風邪になった鹿目まどかが悪魔ほむらに看病されるだけ(完結)   作:曇天紫苑

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勘違いした二人が勘違いしたままデートするだけ
ま、まさかね。ほむらちゃんがわたしにラブレターなんて、無いよね


 何時もと同じクラスの教室、そこへ入って、わたしは見慣れたクラスのみんなに挨拶をした。

 

「おはよう、みんな!」

 

 見知った友達から返事が来て、わたしは手を振った。

 時間はホームルームより少し前、ちゃんと間に合って良かった。遅刻したら怒られちゃう。

 変わらない人達の顔に安心しながら、わたしは椅子へと座る。そんなわたしへ向かって、杏子ちゃんとさやかちゃんが歩いて来た。

 

「おっはよー、さやかちゃん、杏子ちゃん。二人とも風邪はもう大丈夫?」

「おはよ、平気平気。あたしも杏子も良い感じだよ」

 

 さやかちゃんが軽く腕を広げて、自分の健康さをアピールした。ついこの間まで風邪で寝込んでて心配したから、こうして大丈夫そうな姿を見ていると、安心する。

 

「杏子ちゃんは平気なの?」

「ん? ああ、大丈夫だよ。あたしはほら、そんなにきつい風邪じゃ無かったしね」

 

 ひらひらと手を振る杏子ちゃん。この子も軽い風邪を引いていたけど、やっぱり調子は良さそうで、嬉しい。

 

「良かった。二人ともすっかり元気だね」

「そういうまどかも風邪は残ってない感じで良かったよ。ま、まどかなら心配要らないって信じてたけどね。ほむらが居るし」

「? 何でそこでほむらちゃんの名前が出るの?」

「そりゃもう……ねぇ?」

「だよな、さやか」

 

 二人は顔を合わせて苦笑し合っていた。蚊帳の外にされた様な気分だ。けど、ほむらちゃんと今の会話に何か関係が有ったのかな。

 すると、さやかちゃんが笑いながらわたしの顔を見て、楽しそうに説明してくれる。

 

「まどかが風邪を残してたら、ほむらが一緒に登校してくる筈だって事。あ、そういえば。今日は一緒じゃないんだね」

「ああ、そうなの。今日はほむらちゃん、わたしとは一緒に来てないんだ。何か、用事が有ったみたいで」

「ふーん……ま、いっか。あいつが色々動いてないってのが、平和な証拠だしね」

 

 気のせいか、一瞬だけさやかちゃんの目が剣呑な光を帯びた気がする。けどそれは素早く消えて、いつもの楽しそうな顔つきに戻った。

 あまりに早い切り替えだったから、杏子ちゃんも今の一瞬には気づいていないみたいだ。

 

「風邪の流行も終わったし、良い天気だしねー」

「そうだねー。前の酷い雨が嘘みたい……けど、あれのお陰で良い事も有ったし、雨の日もそれはそれで良いかな、なんて」

「おお、何か色々経験してそうな言葉。まどかが大人になっちゃった気がする」

「あはは……でも、雨が降ってくれて良かった」

 

 雨が降らなかったら、わたしはいまでもほむらちゃんと親しくなれていない。あの子の素晴らしい所を知らないで、ただ怖い人だと思って、学校で顔を合わせるのを避けていたと思う。

 だから、雨で良かったんだ。今の空は快晴で、とっても明るいけれど、あの暗くじとりとした場所で、二人一緒に傘の中で歩いたのが、今はもう輝かしい思い出となっていた。

 

「……」

「まどかっ」

「えっ、あ、ごめん。ちょっとぼーっとしてたの」

「しょうがないなぁ、もう」

 

 さやかちゃんに呼ばれて、意識がこっちに戻ってきた。ぼんやり、ほむらちゃんの事を考えていた。

 最近、ほむらちゃんの事ばっかり考えている気がする。

 

「そうそう。まどか、宿題は?」

「やってきたよー。難しかったけど、ほむらちゃんが帰ってる時にやり方を教えてくれたから、何とかなったかな」

「あ、ほむらに答えを聞いたとかじゃないんだ」

「えー。そんな事しないよぉ……ちょっとだけ教えて貰ったけど」

「ちょっとは聞いてるんだ」

「ちょ、ちょっとだよ。ちょっと」

 

 わたしは、そんなにズルくない。どうしても解けない問題は、ほむらちゃんにやり方を熱心に聞いて、それでも駄目だと、ほむらちゃんは目を逸らして、独り言みたいに答えを言ってくれる。

 昨日なんか、一人で宿題をやっていて全然分からないって頭を悩ませていたら、不意にほむらちゃんから電話が来て、まるでわたしの状態を見ていたみたいに宿題の解き方を隅から隅まで教えてくれたんだ。

 頭が良くて頼れる。それでいて可愛くて、わたしには優しいほむらちゃん。自慢の友達の頭脳をちょっとだけ羨みつつ、鞄の中からノートを出して机の中に入れる。

 

「あれ?」

「どうしたの、まどか」

「いや、あのね」

 

 机の中に、何か入っていた。

 紙製の何かが入っているのが気になって取り出してみる。それは真っ白い封筒で、鹿目まどか様へ、と書かれていた。

 

「何それ、封筒?」

「そうみたい……誰だろ」

「一回、開けてみたらどうだ?」

「ん……そうするね」

 

 杏子ちゃんの言葉に従って、封筒を丁寧に開けてみる。

 中には、とても綺麗に仕舞われた便箋が入っていた。

 折り畳まれていて、まだ何が書いてあるのかは分からない。

 

「手紙……なのかな?」

「そうっぽいね、何て書いてあるの?」

「待って」読もうとした所で、大切な事に気づく。「ごめんね。もしかしたら、何か秘密のお話かもしれないから……」

「おう、さやか。ちょっと動くぞ」

「だね。了解っ」

 

 杏子ちゃんとさやかちゃんはわたしの意図を分かってくれて、手紙の中身が読めない位置に移動してくれた。

 そんな気配りに感謝しつつ、紙を開いてみる。まず目に付いたのは、その紙質の良さと汚れの無さだった。よっぽど大切な話なんだろうと思って、思わず深呼吸が出る。

 まず、最初の一文を読んでみる。文字の方も、かなり丁寧に書かれたからか、書き直した感じは全くない。

 よっぽど気を付けて書いたんだろうな。そう思いながら、わたしは文章を読んだ。

 

「……え?」

 

 その内容を理解すると同時に、困惑の声が漏れた。

 わたしの声を聞きつけて、二人が手紙の見える方向へ戻ってくる。

 

「ちょ、ちょっと読んでみて」

 

 言ってみてから、二人に読ませても良いのかな、と思った。それはとても大切で、誰かに読まれたと知ったら、きっと怒ってしまう物だから。

 けど、その時にはもう手紙は杏子ちゃんが持っていて、静かに目を通していた。

 

「……『大切なお話が有ります、今日の放課後、屋上へ来てください』だって」

「ら、ラブレターだ……」

「だ、だよね」

 

 文面は丁寧だったけど、それは確かに呼び出し……というか、ラブレターみたいな雰囲気だった。間違っても決闘を申し込まれた訳じゃない。

 混乱する中で、わたしはその手紙を返して貰い、もう一度読んでみた。

 やっぱり、呼び出しだった。しかも、全体的には凄く強い好意が伝わってきて、自分が渡されたとは思えない。

 

「まどかにもついに来たんだ」

 

 さやかちゃんが驚いていたけど、わたしはそれ以上に驚いていた。

 一通くらいはラブレターが欲しいな、なんて思った事が無いわけじゃない。でも、実際に貰ってみると、凄く困惑した。

 どうしたら良いのか分からなくなって、困ってしまう。

 

「それで差出人は、ねえねえ、差出人は?」

「さ、さやかちゃん食いつくね……」

「そりゃあんた、こんなに可愛いまどかを狙ってる奴だもん、気になるって」

 

 さやかちゃんに尋ねられて、わたしは文面を眺めた。

 同じ様に杏子ちゃんが手紙を読みとり、何だか警戒している様子を見せている。

 

「いや、こりゃ何処にも名前が書いてないな」

「……マジ?」

「うん、名前が無いの」

 

 手紙の文章は確かな好意で彩られて、満ち溢れていたけれど、やっぱり名前は書かれていない。

 困った事になって、わたしは小さく唸った。こういう物を渡してくれるのは、凄く嬉しい。けれど名前が書いてないんだから、何をどうすれば良いのかが分からない。

 杏子ちゃんとさやかちゃんは顔を合わせて、警戒する雰囲気を滲ませた。

 

「丁寧で、綺麗な字だよね。真面目な人なのかな?」

「ちょっと女の子っぽい……よね」

「女の子?」

「うん。何て言うか、どこかで見た……様な?」

 

 もう一度読んでみる。やっぱり、どこかで見た事の有る書き方に思えた。その文字の雰囲気とか、丁寧な感じとか、紙に汚れが無い所も、見覚えが有る。

 でも、誰の文字だったか、なんて簡単には思い出せない。頭の中で誰だったのかを思い浮かべようとしている内に、さやかちゃんが手紙を睨んでいる。

 

「やっぱ、怪しいね……」

「そうだよね……わたし宛てではあるんだろうけど、ちょっと怖いかも」

「無理する事無いよ。あたしが見てきてあげよっか?」

 

 さやかちゃんの提案からは優しさが感じられた。

 確かに、呼び出された通りにするのは怖い。助けてくれるなら、とっても嬉しい事だった。

 でも、生まれて初めて貰った、好意に満ちた手紙。これを送ってくれた人に会ってみたいという気持ちは、有る。

 

「……いや、やっぱり折角貰ったんだし、とりあえず様子を見てみようかな」

「いやいや、名前も書かないなんて絶対ヤバいって、やめときなよ」

「ううん、やっぱり、送ってくれた人に悪いもん。もし他の人が一緒に来たら、凄く失礼だと思うし……バカにされたと思って、傷ついちゃうかもしれないよ」

 

 わたしは送り主の顔を見てみたくなっていた。そこで何を言われるのかは分からないけど、でも、わたしにこんな手紙を出した人に、会ってみたい。

 そんな風に言うと、さやかちゃんはより一層顔を顰めて、心配そうに見つめてくる。言いたい事は凄く分かる、警戒心が無さすぎるって、そう思ってるんだろう。

 

「……まどか、最近視線を感じたりは?」

「時々有るけど、全部ほむらちゃんだよ? わたしが風邪になってから、いつも心配そうにしててね」

「じゃあ、最近誰か怪しい奴を見かけたとかは?」

「無いかなぁ」

「なら、誰かクラスの男で喋った相手は?」

「うーん……最近はさ、ほら、二人と、後はほむらちゃんとばっかりお話ししてて、男の子とはあんまりかな……」

 

 口に出してみると、やっぱり最近のわたしはほむらちゃんばっかりだと思った。

 男の子や男の人と関係する事が有った様な覚えは無い。だから、こんな手紙を送ってくれる相手になんて、心当たりは全く無いんだ。

 

「予兆は無し、か。男だったら、まどかに一目惚れしたとか?」

「あ、あはは。わたしに?」

「だって、まどか可愛いし……」

「そ、そう、かな」

 

 さやかちゃんが素でそんな事を言う物だから、わたしは凄く照れてしまう。

 でも、さやかちゃんの顔が本当に深刻そうだったから、わたしは照れを引っ込めた。

 

「まどかが行きたいのは分かった。でも、怪しいってのは変わらないんだ、あたし等も隠れて見ててやる」

「でも、それは」

「いや、駄目だ。そこは絶対に譲らない」

 

 きっぱりと言われてしまって、わたしは口ごもった。

 怖いのは、確かだった。杏子ちゃんが見張っていてくれるなら頼もしいし、いざという時にさやかちゃんが駆けつけてくれるのも、凄く助かる。

 そんな風に二人を頼る自分の弱さに少しだけ嫌な気持ちになりつつも、わたしは頭を下げた。

 

「ごめん……お願いね」

「ああ、任せとけ。やばそうな奴だったらすぐに取り押さえてやる」

 

 杏子ちゃんが、頼もしげに胸を張っていた。

 これなら大丈夫そうだ。好奇心と恐怖の間で、わたしは安心を覚える。

 わたしの表情が明るくなったからか、さやかちゃんもまた険しい顔付きを緩めて、きょろきょろと周囲を見回した。誰かを捜しているみたいだけど、結局見つからなかったみたいで、首を傾げている。

 

「そういや、ほむらは?」

「いや、見てないな。何処行ったんだ? まどか、知らないか?」

「ううん、今日は見てないかな……」

「こんな時に。あいつは何やってんだ?」

 

 頼もしいほむらちゃんが居ないのは心配だけど、安心の元でも有った。ほむらちゃんに相談したら、きっと行くなって言われて怒られる気がするから。

 ほむらちゃんがこういう時に頼れないのは、不安だった。

 でも、いつものほむらちゃんの座席には誰も座っていなくて、机も仕舞われている。まだ学校にも来ていないのかもしれない。

 わたしに送られてきたラブレターより、そっちの方が気になった。何か、学校に来れなくなる様な事情が有ったのかもしれない。そう考えるだけで、心配になってしまう。

 

「おっと、そろそろホームルームの時間だな」

「席に戻ってるから、後でまた集まろっか」

「う、うん」

 

 そろそろ良い時間になって来たからか、杏子ちゃんとさやかちゃんは自分達の席へと戻っていった。

 その時、丁度良くホームルーム開始のチャイムが鳴る。だけど、ほむらちゃんは来る様子の欠片も無かった。

 

+---

 

 約束の時間になった。

 

「準備は良い、まどか?」

「う、うん……」

 

 屋上に続く廊下の前で、わたし達は心の準備をしていた。

 結局、今日はほむらちゃんが来なかった。メールを送っても反応が無くて、電話をしても繋がらない。

 何か有ったのかと心配になったから、これが終わったら様子を見に行こう。わたしは密かに決心していた。

 でも、それより先にラブレターを送ってくれた人に会わないと。身体と心の準備をする為に、大きく深呼吸をする。

 

「緊張してる?」

「それはね……もう、何だか心臓がドキドキしてて、どんな人なんだろうって、思っちゃう」

 

 良い人そうだったら、怖い人だったら。期待と不安が膨らんで、屋上の扉を開けるのが怖くなった。もしその先に居る人がわたしに告白したら、それとも全然関係無い話だったら、色々な可能性が思い浮かんでは消えて、心の中で泡みたいに解けていく。

 どうしよう、どうすれば。こんな所まで来て、改めて迷ってしまう。後数歩踏み出せば屋上に入る事が出来るのに、高い壁の様な物に道を遮られている気分だった。

 

「先にあたしがそいつの顔を見といてやる。危ない奴なら、まどかを帰らせるぞ」

「了解、分かってますって」

 

 わたしが不安で動けなくなっていると、杏子ちゃんが先んじてくれた。頼れる背中がわたしの前を行って、屋上の扉へ手をかけている。

 

「まどか、大丈夫?」

「へ、平気だよ。ちょっと待って、ちょっと、緊張してて……」

 

 さやかちゃんに背中をさすられて、わたしは少しだけ気分が楽になった。もの凄い緊張で身体が鉄みたいに固まってしまって、大変だ。

 

「やっぱ止めとこうよ、無理してるでしょ?」

「大丈夫、大丈夫だよ。顔を見て、ちょっとお話しするだけだもん」

 

 たったそれだけの事なのに、生まれて初めての事だから、身体は正直に固まっている。

 さやかちゃんが余計にわたしを気遣う様になった。自分では平気だって思いたいけど、この反応を見ていると、そうじゃないのかな、と不安になる。

 屋上の扉を見てみる。あの先には、誰が居るんだろう。

 

「……は?」

 

 唖然とした、杏子ちゃんの声。本当に小さな声だったけど、ちゃんと聞こえてきた。

 よっぽど意外な人だったんだ。杏子ちゃんがそんな風に驚く声なんて、初めて聞いた気がする。

 

「ど、どんな人?」

「いや……意外っつーか、何だ。どういう事なんだろうな」

「ど、どういう意味?」

 

 歯切れの悪い声を聞いていると、興味が沸いてきた。こ

ちらを振り向いた杏子ちゃんの顔は、迷っている様な、戸惑っている様な感じがする。

 わたしと同じ様にその反応へ興味を持ったのか、さやかちゃんは興味津々という顔で尋ねた。

 

「杏子、相手はカッコいい人だった?」

「そう、だな。カッコいい? いや可愛いのか? いや、まあ確かに顔は滅茶苦茶良いぞ。うん」

「は、はあ? どういう事よ、それ」

「まあ、二人とも見てみろ。そうしたらすぐ分かるぜ」

 

 杏子ちゃんが扉の横へ身を退ける。

 扉は本当に小さく開いていて、中を覗くには丁度良い隙間になっていた。

 

「じゃ、じゃあ」

 

 勧められる様な気分で、わたしとさやかちゃんが隙間から屋上を見る。

 フェンスの一番先に、その背中が有った。黒くて長くて綺麗な髪と、細くて清楚なストッキング。その両手を背中で握り、ふわふわと揺れているその姿。

 珍しいと思った。あんな風に身体を左右に揺らせて、落ち着きの全くない姿を見せているなんて。

 

「ほ、ほむら?」

「な、何でほむらちゃん?」

 

 わたし達は、驚きの余り顔を見合わせた。

 そこに居るのは、紛れも無くほむらちゃんだった。あの姿を私が見間違う筈も無いし、髪の間から微かに光るイヤーカフスが、ほむらちゃんの証みたいに輝いているから。

 そして、ほむらちゃんは全く落ち着いていなかった。うずうず、そわそわ。そんな感じだ。まるで誰かを待っているみたいだった。

 

「……もしかして、ほむらちゃんが送り主?」

「み、みたいだね……どうしてまた」

 

 この手紙に書いてある事が正しいなら、あそこに居るほむらちゃんこそがわたしを呼び出した張本人だ。

 でも、何の為に呼んだんだろう。普通に顔を合わせる機会は沢山有るんだし、呼び出して話さなくたって、下校時間に二人っきりでお話する時も有るんだから。

 

「ま、まあ。あいつの事だから割と重要な話なんだろ? その、信頼出来る奴だし、会ってやっても良いんじゃねえ?」

 

 杏子ちゃんは今も意味が分かってないみたいだけど、それでもアドバイスをくれた。

 微妙に顔が赤い様な気がする。もしかして、ほむらちゃんがわたしにラブレターを送ってきたから……ラブレター?

 

「あ、ああ、だね。まあ、ほむらなら大丈夫か」

「ふ、ふえっ。ちょ、ちょっと待って。まだ心の準備が……っていうかほむらちゃんだよ、ほむらちゃん。ほむらちゃんがラブレターを送ってきてくれたんだよ?」

「だから大丈夫なんだって、ほむらなら、まどかが緊張してるなら気遣ってくれるだろうしね」

 

 わたしの胸はとにかく動いていた。ドキドキする気持ちとは別に、ほむらちゃんが居たという驚きでもう心臓が動き回っているんだ。

 

「でも……そうだよね、折角、ほむらちゃんが呼んでくれたんだもん。会ってお話をしないと……」

 

 きっと、大切な用事でも有るんだろう。

 相談事とかなら、ちゃんと聞いてあげたい。今まで沢山助けて貰ったんだし、ほむらちゃんの助けになれるのなら、それが一番だ。

 

「とりあえず話してきなよ、まどか。大丈夫、何か有ったらすぐ飛び出すから」

「い、いいの……その、ごめん。二人は戻っててくれないかな」

 

 相手が誰か分からない間は、二人が居てくれて安心したけど、相手がほむらちゃんなら、何の心配も無い。

 それでもわたしを案じてくれているみたいで、杏子ちゃんが目を細める。

 

「……良いのか?」

「うん。ほむらちゃんだもん。安心出来るし、それに、ほら。二人だけの秘密のお話とかだったら、二人を一緒に連れてきたって言って、ほむらちゃんが怒っちゃうかもしれないから」

「あいつがまどかにそんな程度の事で怒るかねぇ……ま、ほむらに乱暴されそうになったら駆けつけるから、安心しなよ」

「それこそ無い、だな。覗き見してたあたしらをぶっ飛ばす、なら有りそうだけど」

 

 だよね、と。わたしは杏子ちゃんの言葉に内心で同意した。わたしがほむらちゃんに酷い事をされる、というのは全く想像出来ないから、まるで心配はしていないけれど。

 

「じゃあ、あたしらは戻ってるわ。話せる事だったら、後で教えてね」

「う、うん」

「もしかしたら、愛の告白とかかもよ?」

「はは……」

 

 もし、そうだったらどうしよう。でも、ほむらちゃんはいつもわたしを大切にしてくれるし、もしかして、まさか。

 まさかね。そんな風に思っていると、さやかちゃんと杏子ちゃんは鞄を軽く持って、そのまま背を向けた。

 

「ごめんね、心配して付いてきてくれたのに」

「良いって。それよりほむらと話して来なよ」

「う、うん」

 

 結構心配をかけさせちゃって、何だか悪い事をしてしまった気がした。

 でも、二人にはそんな事を気にする素振りなんか一つも無くて、むしろ安心してる様に思える。

 二人が廊下の先へ消えた所で、わたしは扉の方へ向き直った。この先には、ほむらちゃんが居る。ちょっとした覚悟を決めて深呼吸を一つ。それから、わたしはドアノブを掴んだ。

 




 これを読んでいる皆様はC86に参加出来たのでしょうか。私は出来ませんでした。ラクガ罪罰罪罰罪罰罪罰罪罰罰罪罰罪罰を手に入れた方はおめでとうございます。

 さあ、素晴らしい事に鹿目さんの誕生日まで、後一月と半分です。
 私にとっても、私が書いた彼女達にとっても特別な日である事は間違いないのですが、問題は何をどう祝うかですね。
 今の所、四作品全部更新したいな、と思っています。が、間に合うかな……一応、これはもうとりあえずの終盤には差し掛かっているので、大丈夫だとは思いますが。

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