ゼロの使い魔・再び   作:駄文帝

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皇太子

「なあ、あれがルイズたちの乗った船で間違いないんだな」

 

「間違いないのね。シルフィはちゃんとこの目でみたもの」

 

才人は目の前の船を見た。

シルフィードが指している船は軍艦と思われ船に曳航せれていた。

 

(軍艦が意味もなく商船をつかまえるハズがねぇ……旗を掲げていない事を考えると空賊か……)

 

「サイト……お姉さまは大丈夫なの?」

 

シルフィードは心配そうに船を見つめていた。

それを見た才人はシルフィードの頭を軽く撫でた。

 

「心配すんなって、貴族だと分かって手をだす奴はめったにいねぇよ」

 

貴族を捕まえれば……特にルイズたちの年頃の娘を捕まえればたんまりと身代金の要求ができる事を知っている空賊が簡単に彼女等を傷つける事はないだろう。

才人はそれを知っているがために冷静にルイズたちを助けだす作戦を考え始めた。

 

(正面突破は……ダメだな、敵の数が分からねぇ。あの中にメイジが大量にいたら最悪だ……となると……潜入しかないんだが……どうやってあの船に入るかな……)

 

船に乗るには船縁に近づくしかないがそんな事をすれば賊に見つかってしまうだろう。賊に見つからないように船に入るためには……

 

「シルフィード。先住魔法で雲を出せるか?」

 

「先住魔法じゃなくて精霊の力と言ってほしいのね」

 

シルフィードは不機嫌そうにそういった。そういえば普通は先住魔法と呼ぶと大抵の者が気を悪くすることを思い出す才人。自分の知り合いがあまりに気にしなかったから忘れていたのだ。

 

「悪かったから機嫌直せって、それとさっき言った事は出来るのか?」

 

才人は頭を下げながらそう言うと、シルフィードは頷いた。

 

「出来るけど、それを使って何をするのね?」

 

「雲に隠れて船に近づくんだよ。さすがに雲に隠れれば相手も気づかないだろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、僕の人生はここで終わるんだ。せめて戦場で華やかに散って死にたかったのだが……」

 

「馬鹿な事言ってないで、ここから出る方法を考えなさい」

 

あの後、船室にに杖を取り上げられた上で放り込まれた。ギーシュが芝居掛かった口調でそう言っていると、キュルケが声に怒りをにじませながら突っ込んだ。

ルイズは部屋の端でうずくまっており、ワルドは積荷を興味ぶかそうに眺めていた。タバサは何時ものごとく本を読んでいる。

 

「じゃあどうすればいいんだね。杖は取り上げられてしまったのだぞ。」

 

「だから、それを今から考えるじゃない」

 

キュルケはそう言って室内を見渡すが、酒樽や穀物の入った袋ばかりで、武器ななりそうなものは見あたらなかった。

 

「ねぇ、タバサ。ここから脱出するいい方法はない?」

 

「ない」

 

タバサは本から目を放すことなくそういった。

すると手にスープを持った太っちょの男が現れた。

 

「飯だ」

 

ギーシュがそれを受け取ろうするが、男がその皿をひょいと持ち上げた。

 

「質問に答えてからだ」

 

部屋の端にうずくまっていた、ルイズが立ち上がって、男の正面に立った。

 

「お前たち、アルビオンの何の用だ?」

 

「旅行よ」

 

ルイズは腰に手を当てて、毅然とした声で言った。

 

「他国の貴族が、いまどきのアルビオンに旅行?いったい、なにを見物するつもりだい?」

 

「そんなこと、あなたに言う必要はないわ」

 

「ちいせえのに、たいした勇気だな」

 

空賊は皿と水を入ったコップを床に置いた後、部屋を出て行った。

ギーシュはそれを取ると皆の前に持ってきたが、ルイズだけはそっぽを向いていた。

 

「ルイズ、食べないの?」

 

「あんな連中の寄越したスープなんか飲めないわ」

 

「食べないと、体がもたないぞ」

 

ワルドがそう言うと、ルイズはしぶしぶスープを手に取った。五人で一つの皿からスープを飲むと、やる事がなくなってしまい、おのおのがそれぞれの方法で暇を潰し始めた。

 

スープを飲み終わってから30分程すると、今度は痩せこけた空賊が現れた。

 

「おめぇらは、もしかしてアルビオンの貴族かい?」

 

ルイズたちは答えない。

 

「おいおい、黙ってたんじゃわからねぇよ。でも俺達は貴族派の皆様と同盟を結んでるだ。もし貴族派だったら港まで送ってやるぞ」

 

それにキュルケとギーシュはほっと胸を撫で下ろした。ここで嘘でも貴族派と言ってしまえばやり過ごせるのだ。

しかしルイズは目の前の男を真っ直ぐと見つめる。

 

「薄汚いアルビオンの反乱軍と同じにしないでくれる。私は王党派への使いよ。まだアルビオンの正当な政府は王室、私達はそこにトリステインを代表して向かうのだから、大使ね。大使としての扱いを要求するわ」

 

それを聞いた空賊は目の前の人物の正気なのかを疑った。

ここで嘘を言ってしまえば助かるのだ。それなのに彼女は嘘を言わないのだ。

 

「正直なのは、確かに美徳だが、お前たち、だだじゃすまないぞ」

 

「ああ、そうだな…………お前がな!」

 

突如後ろから聞こえた来た声に驚いて、慌てて後ろを向こうとするが、その前に後ろに立った人物が股の間を蹴り上げた。

男の急所を蹴られた、空賊は白目を向いて、床に崩れ落ち気絶した。ちなみにギーシュはその痛みを想像したのか、両手を股に当てていた。

 

「よ。大丈夫みてぇだな」

 

「サイト!」

 

倒れた空賊の後ろには才人が立っていた。

 

「ダーリン!どうやってここまで来たの!?」

 

「タバサのシルフィードでな」

 

才人の言葉を聞いた皆がタバサの方に振り向くと、手でピースを作っていた。

 

「あんた。サイトが助けにくるの知ってたのね」

 

「どうして教えてくれなかったんだね」

 

ルイズとギーシュがタバサに詰め寄るが、タバサは「顔でばれる」と一言で返され、実際に事実なので言い返せなかった。

 

「どうやって、脱出するんだね」

 

「甲板上の賊を無力化させて、シルフィードを待機させているのでそこから逃げましょう」

 

ワルドは頷いて、才人が先導する後をついていく。ルイズたちもそれについて行くが、あともう少しで船外に出れるところで、目の前に空賊の頭が現れた。

 

「なにやら、静かだと思ってみれば……まさか仲間がほかにもいたのか」

 

ルイズは才人を睨みつけた。この賊の頭は才人が賊を無力化したことで出てきた……つまりは才人のせいだ。

ルイズに非難の視線を当てられている事に気づいた才人は苦笑しながら口を開いた。

 

「ルイズ……さすがにこれを俺のせいにするなよ……な!」

 

「…………っ!!」

 

才人は喋りながらナイフを抜くと、一瞬で頭に近づいた。完全に虚を突かれた形になった頭を才人の拳で殴り飛ばされてしまう。そのまま才人は追撃を加えようと髪を掴み引き寄せるようとすると……

 

「は?」

 

髪が引っこ抜けた。よく髪を見てみると、それはカツラだった。

才人は頭に視線を向けると、金髪の髪の上に手を乗せている頭の姿が見えた。

 

「あの……これはだな……威厳が「シルフィード、後ろがすきだらけだ。やっちまえ」なんだと!」

 

頭が慌てて後ろを振り向くが、そこには何者の姿が見えなかった。その隙に近づいた才人が髭を掴んで引っ張ると、びりびりっと音を立てて髭が取れた。付け髭だったようだ。

才人は空賊の頭を良く見てみると指に目が止まった。その指には大きな緑色に石をつけた指輪をつけていた。才人はそれを見てこの人物の正体を確信した。

 

「お前、ウェールズ皇太子だろ。その指にはめている『風のルビー』は代々アルビオン王家に伝わるものだ」

 

才人の言葉にその場に居た全員が目を見開いた。

そして頭が才人に反論する前に、表に出てきたルイズが頭に跪いきワルドもそれに続いた。

 

「アンリエッタ女王陛下から密書を預かって参りました、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールです」

 

「私はトリステイン王国魔法衛士隊、グリフォン隊隊長、ワルド子爵です。アンリエッタ姫殿下から護衛を頼まれました」

 

空賊の頭はそれを見ると「ここにいる者は信頼に値するのか」と問うと、ルイズとワルドはゆっくり頷いた。

 

「ならば私も名乗るとしよう。アルビオン王国皇太子、ウェールズ・テューダーだ」

 

ウェールズは微笑みながら言った。

 

「ようこそアルビオン王国へ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、密書を渡したルイズたちは、手紙がニーカッスルの城にあるのでそのまま船に乗ってニーカッスルまで向かう事になった。

 

「しっかし、ウェールズ皇太子に密書を渡す任務だったとはね」

 

「キュルケ……」

 

「分かってるわよ。ほかの誰にもいわないわ。ねぇ、タバサ」

 

話を振られたタバサはすぐに頷いた。

それを見たルイズは才人に視線を向ける。

 

「あんた、剣はどうしたのよ」

 

今の才人は、ルイズに買ってもらった剣ではなく、船に乗った人から盗んだ曲刀を腰につけていた。

 

「わりぃ、『ライトニング・クラウド』を受けた時に粉々になっちまた」

 

ルイズとキュルケは目を見開いて怒鳴った。

 

「ダーリン!『ライトニング・クラウド』ってへたなメイジなら一撃必殺ものよ!よく生きてたわね……」

 

「あんた、ちょっと腕を見せなさい」

 

ルイズは慌てて才人の腕をまくると、そこは赤く腫れた腕があった。

 

「その怪我……大丈夫なの……」

 

「水の秘薬は塗ってあっから気にすんなって」

 

ルイズが心配そうに見つめるなか、才人は安心させるように笑みを浮かべてそういった。

すると、ギーシュが慌ててこちらに転がりこんで来た。その場に居た全員がギーシュの慌てようからただ事ではないと感じ、彼に見え合わせる。

 

「たたた、大変だ……りゅ、竜が見えたんだ……」

 

ギーシュか震えた声でそう言った。

驚かせやがって、全員がおう思っい、ため息を吐いた。

 

「なによ。野生の竜なんて、珍しいものじゃないでしょ」

 

「そうよ。ギーシュあまりおどろかせないでくれる」

 

ルイズとキュルケがそう言うと、タバサも頷くが、ギーシュは青ざめた顔で叫んだ。

 

「大きすぎるんだよ!!」

 

ルイズたちはギーシュが指をさした方向を向くと言葉を失ってしまった。

そこには黒い鱗を持った火竜が空を飛んでいた。しかしその大きさが問題だった。その竜の体長は50メートル近くあったのだ。しかもその竜は徐々にこちらの船に近づいてきているのだ。

 

「なんなのよ!あの竜!」

 

「僕が知るわけないだろう!」

 

ルイズが叫びだすと同時に、船内も慌しくなり始めた。

 

「おい!あの竜こっちに近づいて来てるぞ!」

 

「大砲で攻撃しますか!」

 

「そんなであの竜に効くと思うのか!」

 

その声に気づいたのか、船内に入っていたウェールズとワルドが甲板に現れた。

 

「なんの騒ぎだ」

 

「皇太子!それが巨大な竜が!」

 

「巨大な竜だと!?」

 

ウェールズが声を上げたと同時に船の目の前に巨大な竜が立ち塞がった。その巨体は凄まじく、ひとたびこの竜に襲われたら、軍艦と言えども粉々にされるであろう。

 

ルイズたちが恐怖から体を震わせていると、竜を見たときから呆然としていた才人が呟いた。

 

「……フィア」

 

「フィア?」

 

その声が聞こえたルイズが首を傾げてると同時に、ローブを着込んだ人が巨大な竜から飛び降り、船の甲板に着地した。

 

「今から私の指示に従ってもらう」

 

そういった人物はローブのから顔が見え、白い髪に深緑の瞳をした女性であった。

 

「なんだと!」

 

一人の船員が剣を手に持ち近づこうとするが、その前にカンッと言う音と共に剣が飛んでいた。女性を見ると右手に弓を持って構えていた。矢で剣を弾き飛ばしたのだろう

 

「もう一度言うよ。私の指示に従ってもらう」

 

言葉を聞いたルイズ達は底知れぬ不安に襲われた。

彼女がなんて要求するか分からないからだ。もしかするとこの船にいる人を奴隷として売り飛ばす気のなかも知れないし、目の前に居る巨大な竜のエサにするのかもしれない。

時間を増すごとに膨らむ恐怖に顔を青くすると、それに気づいた女性は慌て言った。

 

「そ、そんな顔しないで、ちょっと聞きたいことがあって、それを聞いたらすぐにいなくなるからさ」

 

それを聞いた瞬間、船にいた者は安堵の息をもらした。

 

「え~とそれじゃあ…………うそ……」

 

彼女は辺りを見渡して話を聞く人を探していると、ある一点を向いた瞬間、動きが止まった。

 

「……サイト?」

 

女性が信じられないといった顔をして声を震わせながら呟いた。

ルイズたちがサイトを見つめると、固まっていた才人はゆっくりと呟いた。

 

「……リア?」

 


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