ゼロの使い魔・再び   作:駄文帝

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金曜日が忙しくパソコンに触れる時間がなかったため遅れてしまいました。申し訳ありません。



決戦

時を少し遡り、才人達とギーシュ達が合流する少し前……ルイズはワルドと一緒に物陰に隠れてリアがこの場に来るか、そして皇太子を襲おうとするか、そして襲った際に捕まえるためにここに待機していたのだ

 

「ねぇ、ワルド。まだ現れないって事はやっぱりあなたの勘違いだったじゃない」

 

「そうかも知れないね」

 

ワルドは皇太子に事前に決めていた合図を送り、それに気づいた皇太子はこちらに向かってきた。

 

「申し訳ない、どうやら僕の思い過ごしだったようだ」

 

「いや、別にかまわないよ。使い魔君のご主人様の疑いがはれただけでよしとしよう」

 

そう言って皇太子は踵を返すし、貴族との最後の打ち合わせに行こうとする。

 

「少しまってくれませんか、もう一つだけお願いしたい事があるのです」

 

「お願い?構わないが一体どういった用件かね」

 

ワルドは口の端を吊り上げほくそ笑んだ後、杖をすばやく抜くとそれで皇太子の胸を貫く。

 

「貴様の命だよ。ウェールズ」

 

「貴様……レコン・キスタ……」

 

「うそ……」

 

ワルドが皇太子から杖を抜くと、皇太子は胸から血を噴出し倒れてしまった。

そこでルイズは才人の話が本当だったと思い至る。

 

「ワルド、あなた……本当にレコン・キスタだったのね」

 

「ん?もしかしてあの使い魔に吹き込まれたのかね。馬鹿な奴だ、自分の使い魔の事を信じればよかったものを」

 

ワルドは杖をルイズに向け、微笑みながら近づいて来た。

ルイズは後ずさる事しかできない。ルイズには魔法を使う事なんて出来ないし、頼りになる使い魔はここにはいない。

 

「君には一緒に来てもらうよ」

 

ワルドが詠唱する中、ルイズは自虐的な笑みを浮かべる。

才人は本当のことを言っていたのだ。それなのに彼の話を聞かずにワルドを信じてこの様……あの使い魔は自分を信じない主人など見捨ててきっとあのご主人様の元にいくだろう。

やっと得た使い魔も……そして婚約者すらも失った自分。これで本当に自分には何もなくなった。文字どうり本物のゼロになったのだ……

ルイズには目の前で魔法を呟くワルドに抵抗する気力すらなかった。

 

「エア・ハンマー」

 

ワルドが完成させた呪文を呟くとルイズの小柄な体は壁に叩きつけられた。

背中と胸、両方に走る激痛と共に、徐々に視界が闇に覆われていく。

 

完全に意識が失われるその瞬間、扉を蹴破る轟音と自らの名前を叫ぶ男がうっすらと見えた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

一方のリアの方は物陰に身を隠し、敵が次々と放っていく魔法から身を守っていた。

十数人のメイジたちはタイミングを微妙にずらして魔法を放ってくるため、次々と身を守る障害物を変えなければいけず、魔法を詠唱する時間がなかったのだ。

 

「なんなのよ、あの数は!反撃する機会なんてまったくないじゃない!」

 

「厄介」

 

「リア、君の弓でどうにかできないのかい!?」

 

「風のメイジがいる以上、不意打ちでもないと弓矢は効果ないよ」

 

次々と放たれる魔法は、彼らが身を障害物などを着実に数を減らしており、このままでは身を隠す場所がなくなるのも時間の問題だろう。

 

そんな中、リアはどうするか悩んでいた。正直に言ってしまえばリアは自らの魔法を使えばこの状況を打破するため索は山ほどあった。

しかし彼らには自分の魔法を一回見られている。実際にタバサはあの後、自分を不信に見つめていた。これ以上使えば追求される可能性もある。

 

「うお!?」

 

悲鳴が聞こえてきた方を見ると、すでに隠れる場所をすべて壊されたギーシュが紙一重で魔法を外していた。

迷っている時間はない。彼女は覚悟を決めると素早く詠唱を開始、メイジたちの前に出た。

 

「血迷ったか!」

 

目の前に現れた彼女を殺そうとメイジたちは次々と魔法を放っていく。

 

「リフレクト」

 

彼女が魔法を発動させると彼女の前方に透明な膜が張られた。

そして魔法がその膜に触れた瞬間、方向を逆転して……いや、それだけでない。威力まで倍増して彼らにかえってきたのだ。

 

「なんだ!?この魔法!!」

 

虚無の魔法の一つ『リフレクト』その効果はエルフの使う先住魔法の『カウンター』に似ているが、効果が短時間、範囲が前方に限定される代わりに、受けた魔法による攻撃を数倍にして返す魔法。

 

その魔法を使われたレコン・キスタのメイジたちの数人が自らの放った魔法によって絶命し、何人かも手傷を負う。

 

「くっ!撤退するぞ!」

 

未知の魔法を受けたことに動揺したのか、生き残った十二人のメイジ達はばらばらに散って逃げ出し始めた。

 

「追撃」

 

その姿を見たタバサがそういった。

このままほっておけばサイトの元に向かってワルドを援護する可能性がある以上、確実に倒さなければいけないのだ。

 

キュルケとリアが首を振って同意を示すと彼女たちは散り散りになって敵を追いかけ始め。ギーシュもそれを見て慌てて続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ~~敵に合わなければいいが……」

 

リアやタバサ、キュルケといった面々が追撃をする中、完全に出遅れてしまって一人残されたギーシュは、とぼとぼと歩いていた。

やる気のなさそうに歩いて居るのは敵と戦いなかったからだ。

なにせ彼自身、敵も含めて自分が一番弱いことを自覚しているのだ。一体一で戦ったら確実に負けるであろう。

 

だからこそ、敵に合わないこと、そして味方のだれかと合流することを期待して歩いていたのだ。

すると物陰から人が出てきた。しかしそれはギーシュの望んだ仲間の姿ではなく敵の姿たっだ。

 

「お前は……あの時の一番弱そうなガキじゃねぇか」

 

「うるさい!!このギーシュ・ド・グラモンをなめるなよ!」

 

そういって杖を振ってワルキューレを8体作り出すギーシュ。しかし敵は余裕そうにいった。

 

「その程度か。運が良かったぜ。あの青髪のガキや白髪の姉ちゃんなら勝ち目がなかったからな」

 

そう言い切って杖を振ると、ワルキューレの近くの地面が盛り上が盛り上がり始めた。

そしてそこから出てきた石の槍がワルキューレを容易く貫いた。

 

「へ……」

 

あまりの光景にギーシュは絶句する。自分のワルキューレが一瞬で全滅……才人にやられたあの日と同じく目の前の光景が信じられなかった。

 

ギーシュが立ち尽くしていると敵は本当に詰まらなそうな顔をしながらため息をはいた。どうやら今のが全力だったらしい。ここまで弱いと弱い者いじめのようで殺す気すらも失せてしまう。しかし状況が状況、仲間を呼ばれるととても厄介だ。

 

彼は詠唱をはじめギーシュに止めを刺すための魔法を完成させる。

ギーシュめがけて放たれる石の槍……それが彼の体を貫く直前のことだった。

 

「危ない!!」

 

ギーシュの体は何者かに突き飛ばされた。彼がその方向を向くと白髪の女性……リアが彼の代わりに腹を槍に貫かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

現在、タバサとキュルケの二人は、レコン・キスタのメイジ五人と対峙していた。

先ほどの十数人を相手取った時に比べれば、弾幕は少なく魔法を詠唱し反撃する事もできるのだが、やはり人数の差は大きく、相手に有効なダメージを追わせること未だにできていない。

 

「ねぇ、やっぱり彼女に手伝ってもらったほうがよかったんじゃない」

 

キュルケは敵の放つ魔法を自らの魔法で相殺しながら、隣で同じように魔法で攻撃の相殺を行なっているタバサに言った。

 

つい先ほど、キュルケたちは敵と戦いながらもリアと合流したのだが、タバサが彼女になにやら呟くと、彼女はどこかに行ってしまったのだ。

タバサの言ったことなのだから何かしらの理由があるのだろうが、苦戦している身としては彼女に残って援護してほしかったのだ。

 

「ギーシュ」

 

「あ!!」

 

タバサからの答えを聞いたキュルケは声を上げた。

敵を追いかける事に夢中になっていて忘れてしまっていたがギーシュもいたのだった。

そして彼は実力の程が分からないリアを例外にすれば間違いなく最弱……敵に一体一ですら確実に負けてしまうだろう。

タバサはそれに気がついてリアをギーシュの救援に向かわせたのだろう。

 

「でも、その前に私達がやられちゃったら話しにならないわよ」

 

「問題ない……援護は頼んである」

 

誰に?キュルケがそう聞く前に、タバサは敵に背を向けると、ここまで来た道を正反対に走り出した。

 

「ちょ!?タバサ!待ちなさいよ!」

 

タバサの背中が遠ざかっていくのを見たキュルケは、タバサが逃げ出したことに気がつき急いで追いかけ始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギーシュと腹を貫かれたリアは物陰で壁に寄りかかって座っていた。。

あの後、ギーシュは腰が抜けてしまい、怪我人のリアに引きずられた物陰にまで移動していたのだ。

 

「やっぱり痛いな……えと確かここらへんに……」

 

するとリアは懐から小瓶を取り出すと中の液体をけがをした箇所にかけ始める。痛み止めと止血の秘薬だ。

その後彼女は包帯を取り出して、腹に巻き付けると、怪我をした箇所を手で押えながらゆっくりと立ち上がった。

 

「ど、どこにいくんだ」

 

「あいつを倒しに行くの。さっき会った時はタバサとキュルケが五人と戦ってた。あいつが合流すると厄介だからね」

 

「まて、僕じゃ敵を倒せないしタバサ達が勝って君があいつを倒しても残りの敵は六人いるんだぞ」

 

たとえタバサ達が勝ったとしても彼女達もボロボロだろう。そうならばあとは戦えるのは腹に穴が開いたリアだけ……どうやっても勝ち目がなかった。

しかし彼女はギーシュを安心させるように笑顔を向ける。

 

「倒した」

 

「へ……」

 

「六人は私が倒した。だからタバサ達が勝てばあいつ一人だけ」

 

その言葉がギーシュは信じられんかった。自分が一人も倒せないところを彼女が一人で、それも六人を短時間のうちに倒したと言うのだ。

 

「心配しなくていいよ。すぐに倒してくるから。そこでまってて」

 

そう言って彼女は傷口を押えながら、拙い足取りで物陰から出ようとする。

 

それを見ていてギーシュはとても悔しくなってきた。なにが姫殿下の力になるだ。自分は一体なにをやってるのだろう。

最初の襲撃のときは才人に助けられた。そしてフーケの際にはタバサがいなければ役に立たなかっただろう。

そして今、自分が足を引っ張って彼女に重傷を負わせた挙句、その彼女が戦おうしている。

 

ふざけるな!!これ以上足を引っ張ってたまるか。

もはや意地だった。勝ち目なんて考えていない。でも彼の貴族……男としての矜持がそれを許さなかった。

 

「僕が行く。だから君はここで休んでいてくれ」

 

ギーシュはそう言って立ち上がり、彼女が物陰から出て行くの肩に左手を乗せて止めると、物陰の奥に彼女を押し込んだ。

 

「で、でも……」

 

「何も問題ない。僕が彼らに真の貴族というものを見せつけてやろう」

 

そういって敵へ向かっていくギーシュ。それを見た彼女は怪我を治すためにの治癒の魔法を唱え始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギーシュは物陰から出ると、目の前に立ちふさがる敵を睨み付ける。

 

「さっきのガキじゃねか。そこをどきな、今はてめぇの相手をする暇はねぇんだよ。あの手負いの姉ちゃんは可能だったら生きて捕らえるように言われてんだ。あんな強い奴今を逃したら……」

 

そこまで言いかけた敵は言葉を止める。それは言っても無駄と理解したから。

いま目の前に居るギーシュは先ほどは違う、一言で言えば覚悟を決めた者がする目をしていた。

この短時間で何があったか分からない、しかしギーシュの事を自らの敵と認めた敵はギーシュに殺気を飛ばす。

 

先ほどまでのギーシュならそれでけで腰を抜かして倒れたかもしれない。

でも今は違う、彼にギーシュ・ド・グラモンとしての意地を見せつけてやらなければならないのだ。

 

「ワルキューレ」

 

そういって彼が杖を振ると先ほど同じように八体のゴーレムが現れる。しかしそれは彼の目の前だった。

敵は落胆してしまった。先ほど負けた時と同じだ。なにも学習をしていないと。いくら自分の近くに作っても結果変わるわけなどないのだ。

 

ワルキューレが剣を振り下ろす前に彼は魔法を放ちそれを釘刺しにする。しかし一つだけ予想外の事態が起こった。

彼が自らの杖にブレイドを掛け走りこんできたのだ。

 

「ちっ!」

 

自分に一直線に走ってくる彼に動揺して魔法の発動が遅れてしまう。

しかし後十歩ほどの距離だろうかそこで何とか魔法を完成させた。彼はギーシュに笑みを浮かべる、残念だったなと。

 

「アース・ウォール」

 

通常は土の壁を作り攻撃を防御する魔法……それを自らの足元の地面に使ったギーシュは盛り上がる土に押し退けられて宙を飛んだ。そして敵の作った石の槍は誰もいない土の壁を貫く。

 

ギーシュは敵を飛び越えて着地すると敵が魔法を発動するよりも早くブレイドで彼の首を切る。その切り口からは噴水のように血があふれ出し赤い水溜りを作る。

 

「これが青銅のギーシュだ。覚えておけ」

 

その声と当時に敵の視界は闇に閉ざされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ようやく追い詰めたぞ!!」

 

「どうするのタバサ!?もう逃げる場所はないわよ!!」

 

一方のタバサ達は、敵に追われ魔法で攻撃されながらも、才人達と会った場所……中庭まで逃げ込んでいた。

しかし城から中庭に入るための道は一つしかなく、そこには五人のレコン・キスタが立っている。つまるところ、彼女たちは退路をふさがれしまったのだ。

 

「逃げる場所を間違えたな。なれない場所だからしょうがないかも「逃げてない」はぁ?……」

 

何処が逃げていないのだろう、どう考えても、タバサは敵に背を向けて逃げていたはずだ。仲間のキュルケでさえも一度退却してからの奇襲をするものだと考えたいたくらいだ。

 

するとタバサは答えをしめす様に懐から笛を取り出した。

それを見たキュルケは首を傾げる。彼女との付き合いが長い自分でさえその笛を見た事がなかったからだ。

 

彼女は笛を口に当てると、ピュ~~~~~とその笛を鳴らす。

しかし、音が聞こえるだけで何も変化は起こらない。最初はなにかしらのマジック・アイテムかと思い耳を塞ぎでいた敵も何も起こらない分かると、馬鹿笑いを始める。

 

「なんだその笛は!なにも起こらないじゃないか!最後の演奏会でもしたかったのか!」

 

「タバサ!」

 

笛によって何かしらの事が起きると期待していたキュルケも非難の声を上げるが、それを意に介さず彼女は空を眺めていた。

 

「来た」

 

タバサがそういった瞬間、何か羽ばたく音が聞こえてきた。

それを不信に思った敵が空を見上げようとした瞬間だった。風を切る轟音と共に五人の中で一番後ろ城と繋がる門に居た敵が吹き飛ばされたのだ。吹き飛ばされた敵は壁に衝突、そのまま身体が潰され血や内臓を飛び散らせるといった物凄い状態になっていたのだが、そこに目を向けるものはいなかった。

 

敵もそしてキュルケも同じ方向を見つている。彼らが見つめる先、そこには巨大としか言い表せない竜……フィアがそこにいた。

 

「天井が邪魔だった」

 

タバサは淡々とそう言った。

そして敵はそれで気がついた、これほど巨大な竜だ室内では勿論だし外でも狭い場所では呼び出しても戦うことは出来ないだろう。だから広いこの中庭まで彼女は自分達を呼び寄せたのだ。それを自分達は追い詰めたものと思っていた。しかし結果はどうだろう、一つしかない逃げ道には巨大な竜が立っている。追い詰められたのは自分達のほうなのだ。

 

「こいつ等を倒せばいいんじゃな?」

 

そう言い放った竜はゆっくりと敵に近づいていく。

普通なら竜が言葉を話すこのに驚くのだろうが、巨大な生き物が殺気を放って近づいてくる恐怖に頭の中が塗りつぶされて、そんな事を考える余裕は敵になかった。

 

「う、ウィンド・カッター」

 

敵のうち一人が魔法を放つが、風の刃はキィンと甲高い音を鳴らすだけでフィアの鱗を貫通する事は出来ない。

その後も敵は次々に魔法を放っていくのだが、結果は全て同じで彼女の鱗に阻まれダメージを与える事は一切出来なかった。

 

「じょ、冗談じゃね!こんな化け物と戦うなんて聞いてねぇぞ!!」

 

そう言いながら一人がフライの魔法を唱え宙に浮かび上がる。空に飛んで逃げるつもりのだろう。陸路での逃げ道をふさがれているのだ、それしか逃げる方法はないだろう。それを見た他の敵も最初の敵に続き次々にそれに飛び上がる。

それは良手に見えたかも知れない。しかしフィアは竜、翼を持ち飛び上がる事が出来るのだ。フライの飛行速度と竜の飛行速度など比べるまでもない。冷静な思考を持っていれば空に逃げたところで無駄であることをすぐに気が付けただろう。しかし間の前の恐怖から逃げるのに必死は彼はそこまで考えが及ばなかったのだ。

 

そして彼らの命はフィアは翼を羽ばたかせた宙に浮く前に終わった。何十個もの小さな氷の槍が彼らに襲い掛かったのだ。フライを使用している敵は他の魔法を使うことが出来ず全身を氷の槍に貫かれて、終わりを遂げた。タバサが自らの得意な魔法の一つウィンディ・アイシクルを使ったのだ。

 

「いいとこだけ持っていくのは、やめてほしいの」

 

自らの獲物を持って行かれたフィアが不満げにタバサに言うが彼女は特に気にしていないようだ。

すると先ほどまで唖然としていたキュルケが声を上げた。

 

「た、タバサ!あなた一体何処でその笛を貰ったの!!」

 

「リアが別れる際にくれた」

 

「それじゃあ、逃げるときに言ってた援護って」

 

「彼女の事」

 

タバサの答えを聞いたキュルケは「話してくれてもいいじゃない」というと「話す暇がなかった」よタバサに返されてしまった。

まあ、戦闘中や、逃走時には確かに話す暇はなかった。

それでも納得できない顔をしていると声が聞こえてきた。

 

「敵は倒したんだ。二人とも凄いね」

 

声のした方向には腹に血に染まった包帯を巻いたリアと、彼女に肩を貸されて歩いているギーシュの姿がった。

 

「あんた、ケガ人に肩を貸されるって恥ずかくないの?」

 

「敵を倒したら気が抜けてちゃったんだって」

 

ギーシュが敵を倒した。その事実にキュルケとタバサが驚き問い詰めようとした時であった。

突如轟音と激しい揺れが起こったなのだ。

 

「これって……」

 

「攻撃が始まった?」

 

その轟音は一度だけはなく、何度の鳴り響き音は激しくなる一方で鳴り止む気配はない。

しかもそれだけでなく怒号まで聞こえて来た。

 

「みんなはフィア乗って」

 

リアはそう言うと城へと走り始めた。

 

「何処に?」

 

「サイトを迎えに行ってくる!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ルイズ!!」

 

才人は扉を蹴破りと、そこには壁に叩きつけられたルイズが目に入った。

そしてその近くにはワルドが杖を構えたままで立っている。

 

才人は胸の内から溢れ出そうになる怒りを必死に押える。戦いの中に怒りで視野を狭めるのはダメだと理解しているからだ。

 

「なぜここに……なるほど君のご主人様から聞いたのか……」

 

ワルドは少し悩むそぶりをしていたが、すぐに納得する。

 

「てめぇ……ルイズはお前の事……」

 

「知ってたさ。でも君の目が厳しくてね。こうするしか彼女を連れ出す方法がなかったんだよ」

 

それよりもと話を区切りワルドは話を続ける。

 

「レコン・キスタに来るはないかね。君は『虚無』について何かを知っているとフーケから聞いたもんでね。ルイズかリアの『虚無』と君の『虚無』の知識さえあれば世界すらも手に入れる事が出来るだろう。どうだ、いい話だとは思わないかね」

 

才人はその提案に何も答えない。だた顔を俯かせるだけだった。

 

「ルイズじゃないのかよ……」

 

「?」

 

「てめぇのほしいのはルイズじゃなくて、ルイズの『虚無』なのかよ!!」

 

するとワルドは腹を抱えて笑い出す。何を言ってるんだと。

 

「虚無がなければ、魔法を使えない唯の小娘……そんなのをほしがる奴なんているのかい?」

 

「ゆるさねぇ」

 

才人は背中に背負った日本刀を取り出すとワルドに構える。

 

「ん?なんでぇ、おめさん使い手か?」

 

すると刀が話し始めた。

刀が喋っている事実にワルド驚く中、才人は剣を床に叩きつけた。

 

「デルフ、久しぶりに会ったてのにボケちまったのか?」

 

「久しぶり?……おお!!相棒じゃねか、こりゃおでれーた。まさか相棒と会えるなんてよ。で、あの髭面が相棒の相手か?」

 

「ああ、風のスクウェアだ」

 

「なるほどな。ま、久々の戦いだ。肩慣らしはちょうどいい相手じゃねぇか」

 

そうだなっと才人は頷くとワルド目掛けて突っ込む。

一方の肩慣らしといわれ自らの誇りを傷つけられたワルドは、全力で相手にすることを決心する。

 

ワルドが詠唱を手早く完成させると、彼の周りには四人の分身が出来上がった。

『ユビキスタ』……風のメイジが最強といわれる所以であり、自分と同じ実力を持った分身を作りだす魔法だ。

 

しかし才人はそれに臆する事なく突き進む……途中でワルドたちの魔法が放たれるが、不可視のはずの風の魔法を彼はそれが見えているかの如くかわし近づくと、分身のうち一人を切り裂く。

 

「まだ、四人いるぞ!!」

 

「知ってるっての!!」

 

才人はその場を立ち退きながら右手に持ったナイフを一番遠くにいる分身に目掛けて投げつける。

本来であれば飛び道具など風のメイジには意味を成さないが、『ガンダールヴ』の人間を超えた力で投げつけられたそれは、分身の喉元に突き刺さり、また一人と消えていく。

 

「くっ!!」

 

ワルドが舌打ちをしながら、分身二人に才人の追撃をさせ、自らは詠唱を始める。

才人は近づいてきた分身の杖による攻撃を軽くいなし、すばやい斬撃で分身を切り刻む。

 

「まさか、あの時ですら本気ではなかったとは……」

 

まさかこの速さで分身を倒されとは思っても見なかった。

あの決闘時や宿を襲った時の事を考えればかなり時間がかせがると思ったが、彼はあの時本気を出してはいなかったのだろう。

しかし、もう詠唱は完成した。あの時のように運よく生き残ることもないだろう。

 

「これで終わりだ!!ライトニング・クラウド」

 

ワルドの杖の先から放たれた雷撃は一直線に才人へと向けって行く。

才人は外すそぶりすら見せず刀を構え真っ直ぐに突き進む……ワルドが自らの勝利を確信したときだった。

 

「デルフ!!」

 

「おうよ」

 

剣が魔法を切り裂いて……いや、吸収してしまったのだ。

予想外の自体に驚きを隠せないワルドに才人は駆け寄ると、刀を振り下ろした。

 

「っぐ!!」

 

ワルドは身を翻してかわそうとするも、才人の刀はワルドの左腕を切り落とす。

才人はすぐに左足でワルドを蹴り飛ばした。

 

「がぁ!!ま、まさかここまで強いとはな……伝説は伊達ではなかったと言う事か……いいさ、この勝負、君の勝ちだ。しかしすぐに五万の軍勢が押し寄せてくるだろう。君達はここまでだ」

 

ワルドは宙に浮かび上がるとそのままどこかへ行ってしまった。

 

「ルイズ!!」

 

それを確認した才人はルイズの元に駆け寄ると彼女の脈を計る。

とくん、とくん、っと弱々しくも心臓は動いている。口に手を当て息をしているが確認するがあまり息が感じられない。

 

才人は彼女の胴回りを触って確認すると、肋骨が何箇所か折れていた。恐らく折れた肋骨が肺に突き刺さっているのだろう。

どうすればと才人が悩んでいると声が聞こえた。

 

「サイト!!」

 

才人が蹴破ったドアからリアが慌てた様子で走りこんできた。

 

「もう、攻撃が始まったみたい!!早くこの場から逃げるよ!!」

 

「分かった」

 

才人は気絶してるルイズを背中に担ぐと外に出る。そこには一本のロープが垂らされていた。上を確認するとそのロープはフィアの背まで届いている。

 

才人はロープを使って自らの体ごとルイズを巻き付けると、同じようにロープを巻きつけたリアが叫ぶ

 

「フィア!!上昇して!!」

 

その声の後、フィアは上昇を開始して、ロープが巻きついた三人は宙に浮かび上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ルイズ!!大丈夫なの!?」

 

先に背中に乗っていたキュルケたちにロープを引っ張ってもらってフィアの背中にたどり着くと、ルイズの状態を見たキュルケが心配そうに駆け寄ってきた。

 

「骨が肺に刺さってる!早く治療しないとマズイ!」

 

そう言いながらサイトは自らの体に巻きついたロープを解くと、キュルケと一緒にルイズを介護し始める。

そんな中リアは、ロープをほどくとフィアの首を伝って頭の上に行くと、彼女に指示を飛ばす。

 

「フィア、あそこから逃げるよ」

 

リアの指をさした方向にフィアは移動を始めるが、ここら辺の一体はすでに敵の船に囲まれている。リアはその中でも比較的小さい船の方を指をさしていた。

 

「逃げるって、この竜なら砲撃を受けても大丈夫かも知れないが万が一僕たちに当たれば……」

 

「ひとたまりもない」

 

ギーシュの意見に同意する様にタバサも頷く。

しかしリアは平然としている。

 

「大丈夫だよ。近づかなければ、いいだけなんだから」

 

『?』

 

意味が分からないと首を傾げていると、ちょうど船に搭載されている大砲の射程の二倍ほどの距離で動きを止めた。

 

「フィア、やっちゃて」

 

するとフィアは大きく息を吸い込んだ後、巨大な炎も塊を口から吐き出した。その塊は勢いが衰えることなく船に直撃。木造の船を一瞬で火達磨にしてしまった。

そして数秒たってから、弾薬庫の火薬に引火したのだろう。大きな轟音と共に船は爆散していまった。

 

その様子を才人とリア以外が青ざめた様子で見ている中、フィアは船がなくなったことで出来た穴から抜け出そうとする。

他の船は先ほどの船の二の舞になるのがいやなのか、特に追撃する事もなくその場から飛び去るのを見守るだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

夢の中、ルイズは小船で顔を隠し泣いていた。

 

これで本当のゼロになった……自分を助け、気にかけてくれた使い魔は自分に愛想をつかしただろう。何時もここに来てくれた優しい子爵様はもういない。魔法も使えない。友人もいない……本当のゼロだ。

 

彼女はずっと夢の中に居たかった。夢の中なら優しい子爵様が、自分の使い魔が、ここへ向かえに来てくれるかも知れないからだ。

 

そんなルイズの希望に沿うように、水を掻き分ける音が聞こえてきた。才人が池の水にずぼ濡れになりながらもこちらに歩いてきたのだ。

 

「なにやってんだよ。みんな待ってるぜ」

 

「みんなってだれよ……私を待ってくれる人なんているの……」

 

自分で言い出して泣きそうになった。こんな事なら生意気な事を言わずに友人を作ればよかった。そしたら自分を助けに来てくれるかもしれない……でもルイズにはそんな友人は……

 

「はぁ、めんどくさいからこのまま連れて行くぞ」

 

「な、あああ、あんた、使い魔のくせして何してるのよ!!」

 

才人はルイズを掴み上げると、彼女が水に濡れないように注意しながら池の端に歩き始める。

 

「ちょっと、何処に連れてくのよ!!」

 

「どこって、ほらあそこだよ。見えてきただろ」

 

才人の言われた方向に目を向けるとそこには複数の人影があった。目を凝らしてみるとそこには何時ものように本を読むタバサが、挑発的な笑みで自分を見つめるキュルケが、テーブルを用意して紅茶を飲むギーシュがそこにはいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん……ここは?」

 

ルイズがうっすらと目を開けるとそこには、自分の心配そうに覗き込む才人やキュルケ、ギーシュやタバサの姿が目に入った。

 

「よかった、目が覚めたのね」

 

「心配した」

 

「まったくだ、すこし皆の気持ちを考えたまえ」

 

ルイズは慌てて当たりを見渡すと、自分が黒い地面の上……巨大な竜の上にいることに気がついた。

 

「ワルドは!?ウェールズ皇太子は!?」

 

「慌てんな」

 

いきなりの変わりように驚いて首をブンブンと振るルイズを才人は軽く小突いた。

 

「ワルドは俺が倒した。だから心配いらねぇよ」

 

「さ、サイトが……」

 

なんで才人が……自分は昨日あんな酷い事を言ったはずなのに……

どうして?ルイズがそんな疑問をぶつける前に真っ黒なローブを着た人物と共にフィアの頭の上に居たリアが近づいてきた。

 

「起きたんだ。心配したんだよ」

 

「ルイズ。あなた彼女に感謝しなさいよ。肺の骨が折れてたあんたを助けるために見た事もない秘薬を大量に使ってくれたのよ」

 

「あなたが……なんで?」

 

「そりゃ、目の前に困ってる人がいたら助けるでしょ?」

 

ルイズはまじまじと皆の姿をみる……全員が服を汚し、怪我をしている。リアに至っては腹に血に染まった包帯を巻いている。

 

「どうして……」

 

『?』

 

全員が首を傾げる。

 

「どうして助けにきたの……無視すればよかったじゃない」

 

すると才人はルイズの頭の上に拳を下ろした。ルイズが涙目なりながらも抗議の視線をぶつける。

 

「なのな、友達が困ってたら助けるのが当たり前だろ」

 

「え……」

 

ルイズが視線を向けると、キュルケは「友達って言うより悪友だけどね」といい、タバサは何も言わずに頷き、ギーシュは「僕がか弱き女性を見捨てると思っているのか」などとほざいている。

 

ルイズは目元が熱くなった。自分はゼロではなかったのだ。自分を心配して助けに来てくれる友人がいたのだ。

 

「そして俺はお前の使い魔だろ」

 

ルイズは信じられない物を見たように才人を見つめる。

使い魔?……あんな酷い事を言ったのに彼はそう言ってくれたのだ。

 

「ルイズ?」

 

「気分が悪いの?」

 

才人とリアの二人が自分を心配そうに覗き込んできた。ルイズはなんでもないといって涙を拭いてみんな向き合う。

 

「ありがとう……」

 

満面の笑みを浮かべるルイズにその場にいた者全員が目を奪われた。




これで第二章は終わりです。
どうだったでしょうか?感想にかいてもらえると嬉しいです。
それと前も書いたと思うのですが12月までは忙しく投稿することのできない状態が続くと思います。できるだけ早く課題を終わらせて投稿するようにはしたいと思いますのでそれまで待っていてくれると嬉しいです。

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