遊戯王ARC-V LDS総合コースの竜姫   作:紅緋

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1つの話で3万字以上書けて満足。
また大分メタなネタが入っており、合わない人は合わないので注意。
なお、サブタイ名はそれっぽいOCGカード名なだけで原作のようにそのカードが活躍する訳ではないのであしからず。

2014/9/13追記
感想での指摘箇所、及びルビタグで違和感のあった部分を修正。


1話:《竜の転生》(転生しました)

 レオ・デュエル・スクール――通称LDS(エルディーエス)内のとある一室。デュエルフィールドや講義用の教室とは違い、この部屋は主にLDSの塾生がデッキ構築をする際に利用している。一般的な教室と大差ない広さだが、1人1人のスペースを確保するようにパーテーションで区切られ他人にデッキ構築を見られることはない。1人で黙々とデッキを構築・改造している者はもちろん、講師や仲の良い塾生を招いて助言をもらいながらデッキを作る者もいる。

 

 その中にはこのLDSを運営するレオ・コーポレーションの社長、赤馬零児(あかばれいじ)の姿もあった。パーテーションで区切られているので何故彼がここにいるかこの部屋にいる塾生・講師は知る由もないが、理由は単純明快。

 デッキ構築だ。数日前に遊勝塾(ゆうしょうじゅく)榊遊矢(さかきゆうや)とデュエルし、自身のペンデュラムカードのエラッタに伴い赤馬零児はデッキを見直し、作り直している。

 

 この塾を運営している社長ならばわざわざ一般の塾生や講師が居るこの部屋でデッキ構築をする必要はないのではないかと疑問に思うだろう。だが、ここは彼自身が経営するデュエル塾のデッキ構築専用の部屋。当然ただテーブルと椅子だけがある部屋ではなく、同室内にあるカードショップで望むカードをシングルで購入することもできる。それならば社長室で自前のカードだけでデッキ構築するよりも、この部屋でデッキ構築し適宜カードを購入すれば良い。また、いちいち社長室とカードショップを行き来するのは馬鹿らしいし、部下を使って欲しいカードを持って来させるのもアリだが、自分のデッキを作る際は極力全てを自分自身の手で作りたいと思うのがデュエリストだ。

 

(――《ワン・フォー・ワン》でケプラーを呼び、契約書をサーチ。《地獄門の契約書》をサーチすれば後続のDDのサーチにも繋がる…入れない手はない。ドローソースとしては《闇の誘惑》…除外は少し気になるが、《魔神王の契約書》の墓地融合で除外するモンスターも多少は出る。ならばリカバリーで《闇次元の解放》を入れても――いや、DDデッキは永続魔法・永続罠を多用するデッキだ。闇次元でモンスターを特殊召喚したとしてもすぐに融合・シンクロ・エクシーズ素材になる。そうなると魔法・罠ゾーンを圧迫してしまうな…ならば《D・D・R》か?手札コストこそ要求するが、装備魔法故に装備モンスターを各素材にしても《D・D・R》は墓地に送られる――それに《DDリリス》を特殊召喚すれば効果で墓地・エクストラデッキで表側のDDモンスターを回収可能、これならば手札コストは実質帳消し……一考の余地はあるだろう――む、そういえば《異次元からの埋葬》もあったか…ハンド、ボード・アドバンテージは稼げないが、フリーチェーン故に相手の《サイクロン》の対象になった時にチェーン発動して無駄撃ちさせることもできる……試しに入れても面白いかもしれん)

 

 ただ黙々と、彼はデッキを作り上げていく。自身が開発した専用カテゴリ、専用サポートカードが多いため汎用カードはそう多くは入れることができない。そのため限られた枠にどのカードを入れるかも吟味しなくてはならないのだ。

 

(――よし、まずはこれで良いだろう。あとはこのデッキで何度かテストプレイを行い、回し方に不具合があればその都度直せばいい)

 

 そして無事にデッキは完成。メインデッキ、エクストラデッキをデッキケースに入れ、デッキ構築で使わなかったカードは近くに居たスタッフに零児個人が所有するLDS内のカード保管庫に入れておくように指示。その後、テストプレイを行うためにLDS内のプラクティス・デュエルフィールドの方へと歩を進める。

 

(今の時刻は――19:30か…普通の塾生ならば既に帰宅しているかもしれないが、練習場は21:00まで解放している。テストプレイができる相手が居れば良いのだが…)

 

 

 

――――――――

 

 

 

「バトル!《ジェムナイトマスター・ダイヤ》で《竜魔人 クィーンドラグーン》に攻撃!」

「――っ、」

(ほう…丁度実力のある塾生が残っているな……)

 

 零児が練習場へと着くと、幸いにもその場には1人を除いて身知った人物が4人居た。

 内1人はデュエルの真っ最中である長い黒髪と褐色肌の少女、融合コースジュニアユース首席の光津真澄(こうつますみ)。1人はこのデュエルの見学者。紫髪で北斗七星を模したアクセサリーを額に着けた少年、エクシーズコースジュニアユース首席の志島北斗(しじまほくと)。もう1人もこのデュエルの見学者。長めの茶髪に竹刀を背負った少年、シンクロコースジュニアユース首席の刀堂刃(とうどうやいば)

 

 彼ら3人は先日の遊勝塾における一件で知った仲であり、全くの他人という訳ではない。

 だが、1人だけ零児の知らない少女が居た。榊遊矢と同じ舞網市立第二中学校の制服、腰まで届く長い青髪を後ろに流す形でツインテールにまとめ、理性的で冷たく見える藍色の瞳、その澄んだ瞳と同じく透き通るような顔立ちの印象の少女。見覚えこそないが、融合コースジュニアユース首席の真澄が相手にしているのだから実力はそれなりにあるのだろうと零児は解釈した。

 

 デュエルの状況を確認してみると――

 真澄の場にはエースモンスターの《ジェムナイトマスター・ダイヤ》、手札は1枚で伏せカードはなく、ライフポイントは2400ほど残っている。

 対して青髪の少女は場に竜人型のモンスター、手札は1枚で伏せカードはなし、ライフポイントは戦闘ダメージを受けた時点で2300。

 デュエル終盤――それもこのターンで決着は着くと零児は判断した。

 

「《ジェムナイト・パーズ》を除外してその効果を得ていたマスター・ダイヤの効果発動!このカードが戦闘によって相手モンスター破壊して墓地に送った時、相手に破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを与える!クィーンドラグーンの攻撃力は2200!よって2200のダメージを受けてもらうわ!」

「――っ、」

「これで貴女の残りライフは僅か100!そしてパーズはバーン効果だけじゃなく、2回攻撃の効果もある!当然、パーズの効果を得たマスター・ダイヤも2回攻撃できる!マスター・ダイヤで残った1体に攻撃!」

 

 白銀の鎧を纏い、全身に金剛石(ダイヤモンド)を散りばめた大柄の騎士が竜人型のモンスターの方へと駆ける。各ジェムナイトのその元になった宝石が埋め込まれた大剣を振り上げ、その切っ先が当たる寸前――

 

「ダメージ計算前に手札から《オネスト》のモンスター効果を発動」

「――っ、そのカードは…!」

(ほぅ…)

 

 ――青髪の少女は最後の手札を自ら墓地に送り、その効果を発動させた。伏せカードがない状態で攻撃宣言し、妨害行為等がないものと油断していた真澄は大きく目を見開き、突然の手札誘発カードに驚愕する。竜人型のモンスターの両肩に巨大な一対の白翼が現れ、デュエルディスクに表示されているそのモンスター攻撃力が急激に上昇。その数値は現在の《ジェムナイトマスター・ダイヤ》の攻撃力3300ポイント分――よって、竜人型のモンスターの攻撃力は5800まで上がる。その光景を見た零児は内心で青髪の少女に感心しつつ、自分の予想と違った勝敗に決することに僅かに驚いた。

 

「攻撃力…5800…!」

「《オネスト》は自分の光属性モンスターが相手モンスターとバトルする時、ダメージステップ開始時からダメージ計算前までに手札の《オネスト》自身を墓地に送ることで発動できる。その光属性モンスターは相手モンスターの攻撃力分、攻撃力がアップする――2500の反射ダメージを食らってもらう」

「――っ、くぅううううぅっ!!」

 

 竜人型のモンスターに後光が輝き、その眩さに《ジェムナイトマスター・ダイヤ》は大剣を盾のようにかざし、光を遮ろうとする。だが後光は段々と輝きが増していき、その光は無数の筋となってマスター・ダイヤを襲う。大剣・鎧・手甲――光はマスター・ダイヤの体全体を貫き、大爆発を起こす。尤も、今回はアクションデュエルではなくスタンディングデュエルなのでソリッドビジョン自体に質量はなく、視覚と聴覚としての効果のみが適用される。

 

 爆音と土煙がデュエルフィールドを覆うのと同時にデュエルディスクが真澄のライフポイントが0になったことを告げた。デュエル終了のブザーが鳴り、顕現していたソリッドビジョンは粒子となって消える。真澄は軽く息を吐き、デュエルディスクを外すと北斗と刃の方へと歩を進めた。

 

「残念だったな真澄。僕ならあそこはマスター・ダイヤじゃなくてプリズムオーラで除去っていたぞ。光属性相手に戦闘を仕掛けるなら常に《オネスト》の警戒をしておくべきだ」

「俺ならプリズムオーラじゃなくてアクアマリナを作って、それを素材にジルコニアを融合召喚してクィーンドラグーンに攻撃だな」

「馬鹿。アンタ達からは見えなかっただろうけど、あの子がサフィラの効果で2ドローした後に捨てたカードは《スキル・プリズナー》よ。対象を取るモンスター効果じゃこのターンは決められないわ」

「げっ、あいつスキプリ墓地に送ってやがったのかよ…」

「姑息な手を…」

「先攻プレアデスする貴方が言える台詞じゃないわよ」

 

 はぁ、とため息を吐きながら真澄はそう言い放つと北斗は『ぐっ…』と口ごもる。3人で先ほどのプレイングについての自論、反省点を交わす。LDSにおける各コースの首席だけあって北斗と刃は自身が使うカードではなくとも、エリートに相応しいカード知識を持っている――またよく共に行動する友人のカードのことは熟知しており、彼らの意見も尤もであることは『ジェムナイト』を深く知るデュエリストならば共感するだろう。『じゃあ前のターンで~』、『でもそれなら~』とあーでもない、こーでもないと論議していると、奥の方に居た青髪の少女がゆっくりと真澄達の方へと近付く。

 

「――さっきのデュエルは真澄の攻め急いだ結果。大人しくアクアマリナを立たせておけば一応は耐えられた」

龍姫(たつき)…で、でも折角パーズとマスター・ダイヤの連続融合が1ターンで出来たんだから、それを狙っても――」

「でもじゃない。《スキル・プリズナー》は1枚しか墓地になかったのだから、アクアマリナで守備に徹して次のターンへ繋げて打開策を待った方が賢明。私が強引に攻め急いでアクアマリナを突破しようと考えたら、まずはスキプリで《竜姫神サフィラ》に効果モンスターの対象耐性を与え《オネスト》で強引に殴りに行く。そしたら貴方は耐性のないクィーンドラグーンをバウンスできる」

「……それは…そうだけど…」

「そうすれば真澄はダメージを受けない。さっきのターンで決着を着けるんじゃなくて、次のターンを見据えた行動をした方が良い。そして私に《オネスト》を使わせたことにもなるし、戦闘では《オネスト》の警戒も必要なくなる」

「……確かにそうね」

 

 龍姫、と呼ばれた少女の淡々とした解説に真澄は納得し、改めて先ほどのターンの攻防を振り返ると確かに自分のプレイングが少々雑だったと反省する。自分のエースモンスターを出せる状況だった故に浮かれてしまったが、あの状況で《オネスト》無警戒で突っ込んだ自分に非があるだろう。龍姫の言う通り攻め急がずに耐えていた方が良かったとのではないかと感じる。その隣でふと、刃が思い出したように『あっ』と声をあげて龍姫の方へと顔を向けた。

 

「そういえば龍姫、お前いつの間に《スキル・プリズナー》なんて入れたんだよ?前は『妨害カードは好まない』なんて言って入れなかった癖に」

「それは北斗の所為。流石にプレアデスで何度もバウンスされると対策もしたくなる」

「な――それは僕に対するメタか龍姫!?」

「メタじゃなくて防御。これはあくまでも『相手の妨害を妨害するカード』として入れただけ……真澄相手にもアクアマリナやプリズムオーラの防御として働くから入れた」

「北斗の所為ね…!」

「ぅぐっ…!ま、待て真澄!バウンスはプレアデスの常套(じょうとう)手段だ、セイクリッドにおける貴重な除去カードなんだぞ!バウンスして何が悪い!?」

「いや、貴重な除去カードが先攻1ターン目で出ることがおかしいだろ。それにお前3積みしてるし」

「黙れガトムズフォルトロレイジグラハンデスループマン」

「は?やんのか北斗?」

「良いだろう。だが先攻はもら――ん?」

 

 喧嘩腰になりつつ、北斗と刃は共にデュエルディスクを取り出す。互いに相手のデッキを皮肉りつつも、ここでリアルファイトに発展せずにデュエルで決着を着けようとする辺り、2人共中学生ながらも立派なデュエリストだ。デュエルフィールドの所定の位置へ向かおうと2人が視線を移した瞬間、ふとある人物の姿が目に入る。

 

 銀髪に赤縁の眼鏡、赤いマフラーを(風も吹いていないのに)なびかせながらこちらへと歩いて来る1人の青年。LDSの塾生なら誰しも知っており、その憧れであり目標となるようなデュエリスト――赤馬零児だ。

 

「「「し、社長!?」」」

 

 突然の人物の来訪に北斗・真澄・刃の3人は声を揃えて驚き、慌てて彼の前に横一列の形で並び立つ。やや反応が遅れながら龍姫もその隣に立ち、4人はピッシリと背筋を伸ばして粗相のない姿勢を取る。

 

「そう畏まらなくても構わない。楽にしてくれ」

「「「は、はいっ」」」

 

 零児にそう言われるも、4人の姿勢はそうすぐには変わらない。姿勢を崩しても良いと言われても目の前の人物は自分達が日々世話になっているLDSを運営する大企業の社長、そのような人間を前にして中学生の彼らでは『楽にしろ』と言われてもどの程度が許されるのかは判断しかねる。よって返事をしたは良いものの、姿勢は一切崩せずに全身は緊張したままなのだ。特に北斗と刃は先日の遊勝塾で彼とその塾生の榊遊矢のデュエルの際、遊矢の父親を侮辱して零児から一喝された件もある。その事から普段の緊張以上に2人は零児を臆しており、冷や汗が頬を伝わるのを感じた。だがそんな事を一切知らない女子2人はとりあえず失礼のない姿勢を取り続け、真澄が口火を切る。

 

「あの…失礼かもしれませんが、何故社長がこのような場所に?」

「なに、デッキ調整の一環でテストプレイをしようとこちらに立ち寄っただけだ」

「そうだったんですか…」

「あぁ――そういえば君達3人は先日の遊勝塾の件でよく働いてくれた。感謝する」

「「「あ、ありがとうございますっ!」」」

 

 社長である零児から直々に感謝の意を伝えられ、3人はほぼ同時にペコリと頭を下げる。1勝1敗1分という結果には終わったものの、榊遊矢とのデュエルでは何度もペンデュラム召喚させ、ペンデュラムカードのデータ収集には貢献した北斗。融合召喚を巧に使い1ショットキルを果たしジェムナイト、LDS融合コースの力を誇示した真澄。引き分けたもののその圧倒的なデッキの回転力(不動性ソリティア理論)でX-セイバー、シンクロ召喚の展開力を見せつけた刃。真澄以外は結果こそ芳しくなかったが、それでもLDS各コースのジュニアユース首席としての実力を彼らに見せるには充分だったと零児は思っていた。

 そして彼の視線はその3人から龍姫の方へと移る。

 

「すまないが、私は君の名前を存じていない。良ければ名前を教えてもらえるか?」

「はい。総合コースの橘田龍姫(きったたつき)です」

「……総合コース?」

 

 龍姫の所属コースを聞いて、零児は目を細める。途中からだが彼女と真澄のデュエルで、龍姫は儀式モンスターである《竜姫神サフィラ》を使っていた。儀式モンスター自体は総合コースで教えているものだから特に疑問は抱かないが、彼女は先のデュエルでエクシーズモンスターの《竜魔人 クィーンドラグーン》を使っていたことが零児は気になったのだ。別段、LDSでは他のコースの召喚を禁止している訳ではないが、儀式とエクシーズを組み合わせて使用しているので、零児が個人的に彼女がどのようなデッキなのか興味を持った。

 

「総合コースで各コースの首席に勝つということは、君は総合コースの首席だったか?」

「はい、まだ若輩者ではありますが…」

「ほぅ…成績は優秀なようだな。それとエクシーズモンスターを使っていたが、君のデッキは儀式とエクシーズの混成デッキなのか?」

「いえ、違います。私のデッキは――」

「ちょっと待って龍姫――社長、少し良いでしょうか?」

「……何だ?」

 

 龍姫が零児へ返答を遮るように真澄が口を開く。彼女のデッキ内容が気になっていただけ、それを遮られて零児はやや眉間に皺を寄せて真澄の方を見た。その零児の表情に真澄は一瞬顔が強張るが、すぐに顔を引き締めて改めて発言する。

 

「龍姫のデッキが気になるのでしたら、実際にデュエルしてみては如何でしょうか?」

「……真澄?何を言って――」

「――確かにそうだ。デュエリストなら、デュエルで相手のことを知るべきだな」

「社長、何を仰って――」

「えぇ、その通りです。それに社長は先ほどテストプレイのためにこちらに来たと仰いました。龍姫ならきっと満足させるかと」

「あの、真澄――」

「なるほど……デッキのテストプレイに加え、彼女のデッキを知ることができる。一石二鳥と言う訳か」

「はい」

「…………」

 

 龍姫自身の拒否権などお構いなしと言わんばかりにLDSが誇るジュニアユースの融合コース首席と社長の間でトントン拍子に話が進み、いつしか龍姫は反論することもなくただその会話を聞いていた。そして2人に聞こえないように小さくため息を溢すと、隣に居た刃が小声で龍姫に話しかける。

 

(別に良いじゃねぇか、社長にお前の実力を見せられる機会だぜ?)

(私のデュエルは勝ちを目指すデッキじゃない。LDSの理念に反するから、極力見せたくない)

(実際はそうでもないかもしれねぇぞ。社長、この間の一件でポロっと『榊遊勝のことを尊敬してる』って言ってたからな。お前のデュエルも認められるんじゃねぇか?)

(……まぁ、やるだけやる)

(おぅ、頑張れよ)

「では早速始めようか」

「……はい…」

 

 刃とアイコンタクトを交えながら話していると零児と真澄の方で話は終わったらしく、既に彼は自身のデュエルディスクを腕に装着していた。龍姫もそれに応えるように愛用している群青色のデュエルディスクを腕に装着し、デュエルフィールドの所定の位置へと歩を進める。

 

 デッキをデュエルディスクへとセットし、オートシャッフル機能が働く。そしてソリッドビジョンでデュエルディスクのプレート部分が展開、零児・龍姫のデュエルディスクは通常のV字型とは違い、共にIの字を模した形となる。互いに手札を5枚引き、デュエルの準備が整う。

 

「「デュエル」」

 

 

 

――――――――

 

 

 

 どうしてこうなった。いや、ホントにどうしてこうなった。お、おおお、落ち着け私!れれれ冷静になるんだ、まずは順を追って考えよう…。

 

 まず私は転生したっぽい。……初っ端からおかしいけど、気にしちゃいけない。だって(超展開に慣れていて)当然だろ、デュエリストなら。まぁこんな小ネタは置いといて――前世の自分のことについてはおぼろげにだけど覚えている。ただの遊戯王好きな女子大生、アニメも漫画も好きでOCGもそれなりにかじっていたハズだ。兄がガチプレイヤーで昔は剣闘獣(グラディアル・ビースト)やライロ、数年前はBFやジャンド、少し前が征竜や魔導、寸前でAF先史遺産(アーティファクト・オーパーツ)だったことは覚えている。とはいえ兄は大会と身内でデッキを使い分けていて、私のようなデュエルスフィンクスが未熟な相手にそれ相応のレベルで相手をしてくれた。確か《六部衆-ニサシ》を3体並べて『これが俺の6爪流!これが俺の武蔵(ムサシ)デッキだ!』とか某独眼竜のカードスリーブデッキで相手をしてもらった記憶がある。

 

 そんな中、私は馬鹿の一つ覚えみたいにドラゴン族しか組まなかった。理由は単純。

 ド ラ ゴ ン 大 好 き。

 初期の青眼や真紅眼も好きだし、GXのアームド・ドラゴン系列、クールな方の万丈目さんのライダー・ダクエン・ライエンも良い。5D’sのシグナー竜も個性があって良いし、ZEXALの銀河眼とか最高だね!もちろん、OCGで出たドラゴンも良い。ホルスの黒炎竜とか《トライデント・ドラギオン》、《星態龍》辺りがTHE・ドラゴン族って感じする!あんまりにもドラゴン族が好き過ぎて仲間内から『クールな方の万丈目さん』、『ミザちゅわ~ん』って呼ばれたけど、私には最高の褒め言葉だ。ありがとう。

 

 あっ、話が逸れた。えっと、どこから思い起こせば良いんだっけ――とりあえず、今に至る経緯で良いのかな。転生したっぽい私は――したっぽいって言い方が紛らわしいけど、前世で事故死とかそういうのに遭遇した記憶がないからそう言ってるだけ。それで今の世界――確か新シリーズの遊戯王の世界、何故かこの世界で生まれ変わった。最初はすっごい驚いたね、何せテレビでZEXALの最終回を見て泣いて、翌週の劇場版の地上波放送をアストラル待機していたと思ったら、小さい女の子になっていたんだから。どういう…ことだ…?

 

 あとこの世界での0~3歳くらいまでの記憶はない。いや、前世でもそのぐらい間の歳は記憶がないけど。まぁそんな話は除外して――ここが遊戯王の世界だって気付いた私は、まずある事を始めた。

 

 筋トレだ。デュエリストなら体は鍛えなきゃいけない、これはデュエリストなら常識と言って良いだろう。何せデュエルディスクを装着して1日に何回もデュエルするんだから、後半になってデュエルディスクが重くて腕が上がらないなんて無様な姿は見せたくない。それにいつリアルファイトに巻き込まれたり、崖から落ちたり、熊と遭遇するかわからないのだ。それなら、と思った私は暇さえあれば近くの公園を延々と走っていたり、遊具で体力が果てるまで遊び尽くした。やってることは普通の子供だけど、小さい時から外で遊んだ方が体力は付くと思うし、小さい子供が筋トレしても世間体が気になるし…。

 

 と、とにかくそういった日々を過ごしていく内に私が小学生になる頃にはこの街――舞網市ではアクションデュエルが人々を熱狂の渦に巻き込んだ。質量を持ったソリッドビジョンによってモンスターと共に地を蹴り、宙を舞い、フィールドを駆け巡る――最初に聞いた時は『えっ?質量を持ったソリッドビジョンって、いつもの遊戯王じゃないの?』と思ったけど、実際にこの目で見てみると質量を持った(・ ・ ・ ・ ・ ・)の意味を理解した。

 本当に人とモンスターが触れ合って(・ ・ ・ ・ ・)デュエルしているのだ。専用のデュエルスタジアムでは広大なフィールドをモンスターと共にデュエリストが動き回り、その派手なパフォーマンスには心惹かれる。何よりモンスターに触れるというのが私に一番の衝撃を与えた。だってモンスターに触れるんだよ!? 青眼にだって、真紅眼にだって、スタダにだって、銀河眼にも触れる…!

てかドラゴン族に触れる!!

 

 これは私も早くデュエルができるようにならないといけないと思い、お母さんにデュエル塾に通わせてもらうように頼み込んだ。お母さんは典型的な教育ママという感じだったけど子供のことは一番に考えてくれるし、何よりデュエルの重要性を理解していたためすぐに了承してくれた。

 ――っしゃあ!これで私もデュエリストになれる! そう意気込んだ私は早速デュエル塾へ。行き先は勿論かの榊遊勝の居る遊勝塾――ではなく、LDS。遊勝塾ではなくLDSを選んだことにはきちんと理由がある。私自身、前世では(ドラゴン族のために)融合やシンクロ、エクシーズに手を付けたデュエリストだ。できることならメインデッキは勿論、エクストラデッキもドラゴン族を多めにしてドラゴンハーレムを築き上げたいという願望がある。そしてLDSは融合・儀式・シンクロ・エクシーズと各種召喚方法の教育を受けることができる最大手にして唯一のデュエル塾、それならばと思い私はLDSに選んだのだ。ただ残念なことにLDSでは融合・シンクロ・エクシーズと各コースに分かれており、コース選択の際に何を血迷ったのか私は――

 

『じゃあ総合コースなら、総合って言うんだから全部の召喚ができるだろうなー』

 

 ――という謎発想で総合コースに進んでしまった。後でカリキュラムを確認してみると、総合コースは基本的にアドバンス召喚・儀式召喚等のメインデッキに関係する召喚方法を中心としたコースとのこと。くっ、どうしてこんなことに…!絶対に許さねぇ、ドン・サウザンドォオオオオ!! シンクロ召喚とエクシーズ召喚もしたかった私はどうしたら良いんだ! 答えろ、答えてみろルドガー!

 ――と、コースを選択した後に頭を抱えていた時、LDSの塾概要冊子を読んでいたら面白い項目があったことに気付いた。

 

『LDS内のカードショップのシングルカードはLDS内で利用されるDP(デュエルポイント)で購入することができます』

 

 ポイント制!? あ、いや違う違う。DP!? えっと――DPは所謂LDSにおけるカード関係専用の通貨のようなものらしい。LDS内でそのDPは筆記・実技・講義態度等で講師から各生徒に毎週頭に配当されるらしく、ある程度の成績を維持できれば安定してカードを購入できる。他にも塾生同士のデュエルで増加、この場合は勝った方がもらえるポイントは多いけど、負けた方にも僅かにもらえるとのこと。さらにデュエル中のボーナスも設定されており、1デュエル中の特殊召喚回数、カード効果で破壊した回数、ライフポイント逆転勝利ボーナス等でデュエル毎にもらえるポイントもだいぶ変わるっぽい。なるほど、要は携帯ゲームで出たタッグフォース的な感じな訳だ。

 

 そうと分かればあとは簡単。講義は超が付く程真面目に受け、暇になったら手当たり次第塾生にデュエルを申し込めば良い。塾生はみんなデュエルに対して真摯だから断わるような人はほとんどおらず、私は無事に何度もデュエルすることができた。かと言ってどこぞのランク4・炎属性・海竜族さんのように俺TUEEEEと言わんばかりに連戦連勝という訳にはいかず、塾から支給された初期デッキで戦うのは思った以上に大変だったと感じる。最初は本当にスターターデッキのような内容で、使えるカードは決して悪くはないけどもどちらかと言えばスタンダード寄りのデッキ。同じ時期に入塾した相手とは良い感じに接戦しても、各コースの先輩相手ではどうしてもデッキの地力差で負けてしまう。一刻も早くドラゴン族を組みたかった私としてはより勝ち星とDPを稼げるようになけなしのDPを汎用性のある下級・上級ドラゴン族に全ツッパし、ジュニア(小学生)時代には一応のドラゴンハーレムを完成させて大体《ストロング・ウィンド・ドラゴン》と《マテリアルドラゴン》を並べてゴリ押し。ある程度DPが溜まったジュニアユース初期(中学1年生)では、別のドラゴン族デッキ――『お触れホルス』へとシフトチェンジ。カードプールの増加によってモンスター効果による除去やステータス変化で案外簡単に処理されそうになるけども、ここは《マテリアルドラゴン》と《禁じられた聖杯》に頑張ってもらう。存外ガチな感じになってしまったけど、何とでも言え。私とてドラゴン族ハーレムを築き上げねばならん…!

 

 その頃の私は講義終わりに無差別にデュエルを申し込み、さらに(当時は)ガチなデッキを使ったお陰でいつの間にか総合コースの首席(ジュニアユースのだけど)になっていた。そしてLDS内で行われる各コースの代表同士がデュエルするイベント等で融合コースの真澄、シンクロコースの刃、エクシーズコースの北斗達と仲良くなっていつしか4人で一緒に行動するように。ただ前作までの全シリーズを視聴している私としては、うっかりデュエル脳なネタを言ってしまいかねないので普段はなるべくデュエル以外のことでは口数を少なくし、クールな感じを装ってる。中身はこんなに残念なデュエル脳なのに騙しているみたいにクールを装ってごめんね3人とも。しかも何故か口調がやたらと機械的になっちゃった、クールって難しい。

 

 そして3人と仲良くなってから大体1年が経った。中学2年生になった私はシンクロ・エクシーズもできるという名目上での『総合』を謳い、デッキは『カオスドラゴン』になっていた。《ライトパルサー・ドラゴン》と《ダークフレア・ドラゴン》の上級特殊召喚コンビ、《ライトエンド・ドラゴン》と《ダークエンド・ドラゴン》のシンクロコンビ、《竜魔人 クィーンドラグーン》と《聖刻龍王-アトゥムス》のエクシーズコンビ、といった具合で私のドラゴンハーレムが着々と形成されていき、そりゃあもう私は浮かれていた。具体的には2クールの友情ごっこが決まり、相手のデッキを30枚破壊して2500ポイントのライフを得た時ぐらい。

 

 そんなある日、講義が終わってから講師の先生に私は呼び止められた。何でもレオ・コーポレーションの方で新しく儀式モンスターを開発したので、そのテストプレイヤーになって欲しいとのこと。当初、私はドラゴン族の儀式モンスターは《白竜の聖騎士》しか居なかったと記憶していたのでその件を断ろうとしていたが――。

 

「レベル6・光属性・ドラゴン族の儀式モンスターなんだが」

「やります」

 

 ――即座に了承した。その時はそのモンスターのステータスや効果のことなど全く頭になかったのだが、レベル6・光属性・ドラゴン族というだけで私の脳内で刹那にデッキレシピが構築された。そして専用のデッキを組むために今までお世話になったデッキのカードの大半をDPに変換し、前世で一度作ってみたかったデッキを作るために改めてデッキを構築する。

 

 以前までのガチ分は多少抜ける形になってしまうけど、元々私はこういうデッキを作りたかったのだ。シンクロができて、エクシーズができて、儀式もできて、あわよくば融合もできるデッキ。とんだロマンチストだなと言われるかもしれない。しかし、これが’’私流’’のデュエルだ。勝つだけじゃなく、自分が楽しめ、相手を驚かせ、観ている人を楽しませる。これが前世における私のデュエル理念だ。

 この理念はLDSでは異端かもしれないけど、さっき刃が社長は遊勝さんのことを尊敬しているって言ってたから今回は社長に私のデュエルをしっかりと披露しよう。手札も悪くないし、勝てるとは思えないけど全力を尽くす!

 

 あ、そういえば社長ってどんなデッキ使うんだろう? ギミパペかな?

 

 

 

――――――――

 

 

 

「先攻・後攻はどうする?」

「今回のデュエルは社長のデッキのテストプレイ。デッキ回りの確認なら私は後攻で構いません(後攻1ドロー欲しい)

「では遠慮なく頂こう」

 

 零児は眼鏡のブリッジ部分を、手札を持っていない方の指で軽く上げ改めて自分の手札を確認する。初期手札としては良好。それも先攻であるために手札誘発の効果モンスターさえ存在しなければ好きなように展開も可能。また、テストプレイとはいえ彼の相手は曲りなりにもジュニアユース総合コース首席、手加減をする理由がない。最初から全力を出す必要があると感じ、自身の脳内に構築されたプレイングを実行に移す。

 

「手札から永続魔法《地獄門の契約書》を発動する。このカードは私のスタンバイフェイズ毎に1000ポイントのダメージを私が受ける」

(《マテリアルドラゴン》ならスタンバイフェイズ毎に回復できるなぁ)

 

 発動された永続魔法の効果と(自身の好きな)モンスターとのシナジーを龍姫が考えていると、次の効果を説明するために零児の口が開く。

 

「だがそれだけではない。《地獄門の契約書》のもう1つの効果を発動。1ターンに1度、デッキから『DD』モンスター1体を手札に加える――私はこの効果でデッキから《DDケルベロス》を手札に。また、《地獄門の契約書》のこの効果は1ターンに1度しか使えない」

(何あのチートサーチカード。しかもサーチモンスターにレベル制限がなくて永続魔法?マテドラ立たせたらアド稼ぎ放題――もしかして社長権限で作ったカード?これが権力ってやつか…)

 

 カテゴリモンスター専用とはいえ、レベル制限のないサーチカードに某不動性ソリティア理論の開祖の言葉を用いつつそのカードの強力さを分析する龍姫。何分、この世界では『残念だが俺はこのカードを発動していた!』と事後説明が多くなるので、未知のカードには細心の注意を払わねばならない。例えデュエル脳であっても前世ではOCGデュエリスト、カード効果を把握しておくことは大事なのだ。

 

「そしてさらに永続魔法《魔神王の契約書》を発動する。このカードも私のスタンバイフェイズ毎に1000ポイントのダメージを私が受ける――そしてこのカードは悪魔族融合モンスターを融合召喚する際、悪魔族の融合モンスターカードによって決められたモンスターを私の手札・フィールドから墓地に送ることで融合召喚できる。また、墓地の素材モンスターを除外することでも融合召喚が可能だ」

(墓地のモンスターで融合召喚!? あっ、今は墓地にいないから普通の融合か……それでも永続魔法なのは面白いなぁ。1キルしない《フュージョン・ゲート》より使い勝手は良さそう。悪魔族限定で)

「私は手札の《DDケルベロス》と《DDリリス》で融合――牙を剥く地獄の番犬よ、闇より誘う娼婦よ、冥府に渦巻く光の中で、今ひとつとなりて新たな王を生み出さん。融合召喚! 生誕せよ! 《DDD烈火王テムジン》!」

 

 先ほど零児の手札に加えられた《DDケルベロス》と元々手札にあった《DDリリス》がソリッドビジョンとして1度空中に現れる。緑と橙の光と共に渦巻き、三つ首の番犬と紅色の妖女が渦の中へと入り込む。そして一度赤い光が強く輝くと、真紅の盾と剣を携えたモンスター《DDD烈火王テムジン》がフィールドへと顕現する。

 

(攻撃力2000の悪魔族融合モンスター……効果は確認できないけど、あんまりステータスが高くないってことは何かしら強力な効果を持っているハズ――)

「さらに私は手札からチューナーモンスター《DDナイト・ハウリング》を通常召喚。このカードが召喚に成功した時、墓地の『DD』モンスター1体を特殊召喚する。尤も、この効果で特殊召喚されたモンスターの効果は無効になり、破壊された時に私は1000ポイントのダメージを受けるが――私はこの効果で墓地の《DDリリス》を特殊召喚する」

(――えっ、チューナー? しかも吊り上げ? てか蘇生したモンスターに対して何その適当デメリット……インチキ効果もいい加減しろ!)

 

 表情には出さないよう、龍姫は至って平静を装った目でたった今現れた巨大な獣の顎を模したモンスター、ナイト・ハウリングと特殊召喚されたリリスを見て内心で某闇属性・鳥獣族使いの言葉を借りて毒づく。チューナーとチューナー以外のモンスターが揃ったということは、次に繰り出される召喚方法もLDSの塾生ならば誰しもが知っている。

 

「私はレベル4の《DDリリス》にレベル3の《DDナイト・ハウリング》をチューニング。闇を切り裂く咆哮よ、疾風の速さを得て新たな王の産声となれ!シンクロ召喚!生誕せよ!レベル7!《DDD疾風王アレクサンダー!》」

(融合とシンクロ……初ターンから飛ばすなぁ。でも通常召喚権は使ったし、残りの手札は1枚――これ以上の展開はないハズ…)

 

 ナイト・ハウリングが3つの緑のリングへと変わり、そのリングの中央にリリスが4つの白い丸星へと姿を変え、一瞬緑色の光が強く輝く。すると上空から若竹色の衣を背に、片刃の剣を持ったモンスター《DDD疾風王アレクサンダー》がフィールドに舞い降りる。この時点で零児は手札を4枚消費しており、彼の残り手札は1枚。龍姫自身、前世で手札1枚から動けるデッキは『魔轟神』くらいしか思い浮ばないため、これ以上の大きな動きはないと読んだ。

 しかし――

 

「私の場に『DD』モンスターが特殊召喚されたことで《DDD烈火王テムジン》の効果発動!このカードがモンスターゾーンに存在し、私の場にこのカード以外の『DD』モンスターが特殊召喚された場合、墓地から『DD』モンスター1体を特殊召喚する――蘇れ、《DDケルベロス》!」

(…あれぇ?)

「さらに《DDD疾風王アレクサンダー》の効果発動! このカードがモンスターゾーンに存在し、私の場にこのカード以外の『DD』モンスターが召喚・特殊召喚された場合、墓地からレベル4以下の『DD』モンスター1体を特殊召喚する。再び蘇れ、《DDリリス》!」

(あ、これ『不動性ソリティア理論』だ)

 

 ――その読みは見事なまでに外れた。ここまで綺麗にデッキを回されると呆れという陳腐な表現ではなく、驚嘆の一言に尽きる。いや驚嘆したとしてもあまりのガチ回しっぷりに口から言葉が出ず、ただただ彼のプレイングを見ることしかできない。

 

「ここで特殊召喚に成功した《DDリリス》の効果を発動。このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合、墓地から『DD』モンスター1体を手札に加えることができる――私は墓地の《DDナイト・ハウリング》を手札に加える。さらにここで魔法カード《闇の誘惑》を発動。デッキからカードを2枚ドローし、その後手札から闇属性モンスター1体をゲームから除外する。私はデッキからカードを2枚ドロー、そして《DDリリス》の効果で手札に戻した《DDナイト・ハウリング》をゲームから除外」

(ワァオ、情報アドも消して来たよこの人。もうちょっとファンサービスしてくれても――あっ、別に私社長のファンじゃなかった。てかレベルⅣ――じゃなくてレベル4のモンスターが2体…来るぞ、私!)

 

 更なるモンスターの展開、そしてその効果を用いて墓地からモンスターを回収。その上情報アドバンテージとして龍姫が得た情報もドローソースのコストとして利用することで帳消し。零児のデュエリストとしての引きの良さ、そして隙のないプレイングに『流石伝説の極東エリアのデュエルチャンピオン(の声の人)だ!』と龍姫は内心感服する。

 

「まだ終わりではない――私はレベル4の《DDケルベロス》と《DDリリス》でオーバーレイ!2体の悪魔族モンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!この世の全てを統べるため、今世界の頂きに降臨せよ!エクシーズ召喚!生誕せよ!ランク4!《DDD怒涛王シーザー》!」

 

 再び《DDケルベロス》と《DDリリス》がソリッドビジョンで映し出されたが、その2体はすぐに黒紫色の光となって1つへと交わる。そして地面に暗礁色の円が出現し、その中から藍色の鎧を纏い大剣を手にしたモンスター《DDD怒涛王シーザー》が這い出てきた。

 

 融合モンスター、シンクロモンスター、エクシーズモンスター――エクストラデッキに投入できる3種のモンスターを僅か1ターンで全て出した零児の顔はどこか満足気であり、逆に龍姫の方はその展開力に呆気に取られる。だが普段からクールを装っていた成果か、傍から見れば龍姫の表情はデュエル開始時と同じく冷淡としたものであり、強者の風格さえ漂っているかのように零児は感じた。

 

「ほぅ、これだけ展開しても顔色は変えないか……流石は我がLDSのジュニアユース総合コース首席といったところか」

(違います、社長の展開力に驚いて顔が固まったんです)

「ふっ、そんなことは当然とでも言いた気な顔だ。だが口に出す必要はないとばかりに沈黙を貫く……どうやら君はジュニアユースのトップクラスでも特に優秀なデュエリストらしい」

(それも違います、ビックリして言葉が出ないんです)

「君がどう来るか期待させてもらおう。私はカードを2枚セットし、ターンを終了する。さぁ、君のターンだ」

 

 残った手札2枚を魔法・罠カードゾーンへとセットし、零児はターンを終える。これで彼の手札は0だが、フィールドには3体のモンスター、2枚の永続魔法、2枚のセットカードと初期手札よりも総合的なカードアドバンテージでは上回っており、その圧倒的なプレイングセンスには脱帽ものだ。

 

 しかし、だからと言って龍姫は臆したりはしない。例え相手が ワンターンスリィエクストラモンスタァ をしたとしても決して引かず、前へ進む。前作主人公のかっとビングを思い出し、龍姫はデッキトップのカードへ指をかける。

 

「私のターン、ドロー」

 

 

 

――――――――

 

 

 

 社長パネェ。いや、お世辞抜きですごい。融合・シンクロ・エクシーズを1ターンで決めるって、ある意味エンターテインメントだよ。これは表舞台でやったらすっごい観客が沸き立つだろうなぁ。

 あと最初に『DD』って聞いた時は『除外デッキ!?』と内心ビクビクしたけど、そんなことはなさそうで安心した。このデッキ除外に弱いし……あっ、セイクリッドもジェムナイトもX-セイバーも除外には弱いか。でもDDって何の意味だろう? DD……GXのチャンピオン? ZEXALで出た《運命の扉(デステニー・ドア)》? 他には……2つのDだからデビルとデス、3つのDだと大好きブルーノちゃんが加わるのかな?

 ――ないね、自分で言っておいてアレだけど。それじゃあ闇属性・悪魔族でダーク・デビルとかそんな感じかな? でもエクストラのモンスターは属性違うし、しかもDDDでDが増えるし――どういう…ことだ…? DDDは一体何のことだ社長!まるで意味がわからんぞ!

 

 あぁもう、考えるのはやめやめ!とりあえずあの『DD』は下級モンスター、エクストラモンスター共に展開補助メインのカテゴリで今回みたいに ワンターンスリィエクストラモンスタァ で相手をフルボッコするデッキ! 永続魔法の『契約書』は万能サーチと融合サポートで、これはきっとカードパワーに見合わせるために1000ダメのデメリットを付けた! よし解決! ここからは気持ちを切り替えて自分のデュエルに集中! さぁて、最初のドローカードはな~にっかな~?

 

 

 

――――――――

 

 

 

「――手札から2枚の魔法カードを発動。《儀式の準備》と《召集の聖刻印》」

(……儀式と『聖刻』――なるほど、そういうことか)

 

 龍姫が発動した2枚の魔法カードを見て、零児は納得した表情を浮かべる。儀式――つまりは儀式モンスターだが、そのモンスター群は儀式魔法と呼ばれる特殊な魔法カードを用いて召喚されるものだ。儀式召喚は手札に儀式モンスター・儀式魔法の2枚のカードに加え、必要なレベル分だけ一部の例外を除いて手札・フィールドのモンスターをリリースし、儀式モンスターを降臨させる召喚方法。そして『聖刻』は光属性・ドラゴン族モンスターのカード群であり、その大半は自身がリリースされた時にデッキからドラゴン族の通常モンスターの攻守を0にすることで特殊召喚できるカテゴリだ。儀式召喚で『聖刻』モンスターをリリースし、その追加効果でモンスターを展開しエクシーズに繋げる――先ほどの真澄とのデュエル、そして今しがた発動された2枚の魔法カードを見て零児は龍姫がどのようなデッキなのかを一瞬で把握する。

 

「《儀式の準備》の効果――デッキからレベル7以下の儀式モンスター1体を手札に加える。その後、墓地の儀式魔法1枚を手札に戻す。私は前半の効果のみを適用し、デッキから儀式モンスター《竜姫神サフィラ》を手札に」

「…確認した」

「続けて《召集の聖刻印》の効果――デッキから『聖刻』モンスター1体を手札に加える。私はデッキから《聖刻龍-トフェニドラゴン》を手札に」

「確かに」

 

 デッキから手札に加えたカードに偽りがないよう、龍姫はサーチしたカードを零児に見せ、零児もそれを自身の目で確かめた。龍姫自身は前世からの癖で違反がないようにカードを公開するが、本来であれば不正が発覚した時点でデュエルディスクからエラーが発せられる。故にこのようなことはしなくても良いのだが、何分癖というものは染みついてしまっているのでそう簡単に直せるものでもないし、この程度ならデュエルの進行に支障を生じる程でもないので特に直そうとはしない。

 

「手札から《マンジュ・ゴッド》を召喚。このカードが召喚に成功した時、デッキから儀式モンスター、または儀式魔法を手札に加えることができる。私はこの効果でデッキから儀式魔法の《祝祷の聖歌》を手札に」

「……条件が整ったか…」

 

 龍姫の手札には儀式モンスターと儀式魔法、そしてその儀式召喚に必要なモンスターのレベルが揃っている。カードアドバンテージとしての儀式召喚はコストパフォーマンス劣悪だが、それを『聖刻』モンスターの効果でカバー。よく練られたデッキだと、零児は素直に心の中で称賛する。

 

「――儀式魔法《祝祷の聖歌》を発動。私の手札・フィールドからレベルの合計が6以上になるようにモンスターをリリースし、《竜姫神サフィラ》を降臨させる。手札の《聖刻龍-トフェニドラゴン》をリリース――祝福の祈りを奏で、聖なる歌で光を導け! 儀式召喚! 光臨せよ、《竜姫神サフィラ》!」

 

 天から6本の光が六角形の角を描く形で矢のように龍姫のフィールドに突き刺さり、その中央に一際巨大な光が降り注ぐ。その光から人と同じ体躯を持ちその全身はサファイアブルーの鱗で覆われ、背から鳥を彷彿とさせる翼を生やし、体の各所に金色の装飾を纏った竜人がフィールドに降臨する。

 

「このモンスターは先ほどの――なるほど、これが君のエースモンスターか」

「……リリースされたトフェニドラゴンのモンスター効果発動。このカードがリリースされた時、手札・デッキ・墓地からドラゴン族・通常モンスター1体の攻守を0にして特殊召喚する。この効果でデッキから《アレキサンドライドラゴン》を特殊召喚」

 

 零児の言葉に対して龍姫は肯定も否定もせず、ただ淡々とカード効果の処理を続ける。《聖刻龍-トフェニドラゴン》の効果により、龍姫のデッキからアレキサンドライト鉱石の鱗で全身を覆いしなやかな四肢を持った竜がフィールドに姿を現した。これで龍姫のフィールドの中央には《竜姫神サフィラ》、その両隣にはレベル4のモンスターが2体揃ったことになる。

 

(レベル4のモンスターが2体――来るか…)

「――私はレベル4の《マンジュ・ゴッド》と《アレキサンドライドラゴン》でオーバーレイ。2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築。竜弦を響かせ、その音色で闇より竜を誘え! エクシーズ召喚! 降臨せよ、《竜魔人 クィーンドラグーン》!」

 

 《マンジュ・ゴッド》と《アレキサンドライドラゴン》は白金の光となり、突如出現した黒い渦の中へと誘われた。そして一瞬黒紫色の光が輝き、その中から妖艶な女性の上半身、下半身には燃える獣のような四肢と背に同じく燃える翼を持った竜が現出する。

 

「《竜魔人 クィーンドラグーン》のモンスター効果発動。オーバーレイ・ユニットを1つ使い、墓地からレベル5以上のドラゴン族モンスター1体の効果を無効にして特殊召喚する。私はオーバーレイ・ユニットの《アレキサンドライドラゴン》を使い、墓地の《聖刻龍-トフェニドラゴン》を特殊召喚。また、この効果で特殊召喚されたモンスターはこのターン攻撃できない」

(モンスターを増やして来たか……彼女の手札はまだ3枚ある――さらに展開してきても不思議ではない)

「――フィールドの《聖刻龍-トフェニドラゴン》をリリースし、手札から《聖刻龍-シユウドラゴン》を特殊召喚。このカードは自分フィールドの『聖刻』モンスター1体をリリースして特殊召喚できる。そしてリリースされたトフェニドラゴンのモンスター効果発動。デッキからドラゴン族・通常モンスターの《ガード・オブ・フレムベル》を特殊召喚」

(やはり――だがここでチューナーモンスターだと?)

 

 龍姫がさらに展開してくるだろうと零児は予想していたが、チューナーモンスターを出して来たことは少々意外だった。リリースされた《聖刻龍-トフェニドラゴン》の効果でレベル6のドラゴン族・通常モンスターを特殊召喚すれば、今フィールドに出ている《聖刻龍-シユウドラゴン》と合わせてランク6のエクシーズモンスターを呼び出すことができる。またその素材からドラゴン族・ランク6のエクシーズモンスターのエクシーズ召喚を狙う形になるので、《聖刻龍王-アトゥムス》も充分視野に入るハズだ。

 

 しかし龍姫が呼んだモンスターはレベル1・通常モンスターにしてチューナーモンスターの《ガード・オブ・フレムベル》。選択肢としては充分に考えられる手だ。無理に《聖刻龍王-アトゥムス》の効果で展開するよりも、この方がフィールドのモンスターを余すことなく活用できる。後の展開――というよりはこのターンで攻めるのだろうと零児は予想した。

 

「私はレベル6の《聖刻龍-シユウドラゴン》にレベル1の《ガード・オブ・フレムベル》をチューニング。竜の咆哮が轟く時、その轟咆が全てを爆砕する!シンクロ召喚!現れよ!レベル7、《エクスプロード・ウィング・ドラゴン》!」

(やはりそう来るか…)

 

 炎を纏った青い体色の小さな竜が緑色のリングへと変わり、その中に金色の装飾が施された青い竜が白い星へとなってその中へと誘われる。そしてそのリングに一筋の光が走った瞬間、その光の中から紫色の鱗に覆われ、背が火山の如き膨らみを持った竜が姿を現す。

 

 先ほどの零児の予想は正しかった。これで龍姫のフィールドにはモンスターが3体、それも攻撃力で見れば零児の《DDD疾風王アレクサンダー》以外は容易に戦闘破壊できるステータスを誇る。それを初ターンで軽々と展開できる彼女はジュニアユースと言えど、LDS総合コースの首席に相応しい実力だろう。

 

(ふっ……まさか総合コースの生徒がここまで他のコースの召喚方法を使いこなすとは…中々愉しませてくれる。たまにはこのようにプラクティス・デュエルフィールドに来るものだな。存外、面白いものが見れ――)

「――手札から魔法カード《龍の鏡(ドラゴンズ・ミラー)》を発動。私のフィールド・墓地から融合モンスターによって決められたモンスターをゲームから除外し、ドラゴン族の融合モンスター1体を融合召喚する」

「――っ!ここで融合…!?」

 

 零児が心の内で龍姫のことを評価していた最中、予想だにしなかったカードで今までの平静な表情が一瞬にして崩れた。だがそんな零児のことなどお構いなしと言わんばかりに龍姫はカード効果の処理を続ける。

 

「私は墓地の《アレキサンドライドラゴン》と《ガード・オブ・フレムベル》の2体を融合素材としてゲームから除外――原始にして原祖の竜、如何なる者の介入を禁じる翼を羽ばたかせよ!融合召喚!出でよ、《始祖竜ワイアーム》!」

 

 《アレキサンドライドラゴン》と《ガード・オブ・フレムベル》が一瞬ソリッドビジョンに映し出され、その2竜はすぐに橙と緑の光と共に渦巻く。そしてその混沌とした光の中から圧倒的な威圧感と強大さを感じさせる。巨大な鉄灰色の竜が現れる。

 

「おいおい龍姫、社長相手だからって張り切り過ぎじゃねぇか?」

「1ターン融合・儀式・シンクロ・エクシーズなんてしたことないのにね」

「何を言ってる刃、真澄。社長相手だからこそ龍姫は本気なんだろう」

(……彼らは彼女がこのように展開することに慣れているのか…)

 

 ジュニアユース各コース首席の慣れている反応に若干引きながら、零児は改めて目の前の状況を見る。龍姫の場には――

 攻撃力2200のエクシーズモンスター、《竜魔人 クィーンドラグーン》

 攻撃力2400のシンクロモンスター、《エクスプロード・ウィング・ドラゴン》

 攻撃力2500の儀式モンスター、《竜姫神サフィラ》

 攻撃力2700の融合モンスター、《始祖竜ワイアーム》

 ――僅か1ターンでこれだけのモンスターを展開し、なおかつ自身の専攻コースではない召喚方法をここまで自在に操る龍姫の実力は本物であることが零児には分かった。零児自身も先のターンで融合・シンクロ・エクシーズを1ターンで決めたものの、上には上がいることを認識させられる。モンスターだけで見れば圧倒的に不利な状況だが、同時に何とも言い難い高揚感を彼は感じた。プラクティスとは言え、これだけの強敵を前にデュエルができる喜び。そしてどう倒すかを脳内で考えるだけでも、体から湧き上がる闘志が燃える。

 

(久しく感じていなかったこの高揚感、私自身がデュエリストであることを思い出させてくれる。面白い……ならば私も全力で挑ませてもらうぞ、橘田龍姫!)

 

 

 

――――――――

 

 

 

 新記録っ! 1ターンで融合・儀式・シンクロ・エクシーズ全部揃ったよ、イヤッッホォオオオォォゥ!! もう、これは初期手札に恵まれたとしか言いようがない。ドローカードの《マンジュ・ゴッド》を見て、つい内心で『オイオイこれじゃ…Meの勝ちじゃないか!』って叫んじゃったよ。最初はトフェニ持って来てトフェニをリリースしてシユウ特殊召喚、トフェニ効果でデッキから《エレキテルドラゴン》出して《フォトン・ストリーク・バウンサー》を作ろうと思ったけど、この手札じゃ全種類を並べたくなる。それに相手の伏せガン無視だったけれども、召喚反応系の罠じゃなくて良かった…。でもこの世界じゃモンスター除去系の罠って極端に敬遠されているから、社長もそういう姑息な罠を積んでいないって信じていたよ!

 

 まぁ嫌われる理由がソリッドビジョン映えしないってことなんだけどね!そりゃ大型モンスターがソリッドビジョン出て観客が湧き上がったと思った瞬間に『あっ、奈落で』ってやったらお客さんからしたら萎える。そのためこの世界では極力ソリッドビジョン映えがよくない罠は暗黙のルールで採用しないようになっており、《奈落の落とし穴》や《強制脱出装置》といったカードは滅多に使われない。昔、除去ガジェのプロデュエリストが居たけど、その人は堅実にデュエルしていたのにお客さんからは『つまらない』という理由で集客できず、スポンサーもいなくなって引退。やだ何この世界怖い。で、でもお陰で相手の伏せを無視して展開できるから良いけど……相手の伏せを警戒したり、読む駆け引きができなくなったのは少し物足りない。

 ――ごめん、嘘。気兼ねなく展開できて楽しいです。

 

 あと何だかんだで出すモンスターをもう少し選り優れてれば――とは思う。シンクロモンスターで《エクスプロード・ウィング・ドラゴン》じゃなくて、《ライトロード・アーク ミカエル》辺りの方が安定する。でもミカちゅわ~んはDP的にすごく高くて買えないんだ……50万DPは高い。大体1回のデュエルで勝ってもらえるDPが約500だから千回勝たないと買えない、1日で10戦したとしても100日――その前に5万DPで買える《エクスプロード・ウィング・ドラゴン》をお迎え。ま、まぁこの子も強いし……この間沢渡――じゃなくてネオ沢渡とデュエルして帝モンスター相手に無双したし…。そしてドラゴン族なら必須と言われるカード《レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン》――通称レダメさんに至っては300万DP。ミカちゅわ~んの6倍である。高い。ジュニアユースのデュエリストがそんな高額カード買える訳ないだろう! だから私のデッキはまだ少し不完全。早く真のドラゴン使いになりたい――ぐっ、欲しいドラゴンが多すぎる…!

 

 ――っと、今はデュエル中。デュエルに集中しなきゃ。とりあえず社長の場のモンスターを全部倒せ、なおかつ直接攻撃も含めれば1ショットキルができる状況にまでは持ち込めた。まずは《エクスプロード・ウィング・ドラゴン》で《DDD怒涛王シーザー》に攻撃。エクスプロードは自身の攻撃力以下の相手モンスターとバトルする時、ダメージ計算を行わずにそのモンスターを破壊しその攻撃力分のダメージを相手に与える――この効果は’’攻撃力以下’’だから同じ攻撃力相手でも発動でき、攻撃力2400のシーザーを破壊すれば2400ものダメージを与えられる。次に《始祖竜ワイアーム》で《DDD疾風王アレクサンダー》を戦闘破壊し、200ダメージ。そして《竜魔人 クィーンドラグーン》か《竜姫神サフィラ》で《DDD烈火王テムジン》を戦闘破壊、続けてどちらかの直接攻撃が決まれば合計4000ポイント以上のダメージで私の勝ち。よしっ、勝利の方程式は揃った! この布陣なら勝てる! (リバースカードのことが頭から抜け落ちながら)

 

 

 

――――――――

 

 

 

「……バトルフェイズ。《エクスプロード・ウィング・ドラゴン》で《DDD怒涛王シーザー》に攻撃。ブラスト・バスター!」

 

 《エクスプロード・ウィング・ドラゴン》が《DDD怒涛王シーザー》の元へと飛翔し、その最中にその大きな口で大きく空気を吸い、背部の膨らみがさらに肥大化する。そしてその膨らみが急速に収縮するのと同時に《エクスプロード・ウィング・ドラゴン》の口から真紅の炎が放たれ、その炎は一直線に《DDD怒涛王シーザー》へと向かう。

 

「――エクスプロードは自身の攻撃力以下のモンスターとバトルする時、ダメージ計算を行わずに相手モンスターを破壊し、その攻撃力分のダメージを与える。シーザーの攻撃力は2400――よってこの効果の適用範囲内。シーザーを破壊し、その攻撃力分のダメージを受けてもら――」

「ダメージステップ開始時に永続罠《戦乙女(ヴァルキリー)の契約書》を発動。このカードが表側表示で存在する限り私はスタンバイフェイズ毎に1000ポイントのダメージを受けるが、私の悪魔族モンスターの攻撃力は相手ターンの間1000ポイントアップする。残念だがその効果は不発だ――さらに反撃も受けてもらおうか」

「――っ、《竜魔人 クィーンドラグーン》がフィールドに居る限り、《竜魔人 クィーンドラグーン》以外の私のドラゴン族モンスターは戦闘では破壊されない」

「だがダメージは受けてもらう」

 

 しかしその轟炎がシーザーに直撃する寸前、零児が発動させた永続罠カードの効果によって《DDD怒涛王シーザー》の全身が強く輝き、攻撃力が3400に上がる。そして自らに襲いかかる炎を大剣で切り裂き、反撃としてそのまま《エクスプロード・ウィング・ドラゴン》の胸元へとその切っ先を突き刺した。《竜魔人 クィーンドラグーン》の効果で戦闘破壊こそされないものの、《エクスプロード・ウィング・ドラゴン》は悲痛の叫びを上げ、それと同時に龍姫のライフポイントが4000から3000に下がる。

 

 思わぬタイミングの反撃に龍姫は一瞬目を細めるが、すぐに何事もなかったかのようにフィールドを見た。零児の場のモンスターは全て悪魔族、よってたった今発動された永続罠《戦乙女の契約書》によって攻撃力が上がっている。

 《DDD疾風王アレクサンダー》は攻撃力3500。

 《DDD怒涛王シーザー》は攻撃力3400。

 《DDD烈火王テムジン》は攻撃力3000。

 今の龍姫の場で最大攻撃力は《始祖竜ワイアーム》の2700――とでもではないが、今の龍姫のモンスターで零児のモンスター相手に太刀打ちできる状況ではない。

 

 

 

「……バトルフェイズを終了。メインフェイズ2――手札から魔法カード《招来の対価》を発動。このカードはこのターン、私が手札・フィールドからリリースしたトークン以外のモンスターの数に応じて効果が変わり、エンドフェイズにその効果を適用する。1体ならデッキから1枚ドロー、2体なら自分の墓地のモンスターを2体選んで手札に加え、3体以上ならフィールド上に表側表示で存在するカードを3枚まで破壊する。私はこのターン《聖刻龍-トフェニドラゴン》2回リリースした。よってエンドフェイズに墓地から2体モンスターを手札に加える効果を得る」

(…これで手札を全て使ったか。だが、あのカードの効果で次ターンに備える――アフターケアも万全だったとは……)

 

 歯痒いことではあるが、今の龍姫が置かれた状況ではあれらのモンスターを倒せない以上、別の手を打たなければならない。せめて次ターンへと繋げられるよう、手を多くしておくことが今できる彼女の精一杯のことだ。

 

「エンドフェイズに移行――《招来の対価》の効果で墓地の《聖刻龍-トフェニドラゴン》と《聖刻龍-シユウドラゴン》を手札に。そして《竜姫神サフィラ》の効果を発動。このカードが儀式召喚に成功したターンのエンドフェイズ、もしくは手札・デッキから光属性モンスターが墓地に送られたターンのエンドフェイズに3つの効果から1つを選んで発動できる。1つ目、デッキからカードを2枚ドローし、その後手札を1枚捨てる、2つ目、相手の手札をランダムに1枚選び、墓地に捨てる、3つ目、自分の墓地の光属性モンスター1体を手札に加える。私はデッキからカードを2枚ドローし、1枚捨てる効果を選択。デッキからカードを2枚ドローし、手札のトフェニドラゴンを捨てる」

「では私のター――」

「まだ私のエンドフェイズは終わっていない。このタイミングで速攻魔法《超再生能力》発動。このターン、リリース・捨てられたドラゴン族の数だけデッキからカードをドローする。このターン、私はトフェニドラゴンを2回リリースし、1回手札から捨てた。よってデッキからカードを3枚ドロー」

「(手札を回復したか…)私のタ――」

「まだ。さらに速攻魔法《聖蛇の息吹》を発動。フィールドに融合・儀式・シンクロ・エクシーズモンスターが2種類以上存在する場合、複数の効果を1つ以上選んで発動できる。2種類以上の時は墓地のモンスター1体、またはゲームから除外されたモンスター1体を手札に戻す。3種類以上の時は墓地の罠カード1枚を手札に加える。4種類の時は《聖蛇の息吹》以外の魔法カード1枚を手札に加える。フィールドには4種類揃っているので、私は2種類以上の効果と4種類の効果を選択。ゲームから除外された《ガード・オブ・フレムベル》を手札に加え、墓地から《超再生能力》を手札に加える」

「……わた――」

「回収した《超再生能力》を再び発動。デッキから3枚ドロー。手札の枚数は8枚、枚数制限によって手札からカードを2枚墓地へ捨てる」

「(エンドフェイズが)なげーよ龍姫」

「ドロー加速のカードを引いたから仕方ない。エンドフェイズに入った以上、魔法・罠をセットできないからこれぐらいは許して欲しい――それにこれ以上は無理。私はこれでターンを終了」

 

 《初来の対価》、《竜姫神サフィラ》、《超再生能力》、《聖蛇の息吹》の効果を全て組み合わせ、メインフェイズ2には0枚だった龍姫の手札がいつしか6枚まで回復する。『何勘違いしているんだ?まだ俺のエンドフェイズは終了してないZE☆』と言わんばかりに『不動性ソリティア理論』を披露した龍姫。あまりにも長くエンドフェイズの効果処理をやっていた所為か、シンクロコースの講義で本家『不動性ソリティア理論』を学んでいる刃にまでそのことを指摘されるが、当の本人はそれを涼しい顔で返す。

 

「……私のターン、ドロー。スタンバイフェイズに3枚の『契約書』の効果で私は3000ポイントのダメージを受ける」

 

 そして先ほどの長いエンドフェイズにやや辟易した零児は若干疲労の色が見える顔でドローし、自身が発動した3種の『契約書』のデメリットによりダメージを受ける。これで零児のライフポイントは1000ポイント、対して龍姫のライフポイントは3000。総合的なカードアドバンテージでは龍姫の方が若干上、ライフポイントまで彼女の方が上回っているこの状況では零児の方が不利だが、ドローカードを見てほんの僅かに彼の頬が緩む。

 

「私は《地獄門の契約書》の効果を発動。デッキから《DD魔導賢者ガリレイ》を手札に加え、罠カード《契約洗浄(リース・ロンダリング)》を発動。このカードは自分の表側表示の『契約書』カードを全て破壊し、破壊した数だけ私はデッキからカードをドローする。さらにドローした数×1000ポイントのライフを回復する――この効果によって私は3枚の『契約書』を破壊し、3枚ドロー。そして3000ポイントのライフを回復する」

 

 目的のカードを呼び込むためサーチ&ドローで手札の補充、さらに先ほどのダメージを取り戻すようにライフポイントを回復する零児。新たに手札へ加えられた3枚のカードを視認すると、零児の目付きが変わる。

 

「ふっ、まさか1ターンで儀式・エクシーズ・シンクロ・融合を披露してくれるとは……流石の私でも驚かざるを得ない。見事だ」

「……これしか能がない…」

「そう自分を卑下することはない。異なる召喚方法を4つ行ったことは、前のターンで3つの召喚方法を駆使した私よりも上だろう――だが、これで私も君と同格(イーブン)だ」

「……?」

「私は、スケール1の《DD魔導賢者ガリレイ》とスケール10の《DD魔導賢者ケプラー》でペンデュラムスケールをセッティング!」

 

 龍姫が’’同格’’の意味を理解できずに小首を傾げると、その問いに答えるように零児はデュエルディスクへカードをセットした。そして彼のフィールドの両端に澄んだ青色の柱が2つ出現し、それぞれの柱の上空から望遠鏡と天体を模した錐体の体躯の悪魔――《DD魔導賢者ガリレイ》と《DD魔導賢者ケプラー》が降りてくる。それぞれの上部には1と10の数字が表示され、フィールド上空は澄んだ藍色に染まり零児は続けて手札のカード2枚に手をかけた。

 

「これでレベル2から9のモンスターを同時に召喚可能――我が魂を揺らす大いなる力よ、この身に宿りて闇を引き裂く新たな光となれ。ペンデュラム召喚! 出現せよ、私のモンスター達よ! 全ての王をも統べる超越神《DDD死偉王ヘル・アーマゲドン》! 世界の全てを征服せし、覇道を歩む王《DDD制覇王カイゼル》!」

 

 零児の口上と共に彼の手札から新たに2体の最上級モンスターがフィールドへと姿を現す。片やペンデュラムスケールの設置した魔導賢者らと似た体躯を持つ、艶やかかつ澄んだ紫色の王《DDD死偉王ヘル・アーマゲドン》。片や血色の布を巻き、剣闘士を彷彿とさせるような鎧を身に纏いその手には長大な剣を持った王《DDD制覇王カイゼル》。フィールドに5体の『DDD』――異次元をも制する王が並び立つ姿は圧倒的にして絶対的。力の象徴を体現したその王らは眼前の竜を見下す。

 

「……これが…ペンデュラム召喚……」

「そう、これが私の持つもう1つの召喚方法――ペンデュラムだ」

 

 呟くように龍姫が言った言葉に零児は眼鏡を上げながら誇らしげに返す。この圧巻とも言える状況で顔色一つ変えない(ように見える)龍姫の顔を見て、零児は彼女が強者の持つ何かを感じさせるものを持っていると再認識した。

 

面白いショー(4つの異なる召喚)を見せてくれた礼だ。私の持つペンデュラムの力をその身に深く刻むと良い――《DDD制覇王カイゼル》のモンスター効果。このカードがペンデュラム召喚に成功した時、相手フィールド上の表側表示のカードはターン終了時まで無効になる」

「――っ、」

「バトルフェイズ!私は《DDD烈火王テムジン》で《竜姫神サフィラ》に攻撃!」

 

 攻撃力2000の《DDD烈火王テムジン》が攻撃力2500の《竜姫神サフィラ》へと向かう。メインフェイズ中にステータスを変化させるカードを零児が使わなかったため、前のターンの《戦乙女の契約書》のように何かコンバットトリックを仕掛けてくるのかと龍姫が身構えるが、逆に何のコンバットトリックもなければ好機と判断する。龍姫は2枚(・ ・)の手札に指をかけ、デュエルディスク上で攻撃宣言、バトルステップ、ダメージステップへとこの戦闘の経過が変遷したところで指にかけたカードを墓地へ送る。

 

「ダメージステップ開始時に手札から《オネスト》のモンスター効果を発動。《オネスト》は自分の光属性モンスターが相手モンスターとバトルする時、ダメージステップ開始時からダメージ計算前までに手札の《オネスト》自身を墓地に送ることで発動できる。その光属性モンスターは相手モンスターの攻撃力分、攻撃力がアップする――テムジンの攻撃力は2000。よってサフィラの攻撃力は4500になる」

「ダメージを増やす算段か…だが、その程度のダメージは必要経費――」

「さらにこの効果にチェーンしてもう1枚の《オネスト》を発動」

「――っ、2枚目だと…!?」

 

 零児自身、龍姫の手札に《オネスト》があるのではないかと予想はしていた。むしろ使わせるためにテムジンを囮にしたのだ。先ほどの龍姫と真澄のデュエルで《オネスト》の活躍によりデュエルの幕は閉じ、彼女のデッキにおける’’切り札’’の1枚だと認識した。その《オネスト》の有無の確認、そしてテムジンの被破壊時の効果で墓地の『契約書』の回収を目論んでいたが、この思惑の上を行くプレイングを龍姫は披露する。

 

「《オネスト》2枚を一度に…正気の沙汰じゃないぞ…!」

「だけどこれで龍姫のサフィラの攻撃力は6500。対してテムジンの攻撃力は2000――その反射ダメージは4500!」

「この反撃が通れば龍姫の勝ちだ――まさか、社長に勝っちまうのか!?」

 

 観客側として静観していた北斗達もまさかの展開で目の色が変わる。自分達の通うデュエル塾のトップにして憧れ。その人物が自分達と同じ年代の少女に負けるかもしれないというこの状況。赤馬零児という存在は圧倒的で誰にも負けないという思いと、彼が負けるごく稀な現場をこの目にすることができるかもしれないという期待。その複雑な考えが混ざり合い、サフィラの反撃として放たれた光がテムジンを覆い、デュエルフィールド全体が光に包まれる――

 

 

 

――――――――

 

 

 

 自分で負けフラグ立てるとダメだね。特にさっきの私のターン、アレはダメだ。内心で『エクスプロードの攻撃が通れば~』とか思っていた時点で攻撃は失敗する。流石デュエルの世界、こういうフラグはきちんと働くんだね。

 

 そしてつい融合・儀式・シンクロ・エクシーズが決まって浮かれていたけど、私は大事なことを忘れていた。防御用の魔法・罠カードがあの時点で手札になかったのだ。これはマズイと思い残っていた《招来の対価》を発動。次ターンでブラホ撃たれても生き残れるように『聖刻』鉄板コンビのトフェニとシユウを回収。そしてマイフェイバリットカード、サフィラのドローで《超再生能力》を引く。『あっ、これもっとドローしたい』と思った私は回収したトフェニをサフィラの効果で墓地に捨て、そのまま《超再生能力》を発動。このターンでトフェニが2回リリース、1回墓地に捨てられたから3枚ドローというセルフ《壺の中の魔導書》――最高っだぜ!(何気にトフェニが《スピード・ウォリアー》さん並に不憫だけど)

そして3枚ドローの中に《聖蛇の息吹》――これは発動しなきゃいけない、よかれと思って発動しました! 除外ゾーンにいっちゃったガフレちゃん、そして発動した《超再生能力》を回収&《超再生能力》発動。再び3枚ドロー――スゲェ、原作版《天よりの宝札》ばりのドローだ!さらに最初の3枚ドローと今回の3枚ドローで《オネスト》を1枚ずつ引き当てる強運。ワァオ、沢渡――じゃなくてネオ沢渡じゃないけど、内心で『私カードに選ばれすぎぃ!』って言っちゃったよ。オマケに手札は8枚、枚数調整のためにカードを2枚墓地に送らなければならず、その時の手札は――

《聖刻龍-シユウドラゴン》

《ガード・オブ・フレムベル》

《オネスト》

《オネスト》

《儀式の準備》

《光の召集》

《ブレイクスルー・スキル》

《スキル・プリズナー》

 ――これは下の罠2枚を捨てざるを得ない。最近では珍しくなくなったけど、『墓地から罠!?』が2回も発動できるなら狙うしかない。それに《スキル・プリズナー》は相手ターンでも墓地発動できるから守りとしては優秀。相手に耐性モンスターが出て来ても墓地発動の《ブレイクスルー・スキル》で突破できる――今度こそ完璧な布陣だ!しかも《儀式の準備》で2体目のサフィラの保険ができたし、この状況なら赤馬社長とてそう簡単には攻略できないハズ――

 ――そう思っていた私がロマンチスト(馬鹿)でした。まさか社長のターンで今度はペンデュラム召喚――モンスターゾーンが全部『DDD』で埋まるほど展開するゴリ押し。しかも効果無効持ちモンスターと攻撃力3000モンスターという豪華特典付き。これはマズイ――と思ったけど、何故か社長は攻撃力2000のテムジンでサフィラに攻撃。えっ、何墓地発動効果でもあるの? それともさっきの《戦乙女の契約書》みたいにコンバットトリック? えぇい、警戒していても仕方ない! ここは一気にゲームエンドに持っていけるように《オネスト》をニレンダァ! する!

 これで私の勝ちだ!――って思ってたら、刃ぁあああああぁぁっ!?

 『この反撃が通れば龍姫の勝ちだ』って言わないでぇえええええぇっ!! それデュエルにおける最大級の失敗フラグだから! ヘヴンズ・ストリングスの効果が成功したことがないぐらいに信用がないから! あっ、でもこれはプラクティスデュエルだから、もしかしたらということも…。

 お願いします神様、仏様、三幻神様、三邪神様、三幻魔様、地縛神様、時戒神様、紋章神様、この反撃を通して下さい!

 

 

 

――――――――

 

 

 

 ――フィールド全体を覆った光が晴れ、フィールドの全容が確認できるようになる。

 零児の場には《DDD疾風王アレクサンダー》、《DDD怒涛王シーザー》、《DDD制覇王カイゼル》、《DDD死偉王ヘル・アーマゲドン》の4体。

 龍姫の場には《竜姫神サフィラ》、《竜魔人 クィーンドラグーン》、《エクスプロード・ウィング・ドラゴン》、《始祖竜ワイアーム》の4体。

 一見すると先ほどのサフィラの反撃が通り、テムジンが破壊されただけのようにも見える。

だが、お互いのフィールドのモンスターは消えることなくソリッドビジョンで映し出されたままであり、デュエルが終わっていないことを告げる。

 

(仕留め損ねた…!?いや、でもテムジン自体はちゃんと戦闘破壊できている――それにあの状況ではコンバットトリックぐらいでしか回避する手は…)

 

 《オネスト》の効果は正常に発動した。サフィラの攻撃力は6500まで上昇し、攻撃力2000のテムジンを破壊すれば4500の戦闘ダメージ。1ショットキルが成立したハズだと龍姫が零児のライフポイントを慌てて確認すると、そこにはきちんと彼の残りライフが表示されている。

 

零児:LP100

 

(ライフ100ぅ!?えっ、何でそんな綺麗に鉄壁ライフに?コンバットトリックで考えると《収縮》か《突進》、あとは『禁じられた』シリーズ――あっ)

「――見事な反撃だ。だが私のライフポイントはまだ残っている」

「……その残りライフ、《禁じられた聖衣》をサフィラに…」

「その通り。私は2枚目の《オネスト》の効果にチェーンする形で《禁じられた聖衣》を《竜姫神サフィラ》に発動していた。その効果でサフィラの攻撃力は600ポイントダウンする――逆順処理によってサフィラの攻撃力は1900となり、2枚目の《オネスト》の効果で攻撃力は3900に、1枚目の《オネスト》の効果で攻撃力は最終的に5900となる。つまり、私へのダメージは3900止まりだったという訳だ」

「――っ、けど残りライフ100なら次のターンで私のモンスターが生き残れば、社長のモンスターのどれかを戦闘破壊すればその超過ダメージで倒せる。例え守備表示にしようと今の私の手札なら《迅雷の騎士ガイアドラグーン》を呼び出すことも容易。魔法・罠カードが尽きた社長の状況では次の私のターンを防ぐことは不可の――」

「あぁ、不可能だろう。だが――このターンで決着を着ければ何も問題はあるまい」

 

 柄にもなく饒舌気味になった龍姫の言葉を遮るように、零児は不敵な笑みを溢しながら眼鏡を上げた。そして彼のフィールドの《DDD死偉王ヘル・アーマゲドン》が暗礁色のオーラに包まれ、その攻撃力が急激に上昇を始め――

 

「まずは破壊されたテムジンのモンスター効果を発動する。墓地より『契約書』カード1枚を選択し、手札に加える――私は《戦乙女の契約書》を選択。そしてその効果にチェーンする形で《DDD死偉王ヘル・アーマゲドン》のモンスター効果を発動。1ターンに1度、自分の場のモンスターが破壊され墓地に送られた場合、そのモンスター1体を対象に発動する。このカードの攻撃力はそのモンスターの元々の攻撃力分アップする。破壊されたテムジンの元々の攻撃力は2000、よってヘル・アーマゲドンの攻撃力は――」

 

 ――その攻撃力は5000に達する。龍姫はその攻撃力を見るや否や、すぐに自分フィールドのモンスターと零児のフィールドのモンスターの攻撃力の差、そして自分の残りライフポイントを計算した。そしてその数値を確認した途端、今まで冷淡を装っていた表情が苦悶のそれへと変わる。

 

「どうやら理解したようだな……では行かせてもらおう――まずは《DDD疾風王アレクサンダー》で《エクスプロード・ウィング・ドラゴン》に攻撃!」

 

 アレクサンダーの剣が横一閃に薙ぎ払われ、《エクスプロード・ウィング・ドラゴン》の胴体は上下に分かれる。この攻撃によって龍姫の残りライフポイントは3000から2900に減少。

 

「次だ。《DDD制覇王カイゼル》で《竜魔人 クィーンドラグーン》攻撃!」

 

 カイゼルの長刀は縦一閃に振るわれ、《竜魔人 クィーンドラグーン》を左右半分に裂かれる。この攻撃によって龍姫の残りライフポイントは2900から2300に減少。

 

「これで最後だ。ヘル・アーマゲドンで《始祖竜ワイアーム》に攻撃!」

 

 ヘル・アーマゲドンの全身が妖しく紫色に光り、その妖光はオーラとなって植物の蔓のように《始祖竜ワイアーム》を襲う。《始祖竜ワイアーム》は効果モンスターの効果を受けず、さらに通常モンスター以外の戦闘では破壊されない強力な対効果モンスター耐性を持つが、戦闘ダメージを0にする訳ではない。ヘル・アーマゲドンの攻撃力は5000、ワイアームの攻撃力は2700――その超過ダメージは2300であり、龍姫の残りライフポイントも同じく2300。よってこれが意味することは――龍姫の敗北。デュエルディスクに龍姫のライフポイントが0を表示し、その直後にソリッドビジョンのウィンドウで『WINNER:REIJI』が映し出される。

 

 

 

――――――――

 

 

 

「…ありがとうございました」

「良いデュエルだった、こちらこそ感謝する」

 

デュエルが終わり龍姫はその場で一礼すると、零児は軽く手を上げてそれに応える。

装着していたデュエルディスクを外し龍姫が3人の方に戻ろうとすると、逆に3人の方がいつの間にか龍姫の方へと歩み寄っていた。

 

「残念だったな龍姫。まぁ、僕は最初から君が社長に勝てるとは思わなかったが」

「何言ってんだよ北斗? お前直前までずっと手に汗握ってたじゃねぇか」

「それを言ったら刃もそうだろう? まるで公式戦を観るような目だったじゃないか」

「そりゃあライフ100からの逆転ジャストキルデュエルなんて早々見られるもんじゃねぇし――ん? どうした龍姫? 何で俺を先攻プレアデスでエースを除去られた仇のような目で見るんだよ?」

「……別に…」

「そこまでにしておきなさい。龍姫は惜しかったわね、まさか《オネスト》を2回使うとは思わなかったわ」

「…社長の最後の手札がダメステで発動できるカードじゃないことに賭けた――けど、失敗した。らしくもなく攻め急いだ結果…前の真澄とのデュエルで『次ターンに備えろ』とか偉そうなことを言って、こんなデュエルを見せて申し訳ない」

「あの状況は仕方ないんじゃねぇか? 魔法・罠を伏せられなかったんだし、社長が自爆特攻しなきゃ龍姫のモンスターの半分は戦闘でやられていたんだしよ。あと龍姫、そろそろ俺を睨むのやめてくれ。正直怖ぇよ」

「刃、何か龍姫の気に障ることを言ったんじゃないか?」

「はぁ? んなこと言った覚えはねぇんだけど…」

 

 先ほどのデュエルの反省会を交えて雑談する4人。1ターンで(ペンデュラム召喚を除く)全召喚は良かった、手札補充のリカバリーがメイン2に出来ていれば、『おい、sophia出せよ』など真面目に談笑混じりで話す。そんな4人の元――というよりは、龍姫の元へ零児が近付く。

 

「橘田龍姫、少し良いか」

「……何でしょうか?」

「幾つか君のデッキで聞きたいことがある――何故レベル7シンクロモンスターで《ライトロード・アーク ミカエル》を出さなかった?それ以前に手札にシユウ、場にトフェニが居るのならばランク6の《聖刻龍王-アトゥムス》を出し、そこから《レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン》を呼び出すこともできたハズだ。いや、他にもランク6ならば《セイクリッド・トレミスM7》、《フォトン・ストリーク・バウンサー》といった優秀なエクシーズモンスターも居るだろう。何故それらを出さずに――」

「DP不足です」

 

 零児から矢継ぎ早に質問に次ぐ質問、特にエクストラデッキのモンスターについて聞かれるが、龍姫はそれとハッキリと、それも簡潔に答えた。『DP不足』――社長である零児には無縁の言葉だが、龍姫の回答に彼は『なるほど…』と納得したように呟く。

 先ほどのデュエルはプロデュエリストである零児が残りLP100にまで追い詰められる接戦だった。しかし相手はジュニアユースの少女、プロデュエリストではない彼女の懐事情的に先ほど挙げたカード群の入手は難しいのだろうと零児は察する。彼は顎に手を当て少し考えると、懐から名刺を取り出しそれを龍姫に渡す。

 

「…これは?」

「私個人の連絡先が書いてある。後日、この連絡先にメールで君の望むカードをリストアップして送りたまえ。可能な限り援助しよう」

「よろしいのですか?」

「無論だ。私は才ある者に投資は惜しまない、遠慮はいらない」

「…ありがとうございます」

「面白いデュエルをさせてくれた礼だ。気にすることはない」

 

 それだけ言うと零児は踵を返し、彼ら4人に背を向けて歩き始める。背後から4人が『お疲れ様でした』という声に軽く手を上げて応え、プラクティス・デュエルフィールドを後にした。

 

(橘田龍姫――榊遊矢とは違うが、彼女は彼とは違う何かを秘めている。それに可能性も感じられる――ならば、その可能性に助力するのがLDSを運営するレオ・コーポレーション社長たる私の役目……ふっ、中々どうして――最近は忙しないが、愉快にさえ感じる)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日、零児のメールアドレスに1通のメールが届く。件名と本文での挨拶から先日デュエルした龍姫からのメールだと分かると、彼は彼女がどんなカードを望むのかを確認するためにリストアップされたカード名に目を通すが――

 

《レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン》(可能なら真紅眼関連全部)

《F・G・D》

《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》

《星態龍》

《トライデント・ドラギオン》

《氷結界の龍 トリシューラ》

《ヴェルズ・ウロボロス》

《スクラップ・ドラゴン》

《ライトロード・アーク ミカエル》

 

(……本当に遠慮をしないな…)

 

 ――高額カードの羅列を見て、零児はほんの少し自分の言葉が軽率だったと感じた。

 




総合コースって聞いて最初はこういうことだと思いました(偏見)。
また最初は長編で書こうと思いましたが、3ターンのデュエルに3万字も使っていては普通のデュエルを1話で終わらせられないと感じて断念。
前編・後編に分けるという手もありますが、私自身が1話で終わるデュエルにしたいこともあり、他の長編に手を付けられるほど器用ではないので短編という形に。
非力な私を許してくれ…。

2014/9/16追記
?「我はこの作品の短編タグの事実を消し――長編タグに書き換えたのだ」



オマケ(簡単な主人公設定やデッキ等)

橘田龍姫(きったたつき)
・ドラゴンっぽい名前にしたかったこと、ARC-Vの名字が木偏のキャラが多い(榊、柊、権現坂)、何か回文っぽくて面白いと思ってこの名前。
・外面クール、内面デュエル脳馬鹿
・融合、儀式、シンクロ、エクシーズを使えればエンターテインメントになると思って聖刻サフィラデッキ

あとARC-V本編で遊勝塾でタツヤが小学生でありながら博識だなぁと個人的に思い、『こんなキャラの兄か姉が居るんじゃね?そしてデュエル関係のことを教えてもらってる設定とか面白そう』とか無駄に考えてみたり。

デッキレシピは公開してましたが、今後のデュエルで一部レシピにないカードを使用するのでその都合上消させて頂きます。
ご都合主義なカードではなく、聖刻サフィラやドラゴン族デッキに入りそうなカードに限定するつもりですので、どうかご理解の程をよろしくお願いいたします。

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