幻想郷に中途半端に転生したんだが   作:3流ヒーロー

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もちろん成長したことは色々あるだろうけどその人の本質ってのはあんまり変わんないんじゃないかなと思います。





思い返すと昔も今も自分の中身はあんまり変わらない

 

 

 

 

 

 

ひしがきは魔法の森の他に2つの住処を持っている。

 

一つは迷いの竹林。そしてもう一つは無縁塚。

 

迷いの竹林は日々竹が成長し、ひしがき自身もその道筋を詳しく知っているわけではない。しかし、ひしがきは迷いの竹林にある住処に転移用の陣を敷いているために道を知らなくても住処に移動することができる。

 

無縁塚においても同様に陣を敷き定期的に使える道具を拾ってきている。もっともここに命蓮寺の賢将が住み着いてからはあまり行ってはいないが。

 

なぜひしがきが複数の場所に住処を持つのか。それは、ひとえに身を隠すためである。何かあった時にはすぐに身を隠すことができるようにとひしがきは拠点を分けているのだ。

 

そのおかげで自分の元に来る連中から身を隠すことに今まで成功してきた。どこぞの花妖怪から逃げた時は、代わりに家を粉々にされていたが。

 

普段は魔法の森で時間を過ごしており、無縁塚には道具の収集、竹林の家にはひしがきの荷物が一通り置いてある。

 

ひしがきは基本的に住処から離れようとはしない。よってこの三つがひしがきの行動範囲のほとんどであった。

 

 

 

 

 

 

迷いの竹林。

 

妖怪の山とは反対に位置する広大な竹林。その中のどこかに存在するひしがきの住処。この住処は魔法の森にある小屋と違いしっかりとした作りの家となっている。

 

大きさはそれほどでもないが一人で住むには十分の大きさがある。中にはひしがきが無縁塚で拾ってきた道具が並んでいる。

 

冷蔵庫、テレビ、絨毯、タンス、机、天井には電灯が吊るしてある。そのレイアウトは外界のにおける一般的な家にあるものと近い。せめて形だけでもとひしがきが拾い揃えたものである。当然、電気などないこの世界ではただの飾りでしかないが。

 

ひしがきはその家の外、暗い竹林で座っていた。ひしがきは座禅を組み目を閉じている。その手には数珠が握られていた。

 

今ひしがきは瞑想をしているわけではない。かつて霧雨の主人からもらい受けた数珠に、自分の呪いを込めているのだ。

 

数珠とは呪珠とも読み陰陽道においても法具として使われる。珠の数は108個。これは人の煩悩の数を表しており数珠の基本的な珠の数である。

 

ひしがきはその珠の一つ一つに己の力を込める。以前霖之助に聞いた時にこの数珠は霧雨の槍には遠く及ばないもののかなりの逸品だと聞かされた。おそらく俺の呪いを込めることによって強力な呪具になるだろうと。

 

霖之助の読みは当たったようで少しずつではあるがこの数珠は強力になっている。別にひしがきはこの数珠を強力な呪具にして何をしようというわけではない。これはただの手慰みだ。

 

瞑想か鍛錬か、そのどちらかが基本的なひしがきの日の過ごし方になる。そして気が向いたら畑を耕したりこうして数珠を弄んでいるのだ。

 

動機はどうあれ長い間ひしがきの呪いを受けてきたこの数珠は今やかなりの呪具となっている。これの有効な使い道でも考えてみるのも気晴らしになるかもしれない。

 

そう考えていると、ひしがきは目を開けて視線をある方向に向けた。誰かが来る。ひしがきの鋭敏な感覚はこちらに向かってくる気配を捕えた。

 

竹林の兎か。何度か来たことはある。何を話したか覚えてはいないが2、3言葉を告げて去って以来まともに話したことはない。永遠亭の住人とはお互い干渉したことなどない。この竹林に住む不老不死の案内人はこんなところに用などないだろう。

 

恐らくはただの妖怪。この竹林にも妖怪は住んでいる。襲ってくる妖怪を返り討ちにすることはよくあることだ。

 

ふとひしがきは手に持っている数珠を見つめる。

 

(……使ってみるか)

 

せっかくの機会だ。一度使ってみるのも悪くはないだろう。そう思い数珠を握る手に力を込める。

 

もう気配はすぐそこまで来ていた。暗い竹林の先からその妖怪が姿を現した。

 

「……あれ?ここ、どこ?」

 

そう言ってこの竹林に住む人狼、今泉影狼はひしがきの前に現れた。

 

 

 

 

 

今泉影狼。

 

竹林のルーガルーと呼ばれる狼女。恐らくそう遠くない先に訪れる異変、輝針城にて一時的に暴れだす妖怪の一人。本来の性格は温厚である。

 

それがひしがきの知る影狼の情報だ。

 

しかし、ひしがきは数珠を握る手から力を抜かない。自分が持つ情報は所詮はただの記憶の中にある知識としての情報。ただの情報と実際の現実が大きく違っていることは骨身にしみている。目の前の妖怪が自分に危害を加えない理由にはならない。

 

油断なく目を光らせるひしがきに、影狼はあたりをキョロキョロと見渡している。

 

「あれ?道に迷った?う~ん匂いがこっちに来てたからこっちだと思ったんだけどなぁ」

 

影狼は、前方のひしがきに気づかないで歩いている。影狼ゆっくりとただ歩いて近づいてくる。

 

「………おい」

 

「え……?ひゃあ!?」

 

こちらから声をかけてようやくこっちに気づいた影狼はいきなり現れた(と思っている)ひしがきに驚いて飛び上がった。

 

「い、いつの間に私に近づいたの!?」

 

「……お前からこっちに歩いて来たんだよ」

 

「え?あれ、そうだっけ?あ、あはは~」

 

「………」

 

恥ずかしそうに頭を掻く影狼に、ひしがきは感情の読めない無表情を向ける。

 

「……用がないならさっさと行け」

 

「あっ、ちょっと待って」

 

小屋に入ろうとするひしがきを、影狼が呼び止めた。

 

 

 

 

 

 

今泉影狼は迷いの竹林に住んでいる妖怪だ。

 

しかし、彼女は竹林の地理を全て把握しているわけではない。人狼の妖怪である彼女は自分の縄張り…というか住処を中心とした一定の範囲の匂いを識別することで竹林に迷わず住むことができていた。

 

本来ならば匂いを識別できるテリトリーから出ることは滅多にない彼女だったが今回はそういうわけにもいかなかった。

 

わかさぎ姫

 

影狼の友であり、共に草の根ネットワークという集まりの仲間である彼女が病に罹ってしまったのだ。わかさぎ姫の下半身に赤い斑点が浮かび高熱が出たために彼女は倒れてしまった。

 

そこで影狼は同じ竹林に住む永遠亭の医者にわかさぎ姫を見てもらおうとしたのだが苦しそうなわかさぎ姫を無理に運ぶわけにもいかないため、同じ草の根ネットワークの仲間である赤蛮奇に看病を任せ影狼が呼びに行くことのなった。

 

しかし、本来ならば永遠亭まで案内してくれるという不老不死の人間が何処かに出かけていたため待っている時間も惜しかった影狼は一人で竹林の中を探すことにしたのだ。

 

 

「―――それで、竹林の中で匂いを頼りに当てもなく探してる時、竹林の香りとは違う匂いを見つけここに来たと」

 

「うん」

 

確認するひしがきに影狼は頷く。

 

「ねぇ、あなたもここに住んでるなら永遠亭の場所を知らない?一緒に探してほしいの。早くいかないと、私の友達がすごく苦しそうなの………」

 

「………」

 

すがる様にこちらを見上げる影狼にひしがきは無言で返す。

 

会ったばかりの他人に同情し親切にできるほど、ひしがきの心に余裕はなかった。まして彼女はこの物語の登場人物。関わって後々の面倒になることは出来るだけ避けたい。

 

できる事ならさっさとここから去ってほしいのがひしがきの本音であった。

 

「……ごめんなさい。いきなりこんなこと言っても無理よね。じゃあ、私は行くから………」

 

そう言って肩を落として影狼は、早く探さなければと再び鼻を利かせて永遠亭を探そうとする。

 

「おい」

 

「なに?私はもう行くって…きゃ!」

 

ひしがきの声に焦りながら振り向いた影狼に向かてひしがきは何かを投げた。慌ててそれを掴む。

 

「ちょっと!いきなり何する、ってこれ何?」

 

影狼は手に持ったそれを不思議そうに見つめる。丸い形をしたそれは一方の面が透明になっており、その中には見慣れない文字と矢印があった。

 

「それはコンパス…言っても分からんか。赤い針の指す方角が北だ。永遠亭はここから真っ直ぐ南東にある。………それを頼りに行けばいい。ある程度のところまで行けば匂いでわかるだろう」

 

影狼はぽかんと手に持ったコンパスとひしがきを見比べた後に、

 

「…………っ、ありがとう!」

 

そう言って笑顔を浮かべて礼を言った後、勢いよくに走って行って、

 

「ふぎゃっ!?」

 

ひしがきの張った結界にぶつかった。

 

「……そっちは南西だ」

 

「あうぅ、も、もうちょっと優しく教えてくれたって………」

 

影狼はぶつけて赤くなった鼻を押さえながら涙目になってひしがきを睨むが、正直迫力も何もない。

 

「いいから早く行け。友達が待ってるんだろ?」

 

ひしがきの言葉にハッとなった影狼は気を取り直してコンパスを見る。永遠亭がある南東を確認し今度こそしっかりと走り出した。

 

「私の名前は今泉影狼。あなたは?」

 

立ち止まって振り向きざまに影狼はひしがきに尋ねる。

 

「…………ひしがきだ」

 

「ひしがき!本当にありがとう!」

 

少し迷って答えたひしがきに、大きく手を振って影狼は再び礼を言いながら走っていく。その姿を、ひしがきは無言で見送った。

 

 

 

「きゃんっ!?」

 

「…………」

 

今度は竹にぶつかった影狼に、ひしがきは小さく息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

今度こそ本当に影狼が走り去った方角を見ながら、ひしがきはどうしようもなく自己嫌悪に駆られていた。

 

「………ッ!!」

 

ひしがきは手に持った数珠を振るう。すると数珠は大きくその長さを伸ばし竹を数本まとめて縛り上げる。数珠の呪いが竹を一瞬にして浸食し、ひしがきが数珠を引くと竹はいとも簡単にあっさりと折れて倒れた。

 

「……ハァ~~~~~~~~………」

 

数珠を手元に戻したひしがきは治まらない感情を吐き出すかのように大きく息を吐く。頭をガシガシと掻いた後、また息を吐いた。今度は無理矢理落ち着くためではなく、まるで自分自身にあきれるように。

 

「何、やってんだよ……ほんと……」

 

自分の事で、精一杯のはずなのに。何故、他人の世話を焼いているのか?そんなものは自分でも分かっている。偽善、引け目、自己満足、倫理観。そう言った自分の中のいろいろなものが、自分を今も縛っている。

 

いっその事、悪人になれたらどれだけ楽だろうと思った。それでなくても誰ともかかわらずに仙人の様に一人きりでいれたらまだよかった。

 

だが、どうしても悪人には成り切れなかった。どうしても人間相手自分の力を使う事が出来なかった。使ってしまったら、何か超えてはいけない一線を越えてしまうようで、臆病な自分は結局逃げる事しかできなかった。

 

それなのに、こんなにも自分は寂しかった。あんなに酷い目に合わされていても、誰かに慰めてほしい、側にいてほしいと思ってしまう自分が情けなくて仕方なかった。未練がましく里を遠くから見る自分が、馬鹿みたいで仕方なかった。

 

詰まる所、自分は結局昔と変わらない。ただの凡人だった。孤独に慣れず、悪人にもなり切れない、都合のいいことだけを思っている。ただ流されて生きているだけの中途半端な存在でしかなかった。

 

だから今の様に、相手が妖怪であったとしても縋られたら非情になり切れずに手を貸してしまった。理性のない相手には力を振るえても、人間と変わらずに接することのできるというだけで、妖怪にさえも自分は割り切ることができていない。

 

「…………」

 

ひしがきの自己嫌悪はしばらく収まることはなかった。まるで光が見えない真っ暗闇の中で一人で悶えているようだった。

 

 

ジャラ

 

 

ジャラ…ジャラ…

 

 

ひしがきの持つ数珠が、震えるように擦れて鳴った。

 

 

 

 

 

 

 






ヒロイン一人目登場。次回は他の二人との出会い編となります。

ひしがきの抱える葛藤は多くの人が抱えるモノだと思います。人間周りから虐められようともある一線は越えられない。越えてしまったらそれは悲劇へと繋がってしまうと心のどこかでわかっているからですね。そこで耐えられなくて自らに決を下すか、歯を食いしばって耐え忍んでいくのか…。

この作品を書いていると自分が過去に傷つけてしまった人を思い出します。今からでも謝りに行こうと思っています。



なんか感想で自分が東方嫌いみたいな感想が書かれていましたがそんな事はありませんよ。自分は東方が大好きです。そんでもって東方キャラも大好きですよ。作中じゃひどく書かれているゆかりんやゆうかりんも大好きですよ。

ただ今更ですが、自分の書きたい世界観は違うという事です。遅すぎましたがその点をご理解していただきたいです。ですからキャラをゲスっぽく書くこともこれからも多々あります。ただし、無意味にゲスっぽくしているわけではありませんよ。そこら辺はもう少し辛抱してもらえたら分かると思います。



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