トリステイン魔法学院で最も高く中央にそびえる本堂の最上階にある学院長室には、この学院の学院長を勤めるオールド・オスマンが顎から伸びた白く長い髭を片手でいじりながらもう片手で水キセルを吸っていた。
すると部屋の端に置かれた机に上で書類の処理をしていた秘書……ミス・ロングビルが羽ペンを振るうと、オスマンが吸っている水キセルは宙に浮かび上がり、ロングビルの手元まで飛んできた。
「年寄りの数少ない楽しみを取らんでくれ。ミス……」
「オールド・オスマン。暇でしたのなら書類の整理を手伝ってください」
その言葉を聞いたオスマンは椅子から重々しく立ち上げると、ゆっくりとロングビルの元へと近づいていく。
「ミス・ロングビルよ。ワシはな別に仕事をやりたくなくて、やっていない訳ではないのじゃ」
「はぁ……」
一体なにを言いたいのだろう?
ロングビルが知り限るこの老人は最近、水キセルを吸うか、ただ窓をぼんやりの見つめるだけで、特に何かやっている様子はなかった。
「ワシはな。真実と言うものがどこにあるかを知りたいんじゃよ」
「少なくとも、女子のスカートの中にはないと思います」
「な!!」
オスマンが口をあけて驚愕する中、なぜ気づかないと思っているんだとロングビルは大きくため息をついた。
ロングビルはオスマンが使い魔と視界を共有できる事を悪用して、自らの使い魔であるネズミを使って学院中の女子のスカートの中を覗いていたことや、酷いときには女子更衣室まで覗いていたこと、そして覗いている際は窓から外をぼんやりと眺めていることなど全てを知っていた。
なぜかといえば、窓の覗いている最中に「おおぉ!!」や「白か、最近の子はけしからん」やら「そこ、そこじゃ」などと呟いていれば馬鹿にでも推測できる。
するとオスマンは口を半開きにして、よちよちよ歩き始めた。その風貌とあいまって、ボケた老人にしか見えないが、ロングビルが冷酷に自らの下にいるネズミを軽く踏み潰すと、それをボケている老人の頭目掛けてシュートする。
「おぶ!!これ何をするのかね。老人をいじめるでないわ。」
そう言うと自身の使い魔であるネズミ……モートソグニルを両手ですくいあげるオスマン。そして耳元は持って行くとネズミがなにやら呟いたあと、オスマンの両手の上で倒れた。死んだ様に見えるが、かすかに腹が動いていることを見るに力尽きて気絶したようだ。
「そうか、白か、純白か。うむ。しかし、ミス・ロングビルは黒に限る。そうはおもわんか?」
ミス・ロングビルの眉が動いた。
このエロジジイの元で働き始めてからロングビルは様々なセクハラを受けていた。パンツを見られたり、胸を触られたり、才人がいた世界なら警察に訴えられるくらいの事をされてきた。
今の今までは何とか我慢してきたがもう限界だった。今まで溜め込んできた怒りが堪忍袋の尾を切ったのだ。
「オールド・オスマン」
ロングビルの言葉にオスマンは息を呑む。
今までにセクハラして実力行使で怒れてたことは何度かあった。しかし今回はそれらとは何か違うとオスマンの長年の感がそう訴えている。
「今度やったら、殺します」
「なぜ殺人予告になるんじゃ!そこは王室に連絡じゃろう!」
「王室には、すでに連絡しました」
ロングビルは顔をにっこりと笑顔を浮かべる。それはオスマンが彼女と過ごした中で一番とも言える天使の笑顔だった。
「王室からは、私が好きに罰してよい。との返事をいただきました」
オスマンは、長年生きてきて始めてになるかもしれないない。それぐらいの量の汗を流し始めた。
「ちょっと待つのじゃ、ミス・ロングビル。年老いたジジイのお茶目じゃないか」
「私はやめてださいっと言ったはずです」
ロングビルは笑顔のまま、オスマン氏に近寄ってくる。
「ワ、ワシも歳を取っての。注意されたことをよく忘れるんじゃ」
オスマンは、後ろに下がりながら、みっともない言い訳を始める。
「オールド・オスマン。私が黒を何回はいて来たと思いますか?」
「それは、12回……あ」
オスマンは声にならない声を上げた。
「私のパンツをはいて来た日は覚えていて、注意は覚えてないと。それは
さらに近づいてくる、オスマン氏はさらに下がるが後ろの壁にぶつかり逃げ場を失ってしまう。
「しし、下着を覗くくらい、いいではないか!お主が年寄りの暇つぶしを取るからこうなるじゃ!」
オスマンの頭には暇つぶしは、水キセルとセクハラしかないようだ。
ロングビルはこのエロジジイに制裁をくだそうと、手を握り締める。
しかし、そこに乱入者が現れた。
「オールド・オスマン」
扉を開けて入ってきたのはコルベールだった。
「なんじゃね」
ロングビルは舌打ちをした後、しぶしぶ机に戻っていった。オスマンも腕を後ろに組んで何事のなかったかの用にしているが、内心では助かったと思っている。
「たた、大変です」
「大変なことなど、あるものか。すべては小事じゃ」
オスマンは長年の貫禄を見せて落ち着かせようとするが、コルベールには効果がなかった。
「ヴァリエールの広場で、決闘を始めようとしている生徒がいるようです。大騒ぎなっており、教師の中には『眠りの鐘』の使用許可を求めているものもおりまして」
「まったく、一体誰が暴れているんだね?」
「はい一人は、ギーシュ・ド・グラモン。もう一人はミス・ヴァリエールが召喚して使い魔の少年のようです」
オスマンが暫く考え込んだ後、言った。
「しばらくは様子見でもするとしか。ミスタ……コッパゲール君」
「コルベールです!頭を見た後言わないください!」
「そうそう。とにかく子供の喧嘩なんじゃ。しばらくは様子見でいいじゃろ」
ヴェストリの広場は、魔法学院の『風』と『火』の塔の間にある中庭である。
普段はあまり人がいない場所だが、今は噂を聞きつけた生徒達でごった返していた。
「諸君!決闘だ!」
ギーシュが薔薇の杖を掲げると、周りに居た生徒達の歓声が巻き起こる。
才人はそんな中を掻き分けて、ギーシュのいる真ん中にたどり着く。
「逃げずに来たことは、誉めてやろうじゃないか」
「逃げる理由が特にないしな」
才人はそう言うと体を動かして準備運動を始める。
ギーシュは才人の準備運動が終わったのを見計らって、再び口を開いた。
「君はゼロのルイズを倒したくらいで調子に乗っているみたいだが、この僕、ギーシュ・ド・グラモンが本物の貴族と言うものを見せてやろう」
ギーシュは薔薇の花を振るい、一枚の花びらが宙に舞う。
そして次の瞬間、薔薇の花びらは一体の女戦士の姿になった。
「ゴーレムか……」
「そのとうり。僕の二つ名は『青銅』。『青銅』のギーシュだ。従って、青銅のゴーレム『ワルキューレ』がお相手するよ」
「一応俺も名乗っておくか、俺は平賀才人だ。どっからでも掛かって来い」
才人は左手でナイフを握る。それと同時にワルキューレが才人に殴りかからんと迫ってくる。
ワルキューレは右手を握り締め拳を才人の腹に向けて突き出すが、才人はそれをしゃがんで回避する。
才人はそのまま足を蹴り上げ、ワルキューレを宙に飛ばすと、左手に持ったナイフでワルキューレの頭と体を切り離した。
「こんなもんか?」
才人はバカにしたような笑みを浮かべる。
「たかが一体で調子にのるなよ!僕の本気を見せてやる!」
ギーシュは薔薇を振るい、新たに七体のゴーレムを作る。
(七体か……)
七体のワルキューレが突っ込んでくる中、才人はゆっくりと目を閉じる。
(ガンダールヴの力は心の震え……もっと心を震わせるんだ……)
才人の左腕のルーンが徐々に輝きを増していく。そして光の色も白から赤へと変わっていく。
その間に七体のワルキューレは才人を取り囲み襲い掛かってくる。
しかし才人の体が一瞬ぶれたかと思うと姿を消した。そして次の瞬間、全てのワルキューレの頭が切り飛ばされる。
「へ?」
その事態に頭が着いていけないギーシュは気の抜けた声を上げ呆然とする。しかしすぐに立て直しワルキューレを生み出すためにギーシュは杖を振ろうとした時あることに気づく……才人が目の前で自分の首元にナイフを突きつけている事に。
「ひぃ!」
ギーシュは腰を抜かして倒れてしまう。
「俺の勝ちでいいな?」
ギーシュに催促するように言った。
「ああ、僕の負けだ」
決闘が行なわれその場は静まり返っていた。それも無理はない、最初のワルキューレ一体の首を落としたしたところまで理解できた。しかしその後の事はなんだ。才人の体が消えたと思うとその次の瞬間には、首を切り飛ばされたワルキューレとギーシュに剣を突きつける才人がいた。とても人間…ましてや平民のやった事とは思えなかった。
一般的にメイジの実力を知るには使い魔を見ればいいといわれる。ならこの化け物のような使い魔を従えるルイズの実力とは、そう思った生徒はルイズを見つめていた。
生徒達が困惑しているが、それは才人も同じだった、彼はギーシュのワルキューレを倒すために全力を出したが、昔はここまで早くなかった。だったらなぜ……そう考えたところで急な脱力感に襲われ、膝を地面に付く才人。
「サイト!」
ルイズが心配そうな顔をしながら駆け寄ってきた。
「大丈夫だよ」
才人は力がうまく入らない身体に鞭を打って立ち上がる。
「ほら行くぞ。次の授業が始まるぞ」
才人とルイズは人混みの中を掻き分けて教室に向かった。
オスマンとコルベール、そしてミス・ロングビルは『遠見の鏡』で一部始終を見終えると、顔を見合わせた。
「か、勝ちましたね」
「ええ」
「うむ」
全員の声は震えおり、信じられないものを見たと言った表情になっている。
「オ、オールド・オスマン……」
「あの平民、勝ってしまいましたが……」
「うむ」
先ほどから、単調な返事しかしないオスマンは、心ここにあらずと言った状態だ。
「ミスタ・グラモンは一番レベルの低い『ドット』のメイジですが、それでもただの平民に遅れを取るとは思いません。それどころか、あの平民の動きは人間の動きを超越していました」
ミス・ロングビルの言うとおりあの使い魔の動きは人間の限界を超越していた。最後に見せたあの速さで動く事などたとえ『スクウェア』クラスのメイジでも不可能だろう。
あの平民の正体が分からずオスマンが頭を抱えていると、コルベールが「あっ!」と何かを思い出したような声を上げた。
「コルベール君、何か分かったにかね」
「ええ、一つだけ心当たりがありますが……」
コルベールはミス・ロングビルの方をチラリと見る。おそらく大勢の前で言える事ではないと言った所であろう。
言われる前に察したミス・ロングビルはお辞儀をしたあと、学院長室を後にした。
ミス・ロングビルが居なくなった事を確認したオスマンはコルベールに催促する。
「で、心当たりとは?」
コルベールはゆっくりと重々しく口を開いた。
「四百年前に再来した、始祖の使い魔『ガンダールヴ』は知っていますか?」
「ああ、もちろんじゃ。四百年前、突如として現れたその使い魔は、五百人の軍隊を一人で壊滅させ、腕利きのメイジたちを次々と倒しハルケギニアを震撼させたといわれておる。しかしそれがどうしたのじゃ?」
「始祖ブリミルが用いた使い魔『ガンダールヴ』の力はあらゆる武器を使い、詠唱中の主人を守る事に特化した存在、そしてあの平民は武器を持っていた」
「しかしだな、武器を持っていたくらいで『ガンダールヴ』と決め付けるのはいささか強引ではないかね?」
「いえ、他にも理由はあるのです。四百年前の『ガンダールヴ』は人間だったと記述してある書物もあるのです」
「それは本当かね?」
「はい。間違いありません」
しばし二人の間にしばし静寂がながれる。
「仮にあの平民が『ガンダールヴ』だとして、それを召喚したのは誰なんじゃ」
「ミス・ヴァリエールなのですが……」
「あの、問題児か……」
「はい。彼女はどんな魔法でも爆発させてしまって……」
「その二つが大きな謎じゃな」
「そうですね」
コルベールが頷く。
「とにかく、王室のボンクラどもに『ガンダールヴ』とその主人を渡すわけにはいくまい。そんなオモチャを与えてしまっては、あの暇人どもは戦争をやらかしかねないからな」
「ははあ。学院長の深謀には恐れ入ります」
「この件は私が預かる。他言は無用じゃ。ミスタ・コルベール」
「はい!かしこまりました!」
オスマンは杖を握ると窓際へ向かった。
「コルベール君、四百年前に『ガンダールヴ』の主人の事は記述されてないのかね」
コルベールは首を横に振って否定の意を見せた。
「それが、使い魔の活躍ばかり書かれていて、主人の事に関しては一切の記述がないのです……意図的に消したとしか思えないほどに……」
「意図的に?なぜそんなことを」
「これは私の憶測に過ぎないのですが……主人が何らかの不都合な事実を持っていたのではないでしょうか……歴史に残してはいけないほどの事実を……」
皆様お久しぶりです。
前回、投票した際、パクリすぎとご指摘いただいたため、可能な限り作りなおして投稿させてもらいました。
自分では大丈夫だろうと思っていますが本当に大丈夫でしょうか?まだ原作に似ているや批判がありましたら感想にかいてもらえると嬉しいです。
ただし作者の心は豆腐なので優しくお願いします。
それと妖精の双竜については、かなり文体が違ってきたのでリメイクを予定しています。現在投稿されているものはリメイクが追いついたら消そうと考えています。
最後になりますが、現在作者は忙しくあまり時間が有りません。12月に入れば余裕が出てくると思いますので気長にお待ちいただければ幸いです。