「波動防壁が持続できるのは20分よ。春香。」律子が春香に話しかける。
「うん。」
「それだけじゃない。誰か救出するとすれば、波動砲が使えない。惑星全体を破壊することになるわ。」今度は千早が春香に話しかける。
「律子さん。」
「バリア発生装置を破壊するか、実弾をバリアにぶつけると同時に波動エネルギーを放出してバリアを破るしかないわね。」
「波動カートリッジ弾ですね。」
「そう。技術班はバリアへの到達時間を先ほどの発射記録から計算してくれる?」
「主砲だけじゃなくて魚雷発射管も利用するわ。」
激しく反射衛星砲の飛び交う中、オペレーターが波動防壁の効果持続時間を伝える。
「波動防壁消失まであと5分」
コスモファルコン隊も反射板搭載機と発射砲台を狙おうとするが必死に発射する光条を避けてなかなか接近できずにいる。護衛戦闘機との応戦がやっとになる。
「ふふふ。さあ、くるしめ。ヤマト。そのバリアは制限時間があるだろう。そのバリアが切れた瞬間がわれわれの勝ちだ。」
ベン・ハダトは、勝利が目前だといわんばかりに笑みを浮かべる。
「でました。3分7秒です。」
技術班が計算結果を伝える。
「波動カートリッジ三式弾。波動カートリッジ魚雷、装填いそいで。」
「波動防壁消失まであと2分55秒。」
「第一主砲、第二主砲、波動カートリッジ三式弾発射。波動カートリッジ魚雷、1番から6番まで発射!」
「波動防壁消失!」
グワアアーーーン
轟音と振動がヤマトを襲う。
「艦尾993装甲版に被弾!」
「左舷、722装甲板に被弾!」
「波動カートリッジ三式弾バリアへ弾着!波動カートリッジ魚雷も弾着成功!」
波動エネルギーの光がいくつも白く光るしみのようにバリア上に広がってバリアを消失させていく。
「主砲発射!」
バリアを破られた敵中央基地にショックカノンの光条がふりそそいだ。
「司令、バリアが...。」
「あれは時限信管では?」
「くううう。」
「!!敵、ショックカノン直撃来ます!」
「うわあああああ....。」
ズゴグワワーーーン
轟音が大気を震わせ、きのこ雲のような煙と火炎を発して敵中央基地が爆発する。
それまでさかんに砲撃を繰り返してきた砲台は沈黙し、反射板搭載機は、糸の切れたタコのように墜落する。護衛戦闘機隊は何が起こったかわからずに右往左往する。
「主砲サーモバリックモードへ。第一主砲目標3時の敵戦闘機隊、第二主砲11時の敵戦闘機隊!」
「にひひっ。発射~!」
主砲の光条が戦闘機隊へむかうと熱波と熱風を生み出し、戦闘機隊は風に吹かれる木の葉のように姿勢がくずれる。次の瞬間、噴射口から燃料へ誘爆を起こしてあっというまに50機近い護衛戦闘機隊が爆発して消失した。グオオオオーン、スゴーーンという爆音が連続して起こり大気を震わし、閃光と煙のかたまりがいくつも発生する。
完全に戦意をうしなった戦闘機隊は中間基地へ帰ろうとするが中間基地もショックカノンの雨が襲う。
やがて、ベン・ハダトから指揮権を引き継いだ敵の司令官から降伏勧告が伝えられる。
「降伏を受諾します。条件はガルマン帝国のオリオン腕方面の軍事情報です。」律子が答える。
しかしもたらされた返事は、予想通りのものだった。
「それは、我がガルマン帝国の機密である。我が栄光あるガルマン帝国、万歳!」バシューンという銃声が通信機から響いてくる。
「終わったわね..。」伊織がつぶやく。
「うん..。」春香は力なく返事をした。
(戦闘するためにこの航海をしているんじゃないのに...。)
鞘葉は、廃屋ばかりの掘っ立て小屋の集落を発見した。しかし、だれかが生きているように思えなかった。そのとき、老人が走ってひとつ廃屋の中にはいっていくのが見えた。
「艦長!人がいます。」
小屋の中には老人の娘、30台であろう女とややその娘より年長かとおもわれる男、彼女の夫が病床に臥せっていた。
「またか。性懲りもなく。」
「お父さん、やめて。」
老人は娘をつきとばし、転がった通信機を床に叩きつけた。
「通信が切れましたぁ。」
「間違いありません。あの小屋からです。正確な座標送ります。」
鞘葉は、ヤマトと救命艇に座標を送る。
鞘葉は小屋の近くへ着陸し、救命艇も着陸する。
だが老人が銃を発砲した。
「よるな。わしの土地から出て行け!」
「あの~、わたしたちは、病人がいるっていうお話でしたのでやってきたのですが。」
あずさが穏やかに話す。
「地球がなんじゃ。われわれはこの星が故郷なんじゃ。」
老人は叫んで銃をかまえて再び威嚇射撃をしようとする。と、小屋の中から娘が飛び出して「お父様、やめて!」と押さえつけた。
その瞬間、銃声が数発響いた。老人は自らを誤射してしまったのだ。瀕死の重傷であった。
「お願いです。助けてください。病人がいるんです。」
「担架をお願いします。」
あずさは救命艇に同乗している看護師たちに指示をした。
女性の名前はトモ子といった。あずさは、トモ子の夫と彼女の父である老人の治療を試みるが診察すしているうちにふたりとも長くもちそうもないことを思い知らされていた。
「ごめんなさい。ご主人は...あの星独特のウィルスによる風土病です。体全体が蝕まれているようです。幸い感染力は強くないですが...。」
「先生なんとかなりませんか。」
「ご主人の血液から抗体薬を作ってみますね。」
となりに苦しそうにしている老人がいる。
「お父さんは撃ち所が悪く、長くもちそうにありません。」
「トモ子。」
老人は娘に呼びかける。
「お父様。」
「なさけないものだな...こんな体になってやはり地球へもどりたいという気持ちになってしまった。お前たちには苦労かけたな。ウッ」
「!!」
あずさは首をふった。
老人はあっけなくなくなってしまった。
「おとうさまぁ~~~」
トモ子は絶叫した。
「注射しますね。」
あずさは最新の技術で抗体薬をつくり、トモ子の夫に注射する。
ウィルスと戦う過程でBリンパ球は抗体を生成する。それを加速化させることにより免疫力を強化するのである。
23世紀初頭、地球上のすべてのRNAウィルスに対して逆転写酵素阻害剤とプロテアーゼ阻害剤がつくられていた。逆転写酵素阻害剤でウィルスのRNAの転写を阻害し新たなウィルスができるのを防いだり、プロテアーゼ阻害剤で数珠状につながったウィルス粒子を切断して新たなウィルス粒子を生み出す酵素のプロテアーゼの働きを阻害することができるが、トモ子の夫の場合、全く未知の病原体であるため、手っ取り早く抗体を効率よく増やして免疫活動を活発にする方法がとられたのだった。
抗体薬の効果が現れ、トモ子の夫は数日間小康状態を保った。
春香はトモ子を艦長室にまねいた。
「トモ子さん、どうしてこの星にあなたがたがいらっしゃたんですか?。」
「わたしたち夫婦は、辺境開発の夢に燃える父に連れられ、10年前に地球を出発し、3年前にこの星にやってきました。遊星爆弾から身を守るため、新たな地球人の住む星をさがすためでした。ですが半年前に夫が狩猟中に熱を出してこの風土病にかかってしまいました。最初はかぜのようなものと考えていましたが、病状はいっこうによくならず、ついに2ヶ月前から、寝たきりになってしまいました。医者も治療法もない状況で、地球への想いが募る一方で...。父は地球への思いを断ち切るためにロケットを壊してしまい....。近くに地球の宇宙船が通るたびに通信を送っていましたが届かず、たまたまあなた方が傍受してきださって...」
そのときはずさが艦長室に駆け込んでくる。
「はるかち...じゃなかった艦長。」
「あずささん?」
「トモ子さんのご主人の容態が!!」
「!!」
トモ子の夫は5日ほどがんばっていたが、その体は圧倒的なウィルスの繁殖力によって容態が悪化へ向かっていた。
「あなた!」
「この人たちは?」
「地球の人たちよ。」
「えっ...地球なのか?帰ってこれたのか?」
トモ子は一瞬言葉に詰まったが
「そ、そうよ。地球へ帰ってきたのよ。」
と答えた。夫はうれしそうに笑った。
「よかった。よかった。」
と半分うわごとのようにつぶやく。
しかし、安心したように目をとじた。
「あなた!あなた!」
トモ子は夫の体をゆするが反応がない。
心拍を示す装置は、ピーという音を発し、さっきまで波を示していた画面には、横一線の直線が表示されているのみだった。
トモ子は、わあつと泣き叫んだ。
春香は千早と律子にことの経緯を話した。
「そんなひどい風土病があるなら移住地には適さないわね。」千早がつぶやく。
「全く住める可能性がないわけじゃないけど地球にはあとがない。普通の人間が普通に暮らすためには、ワクチン、抗体薬、テラフォーミングまで完成させなければならないけど二十年以上の時間がかかる計算だわ。逆転写酵素阻害剤やプロテアーゼ阻害剤のような効果的なウィルス薬をつくるにはさらに時間がかかるわね。」
「トモ子さんたちの家族はどうしますか。」
「今回は、看護婦、探査員など非戦闘員の乗組員が多い。わたしたちは完全に星間戦争に巻き込まれている。宇宙の経験のある探査員や看護婦数名以外はトモ子さんと一緒に地球へ帰ってもらったほうがいいわ。」
「アルファ・ケンタウリ第4惑星基地、聞こえますかぁ。」
「はい、こちらアルファ・ケンタウリ第4惑星基地警備隊。」
「こちら宇宙戦艦ヤマト萩原ですぅ。バーナード星の敵は撃滅しましたぁ。これから非戦闘員のシャトルがワープしますぅ。ワープアウト地点の座標を送りますぅ。地球まで警護してください。」
「了解。」
シャトルは地球方向へスピードをあげ、やがてワープしていった。
「春香ちゃん。」
「あずささん?」
「第二の地球はみつかるのかしら。」
「みつけるのよ。絶対。」伊織が代わりに答える。
「そうね。見つけなければ。そのための航海なんだから。」千早も同意する。
「そうだね。あずささん、トモ子さん妊娠してたんですよね。」
「そうなの。それもあったからいまのところは地球のほうがはるかに安全だから。」
「これから生まれてくる赤ちゃんのためにも第二の地球をみつけなきゃね。」
「みんな。いいかな。」
春香が第一艦橋の面々を見つめて、
手を水平に差し出すと春香の手の甲に手を重ねる。
「ヤマトクルー、ファイト!」
春香が叫び、
「おおーつ!」
とさけんで皆がいっせいに手を上げた。
バーナード星第一惑星では武器無き戦いを闘っていた家族がいた。事故がありながらも救出に成功するが、三人のうち、一人は致命傷、もう一人は治療不能な風土病に冒されていた。これを契機に非戦闘員の乗組員を星間戦争から守るために地球へ送ることと新たな生命のためにも第二の地球を探す決心をヤマトクルーは新たにするのだった。