その日、東京宇宙空港のロビーはごった返していた。
家族連れ、ロボット・ポーターに荷物を運ばせている旅行客やビジネスマン、はしゃぐ子ども、誤ってかごから飛び出した飼い犬を追いかける人、いちゃいちゃする恋人たち、定年後の旅を楽しもうとする老夫婦など...
電光掲示板の表示が変更され、アナウンスが行われる。
「13:30発東京発シャトル、上空太陽電池宇宙港及び水星経由太陽観光船にお乗りのお客様は、出発手続きがお済み次第、93番ゲートへお越しください。繰り返しご案内申し上げます。13:30発上空太陽電池宇宙港...。」
種子島宇宙港から発射される観光船は、太陽電池宇宙港にてシャトルとドッキングし、太陽系内の観光に向かっている、特に人気のあるツアーは、火星、木星、土星とその衛星をめぐるツアーであったが、水星経由太陽観光も水星のみごとな同心円状のカロリス盆地やクレーター群、とくに日本人文化人の名前のついたクレーターが間近で見られたり、特殊フィルターで光球上のガスの動きや雄大なプロミネンスを目を焼かずにみることができるとあってその次ぐらいに人気がある。
その人ごみを掻き分ける青年がいた。宇宙戦士訓練学校生の土門竜介である。彼はやがて不慣れな様子で搭乗手続きをおこなっている老夫婦の姿をみつける。
(よかった...間に合った。)
土門は父親に声をかけた。
「父さん!」
土門の両親は彼に気がつくと少々張り詰めた表情からほっとした表情になる。
「おお、竜介か。大丈夫なのか?訓練学校のほうは?」
「ああ、担任に話をしたら、そういう事情ならと許可をくれたんだ。訓練はみっちりできびしいけど、そういうところは結構おおらかなんだ。とにかく間に合ってよかった。」
「とうとう決心しましたよ。一生の思い出にね。」
土門の母はほがらかに息子に笑顔を向ける。
「うん。楽しんできてよ。帰ってきたらまた食事でもして土産話を聞かせてよ。父さん、母さん。」
「うむ。それじゃあ行ってくるよ。」
「竜介も元気でね。」
【推奨BGM:美しき太陽】
土門はシャトルに乗り込む両親を送迎デッキで見送りながら、休日にレストランで両親と土産話を聞いて笑いあっている光景を脳裏に思い描いていた。
(楽しい旅行になるといいなあ..。)
しかし、それが両親を見る最後になるとは想像だに及ばなかった。
太陽観光船は、水星軌道の内側のエネルギー衛星にドッキングする。
観光客は耐熱服を着て特殊フィルターごしにガイドの説明を聞く。
「皆さん、太陽です。太陽は、標準的な主系列星で、その年齢は50億年といわれ、スペクトル型はG型で、1天文単位、約1億5千万キロ付近で生命が発生するのに都合のよい恒星となっています。どうぞ、光球上にもりあがるガスの動きをご覧ください。北緯38°27′、東経93°27'にプロミネンスが発生しました。雄大な光景をお楽しみください。」
観光客は歓声をあげる。
「今皆さんがいらっしゃるのは、太陽エネルギー衛星です。ここから水星基地または金星基地にいったんエネルギーが送られ、水星及び金星のうち、地球に近いほうから地球上空の太陽電池基地及び月基地に太陽エネルギーが送られます。
では、こちらをご覧ください。もうすぐ水星基地へエネルギーが転送されます。その仕組みをご覧ください。」
観光客たちは思い思いに感嘆の声をあげていたが、土門の母は、太陽と反対側になにやら接近してくるのを視界にとらえていた。
【推奨BGM:絶体絶命】
「母さん、どうしたんだい。」土門の父がいぶかしげに自分の妻に声をかける。
「あれ、何かしら?最初は流れ星かと思ったんだけど...。」
土門の母は宇宙空間を指差す先に円形に点滅しながら近づいてくる光点群があった。
その光点の描く円周はどんどん大きくなっていく。
「あ、あれは...。」
円形に点滅しながら回転していた光点は巨大なミサイルが発していた光であった。
巨大ミサイルは太陽観光船に激突して破壊した。乗客が一瞬悲鳴をあげるや爆発してその爆発はエネルギー衛星基地もまきこんで四散した。そして巨大ミサイルは太陽に吸い込まれるように命中した。
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太陽観光船の事故は、原因不明とされながらも、高い可能性で太陽観光船がエネルギー衛星に衝突したためであろうと報道された。
しかし、それから数日後、地球防衛軍司令部で非常警報がなった。
「参謀長、なにが起こっているの?」
舞はたずねる。
「セドナ基地から緊急連絡です。正体不明の巨大ミサイルが三基侵入。内惑星軌道方向へ500宇宙ノットで飛行している、とのことです。」
「これで3度目ね。」
セドナ基地では、一ヶ月前にオールト雲をやはり500宇宙ノットで通過する細長い物体が確認されていた。しかし、内惑星軌道へ向かわず、太陽系縁辺をかすめていくのみだったので、葉巻型円盤の一種であろうと処理された。しかし、太陽観光船の事故の前後にも似たような物体が侵入してきたため、カイパーベルト防衛線で破壊したのだ。
舞は、オペレーションスクリーンの画面を見ながら
「ミサイルの侵入方向に最も近いカイパーベルト防衛線で捕捉、破壊しなさい。」
「カイパーベルト第72要塞、ミサイル捕捉しました。攻撃します。」
要塞からショックカノンが発射され、ミサイルは破壊された。
「ミサイルの破片を回収しなさい。」
「了解しました。」
【推奨BGM:SYMPHONY OF THE SUN】
それから二週間後
「長官、地球連邦大学宇宙物理学部長のサイモン教授が最近の太陽観測のことで報告したいのでお会いしたいとの連絡です。」司令部付き士官の一人が舞につたえる。
「じゃあ、こちらへお通しして。」
サイモン教授の話は舞の心のなかにあるいやな予感を裏付ける驚くべき話だった。
サイモン教授の話を聞いた舞は即断する。
「ことは一刻を争うわ。春香たちを呼んで調査してもらいましょう。参謀長、ヤマト乗組員に至急召集をかけて。」
「はつ。」
やがて春香たちヤマトクルーが呼び出される。
「こっちへ来てくれる?」
舞は、初老の痩身のアメリカ人科学者を春香たちに紹介する。
「地球連邦大学宇宙物理学部長のサイモン教授よ。」
「はじめまして。ヤマト艦長天海春香です。」
「ヤマト副長兼航海長の如月千早です。」
「サイモン教授、それではよろしくお願いします。」
スクリーンに太陽の映像が映し出される。
「太陽観測を行っていましたが、3週間前の太陽観光船の事故の直後から太陽の核融合異常増進が起こり始めているとの結論に達しました。」
「核融合の異常増進ですか?」千早が問い返す。
「そうです。わたしの計算によれば、このまま太陽の核融合異常増進が進めば、地球上に生命が生存できるのはあと1年、3年後には太陽は超新星化して爆発し、消滅します。」
「あと1年ですか!!」春香がその大きな目を見開いて驚きを示す。
「はい。わたしは、ことの重大さに驚きを禁じえず、地球連邦大統領府にデータを提出しました。すると大統領は、太陽エネルギー省に照会し、観測局長の黒田博士によるとよくある現象だと回答したそうです。しかし私は、自分の説に確信があったので、長官に相談し、皆さんにお集まりいただいたというわけです。」
「核融合を制御する技術はいくつかあるものの確実な効果は期待できません。最悪の場合を考えた場合に第二の地球となる惑星に移住するしかありません。」
「今日春香たちに来てもらったのは、この話をきいてもらって移住先となる第二の地球を探す特務艦としてヤマトを派遣したいという意向を伝えるためなの。地球連邦政府の判断が誤っていたらあと人類は一年、いや十一ヶ月と二週間で滅んでしまうことになる。気がついたときに遅かったでは取り返しがつかない。」
「舞さ、長官、わかりました。」
「律子、ヤマトをドッグに入れてくれた?」
「はい。」
「整備にはどれくらいかかりそう?」
「4週間くらいかと。」
「2週間でなんとかしてくれる?今は一刻も時間が惜しい。航海中でも可能な整備はあとまわしにして。」
「わかりました。」
「サイモン教授、説明の続きをお願い。」
「わたしたちの太陽系は、銀河系のバルジ中心から3万光年のオリオン腕の中を銀河系中心に対しらせん状の軌道を描きながら公転しています。大至急、移民宇宙船を建造するとしてもその航続能力は戦艦などと異なり一万五千光年しかありません。ですから第二の地球探しは、地球から半径一万五千光年の範囲の球状の空間に限られます。限られた時間を有効に使って、多くの星を探索するために星の多い銀河系中心方向を探査していただきたいと考えます。」
(またしても地球滅亡の危機なんて...どうすればいいんだろう...。)
春香の心を不安がよぎる。
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翌日、春香、千早、雪歩、真は防衛軍レストランで食事をしていた。
「というわけなのよ。」
「そうなんだ。あ、あのね、実は小耳にはさんだんだけど...」
と雪歩がいいかけたところ、非常警報がなった。
「千早ちゃん、雪歩、真!」
「行こう。」春香の提案に
「う、うん。」と雪歩は返事をし、千早と真は無言でうなずき、会計をすませるといそいで中央管制室へはいっていく。
「緊急連絡!こちらセドナ基地。正体不明の巨大ミサイルが二基侵入。内惑星軌道方向へ550宇宙ノットで飛行中。ひとつは、準惑星マケマケ付近を通過の予想。」
「マケマケ基地とカイパーベルト第93要塞に連絡。ミサイルを捕捉しだい、破壊しなさい。」
「了解!」
春香たちは、舞に声をかけると同時に管制室にはいってきた律子が舞に声をかけた。
「「長官」」
「律子さん!」春香たちは驚いて律子をみつめる。
「ちょうどよかったわ。みんなにもぜひとも話したかったから。」
律子は、舞と春香たちに数個の金属片をみせる。
「律子、それはもしかして?」舞がたずねる。
「そうです。先ほども侵入してきましたが、例の巨大ミサイルの金属片です。」
「あ、あの、やっぱりわたしが聞いた話は...。」
「ああ、雪歩は通信部署勤務だから知っているのね。」
「それで分析の結果ですが驚くべきことがわかったんです。」
「信じられないことなんですが、このミサイルの破片を分析したところ、材質がガミラス製のものと非常に酷似しているんです。」
「!!。」
「それから、太陽系内の監視衛星がとらえた3週間前からこれまでの映像なんですが...」
そこには光点を点滅させて回転している黒光りする長く円柱状の巨大な物体が映し出されていた。
「どうかんがえても巨大ミサイルの流れ弾としか思えないわね。」
「サイモン教授が三週間前から太陽に異変が起こっているというお話と関係あるんでしょうか?」
「まったく無関係とは考えにくいわね。太陽観光船の運航は事故が起こらないように航路が厳密に定められている。実は太陽観光船がドッキングに成功したことを示すボイスレコーダーが回収されたのよ。」
再生されたボイスレコーダーは、太陽観光船の事故がただの事故ではないことを示していた。
「ドッキングに成功しました。....現在太陽観光船の搭乗者が見学中。!?何か接近してきます。速度500宇宙ノット。質量きわめて大。正確に報告せよ。細長い物体のようです。....推定距離1万キロ。....回避せよ。間に合いません。うわああああ...(プツン)。」
「わたしは、どうしてもこのミサイルと太陽観光船の事故、サイモン教授のおっしゃる核融合異常増進の話が無関係とは思えなかった。このように繰り返し流れ弾としか思えないミサイルが太陽系に飛来してくるようなら、どこかで戦争が起こっていることになる。そしてミサイルがガミラスのものだとしたら...。」
舞の表情に不敵な笑みが浮かぶ。
「どうやら総統が相当やんちゃしてるようね。二度と悪さができないようにお仕置きが必要だわ。」
「春香。なぜわたしが第二の地球探しにヤマトを派遣する理由がこれでわかったかしら。」
「はい。」
「苦しい旅になるわよ。」
四人は、こくりとうなずいた。
後日、そばで「お仕置きが必要」発言を聞いていた参謀長がおどろき、コルネリアス・アダムスの後任となった高木順一郎大統領にこの話が伝えられると、大統領は、
「舞君、できれば穏便にお願いしたいのだが。」
と伝えたが、舞はわるびれもせず、
「善処しましょう。」
と答えたという。
太陽の異変を発見したサイモン教授は防衛軍司令長官の舞に伝える。
舞は危機感を感じて春香たちヤマトクルーを集めて、太陽の異変-核融合以上増進-について伝え、第二の地球さがしに派遣することにした。