ガンダムSEEDーカズイ奮闘物語ー 作:SS好きのヨーソロー
ユニウスセブンの残骸、そこに漂流する氷の運搬作業中、キラ・ヤマトは破損した船から脱出ポッドを見つけアークエンジェルに運び込んだ。
その中にいたのは、プラントの歌姫、ラクス・クラインだったのだ・・・・・・。
宇宙上の戦艦は基本、身体が浮くようになり慣れなければ身を動かすのも難しいものだ。ラクス・クラインも同じらしく、周囲を流されていた。
その手を取ったキラ、ラクス嬢にニコリと微笑まれ、つい顔を赤くしていた。
「おいおいキラ、顔が赤いぞ・・・?」
「え、あ!うわっ!?そ、そんなこと!」
「はは、君もわかりやすいな」
「ふふ・・・仲が良さそうですわね」
「ええ、彼とは学校の友人でね。・・・さて、と。初めまして、俺はカズイ・バスカークと申します。
・・・あなたはプラントの歌姫ラクス・クライン嬢でお間違いないですかね?」
「えぇ、まあ!知ってくださってるのですか?」
「はい、お恥ずかしながら。・・・あとでサインもらっても?」
「もちろんですわ」
おぉ、これはなんとも嬉しい。有名人からのサインってなかなかもらえないからな。
「・・・さて、ここは地球連合軍の船であり、貴女は地球連合軍のMSに救出されました、とりあえず貴女の処遇などを伝えなければならないし、この船の尉官のところへお連れします」
「ええ、よろしくお願いしますわ」
「・・・とりあえず、艦長、大尉、少尉、お願いします」
そう言い、ラミアス艦長らがいる方向を手指す。
「えぇ、わかったわ。・・・どうぞ、こちらへ」
「・・・時々、こいつが軍人なんじゃないかって錯覚するよ」
「・・・違いありませんね」
そうしてラクスが連れていかれる。
「あの子・・・コーディネーターなの?」
「あぁ、そうさ。・・・プラントではアイドルとして活躍しているな。フレイはしらないのかい?」
フレイに声をかけるが首を振るう。まあ知らないのも背後のことを考えると無理もない。
「知らないわよ、そんなの。・・・パパの影響でそんなもの入ってこないし」
「まあ、それもそうか。・・・いらんお節介かもだが、もし何か聞いてみたくなったら言ってくれ。CDプレイヤーは持ってきてるからな」
「へぇ、ありがとう。ミリィは知ってた?」
「いいや、知らないわねー」
「じゃあ後で聞いてみましょ!」
「あ、良いわねそれ」
仲のいい2人を見て微笑みつつ、いなくなった他の男どもの行方を尋ねる。
「・・・・・・で、あいつらは?」
「おー、坊主たちはなんか後ついてったぞー。あいつらも男だなー」
「サンキューですマードック曹長!ちょっと俺も男として行ってきまーす!」
ぐへぐへぐへと変な笑い方してたら後ろからゴミを見るような目で見られました、こっわ。
よくあの顔でナイフで襲われかけたのにディアッカくんはまともでいられたね、俺は怖くて仕方がないよ。
「・・・本当にお前ら、なにやってんの」
その現場に行くと、ドアにへばりついて聞き耳立てている男どもの姿が目に映る。
「あ、ちょっ、おいカズイ!静かに!」
「聞こえないだろうが・・・!」
「あーはいはい、楽しそうで何よりです」
やれやれ、と頭を掻いていると突如ドアが開かれる
「おい貴様たち!なにをしている!まだ搬入作業が終わっていないだろう」
バジルール少尉が声を上げると慌てて作業に戻って行った。
本当になにをしてたんだあいつらは・・・・・・
やれやれ、と頭を掻いているとちょうどキラと目があったのか、手を振っている。
キラは目を見開いたのだが、気恥ずかしくなったのかそっけなく離れてしまう。
「・・・あら」
「すまない、彼は意外とシャイでな。気を悪くしたなら謝る、まあ彼も悪いやつじゃないんだ」
「ふふ、見てわかりますわ」
「カズイ、貴様の任はどうなのだ?」
「トレーラーを使ってますから、早めに終わりましたよ。・・・バジルール少尉、とりあえず彼女にはこの艦に滞在してもらう必要がありますよね?俺でよければ部屋に案内するんですが・・・」
そこに異を唱えたのは珍しく、フレイ・アルスターだった。
「ちょっと待ちなさいカズイ、ラクスさんだって男の人と二人きりは緊張するはずよ」
「おっと、それはそうだったな・・・しかし、大丈夫なのかい?その、色々」
「・・・私は、私のしたいようにするもの」
「・・・えっと」
「あ、私はフレイ、フレイ・アルスターよ」
「フレイ様ですわね、ラクス・クラインです。よろしくお願いしますわ」
「さ、様って慣れないわね、普通にフレイでいいわよ」
「ありがとうございます。・・・では、みなさんでいきませんか?」
「・・・それもいいわね」
「ならミリアリアもいたほうがいいな、女の子同士の方がやりやすいだろう?すぐに呼んでくるよ」
艦内を走る、ミリアリアはトールの作業を手伝っていた。
「ミリアリア、ラクス・クラインのことについてだが今フレイが部屋に案内する手筈になっているんだ、そこでせっかくだし女の子同士いたほうがフレイもラクスもいいだろう、と思って君に声をかけたんだが・・・」
「あら!それなら行こうかしら・・・あ、でも」
「トールの仕事はもちろん俺が手伝うよ、トール!俺が手伝っても構わないなー?」
声を張り上げ、伝えるとグッドサインが返ってきた。
「・・・だ、そうだ」
俺がそういうとミリアリアはニコリと微笑む。
「ありがとうカズイ、私も話してみたかったの、行ってくるわね」
心なしか足取りの軽い彼女に行ってらっしゃい、と声をかけながらも作業をかわり、トールの手伝いに集中する。
トールは物珍しそうな顔をしていた。
「・・・お前って、すごいよな」
急な褒めの言葉に思わずそちらへ顔を向ける。
「・・・藪から棒にどうしたトール?」
「・・・いやあ、お前って、イメチェンしてから本当に変わったよなーって思って。
MSのこともそうだけど、シミュレーションしてMAに乗ってるだろ?それもなんか驚きだし、人付き合いでも急に大人になったっていうか・・・」
「・・・そ、それは褒められていると捉えていい、のか?」
俺が首を傾げると、トールはずいっと顔を近づけた。近い近い
「おう、当然だぜ!自信持てって!」
「わ、わかったわかった!」
思わず顔を逸らす。なんというか、眩しい。
まさしく太陽、その単語が似合う気がしたのだった。
嬉しさ半分、恥ずかしさ半分で作業を手伝い終えると艦内に戻る。
食堂に行くと、何やら話し込んでいるようだった。
話しているのはフレイ達だ、何があったのだろうかと気になりそちらへ足を進める。
「フレイ、どうしたんだい?」
「あ、カズイ!ラクスのご飯持って行かないといけないみたいで・・・ここで食べてもいいような気がするのに」
「・・・あぁ、そうだったのか。まあ軍としてはあまりいい顔で頷けないのさ。アルテミスでも見ただろ、コーディネーターに対する態度」
「・・・それはそう、だけど」
「それにここの兵士も無闇に傷つけたり、貶めたいとは思ってないのはわかるだろ?」
難しい顔になる。どうやらフレイも現状のことを深く考えているようだ。
「・・・ええ」
「ふふ、流石だフレイ。せっかくだし皆でご飯を食べればいいじゃないか」
「あ、それいいわね」
名案だ、というふうに目を輝かせるフレイ。
サイは俺の方を見て苦笑いをしていた。
「サイ?どうかしたか?」
「いや、なんだか・・・お前はすごいな、って。
俺、フレイには何もしてあげれてないからさ」
「・・・はぁ?何を言っているんだサイ、フレイが今こうして元気でいられるのはサイ、君がいるからだぞ?」
「・・・え、俺が?」
「そうだ。サイは頼り甲斐があり、俺たちの中でも大人びているだろう?それだけでも精神的支えになるし、君はフレイの許嫁だ。
・・・君達の仲をあまりわかったふうに話すのはおかしいかもしれないが、大切な人がそばにいる、だからこそ精神的な余裕が生まれる。・・・俺はそういうふうに思うぞ」
「そうよサイ!私いつもサイに世話になってばっかりだったから・・・」
「フレイ・・・」
いわゆる原作ではキラとサイとフレイの三角関係が痛々しく、生々しくて見ていて辛かったところがある。しかし元はこんなふうにいい子達なのだ。
戦争の固定概念が、破壊衝動が彼らを狂わせてしまったのなら、少しでもマシになるように動きたい。
彼らの仲を見て、それを再び考えるのであった・・・・・・。
しばらくすると、件のラクスクラインがこちらへ来る
「え、えぇ!?ち、ちょっとまって!」
キラが思わず口を出す。まあそりゃ急にきてしまえば驚くだろう
「すいませんわ、お腹がすきまして」
「ごめんラクス、ちょっと話し込んでて・・・今から渡しに行くところだったの。・・・でもここまで来たならもういいわよね?」
してやったり、と悪い顔をしている。
「・・・図太いこと考えるな」
「いいじゃない、ラクスはザフトじゃないなら敵じゃないわ。ラクス、みんなでラクスと食べようって話をしてたの!さあさあ座って!」
「あらフレイ、ありがとうございます」
「あ、じゃあ私お水取ってくるわ」
皆ももう乗り気みたいだ。
「・・・キラ、気にしなくていいだろこれ」
「だね・・・」
「ねえねえ、もうこうなっちゃどーせなんだしラスティ呼んできなさいよ」
フレイがそういえば、というふうに提案してくる。
「おう、そうしてくる」
いやなんかフレイが只々いい子になってしまった。
俺がカズイとして色々原作と違う動きをしたせいでフレイの悪い部分が消えてしまった。これはいいことなのだろうか?
まあ、笑顔のフレイ可愛いからいいか。
今度サイにフレイの良さを語ってもらうことにしよう。
「・・・まさか、俺も呼ばれるとは」
「あら、あなたは・・・」
「ラクス様、無事で良かったですよ」
「・・・ラスティ、ラクスを知っているの?」
「あぁ、ザフトの・・・G兵器を奪った奴ら・・・仲間だった奴らだけどな、そのうちの一人、アスラン・ザラってやつと許嫁なんだ。その人」
「許嫁・・・私たちと同じね」
「・・・アス、ラン」
キラが俯く。しまった、そういえばアスランはキラの友人だった男だ。
「・・・キラ、どうかしたの?」
「あ、いや・・・なにもない、よ」
「・・・もしかしてだが、アスランという少年と知り合いだったりするのか?」
少し意地の悪い言い方になってしまうが、聞ける時に聞いておいた方がいい。
「・・・うん。幼学部の時の。・・・大切な、友達だったんだ」
「・・・そうだったのか。・・・ってことは、まさか」
「・・・多分、ユニウスセブンの事件に巻き込まれてるはずなんだ」
「なんとも、いえんな・・・」
ユニウスセブンの単語を聞いて、記憶が頭を掠めた。
アスランの母はユニウスセブンで散ってしまったのだ。
「・・・ザフトを許すつもりはないし、戦ってるコーディネーターは好きにはなれないわ。けど、なんで・・・なんでこんな戦争が続いてるのよ。こんなの、続いてちゃダメじゃない」
フレイが沈痛な顔でつぶやく。
「・・・フレイ、フレイは今大切なことを考えられた。
この戦争がダメだということが。向かってくるコーディネーターを、俺たちを殺そうとする勢力に対抗するのは悪いことじゃない。
けど、君が言ったような戦争が続いちゃダメという考え方、それが1番大切なんだ。・・・その気持ちがなくなった瞬間、人は殺戮を何食わぬ顔でできてしまう、そうなっちゃいけないんだ」
「ええ、そうよね。・・・キラ、今まで辛かったわよね。友達を撃つなんて、出来ないわよね。
けど、けど・・・お願い。死なないで、生き延びて。
ラスティだって・・・何かの縁で会えた。
きっと・・・きっと、大丈夫・・・大丈夫だから・・・」
キラを包みそう述べるフレイ。
それをある意味知っている俺は目を見開く。
「・・・フレイ・・・フレイ・・・!!」
「・・・泣かないで。私の・・・私たちの想いが、貴方を護るから」
何の因果か、フレイ・アルスターの精神は撃たれた時、原作でいう遙か後の展開と似てしまったのだ。
いや、この言い方はよそう。
フレイは変わった、成長したのだ。
俺だけじゃない、ラスティ達と、そして他の仲間達と関わり、成長した。
彼女の祈りは、やがて俺たちにも伝わる。
比喩的表現にはなってしまったが、悪い気分はしない。
なぜなら皆同じ気持ちだからだ。
自分たちの安全、それももちろん考えている。しかし、それ以上に自分たちの大切な仲間、キラ・ヤマトのことを想っているのだ。
「・・・温かいんだな」
「・・・人間は、こうじゃなきゃいけないさ」
「・・・みんな、ありがとう。・・・まだ、僕はきっと迷ってしまうと思う。
けど、僕なりに・・・僕の今、やるべきことを考えてみたいと思う」
まっすぐ前を見据えるキラに、俺たちもまた、まっすぐにっこりと笑い見つめ返すのだった。
「ふふ、こんな時にこそ歌うのが1番ですわ」
その空気を包み込むように、ラクスの透き通った歌声が響き渡る。
平和の願いを、戦争の辛さを憂いた気持ちが歌となり、ゆらゆら、と揺れていく。
「・・・綺麗な歌声、だな」
思わず口に出すサイ
「・・・・・・えぇ、きっと、練習したんだわ。たくさん」
「えぇ、そうですわ。・・・結局、私たちは人間として変わりませんもの」
ナチュラルとコーディネーター
二つの確執が大きい戦争を起こし、消えない傷となり今も残り続けている、その中で一時だけであるが・・・暖かい気持ちが溢れるのだった。
その気持ちが持ち運んだのかはわからない、がしかし・・・・・・
「暗号!これは・・・大西洋連合、第八艦隊からです!」
「ハルバートン提督のところね!?」
物語は、まだまだ進んでいく・・・・・・