地球は野球ボールくらいになったとき、
千早は
「海王星へ向かってワープします。」
と指示する。真が
「ワープ準備、各自ベルト着用。」と指示する。
千早は画面上の光点を確認しながら秒読みをはじめ、空間曲線と光点が交わるとレバーを引き一気に29天文単位をワープした。
「ワープ終了。」
「波動エンジン異常なし。」
「艦の損傷認めず。」
「トリトンまで5宇宙キロ。」
ずんぐりとした赤い戦艦がトリトン基地から出航してくる。
メインパネルにラム艦長の姿が映し出された。
「バース星艦隊旗艦艦長のラムです。ヤマトの皆さんよろしくお願いします。」
「ラム艦長、これから私たちは、銀河系中心方向に航海します。これからご一緒いたしますので、こちらへ来て銀河系中心方向で何が起こっているか教えてください。」
「そうですか。わかりました。」
ラジェンドラ号がヤマトに接舷し、ラム艦長がやってくる。
「生活班長、平田です。お部屋の大気組成と重力を教えてください。」
ラム艦長から聞きだした値はほとんどかわらず宇宙服なしで直接話ができることが判明した。
「これがヤマト艦内ですか。すばらしい船ですね。」
「ありがとうございます。ところであなた方の交戦国、ガルマン帝国とは何者なんですか。」
「わたしどもも多くのことわかりません。この銀河系は地球反対方向を中心にボラー連邦という巨大な星間国家がありました。」
銀河系の平面図が映しだされボラー連邦の版図が赤紫で表示される。
「あんなに大きな星間国家があるんですか。」
「はい。ただし、ボラー連邦は、征服した民族を流刑者とともに奴隷として収容所で使うために勢力を拡大していたため、銀河系恒星系に住むガルマン民族を外宇宙から現れた艦隊が解放したことからガルマン帝国が建国されてからは、ガルマン帝国が急速に勢力を拡大し、このオリオン腕付近にも勢力をのばしてきたのです。」
ガルマン帝国の版図が黄緑色で表示される。その版図は、銀河系中心のバルジから2万5千光年の範囲にひろがっている。
「当初、ボラー連邦の保護国化によってバース星の安全は保たれているはずでしたが、ガルマン帝国が勢力を伸ばしてきたために応戦せざるを得ない状況に追い込まれました。そして科学力、兵装にまさるガルマン帝国に追い詰められてしまったということです。」
「そうだったんですか。」
「これからの航路なのですが」
千早が話し始める。
「まずここから4.3光年のアルファ・ケンタウリ、5.9光年のバーナード星、9.6光年のロス154と11.26光年のグリューゼ866の脇を抜け、11.5光年のシュトルーフェ2398は連星系なので可能性なし、11.82光年のK型であるインディアン座イプシロン星、14.81光年のグリューゼ674、15.3光年のグリューゼ876、16.8光年のグリューゼ832、20.4光年のグリューゼ581を探査します。...そして1500光年先にあるバジウド星系へ到達することになります。」
「ここまでで、ガルマン帝国の状況はいかがですか。」
「ダゴン艦隊を全滅させたのは、ガルマン帝国の方面軍司令部に伝わるはずですから、復讐のための艦隊が派遣されるかもしれません。ダゴン艦隊は突出してましたからすぐには地球近郊にこないでしょう。ただ...」
「ただ?」
「これらの恒星に伴う惑星に基地がある可能性がありますので用心したほうがいいと思います。」
一同はうなずく。
そのとき艦内放送がかかる。
「はるるん、律ちゃん、千早お姉ちゃん、ラムのおっちゃん、今日でセドナ軌道を越えるんだよ。太陽系さよなら祭りの日だよ。」
「亜美、真美、ちゃんとラム艦長って呼ばないとだめでしょ。」律子が双子をたしなめる。
「いえ。お気になさらないでください。しかし元気な娘さんたちですね。そういえばあなた方若い女性ばかりで船を動かしているんですね。」
「はい。みんな苦しい航海や戦いをくぐり抜けてきた仲間同士ですから。そんなことより、ラム艦長、無事に合流できたお祝いもかねて今日は楽しみましょう。」春香が笑顔でラムに提案する。
展望室では、真が太陽神アポロに、太助がポセイドン、鞘葉がプロメテウスに扮装している。
月の女神になったのは雪歩である。
「だ、大地に光と恵みを与え給う真ち...、じゃなかったアポロよ。ああん、セリフ間違えちゃった。こんな私は穴掘って埋まってますぅ。」
どこからともなくスコップをとりだした雪歩に皆は爆笑するが、何人かはあわてて雪歩を押さえにかかる。
そこへ千鳥足であずさが現れる。白いドレスがはだけるのをみて、ラム艦長は目をそらす。
「あずささんは、何の役なんですか。」
「お酒の神様バッカスの奥さんのアリアドネよ。素敵な殿方が早くあらわれますように。」
宴会が終わって第一艦橋へもどる。
「太陽系さよなら祭りか...。」春香がつぶやく。
「永遠のお別れになってしまうんでしょうか...」雪歩がつぶやく。
「はやく新しい太陽と第二の地球がみつかるといいわね。」
「銀河系は広いからみつかるよ。」真が励ますように言う。
そのとき雪歩がなにかに気がついたように皆のほうへ向かって
「!!SOSを受信しましたぁ。」
「どこからなの?」
「アルファ・ケンタウリ第4惑星基地ですぅ。」
「千早ちゃん、アルファ・ケンタウリ第4惑星基地へいこう。」
「戦闘が行われているのよ。それから外周艦隊が向かうから先をいそいだほうがいいと私は思う。」
「千早、第4惑星は荒涼とした星だけどテラフォーミングがどれだけ早くすすめられるか確認する必要はあると思うわ。先の航路にある恒星は、M型の赤色矮星が多い。太陽とよく似たG型の恒星に伴う惑星というのは貴重だわ。」
「それでは、ワープします。」
数分後、ヤマトは太陽系内から姿を消した。
「ワープ終了。アルファ・ケンタウリ第4惑星まで15宇宙キロ。」
機関や船体の無事を確認してから、第4惑星の地表の様子がメインパネルに映される。
「だいぶやられているわね。」
「わたしたちが出発する前にダゴン艦隊にやられて、また敵の攻撃を受けたみたいだから..。」
「地上から通信がはいってますぅ。」
「こちら第4惑星派遣警備艦隊司令部。」
「こちら宇宙戦艦ヤマト。なぞの敵から攻撃を受けたとの通報を傍受したので、急行してきました。」
「当艦隊も先日の敵艦隊からの攻撃があったために司令部からの命令で、ワープを繰り返し、昨日到着し着任した。ヤマトの来援をこころから歓迎する。」
「あくまでも、太陽系内の防衛が任務だから一週間かかってるわね。」律子がつぶやく。
「敵は?撤退したんですか?」
「一週間前の攻撃に加えて、遠方からのミサイル攻撃があったと思われる。そのため敵の姿は認められない。」
「了解。ただいまより寄港します。」
「了解。誘導します。」
アルファ・ケンタウリ第4惑星は、荒涼としている。赤茶けた大地にかわいた風がときどき吹いていた。
(果たして、この星に人類はすめるのだろうか...半年くらいでテラフォーミングできるのだろうか...。)
春香の心を不安がよぎる、
「艦長、コスモハウンドを操縦します。」
「ありがとう。鞘葉くん。」
「鞘葉くん、第二基地のドームだよ。ドーム。」
「艦長、はしゃぎすぎですよ。」鞘葉が苦笑する。
コスモハウンドは、第4惑星第二基地へ接近するとドームが開いたので、鞘葉は巧みな操縦で、ドーム内の地下フロアにゆるやかに着陸する。
春香が、地下フロアに降りると警備艦隊司令が笑顔で歩み寄る。
「ヤマトが来てくだされば百人力です。」
警備艦隊司令が握手しようと手を差し出したので春香がその手を軽く握る。
「敵は、二回、三回と攻撃を仕掛けてくると思います。わたしたちも警備を担います。」
「感謝いたします。では、警備の打ち合わせを。」
休憩をはさんで2時間ほどで打ち合わせを終えると春香は鞘葉の操縦するコスモハウンドでヤマトへもどった。
ヤマトを中心に30隻ほどの警備艦隊が扇状に陣形を展開する。
翌日のことだった。
「大型の飛行物体接近。距離5万宇宙キロ。」
「物体の識別確認。大型ミサイルです。」
「技術班はミサイルの発射地点を分析して。」
「3号艦、被弾!」
警備艦隊の被害報告がはいる。
宇宙空間までは、音は響かないものの、第4惑星の地表に次々と命中し、宇宙空間なので音はしないものの衝撃波でヤマトの船体がゆれる。
「至急応戦体勢! 技術班、コスモファルコン隊も砲術科に協力してください。」
「主砲、副砲、迎撃ミサイル発射準備。」
「総員に告ぐ!第4惑星基地と警備艦隊を守り抜こう。」
「敵長距離ミサイル接近。右舷上方40度、下方25度、350宇宙キロ。左舷上方35度、下方30度、300宇宙キロ。」
「まず左舷上方35度、下方30度、主砲発射!」
「右舷ミサイル、あと180宇宙キロ!」
「右舷上方40度、下方25度、発射!」
ミサイルが破壊され、つぎつぎと爆発光が一瞬、また一瞬と繰り返し起こり、そのあとはもくもくと爆煙がひろがり、衝撃波が繰り返しヤマトの船体を揺らす。
「?ミサイルがこなくなったわね。」
伊織が小首をかしげる。
「なんでだろうね。」春香が話をつなぐ。
「威力偵察かしら。」千早がつぶやく。
「ミサイルの発射地点はわかった?」律子が技術班の士官にたずねる。
「はい、判明しました。」
「どこなの?」
「バーナード星の方向からです。惑星のひとつから発射してからワープさせているようです。」
「千早ちゃん。」
「次の探査予定地ね...。」
「第4惑星は、大気圧500hpa、二酸化炭素55%、窒素35%、酸素5%、火星よりかなりましだけどふつうに人類が暮らせる星じゃなかかったわ。完全にテラフォーミングするまで15年はかかるって。第3惑星にいたっては二酸化炭素99%で、900気圧、地表は400度を超える温室地獄のような場所。残念だったけど。」
律子が探査の報告をする。春香は警備のことばかりに気をとられていたことに気がつく。
「律子さん、ありがとうございます。」
「バーナード星の惑星系に敵がいるってこと基地があるだけなのかもしれないけど、可住惑星の可能性もある。千早、戦闘は避けられないかもしれないけど、いくだけの価値はあると思うわ。」律子が話す。
「千早、先を急ぎたい気持ちもわかるけど、ほうっておいて後ろから狙われたんじゃ元も子もないわよ。」
伊織も話をつなぐ。
「千早ちゃん、やっぱりバーナード星は探査すべきだと思う。雪歩、警備艦隊旗艦に伝えて。」
「こちらヤマト。敵のミサイル発射地点をつきとめましたぁ。これから直ちに敵基地の殲滅を図りたいと考えますぅ。」
「了解。アルファ星第4惑星基地はわれわれで死守します。ヤマトの航海の安全と健闘を祈ります。」
「了解ですぅ。」
「それでは、バーナード星系へむけてワープ準備。」
ヤマトは、地球から4.3光年の空間から姿を消した。
アルファ・ケンタウリ第4惑星は人類可住惑星とは言えなかった。
敵ミサイルの発射地点を突き止めたヤマトは、つぎの探査地であるバーナード星へ向かう。
そこでは何が待ち受けているのか...