ガンダムSEEDーカズイ奮闘物語ー 作:SS好きのヨーソロー
メビウス・ゼロが発進する。
虚空の空を駆け抜け、キラの横に張り付くと、俺はキラに通信をとった。
「キラ!たぶん後方のでかい船、ザフトのローラシア級って奴だな、そこからMSが出てくる。・・・たぶん奴ら、Xナンバーを全部ぶち込んでくるはずだ!」
『Xナンバーを全部!?嘘だろ!?』
「あいつら的にはデータさえ取れれば用済みだ、たぶん実戦データを取るのもついでに考えてるだろ、何度も言うようにXナンバーはバッテリーが命だ。エネルギー残量は気をつけろよ!」
『わかったよ、カズイこそフェイズシフトがないんだから気をつけてね』
「もちのろんよ、そこら辺は俺に任せなさい!」
にっと笑いかけ、キラの心配をできるだけ和らげる。
和らげることはできただろうか?キラの微笑んだ顔を見て幾分か成功した気がするが、正直に述べると俺自身が若干の不安や心配をしていた。
その理由は言わずもがな。先程も話題にあがったように、このメビウス・ゼロにはフェイズシフト装甲がついていない。
ビーム兵器はおろか、実弾兵装だって脅威だ。
そして、俺の武器は対装甲リニアガンに有線式オールレンジ兵器ガンバレル、それが4基機体後方上下左右についているだけだ。
全て実弾兵装、当たっても衝撃しか与えられないだろう。しかし泣き言を言っている余裕はない。
それでも俺は、できることをやるだけである。
「チッ・・・後方から3機か!・・・レーダーには・・・引っかかった!
キラ!アークエンジェルの援護に行く!大丈夫か?」
『うん!了解、気をつけて!』
キラの了承を得て、左右のスラスターを点火し素早く方向転換、機体をアークエンジェルの方へと寄せていく。
「こちらメビウス・ゼロ二号機カズイ・バスカーク!アークエンジェル!応答せよ!」
『バスカーク少年!どうした!』
「後方ローラシア級戦艦から出撃している機体はXナンバーのG兵器だな!?大尉に見せてもらった書類を参考に、デュエル、ブリッツ、バスターと判断する!」
『あぁそうだ!奴ら全部実戦投入してきたんだ』
「了解、メビウス・ゼロ二号機!これより援護に移る!」
勢いよくアークエンジェル上部に回り込む。
前方からはMSが近づいていた。
GAT-X102デュエル、GAT-X207ブリッツ、GAT-X103バスター。
イザーク・ジュール、ニコル・アマルフィ、ディアッカ・エルスマンの赤服三人である。
『おい!あのMAはメビウス・ゼロとか言う機体か?』
『ええ、でもクルーゼ隊長とやり合っていた奴ではないようです、動きも遅いようですし』
『おいおい、へなちょこなんじゃねえの?じゃあ俺が貰ってやるよ!』
バスターから砲撃が来る。
「舐めてくれるなよ・・・!!」
出力を30%向上させる、スラスター速度を上げ機体を捻ると砲撃を回避していく。
『チッ!へなちょこのくせにやる!』
『何をやっているディアッカ!落ちろォ!!』
次はデュエルだ。ビームライフルを放ってきたので回避を早める。
あれに当たるわけにはいかない、ビーム兵器はガンダムに乗っていても警戒せねばならない攻撃なのだ。それがメビウス・ゼロに当たるもんなら余計に厄介、フラガ大尉にも十分留意するよう言い付けられている。
「次はこっちから・・・!!」
対装甲リニアガンを放つが、その弾丸はほんの少し掠っただけ。
しかも相手の装甲はフェイズシフト、実弾を無効化する兵装ゆえに今の攻撃は全くのかすり傷にすらなっていない。
『ふん、向こうのパイロットは自分の機体のこともわからないようだ』
『笑ってはいけませんよイザーク・・・ふふ、乗り慣れてないのでしょう』
『笑いながら敵対するニコルも怖いねぇ・・・連合のお猿ちゃんも可哀想なもんだ』
三体の動きが緩やかになった。
機体の動きから若干の嘲り具合を感じる。
まあ、そりゃそうだ。敵わない兵装で無謀にも戦うナチュラルという印象を抱いているのだろうから。
フェイズシフトに無謀に撃つ姿を見て面白おかしくなったのだろう。
だが、それで良い。
計画通り・・・!!
「今だッ!!」
その油断こそが、最大のチャンスになる。
ぐいん、とコクピットに標準を合わせると迷いなく引き金を引く。
フェイズシフトを倒せない、弱い実弾兵装。
無謀にも弾丸を撃ち込む哀れなナチュラル。
その兵装は、パイロットに衝撃を与える一撃になる!!
勇敢にも弾丸を、叩き込むのだっ!!
『ぐわぁぁぁっ!?』
『い、イザーク!?』
『ちぃっ!!なんなんだよ一体!?フェイズシフトがあるんじゃないのか!?』
「・・・お前達は、きっと理解していない。
フェイズシフトは機体を守れても、パイロットへの衝撃は防げないんだよ!!」
そう、フェイズシフトは機体の性能だけ見ると無敵の装甲だ。
しかし、それがパイロットを守るわけではない。
衝撃自体はどのようにしても防げるものではないのである。
この声が届くことはない。
いいさ、それでいいさ。
俺は向こうのパイロットの顔も声も、性格も全て知っている。
先の物語での悲劇や失敗、そして活躍さえも。
原作が頭をよぎる。
でも、でも・・・今更気にしてなんていられるか。
ここは戦場、命の取り合い。
俺はキラのために、皆を守るために戦うんだ。
キラの・・・フレイのためになら鬼にだってなってみせるさ!!
「くらえぇぇぇ!!」
移動しながら、ブリッツとバスターにも同じコクピットあたりにリニアガンを撃ち込む。
『うわぁぁぁ!?』
『くそっ・・・ぐぅぅぅ!!』
『お前達!ええい、こいつ!ナチュラルのくせに!』
デュエルがサーベルを引き抜き、こちらへ飛んでくる。
「結構怖いんだがな!これは!!」
結構ギリギリの戦いだ。ビームサーベルも高火力の武器、当たれば無傷では済まない。
「ホームランバットォォ!!」
ギュインっ!!と無理やり方向転換し、頭部あたりに浮上すると対装甲リニアガンの向きを思い切り変える。
イメージはそのまま、バットを振る野球選手だ。
『小癪なぁぁぁ!!』
視界に映った黒い銃身、それが野球バットみたいに頭部を打ち、視界を奪う。
向こうのパイロットの神経を逆撫でするにはちょうどいい。
『イザーク!こいつッ!』
「お言葉借りるぜぇ!!グゥレイト!!」
対装甲リニアガンをもう2発発射する。
コクピットではなく、頭部だ。
『うわぁぁぁ!?』
咄嗟に守ろうとした様子を見て、してやったりと言う顔になる。
G兵器奪取を担当したのはラスティを含めたザフトのエース、赤服だ。
確かにエリートなのは間違いない、しかしそのエリートも一人の人間。コーディネーターだとて目の前にくる高速の弾速に怯えを抱かないわけがない。
『ディアッカ!イザーク!だめです!このMAは油断しちゃいけない!
イザーク!アスランの援護を頼みます!こいつは僕とディアッカが引き受けます!』
『仕方がねえ、ここは先に行けイザーク!』
『チッ・・・あぁ、わかったよ!』
よく見ると、デュエルがあらぬ方向へ飛行する。
その方を見て顔を顰める、そっちはキラがいる方でありGAT-X303イージス・・・キラの旧友アスラン・ザラがいる方角だった。
「アスランの援護ってか!?やらせるわけには・・・っ!!」
やらせるか、とデュエルに近づこうとし、急停止しする。自分の前方を槍が高速で過ぎ去ったからだ。確認するとすぐに飛行する。
援護だろうか、バスターの実弾攻撃が降り注いで来たからだ。
「くそ・・・ディアッカ・エルスマンにニコル・アマルフィ・・・!!ザフトの赤服二人に俺はどこまでついていける・・・?」
「ザフト機二機、メビウス・ゼロと対峙しています!」
「チッ!バスカーク少年が目をつけられてるか!デュエルはどうした!」
「デュエルは右斜め前方、距離200!ストライクとイージスの戦闘に合流しています!」
「ヤマト少年のところに二機、か。イーゲルシュテルン!ヘルダート!つぎ込め!!バスカーク機はフェイズシフトがないんだ!援護に努めろ!!
次弾、7番から11番!ミサイル発射管!スレッジハマー装填!11番から14番!コリントス装填!撃てー!!」
自部の後方からミサイルが連続で飛んでくる。
アークエンジェルの援護が来たらしい。
援護に当たらないよう、ミサイルの合間を縫ってひたすらに攻撃を加える。
「こうなれば!ガンバレル、射出!!」
4基を射出、スラスターを展開しながら敵MS達に銃撃を加えていく。
『チッ!あいつも使えるのか!』
『クルーゼ隊長もよく言っていましたが、面倒ですねやはり!!』
死闘を繰り広げていく中、ストライクはVSイージス&デュエルで精神がすり減らされていた。
「・・・くそっ、埒が明かないよな!!」
『カズイくん!聞こえるかしら!』
「艦長!なんです!?今結構きついんですけど!」
『わかっているわ!けれどごめんなさい、キラくんのストライクのエネルギー残量が気になるの!』
「あーもう言わんこっちゃない!だからビームライフル連射するなって言ったのに!艦長!援護射撃増強頼みます!ようはストライクの援護に行けって命令でしょ?」
『えぇ!!頼めるかしら!?』
「あなたみたいな綺麗な人に言われちゃあ、やって見せなきゃ男が廃るってなぁ!!」
4基のスラスターを全開、一気に加速する。
『こいつ!さらに速くなった!』
「お前達には用はないんだ!道を開けろぉ!!」
無理やり方向展開をすると、一気に離脱する。
「キラ・・・!無事でいてくれよ!!」
赤い機体に白い機体、もう一つ白い機体が目に止まる。
イージス、デュエル、ストライクを捕捉した。
「ストライク!キラ!エネルギー残量に注意しろ!そろそろエネルギー尽きるぞ!」
『う、うん!!』
『邪魔をするなぁ!!』
デュエルの攻撃をひたすらに回避する、引いてくれ、ストライクが持たないんだよ・・・!!
ビームライフルの音がおかしかったもん!
しばらくすると、デュエルのイーゲルシュテルンがストライクに当たりついにディアクティブモードになってしまった。
「キラっ!!逃げろ!!」
『もらったぁ!!』
ストライクを倒さんとするデュエル、それを止めたのは意外にもイージスだ。
イージスはそのまま、ストライクを捕縛してしまった。
『アスラン!なにをしている、命令を覚えているのか!?命令はストライクの撃破だぞ!!』
『こいつは俺が捕獲する!!捕獲できるならそっちの方がいいだろう!イザークはそこの地球軍のMAの対応を頼む!!』
くそっ、ストライクがやられた!
「カズイ機よりアークエンジェルへ!ストライクが捕縛された、繰り返す!ストライクが捕縛された!」
『なんですって!?』
『くそっ!エネルギーが切れてしまったか!』
『なんだって!?あの馬鹿、捕獲されやがって!仕方がない!』
『フラガ機より入電!ランチャーストライクを用意せよとのこと!』
『・・・くっ、それしか手がないか!マードック曹長に知らせ!ランチャーストライカー発射準備!』
アークエンジェルでは、ランチャーストライカーを発射し、空中換装する準備をしていた。
と言うわけで俺もそのままというわけにはいかない。動かねばならないのだ。
機体を動かしながらフラガ大尉に通信を取る。
「フラガ大尉!ストライク救出を敢行します!援護頼めますか!」
『了解!作戦はどうする!』
「まず俺がイージスに砲撃をし、ガンバレルでデュエル、ブリッツ、バスターに牽制射撃を行います!
フラガ大尉はその間に俺の方に合流してください!合流完了と共に攻手交代、G兵器の対応を頼みます!俺はその間にガンバレル一機でストライクを固定、アークエンジェルに向けて投げ飛ばします!」
『ハハっ!そりゃ随分ぶっ飛んだ作戦だな!良いぜカズイ!お前の指示に従ってやる!いくぞぉぉっ!!』
「了解でぇぇぇす!!!おぉぉぉぉぉぉぉ!!」
グインっ!!と加速しイージスに近づく。
「その手を離せぇぇぇっ!!」
ひたすらリニアカノンの砲撃を加える。衝撃で今コクピットはぐわんぐわんと揺れているだろう。
そして、イージスを一つのガンバレルで殴り飛ばすと、拘束が解かれる。
「今だ!キラ!そのガンバレルに捕まれ!!」
キラにそのガンバレルを握らせると、同時に他のガンバレルを射出、イージス達を近づけさせないために集中砲火を浴びせる。
『カズイ!捕まったよ!』
「OKキラ!今からスラスターでお前をぶっ飛ばす!舌噛むなよ!アークエンジェルの方に飛ばすからお前はそこでランチャーストライカーを装備しろ!」
『で、でもカズイが』
「俺とフラガ大尉にまかせろ!!さっさと終わらせてなんか美味いもん食うぞ!」
『う、うん!!』
「っしゃあ!!行ってこいやぁぁぁっ!!」
掴んでいるガンバレルのスラスターを最大出力にし、アークエンジェルの方向へぶっ飛ばす。有線の限界あたりでキラが手を離し、そのままアークエンジェルに向かっていった。
『待たせたなぁひよっこ!大丈夫か!』
「なんとか生き残ってますよ大尉!援護頼みますよぉ!!」
『良いぜ!指示に従ってやる!!』
二機編成を組み、サイドから仕掛ける。ガンバレルでのオールレンジ攻撃は相手にとって目障りなものになっていた。
『くそっ!!アスランの勝手な行動で!!ストライクさえ落とせれば!!』
苛立ちを募らせていたのかデュエルは勢いよく合間を通って先へ進もうとしている。
『くっ!カズイ!そっちにいった!』
「まずい!フラガ大尉!こっちも抜けられそうですッ!!」
オールレンジ攻撃の合わせ技で死角は無くすようにしているがそれでもどうしても隙はできてしまうもの。ザフトの赤服はそれに熟知しているのか苛立ちを力に、それでなお冷静にそのピンポイントの隙をついてついに突破されてしまった。
「しまった!!」
『もらったぁぁっ!!』
ビームライフルを構えると、デュエルは下部に装備されたロケットランチャーを発射する。
その先にはストライク。射出されたランチャーストライカーが近づいていた。
ストライクの換装が先か、デュエルのロケットランチャーの着弾が先か。
その結果は、爆発の後にわかることとなる。
『やったか!?・・・って、あれは!?』
ロケットランチャーが当たり、爆風を浴びたイザークは喜びの感情をたぎらせていた。
しかし、不幸かな。その結果は見事砕かれることとなる。
突如ビームの巨大な光がイザーク向けて降り注ぐ。
咄嗟に避けたイザーク。しかし、それでもビームの巨大な光、超光インパルス砲アグニの威力は桁違いで、右腕を肩から溶かしてしまったのだ!
『ちぃっ!!こんなビーム兵装を持たせているのか!地球軍のMSは!!』
「ここから引けぇぇぇっ!!」
この隙はチャンスだ。デュエルの破損部に向けてリニアカノンを撃つ。
しかし、そこはブリッツに妨害を受けてしまう。
『イザーク!ここは帰投しましょう!これ以上戦闘を続ければ次はこちらがエネルギー切れのピンチになりますよ!あなたのその損害ならメビウス・ゼロも脅威になるはずです!!』
『くそっ!!くそっ!!ストライクゥ!!メビウス・ゼロォ!!』
四機のGは、一目散に戦艦へと帰投していった。
本格的な宇宙戦、それの初戦は、なんとか生き残ることができたのだった。
メビウス・ゼロを動かし、格納庫へ帰投する。
操縦を終え、あとは機体から出るだけだ。
それなのに、それなのに・・・身体は、ただひたすらに震えていた。
メビウス・ゼロにシミュレーションとはいえ乗り慣れた俺。
しかし、それが心の強さを証明するものとは、ならなかったのだった。
今ようやく、生きているという実感が湧いたのだった。