よ、ようやく投稿できた。
週一ペースと言ってすぐに間が空いてしまってすいませんでした。
ソレは自分の中から出てきた。
ソレは自分の奥から出てきた。
ソレは自分を介して出てきた。
ソレは自分を通して這い出てきた。
ああ、そうか、これが――――■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
「………っ!」
唐突に、ひしがきは目を覚ました。意識は混濁し、まるで頭の中をかき回されたような頭痛と眩暈がする。体を動かそうとするが平衡感覚さえも正常に機能しておらず、どっちが上でどっちが下なのかもわからない。まるで世界が回っているように感じる。
それでも手探りで地面に手をついて力を込める。四つん這いになって顔を上げる。
(……なん、だ………一体、何が起こって…)
自分は一体何をしていた?
視線を周囲に巡らせる。そこには光が満ち溢れ、世界を映し出している。
違う、ここじゃない。自分はさっきまでこんな場所にいなかった。自分はさっきまでここではないどこかにいたはずだ。あそこが一体何だったのか。自分はそれを一瞬だが理解しかけていたはずだ……。
何かを思い出そうとひしがきは無意識に視線を巡らせる。そしてその一角に視線を移したとき、ひしがきの中の疑問は一瞬ににして吹き飛んだ。
「いろはっ……!」
眩暈も痛みも無理矢理抑え込みいろはに駆け寄る。ひしがきはいろはを抱き起しいろはに呼びかけた。
「いろは!しっかりしろ!」
ひしがきの呼びかけに、いろはは答えない。ひしがきはいろはの口元に耳を寄せいろはが呼吸をしているか確かめる。幸い気を失ってから僅かの時間しかたっていなかったためか弱弱しくもいろはは息をしていた。出血もそれほど広がっていないことから多くはないようだ。だが、それでも安心することはできない。一刻も早くいろはを医者のもとに連れて行かなくては万が一のことも起こり得る。
ひしがきは簡単な応急処置をいろはに施しいろはを背負い走り出した。向かうは里の避難所。そこには里の人間が集まっているはずだ。当然そこには医者もいるはずである。鬼との戦いで自身も傷と疲労も激しいひしがきは、かまわずに懸命に走る。
ひしがきが避難所近くまでやってくると、その前に退治屋たちと里長の姿があった。里長は退治屋たちと何かを話し合っていたがひしがきを見ると驚いたように駆け寄ってきた。
「いろはを!頼む、酷い怪我をしてる!見てやってくれ!」
里長が何かを言う前にひしがきが懇願する。いろはを見た里長はすぐに近くにいた者に指示を飛ばす。いろはを預けるとすぐにいろはは避難所のほうへ運ばれていった。そのあとに続こうとするひしがきを里長が止める。
「ひしがきよ、妹が気がかりだろうがまずは現状を教えてくれんか。今しがた退治屋たちとも話していたがお主からの話も聞きたい。……それにお主自身も手当をせねばなるまい」
「……わかりました」
ひしがきはしばし迷った後に承諾した。
ひしがきは簡単な手当を受けた後、里長にこれまでの経緯を話した。瘴気を発していた鬼瓦、三体の鬼、ひしがきが見た里の被害、鬼との戦い。すべてを話し終えた後、考え込むように里長は腕を組み小さく唸った。しばらくして口を開くとひしがきに言った
「ひしがきよ、まずは今回の件、ご苦労じゃったの」
「……いえ、結局被害は防げませんでした。それに、頭領も………」
「確かに、あやつは長く里のために働いてくれた。惜しい男を亡くしたが頭領も他の退治屋たちも里の人間を守るために戦ったのじゃ。悔いはないだろうて。大きな被害も出てしまったが鬼3匹が相手と考えれば被害が出るのもやむお得まい。時間が掛かってもいずれ里の傷も癒えよう。お主は十分によくやってくれた。」
「……………」
里長の言葉に、ひしがきは素直に喜ぶことはできなかった。もうすぐ博麗の仕事も終えることができる時になって、相手が悪かったとはいえ最後の最後にこれだけ大きな被害を出してしまったのだ。
今まで自分が死にかけることはあっても里にだけは直接的な被害は出さないでこれていた。その結果いろはにまで危険な目に合わせてしまい、挙句怪我をさせてしまたのだ。
他の家族は無事だろうか?弟達。妹達。自分にとってかけがえのない存在である家族は無事に非難することはできただろうか?もし無事ならここに逃げているはずだ。いろはの事も気になる。
「……自分はこれで失礼します。」
「うむ、今回はご苦労じゃった。重ねて礼を言う。部屋を用意しておくから一度ゆっくり静養するといい」
里長に頭を下げ、ひしがきは避難場所へと向かった
里の人が集まっている避難所では、鬼退治の報を受けてか全体が安堵した雰囲気に包まれていた。しかし、やはりここにも鬼の被害は届いていた。怪我をして治療を受けている者や家族とはぐれてしまった者など所々にその傷跡を残している。
恐らくは逃げる遅れて命を落としてしまった者も少なからずいるだろう。退治屋の中にも死んでしまった者もいる。
(……みんな無事だろうか)
家族が気にかかるが、まずはいろはの様子を見るために治療を受けているであろう場所に向かう。その途中で打ちひしがれた里の人間を見かける度に、責任感からか押し潰されそうになる。
治療場に着くと、そこには治療を受けるいろはと一緒に次男の弟がいた。
「アニキ!」
弟は俺に気が付くと駆け寄って来る。
「無事だったか。みんなは?」
「みんな無事だよ。いろはだけが途中でいなくなって、もしかしたらと思ってここに来たらいろはが運ばれてたんだ」
「そうか…。いろはは?」
「まだ治療中だけど、命には別状はないって」
弟の言葉にひしがきはここにきて初めて安堵をした。家族は全員無事、いろはも命を落とすことはない。自分にとってはまずは一安心だ。
「…お前は一先ずいろはの無事をみんなに伝えておいてくれ」
「わかった。アニキは?」
「俺はまだすることがある。みんな不安がっているからな、ここの安全を確認したら里長の指示があるまでは休むつもりだ」
「わかった。それじゃあまた後でね」
「ああ」
そう言って走っていく弟を見送るとひしがきは避難所を一望できる場所へと移動する。辺りを見渡すが特に目立った様子はない。それも当然だろう、さっきまで鬼が暴れていた場所に近寄ろうとする妖怪などそうはいない。
後は人が落ち着いたら里の安全を確認して里の修復を……
「…………あ」
足元がふらつきその場に手を突く。気を入れて立ち上がるが体は力が抜けフラフラする。
無理もない。度重なる死闘で体力気力ともに限界以上を使い切っていたのだ。いい加減体がいうことを聞かなくなっても仕方ない。
どうしようかしばらく迷ったが、このままでは自分自身が使い物にならなくなってしまうと考え休むことにした。とりあえず妖怪はもう襲ってはこないだろうし何かあるまで休もう。
里長から与えられた一室へ向かうと、そこにはすでに布団が敷かれており、そばに水と握り飯も置かれていた。せっかくなのでひしがきは握り飯を頂いた後に布団に横になると、すぐに意識は微睡んで眠りに落ちていった。
――――!?――――!
―――――!!
―――!
遠くから聞こえてくる喧騒に、ひしがきはゆっくりと眠りから目を覚ました。窓から外を見るとすでに日は落ち暗闇が辺りを覆っている。
遠くからはまだ騒ぎ声が聞こえた。何事かと一瞬で飛び起きるが、聞こえてくる声は悲鳴ではないようなのですぐに落ち着いた。それでも何かあったのではないかとひしがきは身を整えて避難所の方へと向かった。
「――――――――ッッ!」
「――――――!?」
避難所に向かうと、そこには里長を始めとする里の重鎮たちの周りに人だかりができており殺伐とした空気に包まれていた。人だかりからは次々に怒声が上がり長たちを囲んでいる。長は必死になって何かを言っているが怒声は鳴り止む様子がない。
そして長たちを囲む人だかりの内誰かが、やってきたひしがきに気づいた。
「いたぞ!あいつだ!!」
その声に怒りの声が止むと、そこにいた全員がこちらを向いた。自分を見つめる無数の目にひしがきは息をのんだ。
そして僅かな間を空けて、怒声とともに人々が鬼気迫る形相でがこちらへとやってきて、雪崩のようにひしがきを呑み込むようにして取り囲んだ。
「見つけたぞこの役立たずがっ!」
「貴様っ!自分がどれだけのことをしたかわかっているのか!?」
「のこのことよく顔を見せられたものだな!!この人でなしが!!」
「どれだけの被害が出たと思っている!!」
「一体どうしてくれる!?」
怒号が暴力を伴いひしがきに襲い掛かった。ある者は怒りに我を忘れ締め上げ、またある者は目に涙を浮かべながら殴りかかった。
そこには大人がいた、子供もいた、老人もいた。男もいれば女もいた。里のあらゆる人間がひしがきに非難を浴びせていた。
「がっ、は…あ……!」
本来守るべき、実際ずっと命がけで守ってきた里の人間からの暴力にひしがきは訳も分からず飲まれ続けた。ただでさえ疲労困憊のひしがきは、里の人間に手を上げるわけにもいかずなす術もなくされるがままになる。
遠くに長たちが割って入ろうと叫んでいるのが目に見えた。だが人だかりは濁流の様にひしがきを引きずり離そうとはしない。
「お前、一体鬼が里を襲っていたとき何をしていた!?ええっ!!!」
男がひしがきに掴み上げて言った。
「……ご、ふっ!」
別の鬼と戦っていた。里を守ろうと必死だった。そう弁明する暇さえ与えてはくれなかった。
「お前っ!!一体っ!!どれだけっ!!みんなが苦しんだかわかるか!!!失ったかわかるか!!?」
老人が殴りながら声を上げる。
「うちの人は……家族を守ろうとして、鬼に殺されたのよ!!あの人を返してっ!返しなさいっ!!」
若い女性が泣きながら棒を叩き付ける。
「うあああああああ~~~~~~~~~~~!!!」
子供たちが泣きながら石を投げつけてる。
家族を失った、家を失った、友達を失った、大切なものを失った。皆が皆、怒っていた。悲しんでいた。苦しんでいた。
ひしがきは、ここにきてようやく気が付いた。結果だけを求められることは知っていた。力が及ばないことを責められることも知っていた。自分の努力が評価されないことも知っていた。
それでもひしがきは自分を博麗だと思っていた。幻想郷における調停者、たとえ代行者とは言え幻想の守護者であると。ソレは不可侵の存在であると思っていた。心の中で疎まれようとも、守るべきものに牙をむかれることはないと、無意識に思い込んでいた。それが勘違いであるとひしがきは気づかされた。
「まっ、で……ちが…俺は、ちゃんと……!」
途切れ途切れにひしがきは説明しようとする。自分は里を、人を、守ろうと精一杯の力を尽くしたんだと。決して責任を果たさなかったわけではないと。しかし言葉は届かない。
「死ね!!死んで償え!!」
「………!!!」
一方的な暴力がピークに達しようとしていた。ここにきてひしがきはもうどうあっても自分の言葉が届かない事を察した。殺される。人々の血走った目に、今まで遭遇した妖怪とは違う別物の恐怖を感じた。
「う、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!」
それを感じた時、ひしがきの体は無意識に動いていた。手を地面に着きもがく様にして人の濁流から逃れたひしがきは、全速力で走った。
後ろからはまだ罵声が聞こえる。それを振り払うようにして、ひしがきは遮二無二駆け出した。今までひしがきが守ってきた場所は、ひしがきにとってもはや敵地と化していた。
「はぁ……はぁ……はぁ……!」
ひしがきは無我夢中に走っていた。どこをどう走っていたかもよく覚えてはいないひしがきは、気が付けば博麗神社の石段に倒れて這い上がっていた。
何が悪かったのだろうか?自分は、命を賭して戦った。守ろうとした。里の人間が自分に対してあまりよくは思っていないことは知っていた。それでも、いつかは認めてくれると、自分の苦労を労ってくれるだろうと期待もしていた。
―――――死んで償え
「!……ウ、オェェェ!」
あんまりな里の人間たちからの仕打ちに、ひしがきは胃の中のものをぶちまけた。気を抜けばまた後ろから追って来るのではないか。そんな焦燥感に追い立てられたひしがきは逃れようと博麗神社へと必死に向かっていた。
そして、石段を登り切った時、
「………………………………え?」
そこにはこれまで一緒にいた狐の女性ではなく、その主人である妖怪の賢者八雲紫がいた。だがひしがきがそれよりも驚いたのはそこではなかった。ひしがきの視線はその横にいる者に向いていた。
八雲紫の隣に立つ人物、それは
――――――懐かしいとさえ思う先代の博麗の巫女だった。