遊戯王ARC-V LDS総合コースの竜姫   作:紅緋

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最後までお楽しみ頂ければ幸いです。


エピローグ④:≪次元障壁≫(リセット)

 

「……私のターン」

 

 龍姫は静かにデッキトップからカードを引く。本来であれば前のターンに≪サフィラ≫の効果で手札を補充し、このターンで攻勢に出るハズだったが、遊矢が繰り出した四天の龍で完全に想定が狂ってしまった。

 普段は無表情な彼女にしては珍しく、眉間に皺を寄せて視線を手札と遊矢の場に交互。手札、と言っても僅か2枚しかないので出せる手は限られている。さらには場の≪クリアウィング≫の存在でレベル5以上のドラゴンの効果を使っただけでも即死。攻撃力2500オーバーのドラゴン4体を前に、攻撃力2500の≪サフィラ≫1体と2枚の手札でどう対処すれば良いのか──と、龍姫が考えること3秒(・・)

 

(──全部、正面から叩き潰す)

 

 ドラゴン使いなら小細工など不要。ただ純粋にその強大な力を振るうのみ。相手の策も罠も天災が如く荒らし、全て壊せばいいだけという結論に至るのに時間はかからなかった。

 

「スケール3の≪竜角の狩猟者≫とスケール7の≪閃光の騎士≫でレベル4から6のモンスターをペンデュラム召喚する。エクストラデッキより、≪竜剣士マスターP≫、≪竜魔王ベクターP≫、≪イーサル・ウェポン≫の3体をペンデュラム召喚。≪イーサル・ウェポン≫の特殊召喚成功時の効果は使わない」

 

 一挙に3体のドラゴンのペンデュラム召喚。先攻1ターン目では八面六臂の展開力で活躍した剣士と魔王が揃い立ち、四天の龍と対峙。エクストラデッキからの特殊召喚による勝負は負けられない、とばかりに竜の剣士と魔王は対抗心むき出しで構える──

 

「≪竜剣士マスターP≫と≪竜魔王ベクターP≫をリリースし──≪真竜剣士マスター(ピース)≫を手札から特殊召喚」

 

 ──しかし、その構えた時間は一拍のみ。龍姫に抗議の声を上げる間もなく、白と黒の粒子となって霧散(リリース)

 光と闇。剣士と魔王。相反する2つの竜魂が重なり、金色の光となって龍姫の場に降り立つ。

 最高傑作(マスターピース)の名に恥じぬ神々しい光を背に、剣士の名の通り大剣と大盾を携えた金色の竜人──≪真竜剣士マスターP≫がその姿を顕現する。

 

「≪真竜剣士≫は1ターンに1度、魔法・罠・効果モンスターの効果の発動を無効にし破壊する効果を持つ」

「──っ、≪クリアウィング≫対策か……!」

 

 打てば響くが如く対策を講じる龍姫に遊矢は顔を顰めた。苦労して出したにもかかわらず、さらに龍姫の≪サフィラ≫以外を全滅させた状況で、あっさりとこのようなドラゴンを呼び出してくるのだからたまったものではない。

 しかし、ペンデュラム召喚からのリリースによる特殊召喚(・・・・)で龍姫の場のドラゴンの数自体は減った。攻撃力も≪ダーク・リベリオン≫の4000を超えるようなドラゴンは居らず、少なくともこのターンで四天の龍が全滅することはないだろうと、遊矢は冷や汗をかきながら龍姫の圧に呑まれまいと強い眼差しを向けていた。

 

「≪霊廟の守護者≫をリリースし、手札から≪八俣大蛇(ヤマタノオロチ)≫をアドバンス召喚」

「……≪八俣大蛇≫?」

 

 しかし、その眼差しが点になる。今まで龍姫は2ターン連続でエクストラデッキから数多のドラゴンを繰り出してきたが、ここにきて急にメインデッキのドラゴンに戦術をシフト。展開手段がなかったのかと遊矢が察するのも束の間、観戦していた零児の目が大きく見開く。

 

「マズい……! 遊矢ッ!! あのドラゴンの攻撃だけは何としても止めろ!!」

「えっ、何言ってんだよ零児。攻撃力2600なら≪オッドアイズ≫か≪クリアウィング≫を攻撃されてもダメージは100──」

「──その100ダメージが命取りだ!!」

 

 零児の焦りを遊矢が理解できない中、龍姫は静かに『≪八俣大蛇≫で≪クリアウィング≫に攻撃』と宣言。その名の通り八つ首が≪クリアウィング≫に矢のように飛び、その四肢と翼、尾や胴体を容赦なく咬み潰す。

 戦闘破壊されることが確定した状態での戦闘ダメージの発生に、龍姫は口角をつり上げ不器用な笑みを見せる。

 

「≪八俣大蛇≫の効果。相手に戦闘ダメージを与えた時、私は手札が5枚になるようにドローする」

「……えっ」

「くっ、止められなかったか……!」

 

 ポカン、と思わず口が開く遊矢。

 戦闘ダメージを与えたら、手札が5枚になるまでドローするなんて、あまりにもふざけた効果だ。シンクロ次元のクロウの言葉を借りるなら『インチキ効果も大概にしやがれ!』と遊矢は叫びたいほどであった。

 

「5枚ドロー……次。≪真竜剣士≫で≪スターヴ・ヴェノム≫に攻撃」

 

 ドローした5枚のカードを一瞥し、龍姫はすぐに次の攻撃命令。

 ≪真竜剣士≫が一瞬で間合いを詰め、逆袈裟切りの形で≪スターヴ・ヴェノム≫を両断。

 あえなく≪スターヴ・ヴェノム≫は破壊──される最中。 斬られた痕から紫色の粒子が血飛沫の雨となって龍姫のフィールドへと降り注ぐ。

 

「破壊された≪スターヴ・ヴェノム≫の効果発動! 融合召喚したコイツが破壊された場合、相手の特殊召喚したモンスターを全て破壊する!」

「無駄。≪真竜剣士≫の効果で無効にする」

「──っ」

 

 ≪スターヴ・ヴェノム≫の決死の反撃も届かず。最高位の竜剣士が盾を天へかざし、薄青色の障壁がフィールドを包んでドラゴン全てを毒の雨から守り抜く。

 ≪クリアウィング≫対策だろうとタカをくくっていたものが、≪スターヴ・ヴェノム≫対策になったことに目を伏せるべきか、後の(・・)カードの発動のために使わせたと安堵すべきか。

 遊矢は唇を噛み締め、残った半数になった四天の龍に目を向ける。

 

「≪サフィラ≫で≪オッドアイズ≫に攻撃──≪サフィラ≫は≪安全地帯≫の効果で破壊されない」

「くっ……!」

 

 さらに残った内の1体も容赦なく竜姫の光であっさりと昇天。攻撃力こそ同じだったが、破壊耐性を付与された≪サフィラ≫相手に相討ちすら許されない結果に顔を顰める。

 

「メイン2。≪イーサル・ウェポン≫をリリースし、魔法カード≪痛み分け≫を発動。遊矢、自分のモンスターを1体選んでリリースして」

「選ぶも何も≪ダーク・リベリオン≫しかいないだろ……!」

 

 そして4000の攻撃力で戦闘破壊を免れた≪ダーク・リベリオン≫は如何なる耐性も無視する魔法≪痛み分け≫で≪オッドアイズ≫同様に静かに処理。1体は残ると思っていた遊矢のドラゴン達は1ターンで姿を消し、改めて龍姫の容赦ないプレイングに冷や汗をかく。

 

「魔法カード≪竜の霊廟≫を発動。デッキからドラゴン1体を墓地に送り、その子が通常モンスターならさらにドラゴン1体を墓地に送る。私はデッキから≪ダークストーム・ドラゴン≫を墓地に送り、この子はデュアルモンスターだから墓地だと通常モンスター。追加でデッキから≪アークブレイブドラゴン≫を墓地に送る」

 

 前の業火の如く苛烈な攻めとは対照的に、氷刃の如く冷酷な一手を重ねていく龍姫。1体ずつ的確に、まるでキャベツの葉を1枚ずつ剥いていくように作業的──否。冷酷的に処理していく様は一種の恐怖だ。

 

「魔法カード≪復活の福音≫を発動。墓地のレベル7・8のドラゴン1体を蘇生する。私が蘇生させるのは≪アークブレイブ≫。そして墓地からの特殊召喚に成功した≪アークブレイブ≫の効果発動。この子が墓地からの特殊主召喚に成功した時、相手の表側の魔法・罠カードを全て除外(・・)する」

「なっ──除外だって!?」

 

 龍姫が1度墓地に送ってから蘇生させた≪アークブレイブ≫の効果に遊矢は目を見開く。破壊されるだけであればペンデュラムモンスターならエクストラデッキに戻り再利用できるが、除外となれば話は別。

 

(いや、まさか……!?)

 

 しかし、その中で遊矢は気づく。

 以前、龍姫とデュエルした時にペンデュラムモンスターがエクストラデッキに戻ることで、容易な再召喚での大量展開が可能となっていた。それを除外により再利用を防ぐのは、明確な龍姫のペンデュラム封じ。

 過去に沢渡がデッキ戻しで対策したのと同様、場合によってはそれよりも凶悪な除外という手段でもっての対策(メタ)に遊矢の背筋が凍る。

 

「遊矢の場の≪天空の虹彩≫、≪オッドアイズ・アークペンデュラム≫の2枚を除外」

「ぐっ……!」

 

 次元の彼方に消え去る【オッドアイズ】カードに対し、遊矢が取れる手はない。ただ静かに消えゆく姿を見るだけ。

 

「私はレベル7の≪八俣大蛇≫と≪アークブレイブ≫でオーバーレイネットワークを構築。呪われし、忌まわしき、地獄の邪竜よ。今こそその暴虐を解き放て──エクシーズ召喚、顕現せよ、ランク7。≪撃滅竜ダーク・アームド≫」

「ランク7のエクシーズっ!?」

 

 続けて龍姫が出したドラゴンは黒鉄の暴竜。かつてはメインデッキに入っており、勝利至上主義時代のエースとも言うべきドラゴンが、その姿と力を邪竜へと変貌させた。

 その邪竜≪ダーク・アームド≫が持つ威圧感は≪サフィラ≫の持つ神々しいものでもなければ、≪真竜剣士≫のような清廉さでもない。

 ただの──破壊の化身である。

 

「≪撃滅竜≫の効果。オーバーレイ・ユニットを1つ取り除き、相手場のカードを1枚を対象に発動。そのカードを破壊する──この効果にはターン制限はない」

「──っ、罠カード≪裁きの天秤≫を発動! チェーンして速攻魔法≪非常食≫で≪裁きの天秤≫を墓地に送り、オレのライフを1000回復する!」

 

 そしていざその暴力が振るわれんとした最中。遊矢は龍姫が小さく発した『ターン制限はない』の一言で即座にセットカードを露にした。

 1枚は罠、1枚は速攻魔法。≪非常食≫自体は遊矢はもちろん、ユートが愛用していたカードだったので今更説明は不要。だがもう1枚の罠≪裁きの天秤≫を目にした龍姫は、不機嫌そうに目を細める。

 

「まずは≪非常食≫の効果で1000回復し──次に≪裁きの天秤≫の効果でオレの手札・場と、龍姫の場のカードの数の差だけオレはドローする! オレの場には≪非常食≫の1枚! 対して龍姫の場には8枚のカード! よってオレは7枚ドロー!!」

 

 龍姫の5枚ドローに対抗するような7枚のドロー。常であればペンデュラムデッキとの相性は最悪に近いハズだが、遊矢のこれまでの経験で劣勢に立たされることが多く、その度に深刻な手札不足に悩まされてきた。また、その時の相手がペンデュラムカードの使用や、零児のような永続カードを多用することが多かっただけに、大量ドローを見込めるこのカードの存在は遊矢にとって天啓に等しい。

 その甲斐あってか龍姫を相手に7枚もの大量ドロー。既にバトルフェイズも終え、反撃の芽を摘むどころか、成長させてしまった結果に龍姫は口をへの字にして紡ぐ。

 

「……私はリバースカードを2枚セットしエンドフェイズに移行。≪サフィラ≫の効果でデッキから2枚ドローし、1枚捨てる」

 

 仕方なし、とばかりに龍姫は残っていた手札のセットと、エースカードの効果で手札を増強。盤面だけならば圧倒的に優位な状況には持ち込むことができた。

 

「オレのターン、ドロー」

「このタイミング(スタンバイフェイズ)で墓地に送られていた≪アークブレイブ≫の効果。墓地からレベル7・8のドラゴンを1体復活させる──蘇れ≪巨神竜フェルグラント≫。そして効果。相手場・墓地のモンスター1体を除外し、その除外したレベル・ランクの100倍攻撃力がアップ。≪クリアウィング≫を除外し攻撃力は3500」

「墓地のカードまで除外してくるのか……!」

 

 いざ自分のターンになっても行動する前に龍姫が動き、遊矢は半ば辟易したように本日何度目かわからない冷や汗をかく。

 

 龍姫の場には≪サフィラ≫、≪真竜剣士≫、≪撃滅竜≫、≪巨神竜≫の4体の大型ドラゴン。

 魔法・罠ゾーンには表側の≪安全地帯≫、≪復活の聖刻印≫、≪螺旋槍殺≫と2枚のセットカード。

 手札は1枚のみで、LP2100と半分以上。

 

 対して遊矢の場にカードは一切存在しないものの、手札はドローカードを含めて8枚。

 LP2950と龍姫相手に1000近くは差をつけている。

 

 このターンで決めきれるのかと一瞬悩むが、8枚の手札とエクストラデッキ、墓地のモンスターの状況を頭に流し込み、複雑な電子回路に光が走ったような感覚を覚えた。

 

(この手順なら……!)

 

 そのためには龍姫の場のカードに不安要素が多い。先ずはこちらを何とかしなければと、遊矢は1枚の手札に指をかける。

 

「手札から魔法カード≪EMキャスト・チェンジ≫を発動! 手札の【EM】を任意の枚数見せ、そのカードをデッキに戻して、戻した枚数に1枚加えてドロー──」

「──させない。≪真竜剣士≫の効果でその効果を無効にして破壊する」

 

 しかし、その1枚は龍姫が即座に対策。既に遊矢には多くの手札があるが、これ以上増やされる、ないしは手札の質を向上されては築き上げた盤面がまた更地にされてしまうと、龍姫は先手必勝とばかりに最初に妨害を吐いた──そして、その行動に遊矢はニヤリと笑みを見せた。

 

「速攻魔法≪魔力の泉≫を発動ッ! 相手の魔法・罠カードはこのターン破壊されず、その表側カードの数だけオレはドローし、その後自分の表側魔法・罠の数だけ手札を捨てる! 龍姫の表側魔法・罠はペンデュラムゾーンを含めて5枚! よってオレは5枚ドローし、表側の≪魔力の泉≫の1枚分、手札を捨てる!」

「──っ」

 

 しまった、と龍姫が内心で思うのも時すでに遅し。

 先手で妨害を吐いたのではなく、吐かされた──このドローで遊矢の手札は一挙に10枚。龍姫の場のカードの数の数に迫る枚数を引き、龍姫の中で警鐘が鳴る。

 

「魔法カード≪シャッフルリボーン≫発動! 自分場にモンスターがいない時、墓地のモンスターを効果を無効にして特殊召喚する! オレは≪ダーク・リベリオン≫を特殊召喚する! 次に魔法カード≪死者蘇生≫! 墓地の≪スターヴ・ヴェノム≫を特殊召喚!」

 

 その警鐘の通りと言ってしまえば聞こえは悪いが、遊矢の場に2体のドラゴンが復活。内1体は効果が無効になっているとは言え、未だ遊矢の手札は8枚もある。ここからさらなる展開をしてくることの想像は容易であり、龍姫はキッと遊矢の繰り出すドラゴンに刮目。

 

「手札を1枚捨て装備魔法≪(ディファレント)(ディメンション)(リバイバル)≫を発動! 除外されている≪クリアウィング≫を特殊召喚し、このカードを装備する!」

「また……!」

 

 前のターンで葬ったドラゴン達が続々と復活していく様に龍姫は苛立ちと呆れを覚える。ペンデュラムモンスターでないにも関わらず、まるでゾンビのように何度でも蘇るのは一種の恐怖に近い。

 しかし、それでも龍姫の場に攻撃力で勝るのはかろうじて≪スターヴ・ヴェノム≫だけ。この状況なら恐れるに足らず、と龍姫は半ば自分に言い聞かせるように内心で呟く。

 

「手札からスケール8の≪相克の魔術師≫とスケール3の≪相生の魔術師≫をペンデュラムスケールにセッティング! これでレベル4から7のモンスターを同時に召喚可能! 再び現れろ、オレのモンスター! エクストラデッキより≪オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン≫!!」

 

 龍姫がそんな胸中を抱いているとは知らず、遊矢はペンデュラムスケールを改めて構築。そこから再度≪オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン≫のペンデュラム召喚の流れまで繋げ、再び遊矢の場に四天の龍が集う。

 

「オレは墓地のチューナーモンスター≪調律の魔術師≫の効果発動! このカードが手札・墓地にいて【魔術師】がペンデュラムゾーンにある時、自身を特殊召喚する!」

「自己蘇生持ちのチューナー……!?」

「そして≪調律の魔術師≫が召喚・特殊召喚に成功した時、相手は400回復し、自分は400ダメージを受ける……!」

 

 遂には場に5体のモンスターを揃えた遊矢。場のモンスターもレベル1から8、融合からペンデュラムと様々。ライフポイントこそ2550にまで減ったが、それもライフポイント2500となった龍姫とは些細な差。遊矢は苦しそうな表情から一転、ニヤリと笑みを浮かべて高らかに声を上げる。

 

「オレはレベル7の≪クリアウィング≫にレベル1・闇属性の≪調律の魔術師≫をチューニング! 光輝く翼よ、調べを律する魔術師と共に、覇道の頂きへと舞い上がれ! シンクロ召喚! 烈破の慧眼輝けし竜! ≪覇王白竜オッドアイズ・ウィング・ドラゴン≫!!」

 

 先ず白き覇王竜が風のように先陣を切り。

 

「まだだ! オレは魔法カード≪オッドアイズ・フュージョン≫を発動! 手札・場からドラゴン族の融合モンスターを融合召喚! オレは場の≪スターヴ・ヴェノム≫と手札の≪オッドアイズ・セイバー・ドラゴン≫を融合! 二色の眼と刃持つ竜よ、毒持つ竜と1つになりて、覇道へ導く力となれ! 融合召喚! 慈愛の玉眼輝けし竜! ≪覇王紫竜オッドアイズ・ヴェノム・ドラゴン≫!!」

 

 次いで紫玉の覇王竜がその輝きで道を作り。

 

「最後だ! ≪相克≫と≪相生≫のそれぞれのペンデュラム効果発動! ≪ダーク・リベリオン≫のランクを4から7にし、エクシーズ召喚の素材とすることができる! オレはレベル7の≪オッドアイズ≫と≪ダーク・リベリオン≫でオーバーレイ・ネットワークを構築! 二色の眼の龍よ! その黒き逆鱗を震わせ、刃向かう敵を殲滅せよ! エクシーズ召喚! 怒りの眼輝けし龍! ≪覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン≫!」

 

 終には黒き覇王竜がその(あぎと)を震わせる。

 

 白き体躯に光輝く翼を持ち烈風纏いし覇王白竜──≪オッドアイズ・ウィング≫。

 紫玉の身に花弁が如く龍鱗を咲かせし覇王紫竜──≪オッドアイズ・ヴェノム≫。

 黒の逆鱗を震わせて、翼に紫電を放つ覇王黒龍──≪オッドアイズ・リベリオン≫。

 

 融合・シンクロ・エクシーズの名を冠するドラゴンらに、ペンデュラムの力が付与された3体の【覇王】。

 1体1体がそれだけで強大な威圧感を放っているにも関わらず、それが3体ともなればその存在感は計り知れない。

 現に平時であれば狂喜乱舞を内心で踊っていたであろう龍姫も、この時ばかりはハッキリとポーカーフェイスが崩れ驚愕と恐怖、困惑と興奮が入り乱れる百面相で情緒が崩壊していた。

 

「≪オッドアイズ・ヴェノム≫の効果! 相手モンスター1体を対象にそのモンスターの攻撃力を自身に加算し、さらにその名と効果を得る! 対象は≪真竜剣士マスターP≫!!」

「≪真竜剣士≫の……!?」

「次は≪オッドアイズ・ウィング≫の効果! 相手モンスター1体を対象にそのモンスターの効果をこのターン無効にする! 対象は≪フェルグラント≫だ!!」

「──っ」

 

 次々と覇王竜らの力で弱体化されていく龍姫のドラゴン達。

 レベルやステータスはおろか攻撃力でさえも上回っており、龍姫に残された手立ては2枚のリバースカードのみ。その状況で相手には如何なる効果も無効・破壊する≪真竜剣士≫の力を得た≪オッドアイズ・ヴェノム≫が居る。

 この2枚のカードに運命が託されたも同然であり、龍姫は静かに、かつ緊張した面持ちで3体の覇王を睨む。

 

「バトルだ! オレは≪オッドアイズ・ヴェノム≫で≪真竜剣士≫に攻撃!!」

「リバースカード≪反射光子流(フォトン・ライジング・ストリーム)≫を発動……! ≪真竜剣士≫の攻撃力を攻撃モンスターの攻撃力分アップする……!」

「≪真竜剣士≫の効果を得た≪オッドアイズ・ヴェノム≫の効果発動! その効果を無効にし、破壊する!」

 

 紫の覇王が竜剣士に迫る。その寸前で龍姫がセットしたカードの1枚を露にするも、即座に足蹴に。

 残ったもう1枚のセットカードも合わせて露になる中、≪オッドアイズ・ヴェノム≫の紫光のドラゴンブレスが≪真竜剣士≫を包み込んでいく。

 

「よしっ! これで3300の戦闘ダメージ! オレの勝ち──」

「──まだ」

 

 塵すら残らないほどの破壊──否、消去に遊矢は破顔。龍姫の手を潰した上で、龍姫が得意とする暴力的なステータスでのフィニッシュに意趣返しとばかりに喜びを見せるも、一拍置き土煙の中から静かに龍姫の声が響く。

 

「まだ──終わっていない……!」

 

 その声色は震えていた──恐怖ではなく、怒りで。

 土煙が晴れた頃には龍姫の顔もハッキリと視認でき、その表情は心なしか遊矢がストロング石島と初めてデュエルした時のそれに酷似していた。

 ありていに言えば──悪足掻き。

 

「まだ、私のライフは残っている……!!」

「──≪スピリットバリア≫……だと……!?」

 

 遊矢のターンで無言を貫いてきた零児の顔が驚愕に染まる。

 今までの龍姫であれば絶対に使うことがなかったカードの使用に対して、だ。

 

「≪スピリットバリア≫は私の場にモンスターが居る限り、私は戦闘ダメージを受けない……! モンスター同士の戦闘で私にダメージを与えることは不可能……!」

「……」

「私の≪サフィラ≫は≪安全地帯≫で守られて如何なる手段でも破壊されない……! それに墓地の≪祝祷の聖歌≫で破壊を免れるから≪安全地帯≫を狙っても無駄……!」

 

 負けない、というよりは倒れないことを重視したコンボ。龍姫を倒すには≪サフィラ≫が倒さなければならず、≪サフィラ≫を倒すには龍姫の幾重にも敷いた防御網を突破しなければならない。

 固執か執念か──≪サフィラ≫だけは絶対に守り切るという龍姫の強い意志は、≪サフィラ≫を倒さなければ自分は絶対に負けないという裏返しでもある。

 そんな龍姫の必死に足掻く様を見て、遊矢は沈黙。

 

 悔しがるでもなく、怒りがこみ上げるでもない──その顔は、どこか哀傷に近かった。

 

 

 

 

 

(何だよ、それ)

 

 遊矢が知っている龍姫は、ドラゴン馬鹿だ。

 ジュニア時代で当たった時や、ジュニアユース選手権前でも、彼女はドラゴン第一の変な奴で、でもすごく強い奴、というのが遊矢の認識だ。

 

 それが今はどうだろうか。

 確かに強さは今までとは比較にならないだろう。融合やシンクロ、エクシーズはおろか、ペンデュラムまで使う上に儀式召喚まで用いるのだから、全ての召喚方法を使うという点においては遊矢自身や零児よりも上だ。

 じゃあドラゴン愛は? と問われれば、エースモンスターの≪龍姫神サフィラ≫に対してだけは変わらない──それ以外は変わった。

 

 そう、変わった。

 変わってしまった。

 龍姫のドラゴンに対する愛情は変わってしまったと、遊矢はわかってしまったのだ。

 今までならいくら手札を使おうが、いくらライフを支払おうが、ドラゴンを出す為ならば身を粉にしてまで出したり。またドラゴンを守る為でも同様に手札もライフも犠牲にするような決闘者だった。

 

 それが今はどうだろうか。

 ≪龍姫神サフィラ≫だけはどんな手を使っても守り、そして自分が倒れない為であれば破壊されても感情が動かない。今までの龍姫ならその反撃というか復讐心に近いものをデュエルでぶつけてきたが、今の龍姫からはそんな感情がデュエルを通しても感じられないのだ。

 

 龍姫自身が生き残る、龍姫自身を守る為ならば≪龍姫神サフィラ≫以外はどうなっても構わないとさえ感じる。

 

 違う。違う違う。違う違う違う。

 遊矢が知っている龍姫はそんな決闘者ではない。

 意地汚く足掻くのはドラゴンを守るためだ。

 自分が負けないために足掻くのは橘田龍姫ではない。

 

 今、遊矢は零児が自分をここに連れて来て、龍姫とデュエルさせたのか、やっと理解できた。

 今の龍姫のデュエルに笑顔はない。

 いつものように馬鹿みたいにドラゴンを出して、馬鹿みたいにドラゴンを愛でて、馬鹿みたいにドラゴンで百面相する龍姫に変える──否。戻さなければならない(・・・・・・・・・・)

 

 じゃあ自分ができることは──と、遊矢は深く深呼吸し、対峙する龍姫を真っ直ぐ見据える。

 

 

 

 

 

「──っ、≪オッドアイズ・ウィング≫で≪巨神竜フェルグラント≫を! ≪オッドアイズ・リベリオン≫で≪撃滅竜ダーク・アームド≫をそれぞれ攻撃だ!」

「でも、戦闘ダメージは受けない……!」

「オレは、カードを1枚セットしてターンエンド!」

 

 ──デュエルしかない。

 デュエルには、人を楽しませる力も、人を傷つける力も、人を悲しませる力も、人を喜ばせる力もある。

 今の遊矢自身のデュエルで、思いっきりぶつかって、龍姫を笑わせてやると、遊矢は意を決し、龍姫に向かって満面の笑みを浮かべて口を開く。

 

「さぁ龍姫、お楽しみはここからだ! 思いっきりぶつかって来い!!」

 

 

 

 

 

 ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ 

 

 

 

 

 

 私は、わからなくなってしまった。

 デュエルが好き。

 ドラゴンが好き。

 ○○王が好き──あれ?

 

 ○戯○って何だっけ……あぁ、そうだデュエルモンスターズだ。

 何でデュエルモンスターズのことを遊○○って言っていたんだっけ?

 うーん……ちょっと思い出せない。

 

 思い出せないと言えば、ジュニアユース選手権前。

 確かあの時''黒咲さん''と模擬デュエル中の事故で私は頭を強く打ったらしい。

 ……らしい、というのが赤馬社長から聞いた話で、どうにも前後の記憶があやふやだった。

 

 ……前後の記憶?

 いや、違う前後だけじゃない。

 もっと前の。もっと昔の。在ったような、無かったような記憶が、私の頭の中に魚の骨みたいに引っかかっている。

 

 私は生まれも育ちも間違いなく舞網市だ。

 物心ついた時からデュエルモンスターズのドラゴンが好きで、将来はドラゴンと戯れ、ドラゴンの活躍を広められるプロ決闘者になりたいという夢があった。それは''中学生''の今でも変わらない。

 

 でも、それと同じように''大学生''の自分の記憶では生物学者になりたいという夢があった。

 架空ではなく、現実のありとあらゆる動植物に触れ、見識を広めるのと広めたいという想いがあった『気がする』。

 

 プロ決闘者になるのにお父さんもお母さんも喜んでくれたし、弟のタツヤも私のデュエルが好きだと言ってくれた。

 生物学者になるのにお父さんもお母さんも反対したけど、お兄ちゃんは『好きなことが一番だ』と応援してくれた。

 

 真澄が居て、北斗が居て、刃が居て、沢渡が居て、デュエル仲間には恵まれている。

 研究室では同級生が居たけど、話も趣味も合わなかったから、1人で籠もっていた。

 

 ──これは何の記憶? 誰の記憶? 私の記憶? 他の記憶?

 まるで二重人格みたいにあるもう1つの記憶は異物のように気持ち悪く、何が何だかわからない。

 病室では何度も吐いて、吐くものがなくなって口の中が胃液の酸味で気持ち悪くなったし、自分が自分じゃないなら自分は誰なのかと、本当に訳がわからず暴れ散らした。

 

 退院した後も自分は決闘者だと言い聞かせるように手当たり次第デュエルを繰り返す日々。

 自分という存在を証明したかった。

 自分という存在を守りたかった。

 自分という存在は、ここに居て良いんだという安堵が欲しかった。

 

 そこで得られたのは──強さだけ。

 違うの! 私はデュエルで自分という証を残したかっただけなの!

 最強になりたかった訳じゃない!

 どうしてみんな私を囃し立てるの!?

 違う! 違う違う違う!! 何が総合コースの竜姫よ!

 人の気も知らず、人のことを知ろうとしないで……!

 

 もういい──だったら、それが望みだって言うなら、望んだものになればいいんでしょ。

 ただ強く、冷たく、残酷なまでの、圧倒的な決闘者になれば、それを『私』だって認めてくれるんでしょ?

 でも、真澄達は巻き込みたくない。私1人で。私だけでやらなきゃいけない。

 それが望みなら叶えてあげる。

 それが望みなら友達はいらない。

 それが望みならその存在に成ってあげる。

 

 だってそれが──みんなの望む『私』なんでしょ?

 

 

 

 

 

 ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─

 

 

 

 

 

「私のターン、ドロー……!」

 

 眼前の3体の覇王竜を前に、龍姫は険しい表情でカードを引く。ドローカードを一瞥し、内心でチッと舌打ち。あと1ターン早ければと思うも、ドローの運命力も決闘者の実力の内。ただ遊矢の敗北へのカウントダウンが2ターン伸びただけと、気持ちを切り替える。

 

「バトルフェイズ。私は≪サフィラ≫で≪オッドアイズ・リベリオン≫に攻撃」

「なっ──攻撃力は≪オッドアイズ・リベリオン≫が上だぞ龍姫!?」

 

 そして即座にバトルフェイズ移行と攻撃宣言。≪サフィラ≫の羽翼が金色に輝き始め、それがオーラのように全身を包み込む。掌をかざし、それを≪オッドアイズ・リベリオン≫へと向け──掌から金色の光線が放たれる。

 明らかに攻撃力の差で負けるハズなのに何故、と遊矢が不可解に思っていた時──

 

「ダメージステップ」

 

 ──龍姫はこのターンにドローしたカードを指にかける。

 

「手札から≪オネスト≫を捨て、効果発動。≪サフィラ≫の攻撃力はバトルする相手モンスターの攻撃力分アップする」

「──っ、破壊された≪オッドアイズ・リベリオン≫の効果! ペンデュラムゾーンの≪相克≫と≪相生≫を破壊し、自身をペンデュラムゾーンに置く!」

 

 ≪サフィラ≫の羽翼とは別にさらに一対の翼が顕現。金色の輝きはさらに光量を増し、放たれていた光線はより巨大に。

 反撃として下方から≪サフィラ≫に突貫していた≪オッドアイズ・リベリオン≫だったが、途中まで弾いていた光線が強大化したことで抗えず、全身がその光の奔流へと飲み込まれる。

 実質≪サフィラ≫の直接攻撃に等しい2500もの戦闘ダメージを受け、遊矢のライフポイントは大きく削られ──残り50。

 

「メインフェイズ2。カードを1枚セットし、エンドフェイズ。≪サフィラ≫の効果発動。墓地から光属性モンスター──≪オネスト≫を手札に加え、ターンエンド」

「そうきたか……!」

 

 そして先ほどフィニッシュブローに成り損ねたカードを回収する龍姫。これで戦闘においても無敵だ、とばかりに龍姫は勝ち誇った眼差しを遊矢に向ける。

 

 今の龍姫の場には≪竜姫神サフィラ≫が1体。

 ペンデュラムゾーンには≪竜角の狩猟者≫、≪閃光の騎士≫。

 魔法・罠ゾーンには≪螺旋槍殺≫、≪安全地帯≫、≪復活の聖刻印≫、≪スピリットバリア≫とセットカードの5枚。

 手札は≪オネスト≫1枚で、ライフポイントは2500と数字だけなら遊矢の50倍。

 

 対して遊矢の場には≪オッドアイズ・ヴェノム≫と≪オッドアイズ・ウィング≫の2体。

 ペンデュラムゾーンには≪オッドアイズ・リベリオン≫1枚。

 魔法・罠ゾーンにはセットされたカードが1枚だけ。

 手札は1枚のみで、ライフポイントは寸断許さぬ僅か50。

 

 龍姫の≪サフィラ≫は≪安全地帯≫と墓地の≪祝祷の聖歌≫、手札の≪オネスト≫で三段構えの防御。さらに龍姫自身を狙おうにも永続罠≪スピリットバリア≫の存在で一切の戦闘ダメージは与えられない。

 遊矢のターンで逆転のカードを引けなければ、龍姫の≪サフィラ≫と≪オネスト≫による無限回収コンボでいずれモンスターを全滅されるか、龍姫が展開札を用意できれば次のターンで敗北する可能性も十分にある。

 

 このターン──このターンで、ドローするカードに命運が託された。

 そんな中──遊矢は笑っている。

 本来であればこの危機的状況で笑えるハズがなく、例え笑ったとしてもそれは勝利を確信した時か、何の手立てもなく渇いた笑いが出るか、だ。

 

 この時の遊矢の笑みは──前者。

 

(できる──今のオレなら、絶対にここから巻き返せる!!)

 

 それは自信。

 今まで幾度となく敗北を重ねてきた相手ではあるが、零児とのデュエルを通じ、ズァークの邪心を打ち払った自分ならできるという実績が、今までゴーグルで涙を隠してきた遊矢に自信を与えたのだ。

 

 運命のドローを前に遊矢は1度深呼吸。

 すぅー、はぁーと呼吸を整え、真剣な眼差しで龍姫を一見。

 そしてすぐにデュエルディスクのデッキトップに指をかけ──

 

「オレの──ターンッ!!」

 

 ──勢いよくカードドロー。

 ドローカードを一瞥し、遊矢の視線はフィールドに。

 そしてまたドローカードへ。

 またフィールドに。

 

「……オレは永続罠≪ペンデュラム・スイッチ≫を発動! ペンデュラムゾーンの≪オッドアイズ・リベリオン≫を特殊召喚!」

 

 再び覇王の名を冠する黒龍が場に戻り、龍姫は警戒の眼差しを向け、頬に冷や汗。

 

「墓地の≪シャッフルリボーン≫の効果! 墓地のこのカードを除外し、オレの場のカードをデッキに戻し、1枚ドロー! ≪ペンデュラム・スイッチ≫を戻して1枚ドロー!!」

 

 そして遊矢は手札の補充でさらにカードをドロー。

 引いたカードを一瞥し、再び視線をフィールドへ。

 次いでドローカードに戻し、そこで冷や汗を拭いながらも頷く。

 

「オレは、場の融合モンスター≪オッドアイズ・ヴェノム≫! シンクロモンスター≪オッドアイズ・ウィング≫! エクシーズモンスター≪オッドアイズ・リベリオン≫の3体をリリースし、このカードを手札から特殊召喚する!」

「──っ、3体リリース……!?」

 

 攻撃力3000を超えるドラゴン3体を生け贄としたことに龍姫の目が見開く。

 いくら現状で打開手段がなかったとは言え、一体何のカードを引いたのかと、緊張した面持ちで遊矢の一挙一動を注視する。

 

「──3体の龍の力を宿し、生物の頂上を極めし龍よ、ここに生誕せよ!! ≪超天新龍オッドアイズ・レボリューション・ドラゴン≫!!」

 

 降臨せしは新たな【オッドアイズ】。

 ≪オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン≫に四肢と体躯に竜牙を彷彿とさせる鎧を纏い、背にある宝玉は各召喚方法を連想させる紫・白・黒。異質と呼ばれる二色の虹彩はそのままに、歴戦を経て成長した遊矢と同じく、≪オッドアイズ≫も共に成長──進化(レヴォリューション)の名の通り、振り子のように一歩を踏み出した姿へと成った。

 

「≪オッドアイズ・レヴォリューション≫の効果発動!! オレはライフポイントを半分支払い──お互いのフィールド・墓地のカードを全て! デッキに戻す!!」

「──っ、全て──デッキに……!?」

 

 そして、遊矢が声高らかに効果の発動宣言。

 戦闘耐性。

 破壊耐性。

 魔法・罠耐性。

 戦闘ダメージ耐性。

 何者にも絶対に負けたくない、壊されたくないという龍姫のフィールド(意志)

 墓地の融合、シンクロ、エクシーズ、ペンデュラムに、統一性があるようでない、龍姫のセメタリー(混沌とした記憶)

 

「あっ、待っ──≪サフィラ≫ぁっ!!」

 

 それら全てが龍姫のデッキ(未来)へと還っていく。

 自分が築き上げた最強の自分。無敵の自分。無敗の自分。全てを壊され──否。やりなおす(・・・・・)ようにと、全てのカードが愛する主人の未来へと歩を進める。

 まるで置いて行かれた子供のように龍姫は声をあげるが、その叫びは()は届かず。

 伸ばした手は空を切り、空っぽとなったフィールドに向けられるだけ。

 

「──≪オッドアイズ・レヴォリューション≫をリリースし、魔法カード≪アドバンスドロー≫を発動。デッキから2枚ドローする」

 

 遊矢はそんな龍姫に憐憫の眼差しを向けつつ≪オッドアイズ・レヴォリューション≫を糧にデッキから2枚ドロー(未来へと踏み出す)

 そしてドローした2枚を一見し、その内の2枚を空高く掲げる。

 

「オレはスケール8の≪時読みの魔術師≫とスケール1の≪星読みの魔術師≫でペンデュラムスケールをセッティング!! これでレベル2から7のモンスターをペンデュラム召喚可能!!」

 

 踏み出した未来は、どうなるかわからない。

 右へ左へと、振り子のように揺れ動いて不安定なのは当然。

 

「揺れろ魂のペンデュラム! 天空に描け光のアーク! ペンデュラム召喚! 来い──」

 

 しかし、不安の中に期待があり、逆もまた然り。

 自身の中に1本の真っ直ぐな信念さえ通っていれば、鬱屈な未来など存在しない。

 

「──≪オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン≫ッ!!」

 

 例え今は何もなくても(空っぽのフィールドでも)

 

「バトル!! ≪オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン≫で、龍姫にダイレクトアタック!!」

 

 今という積み重ねが、未来へと繋がるのだから──

 

 

 

 

 

 ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─

 

 

 

 

 

 残りライフポイント2500の龍姫へ≪オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン≫の直接攻撃で2500のライフポイントが失われ、ソリッドビジョンでライフポイントが0を示す。

 それと同時にデュエル終了のブザーと、勝者と敗者の名前が同様に表示。5秒ほど表示され続けた後、ソリッドビジョンの表示と、遊矢の場にあったカード全てが光となって消え、デュエルが完全に終了したことを告げる。

 

「ぁ……あぁ、ああぁっ……!!」

 

 そして、全てが終わったことを理解した龍姫は、ガクンと膝から崩れ落ちてぺたん座りに。

 黒咲とのデュエル後、今の自分を証明するためだけに、常勝無敗を続けてきた彼女の、初めての敗北にブワッと感情が溢れてしまう。

 眼帯をしていない方の目から大粒の涙が零れ、止めどなく流れ続けていた。

 

「龍姫」

 

 遊矢はゆっくりと龍姫へと歩み寄り、膝を折って子供のように泣きじゃくる龍姫へ視線の高さを合わせる。

 

「なんっ、で……! わた、私、か、勝たな、きゃ──」

「オレは龍姫に何があったかはわからない。けど、今の龍姫はいつもの龍姫じゃないだろ?」

 

 龍姫の両肩に手を置き、向かい合う。

 

「だからさ。1回やり直そう」

「やり、なお、す……?」

「そう。ほら、龍姫のデッキだってそう言ってるじゃんか」

 

 そう言うなり、遊矢はほとんどのカードが≪オッドアイズ・レヴォリューション≫の効果で戻ったデッキを上から順にめくっていく。

 1枚目に≪儀式の下準備≫。

 2枚目に≪招集の聖刻印≫。

 3枚目に≪超再生能力≫──いずれも龍姫が''始め''に使うカードばかり。

 今回のデュエルでも序盤に使われたが、もしもラストターンで決まらなかったら龍姫が引いていくカード達だ。

 

「てか引きすごいな……あれで決められなかったら、オレの敗けだったじゃん」

 

 あはは、と遊矢は苦い笑みを浮かべる。

 そんな遊矢を見てひっくひっくと泣き続けていた龍姫も次第にその勢いは弱くなり、段々と嗚咽も治まっていく。

 

「それに今回の龍姫相手だと、オレも勝った気がしない。だから、またデュエルしよう」

「……また……?」

「そう。それも今度はこんな薄暗い誰も居ない所じゃなくて、スタジアムの観客が居る場所で」

 

 泣きじゃくる子供をあやすように遊矢は肩に置いていた手を離し、小指を立てて龍姫の目の前へ。

 

「オレのエンタメデュエルと、龍姫のドラゴン祭りデュエル。どっちがみんなを楽しませるか、デュエルで決めよう」

「……う、ん……」

 

 遊矢が差し出した小指に、龍姫も合わせて小指を交差。

 

「約束だ」

「……うん、約束……」

 

 へへ、と遊矢はそこで太陽のような満面の笑みを。

 それに釣られてかかはわからないが、龍姫も同じように──不器用な笑顔を作った。

 

 

 

 

 

 ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─

 

 

 

 

 

「レディース&ジェントルメン!! さぁ、いよいよ本日のメインデュエルです!!」

 

 数年後。宵闇の中、舞網スタジアムは熱狂の渦に包まれていた。

 過去の次元戦争を経て、舞網市にはペンデュラムはもちろん、融合からエクシーズまで様々な召喚方法、もしくはあえてそれを使わない決闘者で溢れ、多くの決闘者が熱いデュエルで観客を沸かせていたのだ。

 

「本日のメインデュエルは──遊勝塾VSLDSのエキシビションデュエル!!」

 

 そんな中、これから始まるデュエルは舞網市に住まう者ならば垂涎ものの対戦カード。

 

「遊勝塾からは──エンタメデュエルの開祖、榊遊勝を父に持つ、稀代のエンタメ決闘者ォ!! 榊ィ遊矢ァっ!!」

 

 わぁああああっ!! という歓声と共にゲートから現れるのは、次元戦争の英雄にして、ペンデュラム召喚の始祖──遊矢。

 

「対してLDSからは──融合! シンクロ! エクシーズ! ペンデュラム! 全ての召喚方法を繰る、LDS総合コースの竜姫ッ!! 橘田ァ龍姫ィっ!!」

 

 遊矢に劣らない歓声で迎え入れられるは、名実共にLDSで赤馬零児に匹敵する実力を持つ全召喚のドラゴン使い──龍姫。

 2人は静かに歩み寄り、互いに笑みを浮かべる。

 

「約束。守ったよ」

「あぁ、嬉しいよ龍姫。こんな舞台でお前とデュエルできるんだからな」

「今回は、私が魅せて勝つ」

「それはどうかな? アクションデュエルはオレの十八番。今回もオレが勝ってみせる」

 

 ふふ、と互いに冗談めいた煽り合いをしてから所定位置へ。

 互いにデュエルディスクを構え、デッキをセット。デュエルディスクのランプが先攻・後攻を決定後、同時にデッキから手札となる5枚のカードをドロー。

 

「戦いの殿堂に集いしデュエリストたちが!」

 

 示し合わせたでもなく、遊矢が大仰な動きで宙を飛び。

 

「モンスターとともに地を蹴り、宙を舞い」

 

 それを苦笑しながら龍姫は静かに口を開き。

 

「フィールド内を駆け巡る」

 

 遊矢は変わらずに派手なアクロバティックを披露。

 

「見よ、これぞ、デュエルの最強進化形」

 

 全く、と半ば呆れながらも龍姫は平時の表情から決闘者のそれへ。

 

「アクション──」

 

 龍姫に倣うように遊矢も真剣な眼差しに。

 そして──

 

 

 

『デュエルッ!!』

 

 

 

 ──花火の如く、大音で遊矢と龍姫、観客の声が一体となって、デュエルが始まる──





ご愛読ありがとうございました。
打ち切りエンド、という形にはなってしまいましたが、これにて「LDS総合コースの竜姫」は完結となります。

今までの沢山の感想・お気に入り・評価は私にとってかけがえのない財産です。
感謝してもしきれないぐらい、皆さまから暖かいお言葉とお厳しいお言葉を頂けました。
どちらも投稿当初から今日に至るまで得難い経験となっており、作者として果報者であると改めて思いました。

今後は別作品にて変わらず遊戯王二次小説を書いていく所存ですので、よろしければそちらもお時間がある時にでも一読頂ければ幸いです。

では、重ね重ねという形になりますが……本当に、ありがとうございました。

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