宇宙戦艦YAM@TOⅢ   作:Brahma

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ベムラーゼを倒したヤマトは、なおも銀河系中心方向へむかって探査の旅を続ける。一方、ガルマン帝国では作戦討議が行なわれ、東部方面軍に新鋭艦隊が派遣されるに加えて、東部方面軍司令ガイデル提督は、かねてからの切り札を司令部の起動要塞に召還していた。


第14話 見えざる敵を撃て!

そのころ、地球から約2万8千光年、銀河系中心部核恒星系にあるガルマンガミラス本星総統府の一室では、作戦討議が行われようとしていた。

右側と左側の二列に討議卓を囲んで居並ぶ将軍たちにむかって総統デスラーが演説する。

「われわれは銀河系の中心部から半径1万5千光年をほぼ手中に収め、いよいよ宿敵ボラー連邦との二度目の対決のときが迫ってきた。一度目は、わが優秀な航空戦力を瞬間物質移送機で送り込むとともに、デスラー機雷網にさそいこみ、デスラー砲の斉射で、数だけは多かったボラーの核恒星系方面軍を一気に覆滅せしめた。しかし、これはガルマンガミラス帝国建国の条件であっても、ボラー本国への影響を与えるものではなかった。先般、東部方面軍がボラーの衛星国であるバース星の艦隊を攻撃したところたやすく打ち破ることができた。これをもってボラーの力を侮ることはできないが、また必要以上に恐れなくてもよいことが証明された。ボラーを打ち破ることなくして宇宙の覇者たりえない、銀河を統一することはできないのだ、そこで今後の戦略方針について諸君らは忌憚なく意見を述べてほしい。」

すると細面で頭髪のない能吏を絵に描いたような高級士官が立ち上がる。デスラーの軍事顧問で憲兵総監も勤めるネヴィル・キーリング上級大将である。

「戦略討議のまえにご報告申し上げたいことが...。」

「よし、話してみよ。キーリング。」

「ボラーとの決戦の前に国内にはシャルバート教を奉じる信者たちがおります。そのような者たちが、反乱を起こすのであれば、戦略上重大な支障を生ずることになります。先般もそのような反乱行為が起こっております。その首謀者もわかっております。」

デスラーは、将軍たちの間で気分がすぐれなそうな将軍をみとがめる。

「ハイゲル将軍、顔色が優れないようだが...。」

「その首謀者は、わたしが発見し処刑いたしました。」

頭髪が耳のわきにのみ残る老将、ハイゲルが答える。彼は実はシャルバート信者であったが、一方でデスラーへの忠誠心ももっていた。忠誠心と信仰を両立させるため、すなわち、シャルバート信者たちの組織の壊滅を防ぐために、彼独自の情報網をつかい、首謀者をいち早く捕らえたのだった。

「キーリング。反乱の首謀者はとらえて処刑されたとのことだ。それでよしとしよう。よくやってくれた。ハイゲル将軍。」

「ははつ。」

デスラーに心の奥底まで見抜かれている恐怖におびえつつも、首謀者逮捕の功績を認められハイゲルは心の中で胸をなでおろす。

(わたしは総統が欲してやまないシャルバートの軍事技術に関する情報をもっている。わたしを排除しようとするあのキーリングから身を守る切り札になるだろう。それまでなんとしても耐え抜くのだ。)

「まずは、各方面軍の戦況報告をしてもらおう。」

順番に報告がなされていき

「西部方面軍ヒステンバーガー将軍。」

「はつ。」

ヒステンバーガーは手を前方に伸ばす敬礼をするが、表情はさえない。

「わが西部方面軍は、予定宙域の60%の征服に成功しましたが、4割近い損害をだし...。」

「ヒステンバーガー。」

「はつ。」

「君は死刑だ。....あと2回失敗したら死刑だ。」

「はつ。ありがとうございます。」

「次」

「東部方面軍のガイデルでございます。」

「うむ。」

「われわれ東部方面軍は予定宙域の90%の征服を終え、総統もおっしゃられたようにバース星艦隊の撃滅に成功いたしました。」

「ふむ。ガイデル。君は腕も口も達者だな。」

「総統の誕生日には、二つの星系と東部方面宙域で発見した美しい惑星の征服も報告できるかと。」

「楽しみに待っているよ。そうだ、君が要望していた新鋭空母艦隊を用意しておいた。存分に戦果をあげてくれたまえ。期待している。」

「ははつ。」

会議を終えて、ガイデルは東部方面機動要塞に帰還した。

 

角ばったような形状の宇宙要塞がうかんでいた。

その形状は横からみると矢印状で高さ5km、幅5km、全長5kmであった。

 

5宇宙キロほど離れた宇宙空間に潜望鏡が「浮かんで」見える。

「東部方面軍司令部だな。予定座標どおりだ。」

「今夜はまともなメシが食べられそうですな。ステーキにワインですか。ガイデル提督じきじきの呼び出しですから。」

「ばか者!緊急のお呼び出しだぞ。浮かれるためではない。」

「なるほど。そう考えればわざわざ人呼んでガルマンウルフとも称されるフラーケン艇長を必要とされるとはガイデル提督もよほどのことが起こったと見えますな。」

「そういうことだ。ふつうの機甲師団ではかなわないような強力な敵が現れたと見るべきだろう。」

宇宙要塞の下ハッチの4つの扉が斜め上及び斜め下に開き、潜水艦のような船体がその中へ入っていった。

 

移動式歩道を衛兵に案内され、衛兵に案内され、総督の執務室まで案内される。

「フラーケン大佐がお着きになりました。」

士官が頭髪のない実年とも思える人物に報告する。

「ガイデル提督、ガルマン帝国万歳、ただいまわたしフラーケン到着いたしました。」

「フラーケン大佐、あ、いや、君を呼ぶときはガルマンウルフというほうがいいのかな。」

「ウルフでもスピッツでも...。」

「スピッツというわけにはいかんだろうw。君の誇りにかけて。さて冗談はこのくらいにして、本題だ。君に来てもらったのはほかでもない。これを見てくれ。」

アルファケンタウリ、バーナード星での戦闘状況が映し出される。

「生き残った艦艇が撮影した戦闘状況だ。オリオン腕方面のG型ゾル星系(太陽系)第8惑星ネプト(海王星)周辺でダゴン艦隊が全滅したことは聞いているな。そのあたりからこの戦艦が出現している。」

ヤマトがクローズアップで映し出される。

「その戦艦はどこの星の戦艦ですかな。」

「ゾル星系第3惑星テロン(地球)の戦艦のようだ。その惑星だけわれわれのようなヒューマノイドの姿をした知的生命体が住んでいる。」

「そのヤマトをわたしに討伐しろと。」

「そうだ。察しがいいな。ヤマトはわれわれ東部方面軍の進出先を銀河系中心方向へ向かって進んでいる。このまま放っておくとわれわれの征服事業の重大な障害となる、いやもうなっている。だからわたしが直接叩くことにした。フラーケン大佐、いや猛将ガルマンウルフ、これからの戦闘は直接わたしの手足となってほしい。」

「ガルマンウルフ、これまでも、そしてこれからも総督の忠実な手足でございます。」

「うむ。君にあと9隻の次元潜航艇をあづける。ただちにヤマト討伐へ向かえ。」

「はっ。」

 

(あのアルファケンタウリとバーナード星域の戦闘ぶりは尋常ではないが、それも通常空間でのことだ。通常空間と亜空間を自由自在に動けるこの次元潜航艇の敵ではない。ガルマン帝国の科学力を思い知るがいい。)

 

「ヤマト発見。方位8時15分、5万7千宇宙キロの宙域です。」

「よし、ちかくまでワープしろ。」

次元潜航艇艦隊は、ワープで姿を消すとヤマトの至近距離の宙域に出現し、潜望鏡でヤマトをとらえる。

「全艦、次元断層発振装置作動!ヤマトまで2宇宙キロまで接近せよ。」

各潜航艇は次元断層発振装置を作動させ亜空間へ姿を隠す。

「潜航開始!」

「「「潜航開始!」」」

 

「艦長、地球との定期交信の時間ですぅ。」

舞が現れるまで少々時間がかかる。

「ごめんねえ。防衛軍司令長官に加えて先立って移民対策本部長官も引き受けることになっちゃって。春香、報告お願い。」

「ヤマトは銀径20度及び340度の空間を銀河系中央方向に2000光年まですすみました。GSC03549-2811星系、WASP3星系、HAT-P7星系、HAT-P5星系、GSC3069-00929星系、バジウド星域を探査しました。このうち居住可能なのは、バジウド星域第4惑星でしたが、ここには、ヒューマノイド種族が住んでおり...。」

「そう...残念ね...。」

「長官、地球から1500光年離れたバジウド星域第4惑星は、銀河系の裏側に本拠を持つボラー連邦という巨大な星間国家とガルマン帝国の戦闘の最前線の星で、ムターニャ・シャルバートという昔の星間国家の女王を信仰する人々が住んでいる星でしたが...。」

「でしたが?」

「ボラー連邦によって破壊されてしましました。」

春香はバース星で起こった出来事の一部始終を舞に話した。

「まあ、そうなることは予想してたけど...。」

舞は苦笑しながら

「報告ご苦労様。引き続きの探査報告待ってるわ。」

舞の顔が画面から消えた。

「定時交信終わりますぅ。」

と雪歩が話したとたん、ズガーーン、ズゴオオオーンと爆発音と振動がして船体がゆれる。

「第93装甲板破損!」

「第272装甲板破損!」

「なんなのよ。これ。」

伊織が床にころがりながら警報ボタンを押した。

ヴィーツ、ヴィーツ、ヴィーツ...

春香は艦内放送マイクをとり

「全艦戦闘配備!」

「千早ちゃん!艦の姿勢制御!」

千早も席からころげおちていたが、よろめきながらも自席にもどる。

「くっ...。」

「ねえ。て、敵の接近はわからなかったの?」

雪歩がレーダー手に話しかける。

「それが...レーダーに全く映らなかったんです。」

「どうしたんだ。敵はどこにいるんだ。衝撃で壊れたの?」

真がたずねるが

「いや、それが正常なのよ。」

律子が答える。

(いったい...どうやって...ボラー連邦?ガルマン・ガミラス?新たな敵??)

春香は困惑するがやがて糸口となる情報が意外なところからもたらされた。

 

技術班の坂東たちが消火や修理にやっきになっているときだった。たまたま土門が非常用の戦闘食をはこんでいた。

「土門、こんなところで何してるんだ。邪魔だ。」

「いや食料が燃えちゃったらどうにもならないので...。」

土門がよろめいたときに窓の外に何か光るものが見えた。

目をこらしてみると潜水艦の潜望鏡のように見える。

その「潜望鏡」は少し動くと宇宙空間を沈むように姿を消した。

「大変だ!」

土門は思わず荷物を放り出し、第一艦橋に駆け込む。

「大変です!「潜望鏡」のようなものを見ました。」

「潜望鏡?」

「はい。」

「土門くん、潜望鏡って潜水艦の?」

千早が問い返す。

「はい、そうです。」

「下はどうなっているの?」律子が問いただす。

「ありません。あれはおそらく異次元とか亜空間のなかに潜んでいるじゃないかと。」

「なるほどね。瞬間物質移送機かなと思ったけど、魚雷の出現パターンがどう考えても説明がつかないと思ってたのよ。土門君ありがとう。」

「艦長、ワープしてみたらどうでしょう。敵が異次元空間にいるのなら、ヤマトもワープしたらなんらかの反応を見せるかもしれません。」

「ちょうど10光年先に原始惑星系円盤を伴う恒星があるわ。濃い星間物質と無数の微惑星があるから隠れるのにちょうどいいと思う。」

千早が提案する。

「土門、やるじゃないの。」

伊織が土門をほめる。

「えへへ。実は訓練学校の選択科目は「異次元戦闘」をとったものですから。」

「ようし。じゃあワープ準備しましょう!」

「了解。ワープ準備。」春香の命令を千早が復唱する。

「じゃあ、僕はこれで...。」

「まって、土門。」伊織が呼び止める。

「え?」

「わたしたちに土門の知識を貸して。さすがにみんなはじめてだから勝手がわからないのよ。」

「技師長。亜空間ソノブイ、亜空間キャニスター、亜空間SUMか亜空間ホーミング魚雷、亜空間マンタは、準備できますか。」

「ええ。こんなことにならなければいいなあとおもってはいたけど一応部品はつんであるわ。ソノブイはコスモファルコン一機分だけどすぐにでも使用できる。」

「じゃあ、亜空間ソノブイをコスモファルコンで投下。亜空間マンタを組み立て次第発進させ、亜空間キャニスターの投下と、亜空間ホーミング魚雷の発射を準備させてください。」

「砲術班。聞いた?至急煙突ミサイルVLSに亜空間SUMを装填。敵が艦の前方に来た場合に備えて魚雷発射管に亜空間魚雷装填準備よ。」

 

「第一撃、成功しました。」

フラーケンは煙をふきはじめたヤマトを見つめながら報告を聞いていた。

「亜空間魚雷第二撃発射準備完了。」

「ヤマト、機関音に変化。ワープする模様です。」

「何!?全艦通常空間に浮上だ。」

ヤマトがワープで消えると次元潜航艇艦隊が姿を現す。

「全艦ワープトレース!」

「ヤマト、ロストしました。」

「うぬぬ。」

「フラーケン大佐、この濃い星間物質と微惑星のなかでは探すのが困難です。」

 

「ワープ終了」

「12時の方向、2宇宙キロ先に直径10kmほどの微惑星。慣性航行で可能です。」

「エンジン停止。」

ヤマトは微惑星のひとつのかげにかくれて、エンジンを停止させてひそめている。

カタパルトからコスモファルコンを発進させる。

「山本、発進します。」山本がアナライザーを積んで発進する。

「了解。」

山本機が亜空間ソノブイを落としていく。

「敵次元潜航艇発見。7時及ビ7時30分ノ方向、4宇宙キロ、5時ビ4時40分ノ方向、4宇宙キロデス。座標送リマス。」

「にひひっ。亜空間SUM発射~!」

煙突ミサイルVLSから発射されたSUMはしばらく垂直に上昇するが、やがてヤマトの左舷や右舷の空間に降下し亜空間へ沈んでいく。

「フラーケン大佐!短信音が!亜空間SUMです!」

「何?」

「迎撃せよ!」

 

「敵魚雷、SUMに接近。」

「胴部発進口開放準備。魚雷爆発時間に合わせて亜空間マンタを発進させる。」

「5,4,3,2,1爆発します。」「いまだ亜空間マンタ発進。」

亜空間マンタとは、エイのような平たい姿をした無人次元潜航艇の一種である。24時間の自動操縦で、ソナーで探査情報をヤマトに送信するとともに自ら敵潜航艇を発見して攻撃ができる。ヤマト本体と異なりこまわりが効くが、どうしてもソナーで船体がおおきくなるため、ヤマト右舷、左舷から一隻づつしか射出できない。そのマンタが二隻発進される。

 

「フラーケン大佐!敵潜航艇、二隻接近。3宇宙キロ!魚雷発射されました。」

亜空間マンタが次元潜航艇を発見し、魚雷を発射するとともに、キャニスターを放出した。

キャニスターが亜空間のあちらこちらにビールケースが浮かんでいるように置かれる。

「迎撃しろ!ヤマトが至近距離にいるはずだ。何で発見できないのか。」

「敵亜空間ソノブイ発見。あと敵艦載機発見。」

「つつぬけだったというわけか。」

「おそらく、ヤマトは、この星間物質と微惑星のなかでエンジンをとめて息を潜めているものと思われます。」

「敵潜航艇の発進方向にヤマトがいるはずだ。なんとしても探し出せ。」

「亜空間の艦底部方向からSUM多数接近!」

亜空間マンタが放出したキャニスターに搭載されたSUMが次元潜航艇を感知して発射されたのだった。

「2番艦、敵SUMにより被害甚大。うわあああ。」

「こちら4番艦。うわああああ。」

 

「5番艦通信途絶!」

 

「7番艦、敵魚雷と艦底方向よりSUMが接近。逃げ切れません。ぐわああああ。」

 

不敵な笑みをうかべていたフラーケンの顔は青ざめていた。そうこうしているうちに8番艦と9番艦の反応も消えている。

 

「敵SUM直撃きます!」

グオオオオオーーンという爆発音とともにガルマンウルフ号の船体がゆれる。

「フラーケン大佐!このままでは全滅です。」

「敵潜航艇を撃沈させろ!」

「亜空間魚雷連続発射。目標敵潜航艇!」

たった二隻になっていたガルマンガミラス次元潜航艇艦隊は、最後のあがきで、亜空間マンタ一隻を集中攻撃し撃沈するが、亜空間キャニスターからの無数のミサイルが襲いかかる。

「敵潜航艇撃沈!しかし6番艦も撃沈されました。残りは当艦だけです。」

「やむをえん、ワープだ。」

「ワープ!」

たった一隻残ったガルマンウルフ号はワープで通常空間から消えた。




見えない敵による異次元からの攻撃を退けたヤマト。しかし、ガルマン帝国東部方面軍はこのままだまってはいない。

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