宇宙戦艦YAM@TOⅢ   作:Brahma

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春香は退艦した鞘葉に会い、大事なのは彼自身の意志であると話す。そのとき電波障害が起こって...


第4話 銀河系大戦の予感

「パパに話したわ。まず鞘葉君がお父様と話すのが大事だって。それからどうしてもってことだったら水瀬の傘下企業だからドッグや予算のことを考えるから待てって。それから春香とサイモン教授の話が聞きたいって言ってたわ。」

「伊織ありがとう。わたしは鞘葉君に話してみる。」春香が笑顔で答える。

 

翌日、春香は、白馬発中央リニア経由東京行きで都内にもどり、鞘葉に会うことにした。

長野県白馬村から松本、諏訪を経由して、中央リニアが開通している。東京名古屋間も、東京白馬間も一時間である。

都内の閑静な住宅街の外側に田園地帯がひろがっている。そこにある喫茶店で鞘葉と落ち合うことにした。

「鞘葉君、今の気持ちと使命感をお父様に伝えるべきだと思うんだ。役に立つのかどうか判らないけれど私も行くよ。」春香は微笑む。

春香は鞘葉の援護射撃をしてあげたい、本人の力を必要としている第三者の客観的な評価が鞘葉の父親の心を動かすかも知れないと思ったからだった。

するとふいに店内の音楽がとまり、電灯が点滅した。

「すみません。このごろ太陽活動予報があまりあたらなくて...突発的な電波障害の発生です。しばらくお待ちを。お勘定の方は、非常電源でレジを稼動させますので...。」店主が客に伝える。

鞘葉が何か思い出したように走り出す。

「鞘葉君、どこへ行くの?」

返事もせず鞘葉は駐車場にとめてあった自分の車に飛び乗り急発進する。

(なんであんなにあわてているんだろう...。)春香はいぶかったがとにかく鞘葉のあとを追いかけることにする。

町は、太陽活動の異常を感じ取ったドブネズミが走り回ってパニックになり渋滞が発生していたが、鞘葉は裏道をたくみに使って、東京猿鞘記念病院の前に着く。

鞘葉は、あわてた様子である病室にかけこむ。

春香が追いかけて病室の名札を見ると

「鞘葉美佐江」とある。

(鞘葉君のお母様!)

病室には、透析装置の中にいる婦人が苦しんでいる。電波障害のため装置が思うように作動せず若い医師と看護婦がとまどっている。

「手動にしてください。」

鞘葉は、はっとして医師が取り出す手動ポンプをひったくって押し始めたので春香も彼を手伝った。やがて美佐江の呼吸が整ってくると最愛の息子が来ていることに気がつく。

「あ...。」

「母さん、俺だよ。猛だよ。」

「猛...。」

「間に合ってよかった...。」

「息子さん、これからは私たちがやりますので。」

医師と看護婦がポンプを押し始める。

「鞘葉君、ごめんね。わたし、鞘葉君の力になれるってうぬぼれてた。こんな事情があったなんて...。すみません。失礼します。お母様、お大事に...。」

春香はぺこりと頭を下げて病室を退出した。

(鞘葉君のことはあきらめるしかないのかな...なんてわたし無力なんだろう...。)

春香はうなだれた。

 

春香がいなくなってしばらくして美佐江は息子に話しかける。

「猛、今の方は?」

「ああ、ヤマトの天海艦長。」

「まあ、こんなところまでいらしてくださったのに..ごあいさつもろくに申し上げられないで...。」しばらく間をおいて美佐江はふたたび猛に話しかける。

「猛、あなたは行かないの?」

「猛はどこへもいかん。」そういって鞘葉の父獠介がはいってきた。

「父さん!」

「猛?そうなの?」

美佐江は息子をみつめた。

「猛、母さんを安心させてやるんだ。会社を継ぐからと言え。」

「いやだ。俺はヤマトへ行く。今の父さんの言葉ではっきりわかった。俺の人生はヤマトにある。俺の人生と父さんの人生は違う!」

「なんだと。そんなことが許されるとおもっているのか。」

鞘場獠介は息子を張り倒し、にらみつけた。

鞘葉も負けじとにらみかえす。

「父さんのその一言で皆震え上がる。自分もそうだった。でもこれからは違う。」

「どう違うんだ?防衛軍司令長官が乗艦命令を出すというのかね。」

「そうだと言ったら。」若い女性の声がした。鞘葉獠介にとってはかってあこがれた声である。振り返ると舞と伊織がそこへ立っていた。

「!!」

「ただ手荒なことはしたくないのよねえ。家族の問題だから。ね、伊織。」

「そうね。鞘葉さん、あなたの息子さんは今のヤマトに必要な人材なの。人類のき、ごほん、とにかく、大変名誉なことなのよ。それからここへわたしが来たということがどういう意味かわかるわよね。」

「うぐぐ...。」

「あなた。」

美佐江は右手で胸もとの透析パイプをにぎり、左手に接続コードを握って今にも引き抜こうとしていた。

「母さん、そんなことをしたら死んでしまう。」猛は母をとめようとする。

「いいのよ。母さんはね。あなたはあなたが気にそまない人生を送るのを見ながら生きていたくないの。さぁ、あなた。そこに司令長官がわざわざいらしているわ。猛を迎えるために。猛がヤマトに乗れるようにしてちょうだい。」

「うぐぐ...。」

「お願い、あなた。わたしはまだ死にたくないの。」

鞘葉獠介はがっくりと肩を落とした。そしてうめくように

「ひ、日高長官。む、息子をよろしくお願いします。」

と頭をさげた。

「あなたの息子さんは大変優秀です。きっと地球のために大いに働いてくれる。鞘葉さんにとっても損じゃないと思うわ。」

「父も鞘葉さんが人類のためにかけがえのない決断を強いられてではなくご自分の考えでしたことを喜んでくれると思うわ。」

舞と伊織は鞘葉をつれて病室を辞した。

 

翌日、春香が東京発中央リニア経由白馬行き特急に乗ろうとしていると

「天海さん...。」

と呼び止める声があった。それはげっそりとやつれた白髪の白人男性であったが、春香はそれが誰であるか気づく。

「あなたは、地球連邦大学の...サイモン教授じゃありませんか!」

「もう教授ではありませんよ、天海さん。太陽の核融合異常増進説を主張しつづけたので...これですよ。」身振りで、サイモン教授は首の前で手を真横に複数回スライドさせてみせる。

「ええっ...。大変残念です。なぜ...。」

「日高長官からは、司令部にも観測機器があるので観測をつづけてほしいとは言われました。ですがもう私は疲れました...。ところで天海さん。」

「はい?。」

「ヤマトは発進するんですよね。第二の地球探しに...。」

「もちろんです。教授。あなたは研究者の鏡です。ぜったいに見つけて見せます。」

春香は、サイモン教授の手をにぎって微笑む。

「よかった。その最初と最後の一言が聞きたかったのです。」サイモン教授は苦笑し、春香も笑顔になる。

「よろしくおねがいします。」

サイモン教授は春香の手を握り返し、一礼すると人ごみのなかに姿を消した。

振り返るとそこに鞘葉のすがたがあった。

「鞘葉くん!!!舞さんと伊織も?」

「にひひっ。」

舞と伊織が微笑んで、鞘葉は頭をかく。

「彼はね、大きな壁を乗り越えたの。」

「そうなんだ。よかったね。」春香は鞘葉に微笑み返した。

 

無事に鞘葉が加わり、ヤマトの出発準備が最終段階を迎えていた。コンピュータールームでは、アナライザーやロボットも加わって組み込み作業が行われている。

「このコンピュータールームの作業が一番遅れているわ。がんばって。」

「モウ、時間モナイノニ設備ノ拡張ナンカスルカラデスヨ。」

「今回のヤマトの任務は、地球とよく似た惑星を探すのが任務なの。大気や鉱物組成、生物相などあらゆる要素を調査して人類が住めるかどうか検証しなければならない。そのためにはコンピューターを増強しないわけにはいかないわ。」

「調査ナラボクヤロボットタチガイルジャナイデスカ。」

「あなたは移動や運搬が可能な範囲での探査機能しかないのよ。ほかのロボットも同じ。

だからできる限りの設備拡充を図る必要があるの。人類の存亡がかかってるんだから。」

 

そのときブーツ、ブーツとけたたましく非常警報が鳴った。

「パネルで映して。」

春香が命じレーダー手がパネルに映す。

雲のきれめから炎上しながらよろよろと進む宇宙戦艦が映し出される。

「上空200キロに国籍不明の宇宙戦艦出現。南南東へ向かっています。上空の空間にゆがみの痕跡があります。ワープアウトした模様です。」

「全員配置について。」

「艦長。防衛軍司令部より入電ですぅ。」

「映して。」

天井のメインパネルに舞の姿が映し出される。

「例の宇宙戦艦のことはもう知ってるわね。」

「はい。」

「ひどい被害をうけているようね。あの様子だとおそらく戦闘能力があるとは思えないし、生存者もいないでしょう。もう予想落下海域付近の船には人工衛星が落下するって知らせてあるわ。駿河湾付近の太平洋の海中に落下するんじゃないかしら。」

「了解。しばらく様子をみます。」

「それから、春香。地球防衛軍司令部ではこのことを重く見て、万一侵略者があったときのために艦隊を集結させることにした。だから地球のことは安心して出発して。」

「はい。」

やがて国籍不明の宇宙戦艦はばらばらになって駿河湾沖の太平洋に複数の火球となって落下して行った。

(いったいどこの宇宙船なんだろう...。)

春香はこの旅に想定を超える困難が待ち構えている予感を抑え切れなかった。

気をとりなおし、春香は雪歩に伝える。

「雪歩、艦内放送で乗組員を甲板にはつめて。」

「了解。」

甲板に成立した乗組員は、千早、律子とともに副長を勤める真が

「艦長に敬礼!」と号令すると全員が敬礼し、春香も答礼する。

「そのままで聞いて。宇宙戦艦ヤマトは明朝0720時に宇宙へ向けて発進します。」

「知っている人もいると思うけど、わたしたちの任務は第二の地球となる惑星をさがすことです。しかし、どうやらミサイルの流れ弾が複数回にわたって侵入してきたり先ほどの損傷した国籍不明の宇宙戦艦の落下など太陽系からそれほど距離のない場所で戦争が起こっているようなんです。だから生きて帰れる保障はありません。ですから最後の機会を与えます。もし地球に残る人は、ヤマトを降りてもかまいません。」

乗組員は無言だった。

「では、解散します!」

春香が命じると皆自室へもどっていった。春香は千早と最終的な打ち合わせをするために第一艦橋にもどる。

「春香、どうしたの?」

「千早ちゃん、本当にヤマトは第二の地球探しに成功するんだろうか。人類すべてがそっくりそのまま移住してくらせる星なんてあるんだろうか。」

「春香、太陽のようなG型の恒星は銀河系中心方向にたくさんあるわ。それからG型でなくても太陽よりやや高温のF型の恒星ややや小さくて低温のK型の恒星も生命が住めるハビタブルゾーンがある。」

「でも、もし見つけられなかったら?人類は滅亡するんだよ。今までわたしはヤマトに乗って航海の目的を達成してきたから舞さんは見込んでくれたんだろうけど、よく考えたら、確かに地球は人類は危機に見舞われたけど結果的に敵を破るだけでよかった。しかし今度ばかりはそんな星はありませんでしたじゃすまない。」

「いまから心配しても仕方ないわ。白色彗星が攻めてきたときも、わたしたちは反逆者よばわりされた。今回も太陽の異変はよくあるできごととして片付けられている。わたしたちは、それを人類滅亡の危機だと気がついた先見の明があって行動しているんだから自信をもっていい。」

「うん...艦長としてがんばらなきゃ。」

「艦長として、じゃなくて春香が春香らしい判断をしたらいいと思う。春香、よく考えて。律子と真は本当は昇進できるのになぜ副長としてヤマトに乗るのかしら。ヤマトは名目上たった一隻の第13パトロール艦隊の旗艦、実際は第一可住惑星探査特務艦隊の旗艦ということになっているわ。少将になったら艦隊司令か地球にいなければならないから、佐官であれば同じ艦隊の別の船の艦長になっても春香を支えられるから昇進を断ったの。」

「ほんとだ...私、あたりまえのように思っちゃって...すごくうれしいことなのに。」

春香は感極まってうれし泣きしてしまう。

「そうだよ。はるるん。亜美と真美は訓練学校とヤマトの往復で卒業できていないからいまだに曹長のままだよ。ヤマトにいるのは楽しいし、気楽でいいんだけど。」

非番でたまたま第一艦橋にきていた亜美と真美が春香に話しかける。

「艦長、舞さ、ごほん、司令長官がいらっしゃいましたぁ。」

「今行きます。雪歩、お別れパーティの準備はできてる?」

「はい。生活班のみんなが用意してくれましたぁ。」

 

「ヤマトのみんな、元気?あたしのことはよく知ってると思うけど元艦長で今は防衛軍司令長官やってる日高舞よ。地球連邦政府は太陽の異変の調査にのりだしたけどまだ正式に認めるにいたっていない。だからこのヤマトの出発はわたしの独断ってことになる。でも私はヤマトのみんなに期待している。きっと人類に未来を運んできてくれるって。それから、今回特別に見送りにきた人を紹介するわ。」

「第七艦隊司令の赤羽根です。暗黒星団帝国との戦いではみんなに助けられた。こんどの航海には一緒にいけないが航海の成功とみんなの無事を祈っている。」

「赤羽根小鳥です。春香ちゃん、みんなおひさしぶりです。山本さん、そして今度乗り組みが決まった鞘葉くん。航宙隊のみんなが第二の地球探しにがんばってくれることを期待しています。」

「第二艦隊司令の土方だ。日高長官の薫陶をうけた諸君たちならきっと期待に答えてくれると信じている。諸君はガミラスと戦って勝ち、反逆者の汚名をいとわずにアンドロメダと刺し違える覚悟をし、」

ここで爆笑がおこる。土方もうれしそうだ。訓練学校の校長も勤めたことのある土方は、かっての卒業生たちが多少なりとも不安な気持ちをかかえていることを慮って、皆に勇気と自信を与えたいと考えて来たのだろう。

「白色彗星を倒し、波動砲が効かない暗黒星団帝国をも倒した。それから昇進を断ってヤマト乗り組みを選んだ者もいる。そんな君たちであるから断固たる意思で目的を達成してくれると確信している。今地球にも流れ弾を撃ってきた敵が侵入しないともかぎらない。地球のことはわれわれにまかせて第二の地球探しに全力を尽くしてほしい。」

「まあ、なにか起こったら知らせて。太陽系内であればいつでも艦隊は出撃できるわ。それでは、航海の成功とみんなの無事を祈って。乾杯!」舞がグラスをかかげると皆も和した。

しかし、ヤマトは翌日、急遽出発中止命令が出て出発することはできなかった。

 




ヤマト出発直前に中止命令がでる。何が起こったのか。

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