風邪になった鹿目まどかが悪魔ほむらに看病されるだけ(完結)   作:曇天紫苑

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わたしは貴女が大好きだから、だから、笑ってて欲しいの

「お邪魔しまーす」

 

 私の身体を支えながら、まどかが玄関へ足を踏み入れる。少し暑かったからか、その顔には微かな汗が浮かんでいる。

 こちらとしても、気持ちの悪い汗を感じるのは確かだった。特に足が酷い。指先がべたついて、嫌な感じがする。少しは歩ける様になったけど、まだ、まどかに気遣われている現状は変わらない。

 それでも少しは良い。今すぐ気絶しそうだったのに比べれば、十分な改善と言える。

 

「別に、挨拶なんかしなくても……誰も居ないんだから」

「えへへ、誰も居ない事無いよ。ほむらちゃんのお家だもん」

 

 どうも、息切れ気味な声が出てしまう。声の調子が掠れているのが自分でもよく分かった。

 家に漂う嫌な空気は何一つ変わっていない。どんよりと重く、ただ呼吸するだけでも苦しい気分にさせてくれる。ただこの場に居るのが不快だ。まどかが居るので、それは随分と良くなっているが。

 玄関口で靴を脱ぐ所までは、何とか出来た。足を頑張って上げて、一歩足を踏み入れる。まどかが助け起こしてくれて、中へ連れ込んでくれた。

 体中が気持ち悪いが、まどかの腕の感触は良い。触れられている部分以外の全てが腐っていて、砕け落ちている気さえする。

 歩いて疲れてしまったのだろう。頭がズキズキと痛んだ。顔には出さない様に必死で努力していたけれど、隠し通せている気がしない。

 

「さ、とりあえず椅子に座ろう?」

「ええ……」

 

 運ばれている気分のまま、まどかが椅子を出してくれる。そこへ座るのも疲れるけど、折角の好意だ、受け取っておこう。

 

「ん……」

「大丈夫?」

「ええ。少し身体が痛むけど、それだけよ」

 

 後、少しの吐き気と頭痛と目眩と、気絶しない程度の辛さが有るだけだ。それくらい、我慢しよう。

 

「ほむらちゃん、お風呂はどこ?」

「あっちよ」

 

 指さすと、まどかはそちらへ向かっていった。シャワーでも浴びてくるつもりなのだろうか。だとすると、着替えが必要になるだろう。

 私の着替えで良ければ、使って貰おう。立ち上がり、服が入っている棚へ手を伸ばそうとする。が、足が不安定で、少し歩き辛い。

 

「あれ? ほむらちゃん?」

「まどか?」

 

 桶とタオルを持ったまどかが、お風呂場から出てきた。

 どうした事だろう。着替えの服を取り出したが、必要は無かったらしい。

 

「お風呂に入りたいんじゃ、無かったの?」

「ううん。これを持って来ようと思って」

 

 水の溜まった桶を床へと置くと、まどかは訝しげに私の手を見ていた。着替えの服を持っている事に、疑問を抱いているらしい。

 まどかも汗を浮かべているし、結構身体が気持ち悪くなっている筈だ。私の事など気にせず、洗いに行ってくれれば良かった物を。

 

「ささ、ほむらちゃん。もう一回座って? 疲れてるでしょ?」

「そ、そうね……」

 

 まどかはゆっくりと私の身体を支えて、座らせてくれた。

 それから、私の前でしゃがみ込む。桶を自分の元まで引き寄せて、その上でタオルを絞っている。

 

「何を、しているの」

「あ、そうだね。突然だったかな?」

 

 タオルを絞りきると、まどかは私の膝の裏をそっと持ち上げた。力を抜いてだらんと倒れた足は、それだけで簡単に上げる事が出来るだろう。

 スカートの中にまどかの手が少しだけ入ってしまい、何か気恥ずかしくなる。ともあれ、顔は既に赤いから、恥ずかしがっているのは見破られまい。

 

「ほら、昨日ね。ほむらちゃんがやってくれた事、お返しがしたくて」

「そんなの、要らないわ」

「無理しちゃ駄目だよ。わたしよりずっと体調悪そうだもん」

 

 少し抵抗してみたが、まどかは諦めなかった。

 今日の私は、ストッキングを履いていない。熱くて着ける気にもならなかったからだが、今になって、普段通りに着用すべきだったと後悔する。

 

「ほら、靴下、脱ごうねー」

 

 ストッキングが無いから、まどかは遠慮無く私の靴下に触れる。

 その時、私は思わず唇を噛み、警告を発していた。

 

「触らないで」

「っ……ご、ごめん。足を触られるなんて、嫌だったよね。慣れ慣れしい感じで、ほんとにごめんなさい」

 

 一転して、まどかは一歩退き、涙を堪える様に床へ座り込んだ。崩れる様にへたりと座り、俯きがちにこちらの顔色を窺ってくる。

 そんな顔をさせているのは、私だ。自己嫌悪で狂ってしまいそうになる。が、まどかに迷惑をかけたくない、そんな気持ちの方が勝った。

 まどかは消え入る様な顔をしていた。けど、それでも私から逃げようとはしなかった。

 

「でも、でもね、駄目だよ。そんなに辛そうなんだもん……放っておいちゃ、いけないと思うの……」

 

 優しい言葉だった。少なくとも今の私には勿体無いくらい温かみが強く、心を落ち着かせてくれる声の使い方をしている。

 やはり、まどかは何時だって輝かしい。そんな彼女の手を借りる事には強い忌避感が有ったし、だからこそ断ったのだが、この悲しそうな顔を見ていると、どうしても、自分の発言が迂闊だったと認めざるを得なくなった。

 

「……厳しい言い方だったわ。私はただ、汗ばんだ足なんか触ったら、汚いと思って」

「そんな事……昨日、ほむらちゃんが頑張って看病してくれたんだから、わたしもそうしたいし……」

 

 まどかの顔色に明るさが戻ってきた。私が拒絶した訳ではないと知って、元気を取り戻してくれた様だ。

 我ながら、必死過ぎたのかもしれない。まどかが心配で心配で、つい色々と世話を焼いてしまった。これが単なる風邪だと分かっていても、苦しげな顔を見てしまえば、後は自然と身体が動いてしまったのだ。夜中までずっと、まどかが辛い気分にならない様に手を握っていた事などは、自分でも特にやり過ぎだった気がする。

 そういえば、詢子さんにも「頑張り過ぎだよ、少しは力を抜きな」と言われた。だが、私はまどかに関する事でなら、無限大に頑張り続ける所存だ。その結果が今の状況なのだから、果たしてそれが正しい選択だったのかは、分からないのだが。

 

「ほむらちゃん?」

「え、ああ……どうしたの」

「あのね、靴下、脱がしても良い?」

「……ええ……どうぞ」

 

 今更抵抗しても仕方が無い。何よりまどかの気が済まないだろう。少しくらい付き合っても、良いかもしれない。

 大人しく身を委ねると、まどかは少しずつ、遠慮がちに私の靴下へ手をかけた。汗臭く無いだろうか、気持ち悪くないだろうか、そんな心配ばかりしてしまう。

 まどかが私の足の前に居る。かなり強い罪悪感を覚えた。悪魔を名乗っている以上、これくらいの事は平然としていても良い筈なのだが。

 

「ほむらちゃん、もう片方の足も上げて?」

「……」

 

 黙って、指示に従う。まどかは丁寧に、今度は少しだけ慣れた感じで靴下に指をかけていた。

 やっぱり、汚いだろう。まどかにそんな物を触らせる事を許した自分が憎らしく、また、気にせず私を助けてくれようとする心が、私に突き刺さってくる。

 

「靴下は何処に置いておけば良い?」

「その辺に捨てておきなさい」

「駄目だよ、ちゃんと洗っておくから、洗濯機の場所を教えて?」

「……あっちに有るわ」

 

 根負けして、洗濯機の置いてある場所を指す。一人暮らしだから、当然こういった物は使い慣れていた。

 まどかが少し意外そうな反応を示した気がする。私がこういう風に普通の生活をしているのが、不思議だったのだろうか。

 

「洗濯機の前に置いたから、後で洗ってあげるね」

「そこまでして貰わなくても」

「わたしもそう言ったけど、ほむらちゃんは助けてくれたよね」

 

 そう言われてみると、そう言う対応をした記憶は有る。やはり、自分の事ながら風邪の看病に気合いを入れ過ぎた様だ。

 お返しをしてくれるのは良いけど、まどかにこんな事をさせるのは耐え難い。葛藤している間に、まどかは私の足をタオルで拭き始めた。

 濡れタオルで汗を拭かれるのは、確かに気持ちが良い。しかし、まどかを使っているという罪悪感は常に有る物だ。

 これが乱暴に拭き取られるのであれば気にならないかもしれないが、こうも優しくされると、くすぐったさも覚える。

 

「それにしても、ほむらちゃんの肌って、本当に綺麗だよねー……やっぱり、そういう事にも気を使ってるの?」

「何か特別な事をしている訳じゃないわ」

「へぇー……良いなぁ。何もしてないのに、こんな感じになれるなんて……」

「鹿目まどか」

 

 褒めてくれるのは嬉しいけど、私を羨んで欲しくない。

 

「鹿目まどか。貴女の方が何倍も健康的だし、何倍も可愛らしい肌をしているわ。そう、私を羨む事なんか無いのだから自分に自信を持ちなさい。貴女は、貴女なんだから」

「そうかもしれないけど、やっぱりこういう」

 まどかは私の足をそっと撫でた。くすぐったさに、声が出そうだった。

「こういう、綺麗な肌になりたいな、って。そう思っちゃったり……」

「……っ」

 

 無意識からか、まどかは私の足を何度も指でなぞっていた。

 とても、くすぐったい。人に肌を触られるのは、時にこういう感触を覚えさせる。

 まどかは無意識でやっている様だが、こちらとしては身をよじりたい気分で一杯だ。そろそろ、止めなければならないだろう。

 

「……そこまで言うなら、私の家のボディソープを試しに使ってみる、というのはどうかしら」

「良いの?」

「構わないわ。何なら、何本かあげるわよ」

 

 一ヶ月分はストックしてあるから、幾つか渡しても問題は全く無い。それでまどかが喜んでくれるなら、十分過ぎると言える。

 

「じゃあ、後で使わせてね?」

「ええ、お礼だから気にせず使いなさい」

 

 まどかの言を聞いていると、家に泊まろうとしている風に感じられる。私の家でお風呂に入るつもりの様だし、そういう事なのだろうか。

 ともかく、足を撫でられるのは止められた。

 

「はーい、拭いたよ」

「ありがとう、気持ちよかったわ」

 

 終わった様だ。随分時間を長く感じたが、やっと終わってくれたらしい。確かに気持ちは悪くなかったが、居心地は悪い。自分の家の筈なんだけど、自分の家ではなくなった様だ。

 まどかが居るから、この場がまどかに支配されている様だった。今の私となってすら、主導権を取られてしまえばあちらの物だ。

 

「そうだ。折角だからさ、着替えちゃおうよ。結構汗かいちゃってるだろうし」

 

 まどかは桶を脇へ置くと、私の横へ立った。それから、私の着ている上着を自然な手つきで脱がせて、近くに有るハンガーへかけている。

 まどかは上着を脱いでワイシャツ姿になり、軽く腕を捲ると、首もとのボタンを外していた。

 

「着替えって……」

「自分でやれる、なんて言っちゃ駄目だよ。ほむらちゃん、どう見ても無理してるんだもん」

 

 着替えを手伝ってくれるらしい。

 そんなの冗談じゃない、私は逃げようとしたけど、まどかに腕を掴まれた。乱暴ではないが、決して離してくれそうな手つきでは無かった。

 いい加減に諦めるべきだと思って、私は身体を楽にする。抵抗を止めたからか、まどかは嬉しそうに私の服を脱がせた。

 風邪で体温が上がっていた為か、服を脱ぐだけで随分と身体が楽になる。まるで、今までは全身に錘でも乗せていた様な気分だった。

 

「ん……」

「ほむらちゃん、ちょっとこっちに来て?」

 

 服を脱がせ終えると、まどかは私の手を取って、寄り添いながら立ち上がらせてくれる。

 しっかり立って見せると、まどかはゆっくりと私の手を引いた。

 到着した場所は、お風呂場だ。ここまで来れば、まどかが私に対して何をしようと考えているのかは、容易に想像が付く。何せ、私は昨日、まどかに同じ事をしたのだから。

 

「さ、ほむらちゃん? 昨日のお返しに、わたしもほむらちゃんを拭いて上げるねー?」

「ま、まどか。やめて」

 

 予想通りの言葉に、私は逃げようとした。自分でも弱々しいと思うくらいの、小さな抵抗の声が出た。

 まどかは私の反応を見て、首を横へ振る。止めてくれる気は、殆ど無いみたいだ。

 その輝かしい瞳の奥には、悪戯っぽさと献身的な愛情が混ざった深くて綺麗な光りが有った。まどかは、私に対してこうしたいと思っていた様だ。

 

「恥ずかしがる事無いよ、わたししか居ないし」

「貴女だって言ってたでしょう。女の子同士でも恥ずかしい物は恥ずかしいって」

「そう言っても構わなかったのは、ほむらちゃんだよ?」

 

 反論の言葉も出ないくらい、その通りだった。まどかに同じ事を言われても、気にしなかったのを覚えている。

 自分でやった事が自分に返ってきた。その事自体は嬉しいけれど、この恥ずかしさは如何ともし難い。

 まどかが私の背中を拭いてくれる。

 

「ほむらちゃんの背中、綺麗だねー。日焼けもしてないし、こう、お嬢様みたいな」

「ん……外へ出ていないだけよ」

 

 自分でするよりもずっと気分が良い。しかし、お風呂場は他の部屋よりも断熱が鈍くて、こうやって素肌を晒していると、かなりの寒気がする。

 

「く……」

「ほむらちゃん、どうかしたの?」

「いえ……お風呂場は、少し肌寒いと思って」

 

 言葉にしてみると、余計に寒くなった。吐息が凍えた物に自然と移り変わっていき、身体が小刻みに震えてしまう。

 

「そうだっ、ほむらちゃん」

 

 まどかは私を横から抱き寄せて、身体を密着させた。体感的な寒さが吹き飛び、まどかの体温がじっくりと伝わってくる。

 それだけで、十分に心と身体が温まった。まどかは私を立ち上がらせて、お風呂場の扉を開ける。

 

「リビングに行こっか。下に何か敷けば、そっちでも拭けるし……それで良い?」

「ええ。お願いするわ」

 

 お風呂場は寒かったので、まどかの提案はとても嬉しい物だった。出来るだけまどかに負担を掛けない様に、体重を乗せない様に努力したが、どの程度軽減出来たのかは分からない。

 まどかはリビングに入るとエアコンを暖房に設定して、下に大きめのタオルを敷いた。人が一人乗るだけなら十分な大きさが有った。

 視界の先に玄関が見える。そういえば、風邪でダウンしていたので、扉を閉めるのを忘れていた。

 

「ここへ座ってくれる?」

「ええ……」

 

 まどかの指示に従って、タオルの上に腰を下ろす。比べてみると、こちらの方が何倍も温かかった。

 肌寒さはもう感じないが、代わりに身体が少し熱くなる。咳が出そうになって、堪えた。まどかの前だ。

 

「それじゃ、じっとしててね」

 

 まどかはタオルを持って、私の首筋を拭いてくれる。くすぐったいけど、まどかになら触られても嫌な感じがしなかった。

 他の誰にやって貰ったって、ここまで無条件に心を許せる事は無いだろう。何処かで忌避感や不快感が出てしまう筈だが、彼女に対してだけは全てを許せた。

 脇を拭くと、まどかは私の後ろへと回った。そういえば昨日、私も同じ事をした様な気がする。

 その予感は確かだったのか、まどかは背中越しにお腹へ手を回して、タオルで私の腰や腹を拭いていた。気恥ずかしさが有ったけど、別に抵抗する程の物では無かった。

 

「ほむらちゃん、痛くない?」

「喉が痛いわね」

「そうじゃなくって……身体とか、わたしは関節が痛かったんだけど、ほむらちゃんはどうなのかなって」

 

 それはもう、全身が痛い。まどかが居るという気分からか、行動不能とも言うべき状態は脱したが、相変わらず動きが鈍くなる痛みであるのは確かだ。

 が、まどかに心配を掛けたくは無かった。ここは嘘でも平気だと言っておく。

 

「問題無いわ」

「……ほむらちゃん、我慢強いんだね」

 

 痛みを堪えている事にバレた様だ。妙な所で鋭いまどかの言葉に、ギクリとさせられる。

 仕方が無い。見破られた事を不覚に思いつつ、頷いてみせた。

 

「ええ、それはもう。慣れてるわ」

 

 背骨をなぞる様に拭かれる感触を覚えながら、私は答えた。

 すると、まどかは何かを感じたらしく、背後から私を抱き締めてきた。一瞬だけ驚いたが、頭痛を押し殺しながら、まどかの頭を撫でてやる。

 まどかは私を逃がさない様にしているのか、腕の力が強い。風邪の時にされるのは勘弁して欲しい部類の抱き締め方だった。

 

「まどか、どうしたの?」

「わたしにもわかんない、けど……ほむらちゃんを見てたら、こうしなきゃいけない気がして……」

 

 離して、と言おうと思ったが、まどかの手が私を包み込んでいて、不思議と抵抗する気力が失せていく。

 こんな風にまどかに抱き締められるのは、これで何度目だろう。私がこんな風にまどかを抱き締めたのは、何度有っただろうか。

 無意識の内に、私は手を持ち上げて、まどかの頬を撫でていた。この柔らかな存在を保つ為であれば、宇宙を滅ぼす事ですら、私は迷わない。

 

「ねえ、まどか」

「ん?」

「どうして、優しくしてくれるの?」

 

 この子に対して、私はもう触れる権利が無いと思っていた。二度と仲良くする事も出来ないし、笑い合う事も許されない。私にはそんな資格は無く、ただ彼女の笑顔を眺める事が出来ていれば、それで良いと思った。

 でも、まどかは導かれる様に私と仲良くしてくれて、こうして私の家なんかに来てくれた上に、こんな風にお世話までしてくれた。

 自分の中の迷いが、大いに刺激されていた。まどかの敵になる事を覚悟していた私にとって、こんな関係になる事はまるで予想していなくて、だけど、こういう関係になれる事を、私はずっと前から待っていた気がした。

 

「ほむらちゃんが優しくしてくれるから、だよ」

 

 ああ、やっぱり。

 まどかの返事は予想していた物であり、この状況が私の行動によって起きた物だという何よりの証明でもあった。

 やはり、私の行動はろくでもない結果をもたらす。仲良くなってしまったら、まどかも私も、何かが有ったときに敵対し、戦う事が出来なくなってしまうだろう。

 ……いや、まどかが私と戦う気を起こさないで済むのなら、それは歓迎すべき事なのだろうか。

 

「ありがとう」

「ふふ、どういたしまして」

 

 ちょっとした打算も有って、お礼を告げてみると、まどかは嬉しそうに応えてくれた。

 予想通り、想定通りの反応だった。

 

「さて、ほむらちゃんがお礼を言ってくれたわけだし、ちゃんと拭いてあげないとねー」

「ま、まどかっ!?」

 

 しかし、その後の言葉は全くの予想外だった。

 これ以上脱がされるのは流石に恥ずかしすぎる。私がまどかの身体を拭いた時も、これ以上には至らなかったのに。

 

「わわっ! じっとしてなきゃ駄目だよ!」

 

 暴れる事で抵抗したが、まどかに抱き締められている関係で上手く動けない。

 

「動いちゃ駄目。風邪が悪化しちゃう」

「なら止めて……」

 

 お互いに落ち着いて、その場へ座り込む。相変わらずまどかは私を背後から抱いていて、何時でも押さえつけられる様にしている。

 そこまでして私のお世話がしたいのだろうか。

 

「どうしても嫌?」

「嫌じゃないけど……気が乗らないわ」

 

 動き回ったお陰で、頭痛が激しくなった。

 まどかがそれに気づいているのか、頭を優しく撫でてくれる。たったそれだけの事で身体が楽になるのだから、面白い物だ。

 

「まどかこそ、どうして私の身体を拭きたがるの?」

「それは……その方がきっと、ほむらちゃんも気分が良いだろうと思って。余計、だったかな」

「余計、ではないけど」

 

 余計ではない。余計ではないが、恥ずかしいし、酷く照れるし、それ以上にまどかにそんな事をさせる忌避感も強い。

 言葉に詰まっている間、まどかはタオルで私のうなじを撫でている。温水の心地良さと熱が奪われていく冷たさで、乱れていた思考は少しだけクリアになっていた。

 

「……」

「……ん、しょ」

 

 黙っている間に、まどかの手が動いている。今までより少し遠慮がちな手つきで、私としても恥ずかしさが軽減されるのが嬉しい点だ。

 しかし、こんな姿を他の誰かが見たら、どんな顔をされるだろう。

 はっきり言って、他人に見られたら私もまどかも憤死する事は間違い無い。それほどまでに恥ずかしい光景だと思えた。

 まあ、私の家を知っている人間は限られている。ともあれ、両親が突然帰ってきたら、私はきっと気絶してしまうだろうが。

 私の両親は今頃何処で何をしているのだろう。頑張って治療費を稼いでくれたお父さんやお母さんには申し訳ない事に、貴方達の大切な娘は悪魔になってしまったのだ。

 無心でまどかに触れられていると、余計な考えまで入り込んでくる。溶けかけの視界で玄関先を眺めていると、その扉が勢い良く開いた。

 

「おうっ、ほむら。風邪だってな、お見舞いに来てやったぞ」

「まどかー? ほむらの奴、死んでないでしょうね?」

 

 佐倉杏子と、美樹さやかだった。前者はともかく、後者は何故家に来たのかが分からない。

 いや、そんな場合ではない。この場合問題となるのは、私がこんな状態に有るという姿を、二人に見られた事だった。

 

「……え」

「……おおう」

 

 二人が目を見開いた所が、嫌に目に付く。

 今、ワイシャツ姿のまどかが、私の身体を拭いている。私は丁度服を脱いでいたから、見方によってはかなり怪しい状況に感じられるだろう。

 その証拠か、杏子の顔が青くなっている。一体、どういう状況だと見ているのか。

 

「あれ? 杏子ちゃんにさやかちゃん。二人もほむらちゃんの看病に来てくれたの?」

 

 まどかは、気づいていない。平然とした顔で私の肩を拭いている。他から見て、私達の姿がどう見えるのかは考慮していない。

 私の考え過ぎではないかとも思った。しかし、美樹さやかの顔を見てみれば、その不味さは鋭く伝わってきた。

 

「……そ、そっか。アメリカに行ってたまどかが、まさかそっちに目覚めて帰ってくるなんて」

「だ、だな。あっちはそういうのが結構有るって話だったけど、意外だぜ。ほむらの方は意外でもねえけど」

「あー、分かる。ほむらって、そういう趣味有りそうだもん」

 

 二人はひそひそと勝手な事を喋っている。

 まどかには話の内容が数割も理解できなかったのだろう。ただ不思議そうにして、私の腕を丁寧に、ゆったりと撫で回していた。

 

「だ、誰が……」

 

 そんな趣味は持っていない、と否定しそうになって、考えた。

 このままでは、まどかが誤解されてしまう。美樹さやかや佐倉杏子の口から、ろくでもない噂が流されてしまったら、まどかは傷つくに違いない。

 これは不味い。素早く頭を働かせて、私は即座に言い放った。

 

「そ、そうよ。これは。そう、わたしが命令したのよ。わたしがまどかにそうしろって、無理矢理。嫌がるまどかに強要したの……」

「ほむらちゃん、何言ってるの?」

「まどかは黙って私を拭いていなさい」

 

 言い放ったつもりだが、声が震えてしまった。

 悪魔であって変態ではなく、まどかに欲情する様な性癖も無い私には、自分をそういう風に表現するのは、少し勇気が必要だった。

 ともあれまどかは話の意味を理解出来ていないので、顔中にクエスチョンマークを浮かべつつも、私が言った通りに拭き続けてくれる。

 

「杏子ちゃん、さやかちゃん。これが終わったらほむらちゃんをベッドに運んで欲しいの、わたし一人じゃ支えられそうに無いし……頼んでも良いかな?」

「ああ、うん。勿論」

 

 杏子が勝手に上がり込んでくる。玄関でさりげなく靴を揃えて、こちらへ向かってきた。それに続く美樹さやかも、同じ様な物だ。

 部屋が一気に騒がしくなった。まどかと私しか存在しない空間に異物が入り込んできた様な不快感を覚えたが、極力顔には出さないようにした。 

 二人は私とまどかを見比べて、何やら感心する素振りを見せている。

 それから、私の近くへ顔を寄せて、笑い顔を浮かべた。

 

「……本気なわけねーだろ! 冗談だっつーの!」

「本当だったらもっと凄い反応するって……」

「?」

「ああ、まどか。こっちの話だよ、こっちの話」

 

 誤魔化しつつも、二人は興味深そうに周囲の様子を観察している。私としては早く帰って欲しかったのだが、そうも行かない様だ。

 

「ああ、これ。お見舞いな」

 

 そう言って、杏子はインスタントの卵粥をテーブルの上に置いた。買って来てくれたらしい。

 

「ありがとう。買いに行く手間が省けたわ」

「しっかり喰ってさっさと治せよ」

「ええ」

 

 杏子の気遣いは有り難い。まどかも彼女の好意を嬉しく思ったのか、笑顔で「助かるよ、杏子ちゃん」とお礼を言っている。

 彼女は部屋に置かれたソファへ腰掛けると、自分で買ってきたと思わしきリンゴに歯を立てた。結構、美味しそうだ。

 

「……喰う?」

「ええ」

「じゃ、切ってきてやるよ。包丁はあっちだったな?」

「そうよ」

 

 杏子は今までにも何度か私の家の台所を使っている。彼女は慣れた様子で、包丁を手に取っていた。

 彼女がリンゴをまな板に置いていると、何故か、まどかが羨ましそうにその風景を見ていた。

 どうしたんだろう。そう思っている間に、さやかがまどかへと話しかけた。

 

「まどか、て……ほむらの感じはどうよ?」

「わたしが来た時は酷かったけど、今はもう大分良くなってるかな。不思議だよね、薬もまだ飲んでないのに」

「ああ、まどかが居るからね、ほむらなら風邪くらいねじ伏せるでしょ」

「そうなのかな……」

「そそ、そいつってまどかに心配掛けたくない一心で身体の調子くらい軽く治しちゃうタイプだしね」

 

 何を知った様な事を、と思ったが、あえて何も言わずに美樹さやかの言葉を聞いておく。

 有る程度は図星を刺してきていた。確かに、まどかの居ない時と居る時では、私の肉体の働きは相当に変わる。殆ど別物と表現しても差し支えない程だ。

 まどかが来るまでは死ぬ寸前とも言える症状だったのに、今はもう通常の会話が可能な次元まで修復が済んでいる。魔力なんか欠片も使っていないのに、そういう結果がもたらされたのだ。

 だから、美樹さやかの言っている事はあながち間違いでも無い。

 

「さやかちゃんって、ほむらちゃんの事、結構知ってるんだね。羨ましいなぁ、わたしなんか昨日やっとお友達になれたばっかりなのに」

「はは、安心しなって。三日もすればあたしより深く理解出来る様になるからさ。だよね、ほむら?」

「でしょうね」

 

 私は思わず即答していた。少なくとも、美樹さやかの万倍はまどかを信じられる。

 それにしても、この美樹さやか。随分と……

 

「よう、出来たぜ」

「……ありがとう」

 

 思考に割り込む形で、杏子は小皿に乗ったカットリンゴを手渡してきた。一時間程前なら手に何かを持つ事すら億劫だったが、今は大丈夫だ。

 さて、とリンゴを食べようとして、そのカットの仕方に注目する。丁寧に八等分された一個のリンゴ、均等な切り口も優秀だが、それ以上に。

 

「兎カット……」

「うさぎさんリンゴだ……」

 

 まどかと二人で、揃って驚いた。リンゴは見事に兎型のカットを施されていて、しかも目と思わしき穴まで空けられていた。

 小さめに、私の口に収まるくらいの大きさに切るという気遣いと、この一分にも満たない時間で妙に凝った形を作り上げるという素早さと正確さには、驚きを禁じ得ない。

 

「そういや、杏子って案外器用なんだよね」

「ん? そうだな、刃物の使い方には結構自信有るよ。慣れてるし」

 

 それは、どちらかと言うと直接刃を扱う美樹さやかの方に分が有るのではないか。そう言いたくなったが、まどかの前での無闇な発言は慎んだ。

 

「まどかも食べて良いわよ」

「良いの?」

「勿論。第一、私は全部食べきれる程お腹が空いていないから」

 

 固い物を食べる気力は余り無い。リンゴを全て食べきる自信は無かったから、数個だけ貰って後はまどかに渡すつもりだ。

 まどかは杏子の顔を見て、杏子が頷いたのを確認すると、「じゃあ貰うね」と言って一つ手に取って食べた。リンゴ特有の、あの小気味良い音がする。

 

「うん、美味しい」

「だろ? このリンゴ、あたしも気に入ってるんだよね」

 

 自分の持ってきたリンゴが褒められたのが嬉しいのか、杏子は楽しそうに紙袋の中へ手を入れて、リンゴを丸々一つ食べている。

 盗んできたリンゴではない様だ。美樹さやかが何度か頷いている所を見た感じ、そういう事なのだろう。

 

「ところで、二人とも。私のお見舞いに来たのなら、とりあえず服を出してきてくれないかしら。ああ、そうだわ、バスタオルも持ってきなさい」

「じゃあ、わたしが」

「まどかは気にせずリンゴを食べていて?」

「そうそう、気にしない気にしない」

 

 まどかを制して、杏子が洋服箪笥から幾つか服を出してきた。

 

「これか?」

「それよ」

「これか。よし、ほれっ!」

 

 服が飛んできた。相変わらずこういう所は乱暴な子だと思いつつ、しっかり受け止める。ついでにバスタオルも飛んできたから、それも上手く掴む。

 水気をバスタオルで軽く拭い取って、上着を身に纏う。この辺が簡単に出来る程度には回復していた。

 

「きょ、杏子ちゃん。ほむらちゃんは体調悪いんだから、服を投げたりしちゃ駄目だよ」

「あ? ああ、悪い悪い。つい何時もの対応になっちまうんだよね」

 

 私は気にしなかったが、まどかは気になった様だ。杏子に向かって注意をしていて、杏子はそれを軽く流している。

 そういう気遣いは不要だ。私の為に怒ってくれるのは嬉しいけれど。

 

「まどか。別に気にしないで。それより、ベッドに入りたいわ」

「う、うん。分かった。杏子ちゃん、ほむらちゃんの足を持ってくれる?」

 

 立ち上がろうとしたが、その前に杏子が私の足を掴む。自分でやれると思って、抵抗した。だが、想像よりも強い力で捕まえられているので、離れられない。

 杏子が私の両足を掴むと、次にまどかが私の頭を倒して、両脇の下へ腕を回す。

 

「おう、これで良いか?」

「ありがと。さやかちゃんは間を支えて? わたしは、こうやって、ほむらちゃんの肩を持つから」

「ん、了解了解」

 

 椅子の背もたれと背の間へ、美樹さやかが手を入れた。

 どうやら、三人がかりで私を持ち上げようと言う考えらしい。佐倉杏子一人で十分じゃないかと思うのだが、まどかはそれを知らない。

 どうも、こうして三人に身体を触られていると、くすぐったいのと居心地が悪いのとで、かなり疲れてくる。風邪が酷くなるから、止めて欲しかった。

 でも、まどかが好意でしてくれているのだ。断るのは、気が引ける。

 

「さ、せーの、で持ち上げるね」

「ああ。せー……のっ!」

 

 三人は同時に力を入れて、私を持ち上げた。思っていたより軽々と身体が浮き上がり、安定している。落とされてしまったら、という不安は感じない。

 

「うわっ、滅茶苦茶軽い。まさか、普段から全然食べてなかったりすんの?」

「さあ」

 

 美樹さやかの指摘に、私は少しばかり考え込んだ。食事量など気にした事も無い。とりあえず食べられれば良い、という程度の考えだったから、一昨日の食事内容なんか一つも思い出せない。

 三人は私を軽く運んでる。それほどまでに私は軽いのだろうか。まどかの負担になっていないかが心配だけど、顔色を見た限りでは問題の欠片も感じられない。

 むしろ、何やら不安そうな顔で私を眺めている。

 

「ほむらちゃん、もっと食べた方が良いかも……」

「心配は要らないわ。今の所、大病の気配は無いから」

「そういう意味じゃなくて……」

「まあ、ほむらの体型って貧相だもんね、心配になっちゃうよねー」

 

 余計な事を言ってきたので、美樹さやかを睨みつける。彼女は「おお怖」とだけ言い、それ以上の大きな反応を示す事は無かった。

 

「さやかちゃん。そんな風に言っちゃ駄目だよ。ほむらちゃんは細くて綺麗で軽くって、でも可愛い所も有るんだから」

「そりゃ、幾ら何でも褒め過ぎだって」

「それはもう、自慢の友達だからね。当然だよ」

 

 まどかは、私の上半身を支えながら、胸を張った。そこで私の頭がまどかのお腹へ密着し、その鼓動、あるいは身体の中が動く音が聞こえてくる。

 この子が生きている証を、すぐ近くから感じられる。こんなご褒美が有るなんて。

 

「でも、やっぱりもう少しご飯をちゃんと食べようね、ほむらちゃん」

「まどかがそう言うなら、改善を考えるわ」

 

 機嫌が良くなってきて、思わず頷いてしまう。明日からはもう少し考えて物を食べよう。しっかり栄養が取れる様に、ブロック型の健康食品を今までより多く食べておけば良いだろうか。

 飲み物は水と野菜ジュースで良い。そう、明日からはこういう感じで行こう。

 それにしても、そんなに私は細いのだろうか。まどかも、美樹さやかも、佐倉杏子も、私と殆ど同じくらいに見えるのだが。

 隣の芝は青く見えるのかもしれない。そう思っていると、気づけばベッドの隣まで到着していた。さっきまで寝ていたからか、シーツが私の汗で濡れている様に見える。

 

「下ろすから、動くなよ」

「言われなくても」

 

 杏子に言われるまでも無く、下手に動く必要が無い事は分かっていた。

 まずは、まどかが私の頭を枕の上に乗せる。そこから美樹さやかが背中を下ろし、最後に残った杏子が足をシーツの上へと投げ出す。

 

「よい、しょ……っと。ほむらちゃん、どこか打っちゃってない?」

「ええ。特に何も無いわ」

「そっか、良かったあ」

 

 まどかが安心してくれた様なので、私も嬉しくなった。丁寧に下ろしてくれたので、幸い怪我は一つも無い。あえて言うなら少しばかり間接に痛みが走るものの、それは風邪の症状だ。

 着替えさせて貰ったお陰で、身体は気持ちが良い。少なくとも、頭の方だって悪くない気分だ。咳もかなり減ってきている。

 単にまどかの前で咳をしたくないから押さえつけているだけ、という事ではない。断じて。

 

「……」

「ほむらちゃん、何か食べよっか」

「……ええ」

 

 まだ食欲は無いが、まどかの心配を無にする意味が無い。大人しく食べるのが一番だと思える。

 

「んじゃあ、先に買ってきたお粥でも温めますか」

「賛成だ。あたしらの分も有るけど、まどか、喰うか?」

「うん、食べるよ」

 

 お粥なんか食べたいのだろうか。横から話を聞いていて、そう思う。わざわざ私のお世話に来てくれた上に、味の薄い粥を食べさせられるなんて、まどかは何て可哀想なんだろう。

 

「よし、さやか。作るぞ」

「え? 温めるだけじゃん」

「そうとも言うな」

 

 心の中でまどかの境遇に悩んでいると、杏子とさやかが部屋から出ていく。

 二人の姿が見えなくなると、まどかが私の側へ来て、耳元で囁きかけた。

 

「ほむらちゃん……食べさせてあげるね」

「……そうね」

 

 昨日、私はまどかにお粥を食べさせた。それを彼女はしっかり覚えていた様だ。

 自分があれを、しかも美樹さやかと佐倉杏子の前でされるのだと思うと、恥ずかしさで顔から火が出そうになる。

 だが、折角だからやって貰おう。精一杯楽しもう。そういう気持ちが、私の中に芽生えていた。

 




皆様はコミケ86限定商品『RAKUGAKI-NOTE Rebellion』を購入するのでしょうか。私は……はぁ。

 脱衣シーンが有りますが、極力、性的な雰囲気を出さない様に努力しています。何故なら彼女達は少女であり、まどかマギカは少女による少女の物語なので、少なくとも公式的にその手の方向が有ってはいけないと思うのです。これまでの私は何度か書いていましたが……今は、そんな風に思います。
 思えば、まどかマギカという作品は全体的な雰囲気こそ大人向けではありますが、その表現や形はどちらかと言えばそれこそプリキュア的な、少女が少女のまま生きていける世界なんですよね。
 その象徴となるのが、グロテスクシーンや、サービスシーンの無さ。本編ではちょっとだけ、しかも比喩的な流血シーン、漫画では四肢欠損まではやっていて、公式では一応温泉・水着・お風呂・過激コスチュームと一通りやっていますが、そういうのはスピンオフ・円盤の限定版特典ドラマCD・コミケ限定ドラマCD・ゲーム版・スピンオフと基本的にファンしか見ない様な所に有ります。本編、特に深夜枠ではないので子供も見るであろう劇場版は、TV版には存在した脱衣変身シーンが無くなり、より少女らしく、より力強い変身シーンに挿げ替えられていました(OPは有りましたけどね)。
 叛逆の物語なんて、肌色が殆ど無かったじゃないですか、悪魔ほむらは例外ですが、表現の関係でサービスにもなっていません。映像をしっかり見ていればわかりますが、映像的に描写された部分については、腰以外は意外と露出控えめです。イラストとかだと結構肌色が多く取られていますが、それはやっぱりファンしか見ない所に有ります。
 そういう、ストーリーの形式だけは大人向けにしながらも、全体の描写をしっかり全年齢向けにしている部分が、TV版の頃からずっと大好きです。話は残酷だがグロとかエロを描写する作品ではない、どちらかと言えば、切なさの方に訴えかけてくる。リアルではなく、ただひたすら潔癖でそれがまた綺麗な姿を取っている。これが、まどかマギカを私の中で特別な作品にしたと言っても良いでしょうね。世界観に有る一種の潔癖さ、現実離れした清潔さが、私の中の何かに触れたと言いますか。グロとかエロは、少なくとも公式には要らないんですよ。そういうのは他の作品でやればいい。
 それに、彼女達が大人向けの番組によく登場する、設定上は子供であっても内面が確立されている様な「小さな大人」ではなく、あらゆる面で「少女なのだ」としっかり表現しているからこそ、そういう残酷さや決意の重さが光るのです。大人であれば「あからさまに怪しい美味しい話に乗る奴が云々」とか言われてしまう所でも、子供であれば「判断力の無い未成年に以下略」と擁護出来る。彼女達は少女であって大人ではなく、その行動は少女の物として考えなければなりません。

 まあ、全力で「小さな大人」してエロとグロと政治に走ったプリティベルとかも好きは好きなんですけどね。あれとは色々な意味で比べられない。面白さの内約が違いますから。まどかマギカとプリティベルじゃ相棒と西部警察くらい違いますよ。色々な意味で。

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