍から見れば普段と同じ仏頂面のままではあるのだが。
「…なぁ橘田。お前もジュニアユース選手権に出るんだろ?」
「…それがどうかした?」
「今回の負け――いや、今までの負けの分を全部。その全部をジュニアユース選手権で返す」
「……返せるものなら…」
そして静かに宣戦布告。先日、遊矢が沢渡にされた時と似ているがあれとは似て非なる。確かに沢渡とは少なからず因縁はあるだろう――しかし、遊矢にとって龍姫はジュニア時代からの因縁。自分の臆する相手であり、壁となる人物との決着はこの場ではなくジュニアユース選手権こそが相応しい。
「言ったな橘田? 今度こそ勝ってやる…その時までお楽しみは取っておいてくれよ」
「…頭には入れておく。それと榊、私のことは橘田と呼ばないで龍姫で呼んで欲しい。名字だとタツヤと被る」
「……あぁ、わかったよ龍姫」
ある偉大なデュエリストが言った。‘’デュエルとは人と人を繋げる神聖なもの’’と。1回デュエルしてダメなら2回。2回デュエルしてダメなら3回――わかり合えずとも、わかり合うまでデュエルすれば良い。そして遊矢と龍姫の6回目となるデュエル、今回でやっとお互いの気持ちをわかり合えることができるデュエルをしたと言っても良いだろう。互いにこれ以上の言葉を介さずとも、その心の内はわかっている。その2人の表情はどこか満足気に見えなくもない。
「よーし龍姫、それじゃあ次は僕とデュエルだっ!」
「――っ、構わない」
デュエルが終わってから素良はずっと沈黙を保っていた――いや、我慢していたと言った方が正しい。そんな我慢の限界を迎えた素良は抱きつくように龍姫の腰に飛びつき、やや対処に困りながらも龍姫はそのまま自然な流れでのデュエルを了承した。
そんな時、ふと遊矢の視界にあるものが映った。仰向けで倒れている自分の頭上で龍姫のミニスカートは素良が腰に飛びつかれたことで、ふわりと布地が舞いその中の純白+αのものが網膜に焼きつく。それを近距離で見てしまったものだから、つい遊矢は溢すように口を開いてしまった。
「……龍姫って、《ベビードラゴン》がプリントされたパンツ穿いてるんだな」
刹那。その場の空気は冷氷が割れるようにピキっと鳴った。
龍姫はゆっくりと顔を遊矢に向け、柚子はどこからかハリセンを取り出す。普段は全く表情を変えることのない龍姫は器用に耳だけが真っ赤に染まり、その顔は龍の逆鱗に触れた如くおぞましい。対して柚子は同じ女子として遊矢のデリカシーのなさ、そして純粋な正義感で顔がプルプルと震えている。そして――
「この――馬鹿遊矢ぁあああああああぁっ!!」
「え、あっ――」
柚子が振り下ろしたハリセンは遊矢の腹部に当たり鈍い音を響かせ、龍姫は無言で遊矢の顔を踏みつけるように蹴る。女子2人の同時攻撃を仰向けに倒れていた遊矢に回避する術はなく、先のデュエルで崖から転がり落ちた時より激しい痛みを感じながらその意識は闇の中に飛んでいった。
「…タツヤ、時間的に遅くなったから帰る」
「あ、はい…」
怒り心頭といった様の龍姫は普段以上に冷たい声を放ち、弟のタツヤは従順にそれに従う。龍姫はツカツカと歩き遊矢の方を振り返ることなくデュエルフィールドを後にする。
柚子は未だに収まらない怒りで体を震わせるも、流石にこれ以上の追撃は可哀相だと理性が働いて龍姫達の後を追うようにデュエルフィールドから出て行き、管制室に居た修造はその愛娘の後を慌てて追う。
そして最後に龍姫とのデュエル待ちをしていた素良は完全に気を失った遊矢相手に同情の眼差しを向け、誰にも聞こえないであろう声でポツリと呟いた。
「遊矢は負けの借りを返す前にもうちょっと女の子の扱い方を学んだ方が良いかもね…」
(無言の《スタンピング・クラッシュ》)by龍姫
今回クールな主人公しか出てなくてすいません。デュエル中は基本的に真面目にしようと思い、余計なネタを(極力)挟まずにする場合はこの形になることをご了承下さい。
オマケ
今回登場したアクション魔法
《ドラゴン・ダイブ》
アクション魔法
(1):自分フィールド上の表側表示モンスター1体を対象にして発動できる。そのモンスターはターン終了時まで攻撃力が1000ポイントアップする。
※アニメで出た《エクストリーム・ソード》や《ハイダイブ》とほぼ同じ。
《巨竜の咆哮》
アクション魔法
(1):相手フィールド上の表側表示で存在する全てのモンスターの攻撃力は、ターン終了時まで自分フィールド上に表側表示で存在する一番レベルが高いモンスターのレベル×100ポイントダウンする。
補足:最初にソード・フィッシュの②の効果が召喚にも対応していると勘違いし、龍姫のライフ調整用に登場させたカード。《強者の苦痛》の亜種みたいなもの。
今回のデュエル構成では大分アクション魔法に助けてもらった感があるので、次回はスタンディングで真っ当なデュエルにしたいです。前回・今回と結果的には圧勝(残りLP100)だったので、今度こそまともなデュエルを…!
また、ストーリー・デュエルの構成の構想、及び別作品の執筆もするので少々時間を頂きます。
P.S.
日刊ランキングにこの作品の名前があってビビりました(昨日)