ギーシュとの決闘があった日の翌朝、才人はナイフを持って中庭に立っていた。
才人は目を開け目にも止まらぬ速さでナイフを振るう、それが終わると再び目を閉じた。暫くすると今度はルーンが赤く輝きだした。その後の才人に動きは凄かった、今度はナイフが消えるような速さ振るい始めたのだ。
それが終わると、力が抜けたのか、どさっと地面に座り込んだ。
「だいたいわかってきたな」
才人は、先ほどからギーシュとの決闘で現れた現象について調べていた。
そしてわかったことは、心の震えが一定の値を超えるとルーンが赤く輝きだすこと、その時は普段『ガンダールヴ』の力とは比べ物にならないくらいの速さと力を得ること、そして最中は体力も尋常でないほど使ってしまうことだ。
才人はこの現象の事をルイズとリアのルーンが一種の共鳴のようなものを起して、普段の何倍もの力が出るためだろうと考えていた。
「とりあえず、うまく使いこなさないとな」
いくら速さと力を得たからと言っても、戦闘中に倒れたのでは意味がない。実際、力加減にもよるが、普通にルーンを使っていたのなら才人は、数時間ほど戦い続けられる自信があった。しかし赤く輝いた時には、ほんの数分、全力を出せば数秒ともたない。
「サイトさん!」
後ろから声を掛けられたので後ろを振り向いて見ると、そこにはシエスタとメイドがもう一人立っていた。
「シエスタに……昨日ギーシュにからまれてた子だよな?どうしたんだ?」
メイドは申し訳なさそうな顔をして俯いている。
「ニュイと言います…その…昨日助けてくれてありがとございます!!」
ニュイと名乗った少女がそう言って頭を大きく下げる。
「別に気にしなくていいって、俺がやりたくてやった事だから」
才人は手を振ってその場を去ろうとするが、ニュイは才人の右腕を掴んでそれを止めた。
「助けてもらってお礼もせずにこのままにする事なんて出来ません!なにか出来る事があったら言ってください!」
才人は頭をかきながら、どうしたものかなと苦笑している。
「それじゃあさ、なにか食わせてもらっていいかな。ルイズがくれる分じゃたりなくてさ」
才人に日本にいればもう高校生になる。そんな育ち盛りの時期にあの量はは少しつらい。
才人の提案を聞いたメイドはやっと笑顔を見せて。
「わかりました。食べたくなったら何時でも厨房に来てください」
ニュイは一礼した後、去って行った。
「シエスタはどうしたんだ?」
「あの子の付き添いもあったんですけど……一つ聞きたい事がありまして」
「聞きたい事?何でも言ってくれ」
「どうやってあんなに強くなれたんですか。私は貴族に平民は勝てないものだとばかり考えていたので、サイトさんの戦う姿を見て少し感動したんです」
それを聞いた才人は自分が伝説の使い魔だからという訳にはいかず、ただただ苦笑する。
「あー、なんつうか……戦ってうちに自然とな」
才人はそう言って再び歩きだす。
「どこにいくんですか?」
「ルイズの部屋にだよ。あいつ怒るとおっかねぇからな」
才人はそう言ってルイズの部屋に向かった。
その後、才人はルイズを起し朝食を取ると、部屋の掃除と下着の洗濯する。その後にルイズの授業に動向する。授業が終わった後は夕食を食べ、ルイズの着替えを手伝った後に、シエスタから恵んでもらった藁を敷いた床に寝る。
そんな日々を一週間繰り返していた。
「はぁ~。やっぱり寝てしまったか……待ってくれる優しさはないのかよ……」
夜遅く、とっくの昔に日が沈んだ頃に才人はルイズの部屋の扉に立ち尽くしてした。なぜそうなっているかと言うと、ルイズがまた魔法を使って教室を吹き飛ばしてしまった事が発端だった。
才人はいつもの如く教室の後片付けをしていたのだが、最後の授業で吹き飛ばしてしまったため、才人の片付けが終わった時にはもうすでに夜遅くになっていた。
才人は走って部屋に向かったのだが、すでにルイズは寝てしまったらしく、部屋には鍵が掛かっていたのだ。
才人はこうなったらしょうがないと腹をくくると、ルイズの部屋の扉の隣に座り込んだ。ここで寝るつもりなのだ。
リアと旅をしていた特は金が何時もなく宿屋に泊まれず野宿が基本だった。フィアと一緒になるまでは荷物が多くなるためテントすらなく、草原の中で毛布に包まって寝ていたのだ。
ここは建物の中であるため、床がひんやりと冷たくはあるが夜風をしのげる。才人からして見れば眠れない場所ではなかった。
「あら?ダーリン?」
「ん?」
目をつぶって少したった時だった、聞きなれた声が聞こえてきたのだ。才人が目を開けるとそこには褐色の女性……キュルケがこちらを見下ろしいた。
「一体どうしたのそんなところで?ルイズは?」
「教室の片付けしてたら今までかかってさ。ルイズの奴、かぎ締めて眠ってるみたいなんだ」
それを聞いたキュルケは呆れたっといた顔をして、それから急に笑顔になって才人の耳元で呟く。
「ねぇ、それならダーリン。私の部屋に止まっていかない?」
キュルケの話は正直嬉しかったのだが、才人は素直に喜べなかった。
理由は主に二つある。一つ目だがそれはキュルケが才人をダーリンと言っている事に関係があった。ギーシュとの決闘が終わった後からなぜかキュルケはそう言い始め、さらにことあるごとに才人を自分の部屋に誘ってきたのだ。
それだけ聞けばキュルケが才人を好きになったかのよう思われるが、才人は本当の意味で好きになったわけではないことに気づいてきた。自分の事を好きになってくれた人……例えばリアなどは今のキュルケのような目や顔をしていなかった。今のキュルケは面白そうなおもちゃを見つけたといった顔だった。だぶん何度か抱いて飽きれば捨てられるだろう。才人からしてみればそんな事がごめんこうむりたい。
そして二つ目の理由としてはルイズとキュルケの仲が致命的に悪かったことだ。それは気が合わないとかそういったレベルではなく、顔を見合わせるごとに喧嘩をしているのだ。そんな仲の悪いキュルケのところで自分の使い魔が尻尾を振るう……正直その後どうなるか才人は想像すらしたくなかった。
「あ、ありがたいけど、俺が言ったら迷惑だろ?野宿は慣れてるから大丈夫だよ」
「そう?鍵はあけてるから、寒くなったら何時でも来てね」
才人の答えを聞いたキュルケは少し残念そうにしながら自分の部屋に戻っていた。
それを確認した才人は再び目を閉じ眠ろうとする。しかし数分たった頃、再び声が聞こえてきた。
「あ、あの才人さん。大丈夫ですか?」
うっすらと目をかけると、灰色の髪を後ろで一本に束ねた少女が自分を心配そうに眺めていた。
才人がギーシュに絡まれている所を助けたニュイという名の少女だ。彼女には、お礼を告げられた後もシエスタと一緒に何度も面倒を見てもらっており、才人としては少し申し訳なく思っている。
「かぎ締めれちゃってさ、しょうがないからここで寝ようとしてたんだ」
「ここでですか!?こんな場所で寝たら風邪ひいてしまいますよ!!」
「慣れてるから大丈夫だって」
そう言い切って才人は目を閉じ眠りにつこうとする。
すると、右手からほのかな暖かさが感じ取れた。才人が目を開けるとニュイが自分の手を両手で包み込んでいた。
「ほら、こんなに冷たくなってるじゃないですか。私の部屋に来てください。あまり広くはないですけど床に寝るよりはマシなはずです」
「でも迷惑が……」
「シエスタさんと相部屋なので大丈夫ですよ。それにあの時のお礼まだ返しきれてませんので」
微笑みながらそう言うニュイに才人はおとなしく付き従うことにした。
「シエスタさん、まだ起きてますか?」
「ニュイ?起きてるけど、どうしたの?」
遅くまで働いていた同僚で同じ部屋に住む友人の声を聞いたシエスタは扉の鍵を開けてドアを開く。そして自らの目に入ってきた光景に思わず彼女は口をあけて驚愕したしまう。
「さ、才人さん!?どうしたんですかこんな所に!?」
「色々あってルイズの部屋に入れなくてさ、部屋に入れてくれるって言うからさ……もしかして迷惑だった?」
「そ、そんな事ありません!!」
シエスタの大声にニュイと才人は思わず驚いてしまう。それを見て思わず大声を上げてしまった事を恥ずかしく思ったのか、シエスタは顔を真っ赤にしてして俯いてしまう。
ニュイがそれを見て苦笑しながら部屋へと才人を招き入れる。
その部屋の広さはルイズの部屋の半分ほどであろうか、部屋の両端には二段ベットと物置があり、ドアの反対側の窓の方には机と椅子がそれぞれ二つずつ置いてあった。
「私、ベットは下の方なのでそこを使ってくいださい」
「え、いや、部屋に入れてくれるだけでいいって、ニュイの寝る場所がなくなるだろ」
才人は言うが彼女は納得してないようで、「で、でも」と口籠もるが、才人は部屋に入れてくれただけで十分だってと説得して渋々ながら頷いた。
ニュイは自分のベットから一枚、毛布を取り出すとそれを才人に手渡し、未だに顔を俯けているシエスタの耳元でなにやら話しをすると、二人とも才人に一礼した後、自らのベットへと入っていた。
才人は二人がベット入っていくのにつられて目を閉じようとすると声が聞こえてきた。
「あ、あの才人さん」
「どうしたんだ?」
「才人さんて何処からきたんですか?シエスタと同じ黒髪はここら辺では滅多にみないんですけど」
正直な事を話そうか少し迷った才人だが、たぶん本当の事を言っても信じてはもらえないと思い嘘を交えながら話すことにした。
「ここからずっと、もう二度と帰らないくらい遠くからきたんだよ」
「どうやってですか?ミス・ヴァリエールの召喚で呼び出されたんですか?」
「ご主人様……ルイズじゃなくてその前に俺を呼び出した人がいてな、その人に連れてこられたんだ」
「前のご主人様ですか?」
「ああ……」
三年前に彼女に召還されてからのことは、今でもはっきりと頭の中に残っている。
初めは家族から引き離した彼女に酷い言葉をぶつけてしまったことや、色々あって和解した後は彼女と一緒に世界中を旅をしたこと、その際に何度も危険な目にあったこと、そして最後の別れす時には、自分を悲しませないために必死に笑顔を作って見送ってくれたこと。
才人が彼女の思い出に浸っていると、横から声がかけられた。
「……才人さん」
「どうしたんだ?」
「その人……もう会えないですか?」
わからない……年号を調べてみると今のこの世界は彼女と一緒に旅した時からすでに400年ほどたっている。
フィアなら多分生きているだろうが、彼女はすでに寿命を迎えているかもしれない。もしかしたら自分が帰った後に戦いに巻き込まれて死んでいるかもしれない。
でもこれだけ言える……
「会えないと言うか、会っちゃダメなのかもしれない」
「どうしてですか?」
「リアはさ、これを二度と家族のもとに戻れなくしたことをすごく後悔しててさ、帰る方法が見つかった時に自分の感情を必死に押し殺して見送ってくれたんだ。だから、それなのに帰れなかったって聞いたら悲しむだろ。あいつが悲しむ顔は見たくないんだよ」
才人がそう言うと暫く静寂に包まれた。
ニュイは聞いてはいけないことを聞いたのかも知れないと申し訳ないと思ってると、才人の声が聞こえてきた。
「なんか暗い話になってごめんな、そろそろ遅いし寝ようか」
明るくそう言うと彼はゆっくりと目を閉じた。
「ん、朝……みたいね…」
ルイズはゆっくりとベットから起き上がり、何時ものように服っと言うが反応がない。
そこで覚醒したルイズの頭は使い魔が返ってくる前に鍵を閉めてしまった事を思い出し、慌てて扉の鍵を開けて部屋の外に出ようとするが、
「きゃ!!」
扉の前にいた何かに当たってしまったようで、尻餅をついてしまうルイズ。
扉の前に立ってるなんて危ないじゃないと思いながらルイズは何にぶつかったか見ようとするとそこには自分の使い魔が立っていた。
「よ」
「よ、じゃないでしょ!!そんなとこに立ってたら危なじゃない!!」
「しかたねぇだろ。誰かさんが鍵しめちゃったんだから」
バツの悪い目をして黙りこむルイズ。
自分が悪いことを自覚しているため何も言い返せないようだ。
「それより今日は休日みたいだけどとっかいくのか?」
「トリスタニアにはいくわ。あんたの剣を買わなきゃいけないしね」
「買ってくれんのか」
実は才人は前々からナイフでは心もとないので剣を買ってほしいとルイズに頼み込んでいたのだ。
ようやくちゃんとした武器が手に入ると喜ぶ才人にルイズは指を突きつけ。
「そのかわり、自分に降りかかる火の粉は自分で払いなさいよ」