宇宙戦艦YAM@TOⅢ   作:Brahma

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ガルマン帝国紀元一周年式典では、ガルマンガミラスの強大な軍事力とその威光が誇示される。ヤマトクルーは複雑な気持ちだった。一方ボラー連邦でも...


第18話 二つの軍事大国、二つの本星

ファンファーレとともに勇ましい音楽が流れる。

整然とした親衛隊、機甲部隊、戦車隊の行進が行われ壮観であった。戦闘機、三段空母、二連三段空母、中型戦闘艦、大型戦闘艦、次元潜航艇、巡洋艦、駆逐艦、ゼルグート級戦艦が宙を浮かびながら通過していく。

市民たちは歓呼の叫びを上げる。デスラーは中央の壇上で閲兵し、そのそばでは将軍たちが威儀を正して並んでいる。

招待席では属国や友好国の首脳や指揮官たちがいる。そのなかにヤマトクルーの姿もあった。

ヤマトクルーはこのパレードを見ながら複雑な気分だった。

パレードが終わると表敬訪問でデスラーがヤマトにやってきた。

デスラーとタランはタラップを昇って感慨深そうにつぶやく。

「また、ヤマトの艦内を訪れることができるとは思いもしなかったよ。」

春香は、笑顔でデスラーを案内する。

「第一艦橋へ行きましょう。」

デスラーはしばらく艦長席をみつめていたが、春香のほうへ向き直った。

「ところで、ヤマトはなぜ地球を発進したのかね。」

「総統は何もお聞きになっていないのですか?」

デスラーがいぶかり、やはり...とばかりに千早が軽くうなずく。

「東部方面軍の第18機甲師団のダゴン艦隊がバース星の艦隊と戦ったときの惑星破壊ミサイルの流れ弾が太陽系に繰り返し侵入してきていたんです。そのうちひとつが太陽に命中したんです。」

「その結果、太陽の核融合が異常増進し、あと1年後、というかもう出発してから3ヶ月近くたつので後9ヵ月後には地球の全生命は死滅してしまう危機になったんです。それで第二の地球となる可住惑星を探すために銀河系中心方向へ向かって探査の旅をしてきました。」

「そうだったのか...少しも知らなかった。」

少し間をおいてデスラーは質問してくる。

「ところで、つかぬ事を聞いて申しわけないが、第二の地球を探す前に、太陽の核融合異常増進を制御できなかったのか。」

「もちろん、地球の全科学力を結集して試みました。でも失敗に終わったんです。」

「そうか...。」デスラーはぽつりとつぶやいた後

「アマミ、今度はわたしにその仕事を任せてもらえないか。」

と提案する。

「総統?」

「失礼な言い方になって申し訳ないが、我がガルマンガミラスの科学力は地球よりは高いようだ。必ず君たちの太陽を制御してみせよう。そしてこれは我々が当然しなければならない仕事なのだ。」

春香はうれしかったものの即断できる性格のものではないのでだまっているしかなかったが、一国の主であるデスラーの決断は早い。

「タラン!フラウスキー技術少佐に連絡して、工作船団を準備させろ。」

「はっ。」

タランが下がろろうとしているのをみて春香は

「デスラー総統。待ってください。ご好意はありがたいのですが...。」

「好意ではない。我々が犯した過ちを償いたいのだ。」

「その気持ちもうれしいです。でもわたしの一存で決められないので...防衛軍司令部の指示をあおいでからということでご承知いただけますか。」

「わかった。確かにアマミが即断できることではないな。」

デスラーは艦長席を見つめて何か思い出したように苦笑する。

「わかっていただけてありがたいです。わたしも必ず総統さんのご好意に沿うようにしたいと考えています。防衛軍司令部もきっと賛成してくれると思います。協議がすんだら改めてお伺いします。」

「うむ。待っている。」デスラーとタランは退艦していく。

「律子さん、どう思いますか?」

「この星の軍事力から考えて、かなり高い科学力だと思うわ。太陽制御も可能かもしれないわね。」

地球は、イスカンダルからの技術供与のおかげで、ワープ技術、超光速通信、波動砲などの技術をもっているが、ヤマトのように銀河系外への航行まで可能にするエンジンはコストがかかりすぎてヤマト以外には第七艦隊のうち『しゅんらん』ほか主力艦にしか装備していない。星間戦争に対する太陽系の専守防衛が目的であるため、拡散波動砲などの兵装はあるが、4.3光年のアルファケンタウリまでは、一週間かかる船がほとんどといった状態

である。それに比べてダゴンの第18機甲師団などにみられるようにガルマンガミラスの艦隊は遠方までいけるエンジンをどの艦もつんでいる。また律子がいるからこそ亜空間からの対潜防御ができたわけであって、亜空間マンタは、次元潜航艇のように次元断層を発現させ自由自在に宇宙も亜空間も航海できるわけではなく、24時間以内で亜空間を航行できるにすぎない。

 

「僕は反対です。ガルマンガミラスは過去は遊星爆弾を落としてきたし、今は侵略戦争を繰り返している。そんな国の力を借りなくても...地球は僕たちの手で救うべきです。」

「土門君、まだわからないの。」千早が反問する。

「あの...わたしも地球を救うことが一番大事だと思います。」

あずさが賛同してみせる。命を救うために治療法を選べない事態がありうるという医者の実感からくる意見だった。

「にひひっ。土門、嫌いだからといって歯医者にいかなければ歯を治しようがないのと同じことよ。」伊織が土門のほおをつついて、医者らしいあずさの考え方を肯定してみせる。

 

「春香。一応工作船へ行って太陽制御の方法について説明をうけましょう。それから結論だしても遅くない。」

「うん。そうだね。雪歩、デスラー総統の司令部へ連絡して。」

「はい。」雪歩はほほえんで答える。

「あと防衛軍司令部へも連絡して必要なデータを送ってもらってね。」

「了解。」

 

春香と律子は、宇宙港へ行き、ガルマン士官が二人を案内し、工作船の前まで来た。

すると、フラウスキー技術少佐が迎えに現れた。

「フラウスキー技術少佐です。地球からのデータは受け取っています。さっそく船内をご案内しましょう。」

工作船の船内を案内され、ガルマン・ガミラスの高度な科学力に二人は感嘆せざるを得なかった。地球はイスカンダルからの技術供与のおかげで超光速通信、ワープ技術などが実用可能になったが、一般の船は往路1万5千光年が限度である。兵装こそ拡散波動砲を開発したが、強力な星間国家の侵略があったときにどうにか互角に戦える力をもったにすぎない。それにくらべた場合のガルマン・ガミラスの科学力と工業力の厚みを春香と律子は工作船をみて実感せざるを得なかった。

フラウスキーは、春香と律子を艦橋へ案内した。

フラウスキーが艦橋でのマルチパネルの電源を入れると画面に地球と太陽の模式図が映し出される。

「制御方法を説明します。ごらんのとおり、太陽と地球ですが、磁気シールド発生装置を太陽の周囲に発生させ、その力場に向けて多弾頭ミサイルを発射し、内部に積み込んだ反エネルギー物質を散布し、一時的に太陽の強力な熱放射を吸収させます。続いて強力なアステロイド吸着システムを利用して多量の小惑星を吸着させた金星軌道付近に集結させ、太陽に突入させます。」

「熱防御シールドを張り巡らせているのに小惑星を太陽に突入させることができるんですか。」

「はい。このシールドは、外から物体を透過させることができます。そして太陽内部からヘリウムガスを噴出させます。アステロイド吸着装置を突入させると同時に核融合を抑制する物質を積んだ惑星破壊プロトンミサイルを太陽に撃ち込みます。プロトンミサイルは高温のヘリウムガスによって溶融するので、核融合抑制物質を太陽内部に浸透させることができるのです。」

シュミレーション画面には、一時的に活発になった太陽の活動が核融合抑制物質によって衰えていく様子が映し出された。

「つまりプロトンミサイルによって核融合増進して発生して太陽内部にたまったヘリウムガスを噴出させて太陽の質量を減らして、再びプロトンミサイルの内部に仕込んだ核融合抑制物質をしみこませる...という毒をもって毒を制する考え方なんですね。」

「そのとおりです。」

「春香。成功の可能性が大いにあるとみていいわ。」

律子は春香のほうを見つめる。

「デスラー総統とガルマン・ガミラス帝国の名誉にかけても、地球の太陽を制御してご覧に入れます。」

「わかりました。至急地球の防衛軍司令部に打電します。」

「春香、今回の話を聞いて2万光年が限度だった超光速通信機を3万光年まで通信可能にしたわ。」

「律子さん、もどりましよう。」

 

春香と律子は、ヤマトへ戻るとさっそく回線を開き、防衛軍司令部に打電する。

メインスクリーンに舞の姿が映し出される。

「春香、話はわかったわ。成功の見通しは?」

「律子さんの見解では、95%の成功率ということです。」

「そう。律子が保証するなら安心だわ。デスラー総統にはご好意をお受けする旨伝えて。」「ありがとうございます。工作船には、秋月技師長以下技術班5名が乗る予定です。」

「わかったわ。大至急受け入れ態勢を整えることにする。デスラー総統には、あの日高舞が感謝していたと伝えてね。」

舞は喜びと苦笑が混じった複雑な笑みを浮かべながら春香に伝える。

「はい。確かに伝えます。」

春香も喜びと苦笑が混じった複雑な笑みを浮かべながら応えた。

 

春香はデスラーパレスへ向かう。反重力車が止まり、春香が降りるとガルマン警備兵はこの賓客に対して敬礼して出迎えた。

「宇宙戦艦ヤマト艦長、アマミハルカ様、総統が総作戦司令室でお待ちです。こちらへ。」

と案内する。

「どうだった?、アマミ。」

デスラーは吉報がききたくてうずうずしている様子だった。

「防衛軍司令部から了解いただきました。舞さ、ごほん。日高司令長官も、あのヒダカマイが感謝...じゃなくて、心から総統のご好意に感謝します、と言っていました。」

「アマミ、言い換えなくてもいいぞ。」

二人は笑いあった。

「デスラー総統。地球はガルマン帝国の科学力に絶大な信頼を抱き、成功を期待しています。」

「光栄の至りだな。」

「あの、デスラー総統?」

「何だ」

「なぜ総統は、その科学力を平和のために使わないのですか?」

「平和?」

「ガミラスの再建という宿願が達成できたんですよね。失礼な言い方かもしれませんが、それなのにどうして遠い星に侵攻しなければならないんでしょうか?」

「平和な宇宙を築くためだよ。アマミ。これをみてくれ。」

銀河系の星図が映し出される。

地球から見ていて座の反対側には紫色で示された広大なボラー連邦の版図が銀河系の4割近く占めている様子が映し出され、銀河系核恒星系を中心に銀河系の3割の占めるガルマン帝国の版図が黄緑色の楕円形であらわされていた。

ボラー連邦の前線基地やガルマン帝国の前線基地、ボラーとガルマンの国境宙域での戦闘の様子などが映し出される。

「地球とアマミが友好国だからここまでみせるのだが、国境を接している宙域では、いまでも小競り合いの戦闘が行われている。われわれはどうしても勝たなければならない。そうでないとボラーの餌食にされてしまう。君はバース星でみただろう。ボラーの強制収容所を。わたしもそれを見ているからこそ、この星をボラーから守らなければならない。それだけではない。わたしが君たちのような中立的な友好国を残して全銀河系を統一することによって永遠の平和がもたらされるのだ。」

「力による統一が平和への道ということ?」

「そうだ。アマミ。君のもと上官だったヒダカマイ自身がそれを実証しているじゃないか。銀河系を統一することによって、平和を築き、ガルマン・ガミラスの発展をはかるのがわたしの使命と考えている。」

「宇宙には、ガルマンガミラスにもボラーにも属さず、独立を守りとおそうとしている星もたくさんあるはずでは?」

デスラーは、首を振った。

「アマミ。君自身があれだけたくみに武力を用いながらどうして宇宙の現実が理解できないのか。現在の銀河系では、ボラーに属すか我がガルマンガミラスに属さなければ生き延びることができないのが現実なのだ。わたしは、再びボラーとの全面戦争を行う予定だ。そして勝つ。そのときにこそ君たちもわたしの考えが正しかったことを認めてくれるだろう。」

「地球のことはどう考えているんですか。」

「わがじんえ...」

とデスラーはいいかけて、舞の顔が脳裏に浮かび咳払いをする。

「友好的な中立国だと考えている。そのような星も少数だがある。まあ、反ボラーということで事実上の同盟国に近いが。」

「デスラー総統。友邦からの全権代理として、友人としての意見をお話してよろしいでしょうか。」

「うむ。」

「デスラー総統。あなたの武力はこの星を守ることだけに使ってください。力による統一にはどこか無理があります。総統のような優秀な指導者や有能な指揮官がいる間は統一が保たれるかもしれません。ですが、無能な後継者が出現する場合も考えられます。それを考えると武力によっては永遠の平和を保つのは無理ではないでしょうか。だからあれだけの力をもっているのに、日高舞は銀河系の統一を目指さないんだと思います。」

「そのような無能な者が後を継がないようにするのだ。」

春香は黙ることにした。考えてみればガルマン帝国自身がボラーからの解放、独立を目指すところから始まっている。ボラーはガルマン・ガミラスと和解することはないだろう。これ以上デスラーと話しても現状維持でも延々と戦争が続くことになると答えるのに決まっているし、考えてみれば地球もヤマトもベムラーゼを倒してしまっている。ボラーが復讐戦を挑んでくるに違いなかった。しかし、戦うためではなく、第二の地球を見つけて移住するために旅をしているのだ。

(わからないや。これ以上考えても...。とにかく太陽が制御できればすべてが解決するってことなのかな...。)

春香は一種の罪悪感を感じながらもひとまず考えるのをやめることにした。

 

【推奨BGM:ベムラーゼパレス】

すこし時間をさかのぼる。ベムラーゼ首相がバース星で戦死したとの報は、ボラー連邦本星に伝わっていた。実は、ガルマン・ガミラスの想定を超えて、迅速に後継者が選定されていた。混乱を避けて迅速に後継者を選んで体勢を維持しなければならないという独裁国家の宿命のようなものであった。

ゴルサコフ参謀長が書記局員と中央軍事会議の高級将校を招集した。おもむろに話し始める。

「書記局員諸君ならびに中央軍事会議の諸君。ベムラーゼ首相がバース星で戦死された。わたしが総書記局長代理として最高評議会を招集させていただいた。ベムラーゼ首相の後任にはボロジネフ次席書記局長を次の総書記局長、すなわち首相に推したいと思うがどうか。」

「異議なし。」

「では、ボロジネフ次席書記局長を首相とする。」

ゴルサコフが首相の席を退席し、ボロジネフが首相の席につく。

「わたしの首相就任にご賛同いただいたことを感謝する。正式な就任式典は次の閲兵式で行う予定だが、面白い情報が手に入った。ベムラーゼ首相をバース星で戦死させた憎みて余りある戦艦の所在が判明したのだ。」

「そのうらみて余りある戦艦は、オリオン腕地球に所属する宇宙戦艦ヤマトだ。ヤマトはいまガルマン・ガミラス本星にいる。戦略ミサイル軍司令ビリレンコ大将。」

「はっ。」

「ただちに新型ワープミサイルでいっきにガルマン・ガミラスとヤマトを宇宙から粛清するのだ。」

「はっ。」

ビリレンコは薄笑いを浮かべながら部下に国境付近の基地からワープミサイルを発射させるよう指示をした。




春香は地球の危機についてデスラーに正直に伝えた。デスラーは工作船団を用意すると提案し、その提案は防衛軍司令部によって受諾され地球の未来に一条の光がさしたように思われた。
一方、ボラー連邦の政権交代はすみやかに行なわれ、ガルマンガミラスの防衛線をやすやすと通過する兵器が準備されていた。

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