正義の味方にやさしい世界   作:アンリマユ

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最近いい感じで更新できていますので、この調子を続けられるといいなーと考えています。
そして、読んで下さっている皆さん。たくさんの感想ありがとうございます。
一人一人へのお返事が中々できず、こういった場で感謝をお伝えすることになってはしまいましたが、ちゃんと読ませていただいています。
皆さんのご意見を参考により良い文章を書けるよう頑張るので、これからもよろしくお願いします!


追記:矢除けの加護の効力に対する指摘をいただいたので、修正しました。


因果の槍VS逆転の剣

超が姿を消した後、ネギ達は疲れを癒す為エヴァの別荘に向かった。

シロウも誘われたのだが、超がいつ動き出してもいいように外で待機するため断り、異変が起きた時は別荘にいるこのかに念話で伝える事にした。

 

現在シロウは世界樹の枝の上から学園全てを見渡している。

ネギ達が別荘に入ってから数時間、もう昼過ぎだ。超が動き始めるとすれば、そろそろだろう。

 

「……動き出したか」

 

聞こえてきたのはアトラクションでの絶叫などとは違う、恐怖を帯びた悲鳴。

声の聞こえた海の方に目を凝らすと、海中から現れたのは田中さんと地下で見た6足歩行のロボ。

ロボ達は一斉にビームを出し一般人・生徒を襲う。しかし、地下の時同様ビームに当たった人に怪我は無く、服だけが脱ぎ飛ばされていた。

 

「一般人に危害を加える気はない様だが」

 

いきなりロボ軍団が現れたら、パニックに陥った人達が逃げる最中に怪我をする可能性は大いにあるし、あのビームは建造物にはしっかりとダメージを与えるものだ。二次災害は免れない。

シロウは仮契約カードでこのかに念話を送る。

 

「このか、超が動き出した」

 

《ほんま!わかったわ。すぐネギ君に知……ら……せ》

 

このかの声が遠くなり、ノイズが混じり始める。

 

「どうした、このか?」

 

《な……これ? ……し……!!》

 

どんどんこのかの声は遠くなり、最後には念話が途絶える。

携帯の画面を確認すれば、こちらも圏外の文字。

 

「科学と魔法、どちらの連絡手段も絶たれたか」

 

これではネギ達にはおろか、タカミチと連絡する事もできない。

しかしこれだけ騒ぎになれば魔法先生たちはすぐに気づくだろうし、ネギ達もさっきの念話で別荘から出てくるだろう。

シロウはネギ達と連絡を取ることより、一般人の被害を抑える方を優先する。

弓を投影してロボを射ち、一般人が逃げるための時間稼ぎしながら魔法先生、生徒を探す。

すると、逃げる人たちの中、足を止めている2人の生徒を見つける。

 

「高音、愛衣」

 

「ひゃい! え、衛宮先生!」

 

「衛宮先生!! これは一体何が!?」

 

現在の状況がわからず、2人はおろおろとしている。

この狼狽えよう。おそらく昨日の超の件はまだ魔法生徒にまでは連絡がいっていないのだろう。

 

「超鈴音が動き出した。君達は来場者と一般生徒の避難誘導と学園長に連絡を頼む。最悪の場合は魔法を使え」

 

「で、ですが! 一般人の前で魔法は……」

 

「たわけ! 魔法の隠匿より人命が優先だ、行け!」

 

「「は、はい!」」

 

怒鳴った事により、2人はすぐに動き出す。少しかわいそうな気もするが、彼女達は混乱していたから丁度いいだろう。シロウは、再びロボを破壊しながら一般人を避難誘導を行う。

そこへようやくタカミチがやってきた。

横目でタカミチを確認しつつ、逃げ遅れた母娘を庇いながら干将でロボを切り裂く。

母娘はタカミチの指示に従い、学園の方へ避難していった。

 

「遅いぞタカミチ」

 

「そう言わないでくれ、念話が妨害されてて上手く指揮が取れてないんだ。とりあえず、今は一般人の避難を優先で動いている」

 

「それが賢明だろうな」

 

にしても、超の目的が魔法を公にするということならこの程度で終わるはずが無い。

そんな事を考えていた時、海の中から、京都の修学旅行の時に見たスクナに似た巨大なロボが3体現れる。

 

「スクナだと!?」

 

「なるほど。美空君たちが地下で見つけた巨大ロボっていうのはスクナだったのか」

 

武道会の最中、地下へタカミチを助けに行った時、美空が逃げた先で見つけた巨大ロボ。

タカミチが確認しに行った時には無くなっていたが、美空が目撃したものはアレで間違いないだろう。

 

「エミヤ、アレが上陸したらまずい! まず先に、アレから処理しよう」

 

「了解した」

 

殆ど避難は終了しているとはいえ、アレが上陸すれば被害は相当なものになる。

シロウとタカミチが偽スクナの方へ向かおうとした時、この事件の首謀者は現れた。青い槍兵を連れて。

 

「スクナを破壊させるわけにはいかないヨ」

 

「よぉ、昨日の続きをしに来たぜ。アーチャー」

 

ランサーが着ているのは、昨日のアロハシャツではなく青い鎧だ。

戦闘服を着てきたということは、この場こそ彼の戦場。ここで決着をつけるという事だろう。

 

「タカミチ、私は彼と戦わねばならん。……超の方は頼む」

 

昨日超の見せた瞬間移動の謎は解けていない。タカミチでも負ける可能性が僅かだがある。

だが、ランサーの相手はシロウがしなければならない。否、シロウでなければランサーの相手たりえない。

 

「……わかった。その代わり、この事件が片付いたら全て説明してくれよ」

 

「わかった、この件が片付いたらちゃんと話そう」

 

横目で偽スクナを見ると、3体それぞれ別方向へ向かっている。

何か目的を持って動いている偽スクナの行き先が気にはなる。それともう一つ。

念話をしてからだいぶ時間が立っているというのに、ネギ達が一向に現れない。

何か嫌な予感がする。これは早々に決着をつけたほうがいい。

 

「と、いうわけだランサー。悪いがすぐに終わらせてもらう」

 

「らしくねぇな、アーチャー。そんなに焦ると命取りだ、ぜっ!!」

 

言葉とともに、ランサーから放たれる槍を莫耶で逸らす。

しかし、すぐさまランサーは二撃目の槍を放つため反撃ができず防戦一方となった。

 

「そらそらそらそらぁっ!!」

 

「くっ!」

 

段々と速度を上げるランサーの槍は頬・肩・脇腹・腿と削っていき、シロウの服は血が滲み、もともと黒い服が更に赤黒く染まっていく。

シロウは渾身の力でランサーの槍を大きく弾き、距離をとり弓を投影する。

 

I am the boneof my sword(体は剣で出来ている)

 

弓に番えるのは、標的を地の果てまでも追い続ける緋の猟犬。

 

赤原猟犬(フルンディング)!!!』

 

駆ける緋の猟犬は、青き槍兵を襲う。込められた魔力は十全とは言えずとも、確実に敵を捉えるであろう一撃。狙うのはランサーの眉間。

そんな高速の一撃をランサーは防ごうともせず、軽く首を傾けるだけで避けた。

 

「はっ、きかねぇよ!」

 

「なるほど、それが彼の有名な矢除けの加護か。だが甘いぞランサー」

 

避けたはずのフルンディングがありえない軌道を描き、再びランサーを襲う。

それこそが赤原猟犬(フルンディング)の特性。

一度放たれれば例え弾かれようと射手が健在かつ狙い続ける限り標的を襲い続ける。矢除けの加護があるとはいえ、自身の周りを飛来し続ける矢に、ランサーはその足を止める。

その間に、シロウは大幅に距離をとり、次の矢を番えた。今度は先程より更に魔力を込めて。

 

(……20秒……25秒……30秒)

 

「撃たせねぇ!」

 

フルンディングを破壊したランサーがこちらに向かってくる……が、遅い!

 

「……40秒! 駆けろ! 緋の猟犬『赤原猟犬(フルンディング)』!!!!」

 

放たれた矢は先ほどの比ではない。高速を超え、音速の速さとなってランサーを襲う。

矢除けの加護などもはや関係ない。確実にランサーを射抜くはずだった矢は、人間離れした動体視力と反応速度で放たれた槍の渾身の刺突によって逸らされ、ランサーの頬に鋭い傷をつける。

しかし、一度逸らされ速度の落ちた矢は、二度目の衝突で確実に打ち砕かれた。

 

「視認すりゃ確実にとらえることのできる矢除けの加護を無視するほどの一撃とは恐れ入った。今のは中々楽しめたぜ?」

 

今の一撃を止められては矢で倒すことは難しい、そもそも二度と距離は取らせてもらえないだろう。つまり白兵戦で倒さねばならないということ。

中距離でランサーを倒す方法があるにはあるが、アレ(・・)はリスクが高すぎる。

魔力を殆どもっていかれるし、体に負担もかかる。超の目的がわからない今、迂闊には使えない。

このかがいればその問題もなくなるのだが、未だに現れない。

と、なると、やはり白兵戦だが……。

 

「やれやれ、これは思ったよりも厄介だな」

 

シロウは再び干将・莫耶を投影し、戦闘を再開する。

 

 

 

 

 

 

 

その頃、タカミチは……

 

「ふん!」

 

超を襲う居合い拳の嵐。しかし、超は一瞬にしてタカミチの後ろに瞬間移動する。

これで何度目になるだろう。確実に捉えたと思った攻撃は、全て超に当たる寸前に超が消えることによってかわされる。

 

「圧倒的な能力差がありながら、ここまで粘るとは……これが戦闘経験の違い。いや、踏んできた場数の違いという事カナ?」

 

とはいえ、超にも余裕があるわけではない。

背中に仕込んだカシオペア参号機を使えば、楽に倒せると思っていた相手が存外にしぶとい。

その状況に段々と焦りが生まれていている。

 

「たとえ君が今日一人の犠牲も出さなかったとしても。一度世界に魔法の存在が知れれば、相応の混乱が世界を覆う事になる。それをわかっているのか? 超君」

 

タカミチは咸掛法を使い、拳の速度を更に上げる。

さすがの超も反応出来なかったのか、直撃を食らい壁に激突した。

 

「君のその力も、反応を超える速度なら攻撃が当たるようだね」

 

「くっ、ホント流石としか言いようがないネ……先ほどの質問に答えよう。確かに、いきなり魔法という存在が公になれば、世界は大混乱を起こすだろう。けど、それが自然に、少しずつ浸透していったらどうカナ?」

 

「まさか君は……」

 

「そう、私は世界樹の魔力をつかて、世界に強制認識魔法をかけル」

 

確かに世界全体に強制認識魔法をかけようとするならば、範囲の広さからいって徐々に魔法というものを認識していく結果になるだろう。だが、一体何の為にそんな事を?

立ち上がり再び挑んできた超をタカミチは連続で瞬動を使い、四方から豪殺・居合い拳を放って返り討ちにする。

超は豪殺・居合い拳のダメージで、その場に膝を着いた。

 

「フフ、何の為に……カ。貴方なら判るだろう高畑先生。この世界の不正と歪みと不均衡を正すには、私のようなやり方しかないと」

 

「!!」

 

超にもう抵抗する素振りはない。後は捕らえるだけだというのに、タカミチの体は動かない。

そう。タカミチもわかっているのだ。大きな混乱を生むかもしれないが、超の言うとおり魔法が公に使えれば救える人の数は格段に増えるという事を。だからこそ迷いが生まれ、その体を鈍らせる。

 

「エミヤ先生には断られたが……どうカナ? 高畑先生、私の仲間にならないか?」

 

「……そうか」

 

超の予想では、ここで動揺したタカミチを離れた所に潜んでいる真名が特殊弾で狙撃するはずだった。

しかし、必中のタイミングで放たれた真名の弾丸は、タカミチの居合い拳によって止められた。

 

「今の狙撃は、龍宮君かな?」

 

「驚いた、まさか今のを止められるとは……一体何故?」

 

あまりに予想外の出来事に超は内心冷や汗をかく。

まさか、タカミチが真名の狙撃に反応できるとは思っていなかったからだ。

 

「君の言葉のおかげだよ。もし、ただ「仲間にならないか?」と言われただけなら、僕は動揺してさっきの弾にやられていただろう」

 

タカミチは狙撃の方にも気を配りながら超の方を向く。

 

「でもエミヤが断ったと言ったからね。僕は……いや、僕達『紅き翼(アラルブラ)』は彼に恩がある。その彼が断ったのなら、僕が迷うわけにはいかない」

 

超にはタカミチの言葉の意味が判らない。確かにタカミチとシロウは仲がいいという情報があった。

だがそこまで恩を感じるほどのことはなかったはずだ。

 

「何故そこまで?」

 

「君は知らないだろうけど、僕は前に一度エミヤと会っていたんだ。まあ、アルに言われるまで気がつかなかったんだけどね」

 

こんな状況なのに、ハハハと笑って頭をかくタカミチ。そんなタカミチとは対照的に、超の表情はどんどん焦りへと色を変える。

超にとって、ここでタカミチを倒せなかった事は痛い。シロウが紅き翼と関わっていたことも想定外。

活路を見いだせない超は敗北する事も覚悟した。

しかしその時、タカミチの背後。シロウとランサーが戦っている光景が目に入り、超は安堵と共に勝利を確信した。

 

「……フ、フフフ。それは誤算だたネ。でも、そのエミヤ先生がこの世界から消えるとしたらどうするカナ?」

 

「?」

 

突如背後から感じた強大な魔力と2つの苦悶の声にタカミチが振り返り見たのは───紅い槍に胸を貫かれたシロウの姿だった。

 

「隙アリ♪」

 

「しまっ!?」

 

シロウの姿を見て隙ができた一瞬のうちに超はタカミチの背後に移動し、手に持っていた特殊弾を中てる。

すると、タカミチはその場から跡形もなく消えてしまった。

 

 

 

 

 

 

何度目になるかわからない投影を行い、ランサーの猛攻を防ぎながらなんとか倒す方法を模索する。

未だネギ達が来ないということは、超になんらかの罠にはめられた可能性が高い。となれば、最悪この後の戦闘も考え魔力を温存しながら戦わねばならない。

しかし、それではランサーには……

 

「おいアーチャー。テメェ、何つまらねぇ戦い方してやがる」

 

ランサーは一度距離をとると、つまらなそうに溜息をついた。

 

「何だと?」

 

「確かに前もテメェの戦い方は堅苦しくてムカついたが、矜持が感じられた。だからこそ戦いも楽しめたが、今のテメェからは何も感じねぇ。貴様……この戦い、余計な事を考えているな」

 

ランサーは、鋭くこちらを睨みつけてくる。その様子からは怒りの感情が溢れ出している。

 

「ちっ、まあいい。これ以上長引かせるのもなんだ、次で終わりにしてやる」

 

ランサーが槍を構ると、冷たい殺気が場を支配し、周囲の魔力(マナ)がゲイ・ボルクに収束し、穂先の空間が歪む。

刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)

突けば必ず相手の心臓を貫く呪いの槍。

因果の逆転により、相手の心臓に槍が命中したという結果を作り上げてから槍を放つ、回避不可能の必殺の一撃。

 

「最後に教えておいてやる。この世界に送り込まれた俺たちへの二つの命令を」

 

「二つの命令?」

 

「一つは英霊エミヤ、抑止の輪から外れたお前を消す事。そして、二つ目はこの世界における英霊エミヤの痕跡の抹消」

 

「痕跡の抹消? ……まさか!」

 

「分かりやすく言やぁ、テメェに関わった人、物、場所の消滅だな」

 

そう。つまりランサーはシロウを殺した後、シロウに関わったモノ全てを殺すということ。

それならアサシンが消滅する寸前、彼は暴走し周囲にいた者全てを襲いだした事にも納得がいく。

 

「それが嫌なら、最後の一撃に全てを懸けるんだな。後の事など考えれば、全てが終わりだと思え」

 

なぜ霊長の抑止力が(アラヤ)そこまで私に固執するのかはわからない。

だが、ランサーの言う通り、私が負ければ私に関わった者、つまり麻帆良の人達が死ぬ事になる。

ならば、答えは一つ。

 

「いいだろう。次の一撃で、必ず君を仕留める」

 

「よく言った……その心臓、貰い受ける!!」

 

言葉とともに、ランサーの殺気は膨れ上がる。

ランサーのゲイ・ボルクを破る方法は今の私には存在しない。因果を逆転させる槍を防ぐには、こちらも因果に干渉できる宝具を使わなければならないうえに、そもそもそうなると神造兵器レベルになるだろうから投影することがでいないだろう。私が投影が投影できる神造兵器はせいぜい「約束された勝利の剣(エクスカリバー)」の劣化品よりも更に出来を悪くしたものだ。

故に、剣の丘から検索するのは、防御など考えず確実にランサーを殺せる剣。

 

投影(トレース)開始(オン)……後より出でて先に断つもの(アンサラー)

 

シロウの背後に浮遊する鉄の玉。

ある呪力、ある概念によって守られた神の剣が槍兵の心臓に狙いを定める。

それはその名の通り、因果を歪める事によって「相手の攻撃の後から発動しても先に当たる」という事実を作り上げる最強のカウンター宝具。

 

「『刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)』!!!」

 

「『斬り抉る戦神の剣(フラガラック)』!!!」

 

互いの真名開放により放たれる、呪いの紅い槍と逆光剣。

点と点が交差する。一撃は共に必殺。ランサーには剣を防ぐ盾はなく、シロウには槍をかわす術がない。

 

「ぐっ!!」

 

戦神の剣がランサーの胸を抉る。本来ならば、これでシロウの勝ち。なぜなら、ランサーは技の発動前に心臓を貫かれた事になるのだから。

だがしかし……

 

「がぁっ!!」

 

ゲイ・ボルクは逆光剣の軌跡を縫う様に進み、シロウの心臓に突き刺さって千の棘となって内臓を殲滅する。

フラガラックが順序を入れ替える呪いの剣ならば、ゲイ・ボルクは因果を逆転させる呪いの槍。

放った瞬間「既に心臓に命中している」というのなら、たとえ術者が死んでいてもその槍は心臓に命中する。

ゲイ・ボルクとフラガラック。この2つの宝具が相対した時のみ、結果は相打ちとなる。

 

「貴様! これは、バゼットの……ちっ! 相打ちたぁつまんねぇ終わり方だぜ」

 

ランサーは消えていく。アサシンの時の様に暴走しない所を見ると、一撃で心臓を破壊すれば、暴走(オーバードライブ)は起きないようだ。

ランサーの消滅を確認した時にはシロウの体も足から段々と消え始めていた。

そこへ、超が歩いて近づいてくる。タカミチがいないと言う事は、超に負けてしまったようだ。

 

「どうやら、私の勝ちのようネ」

 

「ああ、ここでは私の負けのようだな」

 

「ここでは? どういう意味カナ?」

 

「まだ、ネギ君たちがいるからな」

 

意味深な発言に超は眉を顰める。そんな超に対し、シロウは痛みなど微塵も感じさせず不敵に笑ってみせた。

なんらかの罠にかかってはいるようだが、ネギ達なら必ず来る。シロウはそう確信していた。

 

「ネギ坊主が? それはありえないと思うヨ。なにせ、次に別荘から出た時は一週間後だからネ」

 

超の言葉に全てを理解した。超は何らかの方法でエヴァの別荘に細工をし、ネギ達を監禁、もしくは未来に跳ばした(・・・・・・・)のだ。

 

「ネギ君だけならばそうだろうが、一緒にいる彼女達を甘く見ないほうがいいぞ? あの子たちは中々に頼もしい」

 

「……肝に銘じておくよ。では、私はこれで失礼するネ」

 

超は予想外にシロウがアスナ達の事を評価していて驚いたが、所詮は敗者の戯言と気にせずその場を後にした。

 

「無様だな、エミヤシロウ」

 

「やれやれ、超の次は君か。今は死に際の人間に何か言うのが流行っているのかね?」

 

超の気配が消えた頃、続いてやってきたのはエヴァだった。

エヴァは消えかけているシロウを見てつまらなそうに溜息を吐いたが、いつも通りの軽口に口元をにやりと吊り上げる。

 

「いつもいつも、私をからかって。真祖の吸血鬼を何だと思ってるんだ」

 

だから、エヴァもいつもと変わらない態度で返す。

別に憐れんだわけではない。死の間際にいて尚普段の自分を貫き通すその精神力の強さに、最高の敬意を表して。

 

「エヴァ、頼みがある」

 

「なんだ」

 

「これを、このかに渡してくれ」

 

投影したのは一振りの剣。フォウォレの王テトラの剣で名をオルナという。

伝承では、この剣は自身の成してきた業績について話し、物語ることが出来たといわれる『記録の剣』。

宝具としての能力は、この剣に封じ込めた記録をこの剣に触れたものは見る事ができる。

シロウは自身の体験した事をこの剣に記録し、赤い宝石のペンダントと共にエヴァに渡した。

 

「貴様、まだ諦めてないのか?」

 

剣を受け取ったエヴァは驚きとあきれの混じったような声を出す。

 

「生前から諦めだけは悪くてね。馬鹿は死んでも治らないとは、どうやら本当らしい」

 

苦笑いをするシロウにエヴァも苦笑いを返し、両手でしっかりとオルナを受け取る。

 

「貴様には呪いを解いてもらった恩がある。まぁ、それくらいはしてやるさ」

 

エヴァは箒に腰かけると、ゆっくりと浮上していく。

 

「また会おう」

 

「ああ。また、な」

 

エヴァは再会の言葉を残し、愉快そうに夕焼けの空へと消えていった。

 

来たれ(アデアット)

 

現れたのはアーティファクト「全てを救う正義の味方(エミヤ)」。

半分まで体は消えてしまったが、残った腕でしっかりと「全てを救う正義の味方」を握る。

 

「貴様が何だったのか、私はわからなかった。だが、本当に貴様に想いを力に変える能力があるならば、私の想いを持っていけ。必ず彼女(このか)達を護れ」

 

その言葉を聞いた「全てを救う正義の味方(エミヤ)」は、まるで意思があるかのように輝きだす。

その時、シロウの頭にある映像が流れてきた。一面に広がる花畑とその中心にずっしりと構える───

 

「───桜の花。……お前が見せているのか?」

 

全てを救う正義の味方(エミヤ)」は答えることはなく、輝きは消えていきカードへと戻る。

 

「これから消える私が考えても、無駄な事か……」

 

その言葉を最後に、エミヤシロウの体は光となって消えた。

 

数時間後、世界樹を中心とした6つの基点は偽スクナに占領され、世界に強制認識魔法がかけられる。

学園祭の戦いは、超の勝利で幕を閉じるのであった。

 

 

 

 

 

 




正義の味方にやさしい世界~完~



……はい。嘘です、ごめんなさい。まだまだ続きます。
ランサーの兄貴もまだまだだしたいですから!
というわけで、次回は超が勝利した世界でのお話からです。


それではまた次回!!

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