「もうすぐ20.4光年のグリューゼ581に到達するわね。」千早がつぶやく。
M型独特の赤っぽい恒星が見える。グリューゼ581は、21世紀の段階で6個の惑星が公転していることが確認され、そのうち3個がハビタブルゾーンに入っている。
「ここで生命がハビタブルゾーンで公転しているのは、c,g.dと符号のつけられた第3,第4,第5惑星ね。早速探査機をとばしましょう。」律子が提案して早速探査機がとばされる。
探査機は円形のアンテナを広げて惑星に接近していく。アナライザーが探査機から送られたデータを読み上げる。
「第3惑星ノ探査結果デマシタ。大気圧は400気圧、大気組成ハ二酸化炭素99%、表面温度430度...。」
「今度も「金星」ね。」千早がため息をつく。
せっかく地球型の岩石惑星でも質量が大きくせっかく分厚い大気をもっていても組成が地球と似ても似つかない惑星ばかりだったのだ。航路を設定した千早としては非常に落胆する結果だった。しばらくしてアナライザーから報告がもたらされる。
「第4惑星の探査結果デマシタ。公転周期37日、自転周期モホボ同ジ。表面ハ、イツモ同ジ面ヲ恒星ニムケテイマスノデ夜ノ部分デ摂氏-72度、昼ノ部分デ摂氏293度デス。裏側ハ凍リ付イテイマスガ、恒星ヲ向イテイルガワニハ海ガアリマセン。地上ニソソグ放射線量ハ一億ベクレル。」
「とても住めないわね。」第一艦橋ではため息がもれる。
「第5惑星、大気ノ成分ハ水素83%、ヘリウム9.3%、メタン7.2%デス。大気圧ハ400気圧、表面付近デハ、時速500kmノ風ガ吹キ荒レ、大気層の下ニアル地表近クデハ摂氏250度デス。」
「こうして考えると、地球ってほんとに恵まれた環境なのね。」千早がつぶやく。
「これから探査する恒星からは、ホット・ジュピターがある恒星は除くことにしましょう。ホットジュピターは、楕円軌道をえがいて親星である恒星に近すぎる軌道を公転しているから安定した内惑星系が形成されない。」
「40光年の位置には、GJ1214がありますが...。」千早が律子に質問する。
「ねえねえ、グッジョブ1214っておもしろいね。」亜美と真美がまぜっかえす。
「GJは、グリューゼ・ヤーライズの略。ドイツの天文学者ウィルヘルム・グリューゼが1957年に地球から20パーセク、65.2光年の恒星リストをつくったのがはじまりで、改訂を繰り返し、1976年にハルムート・ヤーライズと協力して作成してこれも改訂が繰り返されているわ。って、二人とも仕事は?」
「今は非番だもん。」
「GJ1214には、21世紀の段階で0.014天文単位、210万キロの位置に地球の2.7倍の半径をもつ惑星が見つかっている。だけど、質量大きいから表面は、分厚い高温の水蒸気に覆われていて、摂氏200度から290度。亜美~、真美~ゆでだこになるわよwww。」
律子は恐い顔をして二人をおどかす。
「こと座のGSC-0252-01324までホットジュピターの恒星ばっかりだね。」
春香が航路図と近隣恒星リストを見ながらため息まじりにつぶやく。
「ねえねえ、はるるん、律ちゃん、さっきからホットジュピター、ホットジュピターって言ってるけど、961プロの兄ちゃんたちがなんか熱いってこと?」
「亜美、真美、恒星の周りを回る木星みたいな大きなガス惑星が熱せられて熱くなるから、「熱い木星」っていう呼び方をしてるのよ。」律子が答える。
「493光年のケプラー186と620光年の位置にあるG型のケプラー22に行こう。」
春香が艦長として提案する。
「21世紀の頃に天文学者が探査したいと思っていた惑星がこんな形で探査できるってことは私たち幸せ者かもしれないよ。」
「春香...。」千早が春香をみつめる。
「そう思わないとやってられないんだ。実は...。」春香は苦笑してみせる。
千早と律子もほほえむ。
「ワープ準備。各自ベルト着用。」
「ほら、ふたりとも非番でもワープするから機関室の自席に戻って。」
「はあ~い。」
亜美と真美が機関室に戻りベルトを着用して数分後に秒読みが始まり、ヤマトは太陽系から約20光年の空間から消えて、いっきに約490光年の空間まで跳躍した。
「ワープ終了。」千早が無事にワープアウトしたことを告げ、
「波動エンジン異常なし。」真がエンジン状況を告げる。
「艦に異常みとめず。」律子が船体の状況を告げる。
「ケプラー186まで、100宇宙キロ。」
太陽半径の0.47倍というM型の赤く光っているものの暗く小さな恒星が見える。
太陽が白熱灯としたら、蛍光灯を消したあとのナツメ球が赤く光っているような暗さである。
「b,c,d,eという四つの惑星があるけどケプラー186本体に近すぎる。やはり探査対象はハビタブルゾーンの外縁近くで0.35天文単位の軌道を公転している惑星fね。」
千早が提案する。
「地球半径の1.1倍の惑星。火星のように質量が小さいから大気が少ないってことはないと考えられる。期待できるわね。ケプラー186fに観測用探査機1号から3号、着陸用探査機1号と2号を飛ばすわ。アナライザー解析して。」律子がアナライザーに命じる。
「了解シマシタ。探査機トバシマス。」
惑星探査機がとばされた。丸いアンテナをつけたものと円盤状のカプセル探査機が打ち出される。やがてカプセルが開いて、アメンボウのような探査機が地上に降りようとする。
「186fノ北緯72度27分、東経93度38分、地表面マデアト10秒、9,8,...3,2,1,...。」
「着陸デキマセン。ソノママ降下...。」
「!! アナライザー、どうしたの?」
「186f本体ノ地表ノ存在ガ確認デキマセン。着陸用探査機1号宇宙空間ヲソノママ航行中。」
「そんなばかな!ほかの計器には地球半径1.1倍の球体、自転周期24時間20分って示されているのに!」
「2号着陸用探査機、1号トハ別ノ地点ヘ着陸サセマス。南緯38度27分、西径39度39分、地表到達マデアト30秒。」
「アト10秒,9,8...3,2,1,0...。」
「ヤハリ着陸デキマセン。宇宙空間ヲソノママ航行中。」
「雪歩、ラム艦長を呼び出して。」
「は、はい。こちら宇宙戦艦ヤマトですぅ。ラム艦長聞こえますか?。」
「はい。萩原中佐。こちらラジェンドラ号のラムです。」
「あのう、そちらから第5惑星は確認できますかぁ?」
「恒星クラセビ・ソルベ、あなたがたのいうケプラー186の第5惑星プロパダは確認できます。大きさのデータもあなた方の示しているのものと変わりありません。実は、ここにかって銀河系を支配した王国の首都があったという伝説があるのです。」
「そうなんですか?」
「はい。わがバース星にもその信仰をもっている者がいます。実は他の星からバース星につれてこられているものの中にもその伝説の王国の女王を信仰している者がいるとのことです。それから...。」
「それから?」
「あなたがたのおっしゃる観測結果のような話を聞いたことがあります。実は、ガルマン帝国との会戦がここで行われたときに敵の惑星破壊ミサイルがすりぬけてしまい、われわれはワープで逃げることができたのです。」
「雪歩、代わって。」
雪歩はうなづくと春香に通信マイクをわたす。
「ラム艦長。天海です。それでは早速バース星に。」
「天海艦長。わたしに提案があります。あなたがたがプロパダのつぎに訪れようとしているケプラー22を、われわれは、ジョルト・ニアニと呼んでおり、あなたがたが約200年前に発見したという惑星ケプラー22bをわれわれはシャンタスマルゴレーと呼んでいます。この惑星は、ボラー連邦本国からもわがバースからも離れたいわゆる流刑地ですが、ただ流刑にするだけでだれも管理していません。最近では伝説の女王の国の王女が流刑にされたといううわさを聞いています。万一ボラー連邦本国に知られてもあまりにも遠すぎるために、直接の支配はできないため、事実上独立していくことは困難ではないと思います。われわれの知る限りではだれも着陸を試みた者はいませんが、行ってみる価値はあるでしょう。」
「ラム艦長。ありがとうございます。」
「いえ。われわれはあなた方に助けられました。あなた方の地球はいま非常に困っていることをおうかがいしています。バース星にきていただくには、地球の人口が多いことや食料の確保とか気候が寒すぎるという難点があります。このようなことで恩返しができるのであれば協力させていただきます。」
「いつまでもここにいても仕方ないわね。春香。」千早が春香に話しかける。
「わたしもこれ以上探査をしても仕方ないと思うわ。ラム艦長のご提案もあることだし、ケプラー22bへ向かいましょう。」律子が改めて提案した。
春香はうなずくと指示をする。
「それでは、律子さん、アナライザーさん、探査機を回収してください。」
「千早ちゃん、真、ワープ準備お願い。」
探査機の回収が終わり、千早が秒読み後、ワープの開始を告げると、ヤマトとラジェンドラ号は、ケプラー186星系から姿を消した。
「ワープ終了。」
「ケプラー22より1億4500万キロ、ケプラー22bより1750万キロ。」
窓からはこれまでの赤く暗い恒星ではなく、太陽によく似た恒星が輝いている。距離も太陽から地球に近い距離なので大きさも地球から見た太陽に近い大きさであった。
「これまでの星よりずっと大きいし、ずっと明るいですぅ。太陽みたい。」
雪歩がうれしそうに話す。
「G5型の恒星だから太陽半径の97%、質量もそのくらいね。」
説明する律子の表情にも安堵感がうかんでいる。
「太陽に似た星の周りを回る惑星を探査できると思うとわくわくするね。」
真もうれしそうに話す。
「これまで暗く小さい赤色矮星ばかりで気持ちまでなんとなく暗くなったもんね。」
春香も笑顔で同意する。やっぱり太陽に似たG型の恒星というだけでヤマトクルーは自宅へ戻ったような安心感を感じていた。
「さっそく探査機をとばすわね。着陸用探査機2号、3号発進。観測用探査機2号、4号発進。」律子が命じて探査機が飛ばされた。1時間後、観測用探査機から写された画像は驚くべきものだった。
「まるでイスカンダルのようだわ。」
映し出された惑星の姿は、海に覆われ、イスカンダルのようにみえる。地球のような白い雲が大気中にうかんでいる。
「大気1気圧、自転周期25時間、窒素72%、酸素21%,アルゴン1.2%、二酸化炭素0.1%、地表ノ温度摂氏15度カラ30度、半径ハ地球ノ2.4倍、公転周期約290日、重力1.1g、平均湿度60%.....。」
「!!」
「何か映ってるわね。拡大して。」
メインパネルが拡大される。
「!!」
「これは...鳥...?」
青い鳥の群れが雁行のような群れを造って飛んでいる様子が映し出された。
「千早ちゃん!」
「春香!」
「蒼い鳥だよ。蒼い鳥!千早ちゃん!」
ふたりは抱き合ってしまった。
「ついに見つけたわね。」律子も喜ぶ。
「やーりい!」普段はけんかばかりしている伊織と真が腕をふりあげて手のひらを叩き合って喜ぶ。
「雪歩、地球防衛軍司令部に超光速通信をつないで。」
「はい。」
雪歩の顔も明るい。
「...以上、詳細な調査を行う必要はあるものの、ケプラー22bのこれまでの探査結果は満足のいくものだと考えます。」と春香は調査結果を報告した。
「やったわね。春香。」舞も笑顔になっている。
「さすがヤマトだ!」第一艦橋と防衛軍司令部は歓喜にあふれ万歳の声も聞こえる。
「春香、報告した限りでは居住可能な惑星のようだけど、最終的な調査を怠らないようにね。未知の病原体とかそのほか本当に危険がないのか。」
「はい、了解しました。」
ヤマトは第二の地球と思われるケプラー22bの最終調査にはいろうとしていた。果たしてこの星は第二の地球たりうるのだろうか。
ラム艦長の話す星の名前はロシア語を微妙にもじっています。
ボラー語でM型の赤い恒星は「クラセビ」、G型、F型などの黄色っぽい恒星は、「ジョルト」と呼ぶという設定にしました。なお、「ニアニ」はアフリカ史オタならニヤリとする名前です。