土くれのフーケを捕らえる事に成功した才人たちは、縄で縛り上げたフーケを衛兵に渡した後、学院長室で今回の出来事についてオスマンに報告していた。
「ふむ……まさか、ミス・ロングビルが土くれのフーケじゃったのはな……」
「一体何処で採用したんですか?」
国立の学院の秘書だ。ちょっとやそっとのことではなれないだろうの考えていたコルベールはオスマンに疑問を投げかけた。
「いや、街の居酒屋で給仕にちょっとしたお茶目をしたのじゃよ。そしたらまったく怒らなくての」
「で?」
もはや聞くまでもなかったが、コルベールは一応尋ねることにした。
「しかも魔法が使えるので秘書にした」
(このエロジジイ……)
その瞬間、オスマン以外の全員が同じことを思ってしまった。
まさかあの大惨事が一人のスケベ心から始まったとはまったく考えもしていなかったのだ。
「今思えば、あれもフーケの策略じゃったのじゃな。居酒屋で一人酒を飲むワシに何度も媚を売ってきて……」
オスマンは自分の弁解を始めようとしているときにある事に気づいた。
よく見るとキュルケとタバサの二人は小言でブツブツと喋っている。その手にはしっかりと杖が握られており詠唱をしていることが分かった。
ルイズは何処からか取り出した鞭をブンブンとしならせおり、その後ろに控えている使い魔は剣を取り出して素振りを始めていた。
こいつらワシを殺す気じゃ……そう確信したオスマンは助けを求めようとコルベールに目を合わせようとするが、彼はオスマンから目を逸らし視線を合わせようとはしない。
どうやら助ける気はないらしい。
四面楚歌の状況に陥ったオスマンはこの状況を打破するため必死の頭をめぐらせる。そしてでた答えは……
「なんじゃ、ワシが悪いといいたいのか!!仕方ないじゃろ!!歳を取ると生徒のスカート覗きやセクハラくらいしか「へぇ~私たちの下着覗いてたんだ?」…………あ…………」
逆切れだった。しかも大きすぎる墓穴を掘った。
自分達の下着を覗かれていた来たことを知った生徒達は各々の武器を手に
「ちょ、ちょと待て、話あえば、ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!」
この日、学院長室には大きな轟音が鳴り続け、駆けつけて来た教師によってボロボロの雑巾のようになったオスマンが発見されたそうだ。
「なんで男ってあんな奴等しかいないのかしら?」
「ちょ、さすがにあんなエロジジイみたいことをやったは……」
あった。
これは温泉に行った時のことだ。才人はその温泉にあった混浴温泉に二人に頼み込んで入る事が許されたのだが、なぜか拘束具で拘束された挙句、耳栓や目隠しまでされて入れられたのだ。
これは果たして混浴と言うのだうか?いや、違うはずだ。そう思った才人はその場にいて才人と同じ目に会った男達と一緒に女子風呂突撃作戦を決行したのだった。
詳細は割愛するが、結果を言えばリアとフィアに掴まりお仕置きされたらしい……らしいというのは才人は捕まってからの記憶がなく、気づいたときにはすでに七日たっていたからだ。
その後、リアとフィアは一ヶ月ほどの間、才人が不思議に思ってしまうくらい優しく、セクハラのような事をして顔を赤く染めるだけで、怒ったりは一度もしなかった。いったい自分は何をされたのだろう。
ともかく一度、あの
「あるんじゃないでしょうね。まったくこれだから二股男は……」
才人の様子を見たルイズは呆れながらそう言う。
「ま、待ってくれ。俺が口説いた訳じゃなくて、彼女達が俺に好意を寄せて来たって言うか……」
「二人じゃない?」
今まで本を片手に黙っていたタバサがそう呟いた。
それを聞いた才人はマズイと思いすぐにこの場を離れようとするが、何者かに左腕を掴まれてしまった。
掴まれた左腕からはみしみしと鳴ってはいけない音が聞こえてきた。
「ねぇ?何人に好意を寄せられていたのかしら。犬?」
才人はゆっくりと顔を後ろに向けるとそこには修羅がいた。
髪は逆立っており、目は釣りあがって恐ろしい事になっている。
「え~と、そのだな……」
「早く言いなさい……犬」
恐い……正直今のルイズは、完全にぶちぎれたリアやフィア程ではなったものの恐かった。
「10人です……」
才人は正直に白状すると、ルイズは修羅から阿修羅に進化した。今の才人にはルイズが顔と両腕をそれぞれ三つずつ持った阿修羅に見えた、六本あるその腕には、形状の違った鞭を持っているように見える。
すげぇ、人て本当に気迫でそう言うこと出来るんだと涙目で現実逃避すると共に、才人は周りに視線を向け助けを求めようとする。
しかし、全員目を合わせず逸らしてしまう。皆自分の命が惜しいようだ。
「お……落ち着けルイズ!」
「調教の開始よ。馬鹿犬……」
「ちょ、ま、ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああ!!!!」
その後、悲鳴を聞いて廊下に駆け寄った教師によって才人はこの世の者がやったとは思えない惨状で発見された。その場に立ちつくしていた生徒に事情を聞くと二人ともそろって「自分は何も見ていない」と答えたそうだ。
「いててて、たくルイズの奴、手加減って物をしらないのか?」
日が空に沈み始めた頃、才人は学院の医務室で自分の手当てをしたいた。
ルイズのお仕置きされ、教師に発見された才人は自力でこの部屋にやってきたのだ。
そんな中、隣のベットからなにやら物音が聞こえてきた。才人が視線を向けるとそこには、オスマンがベッドに座ってこちらを見ていた。
「一体どうしたんじゃ?ワシをボコボコにした後何があったのじゃ?」
「いや……何と言うか。ルイズに十股がばれてボコボコに……」
十股といった瞬間、オスマンの両目はカァっと開き。才人をまるで神様を奉るが如く崇め始める。
「どうしたんですか?女の口説き方なんて知りませんよ」
オスマンの様子を見た才人は軽い口調でからかう。
「うむ。そう言わずに教えてほしいのじゃが……」
教えて欲しいのかよ、と思った才人だが口に出す事はなかった。
なぜならそこには、朝の時の同じく威厳に満ち溢れた顔をしたオスマンがいたからだ。
「君は私に何か聞きたい事があるのじゃないかね」
才人は頷いた。
「言ってごらんなさい。出来るだけ力になろう。フーケを捕まえてくれたお礼じゃ」
「『破壊の杖』は俺のいた世界の武器なんですけど、あれはどうやって手に入れたんですか?」
オスマンの目が光った。
「俺のいた世界とは?」
「俺は、ハルケギニアとは別の世界からやって来たんです」
「それにしては、この世界の常識を知っているようじゃが……」
「俺は3年前にルイズとは別の人に呼ばれてこの世界にきたんです」
「なんと!つまり他の者の使い魔になったにも関わらず召喚されたと言うことか!」
オスマンは驚いたように声を上げた。二人の主人がいる使い魔……それは歴史上でも初めての事と行っていいだろう。
「はい。そのあとルイズに召喚されてここまできたんです」
オスマンはため息をついた後に語りだした。
あの『破壊の杖』は自分が若かった時、自分の命を救ってくれた恩人の武器であること。
その恩人は怪我をしており、死んでしまったこと。
彼が使った杖のうち、一本を恩人の形見として宝物庫にしまったこと。
「せっかく、手がかりを見つけたと思ったのにな……」
才人は遠い目をして、自分の故郷に思いをはせるかのように、窓から空を見た。
「それで、二つ目は?」
才人の顔が真面目なものになった。
「この学院で、俺が『ガンダールヴ』って事を知っているのは誰ですか?」
「お主……そのルーンを知っているのか……」
「はい。昔のご主人様のルーンとまったく一緒なんで……」
才人は左手にあるルーンを見せた。そこにコルベールに見せられた『ガンダールヴ』のルーンが刻まれていた。
ルーンが一つしかないのは重なったためだろう。しかし、前の主人でも『ガンダールヴ』だったと聞いて彼は一つ質問したい事があった。
「一つ聞きたい事がある。お主の前のご主人様の系統は……」
「虚無です」
オスマンが言い終える前に才人が答えた。
それを聞いたオスマンは固まってしまった。もしかしてと予想はしていたが、やはり信じられなかった。
「ミス・ヴァリエールも虚無の魔法を使うのかね」
「可能性はかなり高いと思います。虚無の担い手は大きく分けて二つ特長があるんです」
「その特徴とは……」
オスマンは催促するかの様な口調で言った。
「一つは人間を使い魔にする事……そして二つ目は普通の系統魔法を使うと、本来考えられない現象を引き起こす事……爆発のような……」
オスマンの脳裏には、ルイズが魔法を失敗させた時の報告を思い出した。本来ありえない爆発といった現象に頭を抱えたが、才人の言った事が真実なのであれば理解する事ができた。
「君の事を知っているのは、私とコルベール君だけだ」
オスマンはゆっくりと呟いた。
「……お願いがあるんです。この事は内緒にして欲しいんです」
「……分かったそうしよう。でもいいのかね。それを伝えなくて」
「いいですよ。俺はルイズは危険な目に合うのは見たくない」
そう言い切る才人の目には一切の迷いがなかった。それを見たオスマンはそれ以上の追求はやめてしまった。
彼女を心配して彼が決めたことだ。自分が口出しすべきでないと覚ったのだろう。
「それとな……もう一つだけ聞きたい事があるのだが……」
「なんですか?」
「その……前のご主人様は美人じゃったか?」
「へ?」
オスマンの思いがけない質問に目が点になった才人は、何も考えずその質問に答えてしまう。
「え~と、その、凄い綺麗な女性でした……」
「そうか、そうか……で、どこら辺が綺麗だったのかね」
「絹のような白い髪とか、深緑の色をした瞳とか、けして巨乳とはいえないけど、身体とのバランスの取れた胸とか……」
才人は言っているうちに恥ずかしくなってきた。もしこの場にリアがいたら自殺してしまいそうな程恥ずかしかった。
「てか、そんな事どうして聞くんですか!!」
「ばか者!!女性を愛でる以上にこの世に重要な事があるか!!」
その言葉を聞いた才人はこりねぇなこのエロジジイと思いながら大きくため息をついた。
アルヴィーズの食堂の上の階は大きなホールになっており、そこで舞踏会が行なわれていた。
『グリッグの舞踏会』と言う名前の舞踏会で、一時はフーケの件で開催が危ぶまれていたが、無事フーケが捕まった事によって開催される事になったのだ。
中では着飾った生徒や教師たちが、豪華な料理が盛られたテーブルの周りで歓談していた。
一方の才人はバルコニーで、シエスタとニュイが持って来てくれた、料理を食べながらワインを飲んでいた。
ホールに居るのは、あきらかに場違いな気がしたからだ。さっきまではキュルケと話していたが、パーティが始まると中に入っていった。
タバサの方はテーブルに並べられた料理と格闘していた。
そんな中、門に控えていた衛士が、ルイズの到着を告げた。
「ヴァリエール公爵は息女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール嬢のおな~~~~り~~~~!」
才人は思わず息を飲んでしまった。そこには綺麗にドレスアップされたルイズがいたいたからだ。
主役が全員そろった事を確認した音士たちが、音楽を奏で始めた。
ルイズの周りには多くの男達が群がったが、ルイズはそれに目もくれず。才人に向かって近寄ってきた。
「楽しんでいるみたいね」
「まあな。お前は踊らなくいいのか?」
ホールでは貴族たちはすでにパートナと一緒にダンスを始めている。踊っていないのは、才人とルイズ、そしていまだに食事をしているタバサだけだ。
「相手がいないのよ」
「いっぱい、誘われてたじゃねぇかよ」
確かにいっぱい居た、でもそいつらは今までルイズを馬鹿にしてた奴等だった。フーケを捕らえたと聞いて手の平を返してきた奴とダンスなんて願い下げだ。
魔法が使えない自分を嘲笑うのではなく、向き合ってくれた人物……この場では才人以外と彼女はダンスをする気がなかったのだ。
「踊ってあげても、よくてよ」
ルイズはそう言って才人に手を伸ばした。
「よろしくお願いします。お嬢様……でいいのか?」
才人は微笑みながらそう言った。
「ダンスなんかしたことねぇから、期待すんなよ」
ルイズと手を繋いだ才人はそう言うと、「私に合わせて」と言って、踊り始めた。
最初は多少ぎこちなかったが、しばらくすると才人がなれてきたのか、ある程度さまになってきた。
「ねぇ、サイト。信じてあげるわ」
ダンスを踊っていると急にルイズが話しかけてきた。
「なにを?」
「……初めて会った日にあんたが言った事、全部よ」
「なんだよ。信じてなかったのか?」
「今まで半信半疑だったのよ。でも信じる事にしたの」
「どうして?」
「フーケの時のお礼よ」
ルイズはそれから、少し顔を俯かせた後、口を開いた。
「ねぇ、もし帰る方法が見つかったらすぐに帰っちゃうの?」
「そうだな……」
才人は少し考えてみる、確かに家族のもとには帰りたいし、リアとの約束もある……でもそれは今すぐでなくてもいいはずだ。
「今すぐには帰らないよ。せめてルイズはあんな無謀な真似をしなくなる様になってからじゃないと、心配で帰ることもできねぇ」
「何よ、それ」
ルイズは頬を膨らませて、睨みつけた。
「まぁ、これからもよろしくな」
「ええ、よろしく」
そう言って二人は微笑んだ。
リア……俺、元に世界に帰る事は出来なかったけど、心配しないでくれ。新しいご主人様はお前と違って生意気で気が強いけど……お前と同じくらい優しいみたいだからさ。
この時、才人は気づいていなかった。その事はあまりにも基礎すぎて見落としてしまったのだ。
その事とは簡単な事だ……一般的に使い魔は死んだらその役目は終わりで、主人は新しい使い魔を呼び出さなくてはいけない。それと同じように、主人が死ねばルーンは消え使い魔としての役目は終わる。
ならば才人のルーンはどうだろうか……彼は最初にリアのルーンを使用した、今でもそのルーンは刻まれている。その事が意味する事とは……
ある街の宿屋の二階……そこには一人の女性とローブを被った一人の人影がいた。
女性の方はベットの座り、そしてローブを着た方は窓から月を覗き見ていた。
「なぁ、お主。お見合いの話をまた断ったっと言うのは本当か?」
ベットに座っていた女性がそう言うと、窓を覗いていた方は振り返る。
「なんかまだ、他の人と恋愛する気になれないんだよね」
「もう四百年も経つのに、まだあやつの事を思っておるのか。難儀な恋じゃの」
窓に居る方の顔がみるみると赤く染まった。
彼女の言う通り自分はいまだ彼の事を忘れられずにいる。今でも一人でベットに横になると彼の事を思い出して泣いてしまう事もあった。でもそれは彼女も同じはずだ。
「な、なによ!あなただって、告白されたの断ったじゃない!あなたも忘れられないじゃないの!?」
どうやら図星だったらしく、彼女は見る見る顔を赤く染めていく。
「な、なんじゃと!我があの犬っころにじゃと!あ、ありえん!断じてそのような事実なぞない!」
そう怒鳴るが、窓にいた方が勝ち誇った笑みを浮かべた。
「あなたって動揺すると、犬っころって言う癖あるの……自分で知ってた?」
顔はさらに赤くなり湯気まで出しており、茹蛸のような状態になってしまった。
「まぁ、どれだけ思っていても、もう会えないのには変わりないんだけどね」
再び窓を除きこむと、月を眺めた。
そういえば彼は、二つある月を不思議そうに眺めていたことがあった。彼に話を聞くと、彼の世界では月は一つしかなかったらしい。
「本当に良かったのか?他にも選択が……」
「いいの。彼は本来この世界に居るべき存在じゃなかったんだから」
窓を覗いていた人物がきっぱりと言い切った。
本来であれば自分と彼は違う世界に生きているべきなのに自分が無理矢理それを捻じ曲げたのだ。それが元どうりになっただけだ。何が悲しむ必要があると自分の心に言い聞かせる。
それを聞いた相手もそれ以上の追求はやめた。彼女自身もその判断が間違ってはいないことは分かりきっていた。
なぜならあの瞬間を逃したら彼は二度と家族に会えなかったかもしれない。もし彼は家族に二度と会えなくなっても特に気にせず接してくるだろう。
しかし時折、彼が家族の事を思い出し涙を流しているのを二人は知っていたのだ。いまだ納得できないところもあるが目の前の人物を責めることは彼女は出来なかった。
「サイト……」
ローブから真っ白な髪を覗かせながらそう呟いた。
これで一巻の内容は終わりです。
どうだったでしょうか?なにか言いたいことがあれば感想に書いてもらえると嬉しいです。ただし作者の心は豆腐なので優しくお願いします。
2014年から見てくれた人にとっては大変お待たせする事になりました。理由としては創作意欲が失せてしまったというのがあります。
第二巻についてですがすでに書き終えており、現在、誤字や脱字の修正や、原作と似ている場所の改善、矛盾してしまったところの書き直しなどを行なっています。
すこしだけネタバレするとオリキャラが二人、本格的に物語の中に入ってきます。
できるだけ早く投稿するようにしたいので、それまでお待ちください。