「艦長!」
背後から声をかけられて、
(おっとと...)春香はつまづきそうになり、頭のリボンをゆらしながら振り向く。
「なあに?」
振り向くと、土門、鞘葉、坂東がにがりきった表情で立っている。
「どうしてデスラーの招待なんか受けたんですか。」
「僕たちは反対です。ガルマン・ガミラスはヤマトになんども卑劣な戦いをしかけてきました。犠牲者も大勢出ているんです。」
「戦闘ばかりじゃなくて、もともとはダゴンが放置した流れ弾が太陽に命中したために地球が破滅の危機に見舞われたんです。土門の両親の乗った太陽観光船も流れ弾のせいで犠牲に...。」
「それはちがうわ。」
千早が口を挟む。
「デスラー総統はあの様子だと何も知らされていなかったと思うわ。」
「何も知らなかったすむんですか。デスラーはガルマン・ガミラスの総統なんですよ。一切の責任があるんじゃないですか。」
「そのことだけど、ガイデル提督の様子から察するに、きちんとデスラー総統に報告しないで独断で戦闘をすすめたことがわかっているわ。それに春香、あのフラーケン大佐の最後の戦いぶり、どう思った?」
千早は指揮官の立場からガルマン帝国軍の戦いぶりや指揮系統のあり方ををどう評価するか春香の意見を求める。
「うん。ガイデル提督は何で本国に次元潜航艇を要請しなかったんだろうね。そうすればあれほど優秀な士官を失わずにすんだと思う。なにか自分の都合で判断したんじゃないかなあ。あとダゴン提督の戦いぶりをきちんとチェックできていたかどうか。連戦連勝でおごりが生じていたとしか思えない。」
「そのとおりね。指揮系統を無視して独断で行動した部下の責任を上官が負うとしたら、それは命令違反を放置し、自らも命令違反をしたガイデル提督が罰を受けないといけない。デスラー総統はオリオン腕辺境への星系へは手を出すなと命じてあったんだから、命令違反の罰をどう下すか判断するのがデスラー総統の責任なの。わたしは、白色彗星が攻めてきたときにヤマトに乗り組もうかどうか非常に悩んだ。指揮系統を乱すことだから。だけど司令長官や参謀長の責任ではなく、自分の責任で地球を守ることを決心してヤマトに乗ったのよ。」千早が自らの経験から語る。
「デスラー総統も悪いと思っているから招待したと思いますぅ。」
「土門、鞘葉、坂東は知らないのは無理もないとは思うけど、デスラー総統は確かに一度は地球侵略を企てたわ。だけどそれは、ガミラス民族の存亡をかけた戦いでもあったから地球の戦いを最終的にはわかってくれた。それから、何の得にもならないのに地球の恩人であり、かれの兄弟星であるイスカンダルを暗黒星団帝国から身を挺して守ろうと戦ったのよ。」律子が説明する。
「ボクもそう思うな。」真も律子、春香、千早、雪歩の意見に賛意を示した。
「もし、必ずしも悪人ではないというなら、どうして宇宙のあちこちで戦争を繰り返しているんですか。」
「そうだね。その答えを聞きたいとわたしも思うなあ。デスラー総統の真意を確かめないとこれからの探査計画に支障をきたすのは確かだから。」土門の疑問に春香が応じる。
「ベオサンザー星域にはいりました。」
銀河系バルジ内の核恒星系のある宇宙空間は、数多くの青白い若い星や巨星が輝き、銀河系の辺境星域とことなり、宇宙空間でもかなり明るい。
「ガルマン・ガミラス本星まであと5宇宙キロ。」
眼前のスクリーンに映し出された惑星は、緑色で都市が点在して輝いているのが見える。また二重惑星らしく青い惑星がその陰からあらわれる。
「まるでガミラス星とイスカンダル星みたいだね。千早ちゃん。」
「ええ..。」
「ガルマン・ガミラス宇宙港管制室より通信ですぅ。」
「こちらガルマン・ガミラス、ベオバレラス宇宙港管制室。親愛なる友邦地球からの宇宙戦艦ヤマトの入港を歓迎します。第3ゲートへの着艦をお願いいたします。これから誘導電波をお送りします。」
眼下のガルマン・ガミラス、ベオバレラス宇宙港の施設がぐんぐん大きく見えてくる。
「着艦完了。」
宇宙港第3ゲートでは総統デスラーが親衛隊を率いてヤマトクルーを出迎える。
春香をはじめとするヤマトクルーは甲板上部へでて、出迎えのデスラーと親衛隊に敬礼した。デスラーとその親衛隊も答礼する。
春香たちはタラップをおりてくる。
「アマミ。」
「デスラー総統。」
律子、千早以下ヤマトクルーの顔を見回しながら
「ヤマトの諸君。ガルマン・ガミラスは諸君の来訪を心から歓迎する。」
親衛隊の士官の一人が春香たちに親しげに声をかける。
「どうぞこちらへ。」
春香たちは、招かれるままガルマン帝国の総統専用の反重力カーに乗り込んだ。
春香はデスラーと並んで乗り込んでいる。
「ゴルバとの戦い以来だな。アマミ。ヒダカマイ前艦長は元気か?」
「舞さんは、司令長官になりました。」
「そうか。」デスラーは一瞬笑みをうかべた。
「大ガミラスに屈辱を味あわせ、白色彗星を滅ぼし、ゴルバを倒した女傑が大統領になろうとしないとはな。」
「舞さんは娘がいるので退役して主婦業にもどろうとしたのですが、司令長官職に是非にと請われて。ところでデスラー総統。」
「何だ。」
「この星も二重惑星なんですね。」
「うむ。わたしは、あの星をスターシャ星と名づけた。」
やがてベオバレラスの摩天楼のように林立する建物群がだんだん大きくなっていく。
「まもなくベオバレラス市街地にはいります。」
ベオバレラス市街地にはいると沿道ははるか2万8千光年からの来客を見ようと老若男女の市民でいっぱいだった。ベムラーゼを倒した英雄であることも報道でおおきくとりあげられて伝わっており、みな笑顔で手を振っている。
「すごい都市だな。いままでの星とは比べ物にならない。」
「おい、若い女の子がウィンクしたぞ。」
「お前にするわけないだろ。この俺にだよ。」
「お前は萩原通信班長のファンじゃなかったのか?」
「そういうお前こそ春香艦長のファンだったんだろ。」
「さすが銀河系きっての大都市だけあって整然とした町並みだし、女の子もきれいどころがそろってるな。」
「ほらほら、あんまり浮かれないで。」
あずさが苦笑しながら若手をたしなめる。
やがてヤマトクルー一行を乗せた反重力車の列は、市街地の道路の先にひときわ高くそびえたつ大きな建物へ向かっていく。それは、新しいデスラーパレスであった。
デスラーパレスは、市街地に囲まれた湖の中央に聳え立っていた。
「アマミ。ちょうどよかった。今日はガルマン・ガミラス建国紀元一周年を祝うことになっている。実は君たちを紹介したいから日程を多少ずらしたのだ。ぜひ出席してほしい。」
「はい。喜んで。」
春香たちは、デスラーパレスの祝宴用巨大ホールに招かれた。
ガルマン帝国の政府首脳、高級将校たち、同盟国、友好国、属国の首脳、総督、将軍たちが居並ぶ中で、ヤマトの第一艦橋の面々はメインテーブルに招かれる。
デスラーは、中央の壇上に立った。
「デスラー総統万歳。デスラー総統万歳。ガルマン・ガミラス帝国万歳。」
列席者は立ち上がって唱和する。
デスラーは、うなずくと片手で着席をうながし、話し始める。
「列席の諸君。本日はガルマン・ガミラス建国一周年の記念式典に、遠い星々からようこそ参列された。心から歓迎する。諸君らの努力と奮戦のおかげで我がガルマンガミラスは銀河系の3割を制圧することができた。われわれはボラー連邦からの解放者になると同時にガルマンガミラス民族の繁栄の礎を築くことができた。」
万雷の拍手とともに、デスラー総統万歳、ガルマンガミラス帝国万歳という歓声が混じる。
「諸君。この栄えある一周年に、はるか2万8千光年のかなた、オリオン腕のG型恒星系、かれらのいう太陽系の第3惑星地球からの賓客が訪れている。我が盟友アマミハルカと宇宙戦艦ヤマトの諸君である。」
デスラーは春香とヤマトクルーを紹介する。
春香、千早、律子をはじめとするヤマトクルーは立ち上がって会釈をする。
万雷の拍手が再びわき起こって、友邦地球万歳、宇宙戦艦ヤマト万歳の歓声がわき起こる。
「宇宙戦艦ヤマトは、わたしの生涯に唯一敗北の歴史を与えた偉大な戦艦である。しかし、彼らは、すべては彼らの母星地球をまもるため、白色彗星ガトランティス、わが兄弟星イスカンダルへ侵攻してきた暗黒星団帝国の自動惑星ゴルバという強敵を倒してきたのだ。わたしが、ガルマン民族の解放を成し遂げたように、彼らは地球を圧制者から守るために戦ってきた偉大な戦士たちなのだ。そんな彼らに、わたしは心からの敬意と友情を抱いている。彼らもいまボラーと戦っており、過去から現在に至るまで戦友なのだ。」
拍手がひときわ大きくなり、偉大なる友邦地球万歳、宇宙戦艦ヤマト万歳、ガルマンガミラスと地球に永遠の繁栄あれ!の歓声がわき起こる。
デスラーは、壇上から降りてきて春香の手をとった。拍手はさらに高鳴った。
キーリングが盃を手にかかげて立ち上がる。
「デスラー総統の誕生日を祝し、またガルマンガミラス帝国と友邦諸国の永遠の繁栄を祝って乾杯!」
「乾杯!」
「乾杯!」
歓声が会場にあふれグラスのカチン、カチンとグラスの接する軽やかな音が会場のあちこちで発せられる。
祝宴が無事に終わりデスラーは居室へ引き上げていた。窓から空高く浮かぶ青いスターシャ星を見つめながらデスラーはつぶやいた。
「スターシャ。ヤマトがこの星に来た。彼らにあったら急に君のことが懐かしく思い出される...。」
そのときコツン、コツンと小さいが硬質な足音が響く。
「うわっと...っと。」
その足音の主は思わず転びそうになって声を出してしまう。
デスラーは手をとってささえる。
「アマミか..。そのような姿の君もいちだんと美しいな。」
春香は閣下服ではなくパーティ用のピンクのドレスを着ている。
「えへへ。」春香は一瞬かすかに頬を赤らめ照れ笑いを浮かべる。
「デスラー総統。まだ誕生日おめでとうを言っていなかったので。」
「いや。それよりもガルマンガミラス建国紀元一年を祝ってくれ給え。それこそがお互いの星のために戦った戦友であるわたしと君にふさわしいことなのだ。」
春香は微笑んで答える。
「そうですね。紀元一年おめでとうございます。」
「それにしても、短い期間でこれだけの大帝国を築けたなんてすごいです。」
「そうだ。ガミラスの再建はわたしの宿願だった。だがその道のりは決して平坦ではなかった。」
デスラーは春香に席をすすめた。小姓がデスラーにワインをそそぎ、春香のグラスにアップルソーダを注ぐ。デスラーは苦笑をうかべたが話を続ける。
デスラーの話はこうだった。ゴルバとの戦いの後、再び放浪の旅となり、それが永遠に続くかと思われたが、銀河系中心部核恒星系で現在のベオサンザー星系にハビタブルゾーンにある二重惑星を発見する。そこにはガミラス民族の遠い先祖であるガルマン民族が住んでいたが、ボラー連邦の支配下で奴隷のような状態に置かれていた。デスラーはガルマン民族を解放し、新たなガミラス帝国を建設することを決意して、ボラーに攻撃を仕掛ける。デスラーやその机下の指揮官たちの類まれな指揮能力によりこの二重惑星を解放し、少ない戦力に苦しみつつも、巧みな戦術でボラーの勢力を核恒星系から駆逐した。そしてくしくもギドラ三連星星域でボラーの核恒星系方面軍と一大決戦を行った。
ボラー艦隊3万隻に対し、ガルマンガミラス艦隊5000隻は、優秀な航宙戦力を瞬間物質移送機で送り込んで、デスラー機雷網とギドラ三連星の宇宙気流の中に巧みに誘い込み、隊列が乱れたところをデスラー砲の斉射でいっきに全滅させたのである。そうしてボラー連邦の勢力は核恒星系から1万5千光年の範囲で一掃され、周辺の星々の解放に成功した。デスラーは二重惑星の一方をガルマン・ガミラスと呼び、首都ベオバレラスを築き、新総統に選ばれた。その後もボラー連邦の攻撃は絶えず続いたものの、そのたびに撃退に成功し、勢力圏を拡大してきたのだった。
実は、ギドラ三連星の敗北の教訓を生かし、ボラー連邦はデスラー砲対策を首相の座乗する機動要塞ゼスパーゼに施すようになるが、そのことをこの時点でのデスラーはまだ知らない。
そのような話が終わりかけていたときタランがデスラーを呼ぶために入室してきた。
タランは春香をみて軽く会釈するとデスラーのほうを向いて
「総統、もうすぐ記念式典が挙行されます。」と伝える。
デスラーもタランに軽くうなずいて見せ、春香のほうを向いて
「君たちとも喜びを分かち合いたい。出席してくれるね。」
「はい。」
春香は笑顔で答える。デスラーは満足そうに軽くうなずくと部屋をでていった。
春香はデスラーからガルマンガミラスが建国した次第を聞かされた。平和についての考え方、地球の危機について話さなければならないし、デスラーも聞いてくるだろう。正直に答えるしかないと思いつつも春香は思案をめぐらさざるを得なかった。
森雪のドレス(ワンピ)がピンクなのでピンクに合わせました(6/12,22:07)。