抜きゲの鬼畜竿役に転生したけど、ヒロインの子に不束者ですがよろしくお願いされてしまった。 作:ソナラ
ショッピングモールについてすぐ、昼飯をファーストフードで済ませた俺たちは(前世のマ○クはマ○クかマ○ドかで喧嘩になった)最初にモールに併設されたゲームセンターへ向かった。
曰く、
「アタシ、ゲームセンターに行くのこれが初めてなんですよ!」
「前世まで含めて!?」
とのこと。
是非ゲーセンに行ってみたいという風加さんの願いは即座に叶えられ、俺たちはゲーセンを見て回ることにした。前世とはまた違うゲームのラインナップを眺めつつも、風加さんが一番反応したのは、
「クレーンゲーの中にプライズが並んでる……!」
筐体の中に収められたプライズフィギュアなどだった。俺はあまりこういったフィギュアなどには興味を持たないタイプなのだが、風加さんは違うらしい。
加えて言うと、風加さんにとってプライズとはネットのカタログに乗ってる画像を指すのだとか。
本当にゲーセンに行ったことがないらしい。
そんなクレーンゲームに連コしてでもプライズを入手しようとする悲しきオタクを何とか押し留めて、俺たちは前世でも似たようなものが存在したリズムゲーをプレイしたりした。
一応鍛えているとはいえ、体を動かすゲームは疲れる。というか風加さんに関してはそもそも鍛えてないから1プレイで汗だくになっていた。
……うなじから視線を反らしてしまったのは、失敗だっただろうか。
ともあれ、その後は風加さんの買い物を色々と済ませてオタショップへ向かった。風加さんの買い物はすでに買うものを決めていたようでどれもスムーズだ。とはいえ、それでも数が多いので色々と回ることになったが。
なお、買ったものがどういうものかは俺にはよくわからなかった。女子高生と言うのは俺とは生きている世界が違うので、必要な栄養も異なるのだ。
そして、理解しようとすると深遠に引きずり込まれるだろう。
そこまで終わって、時刻はまだ昼半ば、夕飯にはずいぶん早い。当然次に向かうはオタショップだ。通常のオタグッズの他、ゲームやらを売っている店もあり、中古販売をしている店もあり。とにかく幅広いものが並ぶ、このあたりに住むオタクならよっぽどのことがない限り常連となる店だ。
俺は、訪れるのは初めてだが。もちろん風加さんも。
「いやー、色々並んでますねぇ」
「こっちは流石に初めてじゃないんだ」
「死ぬまでに一度は行くって、決めてましたからね」
さらっと重いことを言いつつ(風加さんの前世には闇が多い)、俺たちはオタショップを巡る。
「あ、見てください、これこれ。来季アニメの特集ですよ」
風加さんが立ち止まったのは、そんなショップのイチコーナー。来季から始まる大型アニメの特集をしているコーナーだった。そのアニメのグッズが棚を占拠している。
「ああ、これなら俺も原作持ってるよ」
「ホントですか!? アタシ前にやってた無料公開の部分までしか読んだことが無くて」
そういえば、風加さんはこの世界でもガッツリオタクをしている。今俺達が見ているのは、国民的週刊少年誌(前世で言うジャ○プ)の人気漫画。
当然と言えば当然か、俺もチェックはしているのだが。
風加さんの場合は、そのチェックの仕方が特殊だった。
何でも、家に携帯はあったので、それでネットにアクセスして公式の無料公開でチェックするしかこの世界のオタクコンテンツを目にする機会がなかったのだとか。
なのでどちらかというと現世の風加さんは、この世界のアニメに対する造詣が深い。
アニメは、ネットなら無料で目にする機会が他の媒体よりも格段に多いからな。
ともかく。
「……これからは、この世界の色んな作品を自由に摂取できるんですね」
「……そうだな」
なんとなくしんみりしてしまった。
とりあえず今日は、今話題に触れたマンガの最新刊が出ていたのでそれだけを買っていくことにした。俺は本誌も読んでいるので内容は知っているが、こういうのは買うことに意味があるのだ。
――それからも、あちこちを回って時間を潰し。
気がつけば夕方。もうすでに夜は遅くなりはじめているが、それでも少し空が暗くなり始めた頃。
俺たちは夕食を取ることにした。
◆
そこは静かな雰囲気のイタリアンだった。
席が壁で区切られていて実質個室のようになっており、周囲からの視線が気にならない。なんというかここに来るまで、結構周囲の視線を感じることが多かったため、俺たちはこの店を選んだ。
なんたって俺たちはオタク、なんだかんだ人が少ないほうが落ち着く。
「はぁ、こんな風に外を出歩くなんて、いつ以来だ?」
「アタシ、初めてかもしれません。もうクッタクタです……」
二人して、ちょっとひと目には見せられないくらいにだらけている。とはいえ、区切られているとはいえ周囲からは普通に目が入る程度には開けているので、本当にまずい感じではないが。
とりあえず最初に注文を頼んで――この店は店員が運んで回るピザが食べ放題らしく、何が来るかと楽しみにしながら雑談に耽ける。
「俺は……前世の学生時代以来だな」
「え……木竹さんって、前世では友達と食事に行ったこととか、あるんですか!?」
「前世の俺を何だと思ってるんだよ……」
苦笑。
風加さんもあはは、と笑いながら謝罪する。なんというかそれすら可愛らしくて、少しドキっとしてしまうが。
――話は、俺の前世に移っていった。
「俺、前世では引きこもりじゃなかったんだよ。普通に友達もいたし、学校では運動部に所属してたんだぜ?」
「えっ」
「そんなに驚くことか!?」
むしろ今の人生でも、学生時代運動部だったと言われても驚かれない身体してると思うけどな!? 実際には筋トレしてるだけなんだけど。
そして、その筋トレの知識は前世の運動部で身につけたものだ。
ともかく、本当に俺は学生時代は運動部だった。他にも学生としての活動にも参加していたし、アニメやマンガに関してもそこまでどっぷりハマっていたわけではなかった。
精々その時やっているアニメから興味があるのをいくつか見てみたり、話題の漫画を追っかけたりする程度。
購読していたマンガ雑誌も、それこそジャ○プくらいなものだ。
とはいえ、それでも学生の間ではそれはオタクの分類だったし、俺の友人は実際ディープなオタクも多かったが。
大事なのは俺の前世は、決して引きこもりをするようなタイプではなく、普通に友人と遊びにいったり食事を食べたりするようなタイプだった。
陽キャ……とは言えないが、陰キャというには活動的なごくごく普通のオタクタイプ学生。
まぁ、彼女はいなかったけど。
「いなかったんですか!!」
なんで嬉しそうなの?
原作ゲームには、大学生の頃に触れた。当時は一人暮らしで周りの目を気にする必要がなかったのと、アルバイトでまとまったお金が手に入ることもあって色々なゲームなどに手を出していた時期あったのだ。
エロゲもその一つで、原作はその最たるもの。
まぁ、たまたま広告が目に入って、百円でセールしていたから買っただけなんだけど……
「……おかしくなったのは、就職してからだったかな」
話の弾みで、そんなことを口にしてしまった。
いけない、とは思っていても一度口にしたことは止まらない。
「ブラックだった、ってことですか?」
「んーまぁ、そんなところだ。ブラックなのは間違いないけど、何ていうんだろうな」
俺の就職した企業は、そこそこ大手の企業だった。そこそこ大手で、そこそこブラックだった。とはいえ休もうと思えば休めたし、決してそれが完全に悪だといいきれるほどに悪辣なことはしてこなかった。
有給を取らせないとか、取ろうとすると妨害されるとかそういう。
だが、単純に意識が高かった。
「……俺がついていけなかったんだよ。俺、前世でそこに就職するまで自分はそこそこできる人間だと思ってた」
そこそこ。
一番ではないが、上から数えたほうが早い人間。
運動部では三年生のときにレギュラーになれたし、大学ではそこそこ優秀な成績を残しつつサークルの運営に関わったりもした。
就職だって同学年ではかなり早い方だったし、就職先も地元では入ったら一目置かれるような大手だ。
できる人間だと、天狗になるのも無理はない、というか。
「本当にそこそこだったから、そこそこ以上にはついていけなかったんだな」
「……その企業のレベルが、身の丈に合ってなかった、と」
「そう、それで無茶をして身体を壊して……それっきりだ」
俺がいけなかったのは、そこで無茶をしているときに止まれなかったことだろう。一度でも止まれていれば、そこが限界だと気づけていれば。
いくらでもやり直す機会は、あっただろうに。
「……木竹さんは、真面目すぎたんですね」
――届けられたパスタをフォークに巻き付けながら、風加さんは言う。
「木竹さんは、周りからいろんなことを頼まれたりしていませんでしたか?」
「……そういえば、そうだな」
「おばさまが言っていました。木竹さんは真面目すぎる。真面目過ぎて――余計なことまで背負い込んでしまう、と」
ぐるぐる、ぐるぐる。
風加さんの巻きつけるパスタは、大きさを増していく。
「話を聞いていて、アタシも思いました。木竹さんはたしかに周りから頼られているけれど、同時に自覚のあるなしに関わらず――
「押し付けられている……か」
押し付けられている。
もしくは、便利に使われている。前世の頃は思ってもみなかったけれど、たしかに言われてみればそういう傾向はたしかにあった。
もちろん、押し付けている側だって悪意があってそうしているわけではない。
それが当然になるくらい、俺が引き受けすぎている、とそういうことだ。
「そしてその多くを木竹さんはこなしてきました。それが自信にもつながっていたんだとは思いますけど。それが通用するのは若いうちだけ。……学校っていう限られた箱の中にいた間だけだったんですね」
「……」
そうして巻き付けたパスタをゆっくりと風加さんは持ち上げて。
「こんがらがっています」
ぱくり。
モッチモッチと、閉じられた口は美味しそうにそれを咀嚼する。
そのまま、丁寧に噛み切って飲み込んだ。……変わった食べ方だ。
「んー、美味しい。……ようするに、無茶をし続けた木竹さんは無茶がスパゲッティみたいになっちゃって、雁字搦めになって疲れちゃったんですね」
「……ああ、なるほど」
それであんなにパスタをあつめていたのか。
スパゲティコードとはよく言うが、人生というのもそれくらい複雑で難しいものだということに異論はない。
「……何か悪いな、食事中にこんな辛気臭い話しちゃって」
「いえいえ、木竹さんのことがしれて、アタシ嬉しいです」
ああ、なんというか。
「それよりも……いや、それだからこそ! 食べましょう木竹さん、やけ食いです!」
ニンマリと、風加さんは可愛らしい笑みを浮かべて言った。
なんというか本当に、俺は彼女に惹かれてしょうがないらしい。俺の話をこんな風に受け止めてくれて、むしろ慰めるように食事を薦めてくる。
本当にできた人だ。
この人を好きになったことは、きっととても幸運なことなのだろう。
でも、だからこそこの人の推しは俺じゃない。
木竹竿役なんだ。
俺という個人ではなく。
そのことが、どうしても妬ましい。彼女の向けてくれる笑顔が俺に向けられたものじゃない気がして、どうしたって嬉しさの他に感情が湧いてくる。
それを、何とか。
努めて抑えて、
「……ああ、そうだな」
「…………」
同意して。
ふと、視線があった。
先程までの笑顔は引っ込んで、真剣な顔でこちらを見る、風加さんと目が合った。
――まるで、内面を透かされているようだと。
そう、思わざるをえなかった。
「木竹さん、お話ありがとうございます」
いや、これはきっと。
見透かされているんだ、俺のことを。
風加さんの真剣な声音は、それを宣告するかのようだった。
「今度は、アタシの話を聞いてくれませんか?」
「……風加子猫のことか?」
「――いえ」
首を横に振る。
静かに、落ち着いた様子で。
「アタシの前世のことです。今まで、木竹さんはそこに触れないようにしてくれていましたけど。話させてください」
――そう、覚悟を持って俺に伝えた。