目が覚めると、最初に目に映ったのは見慣れない天井だった。
「……そうか、私は麻帆良に来たのだったな」
現状を思い出しとりあえず朝食を作ることにする。
「ふむ。この体になり心配だったが、料理の腕は落ちていないようだ」
自分の作った料理を食べながら、体に異常がないことを改めて確認する。
その後食事を終え、食器を片付けシロウは気づいた。
「やはりスーツの方がいいのだろうか?」
スーツを投影していこうかとも考えたが、万が一傷がついたりしてスーツが消えてしまったら目も当てられない。
仕方なく、そのままの黒いシャツとズボンで行くことににした。
「まぁ、派手な服装というわけでもないし大丈夫だろう」
さっさと身支度を整え、いまだ慣れない豪華な校舎内を学園町室へ向けて歩く。
勝手知ったるなんとやらとまではいかないが、昨日一度通った道だ。シロウは迷うことなく学園長室へ辿り着き、その扉をノックした。
「失礼する」
「おお、待っとったぞエミヤ君」
近衛老の隣には、眼鏡をかけた男性が立っていた。魔力を感じるところを見るに、彼は魔法先生なのだろう。
そして、この場に呼んだという事は、それなりに実力も信用もある人物。
「彼は高畑先生。ちなみに彼も魔法先生じゃ、エミヤ君のことも話してある」
「……」
シロウの顔を見た瞬間、高畑と呼ばれた男は僅かにだが目を見開き驚く。
だが、すぐに表情を戻し、手を差し出してきた。
「はじめまして、高畑・T・タカミチです。よろしくエミヤ先生」
「はじめまして、エミヤシロウという。よろしく頼むよ高畑教諭」
人のよさそうな笑顔で手を差し出しているタカミチの手を握り返す。
その瞬間にわかった。この男は強い、と。
「僕の事はタカミチで構わないよ。」
「了解したよタカミチ。私の事は好きに呼んでくれ。それと敬語は必要ない、私の方が年下のようだからな」
もちろん、今の肉体から見てである。
元の姿なら同じくらいだろうか?
「わかった、これからはエミヤと呼ぶことにするよ」
お互いに自己紹介をして握手を交わした後、近衛老へと向き直る。
「自己紹介も済んだところで、本題に入ってもいいかの?」
「ああ、頼む」
「うむ、昨日言った通りエミヤ君には副担任としてネギ君を補佐してもらう事になる。先生とはいえまだ10歳の子供じゃ、しっかりとサポートしてやってくれ」
「了解した」
その時、ノックの音とともに丁度ネギが学園長室へ入ってきた。
「失礼します。学園長、急な用とはなんでしょうか?」
「やあ、ネギ君」
「あっ、シロウさん!」
私の顔を見たネギ君は驚きの声を上げる。
「フォフォフォ、ネギ君彼は今日からネギ君のクラスの副担任をしてくれるエミヤシロウ先生じゃ、ちなみに彼も魔法使いじゃから困ったことがあれば相談するとよい」
近衛老がそう言うと、ネギはシロウと近衛老の顔を見比べあわてて頭を下げた。
「はっ、はい! よろしくお願いしますシロウさん!」
「ああ、よろしく頼む」
頭を下げるネギに笑顔で答える。
真面目そうではあるが、本当にこんな子供が教師などできるのだろうか?
「そろそろ授業が始まる時間じゃな、では頼んだぞ2人とも」
「はい!」「ああ」
「それからエミヤ君、ワシの事をこれからは学園長と呼ぶようにの」
なるほど。この学園の教員になるのに、いつまでも近衛老と呼ぶわけにはいかない。
「了解した」
そう言ってネギと共に学園長室を出て教室へと向かう。
「シロウさんは少しここで待っててください、しばらくしたら呼びますので」
とある教室の前に着くとネギはそう言ってきた。
3-A。どうやら、ここかシロウの受け持つクラスらしい。
「ああ、わかった」
「「3年A組!! ネギ先生ーっ!!」」
某教師のドラマよろしく、元気な声が教室に響く。
「えと……改めまして3年A組担任になりました、ネギ・スプリングフィールドです。これから来年の3月までの1年間よろしくお願いします」
「「はーい!」」
「「よろしくー!」」
ネギの挨拶に元気よく応える生徒達。
ちょっと中学生らしくもない気がするが……いや、元気があるのはいいことだ。
「えーと、まず皆さんに報告があります。今日から新しくこの3─Aに副担任の先生が来ることになりました」
「「おお~!!」」
新たな先生の出現に、驚きと期待に満ちた声が上がる。
中には「副担任って高畑先生じゃないの!?」と、あからさまに落胆する生徒もいたが……。
「それではシロウさん入ってきてください」
入り口の前で待っていると「「3年A組!!ネギ先生ーっ!!」」と元気な声が聞こえた。
「ふむ、元気のある楽しそうなクラスだな」
微かに覚えている生前の記憶の中から「こんなはじまり方のドラマもあったな」と、そんなことを考えていると、ネギから声がかかる。
「それではシロウさん入ってきてください」
(よし、では行くか)
扉に手をかけ中に入り、クラス全体を見渡す。外観が洋風だから教室内も洋風なのかと思ったが、四足の机と椅子。均等に並んだ席はシロウの知る日本の学校と変わらないものだった。
懐かしさを感じつつも、いつまでも扉のそばで立っているのはさすがに不審なので、教卓の前まで歩き黒板に名前を書く。
そして生徒達の方を向いた。
「今日より3年A組の副担任をすることになった
「……」
反応がないただの屍のようだ。……いや違うだろう。
「……」
「「……か」」
か?……か、か……
「「かっこいいーーーーー!!」」
「どこから来たんですかー?」「日本人なんですかー?」
「何歳ですかー?」「彼女はいますかー?」
怒涛の質問攻め。
思った以上にに元気だなーとか、自分が中学の頃はどうだっただろうか? 等と考えていたシロウだが、このままではまずいので止めることにした。
「静かに!」
少し強めに言うと、教室が静まり返る。
「自分達の知らない人が来て興味が沸くのはわかる。だが、今日の予定はこれから身体測定だと聞いている。君達も3年生なのだからけじめぐらいつけるように」
注意を促すと教室からどんよりとした空気が漂い始める。
出会って早々怒るのはまずかっただろうか?
確かに、中学生ということを考えれば少し強く言い過ぎたと思わなくもないが……
「……だが、休み時間ならいくら話しかけてくれても構わない。私としても皆とは仲良くしたいからな」
流石にこのままでは可哀想なので、今までの厳しい口調ではなく少し柔らかな口調で言う。
シロウが笑顔で言うと、皆ホッとした顔になった。中には何故か顔を赤らめる生徒もいたのだが、当の本人は……
(やはり、新任の先生に怒られて恥ずかしかったのだろうか?)
などと、お門違いな事を考えている。
やはり英霊になっても、エミヤシロウは衛宮士郎なのである。
自己紹介を終えた後、シロウとネギは2人で廊下に立っていた。別に悪い事をして反省させられているわけではない。
隣のクラス担任であるしずな教諭から3-Aの生徒から身体測定をはじめると連絡を受けたからだ。
特にすることもなし、今のうちに名簿で顔と名前の確認をしておくのが得策といえよう。何人か気になる生徒もいたからな。
「ネギ君。生徒の名簿を見せてもらえるか? 早く生徒の顔と名前を憶えたいのでね」
「あ、はい。どうぞ」
ネギから名簿を受け取り目を通す。
(出席番号1番 相坂さよ、か・・・)
自己紹介をした時、クラスにいた少女の霊を思い出す。
彼女はどうやら自縛霊のようだが、周りの子達も気づいてないし害も無い様だ。
学園長も何も言ってなかったし、放っておいても構わないのだろう。
(ただ、私と目が合った途端、物凄くあわてていたのが気になったが……)
その他にも、気になった生徒を確認していく。
(10番 絡繰茶々丸、12番 古菲、15番 桜咲刹那、18番 龍宮真名、20番 長瀬楓、26番 エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル、31番 ザジ・レイニーデイ)
彼女らは只者ではないとシロウは感じた。
特に刹那、真名、茶々丸、エヴァンジェリン、ザジに関しては人間ではないだろうと。
刹那はそういう感じがするというだけで何かはわからない。真名とザジも正体はわからないが、似た気配を感じるので同種の可能性が高い。
茶々丸は機械の駆動音の様なものも聞こえたし、見た目からしてロボットだろう。
そして、エヴァンジェリン。多少の違いはあれど、彼女の気配は……
「……考えすぎか? いや、しかし……」
「何か言いましたか、シロウさん?」
「いや。独り言だ」
「そうですか」
シロウはエヴァンジェリンから身に覚えのある気配がすることに気づいていた。それは、シロウの世界にもいたとても厄介な存在。
だが、それほど魔力を感じない為困惑している。
(なぜ彼女から■■■の気配が?)
「先生ーっ、大変やーっ! まき絵が・・・まき絵がーっ!!」
そんなことを考えていると、出席番号5番 和泉亜子が慌てた様子でやってきた。
「どうした、和泉?」
「どうしたんですか、亜子さん?」
「あのっ、えと、まき絵が桜通りで倒れてるのが見つかって今保健室に……」
そこまで聞いて、私は保健室へと走り出していた。
(何か嫌な予感がするな)
この感が外れてくれと願いながら保健室に着き、直ぐに佐々木まき絵の体に異常が無いか確認する。
(特に外傷は……ん?)
首筋に小さな2つの傷を見つける。
まるで、何かに咬まれたような様な……
「これは、咬まれた跡……わずかだが魔力も感じる」
最悪の想像が思考を埋め尽くす。
思い出すのは、一つの町を滅ぼす原因となった吸血鬼の死徒。あの町の
「いや、まだ諦めるのは早い」
魔術の形態が全然違うのだから吸血鬼の特性も違うかもしれない。そう思いシロウは解析の魔術を使う。
シロウの属性は“剣”なので剣以外のモノの解析は精度が落ちる。
だが、自身の肉体を強化できるのだ。肉体の単純な解析ぐらいならば問題は無い。
「
表面組織 首筋に軽い裂傷
脳、異常無し
筋肉、異常無し
内臓、異常無し
解析完了、多少魔力が残留しているが問題は無し
「ふう」
「シロウさん!」 「「衛宮先生!」」
安心していると、ネギと3-Aの数名が保健室に入ってくる。
「まき絵さんは大丈夫ですか?」
「ああ、問題ない。多分軽い貧血だろう」
まさか吸血鬼に襲われたというわけにもいかず、その場は誤魔化す。
「「よかった~」」
(ネギ君)
シロウ周囲を伺いながら、生徒達に聞こえない様に小声でネギに話しかける。
(どうしたんですか?)
(佐々木の体をよく見てみろ)
(? ……こっ、これは魔力!)
(それに、首筋にある咬まれた跡はたぶん吸血鬼のものだろう。ネギ君何か知らないか)
(きゅ、吸血鬼ですか!? いえ僕は何も……)
(そうか……では、私は学園長に話を聞いてみる)
(わかりました。生徒達のことは僕に任せてください)
「しろう、どうかしたん?」
ネギと小声で話しているのを疑問に思ったのか、このかが心配そうな顔で声をかけてきた。
「ああ、このかか。なんでもないさ。それより私は学園長に用があるので失礼するよ」
「そうなん? ほな、また後でな」
「ああ……(後で?)」
このかの言葉は気になったが、まき絵の件があるので学園町室へと向かう。
「学園長」
「なんじゃエミヤ君。そんなに慌てて?」
部屋に入ると仕事中だったのか、判子を片手に驚く学園長がいた。
「佐々木まき絵が吸血鬼と思われる者に襲われた」
「何? まき絵君が?……困ったのう」
学園長は吸血鬼の存在に驚くでもなく、困ったと言った。
という事は、吸血鬼に心当たりがあるということだろう。
「学園長、貴方はその吸血鬼に心当たりがあるな」
「……」
学園長は何も答えない。
ふむ。それならば、カマをかけてみるか。
「……エヴァンジェリンか」
「知っておったのか!?」
やはり、彼女が吸血鬼だったのか。
シロウはエヴァンジェリンからシロウの世界の吸血鬼とよく似た気配がしていたので、そうではないかと思っていたのだ。
「ああ。確証は無かったが、私の世界にも吸血鬼という存在はいたのでね。彼女からはそれによく似た気配がしたよ」
「なんと、気配で吸血鬼に感づくとは……流石じゃのう、エミヤ君」
学園長は何故か吸血鬼について……いや、吸血鬼というより、エヴァンジェリンについてはぐらかそうとしている気がする。
「……」
シロウと学園長が無言で睨み合い場の空気は停止していたが、
「学園長」
学園長室にきてから、一度も言葉を発していなかった男が口を開いたことにより空気は動き出す。
「なんじゃタカミチ君」
「エミヤに全て話しましょう。その方が都合がいいと思います」
「うーむ、そうじゃのう。まあ、その方がいいかの」
タカミチに促され、しぶしぶながら学園長は説明を始めた。
どうやらエヴァンジェリンとネギの父であるナギ・スプリングフィールドは色々因縁があるらしく、魔力を封じられたエヴァンジェリンはその呪いを解く為に魔力を集め、ネギの血を狙っているとのこと。
エヴァンジェリンは、女、子供は殺さないのを信条としているので、ネギにはいい経験になるからできれば手を出さないでほしいらしい。
「話はわかったが、一ついいか?」
「なんじゃ?」
「こちらの吸血鬼に血を吸われた者はどうなる? 吸血鬼になったりしないのか?」
先ほどのまき絵の件からいって、おそらく吸血鬼化の心配は無いだろう。だが、万が一ということもある。
できるだけ、この世界の吸血鬼がどういった存在なのか知っておきたい。
「その心配は無いぞい。たとえ吸血鬼にされても解呪する事は可能じゃ。まあ、真祖の吸血鬼は別じゃがの」
なるほど。魔法で解呪が可能ならば、
だが真祖だと? 星の触覚である真祖がこの世界にも存在するのか?
思い出すのは自分とは相容れない存在である“殺人貴”が護りし“真祖の姫君”。
もし彼女同様、真祖の吸血鬼が星の抑止力なのだとしたら……星はエミヤシロウという異物をどう考えるのだろう。
「エヴァンジェリンの件は了解した。ところで真祖とはどのような存在だ?」
「今は失われし禁呪での、人を吸血鬼に変える儀式魔法じゃ。エヴァ君はその真祖ということになるかの」
人を吸血鬼に変える魔法か……私の世界の理論で言えば、それは死徒に分類されるだろう。
やはり、私の世界の吸血鬼とは根本から違うらしい。
「そうか。ではこれで失礼するが、ネギ君の命が危険と判断した場合私は介入するが構わないな?」
「うむ、その時は仕方あるまい」
そう言って、学園長室を出ようとしたところで、
「しろうおる~?」
ノックと共にこのかが入ってきた。
「どうしたこのか?」
「あ、しろう。今からちょっとええ?」
「ああ、構わないが」
特に用事も無かったので了承する。
「ほな、ついてきてな~」
このかの後に続き部屋を出た。
「あ、エミヤ君。君の部屋このかの部屋の隣になったからよろしくの」
扉が閉まる瞬間、学園長がそんなふざけた事を言った。
色々言いたいことはあるが、このかを待たせるわけにもいかず、その場を後にする。
「……ところでこのか、どこに行くんだ?」
手を引きながら歩くこのかに尋ねる。
昇降口とは逆方向へ向かっているので、帰るわけではないというのはわかるのだが……
「ひみつや。でもびっくりしたわ、まさかしろうがウチのクラスの副担任になるなんて」
「まあ、副担任といっても私はネギ君のサポートくらいしかしないがな。それと、このかの住んでいる寮の寮長もすることになった」
「え、そうなん? じゃあ寮に住むんや?」
「ああ、しかもどこかの狸爺のせいでこのかの部屋の隣だ」
「あ~おじいちゃんか。まぁええやん。じゃあ今度遊びに行くえ」
このかは嬉しそうに言う。
ふむ。このかの笑顔が見れた事は、学園長に感謝しておこう。
「そうだな、その時は歓迎しよう。学園長を紹介してくれたお礼に、料理をご馳走するよ」
「そんなんええのに……てゆーかしろう料理できるん?」
今まで会った人は皆そう言うが、そんなに料理ができなさそうな人間に見えるのだろうか?
「む、料理は趣味でもあるからな。それなりにはできるつもりだ」
「ほんま~?」
このかは、凛が見せるような意地の悪い笑みを浮かべる。
「そこまで言うならいいだろう。あっと驚くものを食べさせて後悔させてやるから、覚悟しておくといい」
「あ~ん、怒らんといて。堪忍や~」
「怒ってなどいないさ。だが、後でさっきの言葉を撤回しても遅いからな」
などと話してるうちに、3-A前まで来た。
「このかが用があるのは教室なのか?」
「そやえ~」
そう言ってこのかがドアを開け中へと押される。
すると、
「「ようこそ、衛宮先生ーっ!」」
3-Aの生徒達に歓迎された。
「これは……」
「しろうの歓迎パ-ティ-やよ」
急だというのに、教室には手の込んだ様々な飾り。机に並べられる見事な料理の数々。
そして、髪や服、手などが多少の汚れている生徒達。
「そうか……ありがとうみんな」
みんなの気持ちが嬉しくて自然と頬が緩む。
シロウがこんな気持ちになったのはどれくらいぶりだろう。もしかすると、生前までさかのぼるかもしれない。
そんなシロウの表情を見て、生徒達も笑顔になる。
「っと、衛宮先生。呆けてないで色々取材させてもらうよー!」
満足顔の生徒達を押しのけて、カメラを持った1人の少女がでてきた。
「む、君は確か朝倉和美だったか? お手柔らかに頼むよ」
こうしてエミヤシロウの歓迎会は始まった。
誰かと食事をするのはとても久しぶりで、質問攻めなどで疲れはしたがとても楽しい時間だった。
ただ、一つ気になったのは、シロウを常に見ていた少女の存在……
「やれやれ、本当に退屈しない世界だな」
どうもアンリです。はい4話です。いつまでこのペースでの更新が続けられるやら……「まだだ、まだ終わらんよ!!」
ここまでは、ほのぼのな感じが続いていますが、次回は多少シリアスな場面が出てくると思います。まぁ、私の文章力のせいでシリアスに感じられない方もいるかもしれませんが、そこは頑張りたいと思います。
まだ始まったばかりであれですが、感想はもうジャンジャン書いちゃってください。
気になるところがあれば修正しますし、応援などは私のやる気がupしますので。
それではまた次回で会いましょう!