アクセル・ワールド外伝 ~炎神の胎動~   作:ダルクス

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加速のことを教えてくれるという謎のメールの主の言うとおり、翌日中野ブロードウェイ内の喫茶店で待ち合わせをするカズキ。
そんなカズキの前に現れた人物とは…?


第2話:「Sensation;体感」

「…!」

 

きた…! ついに来た!

絵文字も顔文字もない…ただその一文だけが書かれた質素なメールだった。

だが今の俺にとっては、加速のことが知れれば文面などどうでもよかった。俺はすぐに返事を書いて送った。

 

『知りたいです、是非教えて下さい!』

 

反応はどうだろうか…。

しばらくすると、また返信が来た。

 

『ならまずは今すぐにあのスレを消せ。不特定多数の人に見られるのはとても危険。このアドレスもすぐに変更する。スレが消えたのを確認したら、変更したアドレスで詳細をメールで送る』

 

どこか命令口調なのは気に入らないが…今はこいつの言う通りにするしかない。

まずは先ほどの裏掲示板に戻って、あのスレを消去した。スレ立てるときに消去用のパスワード入力しておいてよかったぜ…。

さて…あとは見知らぬアドレスからのメールが送られてくるのを待つだけか…。

 

ピロリン♪

『メールを1件受信しました』

 

待つ事数分、電子音とともにウィンドウ上に表示されるメール受信の一文…アドレスは見知らぬものだ。

高鳴る興奮を抑えつつ、そのメールを開く。内容は…?

 

『詳細を話す前に一つ問いたい、君は都内に住んでいるか?』

 

なんだよ…気をもたせやがって。

俺は一言だけ、『はい』という返事だけを書き、メールを送る。

今度の返信メールは、すぐに来た。

 

『ならば明日の午後16:00、中野ブロードウェイ内にある「夢間」という喫茶店にて待つ。そこで直接会って話そう』

 

「…はぁ!?」

 

おいおい…あれだけ期待させておいて今ここでは話さないだと!?

一言「ふざけんな!」と言ってやりたかったが…悔しいけど今は相手の方に主導権がある。機嫌を損ねてしまい、加速のことを教えてもらえないなんてことになったら身も蓋もない…ここは従うしかない。

返信メールではこれまた一言『わかった』とだけ送り、その後はもう相手からのメールは来なかった。

遅かれ早かれ、加速の正体については明日わかる。俺は裏掲示板のウィンドウを閉じ、ベッドに寝転がる。

…加速とは一体どのような能力なのだろうか…どのようなものにしろ、今の俺の生活を変えるだけの凄い力がある…正体はわからないのに、何故かそれだけは感じとれた。

今の俺…昔の失恋を今でも嘆いている俺でも、熱中できる〝何か″に目覚めれば、きっと今の俺を一変できるはずなんだが…。

 

「おーいカズキー! 風呂空いたぞー!」

 

下の階から風呂から上がったらしい親父の声が聞こえた。

 

「…おう、今入る」

 

とにかく考えても仕方がない。明日になれば全てがわかる。明日になれば…。

 

 

 

 

 

―――――第2話:「Sensation;体感」―――――

 

 

 

 

 

翌日、俺は朝から今日の午後のことが気になって仕方がなかった。

登校中にいつも通り俺に絡んでくる斎藤をスルーし、学校での6時間分の授業も早く終わらないかと待ちわびていた。

そして…午後15:30、ようやく1日の授業が終わった。

今から駅までダッシュで行けば、ギリギリ16時までに間に合う。

 

「おう遠藤! 今日こそ俺とローカルネットのゲームで…―」

 

「悪い斎藤、俺今日は急いでるからまたな」

 

昨日同様、俺を学内ローカルネットのゲーム対戦に誘ってくれた斎藤だったが、今は斎藤の相手なんかをしている暇はない。

手早く荷物をまとめると、教室を出て駅に向かった。

 

「あんだよあいつ…昨日といい今日といい付き合いわりーな」

 

………

……

 

駅までダッシュで走って約10分、電車に乗って中野区まで行くのに約10分、そして中野駅から中野ブロードウェイまで走ること約5分…現在の時刻は15:55、なんとか時間までに間に合いそうだ。ブロードウェイ内の館内ネットにニューロリンカーを接続し、ここのマップを見てみる。どうやら「夢間」という喫茶店は2階フロアにあるらしい。マップを見ながらエスカレーターに乗り、その「夢間」に向かった。

 

「…ここか」

 

見た目は古風でモダンチックなどこにでもありそうな普通の喫茶店…ここに〝加速″について知っている者が待っている…。

扉を開け、店の中に入る。チリンチリンという鈴の音とともに、店員が俺を出迎える。

 

「いらっしゃいませ、お一人様ですか?」

 

「あ、えーっと…」

 

店員の問いに戸惑いつつも、俺は店の中をぐるりと見回す。

俺を待っていそうな奴は…と思ったが、よく考えてみたら…俺を呼んだ奴の顔はおろか、年齢も特徴も何も聞いていなかった!

これでは迂闊に「一人です」とも「待ち合わせをしています」とも言えない…一体どうすれば…。

 

 

 

「あら、ごめんなさい。遅くなっちゃったわ」

 

 

 

「…え?」

 

突然、俺の背後から女の声がした。

振り向くとそこには…天然と思われる金色の髪を靡かせ、背はスラリと高く、赤い瞳をした、清楚そうな女学生が笑顔で立っていた。

そう…昨日の朝、俺がセント・アルタイル女学院で見た、あの女生徒だ。

 

「私、彼と待ち合わせしてたんです。でも彼ったら先にこのお店に入っちゃって…」

 

「あぁ、そうだったんですか。では2名様ですね? こちらのお席にどうぞ」

 

と、その女学生は店員に事情を説明すると、店員も納得したそうで俺達を二人用のテーブル席に案内する。

…てか、この女学生が本当に昨夜のメール相手!? そりゃたしかに性別とかは確認してなかったけど…というかそもそも! 遅刻したのはこいつなのになんで俺が悪いみたいになってんだ!?

 

「ご注文お決まりでしたらお呼び下さい」

 

「ありがとう♪」

 

店員は俺達のテーブルに水を2つ置くと、その女学生は笑顔で答えた。

…まぁでも、案外穏やかそうな娘だからいくらか話しやすいとは思うけど。

 

「で?」

 

「…え?」

 

突然威圧的にも感じられる言葉と、笑顔が消えた冷ややかな視線が俺の方に向けられる。

向けている人物はもちろん…目の前の女学生だ。

 

「アンタ、あれよね? 昨日の朝学校の前にいた2人組の男子生徒の片割れ」

 

「そ、そうだけど…」

 

「あ~、やっぱりねぇ! なんか変な奴が二人いたから不審に思ってたのよねぇ。こんなところでまた会うなんて、都内といっても意外と狭いわねぇ」

 

人を不審者みたいに言わないでくれ…。

ていうか斎藤はまだしも、俺は自分から女学院に行ったりなんか…い、いや、今はそれよりも…!

 

「それよりも教えてくれ! 加速のことを…あだっ!?」

 

突然右足の脛に鈍痛が響く。こいつが…目の前の女学生が、俺の脛を思いっきり蹴飛ばしやがった。しかも堅そうな革靴で…。

 

「大きな声で言うんじゃないの! アンタ馬鹿ぁ!? はぁ~あ、これだから新参は…」

 

と、周囲に聞こえないよう、小さな声で俺を叱咤する。

なんだこいつ…? さっきみたいに笑顔をばらまいてたのと本当に同一人物か…?

くっ…これだから女ってやつは…!

 

「すいませーん♪ 私このレアチーズケーキとアイスティーお願いします♪」

 

「かしこまりました」

 

「ほら、君は?」

 

「えっ…? あっ…!」

 

気が付くと、いつの間にかこの女学生は店員を呼び、勝手にケーキを注文していた。で、今度は俺に振られたわけなんだが…ど、どれにしよう…。

 

「じ、じゃあ…アイスコーヒーで」

 

「かしこまりました。少々お待ち下さい」

 

もっとよく見れば別の注文品の方が良かったのかもしれないが…一番最初に目についたのがそれだったから慌てて注文した

注文を受けた店員は店の奥へと引っ込んで行った。

 

「さて…」

 

店員がいなくなったのを確認すると、女学生は鞄の中をまさぐり、何かを取りだす。

長さは1メートルくらいの…ケーブルのように見えるが…?

 

「あんたのニューロリンカーにこれ繋げて」

 

と、俺の方にそのケーブルの片方を差し出すと、自分はもう片方を自分のニューロリンカーに差し込む。

『有線直結通信』…ニューロリンカー同士を直接ケーブルに繋ぐことで、繋いだ者同士でのみの会話を可能にする機能だ。なるほど、確かにこの通信手段ならば、会話内容を周囲に聞かれることはないため、聞かれたくないことを話し合うにはもってこいの手段だ。

しかし…この通信手段は強い絆のある二人に…それはつまり例えば……主に恋人同士で行う通信なため、周囲に誤解されるという可能性も…。

 

『なにじろじろ見回してんのよ』

 

頭の中に声が響く。

この女学生が思考発音を用いて俺の脳に直接語りかけているのだ。

 

『勘違いされたら困るんだけど、私別にアンタと直結したくてしてるわけじゃないんだからね。加速のことを大っぴらに世間に広めるわけにはいかないから、これを使ってるの』

 

『…わかってる。で、加速ってなんなんだ? いい加減教えてくれよ!』

 

いよいよ本題に入る…。

高鳴る興奮も抑えきれなくなり、若干声が荒ぶる。

 

『ま、聞くより実際に見た方が早いかしらね』

 

そう言うと、彼女は画面上で何かを操作する仕草を見せる。

すると、俺の目の前に一つのコマンドが表示される。

 

 

 

【〝BB2039.exe″を実行しますか?】

<YES/NO>

 

 

 

なんだこれ…?

どうやらこいつから送られてきたものらしい。

このアプリケーションが加速とやらの正体なのか、もしくはタチの悪い冗談なのか…。

 

『さ、どうするの? それを受け取るも受け取らないもアンタの自由。だけどもし受け取ったならば…』

 

そこで彼女の、さっきまで俺の方に向けていた人を小馬鹿にしたような表情が消え、真剣な瞳で俺の方を見据える。

どうやら…これが俺の真に望んだ力の正体らしい。ならば…!

 

『…!』

ポンッ

 

俺は≪YES≫のコマンドを押した。

すると、よくある『ダウンロードを開始しています。残り○○%』という一文と共にダウンロードパラメーターが表示され、メーターはぐんぐんと上がっていく。

 

『どんな力だって構わない…今の俺を変えてくれるならば…俺はなんだってする!』

 

『ふ~ん、いい覚悟だこと。じゃあその覚悟が…』

 

ダウンロード、80%まで完了。

 

『果たして〝加速世界″でどこまで通用するのか…』

 

90%…。

 

『見ものね』

 

99%…!

 

グワッ!!

 

『うわっ…!?』

 

突然目の前に燃え上がる炎。

しまった…やっぱりイタズラだったか!? と、一瞬ウイルスの類かと困惑した。

しかし、徐々に目の前の燃え盛る炎が文字を形作っていき、メッセージロールが表示される。俺はその炎で形作られたメッセージロールを読み取る。

 

『…? 〝WELCOME TO THE……ACCELERATED WORLD(加速世界)!!″…?』

 

『無事インストールできたみたいね』

 

女学生が水を飲みながら言った。

 

『無事…って?』

 

『このアプリケーション…〝ブレイン・バースト″は全ての人間がインストールできるわけじゃないの。第一の条件はこのニューロリンカーを生まれた時から付け続けてきたということ』

 

と、女学生は自分のニューロリンカーを指さしながら言った。

 

『生まれた時からって…このニューロリンカーって市販され始めたのが…』

 

『そう。16年前…つまりこの〝ブレイン・バースト″を持つ者に大人はいない。最年長でも16歳の子供なのよ』

 

ということは…あの裏掲示板にいる住人の全てが16歳未満の子供ばかりってことか…。

 

『ちなみに、私は16歳。最年長者よ』

 

あ、俺よりも2歳も年上だったのか…。

 

『第二の条件が、高レベルの脳神経反応速度を持つ者にしか与えられない』

 

『脳神経…なんだって?』

 

『つまり、人よりも少し反射神経が鋭いかどうかってことよ。主にはスポーツで鍛えてあったり、それ以外だと瞬時に物事を考え出したり』

 

反射神経か…。

自分では自覚がなかったが、俺もその脳神経反応速度とやらが鋭かったんだな。

 

『これらの条件をクリアした者でないと〝ブレイン・バースト″はインストールできない。ま、と言ってもあの掲示板に入れたってことはインストールできる人間ってことなんだけどね』

 

『…どういうことだ?』

 

『あの裏掲示板はブレイン・バーストと同じプロテクトがかけられているの。ブレイン・バーストをインストールした者、もしくはインストールできる人間にしか見る事ができないわ』

 

なるほど、あの裏掲示板はそういう仕組みだったのか。

確かに、そういうプロテクトをかけておかないと、ブレイン・バーストを持たない一般人までも〝加速″のことを知ってしまうからな。

 

『…で、そもそもこの〝ブレイン・バースト″ってそもそもどういうアプリなんだ? 件の〝加速″とやらとどういう関係があるんだ?』

 

『…アンタ、加速についてはどれくらい知ってるの?』

 

『どれくらい…って』

 

加速の事は昨夜の夜に知ったばかりだ。

何かと聞かれれば想像もできないが…おそらく日常生活を一変させる何かチートめいた能力だということは想像できる。

 

『あの裏掲示板に書いてあったことの受け売りなんだけど…それを使って試験に合格したりとか、ギャンブルで大金を手にしたとか…』

 

『…アンタまさかそのために加速のことを知りたいってわけじゃないでしょうね?』

 

女学生の目がまた鋭くなる。

やはり…この2つはブレイン・バーストを持つ者の中でもタブーなのか!?

 

『い、いや! 俺が一番興味を持ったのはもう一つ! この加速を使って対戦をしてるとか…なんとか』

 

『…へー、そこまで知ってるのね。まぁいいわ。じゃあ試しに見せてあげるわ、〝加速″の世界を』

 

『…え?』

 

ついに…謎の力、〝加速″の正体が俺の目の前で明らかになる!

期待と興奮に胸を躍らせていた…ちょうどその時だった。

 

「お待たせしま…あっ!」

バシャッ

 

「…!」

 

俺が注文したアイスコーヒーを持ってきた店員が足をつまずかせ、盆の上に乗ったアイスコーヒーが宙を舞う。そして落下地点はおそらく俺…全てがスローモーションに見えた…その時だ。

 

『今よ…叫びなさい! 〝バースト・リンク″!!』

 

「ば…〝バースト・リンク″!!」

 

その瞬間…全てが止まる。

倒れる店員…宙を舞う盆とアイスコーヒー…突然のことに驚く俺…その全てが青く染まり、停止する。

 

「な…なんだよこれ…って、俺なんで普段使ってるアバターの姿になってんだ!?」

 

自分の姿を見ると、いつの間にか俺はいつもの学内ローカルネット等で使っているアバターの姿になっていた。

ちなみに、俺のアバターのモチーフは70年代に流行ったバイクに乗った某変身仮面ヒーローだ(と言っても、頭部を覆う仮面だけは無いがな)

 

「ふ~ん、それがアンタがいつも使ってるアバターなの。だっさいわねぇ、もう半世紀以上も前のヒーローじゃない」

 

と、俺の目の前には赤い刺繍が施された騎士のような白い制服に身を包み、腰には一本のレイピアを携えた映画やゲームに出てきそうな女騎士の格好をした先ほどの女学生が立っていた。

 

「うるさいなぁ…いいもんは何年経っても廃れないものなんだよ。それよりなんなんだよこの空間は!?」

 

俺は改めてこの空間を見回す。全てが青く染まり、そして止まった世界…。

 

「これこそがブレイン・バーストの力よ。一見全てが止まっているように見えるけど、その逆よ。私達が超高速で動いているの」

 

「超…高速で…?」

 

「そう。だからこのアイスコーヒーも止まっているように見えて、実は少しづつ動いているの。見て」

 

そう言って彼女は空中で零れたコーヒーの雫を指さす。

確かに…それは少しづつではあるが、確実に動いている。

 

「これが…加速の正体」

 

なるほど…確かにこの力を用いれば、試験の時に誰かの答案を盗み見ることができるし、ギャンブルでも相手の手の内を覗き見ることができる。

まさに…兆常の力だ。

 

「この力…一体どういう仕組みになっているんだ…?」

 

「うん? まぁ仕組みはいろいろとややこしいんだけど、簡単に言うとこの世界は私達の肉眼で見てる世界じゃないわ。あそこのソーシャルカメラによって見た映像をここのソーシャルネットを通してニューロリンカーを経由し、脳内で見ているの」

 

と、彼女は店の天井隅に設置されている監視の意味も兼ねているソーシャルカメラを指さす。

 

「見てる…ってことは、今この俺達は脳内での存在ってことか?」

 

「その通りよ。その加速した思考により、現実の1秒を一千倍に…つまり、16分40秒として体感することができるの」

 

「たった1秒で16分以上も…!」

 

「この加速を扱う者たちを通称、〝バーストリンカー″と呼ぶわ。もちろん私もその一人」

 

「バースト…リンカー」

 

つまり…この加速を扱う俺も、今日この瞬間からそのバーストリンカーとやらの仲間入りってわけか!

常人とは違う特別な力を得れたことに、なんだかとても嬉しく思う。

 

「まぁそれでも、もちろん体感制限もあるわ。最大で30分まで、つまり現実では1,8秒ってとこね」

 

…てことは、このまま何もせずこの世界で30分過ごしたとしたら…。

 

「や…約2秒後には俺、アイスコーヒーを頭から被るってことになるじゃねぇか!?」

 

「あら、別にいいじゃない。面白くって♪」

 

と、こいつは人の気も知らずにくすくすと無邪気に笑う。

 

「いやいや面白いとかじゃなくて! 何か回避手段は無いのか!? 例えば…ここにある俺の体を動かすとか!」

 

そう言いながら、俺は椅子に座っている俺の体を引っ張り、なんとかその場所から退避させようとする。

しかし、いくら引っ張っても俺の体はビクともしない。

 

「それは無理よ。この世界はあくまでも私達の脳内で見ている空間だっていうことを忘れないで。故に現実の出来事には干渉できないわよ」

 

「じゃあどうすれば…!」

 

「簡単よ。加速状態を任意で解除すればいいの。それなら現実に戻った瞬間に瞬時に避けることができるでしょ?」

 

「あ…た、確かに」

 

普通なら突然の出来事にどうすることもできず、動かずにただ頭からコーヒーを被ってしまうだろうが…じっくり観察してみるとほんの後ろに1、2歩下がれば避けられるようだ。

 

「わかったわね、じゃあ加速を解除するわよ。解除コードは〝バースト・アウト″よ」

 

「わかった…〝バースト・アウト″!!」

 

叫んだ瞬間、全てが元の世界に戻る。

床に倒れ込む店員、落ちてくるアイスコーヒー、そして俺は…。

 

バシャッ

 

「あっ…! も、申し訳ございません! 私めの不手際で…」

 

「いえ、大丈夫ですよ」

 

見事に、後ろに下がって避けることができた。

先ほどまで俺が座っていた場所には零れたアイスコーヒーと割れたグラスが転がっていた。

もしこのままここにいたら、制服はコーヒーの染みで汚れ、下手をしたら割れたガラスで怪我をしていたかもしれない。

 

「本当に申し訳ございません…ここは私が片づけますので、お客様はどうぞあちらのお席をお使い下さい…」

 

と、店員は平謝りして俺達に謝罪する。

だが俺はむしろ、この店員に感謝したいくらいだった。なにせこの人のお陰で身を以て加速の凄さを体感できたんだからな。

 

『どう? 言った通りだったでしょ?』

 

『あぁ、サンキューな』

 

と、俺たちは直結したまま語り合い、俺は笑顔で小さく親指を立てた。




というわけで主人公の初加速でした。
今回は主人公への加速に対する説明が主だったので原作を知っている人にとっては少し退屈だったかもしれませんね。
次回からは主人公たちのデュエルアバターも登場する予定です!お楽しみに!

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