正義の味方にやさしい世界   作:アンリマユ

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仮契約

修学旅行二日目

 

「それでは麻帆良中の皆さん、いただきます」

 

「「いただきまーす」」

 

ネギの号令で、皆が一斉にご飯を食べ始める。

眼前に並ぶのは、京野菜をふんだんに使った和食料理。

 

「ふむ。見た目は見事だが、その分味付けが少々雑になってしまっていのが残念だな。まぁ、団体客、しかも学生相手という事を考えれば及第点か」

 

などと料理評論家のような事を思いながらも、シロウが朝食を楽しんでいると……

 

「せっちゃん、なんで逃げるんー」

 

「わ、私は別に……」

 

生徒達の合間を縫って駆け回るこのかと刹那。せっかくの静かな朝食タイムが台無しだ。

 

「やれやれ。朝っぱらから、ましてや食事中だというのに」

 

シロウは静に立ち上がり、このかと刹那に向けて、

 

私に触れぬ(ノリ・メ・タンゲレ)

 

と、マグダラの聖骸布を巻きつけた。もちろんご飯は無事だ。

 

「このか、刹那、今は朝ご飯の時間だ。走り回るのは、行儀が悪いんじゃないかね?」

 

「ごめんなさい」

 

「すいませんでした」

 

顔は笑顔だが、どう見ても怒っているシロウに2人はすぐに謝った。

赤い布で簀巻きにされている2人を見た3-Aの皆は、絶対にシロウを怒らせないようにしようと、心の中で固く誓うのであった。

そして、その後は静かな朝食タイムとなる。

 

 

 

 

 

朝食後は班別行動になる。

当初はシロウも生徒達と回る予定だったが、昨日の件もあり一人別行動をとることにした。

 

「刹那」

 

「士郎先生、どうしたんですか?」

 

「私は一度本山に行って、西の長と話してくる」

 

「え? では、お嬢様の護衛はどうするんです?」

 

「昨日の今日だし敵もすぐには動かないだろう。それに今日回るのは奈良だからな。奴らも自分達の領域(テリトリー)から出てまで派手な動きはしないさ」

 

それに、奴らが西のものならば、できるだけ早くこのかの父親である西の長に伝えた方がいい。

そうすれば、明日の京都観光の危険は多少減るだろう。

 

「わかりました。では、長の方には私から連絡を入れておきます。それと、案内にちびせつなをお渡ししておきますね」

 

「ああ、頼む」

 

「しろう~、せっちゃん、行くえ~」

 

シロウが刹那と話し終えると、丁度このかが呼びに来た。

 

「すまないなこのか。私は今日はちょっと用事があって、一緒に行けないんだ」

 

「え~そうなん?」

 

このかは、指をくわえて残念そうな顔をする。

できればシロウも一緒に回りたかったが、生徒達の安全の為だから仕方ない。

 

「悪いな。でも、今日は刹那が一日中一緒にいてくれるそうだ」

 

「なっ!士郎先生!!」

 

シロウの突然のフリにあわてる刹那。

このかと刹那が仲直り? いや、ケンカをしているわけではないから、仲直りというわけではないか。まあ、昔のように戻るチャンスだ。

 

「ほんま~! じゃあ、せっちゃんいこか」

 

一日中刹那といられる事が嬉しいのか、このかが笑顔になる。

 

「え、あ、あのっ……はい」

 

最初は戸惑っていた刹那だが、このかに手を繋がれ観念したのかおとなしくなる。

だがシロウは確かに見た。照れながらも嬉しそうにはにかむ刹那の顔を。

 

「えへへ~」

 

このかは刹那と手を繋ぎながら歩いていく。

ちなみに刹那は事かの方を向いている時は笑顔だが、振り向きシロウを見る時は何か言いたそうな視線を向けている。

 

「ふむ、仲良き事は美しきかな」

 

と、刹那の視線に対し、シロウは拝みながら旧友のような台詞を呟いて、視線を受け流した。

 

 

 

 

 

 

「ふむ、ここか」

 

「はい、ここがお嬢様の御実家です」

 

ちびせつなの案内の下、このかの実家へと辿り着いた。

 

「それにしても……でかいな」

 

「まあ、ここはこのかお嬢様の御実家であると同時に、関西呪術協会の総本山ですから」

 

まるで平安時代にタイムスリップしてしまったのではないか? と、勘違いしそうな大きな門をくぐり中へと入る。

だが、敷地内へ入ると、違和感を感じた。

 

「……人の気配がしないな」

 

「おかしいですね? 本体が長には連絡を入れたはずなんですが……」

 

不審に思いながらも、警戒しながら奥へ進んでいくと……

 

「グァァアアア!!」

 

「何!?」

 

雄叫びを上げて、人外の者が降ってきた。

黒ずんだ赤色の肌をした者や、暗い緑色の肌をした者。

そして、額にある角。実際に見た事はないが、おそらくは古来より鬼と呼ばれる者だろう。

シロウは咄嗟に干将・莫耶を投影し鬼を切り裂く。

 

「ちびせつな、これはもしや」

 

「はい、本山が襲われたのかもしれません」

 

鬼達は10、20とぞろぞろと出てくる。

よく見れば、中には鬼だけでなくカラス天狗の様な者もいる。

 

「あれは、烏族と呼ばれる種族です。鬼よりも頭が切れるので気をつけてください」

 

シロウの疑問に答えるように、ちびせつなが話す。

 

「ですが、本山がそう簡単に落ちるとは思えないのですが」

 

「考えるのは後だ。今はこの状況をなんとかするぞ」

 

シロウもその事には多少疑問を感じたものの、この数相手に考え事をしながら戦えるほど余裕があるわけではない。

じりじりと、距離を詰める鬼達に干将・莫耶を投げつける。

 

壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)

 

「ガァァァア!?」

 

シロウが呟くと同時に剣に内包された魔力が膨れ上がり爆発した。

それを合図に、鬼達が一斉に飛び掛ってくる。

 

「なるほど固いな。干将・莫耶の魔力では倒しきる事はできんか」

 

干将・莫耶の壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)で倒せた鬼は10体程度。

その他は傷つきながらもこちらに向かって突っ込んでくる。

 

「なら弱点を突かせてもらおう───投影(トレース)開始(オン)

 

シロウの手には一振りの太刀が現れ、鬼達に向かって振り下ろす。

 

鬼首落とす天下の剣(童子切安綱)!!!」

 

シロウが刀を振った瞬間、飛び込んできた鬼達の首は斬り落とされた。

童子切安綱(ドウジキリヤスツナ)は天下五剣の一つで、京都を脅かした鬼、酒呑童子の首を切り落としたといわれる最強の「鬼殺し」の「概念」を持つ刀である。

 

「あの兄ちゃん何したんや? 一振りで何体か消されたで!?」

 

鬼達に驚きの声が上がる。

 

(……鬼って人語を話せたのか。しかも関西弁とは)

 

そんな事を考えながらも、次々と鬼を斬っていく。

童子切安綱があれば、鬼の相手はそう難しくはない。

 

「我らがいるこ事を忘れてもらっては困る!」

 

そう言って烏族達も攻撃を始める。

空からの攻撃というのは厄介だ。本来ならば、弓で射ればすむのだが……

 

「ウォォオオオ!!」

 

「邪魔だ!」

 

地上の鬼達が、そんな暇を与えてくれない。

鬼も烏族も戦闘力はたいした事はないが、いかんせん数が多すぎる。

本山の正確な状況がわからない今、戦いを長引かせるわけにはいかなかった。

 

「ふっ!」

 

童子切安綱のおかげで鬼の数は減ってきたが、烏族に対しては切れ味のいい刀に過ぎない。

シロウは複数干将・莫耶を投影し、左右へと投げる。

引き寄せあい弧を描いて飛翔する6対の鶴翼は、烏族を斬り裂いていった。

残る鬼と鳥族は合計5体。地上の鬼を即座に童子切安綱で即座に切り捨て、残る鳥属は弓を投影し射抜いた。

 

「ふう、やっと終わったか」

 

「お見事」

 

シロウが全ての鬼と鳥族を倒した時、1人の男が現れた。

 

「貴様、何者だ」

 

現れた男に、問いかける。

男から敵意は感じられないが、鬼や烏族を召喚した(呼んだ)のは、この男だろう。

 

「長! 無事だったのですか!?」

 

「長だと?」

 

ちびせつなが声を上げる。

どうやらこの男が関西呪術協会の長。このかの父親だったようだ。

 

「どういう事か、説明してもらえるか?」

 

「はは、すいませんね。刹那君から話は聞いていたんですが、今の(・・)貴方の実力を知りたかったので」

 

「今の、だと?」

 

彼の話に違和感を覚える。

まるで、昔の私の実力を知っているかのような口ぶりだ。

 

「色々聞きたいことはあるが、まずはこのかの事で話がある」

 

「わかりました。では、着いてきてください。お詫びも兼ねて料理を用意させましょう」

 

「……わかった」

 

本当になんなのだろうか、この男の旧友を迎えるかのような態度。

疑問を抱えつつも、食事を終え現状を説明する。

 

「そうですか、そんな事が」

 

「ああ、明日はまた京都に来る事になるだろうから、何か対策を立ててくれるとこちらとしてもありがたいのだが」

 

「わかりました。一応京都内の警戒を強めておきますが、もし明日何かあればここへ来てください。ここなら結界が張ってあるので敵も手を出せないでしょう」

 

……結界か。

確かに、ここに入った時に感じた結界は、術式がシロウの世界とは異なるとはいえ、かなり強力なものだということがわかった。並みの術師ならば破る事はできないだろう。

しかし、気になるのは敵の中にいた白髪の少年。彼からは、何か異様な感じがした。

もし本山に逃げ込むような状況になったとしても、油断はしない方がいい。

 

「……了解した。では、私はそろそろ戻る」

 

「おや? 何か聞きたいことがあったのでは?」

 

「ああ。しかし、随分と時間が経ってしまったのでね。それに、聞いても答える気はないのだろう?」

 

食事をしていてわかったが、この男、近衛詠春は明らかに私の聞きたい事から話をそらそうとしていた。

 

「わかりました。では、時が来れば全てを話すという事で」

 

「いいだろう。では失礼する」

 

気になる事は多少あったものの、シロウが帰ろうとした時、詠春は頭を下げた。

 

「このかと刹那君をお願いします」

 

「長たる者が、易々と頭を下げるものではない。……が、このかの父親としての頼みならば喜んで聞こう」

 

そう言って歩き出すシロウの背中に、詠春は小さく「ありがとうございます」と言った。

 

 

 

 

 

本山からホテルへ帰ると、ロビーでネギが呆けていた。

あれは……声をかけたほうがいいのだろうな。

 

「どうしたネギ君」

 

「あ、シロウさん。……はぁ」

 

シロウが声をかけても、どこか ぼーっ とした様子で溜息を吐くネギ。

 

「悩み事か? 力になれるかはわからないが、私でよければ話を聞くが」

 

やはり10歳で先生をするというのは色々と大変なのだろうと思い、何か力になれればと声をかけたのだが.。

 

「僕、宮崎さんに告白されてしまったんです。それでどうしたら良いかわからなくて」

 

などと、斜め上の答えが返ってきた。

まさか、そんな色恋の悩みを相談されると思っていなかった為、数秒の間をおいてからシロウは口を開く。

 

「そ、そうか」

 

「シロウさん、僕どうしたら良いんでしょう?」

 

「どうしたら、と言われてもな」

 

シロウ自身、それほど恋愛をしたことはないし、記憶も殆ど磨耗してしまっている…? いや、僅かに浮かぶ記憶。

シロウは微かに残る記憶を手繰り寄せ、思い返す……思い出すのは、あかいあくま、腹ペコ騎士王、黒い後輩、白いこあくま、トラ。

 

「……すまない。私では力になれない」

 

「そうですか」

 

落ち込むネギ。

だが、そんなネギをよそに、シロウは考え込む。

 

おかしい。摩耗している記憶を手繰り寄せたとはいえ、思いのほか鮮明に思い出す事が出来た。

私は座にいる本体からの複製(コピー)であるにも拘らず、まるで自分の事のように。

 

そもそも座にいる英霊エミヤとは、世界と契約したエミヤシロウの集合体だ。その記録は一つではない。エミヤとなったエミヤシロウの数だけその記録はある。

それなのに、シロウは自分の記憶として思い出すことができた。

 

「何故……」

 

「はぁ……」

 

と、そこでネギの事を思い出す。

理由は分からないが、衛宮士郎(あの頃)の記憶が多少思い出せている。

なら、多少はアドバイスができるか。

 

「ネギ君。私も上手くは言えないが、素直な気持ちを伝えなければいけないと思う」

 

「素直な気持ち、ですか?」

 

顔を俯かせたネギだが、シロウの言葉に顔を上げる。

 

「そうだ、一番大事なのはネギ君がのどかをどう思っているかだろう。告白を受けるにしろ受けないにしろ、嘘をつけば相手を傷つけることになる。だから、ネギ君の素直な気持ちを伝えれば良いと思う」

 

 

「僕の気持ち……ありがとうございますシロウさん。なんかすっきりしました」

 

そう言ってネギは去っていく。

その足取りはしっかりしていて、先ほどまで呆けていたのが嘘のようだ。

 

ネギが元気になってよかったと思っていたら、その後のアスナと刹那を交えた作戦会議の時、

 

「魔法がばれちゃいました~」

 

と、新たな悩みを抱え、ネギが泣きついてきた。

色々と迂闊過ぎるぞ。

 

「なんでよりにもよって朝倉にばれんのよー!」

 

「仕方なかったんですよ~。人助けとか、ネコ助けとか……」

 

「朝倉和美、か……ん?」

 

ネギとアスナがわいわいと暴れているところに、朝倉和美がやってくる。

何故か、カモを肩に乗せて。

 

「おーいネギ先生ー」

 

「あ、朝倉あんたあんまり子供イジメんじゃないわよ」

 

「大丈夫大丈夫。あたし報道部突撃班 朝倉和美はカモっちの熱意にほだされて、ネギ先生の秘密を守るエージェントとして協力していく事にしたよ。よろしくね」

 

「え? え~! 本当ですか?朝倉さん! よかった~」

 

ネギは純粋に喜んでいるが、和美の性格からしてこのまま大人しくしているとは考えにくい。

そんな事を考えていると、喜ぶネギをよそに和美はシロウに近づいてきた。

 

「そういえば、ここにいるってことは士郎先生も魔法使いなの?」

 

「正確には違うが関係者だ」

 

「へ~」

 

和美は値踏みするかの様に、シロウの体をじろじろと見る。

しばらく見ると満足したのか、頷いてネギとアスナの方へ向かった。

 

「さて、私はそろそろ見張りに行く。後は頼むぞ」

 

「わかりました」

 

ネギとアスナは、今だ和美に絡まれているので刹那が頷く。

 

「それと、和美、カモ」

 

「何、士郎先生?」

 

「なんすか、旦那?」

 

「何をたくらんでるか知らないが、やりすぎる様なら覚悟しておくといい」

 

そう言って「ははは~」と笑う和美達を後にして屋根へと向かう。

山が近いだけあって、屋根からの景色はとても綺麗だった。

しばらくは静かな屋根の上で外を警戒していたのだが、ホテルの中からの異様な気配に意識をそちらに向ける。

 

「何だ? ホテル内から妙な感じが……何だあれは」

 

シロウがいる側とは反対側の別館。屋根の上を通って非常階段へと向かう、綾瀬夕映と宮崎のどかがいた。

 

「ちびせつなよ、彼女らは何をしているのだろうか?」

 

「さあ、なんでしょう?」

 

2人で首をかしげていると、ネギの部屋の窓から5人のネギが出てくる。

 

「「は?」」

 

シロウとちびせつなは、2人してアホな声を上げた。

 

「ちびせつな今のは?」

 

「たぶん本体がネギ先生に渡した、身代わりの紙型だと思うんですが……」

 

嫌な予感がしてネギの部屋へ向かうと、そこにはネギにキスを迫られている夕映がいた。

 

「何をしている」

 

シロウ投影した虎竹刀で偽ネギを叩く。

すると偽ネギは ポンッ と音を立てて爆発して、紙型へと戻った。

 

「大丈夫か? 夕映」

 

「え、衛宮先生!?」

 

その後、寝ていたのどかを起こし、2人に話を聞く。

どうやら、和美がネギにキスしたら豪華商品がもらえるとイベントを始めたらしい。

キス……なるほど、目的はネギとの仮契約(パクティオー)か。

カモも和美も一般人を巻き込むような事をして。これは、お仕置きが必要だな。

 

「そんな事になってたのか。修学旅行で興奮しているのはわかるが、こんな事をするのは感心せんな」

 

明らかに怒っているシロウに、2人はすぐに頭を下げる。

 

「ごめんなさいです」

 

「ごめんなさい」

 

シロウに怒られしゅんとする2人。

その姿を見て、先ほどのネギとの会話を思い出す。

 

そういえば、のどかはネギ君に告白をしたんだったな。

それを考えると、騒ぎを起こした行為は許されないが、彼女の気持ちを無碍にするのも悪い気がする。

何せ告白だ。普段引っ込み思案なのどかの事を考えれば、どれほどの勇気が必要だったのか。

 

「本来ならば、新田先生の言った通りロビーで正座だが……」

 

シロウは ポンッ と、のどかの頭に手を置く。

 

「のどかがせっかく勇気を出して頑張ったんだ、今回は見逃そう」

 

そう言うと、2人は花が咲いたように笑顔になった。

 

「「ありがとうございます!」」

 

「さ、じゃあ新田先生にバレないよう気をつけるんだぞ」

 

「「はい」」

 

自分も甘くなったと思いながら、2人を見送る。

ふむ。甘くなったついでだ、チャンスぐらいはあげてもいいか。

 

「それとな、本物のネギ君は今外に行ってるんだが、そろそろ帰ってくると思う。玄関を張っていれば確実に会えるだろう」

 

それを聞いた夕映とのどかは、再度頭を下げて部屋を出て行った。

 

「頑張れよ、のどか」

 

閉められたドアに向かって、1人呟く。

 

「さて、私は悪を成敗しに行くか」

 

 

 

 

 

ホテルのとある一室。1人の女性徒と、1匹のオコジョが身支度を整えていた。

まるで、夜逃げでもするかのように。

 

「よっしゃ! ずらがるよカモっち!」

 

そう言って、部屋を出ようとした瞬間、何か(・・)にぶつかった。

 

「いった~、いったいなん……」

 

女生徒が鼻を押さえながら自分のぶつかった何かを見上げると、そこには……静かに怒りを込める、エミヤシロウが立っていた。

 

「和美よ私は言ったよな?「やりすぎるようなら覚悟しておくといい」と」

 

「はい、おっしゃいました」

 

「カモ、君も聞いてたよな」

 

「はい、聞いてたっす」

 

現在、和美とカモはシロウに縛られながら説教されている。

ちなみに朝倉を縛っているのはマグダラの聖骸布で、カモを縛っているのは縄である。

 

「では、君達はロビーに行くべきだな?」

 

「「はい」」

 

「よろしい。では行こうか」

 

そうして、シロウは朝倉とカモを担いでロビーへと向かう。

 

「あの~士郎先生。聖骸布(コレ)、ほどいてくんない?」

 

和美はおそるおそるシロウに言う。

しかし、シロウから返ってきたのは……

 

「何を言っているんだ和美? 君は簀巻きの(この)ままロビーに行くのだよ」

 

そんな、残酷な事実だった。

 

「なっ!? い、い~や~ぁぁぁあああぁぁぁぁ・・・」

 

こうして、ホテル嵐山のロビーには、正座をした生徒数名と簀巻き一つが置かれた。

 

 

 

 

「まったく、ウチのクラスは元気すぎるな」

 

再び屋根の上に上がり一息ついていると、屋根の下から手がのびてきた。

 

「?」

 

「しろう~」

 

手の主は、このかだった。

 

「このかか? 危ないぞこんなとこに来た……」

 

そう言った瞬間、このかがバランスを崩し落ちそうになる。

 

「このかっ!」

 

シロウはこのかを自分の方へとと引き寄せる。

しかし、思いの外このかは軽く、勢いよく引っ張った為、そのままシロウは後ろに倒れこみ……シロウとこのかの唇が合わさってしまった。

 

「ほ、ほわわわわわ!!」

 

「む、大丈夫か?」

 

このかは大慌てだが、対するシロウはこのかの無事を案じているだけで大して気にしていないようだ。

 

「あぅあぅあぅ……」

 

「顔が赤いが、本当に大丈夫か?」

 

「う、うん。だいじょうぶや」

 

そんな風に言って笑うこのか。

見た所外傷もないようだし、本人が大丈夫だと言うならいいか。

 

「そういえば、このかはどうしてここに?」

 

「ネギ君にしろうがここにいること聞いて、飲み物もってきたんよ」

 

このかはホットのミルクティーを1つこちらに差し出した。

コーヒーではなく、ミルクティーという辺りがなんともこのからしい。

 

「そうか、ありがとうこのか」

 

「ええんよ、今日はしろうとあんま話せんかったから、ちょっと話したかったし」

 

寂しそうに言うこのかに、少し罪悪感を感じてしまう。

仕方ないとはいえ、悪い事をしたな。お詫びもかねて、少し話すくらいならいいか。

 

「わかった。でも、しばらくしたら部屋に戻るんだぞ、睡眠不足は体に悪いからな」

 

「うんっ」

 

一日の疲れが吹き飛ぶような笑顔のこのかと2人で話しながら、修学旅行二日目の夜は更けていく。

 

 

 

 

 

────カモの下に現れた、シロウのパクティオーカードの存在には気づかずに。

 

 

 




どうもアンリです。今回は修学旅行2日目です。断水に続き、童子切安綱が登場。今後も、ちらほら武器を出して行きたいと思います。
ついに登場、シロウの仮契約カード。まぁ、実際にアーティファクトが登場するのはまだ先ですがね。
ああ、それと皆様のおかげで最近ちょこちょこランキングのルーキー日間の方にこの作品が上がるようになりました。本当にありがとうございます!
では、続いて武器紹介。

童子切安綱(ドウジキリヤスツナ)
「童子切」の名は源頼光が大江山の酒呑童子(じゅてんどうじ)を斬ったということに由来する。日本の名刀。室町以来の天下五名刀、天下五剣のうちのひとつ。

それではまた次回!!

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