ゼロの使い魔・再び   作:駄文帝

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港町へ

才人はあの後ルイズの任務の内容を聞いてみたが、簡単に纏めると、姫様がゲルマニアの皇帝と婚を結ぶ事になったのだが、今のアルビオンのほとんどを統治している者達がそれを良く思っていないらしい。

そして厄介な事に、その結婚をさまたげる手紙があるらしく、それを取り戻してきてほしいとのことだった。

 

才人たちはその翌朝、アルビオンに向かうために馬に鞍をつけていた。

 

「なぁ、ルイズ?」

 

「何よ」

 

ルイズは顔を振り返らずの答えた。

 

「お前と、お姫様ってどんな関係なんだ?」

 

「お姫様が幼い時に、遊び相手をさせてもらったのよ」

 

ルイズは昔を懐かしむように目を閉じて答えた。

才人は一瞬驚いたが、どうりで姫様と親しいわけだと納得のできた。

その後は大して話すこともないので、黙々と作業を続けていると、ギーシュが困ったように言った。

 

「お願いがあるんだが……」

 

「なんだよ」

 

才人は身体のあちこちに包帯を巻いた(昨日才人にぼこられた所為)ギーシュに振り返った。

 

「使い魔を連れて行きたいんだ」

 

「別にいいと思うけど……何処にいるんだ?」

 

「ここさ」

 

才人はきょろきょろと辺りを見渡してもその姿がなくギーシュに尋ねると、彼は地面を指さした。

 

「いないじゃなの」

 

ルイズがそう言うと、ギーシュは笑みを浮かべて足で地面を叩いた。

すると、地面がもこもこと盛り上がり、茶色の大きな生き物が顔を出した。

 

「ヴェルダンデ!ああ!僕の可愛いヴェルダンデ!」

 

「ジャイアントモールかよ……」

 

ギーシュが地面から現れた巨大なモグラに抱きついているのをみて、才人は呆れた口調で言った。

 

「ねぇ、ギーシュ。私達はアルビオンに行くのよ。地面を掘って進む生き物を連れて行けるはずないじゃない」

 

そう今回行くアルビオンは宙に浮かぶ浮遊大陸……土の中を進む生き物がいけるはずがないのだ。

 

「まぁ、いいじゃないか。いざとなったら港に置いていけばいいだけだろ」

 

ルイズは納得しかねたが、しぶしぶ顔を振って認めた。

それを見たギーシュは笑顔で才人に抱きつこうとしたが、才人は難なくかわした。

 

そして荷物が積み終わり、もうすぐ出発するといった時に一人の羽帽子を被った男がグリフィンにまたがって現れた。

たしかあの男は昨日、ルイズが変になった原因の男だった。

 

「始めまして、女王陛下の魔法衛士隊、グリフォン隊隊長、ワルド子爵だ」

 

ワルドはそう言ってグリフィンから降りた後、帽子を取って一礼した。

 

「君達だけでは、心もとないからね。僕が同行する事になったんだ」

 

ワルドは自分がなぜ来たのかを説明すると、ルイズの視線を向けた。

 

「久しぶりだな!ルイズ!僕のルイズ!」

 

「ワルドさま……」

 

「僕の」といった言葉に驚いた才人はルイズに振る向くと、ルイズは顔を赤く染めて、震えた声を上げていた。

ワイドは人懐こいい笑みを浮かべながら、ルイズに駆け寄って抱え上げた。

 

「お久しぶりでございます」

 

「相変わらず軽いな君は!まるで羽のようだ!」

 

「お恥ずかしいですわ」

 

「彼らを紹介してくれたまえ」

 

ワルドは地面にルイズを降ろすと、ルイズの二人に指をさして尋ねた。

 

「あ、はい……ギーシュ・ド・グラモンと、使い魔のサイトです」

 

ルイズは二人の指をさしながら言った。ギーシュと才人は頭を下げた。

 

「君がルイズの使い魔かい?人とは思わなかったな」

 

ワルドが気さくな感じで才人に近寄った。

 

「僕の婚約者がお世話になっているよ」

 

「それは……へ?婚約者!!」

 

才人は驚きのあまり声を上げてしまった。しかしすぐに冷静に戻った才人は口を自分の両手で塞いだ。

才人は昔の知り合いくらいだろうと思ってあり、婚約者だというのはまったく想定外だった。確認をとる意味でルイズの視線を送ると、ルイズは首を振って肯定した。

 

「あっはっは!すまない、驚かせる気はなかったんだがね」

 

才人の様子を見たワルドは笑いながら笑顔を浮かべそういった。

その後、ワルドはグリフォンの元に戻ると、跨ってルイズに手招きした。

 

「おいで、ルイズ」

 

ルイズはちょっとためらった後、頷いた。そしてワルドの元に行くと、ワルドが跨っているグリフォンの跨った。

 

「では諸君!出発だ!」

 

グリフォンが駆け出すと、感動した面持ちのギーシュがそれに続いた。才人はその二人の後を着いていった。

 

 

 

 

 

 

 

「もう半日以上、走りっぱなしだ。どうなってるんだ。君も含めてだが化け物にしか見えないよ」

 

ぐったりと馬に身体を預けているギーシュがワルドを怪訝そうに見つめている才人に向かってそういった。

才人はその言葉を聞くとギーシュに近寄ると頭を軽く叩く。

 

「人を化け物扱いするな」

 

「でも、普通は疲れるだろう。なぜ君はなんともないんだ」

 

「なんでって……体力がなきゃ死ぬって状態だったからかな……」

 

才人は遠い目をしながら昔を思い出してみた。

自分が体力がついた原因はやはり、衛兵からの逃亡だっただろう。ひどかった時には一週間もの間、衛兵から逃げ回った事もある。

原因は誰かと言うと、ほとんどの場合でフィアだった。彼女は小言を言われただけで切れて店を吹き飛ばすのだ。

そのおかげで才人は体力ついたが、やはり釈然としない。今度あったら一発殴っておこうと思った才人は拳を握っていると、それに気づいたギーシュが慌てて話題転換をこころみた。

 

「そ、そんな事よりもルイズの事はいいのか?」

 

「へ?なんの事だ」

 

才人は一体何の事か分からないと言った表情をしていると、ギーシュはため息をついた後に言った。

 

「ルイズがあのワルド子爵の婚約者だって事だよ」

 

「それがどうしたんだ?」

 

「はぁ……君はルイズがワルドと結婚してもいいのか?それが嫌だから見つめていたんじゃないのかね?」

 

「それはルイズが決める事だろ?ルイズがあいつと結婚したいってんなら、俺は別にとめねぇよ」

 

才人はそう言うと、前を向いて馬の運転に集中しようとするが再びギーシュに声を掛けられた。

 

「もし、ルイズが結婚を嫌がったらどうするんだね?」

 

ギーシュがそう質問すると才人は迷いなく答える。

 

「そんなの決まってるだろ。たとえ国を相手することになっても止めてやるよ」

 

 

 

 

 

 

馬を何度も変えて飛ばしたかいもあってか、才人たちは、その日の夜中にラ・ロシェールの入り口についた。

 

月夜に浮かぶ、険しい岩山の中を縫うように進むと、峡谷に挟まれるようにして街がみえた。街道沿いに、岩をうがって造られた建物がなら並んでいる。

 

あともう少しで街に、といったところで、才人たちに跨った馬めがけて、崖の上から松明が投げ込まれた。

 

「なんだ!」

 

ギーシュが怒鳴っていると、戦の訓練を受けていない馬は松明の驚き、前足を高々と上げてしまう。

才人はその途中で馬から飛び降り地面に着地するが、ギーシュは吹き飛ばされてしまう。

そこを狙って崖の上から何本もの矢が降り注いだ。

 

「奇襲だ!」

 

ギーシュが喚いている間にも矢が近づき、ギーシュに刺さる……ことはなくその前に剣を持った才人が矢を叩き落した。

才人はちらりとルイズの方を見てワルドが守っている事を確認した後、ルーンを赤色に輝かせ、崖の上に一跳びで上がった。

 

「おい、うそだろ!」

 

「コイツ、崖を飛んで上がったぞ!」

 

襲撃者が驚いているうちに、才人は剣の峰と拳を使って次々と襲撃者を倒していく。こちらに敵が来ることを想定してなかったのか、弓しか持っていなかったため早く制圧が終わった。

 

「後は向かい側の……」

 

才人が崖の向かい側に残っている敵を倒そうと、そちらを向くと、小型の竜巻が舞い起こり、敵を吹き飛ばした。

才人が上を見上げるとそこには見慣れた幻獣が飛んでいるのが分かった。

 

「シルフィード!」

 

それはタバサの風竜であった。

シルフィードはサイトが居る方の崖の上に降りると、キュルケとタバサが飛び降りてきた。

 

「お待たせ」

 

「お待たせじゃないわよ!」

 

怒鳴り声がした方向を振る向くと、ワルドとルイズ、ついでにギーシュを乗せたグリフォンが崖の上に飛んでやってきた。

 

「なによ、助けに来て上げたのに、その言い草はないんじゃないの」

 

「あんたの助けなんて必要なかったわよ!」

 

「なんですって!」

 

才人は長い言い争いを始めたルイズとキュルケを無視した。もうこうなったらほっておくのが一番いいと理解しているからだ。

キュルケに叩き起こされたためだろうか、パジャマ姿のタバサに才人は駆け寄った。

 

「ありがとうな。助かったよ」

 

「気しなくていい」

 

タバサは気に留めた様子もなく淡々とかえした。

 

「いやそれでも俺の気がすまないからさ。なにかあったらいってくれよ、出来る限りの力になるからさ」

 

「……わかった」

 

タバサはコクっと頷いた。

 

「ダーリン!」

 

「うわっ!」

 

キュルケがいきなり抱きついてきたのに驚いて、才人は声を上げてしまう。

 

「どうしたんだよ!」

 

「だって、ワルドって男よりもダーリンの方がかっこいいんですもの」

 

才人は察してしまった。おそらくワルドに振られたんだろう。まあ、婚約者が目の前にいるのに、キュルケと付き合う事など無理な話だろう。

 

「こら」

 

才人はキュルケを引き剥がすと軽く額にデコピンをした。

 

「で、こいつ等どうしますか?」

 

才人は盗賊を指さしてワルドに尋ねた。

 

「そうだね。ギーシュ君の調べでは物取りだといっているし。捨て置いてもいいんじゃないかな」

 

「それじゃ、俺がこいつ等の処理をしておきますので、先に行っててください」

 

才人がそう言うとワルドは頷いて言った。

 

「わかった。今日はもう遅いから、一泊した後、朝一の便でアルビオンにわたろうと思う。使い魔君は処理が終わったら宿に来るといい」

 

ワルドはそう言って、ルイズとギーシュを乗せたグリフォンで崖の下に下りていった。

 

「お前らはいいのか?」

 

才人はこの場に残ったキュルケとタバサに尋ねた。

 

「ダーリンの近くにいた方がおもしろそうだし」

 

タバサに振り向くと、シルフィードに指をさしていた。おそらく宿まで連れて行くといいたいんだろう。心やさしい優しい娘だと才人が思っていると、キュルケが口を開いた。

 

「で、どうするの?」

 

「こいつ等の雇い主を聞きだすんだよ」

 

「へ?こいつ等、物取りじゃないの?」

 

キュルケが驚いた口調でそういった。

 

「よく考えてみろ。こんな街の近くで盗みをする奴がいるか?それとタバサは恐らく気づいてぞ」

 

キュルケはあっと声を上げた。その後、タバサを見ると、コクコクと頷いて肯定した。

なんで言わなかったのかと聞いてみると「聞かれなかった」の一言で返された。

 

才人はその間に賊に近づくと、賊の目の前に小瓶を取り出して、賊にそれをみせた。

 

「この中には、永久に人の心を壊す魔法の秘薬が入っている。これから俺の質問に答えない奴はこれを飲ませていく。まぁ心配するな、心が壊れるだけで死にはしねぇから」

 

才人はそう言って見せしめの意味も含めて賊の一人にクスリを飲ませようとしか時、賊の中に一人が声を上げた。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ!何でも話す!だからそれをしまってくれ!」

 

賊はの恐らく頭と思われる人物だろう。

身なりが一番いい男がそう言いだした。

 

「じゃあ、お前たちの雇い主は誰なんだ?」

 

「一人は緑髪のメイジの女だった!もう一人は仮面を被っていたから顔までは分からなかったがあの声はたぶん男だ!」

 

それを聞いた才人はタバサとキュルケの元に言った。

 

「ダーリン……そんな恐ろしい秘薬を持ってたのね……」

 

「いや。これはただ水の秘薬だぞ」

 

それを聞いたキュルケは安心したのか息をつくが、才人は懐から別の小瓶をとりだし。

 

「本物はこっち」

 

キュルケが大きく咳をついた。

 

「あるなら、そっちを使いなさい!」

 

それを聞いた才人は苦笑しながらも答える。

 

「この秘薬は専門の解毒剤がないと一生とけないんだ。だから……タバサ!?」

 

才人はいきなり目を見開いて自分に駆け寄ってきたタバサに気づいて驚きの声を上げた。

 

「その解毒剤は何処にあるの!!」

 

それは普段のタバサからは考えられない気迫だった。

 

「ちょっと、タバサどうしたのよ!普段のあなたらしくないわよ!」

 

キュルケが慌てて、タバサを羽交い絞めにして引き離す。

 

「どうしてんだ?キュルケの言うとおり、何時ものお前らしくないぞ」

 

才人が知る限りここまでタバサが感情を表に出すのは初めてのとだった。

キュルケに確認を取ると彼女も頷いて返した。付き合いの長いキュルケも見た事がなかったのだろう。

 

しばらくするとタバサも落ち着きを取りも戻したのか、こちらに頭を下げて謝ってきた。そして解毒剤を持ってかを聞いてきた。

 

「わりぃけど、解毒剤は俺は持ってないんだ。造り方も前のご主人様なら知ってると思うが、今は何処にいるか……そもそも生きているかどうかすら分からないんだ」

 

「前のご主人様?」

 

キュルケが首を傾げた。

 

「二人にはまだ言ってなかったけど、俺はルイズに召喚される前に別の人の使い魔をやっていた事があるんだ。さっきの秘薬はそのご主人様にもらったものなんだよ」

 

彼女は虚無の魔法以外にも精霊の力を使った秘薬作りも得意としていた。才人が今持っている秘薬は別れの際に餞別としてもらったものと、前に貰ったままで使わずじまいになったもの。それしか彼は持っていなかったのだ。

 

それを聞いたタバサは顔に落胆の色を浮かばせた。

 

「会ったら頼んでみるから、そんな顔すんなよ」


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