作者「主人公の理解者にリクエストある?」
友人「 八雲紫(腹黒)
風見幽香(愉悦)
EXルーミア(復讐)
鬼人聖邪(悪意)
霍青娥(腹黒) 」
作者「………………その心は?」
友人「絶望しかない(ゲス顔ドヤァ)」
そんな展開にはなりません。
「ねーねー兄ちゃん」
「ねーねー」
「ねー!」
「…兄上」
「とうっ」
「やあー」
「うー」
風見幽香の件から2月ほどがたった。俺の体はようやく動ける程度にまで直っており、あと一月ほどで博麗の仕事に戻れるだろう。長の下での重看護も終えた俺は実家に戻っていた。
「一度に頼まれても話せないぞ。どれか一つにしてくれ」
俺は自分の周りでちょこまか動き回って遊んでオーラ全開の弟妹達に言う。
「けっかいつくってー!」
「しらゆきひめー」
「かぐやひめー!」
「…忠臣蔵を」
「ようかいたいじしてー」
「おれもー」
「あー」
「……もうちょっとまとめてくれ」
…………子どもの世話は重労働だ。一番下の弟をあやしながらそう思った。
久しぶりに実家に帰ってきてみると、弟妹達は誰一人として昔の俺の様に働いてはいなかった。もちろん家の手伝いはしている。しかし、今は全員が寺子屋に通える程度に家系は安定していた。どうやら長は約束をしっかり守ってくれたようだ。
おかげで家族は毎日の生活に苦心することもなく、弟妹達は子どもらしい生活を送れている。俺の苦労がこういう目に見える形で報われているのを見ると少しばかり心が軽くなる気がする。
「ねー、兄ちゃん!けっかい!」
そういって俺にねだるのは8歳になる次男。
「はいはい、ほら」
四角形の結界を張ると嬉しそうにそれに登って遊びだす。
「しんでれらー」
「ア○と雪の女王ー」
「……さっきと違わないか?」
そういって話をせがむのは7歳の長女と6歳の次女。
「…忠臣蔵を」
「うん、お前はちょっと待ってくれ」
どうしてこう育ったのか分らない5歳の三女。
「「にいちゃん!ようかいたいじおしえてー!」」
「十年早い」
息がぴったりの4歳になる双子の三男四男。
「……うぇ~ん!」
「ああ、よしよしいい子だから泣かないでー」
そして1歳になる末っ子の五男。
これが家の弟妹である。俺が家に帰ってからはこうして色々とせがんでくるので休む暇がない。子どもというのは何所にそんな元気があるのか分らないほど活発だ。……ああ、そういえば俺もまだ10歳になったばかりなんだが。
「…ほら」
俺は結界で滑り台やジャングルジムなど子供用の遊具を作る。こう言う時にこの能力はかつてない絶大な効果を発揮する。
『わ~~~!』
遊具に向って弟妹達は殺到する。この幻想郷にはこんな遊具はないので興味心身で夢中になって遊んでいる。
「やれやれ…」
興味が引かれたのかよちよち四つん這いで行こうとする五男を手元であやしながら軽くため息をはく。しかし、ひしがきの顔はそれとは裏腹に嬉しそうに微笑んでいる。騒がしくも穏やかな日常。自分を慕う子どもたち。危険とは無縁の生活。一時的とは言えずっと欲しかった時間をひしがきも満喫していた。
「ただいま~。あらあら」
帰ってきた母が結界で遊ぶ子どもたちを見て苦笑する。
「ごめんなさいね、ひしがき。あの子達と遊んでくれて」
「いや、俺も久しぶりに遊べて退屈しないですむよ」
申し訳なさそうにする母に俺はなんでもないように返す。昔と違い母は余裕が出てきたように感じる。母は持っていた買い物籠を台所に下ろす。昼の買出しに出かけていた母だが、さすがにこの人数の食事にはかなりの量があったらしく大きく息をついて汗を拭っていた。それを見て家の三姉妹が台所に向う。食事の手伝いはあの子達の役割だ。
「ご飯なにー?」
「お肉と野菜よ」
そういって母は買い物籠から食材を取り出していく。
「わぁ~、いっぱ~い」
「たくさーん」
「…大量です」
その食材の量に妹達は嬉しそうに声をあげる。少し前までは家系もギリギリで大変だったからだろう。お腹いっぱい食べることがあまりなかったあの子達はここ最近の食事の量に日々喜びの声をあげていた。
「………ひしがき?」
嬉々として食事の準備に取り掛かる妹達とは反対に、母が深刻そうな顔で側にやって来た。他の兄弟達には聞こえないように、静かな声で母は尋ねる。
「体の方はまだ動けないの?」
そう聞く母の顔は、さっきとは打って変わっていた。まるで追い詰められているかのような母の顔には隠しようもない焦りが浮かんでいる。
実際その通りだろう。俺が長に頼んで増えた家族への保障金であるが母は、俺の両親は増えた経緯を知らされていないし知らせていない。突然増えた保証金に戸惑いつつも喜んでいることは明白である。しかし、その反対に俺がこうして長く家にいることでそれが何時まで続くのか不安でならないのだ。
その証拠に、母は俺が動けるかどうかは聞いても、ただの一度も俺が大丈夫かを聞いたことはない。
「…まだ、完治はしてないね。動かないことはないけど、これじゃあまだ戻れない」
俺の体はまだ完治していない。実際に日常生活の中でも人の手を借りることが多々あるのだ。ただの畑の守番ならともかく、そんな状況で博麗としての妖怪退治などできるはずもなかった。
「………そう」
母は何かを言いかけて口を閉じた。何を言いたかったのかは察しがついた。それを言わなかったのは。子どもたちの前だからか、それとも母親としてか。
「母さん」
そんな焦る母に俺は言った。
「大丈夫だよ、この家は何にも心配ない。それは保障できるよ」
俺は母を責める気にはなれなかった。この世界で自分よりも長く生きてきた母は、生きることの大変さをよく知っている。まして子どもが多いこの家では食事一つとっても費用が掛かる。家族全員が細々と日々を食いつないで貧しく生きるか。それともその内の一人を苦境にやって他を豊かにするか。仮に後者を非難出来るのとしたら同じ境遇を経験してきた者たちだけだろう。
故に俺は母を責めない。
「母さん、腹へった」
「……ええ、すぐに支度するわ」
最近母さんは、俺に目を合わせてくれない。罪悪感を感じているのだろうか。だとしたら、それが少しだけ嬉しかった。
俺が博麗の仕事を休んで既に2月が過ぎた。体が完治するまでは後1月程かかるだろう。しかし俺は後一週間もすれば仕事に戻ろうと考えていた。何故ならば、俺が仕事を休んだ影響がもう少しずつ出始めているからだ。
里を歩く。実家に戻ってからの俺の日課でありリハビリも兼ねている。その俺には様々な視線が向いている。里の人間が俺に向ける感情は様々だ。ある人は大妖怪から生き残った俺に賞賛の目を向ける。またあるものは俺が一人で出歩けることでまた妖怪の心配がなくなると安心するものもいる。
しかし、それは一部の人間だ。多くの里の人間が俺に求めていること。『博麗なら早くその役割を果たせ』。これに尽きるだろう。博麗は人里の守護者。少なくとも里の人間はそう思っている。求められることは里の守護。現代社会に置き換えればそれは警察に近い。
しかし、俺が負傷して2月。既に何人かの里の人間が妖怪の被害にあっていた。閉鎖されたコミュニティである人里では、上によって操作されていない情報が伝わるのが早い。また閉鎖されているからこそ人里の人間関係は近いものになっている。故に人里の人間が妖怪の被害にあえば、その不満が代理とは言え現『博麗』に向うのは当然と言えた。
例えば『警察』は犯罪を防止・解決する。それが共通する一般的な考えだ。しかし、そこには『警察』と言う代名詞と義務が課せられている。仮に通り魔事件があったとする。警察はその事件の解決に全力を注いだ。しかし、犯人は見つからず被害者が増えた。ある時一人の警察官が現場に遭遇した。体を張って民間人を守るが重傷を負い犯人を取り逃がした。
こんなニュースが流れたとしよう。遠くにいる人間は客観的にものを見れる。犯人は狡猾だ、怪我をした警官は大丈夫か。そんな事を考えるだろう。しかし、そこに住んでいる人にとってはそうは思えない。何時被害にあうか分らない彼らにとって、それは危機的状況だ。何をしている、犯人を早く捕まえろ、『警察』なら早く事件を解決しろ。そこには結果だけが求められ『警察』の努力や被害が評価されることはない。
そして、それが人里における『博麗』なのだ。
「………」
自分に突き刺さる非難の視線に、ひしがきはこれ以上の人里での療養が限界である事を悟った。これ以上今の状況が続けばその被害は目に見える形となって家族にも及ぶかもしれない。頭に浮かぶのは無邪気な弟妹と何かに焦る両親の顔。体はまだ完治しないが、もうそろそろ無理が出来る程には治っている。
(やるしか、ないよなぁ……)
散策を切り上げ、ひしがきは家へと足を向けた。
家の前まで来ると、何かを叩くような音が聞こえた。何かと思い裏手に回ると、三女が棒を使って木に向って打ち込んでいた。
「何やってるんだ?」
「…あ、兄上」
俺に気づくと三女はトテトテとこちらに歩いてくる。俺は持っている手ぬぐいで汗を掻いている妹の顔とおかっぱ頭を拭いてやる。
「……前から気になってたがその呼び方何所で覚えた。」
尋ねると妹は懐から大事そうに一冊の本を取り出し俺に差し出した。そのタイトルには『花は桜、人は武士』と書かれてあった。呼んでみるとそこには昔の時代、といっても俺の知識の中でだが、おそらく江戸時代の武士のあり方としての見本が解り易く書かれていた。
「……気に入ったのか、
「………」(コクッ)
心なしか子ども特有に目を輝かせて俺の妹、いろはは頷いた。自分の名前が本に載っているのが嬉しいのか、どこか誇らしげだ。
(なるほど、だから忠臣蔵に食いついたのか)
あまりにも弟妹達から話をせがまれて休めなかった時に難しい話をすれば飽きてくれるだろうと、たまたま関連本が鈴奈庵にあって読んだのを思い出し話したのが忠臣蔵だった。他の弟妹がすぐに飽きる中このいろはだけは今までにないくらいせがんで来て結局休むことが出来なかった。
何とも渋い妹だと思っているひしがきの袖をいろはが引いた。
「ん?どうした?」
俺がそう言うといろはは無言で持っている棒とは別の棒を差し出した。わけもわからず受け取るといろはは少し離れた場所に移動してこちらに向かい棒を構えた。
「…お手合わせ願います」
「……そういうことね」
張り切っているのかぶんぶん棒を振っている妹に苦笑すると俺は相手をするべく軽く構える。
「他に誰かとやったりしてるのか?」
「…母上がやっちゃ駄目って」
俺の質問にシュン、と落ち込みながらいろはは応える。その姿が微笑ましくて思わず笑ってしまう。俺の反応に頬を膨らませてこちらを睨む妹がまたも微笑ましい。
「ごめんごめん。ほら、その代わり遠慮は要らないから。思いっきりこい」
そういうといろははむん、と気合を入れて構えなおした。
(……へぇ)
その姿に俺は思わず感心する。お遊び程度にやっているのだと思っていたが、構えるいろはの姿は素人目にも分る程に、なんと言うか堂に入っていた。
「…はっ!」
いろはが踏み込んで棒を振るう。まっすぐな剣。小さな体を精一杯使っての一太刀。カンッ、という乾いた音と立てながらそれを受け止める。
「…ん!」
いろはは二撃目三撃目と続けて打ち込む。妖怪を相手に戦ってきたひしがきは苦もなくそれを受け止めていく。
(これは……)
ひしがきは驚いていた。いろはの構えにも驚いたがこれにはそれ以上に驚いた。ひしがきは剣など知らない。武術など習ったことのないひしがきは、しかし槍を実践で使ってきた者としていろはの剣に驚いた。
槍であれ剣であれ長年扱い経験してきた者とまったくの素人ではその構えや打ち込みは素人目にも明らかな差がある。槍術など知らないひしがきはひたすらに突くと言う行為の反復練習を繰り返し試行錯誤を繰り返した。より強く、より速く、より正確な槍の突き方を体で覚えようとしていた。
それ故にひしがきの槍は槍術と呼べるものではない。当たり前だ。ただ剣を振ればそれが剣術になるわけではないのだから。構えも無茶苦茶、防御も考えない、そこには武の術理がない。ただ突く。ひしがきの槍はそれに尽きた。
しかしいろはの剣は違った。そこには剣を振るう『理』があった。その構え、足の運び、腕の振り、手の握り、戦ってきたひしがきだからこそ分る、戦いにおける理論をいろはは身につけていた。
カンッ
「…!」
「あ……」
思わずひしがきは突きを出していた。いろはは受け止めきれずに棒を弾かれ後ろに体勢を崩す。
「っと」
それよりも早くひしがきは背に手を回していろはを支えた。
「ごめん、大丈夫か?」
「…うん」
「そっか。けど驚いた、いつの間に剣術を覚えたんだ」
いろはを立たせるとひしがきはいろはの頭を撫でる。いろはは目を細めつつ応える。
「…ずっと木を叩いてた」
「………」
「………」
「………それだけ?」
「…それだけ」
「誰かに教えてもらったとか?」
「…んーんー」
いろはは首を振って否定する。つまり自分で木を叩いてるうちにあそこまで身に付けたと言うことだ。思わぬ才能を見つけてしまったとひしがきは思った。天才。一を聞いて十を知るのを天才と言う。なら一も聞かず十を身に付けたいろははまさに疑いようのない天才だろう。
妹を撫でるひしがきは複雑な気分だった。剣と槍の違いはあれ自分にはない妹の才能が羨ましかった。自分には欲しくもない素質はあっても、才能があるとは言えなかった。今はまだ自分の知識の中だけの少女、この世界の主人公である少女達を思い出す。彼女達には自分と同じ特異な能力が、素質があった。しかし、自分が彼女達の様に戦えるだろうか?ルールに縛られた勝負とは言え風見幽香やルーミアと競えるだろうか?答えは考えるまでもない。
それを才能の一言で片付けられるほど厚顔無恥でもないつもりだ。それでも羨ましいと思うのは責められる事ではないだろう。もし自分にも結界または槍の才能があれば、今と多少は違う結果になったのではないか。そう思ってしまう自分が、ひしがきは惨めだった。
「…もっと」
「ん?」
「…もっとうまくなった、兄上をてつだうね」
ピタリと、妹を撫でるひしがきの手が止まった。
「……手伝うって、何を?」
「…はくれいのおしごと。兄上、いつも一人でたいへんそうだから。わたしもはくれいになって兄上てつだう」
どうだ、と言わんばかりに胸を張っていろははひしがきに告げた。小さな妹の優しい思いやりに胸の中がじんわり暖かくなる。
「……だめだよ、いろは」
しかし、思わずひしがきは妹の幼い願いを拒絶した。この優しい妹の幸せを願うひしがきは、目線を合わせて優しく諭すように語りかける。
「『博麗』はね、一人じゃなきゃ駄目なんだよ」
「…どーして?」
「そういう決まりなんだよ。幻想郷が出来たときから、ずっとね。だからいろはは博麗になんてなる必要はないんだ」
あまり難しい事を言ってもいろはには理解できないだろう。そういうものだから仕方ないんだよと、ひしがきは寂しそうに笑いながら頭を撫でる。
「…だめ?」
「うん、だめ」
自分にとっての名案だったのか、駄目と言われたいろはは不満そうに上目遣いで睨んでくるがいろはがやっても微笑ましいだけでまったく怖くない。
「それに、ちっちゃいいろはが博麗になったら皆心配するよ。妖怪はとっても怖くて強いからね。いろはなんかはあっという間に食べられちゃうよ。」
「…じゃあ、はくれいじゃなくて」
いろははひしがきを見上げて尋ねる。
「…おっきくなって、ようかいたいじできるくらいつよくなれば、兄上といれる?」
ひしがきの顔を窺うように尋ねるいろはに、ひしがきは驚いたようにいろはを見つめた。
「…兄上、おしごといつもがんばってるから。わたしもおっきくなってつよくなれば」
一緒にいられるでしょ。そういって恥ずかしそうにいろはは笑った。
「―――――」
無邪気で幼い少女の言葉は、今度こそひしがきの胸を貫いた。自分を慕う弟妹達に、それだけで苦しかった心は和らいだのに、まさか自分を想って何か返そうとしてくれる、一緒にいようとしてくれるとは思っていなかった。
「……そう、だな。それならいいかもな」
俺の言葉にいろはは嬉しそうに喜びの声をあげる。その後俺に向けて咎める様に言った。
「…けど、わたしがおっきくなるまでケガしちゃだめ」
「………うん、わかった」
「…むりしちゃだめ」
「………わかった、言う通りにするよ」
「…やくそく」
「…うん、約束する」
ひしがきは優しくいろはを抱きしめた。突然抱きしめられたことにいろははびっくりするが、すぐに嬉しそうに目を細める。
「いろは」
「…うん」
「ありがとう、お兄ちゃん頑張るよ」
だからもうちょっとこうさせてくれ。妹に泣き顔なんて見られたくないから。
嬉しくて泣くのは、これが初めてだった。
主人公ちょっと救済回でした。
とりあえず彼女はヒロインではありませんよ。
もうちゃんとヒロインも決めてあるのでお楽しみください。