カードキャプターさくら&リリカルなのはA's〜Love in their hearts〜   作:1202155@

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Exelion/Assault

 琥珀色の結界が夜を照らし、黄昏の空間に変わっている。その下では、白いドレスに身を包み、その手に姿の変わった相棒を持つ、高町なのはの姿と、黒いマントを身につけた、フェイト・テスタロッサの姿があった。

 その二人の前には、シグナム、ヴィータ、ザフィーラが立っていた。こちらは、いつでも動けるように、それぞれの愛機を構えている。

 高層のビルとビルの屋上に立つ、戦士達。彼女達の溝を表すかのように、深い谷間を作っていた。

 暫くしてシグナムは悲しげな視線を二人に向け、諭すように言う。

 

「我々はもう、おまえ達に用はない。早々に立ち去ってくれるといいのだが……」

「いいえ。私達は戦いに来たわけじゃないんです」

「なんだと?」

 

 予想していた答えと違う答えにシグナムは少し、驚いて聞き返す。それはヴィータも同じなようで、すかさず、その理由を聞き返した。

 

「じゃぁ、何だってんだよっ!やる気の新武装ひっ下げて来て、いかにもやる気満々じゃねーか!」

「なっ?!いきなり襲ってきた子がそれを言う!?」

「……うっせぇ!ちびガキ!ベルカの諺にこんなもんがあるんだよ!」

 

 ヴィータの言葉になのはが言い返すと、ヴィータは誇らしげに胸を張って諺について話す。

 そんな彼女の態度を見て、ザフィーラとシグナムは密かに念話をするのだった。

 

(ザフィーラ、ヴィータは確か……)

(あぁ。勉強が苦手だ)

(だろうな……変な墓穴を掘りそうだが……)

(……少し様子を見よう。)

 

 二人は念話を切り、目配せをした後で、ヴィータとなのは達のやりとりを見る。

 暫くして、ヴィータは自信満々に指先を天に向け、言った。

 

「和平の使者なら槍は持たない」

 

 ……?

 再び沈黙が結界内を支配した。聞こえてくるのは、結界の外の上部で、剣戟音とくぐもった叫び声を上げる小狼の声のみ。あとは、外界から吹き抜けてきた風の音のみ。

 なのはとフェイトは、首を傾げる。どう言う意味かわからないようだった。

 一方、ザフィーラとシグナムはそれぞれ、頭に手を突き、深いため息をついていた。いかにも、やっちまったよ、こいつ、的な雰囲気を出している。

 そんな空気を読まずに、ヴィータはその意味を述べた。

 

「話し合いをしようってのに、武器を持ってやってくる奴が居るか馬鹿って意味だよバーカ!」

 

 その言葉を言った瞬間、その場にいる全員から、すさまじいツッコミが入る。

 

「「いきなり襲いかかってきたのそっちなのに!?」」

「ヴィータ、お前は我らが主と騎士の誇りに泥を塗るつもりか?」

「それに、それは諺ではなく、小話のオチだ」

「………」

 

 顔を真っ赤にして押し黙るヴィータ。手を握りこぶしにして、恥ずかしさのあまり、振るえていたが恥ずかしさを振り切るようにグラーフアイゼンを振りかざし、二人に襲いかかる。

 

「コノヤロォッ!こっちはハナからおまえらにわかって貰うつもりは、ねーんだよっ!」

 

 それを見たフェイトは舌打ちをする。なのはも苦笑いを浮かべて、防御の体勢を取った。

 

「交渉は決裂!フェイトちゃん!」

「うん。なのはは紅い子を。私はあの剣士の女の人を!」

 

 互いに肯くと、フェイトは宙に浮いたまま、静観するシグナムの元に向かう。

 当のシグナムはそれを仁王立ちで待っていた。フェイトはシグナムの前に立つと、レバンティンを抜き払う。

 

「お前からはまだ、魔力を蒐集してなかったな……」

「魔力蒐集……なのはの魔力が少なくなったのは……」

「そうだ……。我らの持つ闇の書の能力。お前もその糧になって貰おう。我が主の未来のために」

「そんな犠牲を払って生む未来は……」

 

 シグナムの言葉をフェイトは断ち切るようにバルディッシュを構えた。リボルバーが回転し、薬莢が飛び出る。その瞬間、斧が展開し、その峰の部分から、三日月と見紛うほどの巨大な金色の刃が展開される。それを肩に担ぎ上げ、シグナムに斬りかかる。対するシグナムもレバンティンに炎を纏わせ、振りかぶる。

 次の瞬間、雷と炎がぶつかり、大爆発を起こした。

 

 

 

 

 

 漆黒の瘴気を身に纏ったかのような、冷たい冷気が辺りを覆った。冬なので、寒いのは当然なのだが、それとは性質の違う寒さということに、小狼は気づいていない。握る剣は知らないうちに震えており、胃の中はまるで、鉛の塊を入れたように重く感じた。これが不安というものだと言うことを、彼は気づかない。故に、頭を軽く振り、息を正すと、両手で剣を握り、軽く振りかぶると、ゆっくりと構える。その目は少しばかり目の前の闇に怯えているようにも見えた。

 

「ふふふ。お兄様。怖がって当然ですわ。この鎧は血桜の鎧……数百年に渡って人の生き血とある感情を吸い続けたのですから……」

 

 いやらしい笑みを浮かべて、桃花はそう語ると、桃花は足を一歩踏み出す。その瞬間、彼女の身体は一瞬にしてその場から消えた。驚いた小狼は辺りを見渡す。すると、その彼の身体を誰かが抱きしめた。

 

「ふふふ。捕まえましたわ……お兄様」

 

 柔らかくも力強い締め付けが彼の身体を支配した。背中越しに彼は桃花に問いかける。

 

「一体、何が目的だ?」

「ふふふ。小狼お兄様をあの小娘から解放してあげますわ」

 

 そう言って、彼女は小狼の耳に……甘嚙みを……

 

 

 

 

 

ーーしなかった。

 

 

ーー否、出来なかった。

 

 何故なら、それを阻むように、氷の矢が打たれたのだから。

 

 桃花は忌々しげに氷の矢を掴むと、それを魔法で生み出した黒い炎で溶かす。そして、空を睨みつける。そこには、純白の翼と白銀の長髪を生やした、青年……月が飛んでいた。

 

「主の悲しむことは、させられぬな……それに……」

 

 月は桃花の纏う鎧を一瞥すると、問いかけた。

 

「その鎧は一体、誰が与えた?」

 

 桃花はその問いに答える代わりに、舌打ちをくれてやると、御符を取り出してこう呟いた。

 

「邪魔をして……ッ!黒き竜よ、炎の化身となりて、我に徒なす、使い魔を焼き払え……黒竜徒焼!」

 

 黒い炎はその形を巨大な竜に変え、月に襲いかかる。月は翼をはためかせ、上空へ逃れた。しかし、黒竜はそれを追うように、彼へと迫る。

 

「月ッ!纏えッ!火神ッ!」

 

 月を助けるため、桃花に抱きつかれていた小狼は、両腕に電気を纏い、無理矢理に桃花を振り払い、剣に火を纏わせる。そして、振り向きざまに、斬擊を放った。

 

「紅蓮!火炎斬!」

 

 熱風と共に横一文字の巨大な炎の斬擊が放たれる。桃花はその斬擊を真面に受ける。その一撃で集中力は途切れたのか、月を襲っていた竜は消滅。流石に熱量が熱量のため、斬擊を真面に食らった腹部の鎧には横一文字に鉄が熱せられ、赤く光った後があった。

 

「咄嗟の大技で……流石お兄様。この鎧をここまで傷つけるなんて!益々!食べたくなりますわっ!」

 

 舌舐めずりをすると、彼女は大剣を構えようとした。しかし、突然、身体に痛みを覚え、くっ、と苦虫をかみ潰したような表情を浮かべる。

 

(やはり……仕方がありません。ここは一旦引きましょう!)

 

 大剣を背中に収め、桃花は地面を蹴った。

 

「ふふふ!お兄様、私は用事を思い出しましたので、これにて失礼しますわ!」

 

 そう言うと桃花は転送魔法を使い、その場から消えた。残ったものは、何もない。

 小狼は闘いが終わったことに安堵し、剣を護符に戻す。そして、静かに結界を眺めた。その下では、未だになのは達が闘っていたのだ。

 

「……いくのか?」

 

 月が涼やかな声で訪ねてくる。それに対し小狼はあぁ、と唸るように返事を返した。

 

「何故、闇の書を蒐集するのか、それが気になる」

「そうか。ならば、術者を探せ」

「術者を?」

「そうだ。結界があるということは、当然、それを維持するものが必要だ。そいつを探せ。主と共にな」

「……わかった」

 

 小狼は空を見上げた。そこには、心配そうな面持ちで二人を見つめる、さくらの姿があった。彼は小さく呪文を唱えると、浮かび上がる。

 

「風華……」

 

 ゆっくりと、ケルベロスに跨がるさくらの元に近寄る。さくらは不安げな面持ちで小狼をジーッと見た。小狼は思わずたじろいでしまう。すると、ケルベロスが面白そうな口調で小狼をからかう。

 

「小僧、あの小娘に耳、ハミハミ舐められとったやないか〜。ったく、さくらがどんなきも……ヘブッ!

「小狼くん?あの女ことどう言う関係?」

 

 余計な一言を言ったケルベロスを星の杖で殴る(パワー付加の状態で)と、さくらは何とも言えない覇気を纏って、小狼に問う。小狼は、あぁ、と頷くと、冷静に答えた。

 

「あいつは俺の父方の従姉妹だ。名前は凰桃花。お前が疑ってるような関係じゃないから、安心しろ」

「でも、耳ハミハミされてたね」

「うっ!……それは、まぁ、その……」

 

 どう答えていいかわからず、言葉に詰まる小狼。すると、そんな彼に救世主が現れた。

 

「申し訳ないですね。さくらさん。愚息は、昔からあの子にああされてしまうんです」

 

 紙で折られた鳥がそう言いながら、小狼の肩に止まった。さくらは、それに驚き、素っ頓狂な声を上げる。

 

「ほぇえええっ!?折り紙が喋った!?」

「なるほど……式神やな。ってことは、小僧の母親やな?」

 

 いつの間にか復活……というか、ケルベロスからケロちゃんに戻ったケルベロスは、折り紙に問いかける。折り紙は、ええ、と頷くと、その身体を広げた。

 

「さぁ、この紙に書かれた魔方陣に触れてください。彼の箱舟まで飛ばします。そこで、詳しいことについて話しましょう」

 

 その言葉に三人は頷くと、折り紙の言うとおりに従い、結界を後にした。


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