そのころ海王星トリトン基地では、ワープアウトして侵入してくる宇宙船を発見した。
「距離2万五千宇宙キロに、国籍不明の宇宙船発見。」
「どうやら戦艦のようです。」
「よし、総員、戦闘配備。」
「どこの船だ、船籍を確認せよ。」
「船籍ファイルにありません。ガミラスでも、白色彗星でも暗黒星団帝国でもありません。」
「停船を命じろ。」
「了解。」
傷だらけの赤い宇宙船は海王星基地からの信号を受け、停船した。
「自動翻訳機、セット。」
海王星基地のメインパネルに、やや縮れ毛で顔には深いしわが刻まれ太い眉をもつ初老の男性と思われる人物が映し出される。
「惑星バース、ラジェンドラ号艦長、ラムです。」
「こちら地球連邦海王星トリトン基地。貴艦は、地球連邦の宙域を侵しています。至急退去していただきたい。」
「ごらんのように本艦は著しく損傷している。その修理をしたいのだ。」
「それはできません。地球と関係のない国の軍艦を助けることは地球の中立を危うくします。それは、ご理解いただきたい。」
「わたしたちは、ここから出ていこうにも、機関の損傷が著しく、満足に航行できない。それから、燃料や乗組員の水や食料にも事欠いているのです。」
「司令、どうしますか。」
「仕方ない。司令部に連絡をとり、長官の指示をあおごう。」
「長官。海王星トリトン基地から緊急通信です。」
「つないで。」
舞はトリトン基地司令から一部始終を聞き、
「船籍不明の損傷した戦艦についてどう対処するかですって?」
「はい。」
「原則、許可できないのは、わかっているわよね。」
「しかし、長官、出て行けないような状態の彼らを亡命させるわけにもいきません。」
「それなら滞在時間は24時間、機関の修理、燃料、食料、医薬品の補給に限って許可します。武器、弾薬の補給は絶対ダメ。わかった?」
「了解しました。」
舞は司令部付の士官に命じる。
「至急、シャトルの用意をして。これからラジェンドラ号の交戦国の艦隊が来るはず。それからヤマトには出航延期の緊急連絡。わかった?」
「了解しました。至急連絡をとります。」
「春香ちゃ、艦長。」
「何、雪歩?」
「防衛軍司令部から緊急連絡ですぅ。」
パネルには通信士官の顔が映し出される。
「ヤマト、ヤマト聞こえますか。」
「ヤマト艦長、天海春香です。」
「トリトン基地上空にまた傷ついた戦艦が出現しました。先日、駿河湾沖に水没した戦艦と形状が酷似しています。その戦艦の交戦国の艦隊が侵入してくる恐れがあります。緊急事態であるため、ヤマトの出航を一時見合わせるとの長官命令です。」
「!!」
「長官は、シャトルで地球上空の防衛軍旗艦アンドロメダに向かわれました。」
「雪歩、艦内放送つないで。」
「はい。」
「緊急事態発生。緊急事態発生。ヤマトの出航は一時中止します。海王星トリトン基地に傷ついた戦艦出現。その戦艦の交戦国の艦隊に備えるため警戒態勢をとるとのことです。」
「出航直前の点検時間が与えられたって意味ではうれしいけど...。」
律子がつぶやく。
「前途多難ね。」千早がつぶやく。
そのとき、トリトン基地ではヴィーツ、ヴィーツと非常警報がなった。
地球防衛軍司令部でも超光速回線で同時に警報が鳴る。
アンドロメダでも警報が鳴る。
トリトン基地司令は部下にたずねる。
「どうした?」
「司令。総員戦闘配備させます。あれを見てください。」
パネルに緑色の船体をもつ艦隊が映し出される。100隻はいそうである。
「ラジェンドラ号の交戦国に違いありません。」
舞も地球上空の防衛艦隊旗艦アンドロメダの艦橋で同じ画面をみて、ふいに思い当たり
「先日、アルファ・ケンタウリ基地を攻撃してきた敵の画像を映して。」
「了解。」
「....やはりね.....。そっくり、というか艦形、編成から考えて同じ艦隊だわ。」
「第一種戦闘配備。敵艦隊とすぐにでも交戦できるようにワープ準備。」
「了解しました。」
そのとき緑色の艦隊から通信が入り、トリトン基地、防衛軍司令部、アンドロメダのパネルに細面の狡猾そうな男性の姿が映し出される。
「わたしは、ガルマン帝国東部方面軍第18機甲師団司令ダゴンである。貴国のドッグに入港しているラジェンドラ号の引渡しを要求する。猶予時間は10分だ。もしわれわれの要求が入れられない場合は直ちに貴国への攻撃を開始する。」
「基地司令、向こうの船につないでください。」
通信がつながれ、いったん消えたパネルに再びダゴンの姿が映し出される。
「ダゴン将軍、バース星のラムだ。」
「やはり、そんなところに逃げ込んでいたのか。」
「ダゴン将軍、地球がわれわれに与えているのは機関の補修、食料、燃料、医薬品の補給に限られる。それがすまなければ出ていこうにも出てきようがないのだ。あと15時間で滞在期間が切れる。そうしたら出て行ってどうどうと勝負する。」
「ふはははは。わかった。あと1時間だけ待ってやる。聞いたか。地球の基地よ。1時間後に引渡しが行なわれなかったら、ラジェンドラ号とともにお前たちを攻撃する。交戦国を援助した罰だ。」
「あと15時間といったはずだが。」
「ままごとじゃないんだ。せっかく譲歩して飯くらい食わせてやるといっているに差し出口をたたくか。よしそれなら、問答無用ということにしてもいいんだぞ。」
通信の一部始終はアンドロメダにも送られていた。ダゴンは自らの舌で自分の死刑執行書に署名したことに思い至らなかった。
「ずいぶんじゃない。地球の庭に土足で踏み込んで生きて帰れると思っているのかしら。直ちに戦闘配備のまま海王星宙域の敵艦隊の背後にワープ。」
舞が命じて地球艦隊はワープしていった。
「ダゴン司令!」
「何だ。」
「6時の方向の時空に異常。なにか多数ワープアウトしてきます。」
「何だと。」
「敵艦隊出現。数およそ300!」
「ワープ終了。12時の方向にガルマン帝国ダゴン艦隊。距離500宇宙キロ。」
「全艦、主砲発射準備にかかって。2番艦と3番艦は波動砲発射用意。撃ちもらした敵を掃討します。」
ガルマン艦隊旗艦に舞の姿が映し出される。
「ガルマン帝国のダゴン将軍かしら。地球の伝説にダゴンって神がでてくるけどサムソンって言う英雄に神殿ごとぶっ壊されたの。あんたをぶちのめすのは、ロン毛でむさいサムソンじゃなくて見目麗しい元アイドルのヒダカマイ。」
「ふん。知らんな。」
「へえ。わたしを宇宙で知らないなんてアンタもぐり?まあ、あんたみたいな失礼な輩にはただちにおしおきが必要ね。」
「全艦反転90度。高圧直撃砲用意。目標地球艦隊。」
ダゴン艦隊が反転をはじめ、高圧直撃砲の長方形の砲門が地球艦隊へ向けられようとする。
「主砲発射!」
ワープアウト後すぐに発射できるように準備していた地球艦隊からはなたれた数百もの光条はダゴン艦隊を引き裂いた。
引き裂かれるダゴン艦隊の艦艇の内部は、悲鳴と硝煙と火炎につつまれる。
「第2駆逐艦撃沈。」
「第9中型戦闘艦、通信途絶。」
「こちら、第17中型戦闘艦。敵の攻撃を受け....うわああああ。」
「第22駆逐艦。大破、しかし、現在機関は無事です。!?ぎゃああああ。」
爆発光と煙でダゴン艦隊の視界がさえぎられる。
レーダー連動で高圧直撃砲の光条が放たれ、地球艦隊を数隻沈めるが、
地球連邦の2番艦及び3番艦は波動のエネルギー充填を終えて発射の秒読みにはいっていた。
「「波動砲、発射!」」
2番艦、3番艦の艦長が命じると、艦首の巨大な砲門からエネルギーの光の束が解放されてダゴン艦隊の残存艦すべてを包み込む。
「うぎゃああああ。」
ダゴンは悲鳴をあげて旗艦ごと気化した。数分後にはガルマン艦隊のいた空間には細かく砕かれ、熱で溶解した金属片がただよっているだけだった。
「敵艦隊の反応、消滅しました。」
「長官...ときどき大人気なくなりますね。」
「そうね...よく考えたら撃滅しちゃったのはちょっともったいなかったわね。生け捕りにするか捕虜として何隻かのこして徹底的に尋問して洗いざらい情報をはかせればよかったわ。」
「そっちですか。」
「だって戦争に勝つには情報が必要じゃない?なにか私おかしなこと言った??」
「いえ...いいです。」
「トリトン基地につないで。」
「了解。」
トリトン基地のメインパネルに舞の上半身が映し出される。
「長官。」
「招かれざる客は始末しといたわ。本当のお客さんはいらっしゃる?」
トリトン基地司令は通信機の前にラム艦長を招く。
「バース星艦隊、旗艦ラジェンドラ号艦長のラムです。」
「ラム艦長。地球防衛軍司令長官の日高舞です。どうかゆっくり補給と修理をなさってください。ただいま、地球もガルマン帝国と完全に交戦状態に入りましたから、もし装備に規格が合うなら武器、弾薬も積み込んでいってください。」
「はい。ヒダカマイ長官、ありがとうございます。感謝いたします。」
「それから、ラム艦長。」
「はい。」
「実は、わたしたちの太陽は核融合が異常増進しているので、これから地球の特務艦が可住惑星探査に行くことになっているの。星間戦争の情報の提供と航路の案内をお願いできるかしら。」
「はい。今回のご恩がありますので。わがバースまでご案内いたします。」
「艦長。防衛軍主力艦隊旗艦アンドロメダより通信ですぅ。」
「長官。」
「海王星宙域で敵艦隊を全滅させたわ。トリトン基地には、地球から銀河系中心方向、1500光年先のバジウド星系第4惑星バース星の艦隊旗艦ラジェンドラ号がただいま停泊中。その艦長を紹介するわ。」
「お初にお目にかかります。ラジェンドラ号艦長、ラムです。」
「特務艦隊旗艦ヤマト艦長天海春香です。といっても一艦だけなのですが。」
春香は苦笑する。
「銀河系中心方向へご案内させていただくことになりました。トリトン基地でお待ちしています。」
「ヤマトは2日遅れになったけど明朝0720に出発するように改めて命ずるわ。」
「了解しました。ヤマト明朝0720に出航します。」
夜が明けて、日が昇りついに出発の日となる。
「総員、発進準備にかかってください。」
「波動エンジン、シリンダーへの閉鎖弁オープン。」
「波動エンジン内圧力上昇!」
「点火5秒前、4,3,2,1,フライホイール接続、点火!」
「ヤマト発進!」
千早がレバーを引き、ヤマトは一瞬おおきく振動した。雪をふるい落としながら、ゆっくりと前進を開始し、メインエンジンをひときわふかすと飛び立っていく。
「外翼展開!」
眼下に北アルプスの山々、松本城、松本市街と犀川、篠ノ井線が見えるが、だんだん小さくなっていく。
「地球に対し、敬礼!」
真の号令が流され、第一艦橋の面々はいっせいに敬礼した。
「外翼格納、あと1分で大気圏脱出、第一宇宙速度から第二宇宙速度へ!」
地球はやがて青と白のまだらの球となりだんだん小さくなっていった。
海王星宙域でガルマン帝国東部方面軍第18機甲師団、通称ダゴン艦隊を全滅させた地球艦隊。
いまさら旗色もごまかせなくなったので、原作と異なり医薬品や食料燃料だけでなく武器、弾薬もたっぷり詰め込んで武装も完全に修理した五体満足のラジェンドラ号と合流すべく地球を出航したヤマト。その先には何が待ち受けているのか...
後日談であるが、舞の「撃滅しちゃったのはちょっともったいなかった、捕虜として洗いざらい情報をはかせればよかった。」との発言を伝え聞いた元防衛軍司令長官で予備役大将だった武田蒼一はこう語ったという。
「あれは、どう見ても撃滅する気満々だったとしか思えない。」
ダゴンはペリシテ人の偶像神で、一説によると半魚人の神とも豊作をもたらす神ともされたようです。旧約聖書士師記15-16章で、ペリシテ人はデリラを使ってヘブライ人の英雄サムソンをメロメロに誘惑し、その髪を剃って目をつぶし、牢に入れていましたが、見世物としてダゴン神殿に引きずり出したとき、いつしか髪が伸び喪われていたはずの怪力がもどってダゴン神殿もろともベリシテ人を道連れに自分も死んだとされています。よくこんな上手いやられキャラの名前もってきたなと感心しますw。