宇宙戦艦YAM@TOⅢ   作:Brahma

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ボラー連邦とガルマンガミラスによるシャルバート上空戦が行なわれているときに、ヤマトはルダ王女と長老に連れられて「シャルバート王家の谷」へ行く。


第22話 シャルバート上空戦、そして太陽系への帰還

【推奨BGM:シャルバートの戦い】

ガルマンガミラスとボラーの艦隊が空中で戦闘する一方、地上へはボラー艦載機と降下猟兵が降りてくる。

「ボラー艦隊は上陸体勢に入りました。」

「えつ...まずい。山本さん、コスモファルコン発進お願いします。」

「了解。ただちに発進します。」

「地上にいる部隊は、シャルバート星を敵降下猟兵の部隊から守ってください。」

ボラー艦載機と降下猟兵の射撃はシャルバートの非戦闘員にも容赦はない。

ダダダダダ...バシューン、バシューンと繰り返し銃声がなりひびく。

機関銃と光線砲が横殴りの雨のようにふりそそぎ、地上にいる人々を貫く。

人々はきゃあああ、ぎゃあああと悲鳴をあげて逃げ惑った。

山本率いるコスモファルコン隊は、ボラー艦載機を次々に撃墜し火球へ変える。即座に爆発しないですんだボラー艦載機も、コントロールを失って煙を引きながら次々に墜落していく。

 

春香、鞘葉、土門、律子、千早、ハイゲルが、降下猟兵を倒しながら王宮へ戻る。

ルダ王女と長老の安全が心配だったからだった。

王宮では、ルダ王女と長老は戦闘をながめていたが、流れ弾がとんでくる。

「危ないっ!」

春香はルダ王女をかばってころぶ。

「えへへ...。」(今のはつまづいたわけじゃないぞ。っていうか...)

「あの...何してるんですか?戦闘がはじまっています。ここも危ないです。」

「戦闘?」

長老が不思議そうな顔で問い返す。

「そうです。見てわかりませんか。」

「あなたがたが勝手にやっとるんだろうがね。」

「何をおっしゃるんですか?わたしたちはシャルバート星が侵略されないよう守っているんですよ。」

見るとシャルバート星の人々は無抵抗で悲鳴をあげたり、逃げ惑ったりして殺されたり、負傷者が続出していく。

「どうして?どうして戦いもしないでむざむざ殺されるんです?」

「シャルバートは戦いを捨てたのです。」

「うそだ!あんたがたは、臆病で、能無しで、怠け者なだけだ!」

土門が叫ぶ。

「あなたがたのために他人が血を流しているんです!それでもなんとも思わないんですか?」

「ご好意はありがたい。だが余計なことだ。あなたがたには、自分の身を守るために立ち去るという選択もできるのだ。われわれはそうであっても決して怨まない。」

「シャルバート星が滅ぼされてもいいんですか?」

「かまわない。」

「艦長、ほっときましょう。こんなやつら。」

土門はあきれたように言う。春香は考えた。この人たちはある種覚悟をしている。

こちらはルダ王女を送ったらおしまいではなく、すでにボラーからシャルバート星を守るという選択をしたのだ。

「土門君。任務に集中しよう。わたしたち自身がわたしたち自身であるためにシャルバート星を守ろう。ね?」

土門は無言でうなずいた。

 

【推奨BGM:FIGHTⅡ】

上空では、デスラー艦隊が大型戦闘艦や中型戦闘艦をまた一隻、また一隻と撃沈され、一見苦戦していたものの、巧みにボラー艦隊を集結させるのに成功していた。

デスラーはほくそえむ。

「戦艦500隻、空母300隻、巡洋艦、駆逐艦あわせて800隻接近。」

「ボラー連邦にガルマンガミラスの真の力を見せてやる時が来たようだ。」

「ハイパーデスラー砲用意。」

新型デスラー艦の艦首にある六角形の巨砲に薄赤色のエネルギーが光りながら充填されていく。それは、ゴルバとの戦訓から、デスラー砲を改良し、エネルギーを広範囲に滞留させるとともに物質の分子単位の接合力を破壊する、つまり偏光バリアであろうといかに強力な装甲であろうと物質である以上は破壊できないものはないという超兵器であった。

「ハイパーデスラー砲発射!」

デスラーが照準ゲージをのぞき、引き金を引くと銀河系最強の巨砲から薄赤色の光とエネルギーの奔流がはき出される。その奔流は1600隻前後のボラー艦隊を包むやたちまちのうちに引き裂いて、消失させた。

この一撃でバルコフとジャーコフは戦死し、ボラー艦隊は9割を失って戦意を喪失し、ちりじりになって敗走をはじめた。

 

 

「春香ちゃん。じゃなかった天海艦長。」

「ん。考えたけど千早ちゃんや律子さんも春香って呼んでるし、春香でいいよ。で、雪歩どうしたの?」

「ボラー艦隊はデスラー総統の一撃で逃げていきますぅ。いまガルマンガミラスの艦隊が追撃中ですぅ。」

「了解。山本さん、コスモファルコン隊は残った地上のボラーの掃討を。それから、けが人がすごいんだ。あずささんに救護おねがいしてくれる?」

「「了解。」」山本の返答と雪歩の返答が通信機にはいる。

救命艇がヤマトから降りてくる。

仮設テントが建てられ、あずさを中心にアナライザーと生活班、医療班が手当てをおこなう。

「艦長、負傷者については、すべて収容おわりました。」

土門が報告におとづれる。

「うん。」春香は満足そうにうなずく。

「天海艦長。」

「あ、ルダ王女。」

「シャルバート星の全員に代わってお礼をいいます。ありがとうございます。」

「天海艦長、それからハイゲル将軍、わたしについてきてください。これからお見せしたいものがあるのです。」

(何だろう、見せたいものって)

そのとき律子とハイゲル将軍が春香に声をかける。

「天海艦長行きましょう。」「春香、行ってみよう。」

「そうですね。律子さん、ハイゲル将軍。」

三人は長老とルダ王女についていく。

山間の道を抜けるとカッパドキアのような紡錘状の岩山が連なる場所に出る。

「ここは、シャルバートの先祖代々の王族が眠る王家の谷です。」

王家の谷の一角に大きな岩の壁を利用した建物があった。一見するとアラビア半島にあるペトラのような建物である。

ルダ王女が手を振ると扉が開き、ルダ王女と長老が入っていく。春香と律子もはいっていった。ルダ王女が下に手を振ると床が円形のエレベーターのように下に降り始めた。

「エレベーター」が止まると、「壁」が開く。

「壁」の開いた目の前には、超科学兵器ともいうべきものがならんでいた。

「これは...。」律子は目の前のものに驚きを隠せない。

「プロトンミサイル、ハイペロン爆弾....いいえ、わたしたちの知識では説明不能な超科学兵器...。どうしてこんなに立派な武器があるのに戦わないんですか?」

「わたしたちは、戦いを捨てたのです。この星は、かつて、これらの兵器を使って、銀河系宇宙に君臨していました。あなたがたもご存知のように銀河系のあちこちには、そのころのシャルバート星の力が伝説となって救いを求める信者が大勢います。しかし、わたしたちは気がついたのです。武器を使って戦争することによっては、憎しみの連鎖しか生み出されず、真の平和や幸せは来ないのだということを。それ以来、わたしたちは、武器をこの王家の谷に永遠に葬ることにしたのです。」

「でも、それで敵が攻めてきて、シャルバート星が滅んでしまっては何にもならないじゃないですか。」

「いいのです。たとえわたしたちは滅んでも、わたしたちの考えは銀河系の人々の間に伝えられて残ります。いつか、第二、第三のシャルバートになる星が現れるでしょう。そうなったときに初めて真の平和がおとづれるのです。」

「わたしたちはいつも、地球の平和を守るために敵と戦ってきました。しかし、地球人類のなかにも争いがあります。「欲がはらむと罪を生み、罪が熟すると死を生みます」って有名な言葉があるけど、自己中心が争いや戦争のもとになる...。」

「そうです。結局自分との戦いになります。「無償の愛、心の底からの平安、寛容、親切、喜び、善意、誠実、柔和、自制心」が必要になります。」

「そうですね...。でも、難しいことです。今のわたしたちには。」

「誰にもすぐできることではありません。いつかそうなるよう心がけることが大切なのです。」

「しかし、地球と人類はいま滅亡の瀬戸際にあるのです。」

「ですから、あなたがたをここへお連れしたのです。恒星の核融合を抑制、正常化できるハイドロコスモジェン砲をさしあげましょう。」

翌朝、長老とルダ王女は、ヤマトクルーを王宮の玉座の前に招いた。

「これでわたしは、あなたがたにこの星につれてきていたただいたお礼であり、あなたがたにこの星にきていただいた目的を果たしました。」

ルダ王女は玉座へ向かってゆっくり歩き、ついに玉座の前に立つと玉座が輝き、ムターニャ・シャルバートの姿が現れる。ルダ王女とムターニャ・シャルバートが一体となって輝いた。

「新しいムターニャ・シャルバートの誕生です。これからはルダ王女が新しいムターニャ・シャルバートとして人々の心の中に生きるのです。」

長老がおごそかに語った。

 

さて、ハイドロ・コスモジェン砲をヤマトへ積み込もうとしたが、どうしても相性が合わないため、がルマンガミラスの工作船につみこまれることになった。

ここでちょっとした難題が起こった。フラウスキー少佐が強硬に反対したのである。

「わがガルマンガミラスの技術が信用できないというのですか。」

「いえ。そういうわけではありません。ただ、地球人類60億の命と将来がかかっているのです。万一の失敗が許されないのです。それからシャルバートの技術を知るサンプルにもなるのではないでしょうか。」律子が答える。

「地球人類を救うため、選択肢が多いほうがいいのです。きっとガルマン民族の解放を第一に戦ったデスラー総統にもご理解いただけるはずです。」春香も説得につとめる。

 

春香は、シャルバート星の事情をデスラーに話した。

「なるほど...そういうことだったのか...シャルバートは...。」

「どうしますか?デスラー総統?」

「わたしは、栄光あるガルマンガミラスの総統だ。銀河系の解放戦争のために戦っているのだ。丸腰の者を攻めたりはしない。それからフラウスキーに伝えてくれ。わたしは、万が一の失敗による君の死をのぞまない。その技術力でこれからもガルマンガミラスに尽くしてほしい。わたしがガルマン民族を解放したように、いかなる手段をもちいても友邦地球を救うのがすべてに優先されるのだ、とな。」

「ありがとう。デスラー総統。」

デスラーは満足そうにうなづくと、画面から消えていった。

 

「全艦、発進準備。」

「全艦、発進準備。」

「フライホール接続、点火!」

「ヤマト発進!」

ヤマトと工作船団はシャルバートの海水をはじきながら飛び立った。

 

約500光年を数回に繰り返してヤマトと工作船団は太陽系縁辺にやってくる。

冥王星基地では、観測員がそれをとらえていた。

「宇宙船と思しきものを数隻確認。」

「船籍照合しました。ガルマンガミラス工作船団とヤマトです。」

 

「こちら、冥王星基地。聞こえますか?ガルマンガミラス船団及び宇宙戦艦ヤマトと認めますが。」

「そうです。こちらガルマンガミラス工作船団です。フラウスキー少佐、秋月技師長以下ヤマト技術班6名が同乗しております。」

「了解。成功を祈ります。」

「地球まであと39天文単位、6宇宙時間です。」

律子は。画面上でフラウスキーに笑顔で語りかける。

「フラウスキー少佐、地球はあなたがたを熱烈に歓迎するでしょう。」

「光栄です。必ずや地球の皆さんの期待に応えて見せます。」

太陽の視直径は、2.5倍に達していた。

「まだ半年たっていないのになんという大きさだ...。」

 

「雪歩、移民本部に連絡を取って。」

「はい。」

「工作船団は40分後に地球の北緯38度、東経93度の上空に到達します。」

ヤマトのメインパネルに舞の美しい顔が大写しになる。

「わかったわ。工作船団までおうかがいするわ。」

「よろしくお願いしますぅ。」

出迎えの宇宙船が発進したのがレーダーに映る。

工作船団が予定空域に達すると出迎えの宇宙船から連絡艇が分離し、舞と数名の高官が工作船旗艦の艦橋に乗り込んでくる。連絡調整のため律子も連絡艇を接舷し旗艦に乗り移る。

「はるばる2万8千光年からようこそ。ガルマンガミラス工作船団の到着を心から歓迎します。」

「わざわざのお出迎え、ありがとうございます。必ずあなたがたの太陽を制御してご覧に入れます。」

「成功を信じています。律子、ありがとうね。」

「ガルマンガミラスの科学力は偉大です。太陽制御プロジェクトも非常に完成度の高いものです。」

「一応、制御工作のプロセスを皆さんにご説明します。」

フラウスキー少佐が説明を行う。

使節団が出迎えから帰るとフラウスキー技術少佐が太陽表面に接近し、律子の乗った一隻が小惑星帯に向かっていった。

 

 




ヤマトと工作船団はいよいよ太陽系に帰ってきた。いよいよ太陽制御がはじまる。

※「欲がはらむと罪を生み、罪が熟すると死を生みます」(ヤコブの手紙1章14~15)

※「無償の愛、心の底からの平安、寛容、親切、喜び、善意、誠実、柔和、自制心」
→「御霊の実は、(無償の)愛、喜び、(心の底からの)平安、寛容、親切、善意、誠実、柔和、自制」(ガラテヤ人への手紙5章22~23)

個人的な感想ですが、シャルバート信者は、どことなくシャルバートの政治的支配の回復を願う方向性があり、ヘブライ王国の復活を望んだユダヤ教に似ていると感じます。散らされた信者たちという意味でも似ている。一方、シャルバート星は、ローマの兵役を拒否した原始キリスト教に似ている。しかしながら、虐げられた人々にシャルバート信仰のような救済を希求するいわゆる「千年王国思想」は、地球上の歴史にもよく見られたわけで、Ⅲは銀河系を世界の縮図として、ガルマンガミラス(アメリカ、欧米諸国)とボラー連邦(ソ連)に介入されるシャルバートの人々(中東、ユダヤ教)という当時の図式を反映してるような気がします。ソ連が崩壊して20年近くたつのにいまだに中東が火薬庫のままですね。

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