トリステインの城下町を才人とルイズは歩いていた。魔法学院からここまで乗ってきた馬は町の門のそばにあった駅に預けている。
「あんた平民のくせに、馬に乗れるのね」
「前のご主人様と旅をしていたときにたまに乗ったからな」
才人はそう言いながら、何か珍しいものはないかなと辺りを見渡していた。
道の間にはには様々な露店が並んでおり、時折、面白そうなものも並んでいた。
「やっぱりこの世界の道は狭いな」
「狭いって、これでも大きいほうなんだけど」
道幅が五メートルと言うのはこの世界にしてみれば大きい方なのだろうが、秋葉原の歩行者天国などを見た事がある才人からしてみればかなりこの路地はかなり狭かった。
「ブルドンネ街。トリステインでも一番大きな通りよ。この先にトリステインの宮殿があるわ」
「宮殿にいってみか?」
「女王陛下に拝謁してどうするのよ」
「この国の使い魔の立場の向上を、直訴するんだよ」
それを聞いたルイズがクスっと笑った後、「そんな事やたっら処刑されるわよ」と言う。
その後、特に話すこともなく、露店を眺めながら目的地へと向かう二人だったが、急にルイズが思い出したかのように話しかけてきた。
「ね、前から気になってたんだけど、前のご主人様ってどんな人なの?」
その言葉に才人は瞳を閉じて、昔を懐かしむそうに言った。
「そうだな……一言でいえば優しい人だったな……」
「優しい?」
概要が掴めず困った顔をするルイズを見て、いくらなんでも抽象的すぎたかな、と思い説明を追加する事にした。
「俺を召喚してしまった事に凄く後悔しててさ……食事とか自分の分まで俺にくれたり……最初の方は自分一人で仕事をしていたな……」
「仕事?貴族じゃないの?」
「幼いときに、両親が国家反逆罪で処刑されてさ……それから俺が召喚されるまで一人で生きていたらしい……」
それを聞いたルイズは顔をゆがませた。
貴族から見れば国に逆らって殺されるなどあってはいけない事だからだ。そして両親が処刑されるならば一緒に処刑させるべきだなどとも考えているからだ。
「そんあ顔をすんなって、親の罪が子供の罪にはないだろ?」
「それは……」
ルイズは暫く考え込んだ後、しぶしぶ首を縦に振って才人に意見に同意を示す。
その後、才人とルイズは細い路地に入っていった。そこは臭いが酷く、ゴミや汚物がそこら辺に転がっていた。
「こういった所は、どんな街にもあるんだな」
「あんた、よく平気ね」
ルイズがあまりの臭さに顔をしかめ鼻を片手で摘むなか、平然と歩く才人に対して、彼女は疑問を投げかけた。
「慣れてるからな」
才人はそう言いながら過去の事を思い出す。
自分やリアの所為もあったが主にフィアが店などを吹き飛ばし、駆けつけた衛兵から逃げるためによくこういった路地を使い、それでも逃げ出せない時にはドブ川に入ったときもあるのだ。
だからこそ我慢することは出来るが、逃走生活の事を思い出してしまった才人は体をぶるぶると震わせる。
「あんた……体が震えてるけど大丈夫?」
才人はルイズ方を見ると心配そうな顔でこちらを覗き込んでいた。
「だ、大丈夫だ」
誰がどう見ても大丈夫じゃなさそうな返事だったが、ルイズは何か触れてほしくない事を思い出していたのだろう、と思いそれ以上の追求はしなかった。
その後、路地を歩いていると剣の形をした看板がぶら下がった店が見えてきた。
「あ、あった」
どうやらこの店が目的の店らしい、ルイズと才人は石段を上り、店の中に入っていった。
店の中は昼にも関わらず薄暗く、ランプの光が灯っていた。店の奥にはパイプを加えた五十がらみの親父が、入ってきたルイズを胡散臭げに見ていた。おそらくこの店の店主であろう、男は紐タイ留めに描かれた五芒星に気が付き、ドスの利いた声をだした。
「旦那。貴族の旦那。うちはまっとうな商売してさまあ。お上に目をつけられるようなことなっか、これぽっちもありません」
「客よ」
ルイズは手を組んでいった。
それを聞いた店主は声の調子を変えルイズに話かける。
一方の才人は壁に立てかけて剣を眺めていた。
どの剣も一目見たところでは、どれも手入れが行き届いており錆び付いているものは一つもない。
才人はためしに目の前にある剣を手に取る、ルーンを輝かせ軽く素振りをする。『ガンダールヴ』の力によってこの武器の事は大体分かった。
かなりいいものではあるがこれはダメだ。軽さを重視してるため耐久性に少し難がある。人間相手ならこれでも十分かもしれないが。何が起こるか分からない身としては最低でもオークの打撃くらいは耐える事の出来る剣がほしい。
才人がそんな剣はないものかと見渡しているとルイズから声が掛かってきた。
「サイト、これはどうなの?」
ルイズの方に振る向くと店主は一・五メイルはある大剣を持っていた。その剣はところどころに宝石がちりばめられた、見た目は立派なこしらえの剣であった。
「店一番の業物でさ。貴族のお供をさせるなら、このぐらいは腰から下げて欲しいものですな。といっても、こいつを腰に下げるには、よほどの大男でないと無理でさあ。やっこさんなら、背中にしょわんといかんですな」
才人を近寄って怪訝そうな目でそれを見た。
「これ切れんのか?」
この手の剣は儀礼用の物が多く、あまり切れ味などは良くない。実際にそれで痛い目に会った事がある才人はこの手の剣は使いたくないのだ。
「あたりまえでさ。何せこいつを鍛えたのは、かの高名なゲルマニアの錬金魔術師シュペー卿で。魔法がかかってるから鉄だって一刀両断でさ。ごらんなさい、ここにその名が刻まれているでしょう?」
才人は物は試しと、剣を店主から借り受け何度か素振りをしてみる。
何度か振る終わった後、才人は落胆を顔に浮かべながら剣を店主に返した。
「ルイズ、これはダメだ」
「なんでよ?」
「こいつ、ただの装飾剣だ。実戦に使ったら、一発で折れてしまうよ」
「あんた、嘘ついたの」
ルイズがぎろっと店主を睨みつける。店主は頭を抱えて、ぶるぶると震えていた。
才人は店内の一通り見渡したあと、先ほどの剣と同じ位の剣を持ってきた。
「これをたのむ」
「そ、それなら、新金貨にひゃ「二百?」、いえ百でいいです」
二百と言おうとしたのだろうが、途中でルイズの「私を騙そうとしてただで済むと思ってんのか」いった脅しを入れられた店主は素直に値下げをした。
才人はお金を払い店を後にした。
武器屋で剣を買ったその日の夜、ルイズの部屋で騒動が持ち上がっていた。
ルイズとキュルケがにらみ合っており、才人はキュルケが持ってきた剣……才人が武器屋でダメだしした剣を持ちながら、その光景を横目で見ている。そしてなぜか居るタバサはベットに座り本を読んでいた。
「どういう意味?ツェルプスト!」
ルイズがキュルケを睨みつけているなか、キュルケは余裕たっぷりな顔でそれを眺めていた。
「だから、あんたの剣よりもいい剣を持って来たから、サイトはそっちを使いなさいって言ってるのよ」
「おあいにく、使い魔が使う道具は間に合ってるの。ねぇ、サイト」
ルイズから話を振られた才人は、苦笑しながら答える。
「悪いけど、こいつは使い物にならねぇよ」
「ええ!どうして!」
「ほらね」
ルイズは勝ち誇った笑みを浮かべ、キュルケは才人に問いただした。
「これは、儀式用の装飾剣だ。実戦で使ったらすぐに壊れちまう」
「うそ!あのシュペー卿が作ったって言ってたのに!」
「たぶん騙されたんだろ。ああいった店はそういうの多いし」
才人の言葉を聞いて、キュルケが落ち込む中、ルイズは上機嫌で言った。
「やぱりツェルプストーはダメね。見た目だけで中身はしっかりしてないもの」
その物の言いにカチンと来たキュルケは言い返す。
「あら?中身だけでなく、見た目もゼロの誰かさんには言われたくないわね」
キュルケは腰を突き出し胸を強調し、その視線はルイズの胸に向いていた。
それに気づいたルイズは顔を赤くし慌てて胸を両腕で隠す。
「な、なによ!!胸がどうしてたのよ!あんなもの邪魔なだけじゃない!」
「あら?胸の話はしたつもりないんだけど」
「こいつ……」
ルイズが歯を食い縛りながら、まるで親の仇を見るかのように睨みつける。キュルケはそれとは対照的に余裕ぶっった表情でルイズを見下す。そして二人は言い争いを始めた。
一方の才人はこう言ったことには関わらない方がいい、と今までの経験から導きだした答えにしたがって言い争いを始めるルイズたちには目もくれず、本を読んでいるタバサに話かけた。
「なあ、本好きなのか?」
「……ん」
目を本に向けたままタバサは小さく答えた。
「よかったらさ、おすすめの本とか教えてくれないか?」
「どうして?」
「暇な時にやる事がなくてさ……」
才人が苦笑しながら答えると、タバサはすうっと自分が読んでいた本を渡してきた。
「いいのか?」
「一度読んだ事がある本だから」
才人はタバサから本を受け取ると「ありがとな」と笑顔で答えた。
「へぇ、言ってくれるわね。ヴァリエール……」
「なによ。ホントの事でしょう?」
才人が後ろから不穏な声が聞こえたので、そちらに振り向くと、そこには互いに杖を持ったルイズとキュルケが睨みあっていた。
その雰囲気は一触即発といった言った感じで、今にも魔法を唱えそうな様子だった。
このままではマズイと思った才人が、杖を奪おうと動き出すよりも早く杖を構えたタバサは、魔法でルイズとキュルケの杖を吹き飛ばした。
「室内」
タバサは淡々と言った。
才人は助かったと重い息を吐く、この場で魔法……特に火の魔法を使われたら相当まずかった。
「なんでタバサがここに居るのよ」
ルイズはタバサを忌々しげに睨みながら呟くと、キュルケが答えた。
「私の友達だからよ」
「なんであんたの友達が私の部屋にいるのよ」
「私が知るわけないじゃない」
「はぁ?頭までおかしくなったの?」
「誰のことを言ってるのかしら?」
再び睨みあい、一触即発の空気をかもし出す二人。
今度は杖がないため肉体言語を行なおうと構えを取り始めてる。
才人は二人を止めるため二人の間に割って入る。
「二人とも落ち着けよ。こんな夜遅くにやったら他の人の迷惑になるだろ」
「サイト、命令よ。そこをどきなさい」
「ダーリン、そこを退いて。ルイズと決着を付つけられないでしょ」
二人に睨みつけられた才人は背筋が凍るような寒気を感じた。
それと同時に既視感を感じた。それはリアとフィアとのやり取りだった。これが始まればろくな目に合わないし、回避する事も不可能だった。
だが、まだあの二人ほどではない。今なら何とか止められる。そう自分言い聞かせた才人は現状を打開する策を言った。
「そ、外だ!外でやろう!」
「「外?」」
二人が首を傾げる。
「そうだ。外なら誰の迷惑にならないだろ」
「それも、そうね」
「まあ、ルイズ以外に迷惑かける訳にはいかないものね」
才人の提案に合意した二人は杖を拾い上げて部屋を出て行き、才人とタバサはその後に続いて部屋を出て行った。
中庭にルイズとキュルケ、才人とタバサが現れた。
「それで、なにで勝負するの?」
「もちろん、魔法に決まっているでしょ」
キュルケが勝ち誇ったように言うと、ルイズは顔をゆがめたがすぐに頷いた。
「ええ、いいわよ。ルールはどうするの」
「そうね。こんな事で怪我をするのもバカらしいわね」
キュルケが腕を組んで悩んでいると、タバサが耳打ちをし、それから才人に指さした。
指をさされた才人は嫌な予感がした。
「あ、それいいわね」
キュルケは微笑んだ後、ルイズの耳打ちをした。
「あ、それはいいわ。サイト……あれ?」
ルイズが才人に話し掛けようと振り向くと、そこには先ほどまで居たはず才人に姿が見えなかった。
辺りをきょろきょろと見渡すと、だいぶ離れた場所を走っている才人の姿が目に入った。
「あんた!どこに行く気よ!」
「わりぃ、腹が急に痛くなってきた。ちょっと用足しに行ってくる」
才人はルイズに振る向かないままそう言うと、どこかに去ってしまった。
「なによ、あいつ」
「サイトが居ないんじゃ、タバサの提案は無理ね。どうするの?」
するとタバサが木の方に指をさした。
「先に倒した方が勝ち」
「私はそれでいいけど、ルイズは?」
「それでいいわよ」
ルイズとキュルケが同時に杖を構え、詠唱を始めた。
先に詠唱が終わったルイズが杖を振り下ろすと、木……ではなく、後ろの本塔の壁が爆発した。
少し遅れてキュルケの放った『ファイヤーボール』が木に直撃、しかし半分ほどを削り取るだけで倒すまでにはいたらなかった。
「今のファイヤーボールのつもり?」
「うっさいわね!あんただって倒せなかったじゃない」
二人が睨みあって、言い争っていると、本塔の方から大きなもの音が聞こえてきた。。
「な、なによあれ」
「ゴ、ゴーレム……」
二人がそちらを振り向き、驚きのあまり口を大きく広げる。
そこには、全長30メートルはあろうか、巨大な土のゴーレムがいたからだ。
ゴーレムは本塔の壁に目掛けて、何度も拳を何度も振り下ろした。十発を過ぎたあたりでついに本塔の壁が崩れ、そこからゴーレムの腕を伝って人が入っていくのが見えた。
「なによ、あれ……」
「宝物庫」
ルイズの疑問にタバサが淡々と答えた。
すると、本塔に空いた穴から何かを抱えた人影がゴーレムの腕を使って外に出てくるのが見えた。
人影を肩に乗せたゴーレムは歩き出した……ルイズの居る方に向かって。
「な、なんでコッチにきてるのよ!!」
「あたしに聞かないでよ!!ルイズ!!」
「逃げた方がいい」
言い争う二人だが、タバサの言葉でこんな事をやっている場合じゃないと気づきその場から逃げ出そうとする。
しかしゴーレムは執拗にルイズに狙って追いかけてくる。
「きゃぁぁぁぁ!!」
ルイズは必死に走って逃げたが、石に躓いて転んでしまう。
もちろん、そんな大きな隙をゴーレムが見逃すはずもなく、ルイズを右腕で掴むと、そのまま壁を越えて、学院から逃げようとする。
「あいつ、ルイズの事を攫っていく気なの!!」
その姿を見てキュルケが驚く中、タバサは詠唱を始め魔法を放とうするが……
(間に合わない……)
ゴーレムはその間にも壁すでに越えており、タバサの詠唱はどう考えて間に合いそうにない。
そんな中、一人の人影がキュルケとタバサの横を凄まじい速さで通りすぎて行った。
その人影は左手が赤く輝いたと思うと、そのまま地面を蹴って飛び上がり、学院の壁を一跳びで飛び越えると、ゴーレムの右腕を切り飛ばした。
「きゃぁぁぁぁぁぁ!!」
人影は右手に持った剣を地面に刺すと、落下してくるルイズを両腕を使って受け止めた。
ルイズは自分を受け止めてくれた人をそっと顔を上げて確かめると、その人物は……
「サイト!あんたどうやって……」
「いやぁ……ゴーレムがルイズ達がいた方向に向かってるのが見えたから、急いできたんだ」
サイトが苦笑しながら話していると、後ろから声が響いてきた。
「ダーリン!?」
才人が後ろを振り向くと、そこにはシルフィードに乗ったキュルケとタバサがいた。
シルフィードは才人の近くに降り、キュルケとタバサが駆け寄ってきた。
「ゴーレムに連れ去られるなんて、みっともないわね」
「うるさいわね。あんただって逃げてたじゃない!!」
そう言って睨み合う二人、才人が「まさか俺に抱えられている状態で決闘なんかしないよな?」と冷や汗をかいていると、タバサが口を開いた。
「メイジは」
あ、タバサ以外の全員が声にならない声を上げた。急いでゴーレムの方を向くと、そこには大きな土の山があり、ゴーレムを操っていたと思われるメイジの姿は見当たらなかった。
「逃げられたか……」
お待たせしてすいません。
できれば今日中に一巻の内容を投稿したいと思っています。