「お、おい。」
「うん...。」
土門と鞘葉は、顔を見合わせる。
少女は空間にうかんで土門と鞘葉を手招きする。
同じ幻をハイゲル将軍はみていた。
ハイゲル将軍はそれがシャルバートの後継者ルダ王女の姿であると悟った。
「ああ、ルダ王女...。」
工作船のとびらがひとりでにあいた。ハイゲル将軍はルダ王女の姿を追って船外へ出る。
「あれは...ガルマンガミラスのハイゲル将軍...。」
土門と鞘葉は、ルダ王女のまぼろしの後をついていくハイゲルの姿を窓から見ていた。
「ドモンサン、ドモンサン。」
「サヤバサン、サヤバサン。」
ルダ王女のまぼろしは口を動かしていないにもかかわらず、二人の脳裏に自分たちの名前を呼ぶ声が響く。
「とにかく、ハイゲル将軍を連れ戻さなければ...。」
「そうだな。」
少女のまぼろしは、エレベーターのほうへ行く。二人は追いかけて、艦載機発進口の場所まで行って反重力車に乗り込む。艦載機発進口が開き、反重力車でハイゲル将軍を追いかける。
二人は出発した直後連絡を入れようと通信機のダイヤルを操作して呼び出しをする。
「秋月技師長、秋月技師長...。」
「フラウスキー少佐、フラウスキー少佐。」
通信機で呼びかけるが返事がない。
「とりあえず、ハイゲル将軍を追いかけていることだけは知らせておこう。」
鞘葉は、工作船の留守録に吹き込む。
「ヤマトも、俺たち以外は気を失っていたからな....。」
「萩原班長、萩原班長..。」
やはり応答がない。
反重力車で追いかけているにもかかわらず、ハイゲルと土門、鞘葉の距離は縮まらない。
まるでヤマト艦内の「動く歩道」を見えなくしてはやくしたかのように「地表」がスライドしているようにも見える。
ハイゲル将軍は、洞穴の中へ入っていく。ふたりも追いかけて洞穴に入っていく。
どれくらい時間がたったろうか。土門の通信機が点滅する。
「はい、こちら土門。」
「こちらヤマト。萩原ですぅ。土門さん、どうしたんですか?」
「ハイゲル将軍が工作船を降りたので追いかけているのです。」
「こちら秋月。鞘葉くん?」
「はい。」
「ハイゲル将軍を追いかけているの?」
「はい。」
「とんでもないことがわかったのよ。」
「どうしたんですか。」
「ここは、ケプラー22bの地表なのよ。わたしたちケプラー22bに不時着したのよ。」
「そういえば、呼吸も苦しくないし、なにか地球のような風景です。一面草原のようですが..。」
「ううう...ん。」
第一艦橋も次々と気がついて起きだす。
「助かった...のね...。」千早がつぶやく。
「春香!、千早!」
「律子さん。どうしたんですか。」
「あの宇宙気流と磁気嵐と宇宙竜巻の影響でワープ予定座標がずれたみたいで、ケプラー22bに不時着したわ。」
「!! そうなんですか?」春香が驚く。
「ええ。そちらの土門君と鞘葉君は、ハイゲル将軍をさがしにいっているわ。」
「鞘葉君によるとハイゲル将軍は、女の子のまぼろしがあらわれてそれを追いかけて艦を出て行ったみたい。その女の子のまぼろしは、二人の撮った記録画像にも写っているわ。」
「なんとなくシャルバート教徒の皆さんが夜空にペンダントをかざして現れるムターニャ・シャルバートのまぼろしに似ているね。」春香が感想を述べた。
「春香もそう思う?わたしも、おそらく何らかの関係があると思う。でなければハイゲル将軍が工作船を降りる理由が考えられない。」
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土門と鞘葉は、ハイゲル将軍をおいかけて「洞窟」のなかを進んでいく。
「なんか胃カメラでみた腸の中みたいだな。」
「不気味なこといわないでくれよ。」
「でも、俺たちを本気で消化する気なら粘液がいっぱい出てきてもおかしくないし、ハイゲル将軍もとっくに消化されちゃってるだろうしな。」
「なんかあの女の子のまぼろしは、ムターニャ・シャルバートに似てないか?」
「お前もそう思うか。あのうす水色のワンピースをそのまま黒に変えたら雰囲気がそっくりだよな。ハイゲル将軍もシャルバート教の信者で実直な人みたいだしなんか関係ありそうだな。」
二人はそんなことを話しながら進んでいくと「洞窟」はいきどまりになるが向こう側が透けて見える。あたかも神経細胞のような「樹状突起」と「細胞体」が複雑に絡んでいる。
「洞窟」のいきどまりの向こう側は、ひとつの「細胞体」から伸びる「樹状突起」のひとつにつながっている。鞘葉がいきどまり部分をつつくとめりこんでしまう。
危険はなさそうに思われたので、鞘葉と土門は、いきどまり部分に潜るようにして入っていく。しばらくいくと出口になっており、広い空間に出たが、その中央には「球根」のようなものがあり、「球根」は、上と下に無数の管とも根ともつかないものを生やし、「天井」と「床面」につながっている。
「ドモンサン、サヤバサン、ヨウコソ。」
その「球根」が脳裏に話しかけているように思えた。球根の中には例の少女がかがんでいる。そしてハイゲル将軍がひざまづいている。
「何モ驚クコトハアリマセン。ワタシガボラー語デ「シャンタスマルゴレー」ト呼バレテイルコノ星ノ中心生命体デス。」
「この星の中心生命体?どうして俺たちをこんなところに。」
「アナタガタトハイゲル将軍ヲオ招キシタノハ、ココニオラレル「ルダ王女」ヲ預カッテイタダキタカッタカラデス。」
「ルダ王女?」
「ヤマトの土門さん、鞘葉さん、ルダ王女はシャルバート王家の後継者となるべき方なのです。」
ハイゲル将軍が二人の疑問に答える。
「えつ...シャルバートの王女...ってことは、ムターニャ・シャルバートの星って実在するんですか?」
「ハイ。アリマス。」
「どこにあるんですか。」
「ソレハワカリマセン。ソノ秘密ヲ知ッテオラレルノガコノルダ王女ナノデス。」
「どうして俺たちに預けるのですか?ここにいたらまずいのですか?」
「ジツハ、ベムラーゼ首相ガ数年前ルダ王女ヲココニ流刑ニシマシタ。ソノ後モボラーヤガルマンガミラスノ調査船団ガ数度ニ渡ッテココヲ訪レテイマス。ナカニハ探査ドリルヲ打チ込ム船モアリ、ワタシハ激痛ノアマリソウイッタ調査船ヲ何度カ破壊シテイマス。ワタシガ公転シテイルコノ軌道ハ、アナタガタノイウケプラー22ノハビタブルゾーン内ニアリ、ボラー連邦ニトッテモ、ガルマンガミラスニトッテモ基地ヲツクルノニチョウドイイノデス。ソレニハワタシノ存在ガジャマナノデス。シカモルダ王女ガイラッシャルコトガワカレバモット危険ナ状態ニナリマス。」
「それはわかりました。ではなぜわたしたちを選んだのですか。」
「アナタガタハ、以前コノ星ヲ訪レタ時ニ草ヤ花ヲ可愛ガッタリ、傷ツイタ動物タチノ手当テヲシテクレマシタネ。」
土門と鞘葉は、前回ケプラー22bを反重力車で探査と偵察をおこなったときに、たまたま足を怪我した子ウサギを見つけて、手当てをしたことがあった。
「優シイ心ヲ持ッタアナタ方コソルダ王女ヲ預ケルノニフサワシイト判断シタノデス。」
「勝手に判断されても困ります。われわれには第二の地球を探すという使命があります。」
そこで「シャンタスマルゴレー」中心生命体に代わってハイゲルが話し出す。
「鞘葉さん、土門さん、わたしが皆さんと一緒に行くことを決心したのはあのベオバレラスのシャルバート教徒の破壊活動を摘発したときでした。もう同じ信仰をもつ同胞を摘発するのには耐えられない、しかしガルマンガミラスを支えなければ、ふたたびボラーの圧制になります。それは許すことはできない。というのは、わたしの親兄弟はボラーのために流刑にされたり、処刑されたのです。それを救ったのがデスラー総統でした。しかし、信仰とデスラー総統への忠誠を両立させるのは非常につらいことでした。そこへあなたがたが現れたのです。あの破壊活動があった直後、デスラー総統にお会いしたときにヤマトの旅を助けたいと申し出たのです。あなたがたのアマミ艦長が総統に科学力の平和利用について話していたことを伝え聞いていたのも動機のひとつです。」
「そうなんですか...。」
「わたしは、当時のシャルバートがどれほどの科学力をもった国家だったか、できる限りの情報を集めました。それは、ガルマンガミラスでの自分の立場を守り、ひいてはシャルバート教徒を守る切り札の意味もありました。わたしがシャルバート教徒であることが水面下ではもれていましたので、自分の身をいかに守るか考えなければならなかったのです。
一方わたしにとって破壊活動を行う原理主義者は、ボラーを利する輩でしかありませんでした。デスラー総統は、『ガルマンに神は二人は不要だ。』の持論の持ち主ながら、自らを崇拝を強制しませんでしたし、表向きの礼拝行為はとりしまったものの、地下礼拝行為はみのがして、破壊行為の摘発を奨励したのです。要するに解放者ガルマンガミラス、英雄デスラーのイメージを維持するとともに、内部告発を奨励して国家の安定に期する一石二鳥を図るために、徹底した弾圧は避けたのです。ですからわたしのような親ガルマン反ボラーの立場のシャルバート教徒は役人や軍人にもかなりいるはずです。しかし皆心に葛藤を抱えています。わたしは、ここでルダ王女にお会いし、ガルマンガミラスに戻らないことを決心しました。むしろフラウスキー少佐のことが心配です。」
「というのは??」
「わたしの得た情報によると、あの方法は最後に惑星破壊プロトンミサイルを使わなければならないことに最大の欠点があります。ただし、あの高熱な太陽内部に核融合抑制物質を浸透させるには、惑星破壊プロトンミサイルの装甲のようにある程度は高熱に耐えられるカプセルが必要なのも事実なのです。ですがそれでは、核融合異常増進はとめられないと思います。失敗した場合、彼は優秀な科学者であるとともに忠実な軍人ですからなんらかの形で自決を選ぶでしょう。彼のような人材を失うことはガルマンガミラスにとって大きな損失です。あのような場合は、ヘリウムガスを噴出させた後、核融合抑制物質で太陽を全体的につつんで浸透、冷却化する方法がよいのです。シャルバートの技術にそれがあることを知りました。あなたがたにとってもがルマンガミラスに、デスラー総統のおかげで助かったと思うよりはいいのではないでしょうか。しかし、問題はその装置をどうやって手に入れるかです。それにシャルバート星はどこにあるのか全くわかりません。わたしにとっても、彼を守ることが国を捨てて信仰をえらんだわたしのデスラー総統に対する最後の忠誠です。」
「そうだったんですか...。」
「やりましょう。ハイゲル将軍。その装置をなんとしても見つけだすのです。」
「ただ、シャルバート星は現在絶対平和を国是としています。このような動機を持っていて受け入れてもらえるとは限りません。今やるべきなのはルダ王女をとにかく守り抜きシャルバート星にまで送りとどけることです。」
「中心生命体さん、わかりました。ルダ王女の身柄はお預かりします。」
「ハイ。アナタガタトハイゲル将軍デアレバ使命感ヲモッテ王女ヲ守ッテクダサルデショウ。ヨロシクオネガイシマス。」
ギドラ三連星でヤマトと工作船団をロストしたジャーコフはボラー連邦の情報網でヤマトの行方をさぐっていた。
「ジャーコフ司令。」
「ヤマトとガルマン船団の所在を確認いたしました。」
「どこだ。」
「銀河系外周方向、2万6千光年先の惑星シャンタスマルゴレー上です。」
「ずいぶん遠いな。わかった。」
「全艦隊、シャンタスマルゴレーへ向けてワープ準備。隊列の維持と安全のため、ワープは3回に分けて行う。第一次ワープ準備。」
「了解。」
そのころ、ヤマトでは、鞘葉と土門の通信機の反応がだんだん微弱になり、通信途絶した状態になっていた。情報を報告する会話がだんだんとぎれとぎれになっていったものの、突然危険に見舞われたわけではないと考えられるのが唯一の救いだった。
「二重遭難ね。春香、もしシャンタスマルゴレーが生命体で、土門君たちを捕食していないとしたら..。」
千早がつぶやく。
「そうだね。やってみる価値はあるかもしれない。」春香はうなずき
「雪歩、惑星シャンタスマルゴレーに通信を送って。」
「え?」
「コスモ生命体なら、もしかしたらわたしたちの言うことが理解できるかもしれないよ。最初は普通で、波長、出力を変えて送信してみてほしいんだ。」
「はい。」
「通信内容は、惑星ファンタスマルゴレーに告ぐ。土門、鞘葉、ハイゲル将軍三名の消息を教えられたし。もし捕獲しているならば、直ちに解放を要望します、もし要望が受け入れられない場合はしかるべき対応をします、と。」
「はい。」
「伊織。」
「ん。」
「こんなことは考えたくないけど万一のことを考えて備えをしておいて。」
「平和主義、お花畑の春香らしくないわね。そういえば春香は少将「閣下」だったわね。いいわ波動砲の照準がすぐあわせられるようにしておく。」
「あ..。」雪歩が軽く叫ぶ。
「あれ...。」
「パネル拡大して。」
シャンタスマルゴレーから触手がパキラのようにらせん状にからみあいがら4人を差し出すように突出してきた。
「3人がいる。女の子が一人。」
「救命艇、発進。」
救命艇がハッチから発進し、触手の「パキラ」の上に到着する。
第一艦橋では、4人が救命艇に乗り込むようすを画面で凝視している。
「救命艇よりヤマトへ。鞘葉、土門、ハイゲル将軍、ほか1名収容終わりました。」
「よし。ただちに帰投して。」
「了解。帰投します。」
「女の子は、ハイゲル将軍が追いかけていったまぼろしの娘そっくりね。」
「そうだね。」
(よかった。この「星」はわたしたちに害意はもっていなかったようだ。)
春香は胸をなでおろす。
中央作戦室で春香と律子、千早が待っているとルダ王女が左右から鞘葉と土門にエスコートされる形で入室してきた。
「「ただいま戻りました。」」土門と鞘葉が口を開く。
「すみませんでした。いろいろご心配をおかけしました。」ハイゲル将軍が頭をたれて謝罪する。
春香はうなづき、ハイゲル将軍に向かって
「将軍、この方は?」とたずねる。
「この方は、シャルバート星のルダ王女です。」
「シャルバート星の王女様??」
ルダ王女は気品のある会釈をする。
「ヤマト艦長。天海春香です。」
「同じく副長兼技師長の秋月律子です。」
「同じく副長兼航海長の如月千早です。」
「しかし、シャルバート星の王女様がなぜ惑星シャンタスマルゴレーに??」
「ルダ王女は、惑星シャンタスマルゴレーに保護されていたのです。」
「保護されていた??」
鞘葉は、ルダ王女が何年か前に、ボラー連邦のベムラーゼ首相によって流刑の地としてシャンタスマルゴレーに送り込まれたことを話した。
「なるほど、ボラー連邦の連中からみたら氷に覆われた極寒の地に見えた。そこでルダ王女を流刑にしたけど、実際は惑星シャンタスマルゴレーに保護されてきたということなのね。」
律子がそう話すと鞘葉と土門はうなずいて
「そのとおりです。技師長。」
と同意をあらわした。
「詳しいことはともかくとりあえずはゆっくり休んでいただきましょう。平田さん、おねがいします。」
「はい。」
「ハイゲル将軍。」
「何でしょうか。」
「ハイゲル将軍にはルダ王女の護衛をお願いしたのですが。」
「もうわたしは、一兵卒も同然です。私の信仰をくんでいただきありがとうございます。慎んでお受けいたします。」
ハイゲルは春香に片ひざをついて深々と礼をした。
「そんなにかしこまらないでください。」
「いえ。たいへん感謝なことなのです。」
春香とルダ王女は、お互いの顔を見合せてこの実直な老人をみつめて微笑んだ。
ルダ王女はハイゲル将軍のいる工作船に乗ることになった。
ヤマトは無事、土門、鞘葉、ハイゲル将軍、ルダ王女の収容を終える。しかし、それはボラー連邦とガルマンガミラスをさらに刺激する行為となる。