正義の味方にやさしい世界   作:アンリマユ

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学園祭準備期間

所々で聞こえてくるトンカチで釘を打つ音や、ノコギリで木を切る音。学園祭が近づくにつれて学園全体が賑やかになってくる。

かくいう3-Aもお化け屋敷の準備で大忙しだ。

 

「ねぇねぇ~世界樹伝説って知ってる~?」

 

と思ったが、さすがは女の子。遅れているお化け屋敷の準備よりも、学園祭最終日に世界樹の下で告白すると必ず成就するという世界樹伝説の方が大事らしい。

 

「せっちゃんは、好きな人いーひんの?」

 

「えっ!? いえ、私は特にそういう男性は……」

 

いきなり話を振られあわてる刹那。

 

「しろうとかどうなん?」

 

「へ? 士郎先生ですか?」

 

思わず考え込んでしまう。確かに、刹那にとってシロウはとても頼りになる人で、気にもなっている。

だが、それが恋愛感情か? と言われると違う気がする。刹那のシロウに対する気持ちは、どちらかと言えば恋愛と言うより尊敬に近いものだ。

 

「いえ、確かに士郎先生は、その……カッコいいとは思いますが。私の感情は尊敬であって恋愛ではないかと……あ、アスナさんはどうなんですか? 高畑先生とか」

 

そういった話が苦手な刹那はアスナに話を振って逃げる。

 

「ええっ、わたし!? っと、わたたた」

 

すると、木の板を運んでいたアスナは急に話を振られ驚いて木の板を落としてしまった。

そんなアスナを手伝いつつ、このかは笑顔で応えた。

 

「ああ、アスナはだめなんよ。去年も一昨年も学園祭で告白しようとしたけど、緊張して声かけれず終まいで」

 

「うっ、わ、私の事はいいのよっ! それよりもこのかこそ、今年はどうなのよ士郎と仲いいみたいだけど」

 

「しろう?」

 

このかは先ほどの刹那同様、悩んでしまう。

このかにとってもシロウはとても頼りになる存在だ。料理が上手で、強くて、カッコよくて、いつも自分を護ってくれる。

ただ、このかにはその感情が恋愛からくるものなのか、親愛からくるものなのかいまいち判断がつかなかった。

 

「ん~、しろうの事は好きやよ。でも、恋愛の「好き」なのかはようわからヘんなー」

 

そんなこんなで、やや遅れつつも3-Aのお化け屋敷の準備は進んでいった。

 

 

 

 

 

麻帆良学園女子学生寮

 

「これは、認識阻害の魔法がかけられているな」

 

今日寮へと届いた荷物。女子寮ということもあり配達の人が中に入れない為、荷物は全て寮長の下に一旦預けられ生徒へと渡される。

その中に、認識阻害の魔法(おそらく発行先に疑問を感じない等といった効果)がかけられている荷物があった。

発行先も魔法世界、まほネットと書かれている。宛先人の名前は……アルベール・カモミール。

魔法は隠匿するもののはず。確かに認識阻害魔法がかけられていれば大抵の人間は誤魔化せるが、ここは麻帆良だ。妙に勘のいい生徒が多いなか、この程度の認識阻害魔法では心もとない。

 

「もっと気をつけてほしいものだ」

 

そう思いながらもシロウは荷物を届ける為にこのか達の部屋へ向かう。

 

「は~い」

 

ドアを叩くと中からこのかが出てきた。

 

「あれ? どしたん、しろう」

 

「ああ、カモに荷物が届いていてな」

 

「あ! すんません旦那。そーだ! 良かったら旦那もご一緒にどうぞ」

 

カモは荷物を受け取ると返事を待たず部屋の奥へと戻ってしまった。

 

「お邪魔してもいいか?」

 

「ええよ~」

 

このかの了解を得たので中に入る。部屋に入るとアスナと目があったが、気まずそうに眼を逸らされてしまった。

 

「……」

 

一瞬重い空気が流れたが、空気を読まずにカモが説明を始めた。

話を聞くと、どうやらタカミチのことが好きなアスナに自身をつける為にデートの予行演習をしようと考えていたらしい。

だが、ネギでは年齢的にタカミチの代わりが勤まらないので、先ほどカモに届いた荷物「年齢詐称薬」を使おうとしたそうだ。

 

「なあなあカモ君。ウチも使ってみてええ?」

 

「いいっすよ」

 

このかはカモから赤いあめ玉を受け取ると口の中に放り込んだ。

あめ玉を口に入れた瞬間このかは煙に包まれ、現れたのは年の頃は今のシロウと同じくらい、可愛らしさの中に美しさを兼ね備えたこのかの姿だった。

 

「見て見てアスナ。セクシーダイナマイツ☆」

 

「す、すごいわねー」

 

腰に手を当ててポーズを取るこのかに唖然とするアスナ。

 

「ふむ、便利なものだ」

 

私の世界にアレがあれば封印指定を受けてからの生活も、もう少し楽だったかもしれん。

 

「しろう、ウチきれい?」

 

「ああ、すごい美人だと思うぞ」

 

「ありがとう」

 

シロウから即答で帰ってきたのが嬉しかったのか、このかはくるくると回りながらはしゃぐ。

 

「そや、しろうも食べてみたらどうや?」

 

「私か? だが英霊である私に効くのか?」

 

この体は受肉して肉体があるとはいえ、エーテルで構成されていることに変わりはない。

そんな私に年齢詐称薬が効くのだろうか?

 

「大丈夫じゃないっすか? これは、肉体を変化させるわけじゃなくて、あくまで幻術の一種すから」

 

カモがそういうので物は試しと、シロウは赤い方のあめ玉を一粒食べてみる。

すると、歳は二十代後半くらいの英霊エミヤの時と同じ背格好になった。

 

「はー、やっぱしろうカッコええな」

 

「そうだ、姐さん。旦那に練習相手になってもらえばいいんじゃないですか?」

 

「えっ、いや、でも……ちょっと、なんというか」

 

カモの提案にあたふたとするアスナ。

無理も無いだろう。アスナはまだ「魔法に関わるかどうか考えろ」という言葉に対して答えが出ていない。

その上、この間のアサシンの一件の事すらまだ整理できていないのだ。そんな状態で、練習とはいえシロウとデートなどできるわけが無い。

結局、後日アスナはネギとデートの予行演習をすることになったのだが……

 

「私はいったい何をしているのだろうか?」

 

「しろーはよ行くえ~」

 

今シロウはこのか、刹那、カモとともにアスナとネギのデート(仮)を尾行している。

何故そうなったかというと、カモとこのかが尾行する気満々でシロウと刹那は止めようとしたのだが、2人の勢いに負け今に至る。

先ほどからカモがこのかのカード使ってネギに何か指示を出しているが、その度にネギはアスナに殴られている

 

「……不憫な」

 

「ん~やっぱここからやとよう見えんなー。……そや、カモ君昨日のあめかしてーな」

 

「どうするんすか?」

 

このかはカモから年齢詐称薬を受け取ると。

 

「しろう~」

 

「ん?」

 

「えいっ!」

 

「んぐ!?」

 

いきなりシロウの口の中に放り込んだ。

このかもあめを食べ大人の姿に変わると、直ぐに青い飴玉を取り出し。

 

「せっちゃんはこれな。あ~ん」

 

「あ、あ~ん」

 

刹那にもあめを食べさせる。すると刹那は小さな子供へと変わってしまった。

どうでもいいが刹那よ、訳もわからずつられて口を開けるな。

 

「はい、しろうこれかぶってな」

 

渡されたのは真っ赤な色のキャップ。

Cと言う文字が入っていれば、どこかの球団のファンと勘違いされそうだ。

 

「このか……君はまさか」

 

「さ、これでウチらはどこから見ても子供連れの親子や」

 

このかはシロウと刹那の手を引きネギ達に近づく。

すぐにバレるかと思いきやアスナとネギもデートを楽しみ始めたようで、こちらに全然気づく気配が無い。

 

「アスナも子供やなー。めっちゃ楽しそうや」

 

「お2人とも普通に楽しんでますね」

 

「これじゃ予行演習にならねぇじゃねぇか」

 

そう言うとカモはこのかからカードを借りネギに念話を送る。すると何故かネギはアスナの胸を掴み挙句の果てにはひっくり返ってパンツを見てしまい、アスナに殴り飛ばされシロウ達の近くまで飛ばされてきた。

 

「うおっ!? だ、大丈夫か、ネギ君?」

 

「ひぃぃい」

 

「兄貴ぃい!!」

 

とりあえず鼻血を流し倒れるネギを起こす。

すると……

 

「ア・ン・タ・た・ち」

 

ゴ ゴ ゴという擬音が目に見えるような威圧感を出したアスナが立っていた。

 

「やばっ! しろう! 撤退や、撤退!」

 

「り、了解した!」

 

アスナのもの凄い剣幕とこのかの必死な叫びに思わず体が反応し、このかと刹那を抱え、足に強化をかけてその場を全力で離脱した。

 

「ふぅ、何とか逃げ切れたわ」

 

「さあ、もう満足しただろう? 後はそっとしておこう」

 

「「えー」」

 

「駄目ですよ、お嬢様。カモさんも」

 

カモとこのかは納得がいかないのか声を上げる、シロウと刹那の2人に説教され渋々だがネギとアスナを追うのは諦めた。

 

「むー」

 

「ほら、いつまでもむくれていないでカフェで飲み物でも奢るから機嫌を直してくれたまえ」

 

「ほんま! じゃあ行こか」

 

食べ物(今回は飲み物だが)に釣られて機嫌が良くなるとはまったく現金なものだ。

 

このか、刹那、カモを連れ『カフェ・イグドラシル』を目指す。

カフェに着くと思っていた以上に混んでいた。

 

「店の中は座れそうにないな。飲み物を買ってくるから外の席を取っておいてくれ」

 

「了解や~」

 

イグドラシルは人気があり店内が混む事が多いので、店の外にもテーブルとイスがいくつか設置されている。

シロウは人の波を抜け、足早にレジへと向かう。

 

 

 

 

 

「せっちゃんここにしよ」

 

「はい、お嬢様」

 

このかは手ごろな場所が開いていたのでそこに腰掛ける。

しかし、傍から見ればおかしな光景だ。小さな子供の刹那が大人のこのかの事をお嬢様と呼んでいるのだから。

 

「お姉ーさん。俺らと遊ばない?」

 

そこに、見るからに軽そうな男達が声をかけてきた。

 

「ウチ今人を待ってるんで」

 

「そんなのいーじゃん。ちょっとだけだからさ~」

 

ナンパ男は断るこのかの手を掴み強引に連れて行こうとする。

 

「お嬢様に何をする!」

 

「ガキは引っ込んでな」

 

「うわっ!?」

 

「せっちゃん!!」

 

刹那は男を止めようとするが、男の友人が刹那の襟首をつかみ放り投げる。

本来ならば刹那が素人に負けるはずはないのだが、年齢詐称薬で子供姿になったせいでリーチが短くなってしまっている。その為、刹那が男に触れる前に投げられてしまった。

子供姿の刹那にまで手を上げたためか、周りの他の客からもざわめきが起こるが男たちはそんなこと気にも留めずにこのかに迫り続けた。

 

「ほら、ガキはほっといて行こうぜ」

 

男が嫌がるこのかを連れて行こうとした瞬間。

 

「まて」

 

赤いキャップをかぶった男に止められた……

 

 

 

 

 

「紅茶を3つ1つはストレートで後はミルク。それからカフェオレ1つ」

 

店内で飲み物を注文する。

ちなみに私シロウがストレート。このかと刹那がミルクティーでカモがカフェオレである。

 

「お待たせしました」

 

店員から飲み物の乗ったトレイを受け取り見せの外にいるこのか達を探す。すると何やらちょっとした騒ぎが起こっていた。

見てみると男がこのかの手を掴み、刹那は横に転がされていた。刹那がいれば平気だと思っていたが年齢詐称薬で子供姿になっていたのが仇になったようだ。

 

「まて」

 

「ああ? 何だてめぇ」

 

男は声をかけたシロウを睨み、男の友人たちもシロウを囲うように移動する。

 

「彼女は私の連れでね。放してもらおうか」

 

「はっ、ふざけんな! テメーは球場で○ープの応援でもしてな!」

 

そういうと男はシロウにに殴りかかった。

 

「やれやれ、いきなり殴りかかってくるとは血の気の多い若者だな」

 

シロウはトレイを持っているので手が塞がっている。その光景を見ていた人は皆シロウが殴られると思った。

 

「ぐえっ!」

 

しかし、地面に倒れているのはシロウではなくナンパ男の方だった。

そして、いつの間にかシロウはトレイを左手で持ち、右手に可愛らしい虎のストラップがついた竹刀が握られていた。

そう、それこそ正に麻帆良の格闘系の部に所属している生徒達が恐れる妖刀・虎竹刀。

かつてこの竹刀の前に数多くの生徒が犠牲となった。

早い話がすぐ揉め事お起こす生徒達をシロウは虎竹刀で鎮圧したのだ。

 

「大丈夫かこのか?」

 

「うん、ウチは平気。でも、せっちゃんが」

 

「私も大丈夫です。すいませんでした。私としたことがお嬢様を危険な目に」

 

刹那は地面に膝を突いて頭を下げる。

 

「ええんよ、せっちゃん。そんな大げさな」

 

刹那も無事なようで安心した。カモははじめから逃げていたようなので心配はしていない。

 

「やれやれ。どうやらあの男の仲間がいたらしいな」

 

ふと回りに複数の敵意を持つ気配が近づいてくるのを感じた。

どこから集まったのか周りには20人ほどの男達が。筋肉のつき方や重心の位置など何人かは格闘技をやっているようだ。

 

「ふむ。祭りが近くてはしゃぎたいのはわかるが、人に迷惑をかけるのならお仕置きが必要だな」

 

私は飲み物の乗ったトレイをこのかに渡し虎竹刀を構え直す。

 

「やっちまえ!」

 

ナンパ男の掛け声で一斉に動き出す男達だがシロウに適う筈もなく、一瞬で10人ほどが地面へと叩き伏せられる。

その動きのせいでシロウのキャップが落ち、白い髪があらわになると同時に男たちに戦慄が走る。

 

「黒い肌に白い髪……て、てめぇ、まさか麻帆良の『正義(ジャスティス)』!?」

 

「士郎先生、何ですか『正義(ジャスティス)』って?」

 

男たちの動揺具合に後ろにいた刹那が聞いてきた。

 

「ああ、麻帆良で暴れる生徒を鎮圧したり、困っている人を助けたりしていたらいつの間にか生徒達の間でそう呼ばれるようになってな」

 

正義(ジャスティス)』と呼んでいるのは生徒達だけかと思ったが、まさか一般人にまでこの呼び名が知られているとは思わなかった。

だが、シロウは知らない。麻帆良付近のチンピラや不良達の間で「麻帆良にいる『ジャスティス』と『デスメガネ』の2人には決して逆らうな」という暗黙のルールがあることを。

 

「君達、何の騒ぎかな?」

 

そこへ何の偶然かタカミチがやってきた。

 

「げぇっ!? デスメガネ高畑!! くそっ麻帆良の最恐コンビ相手にやってられるかよ」

 

シロウに加えタカミチまで現れた事により男達は一目散に逃げ出した。

男達が全員いなくなったのを確認し心配そうに見ていたこのかが近づいてくる。

 

「しろう大丈夫?」

 

「ああ、問題ないさ」

 

「ウチ、またしろうに助けられてもうたな」

 

「気にするな。前に誓っただろう? この身は君の剣であり、君を護る盾であると」

 

「えへへ。……うん!」

 

その言葉を聞いてこのかは頷いて無邪気に笑う。

年齢詐称薬を使用しているはずなのに、その姿は子供の様であった。

 

「と、そうだ。タカミチ、騒ぎを起こしてすまんな」

 

「え……?」

 

私の姿を見たタカミチは硬直する。その顔はまるで死んだと思っていた人が目の前に現れたかの様。

いくら年齢詐称薬を使っているとはいえ、ここまで驚かれるとは思わなかったのだが。

 

「あ、貴方は! どうしてここに!? ナギもアルも貴方の事を教えてくれなかったから心配したんですよ!!」

 

何を言っているんだタカミチは。もしかして私だと気づいてないのか?

いや、しかしそれにしては反応がおかしい。ナギにアル? アルという人物に心当たりはないが、ナギは確かネギの父親では……。

その時、丁度年齢詐称薬の効果が切れ元の姿に戻る。

 

「あれ、もしかしてエミヤかい?」

 

「もしかしなくても私はエミヤシロウだ。何を言っているんだ」

 

「はは、ちょっと君の姿が昔の知り合いに似ていてね。気にしないでくれ」

 

昔の知り合い? 英霊エミヤの姿の私が?

 

「タカミチそれはどういう……」

 

「高畑先生」

 

タカミチに問いかけようとした瞬間、現れた女性源しずな教諭によりさえぎられてしまった。

 

「ああ、しずな先生。悪いねエミヤ、僕はちょっと用事があるから」

 

「ごめんなさい、衛宮先生」

 

そうしてタカミチとしずな教諭は去ってしまった。

 

「しろう、どうしたん?」

 

「……いや。なんでもない」

 

タカミチの言葉は気になったが。まあ、しかたあるまい。

 

 

 

 

そして数日が過ぎ、学園祭前日

 

「やったーできたー!」

 

何日も学校に泊まって(校則違反だが)作業した事もあり、3-Aのお化け屋敷もようやく完成。

 

「まあ、中はまだ全然ですが」

 

……と言うわけではないが、一番の難問であった門は完成し、前夜祭に出る余裕ができる程には作業が進んでいた。

 

「そういえばアスナさん。タカミチのことは?」

 

「えーと、その……ん」

 

ネギの問いに対しアスナはテレながらも指で輪を作りOKのサインを出す。

事情を知るネギ、このか、刹那は自分の事のように喜んだ。

 

「ええー! 本当ですか!!」

 

「良かったやんアスナ♪」

 

「おめでとうございます」

 

皆でアスナに賛辞を贈っているとしずな教諭が教室へ入ってきた。

ネギの方を見た後、教室の後ろで待機していた私と目が合い微笑む。

 

「ネギ先生に衛宮先生も丁度良かった。学園長が至急世界樹前広場に来てほしいそうよ。できれば桜咲さんも一緒に」

 

「わ、わかりました。ありがとうございます」

 

「了解した」

 

刹那も一緒にということは魔法関係の話か。これは、他の魔法先生方と会う事になりそうだな。

侵入者の撃退という事で何度か魔法先生達と共闘した事はあるが、当初の目的がこのかの護衛なので寮の周辺にいることが多く、撃退方法も弓による狙撃だったので顔を合わせたことはない。

 

「お、ネギ君エミヤ君待っとったぞ」

 

世界樹前広場へ着くと学園長に声をかけられる。学園長の周りには予想通り魔法先生、生徒と見られる複数の人が集まっていた。よく見るとその中には犬上小太郎の姿もある。しかし、一般生徒の姿は見当たらない。

広場へ着いた時の違和感と前夜祭なのに人がいない不自然さを考えるに、人避けの魔法でも使っているのだろう。

 

「あのーこの方達は?」

 

「ふむ、ネギ君とエミヤ君にはまだ紹介してなかったの。ここにいるのは麻帆良の魔法先生、生徒達じゃ。全員ではないがの」

 

やはりそうか。だが、これで全員ではないとなると麻帆良には、いったいどれだけの魔法使いがいるのだろうか。

 

「はじめまして衛宮先生。私、高音・D・グッドマンと申します。先生のお噂はよく耳にしています」

 

「噂?」

 

「はい!」

 

聞き返すと高音は目をキラキラと輝かせ私の手を掴んだ。

 

「困った人の下に颯爽と現れては助ける、麻帆良の『正義(ジャスティス)』と。素晴らしいです。お互い立派な魔法使い(マギステル・マギ)目指して頑張りましょう!」

 

まさか不良に縁のなさそうな生徒にまでジャスティスの名が知られているとは。

やはり生徒達の間で私はそんな風に見られているのだろうか?

でも、だとしたらこの子には申し訳ないな。

 

「申し訳ないが、私が目指しているのは立派な魔法使い(マギステル・マギ)ではないんだ」

 

「えっ?」

 

私の発言に高音は きょとん としてしまう。

次いで訝しそうに訪ねてきた。

 

「では、衛宮先生は何を目指しているのですか?」

 

「ああ、大切な人を護れる『正義の味方』になりたいと思っている」

 

嘘偽りのない本心で私は答えた。

一度は間違いだと思った正義の味方になるという夢。だが、衛宮士郎のおかげで私は間違ってはいなかったと気づいた。

全てを救う正義の味方になるとまでは言わない。でも、イリヤは「無様でもカッコ悪くてもいいから、最後までちゃんと足掻きなさい」といった。ならせっかくもう一度与えられたチャンス、オレはもう切り捨てたりなどしない。

大切な人を護れる正義の味方になってみせる。

 

「……」

 

私の答えを聞いた高音は無言になってしまった。

呆れられてしまっただろうか? マギステル・マギがどのような存在ととらえるかは人それぞれだが、それはおそらくたくさんの人を救う本当に正義の味方のような存在なのだろう。だけど、私が言っているのは自分の大切な人を優先させようとしている傲慢な考えだ。呆れられても無理はない。

 

「素晴らしい!!」

 

だが、高音の反応は私の思っていたものとは逆だった。

 

「素晴らしい夢です衛宮先生! やはり大切な人を護れなければ立派な魔法使い(マギステル・マギ)とはいえないということですね!」

 

とても目を輝かせ、尊敬の眼差しでこちらを見ている。

 

「おほん」

 

その時、学園長の咳払いで今何をしにきたのか思い出す。

 

「話を始めてもいいかね?」

 

「ああ、すまん」

 

「も、申し訳ありません!」

 

皆が静かになったところで学園長は話し出す。

どうやら生徒達が騒いでいる世界樹伝説は本当の事らしい。世界樹は本当は『神木・蟠桃』といい強力な魔力を秘めた木で、22年に一度の周期で魔力が極大に達し溢れ出し、世界樹を中心とした6つの地点に魔力溜まりを形成する。その魔力は即物的な願いを叶える力はないが、こと告白に関してのみ、その成就率は120%となる。

そして、本来ならば事前に対策を立てるのだが、今回は異常気象が原因なのか1年周期が早まった為、緊急収集する形となったとのこと。

まあ、色々とつっこみたいところがある話ではあるが、本人の意思に関係なく告白が成就してしまうというのはいただけないな。

 

「ん?」

 

学園長の話はまだ続いているが、何か機械の駆動音が聞こえたのでそちらに集中する。

なるべく自然に音の方へ視線を向けると、分かりずらいが確かにそこにナニカがあった。

 

投影(トレース)開始(オン)

 

「どうしたんじゃ?エミヤ君」

 

シロウは学園長の質問に答えずに投影した剣を空へと投げる。

すると、ガキィ という金属音と共に空からこちらを監視していた偵察機(ナニカ)がバラバラになって落ちてきた。

 

「これはカメラに……盗聴もされていたな」

 

私の世界の魔術師ほどではないが、こちらの世界の魔法使いも魔力の無い機械による偵察などにはガードが甘いようだ。

 

「人払いの魔法を抜けてくるとはやるなー。ウチの生徒達は侮れないですからねー」

 

「追います」

 

「深追いはせんでいいよ。こんな事ができる生徒は限られておる」

 

こちらを偵察していた犯人を捕まえるためそれぞれが動き出す。

 

「たかが告白と思うなかれ。生徒の青春に関わる重大な問題じゃ。ただし魔法の使用に関してはくれぐれも気をつけてくれたまえ。以上解散!」

 

慌ただしくなってきたので学園長が早々と解散宣言をする。すると今まで人がいなかったのが嘘のように広場が賑わい始めた。

 

「大丈夫だとは思うが、ネギ君もエミヤ君も生徒から告白されんようにの」

 

「だ、大丈夫ですよーハハハハハ」

 

「私に告白してくる生徒などいるわけ無いだろう?」

 

慌てふためくネギと呆れるシロウ。そんな2人の姿を見て刹那とカモは思う。

 

「「(ネギ先生/兄貴 も大変だろうけど……士郎先生/旦那 も相当まずい気が……)」」

 

 

 

 

「これからどうしようか?」

 

「腹も減ったし、なんか食べあるかへん? 出店もあるみたいやし」

 

「そうだね」

 

広場を離れつつ歩いていると、そんな提案を小太郎が出した。どうやらネギ達は露店を見て回るようだ。

 

「すまんが、私は用があるので抜けるよ。後で前夜祭が始まるまでにはクラスの方へ戻る」

 

「あ、そうですか? じゃあまた後でシロウさん」

 

「ああ。刹那も小太郎もまたな」

 

「はい。お気をつけて」

 

「じゃあなーシロウ兄ちゃん」

 

ネギ達から充分離れ、足早に広場の方へと戻る。何故私が戻ったかというと。

 

「さよ、和美。先ほどの事は口外しないように」

 

「きゃっ、衛宮先生!?」

 

「げっ!? 士郎先生」

 

いきなり私が話しかけたことにより2人?は驚く。これが私が広場へと戻った理由である。

先ほど偵察機を破壊した時、そのすぐそばをさよが浮遊しているのに気がついていた。さよは存在感……というか霊子が薄いため魔法先生でもそう簡単には気づかない。

さよ1人ならば見逃しても良かったが、和美と一緒にいるのを見かけてしまった以上、一応注意をしないわけにはいかなかったのだ。

 

「げっ、とはなんだ和美」

 

「いや~先生よく、さよちゃんに気づいたね」

 

「英霊である私が幽霊の存在に気づかないわけが無いだろうが」

 

そう言うと和美は露骨に舌打ちをした。

 

「やっぱり、記事にしちゃダメなんだよね?」

 

「あたりまえだろう。それよりも、前夜祭にクラスで参加するんだろう? 早く戻るぞ」

 

「ちぇ~。ネタ潰したんだから士郎先生なんか奢ってよねー」

 

「奢ってやるから、くれぐれもこの事は洩らすなよ?」

 

「りょ~かい! そうこなくっちゃ」

 

……こんな時はつくづく思う。この世界に来て私も甘くなったな、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

生徒達が前夜祭を楽しむ中、上空を旋回中の飛行船の上に4つの影があった。

 

「フフッ、計画通りネ。ネギ坊主もうまくすれば仲間に引き込めるかもしれないヨ」

 

「……衛宮先生はどうするんです?」

 

「茶々丸の情報から考えれば、過去の改竄をしようとしている私を止めようとするだろうネ。でもそれには考えがあるヨ」

 

影の1人が パチンッ と指を鳴らすと、虚空から新たな人影が現れる。

 

「エミヤ先生は貴方に任せるヨ。でも、その時までは私の指示には従ってもらうネ」

 

「おうよ。アイツとの戦いの舞台を整えてくれるって言うんなら嬢ちゃんに従うぜ? だがそれ以外は好きにさせてもらう。せっかくの祭りだってのに待機なんてやってられないからな」

 

男は心底楽しそうに言う。

 

「構わないが……計画に支障が出ない程度で頼むヨ? それと、私がいいと言うまでエミヤ先生との接触も避けてもらうネ」

 

「わぁーてるって、安心しな。だが……俺とアーチャーの戦いに小細工を仕込んだりしたら命は無いと思えよ」

 

先ほどまでの雰囲気とは打って変わって冷たい殺気が場を支配する。

3つの影は男の希薄に思わず後ずさり、そして実感する。これが人を超えた英霊という存在だと。

 

「……肝に、銘じておくヨ」

 

「じゃあな。用がある時は呼んでくれ」

 

そう言うと男は飛行船を飛び降り、音も無く建物の屋根へと着地した。

 

「アーチャー……テメェ、よくも嬢ちゃんを裏切りやがったな。覚悟しとけよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




てなわけで、新たな敵登場の予感ですね。まぁ、皆さんならもうだれかお気づきでしょうが。
ま、その前にとりあえず麻帆良武闘大会があるので楽しみにしていてください!
でもまぁ、次は先にFate/Steins;Gateの方を一話あげてからにしたいと思ってますので。



それでは、また次回!

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