「これはコッチと……」
現在才人は汗だくになりながら黒板を運んでいた。
そんな事を才人がやっているのは、ルイズがめちゃくちゃにした教室の修理ををシュヴルーズ先生から命じられたためだ。しかも罰として魔法が禁止されたため(まあ禁止されていなくても使えないのだが)ルイズの細腕では大きな物を持つことが出来ず、才人がやっているのだった。
「ルイズ。いつまでやってんだ。こっちはもう終わったぞ」
黒板や机、ガラスといった大きなものを運び終えた才人はルイズに声を掛ける。ルイズは現在、教室の煤で汚れた机を拭いているところだった。しかしながらなかなか終わらず、才人が物を取りに十数回も往復している間に拭き終わった机はたった五つだった。
「うるさいわね。こんなことあまりやった事がないんだからしかたないでしょ。本来貴族はこんなことはやらないの」
「そんな事いってると、いつまで経っても終わらないぞ」
「うっ」
才人の確信をついた言葉にうなだれるルイズ。それを見た才人は「仕方ねぇな」と言いながら雑巾を取り机を拭き始めた。しばらくその場が静まりかえる、そんな時、ルイズが口を開いた。
「あんたはバカにしないの……」
「何の事だよ」
「わかるでしょ!私が魔法を使えないことについてよ!だからゼロ!あんたもゼロのルイズてバカにすればいいじゃない!」
才人の言葉が気に障ったのか大声を出して怒鳴るルイズ。その目元には涙を浮かべていた。才人はそんな彼女に顔を振り向き言った。
「じゃあ一つ質問するが、魔法ってのは失敗したら爆発するものなのか?」
「え?」
才人の言葉に驚くルイズ。普通は魔法に失敗したら何も起こらないもので、爆発などは決してしたりはしない。今まで考えもしなかった事を言われルイズが呆然とする。
「あんたは……なんでだか知ってるの……」
「バカ言え。メイジが知らねぇのに俺が知ってる訳ねぇだろ」
「なによ!期待させといて」
「わるかったて、そのお詫び一人でやるから帰ってもいいぞ」
その言葉にルイズが驚く。
「いいの?」
「いいってお詫びだって言っただろう」
「……ありがとう……」
教室を出て行く寸前にルイズは小さくそう呟いた。
才人は彼女が出て行ったことを確認すると呟き始めた。
「はぁ……ルイズが虚無か……彼女の頼めば帰れるかもしれねぇが……」
才人が元の世界に戻るためには『虚無』今は失われた系統の魔法が必要だ。
才人は運よくその魔法の呪文を知っている。ルイズとは帰るの協力すると約束しているため、教えさえすれば唱えてくれるかも知れない。でも……
「やっぱり心配だよな……」
才人が心配している事は、自分が居なくなった後のルイズの事だ。
『虚無』の力は強大だ、力の使い用では軍隊を一撃で吹き飛ばす事でき、国すらも壊滅させる事ができる。才人帰った後、もしそれが他の者に知れたらどうなるだろう。戦好きの貴族だったら戦争に巻き込まれるかもしれない。
いや、それだけならまだいい方だろう。もし研究機関などに知れたら、ルイズを解剖して調べようと輩もいるかもしれない。
「別な方法……考えるしかないのかな」
才人はその時知らなかった……教室のドアから盗み聞きをしている人がいた事を……
「冷てぇ!」
教室の後片付けが終わった才人はルイズの下着を洗濯していた。
なぜ洗濯しているかと言うとルイズが朝に命令したからだ。一応下着を取りに行った時、ルイズにはやらなくていいといわれたが、何もしてないと才人はまた考え込んでしまいそうなので、それを断ってやっていた。
「やっぱり……なれないなぁ」
リアと旅をした時はよくやっていたが、慣れないもの慣れないものだ。
地球にいた時に使っていた、ボタン一つで洗濯をしてくれる洗濯機のありがたさを再確認していると突如後ろから声が聞こえていた。
「どなたですか?」
声がした方向に振り返ると、黒髪をカチューシャで纏めた女性が立っていた。メイド服を着ているところを見ると恐らくこの学院の使用人といったところだろう。
「洗濯をやっているだけだよ」
才人はそう答え左手を振る。
メイドは見慣れない人がなぜ洗濯を?と思っていると才人の振った左手のルーンが目に入った。
メイドはそれで理解したこの男は……
「きゃぁぁぁぁぁぁぁっ!」
メイドは大声を上げて足に力が入らなくなったように、地面に倒れこんだ。
「ど、どうしたんだ!」
メイドの声に驚いた才人はメイドに駆け寄るが、メイドは才人が駆け寄ると後ずさり、瞳に涙を浮かべて懇願するように言った。
「私……は家族を養わなくてはいけないんです……お願いですから……襲わないでください」
どうやら才人のせいのようだ。
才人は誤解を解くめメイドに必死は語りかける。
「その、誤解なんだ!俺はルイズを……」
「私聞いたんです!ミス・ヴァリエールの使い魔は人を捕らえて食べるって!」
才人の噂には物凄い尾ひれが着いているようだ。
才人はその後も必死に弁解を続けたが、メイドは「許してください」とか「すいません」と言って震えるばかりだった。
しばらくそんなやり取りをした才人は考える。
なぜ自分はこんな目に合っているのだろう……元々はルイズを脅した所為だ、つまり自分が悪い。
ならばどうにかして責任を取れば許してもらえるはずだ。どうやって責任を取ったら。
才人は心は朝から立て続けに起こった事で限界に来ていた、そして限界に来た心が下した結論は……
(そうだ……切腹しよう)
そう考えた才人はナイフを取り出す。それを見たメイドは震えて「命だけは許してくだい!」と言っていたが、今の才人にはどうでも良かった。
それよりも一刻の早く責任を取って許してもらうほうが重要だった。
「なあ……責任は取るから……これで許してくれ」
「へ?」
おかしい何で責任を取るといった言葉出てくるのだろう?よく考えてみれば目の前の人は必死に誤解だと言っていた。もしかしたら自分はないか勘違いを……
そう思ったメイドは顔を上げる、すると目の前の男がナイフを自分の腹に突き立てようとしていた。
「ちょ、ちょとまってください!」
メイドは才人のナイフを持っている左手を押さえ、ナイフを取り上げようとする。
「邪魔しないでくれ!俺は責任を取るんだ!!」
「落ち着いてください!!」
「はぁ……はぁ……ごめん正気を失っていた……助かったよ……」
「はぁ……はぁ……気にしないでください……元の原因は私にもあるんですから……」
現在二人は野原に仰向けに倒れ息切れをしていた。
メイドに方にはもう才人に対する恐怖心はないらしく、普通に話している。
「俺は平賀才人って言うんだ。君の名前は?」
才人が先に立ち上がって、いまだ倒れているメイドに手を向ける。
「変わった名前ですね。私はシエスタと言います」
シエスタは才人に手を握って立ち上がる。
「本当にありがとうな。俺に出来る事があったなら何でもいってくれ」
シエスタは微笑み。
「ありがとうございます。でも早くミス・ヴァリエールの元に行ったほうがいいですよ」
シエスタの言っている意味が分からない才人は首を傾げる。
「もうすぐ、使い魔との親睦会が広場であるんですよ」
あっ、才人はそんな声を上げた。
ルイズに親睦会までには帰ってくるようにと言われてた事を思い出したのだ。
「ありがとうな。お礼はまた今度するよ」
才人はシエスタにそういった後、広場に向けて走り出した。
本来昼食を取る時間だが、学院の生徒全員は、食堂ではなく中庭にいた。親睦会が行なわれているためだ。
この親睦会とは一年生は上級生と、二年生は使い魔と、三年生は下級生との仲を取るために毎年行なわれる行事だ。
そんな親睦会が行なわれている中を青年と少女が歩いていた。
「たく、使い魔がご主人様を待たせるて、どういう神経しているのよ」
「わりぃって」
それはルイズと才人だった。
あの後、結局才人は、親睦会に遅れてしまい、ルイズから怒られていた。
ルイズは才人が謝ると「しょうがないわね」と言って才人を連れて歩きだした。
「なあ、親睦会ってどんな事をすればいいんだ」
「さあ、特に決まった事はないわ」
才人は周りを見てみるが、使い魔と見詰め合っている者やエサを与えている者、使い魔を3年生と見せ合っている者など色んな人たちがいた。
「誰かさんの所為で広く場所を使えるから、それを活かしてみる?」
「すいません」
ルイズの皮肉に頭を下げる才人。
なぜそんな事をするかと言うと現在の才人の周りには人が近寄らないが、その範囲は朝よりも広くなっており半径約10メートルまでに広がっていた。
もはや、なにかしらの結界が張っていると言っても可笑しくないその空間に二人の少女が入ってきた。
「あら、ルイズ。遅かったじゃない」
「キュルケ!えーとそっちの子は……」
そのうちの片方はキュルケだった。
もう片方の見慣れない少女に才人が言いよ淀んでいると……
「タバサ」
青みがかった髪と、ブルーの瞳を持った少女……タバサは自分の名前を短く伝える。
「俺は平賀才人だ。よろしくな」
「……ん」
タバサ頷くと手に持った本を読み始めた。
そこで才人は一つ疑問を感じた。キュルケは自分の使い魔であるサラマンダーを隣に連れているがこの少女の使い魔は何処であろう。
辺りを見渡しても見当たらなかったので、キュルケに尋ねる事にした。
「なあ、キュルケ。タバサの使い魔って何なんだ?」
「あっちにいるドラゴンよ」
キュルケがほらっと指をさした先には、一匹のウィンドドラゴンが佇んでいた。
「ドラゴンを使い魔にしたのか!スゲェじゃないか!」
「シルフィードって言うそうよ。勿論、誰かさんと違って襲われてないそうよ」
キュルケはそう言いながらルイズに意味ありげな視線を向ける。
「なによ!そんなに私の使い魔の事が可笑しいっていいたいの!」
「ルイズ、お……」
今度は最後まで聞く事なく高速の拳が才人のみずおちに放たれた。
才人は先ほどと同様に腹を抱え崩れ落ちる。
「だから、あんたの所為だっていってるでしょう」
ギロリっと才人を睨みつけるルイズ。
「す、すいません……」
ルイズの放つプレッシャーに耐えられず、才人が土下座を行なっていると、後ろの方から怒鳴り声が響いてきた。
「やっぱり一年生と付き合っていたのね!」
「どう言う事ですか、誰とも付き合ってないて言ってましたのに!」
声がした方向を振り向くと、そこには金色の巻き毛に、フリルのついたシャツを着た男性が、二人の女性に問い詰められていた。
「誰なんだあいつら?」
「あれは……ギーシュにモンモランシーに……たしか一年のケティって子よね」
ルイズは最初に男性を指さすと、次に金髪を縦ロールにした女性、最後に栗色の髪をした女性を指さした。
「あれは……二股をかけていたのがバレたのかしら」
「最低……」
ルイズとキュルケそしてタバサが軽蔑の視線で睨みつける中、才人はなぜか苦笑していた。
(言えない……俺が同じような事になった事があるなんて……)
才人は少し前の記憶、確か衣装店で服を買いに行った時の事が頭に浮かんできた。
『ねぇ、才人。コッチの方がいいよね?』
『なにを言っているのじゃ!才人、お主は我の方がいいじゃろ?』
リアとフィアのそれぞれが服を持って才人に問い詰めていた。
『その……二人とも落ち着けって……両方買うって選択も……』
『『それはダメ!』』
『お、おう』
二人の迫力に才人は後ずさってしまう。
『こうなったら……しかたないよね』
『ああ……そうじゃな』
『おい!ちょっと待てこんな所で魔法なんか使ったら……』
才人の台詞は最後まで発せられる事なく、店の中は爆音と爆風が包み込んだ。
あの後は大変だった。店が吹き飛ぶや、駆けつけて来た衛兵から逃げるはめになるわ、犯罪者として指名手配されるや、才人の中でも思い出したくない部類に入る思い出だった。と言うか彼女達が喧嘩してロクな目に合ったためしがない。
「ねぇ。なんであんたは苦笑してるの?まさか二股かけた事あるわけじゃないわよね」
先ほどから才人が苦笑している事に気づいたルイズはジト目で彼を見つめる。
「イ、イヤダナルイズサン。ソンナコトアルワケナイジャナイデスカ」
完全な棒読みで答える才人。
その答えを聞いて、三人は才人に絶対零度の視線を浴びせる。
「「うそつき!」」
そんな中、怒鳴り声が聞こえたのでその方向を振り向くとギーシュが両頬を赤く腫れている、おそらく引っ叩かれたのだろう。
二人の女性は倒れているギーシュに見向きもせず、どこかに去ってしまた。
「ふられたわね」
「ええ」
「……当然の報い」
「タバサって結構きつい事言うんだな……」
才人が昔の自分と姿を重ねていると、ギーシュが何事もなかったかのように立ち上がりメイドに一人にちょっかいを出し始めた。
「君かね。ケティに僕の居場所を教えたは」
「はい……場所を知りたがっていたので……」
ギーシュは大きくため息をつく。
「どうしてくれるんだね。君の配慮が足りないから、二人のレディの名誉が傷ついてしまった。一体どうしてくれるんだね?」
ようするに、ケティに場所を教えたお前のせいだ、と言いたいのだろうが、理不尽すぎる。しかしこの世界はメイジと平民の扱いの差は大きい世界だ。実際にギーシュがそう言っても止めるものはなく、自分に厄介ごとが来なくてよかったなどと考えている者が大勢だろう。
「わりぃ、ルイズ少し待っててくれ」
「え?ちょっと、あんた何処に行く気よ」
ルイズの声を無視して才人はギーシュの元に向かっていく。
才人はギーシュが許せなかった、二股をしていたまではいい。自分もに似たような事をした事がある。でもそれは自分の責任であり、他人の責任ではない。それなのに他人を責めるを許せなかったのである。
「おい。自分の二股を他人の所為にするなんて、情けなくないのか」
「なんだね君は?」
ギーシュは才人を見つめ、その正体に気づいたのかバカにしたような口調で話し始めた。
「ああ、君はルイズの使い魔かなるほど。僕に嫉妬しているからといって突っかかるのはやめてくれないかな」
「はぁ?何で俺がお前に嫉妬しないといけないんだよ」
「モテないんだろ?でなければ初対面の女性を襲ったりしないだろ」
ギーシュの言葉を聞いた周りの生徒達が笑い出す。
さすがの才人のこれには頭に来たのか言い返す。
「うるせえ!二人にふられたお前に言われたくねぇよ!」
「お前となんだ!君は貴族に対する礼儀と言うものを知らないようだね」
「あいにく俺の知ってる貴族ってのは、お前みたいな奴じゃなくてね」
「いいだろう、ならば僕が貴族に対する礼儀と言うものを教えてやる。ヴェストリの広場に来い」
ギーシュはそう言い残すと颯爽とその場を去っていった。
「あんた何やってんのよ!」
「心配すんんなって、おいヴェストリの広場って何処だ?」
才人は周りにいた生徒に声を掛けると、その中の一人が指をさして答えた。
「あっちだよ」
「ありがとな」
才人は指をさされた方向に向かっていった。