反重力車でもどった土門たちは目の前でくりひろげられている状況に一瞬開いた口がふさがらない。
物陰に隠れて銃撃する囚人たち、次々と倒れる乗組員。しかし撃たれている乗組員に出血などの外傷がない。囚人たちはタラップを次々駆け上っていく。
土門と鞘葉は反重力車からおりて、倒れている乗組員の脈拍や呼吸を確かめる。
「息はあるな。麻酔でしびれているだけだ。」
「衝撃銃か...ということはヤマトをのっとるつもりだから殺すつもりはないということか。」
「殺したりしたらわれわれが協力してくれなくなるからな。」
「こちら機関室。たったいま囚人風の一団に占拠されました。」
「なに?」
必死な太助の声に春香が驚いていると
「十分以内にこの船を発進させよ。これは命令である。命令に従わない場合は、人質を射殺する。」囚人たちのリーダーの声が艦内放送でひびく。
「ど、どうしよう。」雪歩の声がふるえている。
「彼らの条件を一応聞いてみるのはどうかしら。」
千早が提案する。
「降伏するってこと?」
「いま、機関室を占拠されている。だけどいったん宇宙に出てしまえば何とでも対処できるわ。気の緩みもでてくるでしょうし。」
「艦長、彼らは強制収容所の囚人たちです。サブノズルのハッチから機関室に侵入してきた模様です。」
「強制収容所?そんなものがこの星にあるの?」
「植物採集の際に見かけました。この星は流刑地のようです。」
「彼らの武器は衝撃銃です。ですから乗組員の生命に別状ありません。彼らの目的はヤマトをのっとることですから、人質であるわれわれのだれかを射殺して反感をもたれることは望んでいないということです。」
「わかった。戦闘班は衝撃銃で応戦して。」
「艦長!」
「何、徳川君?」
「彼らはシャルバート星へ発進させろと行っています。」
「シャルバート星?」
「シャルバート星は、宇宙に平和と愛を恵みたもう聖なる星だ。われわれは現在の宇宙の混乱を鎮めていただくためにシャルバートの女王に請願するのだ。この船を5分以内に発進させろ。命令に従わない場合は機関室を破壊する。」
「シャルバート星の位置は?それによっては連れて行かないこともない。武器を捨てて、機関室の占拠を解いてください。」
「われわれも位置はわからん。この船ならどんな長い航海にも耐えられるはずだ。」
「そう。」春香が半目になり閣下モードになった。
「徳川君、機関室からでて。」
「!!」
機関部員は囚人たちをふりきって機関室の外へ出るとシャッターがしまって機関室が密室になる。
「真、侵入者がいるブロックを隔壁閉鎖。」
「了解。」囚人たちのいる場所が隔壁で閉鎖される。
「早く出て行かないと5分以内に消火用のハロゲンガスがでてきます。その前に機関室を破壊しようったってムダですよ。機器に触れてもガスがでてきます。だから機関室を破壊する前にあなたがたは全員窒息死しちゃいます。窒息死ですよ!窒息死!きゃはは。さてどこのブロックからやりましょうか。それともいっぺんにおだぶつにされるほうがいいですか?きゃはは。」
「はるるん、怒らせると怖い。」
亜美と真美がつぶやく。
「「へへん。あんたたち、ちっそくちしちゃうんだって。ちかたないね。」」
機関室から放送で響く声に第一艦橋の春香、千早、雪歩、律子、真は半目になる。
春香「....。」(タラ....)
「あのバカ...。」真は声をおしつぶしたようにつぶやく。
「あんたたち、なんでそんなとこにいるのよ。早く艦の外へ出なさい。あんたたちも窒息しちゃうわよ。」
「ひやぃ。」亜美と真美はあわてて艦の外へ出る。
一方、囚人たちは。追い詰められたのは自分たちではないかと動揺しはじめる。
そこへレパルスと警備隊がやってくる。
「とんだご迷惑をおかけして申し訳ない。これからわれわれの手で排除します。」
「彼らの武器は衝撃銃です。殺害しないようにしてください。」
「もちろん、われわれも無駄な殺傷はしたくない。」
レパルスはうなずいた。
「自分たちの船ですからわれわれも協力します。」
「承知しました。」
レパルスは警備隊を引き連れて出て行った。
「春香。正面から攻撃して彼らが機関室を破壊したらやっかいだから側面から占拠を排除したほうがいいわね。」
「どこから排除しますか?」
「下部艦載機格納庫の床下に艦内点検用の非常通路があるわ。そこから機関室上部の非常通路に出て機関室内に突入する。」
「私も行きます。」
「春香は、もう艦長だけでなく少将でもあるんだから指揮官としての自覚をもってほしいんだけど…いいわ。生命の危険もないしね。」
「僕たちにも行かせてください。」
「うん。衝撃銃を準備して。」
警備隊やヤマトの乗組員が入っていくにつれ隔壁が開放され、囚人たちが次々に撃たれて倒れていく。
下部艦載機格納庫の床下から春香、律子、土門、鞘葉は狭い非常通路を這うようにして進む。小さなハッチに出て、そこのふたを開け、機関室の天井裏に出る。
「4分経過した。ハロゲンガスはどうした?出せないのか?」
「機関室を破壊するぞ。」
春香、律子、土門、鞘葉は囚人たちの頭上に舞い降りるや否や囚人たちを衝撃銃で倒していく。
春香が囚人のひとりの銃を打ち落とすものの、別の囚人の銃が太助に命中する。
「太助っち~!!」
亜美と真美が太助にかけよる。
「心配ない、麻酔銃だ。」土門が機関部員に伝える。
「全員、銃をすててください。」
形勢がすっかり逆転し、ヤマト乗組員とバース星警備隊員に囲まれた囚人たちは悔しげに銃を捨てる。
「ごめんなさい。わたしたちには大きな使命があるんです。あなたたちの言い分を聞いているわけにはいきません。」
囚人たちは春香たちをにらみつける。
「皆さんの身柄は警備隊に引き渡します。寛大な処分をたのんでおくので、安心してください。」
囚人たちはすすり泣く者、わめくように大声で泣く者、さまざまに悲しみをあらわす。
「くれぐれも寛大な処置をとるよう総督にお伝えください。」
「必ず伝えます。」
レパルスは、頭を下げ、警備兵たちと一緒に囚人たちを引き立てていった。
「やり方はまちがっていますけど...なにか...同情しますね...。」
あずさはさびしげにつぶやいた。
バース星の士官から通信があり、雪歩はメインパネルにきりかえる。士官の顔が大写しになる。
「ベムラーゼ首相が到着いたしました。今本星上空に停泊中です。」
「了解しましたぁ。」
つぎにボラー連邦の大艦隊と球体を連ねた要塞が映しだされる。
「す、すごい艦隊ですぅ。」雪歩が驚いている。
「寄港させていただいているから、表敬訪問に伺わないといけないわね。」
律子がつぶやき春香がうなずく。
「この星を侵略して、いちおうの独立を認める代わりに総督府と収容所を置いているって感じね。あまりいい感じはしないわ。」千早がつぶやく。
「わたしと律子さんで行くわ。随行員は第一艦橋から雪歩、医務長のあずささん、コスモファルコン隊の山本さん。」
コスモハウンドが発進して総督府に向かう。
上空から収容所の様子が見える。山本が顔色を変えて叫んだ。
「艦長、あれを見てください。」
見ると、処刑用の杭に囚人が縛られ、ひとり、またひとりと銃殺されている。
白い雪原が囚人たちの血でところどころ赤く染まっていた。
「ひどいまねしやがる。」土門がつぶやく。
「山本さん、着陸して。」
「了解。」
春香はレパルスのほうへ駆け寄って声をかける。
「警備隊長、処刑を中止してください。」
「口出しをしないでいただきたい。これはわれわれの囚人だ。」
「約束が違います。寛大な措置をとるよう総督に伝えなかったんですか。」
「伝えた。しかし、方針が変更になったのだ。」
「どうして??」
「ベムラーゼ首相の命令だ!」
「首相の?」
「そうだ。そうと決まった以上、われわれが自国の囚人を処刑するのに、他国のあなたがたが口出しするのは内政干渉にあたる。」
「わたしたちは、これから首相に表敬訪問します。お目にかかって処刑をやめていただくようお願いします。」
「好きにするがいい。中止の命令がないかぎり、処刑は続けるしかない。」
「ラジェンドラ号の件があるはずです。首相のお返事をうかがうまで、中止していただけないでしょうか。」
「よかろう。先日の約束のこともあるから中止はしよう。」
春香たちはコスモハウンドに再び乗り込み総督府のまえに着陸した。
総督府の前では、戦車やミサイル砲台を搭載した装甲車が数百台も整然とならんでいる。
閲兵式の準備のように思われた。
そのものものしい雰囲気の中を、春香たちは、総督府の玄関にいる衛兵に表敬訪問へ伺った旨を伝えると謁見室に通される。
【推奨BGM:ベムラーゼパレス】
春香と律子とあずさが謁見室にはいり、他のものは入り口の外で待機していると、中央の席にエレベーターでベムラーゼとボローズが降りてくる。
ベムラーゼは、よく言えば大柄な力士、悪く言えば豚のような醜悪な肥満体の大男である。
春香たちは
「地球連邦軍所属宇宙戦艦ヤマト艦長天海春香、技師長秋月律子、医務長三浦あずさ、ベムラーゼ首相閣下を表敬にうかがいました。」
三人は敬礼する。
べムラーゼは、ゆっくりとうなづくと
「よく参られた。うわさどおりの美しいお嬢様方だな。ボローズ。」
「はつ。」
「ラジェンドラ号のことはボローズから聞いた。わしからも感謝の意を表したい。」
「首相閣下、早速ですがお願いがあります。囚人さんたちの処刑を即時中止していただけないでしょうか?」
「なぜだ?」
「わたしたちは、囚人さんたちを逮捕した際に、寛大な処置をとってもらえるよう総督に頼む旨約束したのです。」
「あの囚人たちはボラー連邦の法を破ったから処刑しているのだ。きみたち他国の者が介入する筋のものではない。」
「しかし、わたしたちのヤマトにあの囚人さんたちが侵入し、少なからず被害を受けたのです。囚人さんの身柄について発言する権利はあるはずです。」
「頼みを断ると言ったら?」
「囚人さんたちを解放します。」
「春香ちゃん、それは無茶よ。」
あずさが春香のそでを引っ張る。
そのときラム艦長が発言した。
「首相閣下。」
「なんだ。」
「地球とヤマトの皆さんはわたしたちをたすけてくださいました。
ガルマン帝国と交戦してこれを破っただけでなく、食料、燃料、医薬品のみならず本来中立国であれば補給しなくてもよい武器弾薬までもたせてくれ、このバジウド星系まで安全に帰還できたのはかれらのおかげなのです。ですから彼らのたったひとつのお願いをお聞き入れいただいてもよろしいかと存じますが...。」
「ふん。属国の一艦長のぶんざいでわしに口ごたえしようというのか。もともと貴様がおめおめとガルマンのダゴンごときこわっぱに敗北しなければこんなことにわずらわされずにすんだのだ。さて地球のアマミ艦長」
「はい?」
「君たちは、ラジェンドラ号の味方をした。それでガルマン帝国と君たちは戦争状態になった。われわれの庇護が必要であるはずだが。」
「....。」
「もっとはっきり言おう。君たちがラジェンドラ号の味方をしたというのは、我がボラー連邦の陣営に属したということだ。君たちはもうすでに我がボラー連邦の属国なのだ。わしは君たちの宗主国の首長なのだぞ。」
「ボラー連邦などという国の名は最近になってはじめて知ったのです。属国になるために
ラジェンドラ号を助けたのではありません。」
「アマミ艦長、せっかく首相閣下が君たちを味方だと考えておられるのだ。それにこの表敬後には首相も交えてのパーティも用意している。非常に惜しい。地球の独立を守るためにも我が陣営に属していただきたいと思っているのだが。」
「ボラー連邦の助けを借りなくても地球の独立は守れます。」
「アマミ艦長、その発言は、われわれに敵対することを意味している。繰り返すがもう君たちはすでに属国なのだ。ただ単に敵対のみならず宗主国への反逆を意味しているぞ。その罪の報いはわかっているのだろうな。」
「敵対しようとしているのは、あなたがたではないですか。こちらは敵対しようとなんて考えていません。」
べムラーゼは話にならんといわんばかりに鼻であしらい
「ボローズ、閲兵式の時間が来たようだ。この反逆者たちの身柄を拘束し、ヤマトを捕獲しろ。とりあえず今のところは処刑を見送ってやる。だが、わしに背く者を宇宙に放置しておくわけに行かぬ。」
「ベムラーゼ首相!」
春香の叫びを無視して、ベムラーゼの席はエレベーターで再び上へ上がっていった。
「警備兵を呼べ。」
ブーツ、ブーツと警戒音がなり、ボローズは総督府にいるヤマト乗組員を拘束するために命令をくだした。もうバース星は敵地となった。逃げるしかない。
廊下にいた山本、雪歩、太助、土門は、室内の警報音に驚いた。なにかよくないことが起こったことだけは察知できた。警備兵がやってくるのがみえた。明らかに敵意が感じられる。入り口から、春香、律子、あずさが飛び出してくる。
「艦長!」
衝撃銃で警備兵を次々に倒し、なんとかコスモハウンドに乗り移ることに成功する。
「雪歩、千早ちゃんに連絡して。」
「はい。」
広場では閲兵式がおこなわれ、数百台のもの戦車、ミサイル装甲車が整然とならんですすんでいく。総督府の高い壇上で、ベムラーゼが横目でちらり一瞬春香たちがはしっていき、それを捕まえようとする警備兵をみやったが、ふたたび閲兵式のほうへ視線を向ける。
「こ、こちら萩原。ぼ、ボラー連邦の警備兵に追われていますぅ。救援をおねがいしますぅ。」
「了解。」
「千早ちゃん、コスモファルコンを二機発進させて、総督府近くの囚人さんを解放して。」
「了解。」千早は応答するや否や春香の命令を鞘葉に伝える。
「鞘葉君、コスモファルコン二機発進よ。」
「了解、発進します。」
コックピットから鞘葉が眼下を見下ろすと囚人たちが、一列にならべられて杭に縛り付けられているのが見える。まさに銃殺されようとしていた。
(あそこか...。)
鞘葉は急降下し、レパルスが手をあげて、処刑のために手を下げる合図をしようとしているところを機銃掃射した。
ダダダダダダ....狙撃兵とレパルスは機銃に撃たれて倒れていく。
囚人たちは歓声をあげて手をふる。鞘葉もコックピットから手を振って上昇していった。
春香は囚人たちの解放をベムラーゼ首相に願うが、はねつけられる。ヤマトについてとりなそうとするラム艦長も「属国の分際」とあしらわれた。ついにボラー連邦がその本性を現そうとしていた。
ティンときたので双子をちょっと加筆しました(7/31)。