龍姫の場には5体の竜が揃い踏み、眼前の獲物を前にその眼を光らせる。
≪竜姫神サフィラ≫。
≪天翔の竜騎士ガイア≫。
≪トライデント・ドラギオン≫。
≪竜魔人 クィーンドラグーン≫。
≪魔装邪龍 イーサル・ウェポン≫。
儀式・融合・シンクロ・エクシーズ・ペンデュラムの各召喚法のドラゴンが5体。
先攻1ターン目の時と≪サフィラ≫を除いて顔ぶれは異なるものの、再び5体の竜が遊矢を威圧するようにそそり立つ。
対して遊矢の場には≪オッド・アイズ・ランサー・ドラゴン≫1体と、≪天空の虹彩≫にリバースカードが2枚。
ペンデュラムゾーンには≪EMシール・イール≫に≪EMモモンカーペット≫の2枚のみ。
この布陣で龍姫の5体のドラゴン、その内≪トライデント・ドラギオン≫は3回攻撃を有しており──合計7回の攻撃が襲ってくる。
しかしその状況でも遊矢の目は死んでおらず、むしろどこか期待に満ちたようなそれ。
(──何なの、その顔)
並のデュエリストであれば絶体絶命的な状況にも関わらず、楽しんでいるかのような遊矢の表情に龍姫は内心で苛立ちを募らせる。
攻撃力2000を超えるドラゴン5体による合計7回の攻撃。4000のライフポイントであれば即死は当然、8000のライフポイントでも耐えられるものではない。
なのに、何故そんな顔ができるのか。
(……気に入らない…)
片目を失い。不確かな記憶で自己を見失い。混濁と混迷により自我が暴走している龍姫にとって、今の遊矢は不快そのもの。
なれば今は、その不快感を拭う──否。吹き飛ばすために、遊矢へ怒りを叩きつける。
「バトルッ! ≪天翔の竜騎士ガイア≫で≪オッドアイズ・ランサー・ドラゴン≫へ攻撃!」
「──っ、攻撃力の3000の≪オッドアイズ・ランサー・ドラゴン≫に攻撃力2600で攻撃っ?」
「≪天翔の竜騎士ガイア≫の効果! 攻撃時、攻撃相手の表示形式を変更する!」
「なっ──っ!?」
かの伝説の決闘王が愛用したモンスターと似て非なる竜騎士。その双槍が≪オッドアイズ・ランサー・ドラゴン≫の自慢の槍を1槍目で砕き、2槍目で抉り葬る。
「さらに永続魔法≪螺旋槍殺≫の効果により≪ガイア≫は貫通効果を得る。また≪ガイア≫が相手に戦闘ダメージを与えた場合、デッキから2枚ドローして1枚捨てる」
「くっ、だけどオレも≪EMモモンカーペット≫のペンデュラム効果だ! このカードがペンデュラムゾーンに居る限り、オレが受ける戦闘ダメージは半分になる!」
「半分でもダメージを与えたことに変わりはない。≪螺旋槍殺≫の効果で2枚ドローし、≪巨神竜フェルグラント≫を捨てる」
守備力2000の≪オッドアイズ・ランサー・ドラゴン≫は抵抗する間もなく破壊。≪EMモモンカーペット≫のP効果で半分の300ダメージを受け、遊矢の残りライフポイントは3700。
だが遊矢の場には壁となるモンスターも居なくなり、龍姫のドラゴンの攻撃はあと6回も残っている。
「例えダメージが半分でも削り切れば問題ない──≪クィーンドラグーン≫で直接攻撃」
「直接攻撃宣言時、永続罠≪EMピンチヘルパー≫発動! 1ターンに1度、相手の直接攻撃を無効にし、デッキから【EM】1体を効果を無効にして特殊召喚! 来いっ! ≪EMインコーラス≫!」
≪クィーンドラグーン≫の掌が妖しい紫色に光ると同時に遊矢のリバースカードがオープン。遊矢の場に白・茶・黄の3鳥1組の≪EMインコーラス≫が守備表示で現れ、その瞬間に≪クィーンドラグーン≫の掌から光が消失する。
「なら≪イーサル・ウェポン≫で≪EMインコーラス≫を攻撃する」
「ぐっ──だけど、破壊された≪EMインコーラス≫の効果! デッキからペンデュラムモンスター以外の【EM】1体を特殊召喚する! オレは≪EMセカンドンキー≫を守備で特殊召喚!」
「また壁モンスター……!」
「さらに≪EMセカンドンキー≫が召喚・特殊召喚に成功した時、自分Pゾーンにカードが2枚あれば、デッキから同名以外の【EM】1体を手札に加える! オレは≪EMロングフォーン・ブル≫を手札に!」
≪EMインコーラス≫が消えたかと思えば、次いで現れるはロバの≪EMセカンドンキー≫。サーカス団よろしく入れ替わり立ち代わる様はモチーフ通りなのだろうが、一向に次のダメージを与えられない龍姫には茶番を見せられているようで苛立ちが増す一方。
だがまだ龍姫の場には≪サフィラ≫と≪トライデント・ドラギオン≫の2体、4回攻撃がある。例え≪EMモモンカーペット≫のP効果で戦闘ダメージが半分でも、≪サフィラ≫で≪EMセカンドンキー≫を除去してから3回の直接攻撃を決めれば勝ちだ。
今更手札を増やしたところで何も変わらない、と龍姫は冷淡に攻撃命令を下す。
「≪サフィラ≫、ロバを排除」
「うっ……」
「続けて≪トライデント・ドラギオン≫で──」
「ここで速攻魔法≪イリュージョン・バルーン≫発動! 自分モンスターが破壊されたターン、デッキの上5枚をめくり、その中に【EM】があれば1体を特殊召喚するっ!」
「──っ」
「デッキの上から5枚めくり──≪EMアメンボート≫を攻撃表示で特殊召喚っ!」
しかし、冷酷な龍姫の表情が一瞬にして歪む。
勝利を確信した布陣がたった2枚のリバースカードで防ぎ切られる──それも、攻撃自体を封じる効果や、全体除去といったパワーカードではないそれ。
「……≪トライデント・ドラギオン≫の1回目の攻撃で≪EMアメンボート≫に攻撃」
「≪EMアメンボート≫の効果! 攻撃表示のこのカードが攻撃された時、攻撃を無効にし守備表示になる!」
「≪トライデント・ドラギオン≫の2回目の攻撃で守備表示の≪EMアメンボート≫に攻撃……!」
「守備表示だからダメージは受けない──流石にタネ切れだな」
「≪トライデント・ドラギオン≫で3回目の攻撃っ!!」
「≪EMモモンカーペット≫のP効果で半分の1500ダメージ──うわっ、熱っ!!」
歪んだ顔から段々と苛立ちを強くするように龍姫の語気が上がる。三つ首の火龍が放つ致命の炎が遊矢を襲うも、≪EMモモンカーペット≫のP効果により半分のダメージ。
3700だったライフポイントは2200まで下がる──
(──7回。攻撃力2000以上のドラゴン5体で……7回も攻撃したのに半分も削れなかったなんて……!)
──しかし、このターンで決めるつもりだった龍姫にとってこの結果は不服。
例え戦闘ダメージが半分でも、当初は≪ガイア≫を除いて7500もの戦闘ダメージを与えるハズだったのだ。それが半分どころか4分の1程度の1800ダメージで終わるという結果は不服以外の何物でもない。除去、貫通、3回攻撃と、フィニッシュに相応しい布陣を整えていたにも関わらず、だ。
ギリィと龍姫は奥歯を噛み締め、残っている3枚の手札全てを指にかける。
「私はリバースカードを3枚セットし、エンドフェイズに移行。このターン≪螺旋槍殺≫の効果による手札交換で光属性の≪巨神竜フェルグラント≫を墓地に送ったから≪サフィラ≫の効果を適用する。デッキから2枚ドローし1枚捨て、ターンエンド……」
バシィン! と半ば叩きつけるようにカードを墓地へ送る龍姫。
その様子に静観していた零児は『感情を露にするのは珍しい』と思うも、口には出さない。
何せ零児は先の7回攻撃を耐えられなかったため、逆に耐えた遊矢の方に感情が寄っていたのだ。
(ふむ……とりあえずは無事に終われば良いが……)
先行きを不安に感じつつ、零児は改めて状況を視認する。
龍姫の場には≪サフィラ≫、≪天翔の竜騎士ガイア≫、≪トライデント・ドラギオン≫、≪クィーンドラグーン≫、≪イーサル・ウェポン≫と5体のドラゴン。
ペンデュラムゾーンには≪竜角の狩猟者≫、≪閃光の騎士≫。
魔法・罠ゾーンには永続魔法の≪螺旋槍殺≫にリバースカードが3枚。
手札は1枚のみ、ライフポイントは約半分の2100。
対して遊矢の場にモンスターは不在。
ペンデュラムゾーンには≪EMシール・イール≫と≪EMモモンカーペット≫。
フィールド魔法に≪天空の虹彩≫があるのみ。
手札は≪EMロングフォーン・ブル≫1枚で、ライフポイントは2200と龍姫とほぼ同程度。
純粋なカード・アドバンテージだけで言えば龍姫の圧勝だが、遊矢のエクストラデッキには多くのペンデュラムモンスターが眠っている。
ペンデュラムスケールも健在なこの状況では、明確なアドバンテージの優劣は付け難いだろう。
ここから遊矢がどう動くのかと、零児は視線をフィールドから微笑を浮かべている遊矢へ向け──
「オレのターン、ドロー!」
「ドロー後、≪サフィラ≫を対象に永続罠≪安全地帯≫を発動。このカードがある限り、≪サフィラ≫は相手のカード効果の対象にならず、相手の効果及び戦闘で破壊されない」
「──っ、」
──即座に零児はその視線を龍姫へ戻す。
前のターンで決めきれなかった保険もかけている辺りは流石だと思うも、それにしても使うカードが中々にえげつないと感じてしまう。
現に遊矢もわずかに頬を引きつらせており、≪サフィラ≫だけはどう足掻いても対処できないことが表情から十分に察せられる。
しかしすぐにその引きつった頬は締まり、力強い眼差しで龍姫を睨む。
「ペンデュラムゾーンの≪シール・イール≫のペンデュラム効果発動! 龍姫の場の≪クィーンドラグーン≫の効果を無効にする!」
「…………」
「そして! オレはセッティング済みのスケール3の≪シール・イール≫とスケール7の≪モモンカーペット≫でペンデュラム召喚! 手札からレベル4の≪ロングフォーン・ブル≫! エクストラデッキからレベル4の≪ドクロバット・ジョーカー≫と≪ペンデュラム・マジシャン≫に──レベル6の≪モンキーボード≫!」
いくら防御を固めようが遊矢の行うことに変わりはない。
手札・エクストラデッキに控えていた仲間達を彩り豊かな光柱と共にフィールドへ顕現。
角牛に怪盗、奇術師に加えて歯茎鍵盤猿。
一挙に4体ものモンスターが遊矢の場を埋め、華やかさを演出する。
「特殊召喚に成功した≪ブル≫の効果発動! デッキからペンデュラムモンスター以外の【EM】モンスターを手札に加える! オレは≪EMヘルプリンセス≫を手札に! さらに≪ペンデュラム・マジシャン≫の効果! このカードが特殊召喚に成功した場合、自分場のカードを2枚まで破壊し、デッキから破壊した数まで【EM】モンスターを手札に加える! ≪EMオッドアイズ・シンクロン≫と≪EMトランプ・ガール≫を手札に! さらに永続罠の≪ピンチヘルパー≫を墓地に送り魔法カード≪マジック・プランター≫で2枚ドロー!!」
またその華やかさはその刹那だけではない。
角牛の嘶きで遊矢の手札が1枚増え、奇術師の妙義でペンデュラムゾーンのカードが消え、遊矢の手札に2枚の手札が加わるばかりか、ドローでさらに一挙に5枚にまで手札を増やす。
あの手この手で相手を退屈させる間を与えず、入れ替わり立ち代わりショーを魅せるのが【EM】の真骨頂。
「さぁ、お楽しみはここからだ! 手札から≪オッドアイズ・シンクロン≫をペンデュラムスケールにセッティングし、ペンデュラム効果発動! ≪ペンデュラム・マジシャン≫をレベル1にし、チューナーとして扱う!」
「レベル1のチューナー? まさかっ……!」
「オレはレベル6の≪モンキーボード≫にレベル1チューナーとなった≪ペンデュラム・マジシャン≫をチューニング! その美しくも雄々しき翼翻し、光の速さで敵を討て! シンクロ召喚! 現れろ、レベル7! ≪クリアウィング・シンクロ・ドラゴン≫」
場に出たモンスターのステータスを鑑み、召喚されることはないだろうと零児は察していた。しかし、そんな唯一の観客の予想を良い意味で裏切らせるエンターテイナーらしく、遊矢は手札に加えた1枚で容易く条件を満たす。
そして現れるのは純白と翡翠に彩られた、四天の龍が1体──≪クリアウィング・シンクロ・ドラゴン≫が遊矢の眼前へ飛翔。淡く緑色に輝く粒子を雪のように降らせつつ、顕現する様はさながら守護竜が如く。
尤も──
「さらにオレは手札から≪トランプ・ガール≫を召喚し、手札の≪ヘルプリンセス≫の効果発動! 【EM】が召喚・特殊召喚に成功した場合、手札からこのカードは特殊召喚できる!」
「……っ、」
──その守護竜は1体ではないが。
続けざまに遊矢の手札から新たにモンスターが2体現れ、場に合計5体のモンスターが並ぶ。つい初見のドラゴンを目にし呆けかけていた龍姫だったが、キッと隻眼で遊矢の場を睨む。2体の女子モンスターはその独眼竜女子の眼力にぴぃっ! と可愛らしく声をあげて互いに抱き合う。その光景に零児も少なからず共感し、うんうんと小さく頷く。
「オレはレベル4の≪ブル≫と≪ヘルプリンセス≫でオーバーレイ・ネットワークを構築! 漆黒の闇より現れし反逆の牙! エクシーズ召喚! ランク4! ≪ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン≫!!」
「その
龍姫は見覚えがある黒龍の出現に顔を顰める。かつては新ドラゴンの登場に(薄い)胸を弾ませた龍姫だったが、今となっては自身の人生を狂わせた始まりのドラゴンが1体。それを親の仇が如く形相で龍姫は睨みつける。
「さらに≪トランプ・ガール≫の効果発動! このカードを含むモンスターで融合召喚する!
そんな龍姫の様子に気づかない遊矢は続けて3体目のドラゴン──≪スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン≫を呼び出す。
融合の≪スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン≫
シンクロの≪クリアウィング・シンクロ・ドラゴン≫
エクシーズの≪ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン≫
計3体のドラゴンが並び、龍姫の5体のドラゴンと対峙。
数の上では負けているものの、その内包する力は決して龍姫のドラゴンに劣るものではない。
「融合召喚した≪スターヴ・ヴェノム≫の効果! 龍姫の≪ドラギオン≫を対象に発動! ≪スターヴ・ヴェノム≫に≪ドラギオン≫の攻撃力を加え、攻撃力は5300にアップ! そして≪ダーク・リベリオン≫のオーバーレイ・ユニットを2つ取り除き、≪ドラギオン≫の攻撃力を半分の1500にし、その数値1500を≪ダーク・リベリオン≫に加算する!! これで≪ダーク・リベリオン≫の攻撃力は4000だ!」
龍姫の名フィニッシャーである≪ドラギオン≫が項垂れる。毒牙の紫龍の触手で攻撃力を加算され、叛逆の牙持つ黒龍には紫電で弱体化。一気に攻撃力4000オーバーが2体になった上、場合によっては龍姫のライフポイントも容易く0にすることができる。
「そして手札からフィールド魔法≪天空の虹彩≫を発動し、≪オッドアイズ・アークペンデュラム・ドラゴン≫をペンデュラムスケールにセッティング! ≪天空の虹彩≫でペンデュラムゾーンの≪オッドアイズ・シンクロン≫を対象に効果を発動! ≪オッドアイズ・シンクロン≫を破壊し、デッキから≪オッドアイズ・ディゾルバー≫を手札に加える!」
しかし、それでも止まらないのが
「≪アークペンデュラム≫のペンデュラム効果! 自分場の【オッドアイズ】カードが破壊された場合、手札・デッキ・墓地から【オッドアイズ】モンスターを特殊召喚する! 来い──」
ペンデュラムスケールという光柱に新たな【オッドアイズ】が門番の如く鎮座。そしてフィールドを
表舞台から1人の≪
「雄々しくも美しく輝く二色の眼──≪オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン≫!!」
──≪オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン≫が舞台へ上がる。
融合・シンクロ・エクシーズ・ペンデュラムの名をそれぞれ冠する四天の龍が揃い踏み。フィールドには合計9体ものドラゴンが並び立ち、各々の陣営で威嚇するように低く唸り声をあげる。
遊矢はやりきった充足感を覚えつつ、こっそりと手札の≪オッドアイズ・ディゾルバー≫を≪闇の誘惑≫のコストに変換し2ドロー。
一方の龍姫は祭りと言っても差し支えないドラゴンの大結集に内心で『おぉ、これが……!』と偏屈なドラゴン使い特有の歓喜を感じつつ、いち決闘者として警戒は怠らない。
そんな圧倒的強者としての佇まいを見せる龍姫に、遊矢は
「バトル! ≪ダーク・リベリオン≫で≪クィーンドラグーン≫に攻撃!」
「罠カード≪攻撃の無敵化≫発動。このターン、私は戦闘ダメージを受けない」
「──っ、ぐっ……!」
そして意気揚々と攻撃宣言を行うも、無情にも龍姫から冷たく響く声が発せられた。
≪ダーク・リベリオン≫の雷撃が≪クィーンドラグーン≫を貫き、あえなく爆散。本来であれば致死に近いダメージを与えられたものの、今の遊矢に龍姫の罠を阻害する手段はない。僅かに顔を強張らせるも、それでも未だ状況は遊矢の方が有利。頭を軽く左右に振り、鬱屈な感情を振り払い気持ちを切り替える。
「けど、ダメージは受けなくても破壊はできる! 行けっ! ≪クリアウィング≫! ≪スターヴ・ヴェノム≫! ≪オッドアイズ≫! 龍姫の≪サフィラ≫以外に攻撃だ!!」
普段であれば耐性を付与してダメージを受けることが多い。しかし、その中で龍姫は苦虫をすり潰した表情を胸中で抱きながら苦渋の選択をした。
シンクロモンスター同士、弱体化された≪ドラギオン≫は≪クリアウィング≫の烈風が如き突撃を受けて霧散。
融合モンスター同士、≪天翔の竜騎士≫は≪スターヴ・ヴェノム≫の無数触手で数多の風穴を空けられ。
ペンデュラムモンスター同士、≪イーサル・ウェポン≫は≪オッドアイズ≫の緋色のブレスで焼き尽くされる。
「よしっ! これで≪サフィラ≫以外は倒したぞ!」
「……墓地の≪霊廟の守護者≫の効果起動。ドラゴンが破壊されたことでこの子を墓地から復活」
「……よしっ! これで≪サフィラ≫と≪霊廟の守護者≫以外は倒したぞ!!」
≪サフィラ≫の孤立化に成功したと思うのも束の間。前のターンでは全体攻撃の餌食になってしまうため、控えざるを得なかった≪霊廟の守護者≫が舞台裏からこっそりと登場。遊矢はテイク2のように台詞を言い直し、冷や汗を流しつつ笑みを浮かべる。
「オレはカードを2枚セットして、ターンエンド!」
「エンドフェイズ、永続罠≪復活の聖刻印≫でデッキから≪龍王の聖刻印≫を墓地に送る。そして≪サフィラ≫の効果発動。デッキから──」
「その瞬間、≪クリアウィング≫の効果発動! 1ターンに1度、相手場のレベル5以上のモンスターが効果を発動した時、その効果を無効にして破壊する!」
「──っ、≪サフィラ≫は≪安全地帯≫で守られているから破壊はされない……!」
さらには龍姫お得意のエンドフェイズ時の手札増強もキッチリ防ぐ。彼女が言うように破壊こそできないものの効果自体は無効にできる。これで手札を増やすことはできず、次のターンで限られた手札で戦わなくてはならないのだ。
遊矢の場は壮観と言っても過言ではない。
モンスターは≪オッドアイズ・ペンデュラム≫、≪スターヴ・ヴェノム≫、≪クリアウィング≫、≪ダーク・リベリオン≫と四天の龍
フィールド魔法≪天空の虹彩≫とペンデュラムスケールには≪アークペンデュラム≫。
魔法・罠ゾーンにはリバースカードが2枚。
手札は1枚のみ、ライフポイントは2200と一応半分以上は残っている。
対して龍姫の場。
ドラゴンは≪サフィラ≫と≪霊廟の守護者≫の2体。
ペンデュラムゾーンには≪竜角の狩猟者≫と≪閃光の騎士≫。
魔法・罠ゾーンには≪螺旋槍殺≫、≪安全地帯≫、≪復活の聖刻印≫。
手札は1枚のみ、ライフポイントは遊矢とほぼ同じ2100と半分以上はある。
状況としては遊矢の方がやや優勢といったところ。しかし、龍姫のエクストラデッキには【竜剣士】を始めとしたモンスター達が今か今かと出番を待っていることも事実。決して緊張感を解くことは許されない状況に、遊矢は期待半分・不安半分といった表情で龍姫を見据える。
自分たちが各次元を渡り強くなっていたのと同様に、龍姫も強くなっていた。以前は食らいつくのにも精一杯だった自分がどこまで通用するか、そしてペンデュラム召喚も取り入れた龍姫が次はどんな手を打ってくる、ないしは
そんな思いを抱きながら、遊矢は真っ直ぐに龍姫の隻眼を見つめていた──
──零児は、遊矢に期待と不安の眼差しを向ける。
(遊矢、今の橘田龍姫は間違いなく最強の決闘者の1人だ。だが、その心にかつての彼女はない)
静かに、淡々とした事実と、半ば懺悔のような声色で自分に言い聞かせる。
(あの日、彼女は黒咲に敗れた。その際に我々LDSで記憶の改竄を行ったが──あれが全ての失敗だった)
拳を強く握り締める。
(志島北斗、光津真澄、刀堂刃。彼ら3人にはいつも通り上手くいったが、何故か彼女だけは失敗してしまった。それに伴う記憶の混濁、自己・自我の崩壊。引き起こされる錯乱と自傷──ストレス過多による破壊衝動)
強く握った拳に血が滲む。
(そんな中、彼女に残っていたのはデュエルだけ。八つ当たりのように、無差別かつ容赦のないデュエルは彼女を孤独──いや、孤立させてしまった)
掌の内の爪が食い込み、そこからポタポタと雪解けのツララのように血が滴る。
(元凶は私だ。そしてその責を担うのも私だった──だが)
眉間にシワを寄せ、食いしばる歯からは悲鳴が。
(私では、彼女を止められなかった。彼女に果たすべき責務を、私は全うできなかった)
己の無力さに憤慨し、同時に
(本当なら遊矢、君がやることではない)
彼女を止めるのに、自分では力不足だとわかってしまった。
(だが、ズァークの邪悪な野望に打ち勝ったキミなら)
わかってしまったがために──あとは祈るしかない。
(キミなら、彼女の心を取り戻せるハズだ)
託すしかない。
(無差別に牙を剥き、爪で裂く彼女を)
願うしかない。
(彼女を──止めてくれ)
全てを。
(遊矢)
彼に。
(また)お待たせさせてしまい申し訳ありません。