【推奨BGM:新コスモタイガー】
ヤマトの改装がはじまってから一週間がすぎた。
春香がカタパルト上の愛機コスモゼロの点検をしているとリュックをかついだ山本明の姿が目に入る。
「山本さん!」
「艦長!おひさしぶりです。いろいろあって今日になってしまいました。ところであれは?」
山本は見慣れない飛行艇を指差して春香にたずねる。
「あれはコスモハウンドといって惑星探査の地上踏査活動につかう飛行艇です。律子さんの苦心作。使うのは生活班なんだけど飛行科も協力してテストしているの。」
「操縦うまいですね。誰が乗ってるんです?」
「鞘葉猛くん。今度の航海のために宇宙戦士訓練学校を繰り上げ卒業した新人さん。
山本さん、しっかりしないと飛行科のキャップ抜かれちゃいますよ。」
「まあ、みててくださいよ。」山本は微笑む。
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そのときあわをくったように雪歩が走ってきた。
「は、春香ちゃ、艦長!」
「どうしたの?雪歩?」
「こ、これを読んでください。」
「これは...。」
それは防衛軍司令部からの電報で、鞘葉猛を退艦させるように書いてあったが理由が書かれていない。
(舞さんが理由もなくこんな命令を出すはずがない。どうして...?)
春香は仕方なく鞘葉が訓練から戻るのを待って退艦命令を伝える。
鞘葉の顔はこわばった。
「鞘葉くん、何か退艦命令を受けるような心当たりある?」
「いえ,,,ありません。」
「でも、急に司令部から乗り組みを解除するよう命令がくるなんて...本当に心当たりはないの?」
「ありません...。失礼します。」
鞘葉は、落胆した様子で肩を落として荷物をまとめるためか自室へもどっていったようだった。
そのころ地球から1500光年離れたバジウド星系第4惑星バース星近隣宙域には、緑色の船体をしたガルマン帝国の東部方面軍第18機甲師団のダゴン艦隊が攻め込んできていた。
ダゴン艦隊はバース星艦隊を事実上破ると、ケンタウルス座アルファ星へ接近してきた。
恒星アルファ・ケンタウリ若しくはリギル・ケンタウルスから約1.2天文単位の位置に第4惑星がある。荒涼としたそこには、地球連邦開発局が工事をおこない、いくつかの基地や町が築かれていた。
「攻撃せよ。」
ダゴンは地球連邦の半球形の基地へ向かって光線砲を斉射させた。轟音と煙と炎を発して基地が炎上する。
その様子を接近した水色の船体をもつ艦隊、つまりバース星艦隊が確認していた。
翌日、春香はヤマトの航路スケジュールを受けとるためと舞に会うために、防衛軍司令部へ出頭し、スケジュールを管理部から受け取ると、舞へのアポをとった。舞は中央管制室にいるという。
何か事件がおこったせいかけたたましい非常警報が鳴っている。
「戦況はどう?」舞がオペレーターにたずねる。
「戦闘衛星を集結させて応戦しています。」
「こういうときのために、外惑星パトロール艦隊は私の命令がなくても発進できることになってるけど?」
「セドナ、エリス、冥王星、カイパーベルト基地から第二、第五、第六艦隊が発進しました。あくまでもパトロール艦隊なので、ワープ性能に限界があり、一週間はかかるかと。」
「戦闘衛星で持ちこたえられる?」
「かなり苦しいかと。」
地球連邦は、ケンタウルス座アルファ星まで進出して基地と植民地を築いていたが、そのアルファ・ケンタウリ基地がなぞの艦隊に攻撃され、戦闘衛星が応戦していたが、次々に撃破され、戦況は芳しくない。
(わたしが自ら出なきゃならないかしらね...。)
そんなふうに舞が考え込んでいると春香が声をかける。
「舞さ...長官!」
「ああ、春香!どう?ヤマトは発進できそう?」
「はい、指示をいただいてから二週間後、あと六日で発進できるよう準備しています。」
「見てわかると思うけど、最前線のアルファ・ケンタウリ基地に国籍不明の敵が攻撃をしかけてきたのよ。」
「ところで春香、管理部で航海スケジュールは受け取った?」
「太陽系周辺パトロール計画となっていましたけど...。」
「連邦政府は、太陽の核融合異常増進を認めたがらないの。だからヤマト出撃の名目を第二の地球探しじゃなくて太陽系周辺パトロールということにするしかなかった。まったくお役所はこうだから...艦隊戦みたいにぱあっとはいかないわね。ただ知ってるように事態は緊迫しているから一刻も早くヤマトには発進してほしい。」
「律子さんと相談してあと六日を一日でも短縮できるか努力してみます。」
「頼んだわ。」
「ところで長官?」
「何?春香?」
「長官も知っているようにヤマトには一人でも優秀な宇宙戦士が必要です。なのになぜ、鞘葉くんは乗り組み解除になったんですか?」
「その話ね。実はねえ...。」
舞は、外部にあまり聞かれたくないからと長官室に春香を呼んで苦りきった表情で説明を始める。最後に舞は
「はあ、長官になれば自由に艦隊を動かせると思っていたんだけど、人事とかにも横槍がはいるのよねえ。アイドルや前線の戦闘指揮とはまったく違う論理が働く。わたしには向かないわね。」と苦笑してぼやいてみせた。
そのころケンタウルス座アルファ星域では….
「ガルマン艦隊発見。前方1万宇宙キロ。敵はまだ気が付いていないようです。」
「艦長、このまま闘っても不利です。いったんバース星に帰って体勢を立て直しましょう。」
「いや。闘う。バースの軍人は敵に背中を見せるようなことはしない。主砲発射!」
「将軍、バース星の艦隊が砲撃してきます。」
「愚か者めが。反転90度。アルファ星第4惑星の基地の攻撃を中止し、バース艦隊に反撃せよ。」
「はっ。」
ガルマン艦隊は砲門をいっせいにバース艦隊に向けて砲撃をはじめた。
さて地球では、春香がヤマトへもどると、艦医のあずさが来ていることにきがついた。
「あずささん。」
「春香ちゃん。」
「あずさ先生」アナライザーがあずさのほうへ移動していく。
「きゃつ。もう。元気だった?アナライザーさん?」白衣をスカートめくりの要領でめくられ、あずさは軽い悲鳴をあげる。
「ハイ。」
「アナライザーさんは、工作班でも直せないような病気があるわね。どうすればなおせるのかしらね。」あずさはあごに手をあてて微笑んでアナライザーをみつめる。
「イイエ、遠慮シマス。ボクハ死ンデモ先生ニダケハカカリタクナイト思ッテイマス。」
「まったく。しょうがないわねえ。」
春香とあずさは苦笑する。
「今度はいやにロボットが多いわね。」あずさがつぶやくと
生活班長の平田が説明する。
「今回のヤマトの航海の目的は第二の地球さがしなので、その星が地球に似た環境なのか、気象学、地質学、生物学などいろんな角度から調査するために探査機としてロボットをたくさん乗せていくことになります。」
アナライザーがロボット群を先導する。
「アナライザーはロボットのキャップになるので、大変なんですよ。」
平田は、その様子を微笑みながら説明する。
「アナライザーさん、きっとえばるわね。」あずさは微笑みながらつぶやいた。
そこへ千早が春香を呼びにやってくる。
「春香!」
「千早ちゃん?」
「航海計測室へ来てくれる?」
「うん、わかった。」
「春香、ヤマトのこれから進んでいくべき航路を検討してみたの。これを見て。」
千早は春香に星間航路図を見せる。
「わたしたちが探すべき星は地球と同じ環境条件をもったものにしぼられる。今の技術で惑星を改造するのは可能だけど一年では無理だし、テラフォーミングが完成するまで全人類が宇宙服を来てすごすわけにはいかないから大気組成や温度など地球とほとんど変わらない星をさがすことになる。そうなると無数の恒星系の中から、わたしたちの太陽と地球に似た大きさと距離のものだけ選んで調査していくことになるわ。進路は銀河系中心方向にとるけど、まずは地球に最も近い4.3光年のケンタウルス座アルファ星へ行き、それから9.4光年のいて座ロス154星のわきを通過していく。そうして五千光年くらいまでは観測できるからそれまでの範囲で太陽に似た恒星が地球に似た惑星を伴っていると思われる恒星系を選んで作ったのがこの航路図よ。」
「五千光年から先は?」
「ヤマトで航海しながら観測してつくっていくわ。」
「鬼がでるか、蛇が出るか、白紙の地図っていうわけなんだ...。」
「戦いは避けたいわね...。」千早はつぶやく。
「そういえばアルファ・ケンタウリ基地を攻撃してきた敵はどうなったんだろう....。」
「はる、か、艦長、地球防衛軍司令部より電話ですぅ。」
「あ~、いきます。」
「春香、アルファ・ケンタウリ基地を攻撃してきた敵は撤退していったわ。」
「!!なぜですか?」
「わからないわね。ただ、このままにしておくとは思えないからまた来るでしょうね。
律子、発進の日程は詰められる?」
「なんとかやってみます。」
「たのんだわよ。」
律子が敬礼すると、舞が答礼して画面が消えた。
「あ、あの、艦長、土門君が鞘葉君のことで...。」雪歩が春香に話しかける。
「何かあったの?」
「平田さんのところに来てるんだけど...。」
春香は生活班長室へ向かった。
「土門君、鞘葉君になにかあったの?」
「艦長、彼は退艦して以来かなり荒れた生活をしているみたいで...。」
平田が話し始める。
「鞘葉君が?」
「はい。昨日やつと電話で話したんですけど、盛り場へいっては酒を飲んで、酔った勢いで喧嘩したり、飲み屋をはしごしているそうなんです。猛も俺も、宇宙戦士になってヤマトに乗り組むことを夢見ていたんです。繰り上げ卒業式があってようやく念願がかなったと喜び合っていたんですが...。やつが家に戻らないのは、やつの親父が猿鞘林業の社長で無理やりあとを継がせられるからなんですよ。」
「うん。この日本アルプスのドッグの持ち主でもあるね。」
「え?」
「土門君、今回のヤマトの改装にどのくらいかかるか想像できる?」
「さあ..。」
「舞さ、ごほん、長官から聞いた話なんだけど、今回ヤマトが飛び立つ本当の目的は、第二の地球探しなのはわかってるよね。」
「はい。」
「だけど、連邦政府が太陽の核融合異常増進を認めたがらないのでヤマトの発進についての名目は太陽系周辺パトロールということになっているの。それだと十分な予算が確保できないからアイドル時代の貯金を取り崩してみたりしてたんだけど、そこへ長官が日高舞としてアイドルだった時代の元ファンだった鞘葉林業の社長さんが資金援助してくれることになったの。それで協力する条件として鞘葉君を....。」
「やっぱり、そういうことだったんですか。艦長なんとかならないですか?」
「長官も私の話を聞いてすごく残念がってた。私も彼のような優秀な人材にはぜひ乗り組んでほしいんだけど...。」
この話は財界人の娘である伊織の耳にも入る。
「そうね。今のヤマトには優秀な人材が必要だわ。私も彼の腕はきっとこの航海で大きな意味をもつものになると思う。あのドッグと予算を工面できないからパパに話してみる。そうすれば鞘葉君のことも...。」
「うん...。」春香はあいまいに答える。
「わたしがこんなことを言っていいのかわからないけれど...。」
千早が話し始める。
「鞘葉君はお父様と話す必要があると思う。まずは鞘葉家の問題だから。わたしがこんなことを言うのは非常に身につまされるけどやっぱりそこからはじめないといけないと思う...。」
「うん。でもパパに話すだけは話してみるわ。とにかく地球が危ないんだから最善の努力ができる体制が必要には違いないでしょ。」
伊織はあまり力のない事務所であるnamugoプロでアイドルをやり、貧しくとも前向きに生きる親友と出会い、ヤマトのつらい航海を体験したことで強い正義感を持つようになった。権力は正義のためにつかわれなければならないというのが彼女の信念になっていた。
新乗組員鞘葉への退艦命令。舞もヤマトクルーも動き出すが、彼自身の決断が必要だった。一方、星間戦争の魔手は地球の勢力圏にも及びつつあった。