「これよりケプラー22bに上陸して地上での調査を行います。生活班探査係は全員、戦闘班飛行科鞘葉くん、コスモハウンドの操縦をおねがいします。」
春香と律子が地上探査の指示をくだす。
「異議アリ。絶対反対。大反対。」アナライザーが体を震わせ大反対の意思を示す。
「どうしたの?アナライザー?」律子が尋ねる。
「上陸ハ危険デス。ケプラー22bハ、何カベールノヨウナモノニ包マレテイテ、ハッキリシナイノデス。」
「アナライザー、あなたらしくないわね。はっきりしないっていうのは分析したことにならないのよ。」律子は、顔をしかめてアナライザーをたしなめる。
「デモ、ハッキリシナイノデス。説明スルノガ難カシイノデスガ...。」
「さては、アナライザーうれしすぎて壊れちゃったなw。」
土門がアナライザーをかるくこづく。
「失礼ナッ。ボクハ正常ダ。」
「おお、こわ。」
土門のおどけたしぐさにどっと笑いが沸く。
「まあ、探査しないことにはなにもわからないよね。今度は着陸用探査機も無事に着陸できたようだし。予定通りコスモハウンドを発進させます。鞘葉くんおねがい。」
「了解。搭乗員の乗船を確認しだい発進します。」
「千早ちゃん、留守をおねがいね。」
「了解。」
「気密通路のハッチ開け。」真の指示があるがハッチが開かない。
突然艦内の照明が落ちて、ジリリリリリ....と艦内に非常警報が鳴り響く。
「アナライザーさんがパワーコントロール室で暴れているよ。はるるん。」
「わけわからないよね。すごい必死な感じだよ。」
「えつ?」
亜美の亜美の報告を受け春香と律子は顔を見合わせる。
(なんでそんなことをするんだろう?)
春香とコスモハウンド搭乗予定者数名がパワーコントロール室へ向かう。
パワーコントロール室へ入るとアナライザーが計器類を叩いたり、コードをひきちぎったりして暴れている。
「アナライザーさん、やめて。」
春香と搭乗員予定者たちはアナライザーを押さえようとするがはねとばされる。
「あわっ。」
春香は軽く悲鳴をあげてころげて、両膝をゆかについてよつんばいのようになる。スカートがめくれてお尻が見えそうになり、男性たちは思わず顔をあさっての方向へ向けた。春香はやや赤面してお尻のスカートのすそをおさえる。
ちなみに、春香以外では、技術班と機関室の重力制御装置担当の女性乗組員がスカートを着用している。生命にもかかわる重力制御装置の異常をすばやく察知するためである。羞恥心をいとわず艦内の安全を第一と考える理系女子のプロ意識であった。
それはともかく、土門、雷電、坂東などがやってきてアナライザーを縛り上げた。
ヤマト艦内がおもいがけないハプニングに対処していたころ、地球からみて銀河系中心の裏側、6万光年のかなたの凍りついた惑星にある大都市にひときわ高くそびえたつ建物の一室で、その様子を監視用リレー衛星からの画面を見ている者がいた。
「シャンタスマルゴレー上空にバース星のラジェンドラ号と辺境惑星の戦艦がおります。」
「ゴルサコフ?どこに属する戦艦だ?」
顔の大きな肥満体の人物がやせぎすの縮れ毛の人物にたずねる。
「オリオン腕グールド・ベルト内のG型恒星ゾレツィア(太陽)第3惑星ゲオムルア(地球)に属する戦艦です。ところで、シャンタスマルゴレーといえば、首相閣下が以前シャルバートの王女を幽閉した場所では?」
やせぎすの縮れ毛の人物が肥満体の人物を首相閣下と呼びながら質問に答える。
「ふはは。辺境惑星ふぜいの戦艦がのこのこと。ゴルサコフ!」
「はつ。」
「機動要塞ゼスパーゼと第2親衛艦隊を出撃させる。バース星へ行き状況視察をする。」
「首相閣下?」
「ゲオムルアの戦艦をわが陣営に加える。従わない場合は...ふふふ。よいな。」
「承知いたしました。」
ゴルサコフとベムラーゼは同じ種類の、残酷さを押し隠した笑みを浮かべていた。
巨大な球体を連ねた要塞と千数百隻に及ぶ蒼いイモムシ状の戦艦が凍りついた惑星の上空から虚空へワープして消えた。
さてヤマトでは縛り上げられたアナライザーが中央作戦室につれられていく。
「アナライザーさん、どうしてあんなことをしたんですか?」
「キミタチハ、マダ、ボクノ言ッテイルコトノ重大サガワカラナイノカ?コノ調査結果ハオカシイノデスヨ。コンナ正体不明ノ星ニ皆ヲ行カセルワケニハイカナイノデスヨ。」
「とうとうイカレちゃったのかなあ。」土門、坂東や第一艦橋の面々は顔を見合わせる。
「オカシイノハボクジャナイ。ヤマトノコンピューターダ、」
律子は首をひねる。
「アナライザー、そうはいってもヤマトにはデータ計測にバイアスがかからないよう複数の別の会社のコンピューターを搭載しているけど、それがすべて同じ調査結果を出しているのよ。」
「そうですよ。そんなすべてのコンピューターがおかしいなんてありえないですよ。」
技術班の士官がいう。
「ということは?」
律子はアナライザーを見つめた。
律子はそれなりに美人だがこのときの律子の視線が好ましいものでないことをアナライザーは察する。
「ナンデスカ。律子サン、ソノ目ハ。」
「分解して調べる必要があるわね。」
律子が触れようとするとアナライザーは逃げ出そうとしたが、土門、鞘葉、坂東は取り押さえる。
「ヒエー、ロボット殺シィー」
アナライザーの叫び声をききつけてあずさとロボットたちがやってきた。
「何かあったの?アナライザーさん?」
「アツ、先生、助ケテ。ボク殺サレル。」
「殺される?アナライザーさん?本当にどうしたの?もしかして技術班の女の子たちのスカートめくりをしたの?」
「ソンナコトシテマセン。」
「先生、アナライザーが暴れて地上探査ができないんですよ。」
「計器は壊すわ、ひっかかれるわで散々です。」
「まあ、みなさん、おさえて。ここはわたしがあずかります。」
「先生、アリガトウゴザイマス。」
「では、先生、あとをよろしくおねがいします。」
「ええ。いってらっしゃい。」
あずさはほほえんで皆を送り出す。
鞘葉と探査要員は、さっそくコスモハウンドと数隻の探査用揚陸艇に乗り込んだ。
彼らの眼下に見えるケプラー22bは、地球のように白い雲がまばらに点在し、イスカンダルや地球のように青い海が取り囲む惑星である。
白い雲の間を通過してケプラー22bの地上へ降りていった。
コスモハウンドと数隻の探査用揚陸艇は、ケプラー22bの地表に降り立つ。
コスモハウンドの下ハッチが開き、春香、律子、平田、土門、坂東、鞘葉、生活班など乗組員が降りる。緑の草や花、木々がまばらに生い茂っている。草原や森林、草原のかなたにそびえる青い山々や白く雪をかぶった高峰....。
「空気がおいしいね。」
春香はすっかりただの女の子にもどっていた。
「お、ウサギがいる。」土門が見つける。
着陸地点のすぐそばには、幅30~50cmくらいの小川がゆるやかに蛇行しながらさらさら流れている。
「おお、水だ。」「うん。おいしい。」
土門と鞘葉は、小川の水に手を入れてその心地よいつめたさを味わったり、水を手にすくって口に含む。
コスモハンドや揚陸艇をおりた乗組員たちはいつのまにか思い思いの場所にちらばりかけていた。
「みんな、あつまって。」
律子がマイクで呼びかける。
「春香~^^、指示して^^;」
「あっ、はい。みなさ~ん。」春香は恥ずかしさでほのかにほおに赤みがさしている。
律子と春香は、自然観察にでかけてはしゃいでいる児童をあつめようとする幼稚園か小学校の先生になっている。春香は律子に言われるまでは自分が児童になりかけていた。
「技術班は、ベースキャンプ設営をおねがいします。生活班は動植物及び水質、土壌、大気の調査をしてください。特に危険な微生物がいないか確かめてください。戦闘班は、危険がないか、敵が存在しないか偵察をお願いします。」
鞘場と土門は偵察のために静音のエアー・スクーターを走らせる。まばらに生えている木々の上には、小鳥がさえずったり、はばたいたり、枝の上にはリスなどがはしりまわっている。地上には、タヌキ、ウサギ、鹿などが姿を見せる。
「こんなところを「年下の」かわいい娘と散歩できたら最高だろうな。」
鞘葉がつぶやく。土門がからからと笑う。
「鞘葉!そこで年下をつけるか。」
「そうだろ。きれいどころは多いがお説教されそうだからな。」
「まったくだ。一緒にいるのがむくつき男、帰ったら女教師がいるんじゃじゃぜんぜん気分が出ん。」
「「それはお互い様だぜ。」」
笑いあう二人の脳裏には律子と伊織の顔が浮かぶ。
「技師長や班長には聞かせられないな。」
「違いねえや。」
二人は再び笑いあった。
「設営は、...くしゅん。」
「秋月技師長?どうしました。」
「なんでもないわ。」
「設営、50%完了です。」
「水は、そこの小川の水がそのまま使えます。有害な微生物もいません。」
「でも、不思議ね。土壌の組成はサンゴ礁そのものだわ。火山性の鉱物や変成岩に由来する鉱物が極端に少ない。」
「くしゅん。」
「どうしたの、伊織ちゃん?」
雪歩が伊織に話しかける。
「かぜかしらね。ひいたことないのに。」
草むらにごろんと寝転んだ土門と鞘葉が起き上がると二人の前方に、
土門にはなくなったはずの両親が、鞘葉には、地球にいるはずの両親が微笑みながら立っている。
「「!!」」
「「父さん...母さん...」」
「お前もか?」
「ああ、たしかに親父とおふくろがいた...。」
ふたりは思わず顔を見あわせた。
「発電装置、最終チェックお願い。」
「風力発電装置1号から10号まで正常です。」
「太陽光パネルも1号から50号まで正常との報告です。」
「燃料電池1号から50号まですべて正常。」
「バイオマス発電装置1号から50号まですべて正常。」
「地熱発電は火山脈が確認できないので不可能ですが支障ありません。」
「火山脈がない?」
「はい。微細な地震は起こっているようなので地震波トモグラフィーやX線や電波、音波を使って各種断層映像装置を作動させています。地殻の組成はサンゴ礁のような石灰質がほとんどで地下15kmからは正体不明で均質な物質、しかもその温度は地表とほとんどかわりません。地下2900kmからは岩石質になるようですが...。」
そのとき律子の脳裏で
「秋月君。」と聞き覚えのある男性の声がした。
「律子さん。」こんどは、2×(にじゅうちょめちょめ)歳と称される若い女性の声だ。
振り向くとnamugoプロの高木社長と事務員の音無小鳥が笑顔で立っていた。
「!!」
(こんなばかなことが...。)
律子は思わず目をこすったが、技術班の面々も青くなっていた。
「あの、親父とおふくろがいた。」
「地球にいるはずの彼女が...。」
「わたしは彼氏に会った。」
「わたしは、パパとママとおばあちゃんに会ったわ。地球にいるはずなのに。」
「これは、ラム艦長にあらためて情報を確認する必要があるわね。」
律子がキャンプの設営状況を一緒に確認していた春香に話す。
「うん、雪歩にラム艦長に通信するよう話してみる。」春香はさっそく通信機を操作してヤマトに連絡をとった。
「艦長、春香ちゃん、ラム艦長から通信です。」
深いしわのきざまれた初老の老人の顔が通信機の画面に映し出される。
「天海艦長。」
「あの惑星は故郷のバース星にそっくりなのだが...。」
「!!」
「わたしたちにとっては地球そっくりに見えるのですが??」
「!!。天海艦長。そちらで撮影した写真を見せてもらえないか?こちらで撮影した写真もお見せしよう。」
ラム艦長から送られた写真はツンドラのような寒冷な風景だった。
「地球は温暖な星なのですね...でもなぜわれわれにはバース星のように見えて、どうして地球の皆さんには地球のように見えるのでしょう。」
「.....。」
「律子さん。」春香はいつになく真剣な顔で律子を見つめる。律子は軽くうなづき、
「春香。技術班に大至急全部の機器を点検させるわ。」
坂東たち技術班が必死に機器の点検をおこなう。
「出力レベル、異常ありません。」
「センサーの接続、異常ありません。」
「回路の接続、異常ありません。」
「コンピュータの作動異常ありません。」
「外部からのマルウェア、ウィルス等確認できません。」
「電波や音波等の障害ありません。」
「機器類はすべて正常です。異常は認められません。」
「律子さん、あとまぼろしが発生する理由を探るとすれば...。」
「統合失調症や幻覚症状のホルモン、心拍等の生理学的状態を測定する機器があるわ。それから...。」
「それから?」
「アナライザーね。」
「そういえば、アナライザーさんの暴れ方はちょっと異様でしたね。」
「アナライザーだけが何か異常を察知したということよ。」
「春香。アナライザーを呼んでみるわ。」
「はい。わたしは、上陸した搭乗員に生理学検査をさせます。」
ケプラー22b「シャンタスマルゴレー」に上陸した春香たちはまぼろしを見る。異常に気がついた春香と律子は対策を考え始めた。