抜きゲの鬼畜竿役に転生したけど、ヒロインの子に不束者ですがよろしくお願いされてしまった。   作:ソナラ

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1 不束者ですがよろしくお願いされてしまった。

 俺の名前は木竹竿役(きたけ さおやく)(本名)。

 転生者だ。

 

 フザけた名前をしているがそれもそのはず、俺の転生した世界は何と、抜きゲーの世界だった。抜きゲーみたいな世界ではなく抜きゲー世界である。

 一言でいうと、鬼畜竿役な主人公のもとに転がり込んできたヒロインをえろえろに調教するというシンプルな抜きゲーだ。

 お値段三千円のミドルプライス。内容もそれ相応だがバッドエンドはやたら評価が高い。

 

 そんな作品の主人公に転生してしまったのである。

 そう、鬼畜竿役だ。名前まで木竹竿役だ。両親は何を考えているんだって話だが、結論から言うとクソ親である。

 

 最初、転生した時俺はそれを喜んだ。

 前世はブラック極まりない会社で壊されたろくでもない人生だった。もう一度やり直す機会を得られたのだから喜ばないはずがない。

 しかも前世の記憶という他人よりも大きなアドバンテージを有している。これをチートと呼ばずなんという。

 

 しかし、蓋を開けてみればクソみたいな名前とクソみたいな両親。何がクソって子供にこんな名前付ける親がクソじゃないわけないだろ?

 しかしそんな両親も俺が小学生になるころに事故で死に、俺の元には多額の遺産が転がり込んできた。人間としてはクソだが、犯罪スレスレの方法で稼ぎに稼いでいた親の遺産は、俺が一人で一生を生きていくには十分すぎるものだった。

 

 これで人生が上向くかと思えばそんなことはなく。

 俺の親族は、俺から遺産を奪うことしか考えていなかった。周りに信用できる大人はほとんど居らず、俺は一人で生きていくしかなくなったのだ。

 幸い、最低限俺の身元を保証してくれる親族はいたし、俺自身前世の経験もあって、何とかクソみたいな親族に遺産は奪われずに済んだ。

 

 しかしそれで一段落、後の人生は薔薇色……というわけにはもちろんいかない。

 親族の醜い争いが片付くころには、俺は中学生になっていた。そうすると、俺のとんでもないクソネームは周囲にその意味が理解されるようになってくる。

 結果、俺はいじめられるようになった。親がいないのも相まって、中学の環境は最悪と言っても良かっただろう。

 

 だから、俺は結局引きこもることにした。

 

 一生を生きていくだけの金と家があって、他人と関わりを持つ理由なんてどこにもない。俺は一人で生きていくのだ。誰とも関わらず、自由に。

 そうやって時間を食いつぶしていくうちに気がつけば、俺は前世の年齢とそう変わらない年齢になってしまっていた。

 前世の記憶というチートは、かくして完全に無駄遣いされたわけである。

 

 そんな時だった、俺の身元を保証してくれた親戚の叔母から、その話が舞い込んできたのは。

 

 

「知り合いの女が病気で死んで、その娘の身寄りがないんだ。お前さん一人くらいなら養う余裕もあるだろ、預かってみないかい?」

 

 

 ――と。

 はじめはなにかの冗談かとおもった。

 叔母はまともな人間だったし、俺は引きこもりのダメ人間だ。そんなヤツに子供を預ける? それも娘って、つまり女の子ってことじゃないか。

 まぁ、彼女の年齢は十八歳以上なのだが、それにしたってまずいだろう、と。

 そう思ったのだが、

 

 その少女の名前を聞いた時、俺はすんなりと納得してしまった。

 

「その子の名前? ああ、風加子猫(ふうか こねこ)ってんだ」

 

 風加子猫。

 ああ、それでやっと思い出した。この世界は抜きゲーの世界なのだ、と。

 

 『鬼畜竿役と自分だけの好きにしてもいい従順な子猫』。

 

 という名前の抜きゲーが、前世のエロゲ業界でひっそりと発売されていたことを、俺はそのときようやく思い出したのである。

 主人公の名前がこれだけ特徴的なのに、なんで忘れてたかって?

 そうはいうが、実際のところ抜きゲ主人公の名前なんていちいち覚えるか? 木竹竿役とか、特徴的過ぎて逆に無個性だ。というか安易である。

 まだ、ヒロインの名前の方が覚えているというもの。

 

 そもそも、俺はその抜きゲにそこまで愛着はない。

 たまたま100円セールをしていて、その中でパッケージに惹かれたから買っただけであって、内容もほとんどおぼえていないのだ。

 バッドエンドが抜きゲにしては印象に残ったな、というくらい。後で軽くレビューを漁ってバッドエンドの評価がとにかく高かったことも覚えているが。

 

 とにかく、そういうわけだから俺はどうも抜きゲーの世界に主人公として転生してしまったらしい。

 そう考えると今の状況も納得がいく。この抜きゲーは鬼畜竿役な主人公のもとに、美少女が転がり込むという非常にシンプルなもので、そしてそのシンプルな内容以外のものが何も存在しない作品である。

 

 主人公は親の遺産で暮らしているから、仕事などの心配はいらない。女の子には身寄りがないから、どうしたって主人公の自由。内容もそのほとんどがヒロインとのエロシーンだけで、エンディングもグッドとバッドが一つずつあるだけのほぼ一本道。

 一つだけ評価したいのは、徹底して竿役が主人公だけということだ。抜きゲーは中にはヒロインを落とした主人公が知り合いに貸し出す展開があるものがときたま存在するが、むしろこれはその逆。徹底してヒロインは主人公のものであるという描写にこだわっていた覚えがある。

 それが結果としてバッドに進む原因にもなったと思うのだが、正直なところよく覚えていない。

 

 ともあれ、そういった抜きゲーの世界なら、女の子が転がり込んでも何も言われないのは納得だ。何よりヒロインの風加子猫はかなり悲惨な状況で育っている。

 親は片親で水商売。幼い頃から母親の性行為を間近で眺めながら育ったせいで、処女でありながらそういった行為を理解している天性の淫乱少女。

 親には虐待を受けて育ったせいで、精神が疲弊しておりそのせいで鬼畜竿役の主人公に抵抗できない。

 

 ハッキリいって、放っておける経歴ではない。

 

 俺は叔母の提案を受けることにした。

 俺の人生はクソみたいな人生だったが、この子はそうあるべきではない。俺に何ができるかなんて解ったもんじゃないが、それでも一人で何もない状態で放り出されるよりは百倍マシだ。

 独善的といえばその通り。

 それでも、俺以外にできることではなかった。

 

 

 ◆

 

 

 ――そして、風加子猫がやってくる当日。

 荷物は既に運び込まれていて、後は荷解きをするだけの状態。風加子猫は最低限の荷物だけを持って自分の足でやってくるらしい。

 迎えに行かなくていいのかと思ったが、もう何年も部屋を出てない引きこもりに一人でそんな事させられるか、とは叔母の言。

 結果、俺はインターホンが鳴るのを待っていた。

 

 思わず緊張してしまう。まるで恋をしているかのようだと自嘲するが、相手は十代の少女である。仮にも前世と合わせてそろそろ五十になるかという男のする態度ではない。

 苦笑しながら、玄関口にある鏡を見る。

 

 特徴は薄いが、どちらかというと整った顔立ちをしている男がそこにいる。ゲームの木竹竿役との違いはあまりない……と思う。ゲームの竿役はなぜか筋肉が割れていてガタイがよく、本当に引きこもりか? と言いたくなるような体型だった。

 そしてそれは、俺もあまり変わらない。一人でいることは暇だったのとずっと家にいては体が鈍ってしまうため、筋トレを日課にしていたのだ。このあたりは前世で経験があったのが良かったと思う。

 

 ともあれ、そろそろ時間だ。

 正直、ゲームの展開はほとんど覚えていない――竿役のガタイを覚えていたのも、竿役の割にやたらいい筋肉をしていたからだ――から、この後のことなんてわからない。

 風加子猫に関しては、何となくは覚えているが。

 

 風加子猫。

 抜きゲーの登場人物ゆえ年齢は十八歳以上。来年から進学することになっていて、今は春休み。性格はとにかく大人しく、人の言う事に逆らえない臆病な性格。

 背丈は小柄だが、抜きゲーだからか胸はとても大きかった覚えがある。

 いつもブレザーの制服を着ていて、木竹竿役の家に転がりこんでからは、外に一切出ることは許されていないにもかかわらず、服装はその制服オンリーだった。

 作画コスト軽減のためだろうが、ともあれ。

 

 ――ピンポン、と呼び鈴がなった。

 

 来た、と思う。

 思わず喉がなって、どれだけ自分が緊張しているのかと自覚させられるが、そもそもまともに人と面と向かって話をするのは数年ぶりなので、致し方ないといえば致し方ない。

 俺はどうぞ、と一声だけかけて扉を開ける。

 

 ゲームだと多分木竹竿役は、下卑た鬼畜竿役の顔をしていたんだろうが。俺は努めて普通に応対する。初対面はそれだけ重要だからだ。

 こんな名前だから、向こうは偏見を持っていてもおかしくはない。

 それを少しだけ払拭するように戸を開けて――

 

 

 ――俺は、そこに立っている少女が最初、誰だかわからなかった。

 

 

 風加子猫は、とにかく弱気な少女で、通常の立ち絵ですら顔を伏せているくらいだった。それを想像していた俺は、目の前の少女に思わず目をむいてしまう。

 スラリと伸ばした姿勢は育ちの良さを感じさせ、凛とした瞳には驚くべきほどの力強さが感じられる。

 とても、臆病とは思えないほどに気立てのよい少女が、そこにいた。

 

 そして、

 

 

「――風加子猫です。不束者ですが、よろしくおねがいします」

 

 

 そう、まるで嫁入りのように、少女は礼儀正しく。

 どこか色気を伴った可愛げの有る笑みで、俺に礼をした。

 

 ――最初、それが想像していた現実とのギャップでそうなっているのか。はたまた彼女に見惚れてしまったせいでそうなっているのか、俺はわからなかった。

 正直、今もよくわからない。

 

 だってそうだろう? ここは抜きゲの世界で、俺は鬼畜竿役で、相手はそれに蹂躙されるヒロインだ。酷い話だが、まともな邂逅になるとはとてもじゃないが思えなかった。

 それが、目の前にいるのは誰が見ても見惚れてしまうほどの美少女で、そんな彼女が不束者――なんて、まるで待ちわびていたかのようにそんな事を言うなんて。

 一体誰が想像できただろう。

 

 俺は――そのまま静止して、

 

 

「……本物だぁ」

 

 

 結果、そんな少女の言葉を聞き逃さなかった。

 

「……本物?」

 

 思わず、ぽつりと漏れる。

 俺の言葉に、少女はおそらくその言葉が無自覚に漏れてしまったことなのだろう、やってしまったと口を抑える。その言葉が、絶対に言っては行けなかった言葉だと言わんばかりの態度だ。

 

 俺は、その様子にピンと来るものがあった。

 

 明らかにゲームとは違う状況。ゲームの風加子猫とは同一人物には思えないほどの変貌っぷりに、けれども目の前の少女の容姿は間違いなく俺の知っている風加子猫であるという事実に。

 一つだけ、これだという想像が浮かんだのである。

 つまり、

 

 

「――――――――――――君、転生者?」

 

 

 そう、彼女は俺の同類だ。

 答えは、確かめるまでもなかった。

 ――俺は、きっと。

 

 俺の指摘によって、想像を絶する表情に変化した彼女の顔を忘れることは永遠にないだろうと、そう思うのだった。




この作品の登場人物は全員18歳以上です。
風加さんはこれから制服がある三年制の学校に通いますが十八歳以上です。

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