翌朝、学院は大騒ぎになっていた。
夜遅くに大きなもの音がしたと思えば、学院の宝物庫の壁に大きな穴が空いていれば当然だろう。
宝物庫の壁には『破壊の杖、確かに領収いたしました。土くれのフーケ』と書かれており、それによって学院に盗賊が入った事が分かった教師達は色々と喚いていたのだが、そんな中にさらに悪い知らせは入った。
それは学院の生徒が攫われかけた事である。
しかもそれはあのヴァリエール家の三女、未遂とはいえ首を飛ばされるかもしれないと考えた教師達は、見るに耐えないほどの醜い責任のなすりつけを始めた。
「衛兵達は何をしていたんだ!こういった時にこそ役に立たないで一体いつつかうんだ!」
「そう言う君は事件現場に近かったそうじゃないか!なぜ行かなかったんだね!」
「あたなこそ宝物庫に来たのは一番遅かったじゃないですか!」
「なんだと!」
教師達が言い争うなか、シュヴルーズは振るえ上がっていた。
彼女はその日の当直で、本来は門の詰め所に待機しなければいかなかったのにも関わらず、自室でぐうぐうと寝ていたのだ。
もしこのことを指摘されたら……そんな事を考えていると、一人の教師が声を上げた。
「ミセス・シュヴルーズ。たしか当直はあなたではありませんか?」
その一声を聞いた教師たちは、責任を押し付けるいい相手が見つかったとばかりに次々に彼女を責め始める。
「そうだ!あなたは何をやっていたですか!」
「こうなったのも、あなたの責任ですぞ!」
彼女を責める声は止むことがなく、ついにシュヴルーズはボロボロと泣いてしまった。
「泣けば許されると思っているのですか!」
それでもなお、彼女のことを追及しようとしていると、カツっと大きな音が聞こえていた。
音のした方に振り向けば、そこにはこの学園の最高責任者であるオールド・オスマンが杖を片手に立っていた。
「これこれ、女性を苛めるのはベットの上だけにせんか」
「しかし、オールド・オスマン。彼女は当直を……」
オスマンの静止の声に納得がいかない教師の一人が抗議するが、オスマンは途中で手を上げそれを止めると、辺りを見渡した後に語り始めた。
「確かにサボっていた彼女にも責任はあるのじゃろう。しかしだね、この中で当直を真面目にやっていたものは何人おる」
その声にこたえる者は誰もいなかった。ルールの上では決まっていたいたが、この場にいる誰もがまさか学院に忍び込むこのがいるなど夢にも思っていなかったのだ。
オスマンは静寂を答えとして受け取ったのか話を続ける。
「これが現実じゃ。もし彼女が当直の日でもなくても結果は変わらなかったじゃろう。責められるべきは、盗賊ことなぞ頭の片隅にすら入れてなかったワシら全員なのじゃよ」
もはや反論する者など誰もいない、彼ら自身も薄々とは自分たち全員に責任がある事は自覚していたのだ。だからこそ、だれか一人に責任を押し付けることでそれを隠そうとした。しかしオスマンに言われしまっては隠す事などできない。
オスマンは顔を俯かせ黙り込んだ教師たちをもう一度眺めた後、コルベールに尋ねる。
「で、犯行現場を見たのはだれかね」
「この三人です」
コルベールは、自分の後ろに控えていた三人を指をさした。
その三人とはルイズ、キュルケ、タバサの三人である。ちなみにその三人のさらに後ろにいる才人は使い魔なので人数には入っていない。
「三人か……」
オスマンは三人を見た後、その後ろの才人を興味深そうに見つめる。
ここらへんでは珍しい黒髪に継ぎ接ぎだらけの服を着た青年、見た目では普通の青年にしか見えない、とてもではないが伝説の使い魔には……
そこまで考えた所でルイズ達を待たせいることを思い出したオスマンは説明を促すことにした。
「詳しく説明したまえ」
ルイズが一歩前に出て、昨日、自分の身に降りかかったことをありのままに説明し始めた。
「あの、大きなゴーレムが現れて、ここの壁を破壊したんです。肩に乗っていた黒いメイジがこの宝物庫の中から何かを……、その『破壊の杖』だと思いますけど……、盗みだした後、またゴーレムの肩に乗りました。そしたらなぜか私の方に向かってきて、私を捕まえたんです。そのままゴーレムは城壁を越えて、連れ去られそうになった所を使い魔に助けられたです」
それを聞いた教師達は才人を一斉に見つめた。その顔は信じられないと言った顔だった。
一人の教師が才人に尋ねようとすると、オスマンがそれを遮るように大きく咳をつく。
「それで?」
「その後、ゴーレムが居た場所には土の山しかありませんでした。肩に乗っていた黒いローブを来たメイジは、影も形もなくなってまいした」
「ふむ……」
さて、どうしたものかとオスマンは悩んでいると先ほどまでいなかったミス・ロングビルが現れた。
「すいません、朝の騒動に気が付いて今まで調査していました」
そういって一礼するロングビルにオスマンは、調査の結果を催促する。
「それで、結果は?」
「はい。近隣の住民に尋ねたところ、近くの森の廃屋に入っていく黒ずくめのローブの男を見たそうです。おそらくですか、彼がフーケかと」
オスマンはルイズ達に目を合わせると彼女らは一斉に首を振った。
その男がフーケの可能性が高いらしい。
「で、距離はどれくらいなのかね」
「徒歩で半日、馬で四時間といったところでしょう」
「すぐに王室に報告しましょう!王室衛士隊に頼んで、兵隊を差し向けてもらわなくては!」
コルベールが叫ぶが、オスマンは年寄りとは思えない迫力で怒鳴った。
「ばかもの!王室なんぞに知らせている間にフーケは逃げてしまうわ!これは魔法学院の問題であるのじゃ!当然我らで解決する!」
その答えを聞いたミス・ロングビルは微笑んだ。まるで、この答えを待っていたと言わんばかに。
オスマンは咳払いをすると、有志を募った。
「では、捜索隊を編成する。我と思う者は杖を掲げよ」
教師達は誰も杖を掲げず、困った顔をするだけだった。誰もが面倒ごとに巻き込まれたくはないのだ。
そんな中たった人がゆっくりと杖を掲げた。
「ミス・ヴァリエール!」
シュヴルーズが驚いた声を上げる。
「何をしているのです!あなたは攫われかけたのですよ!ここは教師に……」
「誰も掲げないじゃないですか」
ルイズがきっぱりと言い放った。
そしてそれ見たキュルケがしぶしぶ杖を掲げた。
「ヴァリエールに負けられませんわ」
キュルケが杖を掲げるのを見て、タバサも掲げた。
「タバサ。あなたはいいのよ。関係ないんだから」
キュルケがそう言うと、タバサが短く答えた。
「心配」
「ありがとう……。タバサ……」
教師が誰一人と上げない中、杖を上げるとは大した勇気だとオスマンは彼女たちに感心する。
この学院の不抜けた教師に彼女たちの爪の垢を煎じて飲むませてやりたいくらいだ。
「では、頼むとしようか」
「オールド・オスマン!私は反対です!生徒達を危険にさらすわけには!」
「では君が行くかね。ミセス・シュヴルーズ」
「い、いえ……、私は体調が悪く」
「彼女達は、敵を見ている。その上、ミス・タバサは若くしてシュヴァリエの称号を持つ騎士だと聞いているが?」
タバサは縦に首を振って頷くと、教師達は驚いたようにタバサを見た。
シュヴァリエは王室から与えられる爵位としては最下級であるが、普通はタバサのような少女が授けれれる地位ではない。なぜならシュヴァリエとは男爵や子爵のなどとは違い、純粋に業績に対して与えられる地位、つまり実力の称号のためだ。
宝物庫の中がざわめくと、オスマンはキュルケを見つめた。
「ミス・ツェルプストーは、ゲルマニアの優秀な軍人を数多く輩出した家系の出で、彼女自身の炎の魔法も、かなり強力だと聞いているが?」
今度は教師達が「おお!」と声を上げる。ツェルプストーは優秀な軍人を出す事で有名で、戦争ではあのヴァリエール家と何度も事を構えている。そこから出てきたメイジなのなら彼女も優秀なのだろうと教師達は皆頷いた。
ルイズは今度は自分の番だと胸を張るが……
「その……、ミス・ヴァリエールは数々の優秀なメイジを輩出すたヴァリエール公爵家の息女で……その……なんと言うか……」
オスマンは言葉を詰まらせてしまう。
彼女の誉めるところが中々見つからないためだ。そんな時、オスマンの視界には才人の顔が入った。
「そうじゃった。彼女の使い魔はあのグラモン元帥の息子である。ギーシュ・ド・グラモンと決闘して勝ったそうだが……」
そしてなにより、あの伝説の使い魔『ガンダールヴ』でもある。伝説に語り継がれた通りなら、簡単に負けやしないだろう。
すっかり黙ってしまった教師達に、オスマンは威厳に満ち溢れた声で言った。
「この三人に勝てるという者がいるのなら、前に一歩出たまえ」
前に出る者は誰も居なかった、オスマンは才人を含む四人に向き直った。
「魔法学院は、諸君らの努力と貴族の義務の期待する」
ルイズとキュルケとタバサが真面目な顔になると、「杖のかけて!」と唱和した後、スカートの裾をつまみ恭しく礼をする。
「では、馬車を用意しよう。それで向かうのじゃ。魔法は目的地に着くまで温存したまえ。ミス・ロングビル!」
「はい。オールド・オスマン」
「彼女達を手伝ってやってくれ」
ミス・ロングビルは頭を下げた。
「もとよりそのつもりですわ」
四人は馬車にロングビルの用意した馬車に乗り乗り込み、目的地に向かっていた。
暫くの間、雑談をしながら馬車に乗っていると、木々が生い茂った森が目の前に見えてきた。
「ここから先は、徒歩で行きましょう」
ロングビルがそう言うと四人は馬車から降り、細い道を進んでいく。
「なんか、暗くて怖いわ……いやだ……」
キュルケがそう言いながら才人の腕に手をまわした。
「あんまりくっつくなよ」
「だってー、凄くー、怖いんだもんー、」
凄くうそ臭い口調だった。才人はルイズが気になって後ろを見ると、顔を俯けて真っ黒なオーラを出していた。
後が恐ろしくなった才人はキュルケから逃げるように距離を取った。
一行が暫く歩いていると、開けた場所に出た。そしてその真ん中には廃屋があった。
「わたくしの聞いた情報だと、あの中にいるという話です」
ミス・ロングビルが廃屋を指してそう言った。
そこには人の住んでいる気配はまったくなく、隠れ家にするには最適な場所だった。
才人たちは集まり、静かに相談を始めた。その結果、あの中にフーケがいるなら奇襲が一番であるといった結論になり、この中で一番近接戦闘が出来る才人が先陣を切る事になった。
才人は背中に背負った剣ではなく、懐に忍ばせておいたナイフを取り出した。狭い室内戦では、大剣は振りにくいからだ。
才人は扉の前に立つと慎重に扉を開けた。
中は部屋中に埃が積もっており、人影は見えなかった。才人はとりあえず手でバツを作り、ルイズ達にフーケが居ないことを伝えた。
周りの茂みに隠れていた、全員がおそるおそる近寄ってきた。
「誰も居ないみたいだ」
そう言って才人が小屋の中に入っていくと、キュルケとタバサがそれに続いた。
ルイズは外で見張りをすると言って、後に残った。
ミス・ロングビルは辺りを偵察してきますといって、森の中に消えていった。
小屋に入った才人たちは、フーケが残して手がかりがないか調べ始めた。
そしてタバサが部屋の端にあったチェストを開けるとその中には『破壊の杖』が入っていた。
「破壊の杖」
タバサは無造作にそれを持ち上げ、皆に見せた。
「あっけないわね」
キュルケが呟くなか、才人は、その『破壊の杖』を見て目を丸くした。
「それ、本当に『破壊の杖』なのか?」
才人はキュルケに尋ねる。
「そうよ。あたし、宝物庫を見学した時見た事あるもの」
キュルケが頷いた。
確かにこれは武器だ。昔は自分も使った事がある……しかしこれは杖ではなくて……
才人が考え込んでいる途中に外からルイズの悲鳴が聞こえていた。
「きゃぁぁぁぁぁ!」
「どうした!ルイズ!」
才人が扉に振り向いて出て行こうとした瞬間、ぱこぉーんといい音を立てて、小屋の屋根が吹き飛んだ。
屋根がなくなって空が良く見えるようになると、そこにはフーケの巨大ゴーレムの姿があった。
「ゴーレム!」
キュルケが叫び声を上げる中、タバサは杖を取り出し呪文を唱えた。巨大な竜巻が舞い上がり、ゴーレムにぶつかるが、ゴーレムがびくともしない。
今度はキュルケが杖を構え呪文を唱えた。杖から飛び出た炎がゴーレムが包み込んだ。しかしゴーレムが炎に包まれようが、まったく意に介さない。
「無理よこんなの!」
キュルケが叫ぶ中、タバサが「退却」と短く呟き、キュルケとタバサは逃げ出した。
そんな中、才人はルイズの事を必死に探してした。そしてゴーレムの後ろに立っているルイズの見つけた。
ルイズはゴーレムの後ろで呪文を呟き、ゴーレムに杖を振りかざすと、ゴーレムの表面が小さく爆発した。
ルイズに気づいたゴーレムが振り向と、ゴーレムがルイズの向かって迫ってきた。
それを見た才人はルイズの向かって怒鳴り声を上げた。
「なにやってんだよ!早く逃げろ!ルイズ!」
ルイズは歯を噛み締めて、才人に怒鳴り返した。
「いやよ!あいつを捕まえれば、誰も私の事をゼロって馬鹿にしないでしょ!」
そんな言い争いをしている間にもゴーレムがルイズに近寄ってくる。
「そんな事言ってる場合じゃねぇだろ!」
「うるさい!あんたに何が分かるのよ!私は貴族なのよ!魔法が使える者を、貴族と呼ぶんじゃないわ!」
ルイズは迫ってくるゴーレムを正面に見据え、杖を強く握りしめた。
「敵に後ろを見せない者を、貴族と呼ぶのよ!」
ルイズの真正面まで来たゴーレム、ルイズは詠唱するがそれよりも早く、ゴーレムが左手を使って彼女を掴む……事はなかた。
バランスを崩したように、横に倒れたのだ。
ゴーレムが倒れた所為で舞い上がった煙の中なら、右手に剣を持った才人が飛び出してきて、ルイズを片手で抱えると、安全な場所まで逃げていった。
「馬鹿かお前は!死んだら意味ねぇだろ!」
才人はルイズに怒鳴りつける、その顔には怒りに満ち溢れていた。しかしルイズは顔を俯かせたままだった。
そして才人は地面が濡れている事に気づいた。ルイズの顔を見ると、ルイズの目からぼろぼろと涙がこぼれていた。
「な、泣くなよ」
「だって、悔しくて……いっつも馬鹿にされて……あんただって、あの約束がなかったら……使い魔にならなかった……私……何もなくて……」
才人は困り果ててしまった。才人はルイズは生意気で相手の悪口なんか気にしないくらい強い娘だと思っていた。
しかし現実は違った、彼女はただ、なんともないふりをしていただけにすぎなかった。あの逃げる場所のない中、味方が一人もいない中、ずっと一人で耐えてきたのだろう。才人にはその苦しみを想像すら出来なかった。
そんな中、風竜が近くに着陸した。その上にはタバサとキュルケが乗っていた。
「乗って!」
タバサの叫び声を聞いた才人は、ルイズをキュルケに渡した。
その後、才人も風竜に乗ったが……
「『破壊の杖』貸しもらうぞ」
そう言ってタバサが抱えていた『破壊の杖』を奪い取ると、また地面に降りていった。
「なにをやってるのよ!」
キュルケが叫ぶが、才人は振り返らずに呟いた。
「ルイズ……」
「な……なによ……」
ルイズは顔を上げて言うが、その声は震えていた。
「俺はあいつを倒す。だから馬鹿にする奴に言ってやれ、お前の使い魔は巨大なゴーレムを倒せるのかってな」
才人はそう言いの残すと、ゴーレムの方に走っていた。
「サイト!」
「お前らは早く行け!」
タバサは才人を見ていたが、ゴーレムの近くまで行った才人を見て、一旦飛び上がる事にした。
「やっぱり、でかいな」
才人は自分の目の前に立つゴーレムを見て呟いた。
ゴーレムはそんなのお構いなしに、拳を振り降ろすが、才人は後ろに飛んで拳を回避する。
地面に着いた、ゴーレムの拳に飛び乗り、腕を伝って頭まで行くとその頭を剣で切り飛ばした。
その後、地面に降りると、ゴーレムの股の下に入り、両足を切り飛ばす。両足を失ったゴーレムは地面に倒れこんむ。
「これで終わり……の訳がないか……」
才人の目には、ゴーレムの切り飛ばした場所に土が集まり修復している姿が映った。
しかし問題はない、彼自身、ゴーレムをただの剣で倒せるとは思っていなかった。あくまでもこれは足止め、とどめの一撃を確実に喰らわせるためにした事だ。
才人は剣を地面に刺すと『破壊の杖』才人の世界では『M72ロケットランチャー』といわれる兵器の発射準備をする。
そしていまだ足の修復が終わらず倒れているゴーレムに照準を合わせると、トリガーを押した。
栓抜きのような音と共に発射された、ロケット弾がゴーレムに直撃。ゴーレムを跡形もなく吹き飛ばした。
ゴーレムが消え去ると、風竜からルイズ達が降りてきた。
「サイト!すごいわ!やっぱりダーリンね!」
キュルケがはしゃぐ中、才人はそれを制しつついった。
「まだ、フーケがいる」
才人に言葉にキュルケとルイズがはっとした顔をした。
そんな中、辺りを偵察しに行ったいたミス・ロングビルが現れた。
「ミス・ロングビル!フーケは何処からあのゴーレムを操っていたのかしら」
キュルケはそう尋ねると、フーケはわからないと言ったように首を振った。
すると、ミス・ロングビルが才人に近づいてきた。
「すいません。偽物かも知れないので、確認させてもらえさすか?」
才人はミス・ロングビルに『破壊の杖』渡すと、彼女は『破壊の杖』を才人たちに向けた。
「ミス・ロングビル!」
キュルケが叫んだ。
「どういうことですか?」
ルイズの唖然として、ミス・ロングビルを見つめた。
「こいつが、フーケの正体だったって事だろう」
「サイト?」
冷静に言う才人にルイズはゆっくりと振り向く。
「あら?気づいていたのかい。いったい何処でわかったんだい?」
「大きく分けて二つある。一つ目は学院長が自分達で対処するって言った時、笑ってた事だな。大方、盗んだはいいが使い方が分からなくて困っていたんだろう。だから学院の教師を使って使い方が知りたかったんだろう」
「まあ、だいたい合ってるよ」
「二つ目は早すぎたことだ」
「一体なんの事よ」
「ここまで調査に出て、あんなに早く返ってこれるはずがないだろ」
その言葉を聞いたルイズとキュルケはあっと声を上げた。
「学院から距離をとる事で、万が一に備えたかったんだろうが裏目にでたな。この距離を移動しながら調査するなんて不可能だ」
才人は言い終えた所で、フーケを腹を抱えて笑い出した。
「なんだい。あんたはそこまで分かっていて『破壊の杖』を私にわたしたのか?これは大馬鹿もんだね。伝説の使い魔『ガンダールヴ』が聞いて呆れるよ」
『ガンダールヴ』その言葉を聞いた瞬間、才人の目の色が変わった。
「それを何処で知った」
才人はそう言ってフーケを睨みつける。
「どこだっていいじゃない。それよりミス・ヴァリエール、あなたは私と一緒に来てもらうわよ」
「え?」
ルイズは信じられないといった顔をした。
「そこの使い魔君から聞いたのよ。あんたが『虚……」
才人はその言葉を言わせまいと、地面に刺さった剣を抜くと、凄まじい速さでフーケに向かっていった。
フーケは咄嗟に『破壊の杖』のスイッチを押したが、なにも起こる事はなかった。
なぜ魔法が出ない……フーケがそう動揺している間に才人はフーケの腹に剣の柄をめり込ませた。
「残念だったな。そいつは一回しか使えないんだよ」
そうこのロケットランチャーは使い捨てで一回限りしか使えない。この事を知っていた才人はあえて渡したのだ。その目的はミス・ロングビルがフーケであるという確定的な証拠を掴むためだ。
もし仮にいくら自分がロングビルがフーケだといったところで学園の教師は、あくまで仮定の話、それも平民の自分の言うことを信じようとはしなかっただろう。しかし、貴族がそれも三人の証言があれば話は別となる。それを狙って才人はあえてフーケに渡したのだ。
地面に崩れ落ちたフーケからゆっくりと『破壊の杖』取り上げる。
「これで、終わりだな」
ルイズとキュルケとタバサは互いの顔を見合わせた後、才人に駆け寄って行った。