とりあえず、今はノッテいるという事と、来週の月曜まではわりと暇なので良いペースで投稿できるのではないかと。
辺り一面は火と瓦礫で埋め尽くされ、空には黒い太陽が昇っている。
「なん……だ、これは」
この世のものとは思えない光景に唖然とするエヴァ。他の者達も皆唖然とした表情をしている。
「これは私が住んでいた町で行われた魔術の儀式によって起きた大災害だ」
荒れ果てた世界にシロウの声が響く。
「儀式の名は『聖杯戦争』。七人の魔術師と七騎のサーヴァント……使い魔によって、どんな願いでも叶う万能の釜を巡る───殺し合いだ」
「魔術師?」
魔法使い ではなく 魔術師 と言った事に対しこのかが疑問を浮かべる。
「今まで黙っていたが、私はこの世界の人間ではない。こことよく似た違う世界、平行世界から来たのだ」
魔術師達の殺し合いというだけでも驚きなのに、シロウの違う世界から来た宣言に皆更に驚愕する。
「私がどういう経緯でこの世界に来たか気になるだろうが、それは見ていればいずれわかる」
シロウがそう話していると、火の中を1人の少年が力無くこちらへ歩いてくる。
少年はネギたちの傍まで来ると、力なくその場に倒れこんでしまった。
「君! しっかりして!」
ネギは少年を抱き起そうとするが、その手はすり抜け空を切る。
そこへ、よれよれのコートを着た男がやってきて、少年を抱え上げた。
「……生きてる……良かった」
そう呟いた男は少年を抱きしめ。
「ありがとう」
泣きながら礼を言った。
その瞬間景色が白い部屋、病室へと変わる。
「何故急に景色が変わる?」
いきなり場所が変わった事に対してエヴァが怪訝そうな顔をする。
「あの少年は私だからな。私の意識が途絶えたから場面も飛んだのだろう」
「は? 貴様があのガキだと?」
「そうだが? まさか君は私が生まれたときからこの姿だったとでも?」
「いや、髪の色も肌の色も違うだろう」
エヴァの発言に同意するように皆が頷く。確かにもっともな意見だ。
しかし、いちいち質問に答えていては先へ進めない。
「それもいずれわかる。全てが終わった後まだ聞きたい事があれば答えよう」
エヴァがシロウと話している間に、病室には先ほど士郎を助けた黒いよれよれのコートを着た男が入ってきていた。
「やあ、君が士郎君だね? 突然だけど、孤児院に入れられるのと知らないおじさんに引き取られるの、どっちがいい?」
シロウは起きたばかりで ぼー っとしていたがこの男が自分を助けてくれたという事は覚えていた。
だから孤児院に入れられるくらいならばこの男についていこうと思った。
「よし、じゃあ行こうか……そうだ、その前に一つ言っておく事があるんだ」
士郎の手を引く男はこちらへ振り返り言った。
「僕はね、魔法使いなんだ」
この日、■■士郎は衛宮士郎になった。
それからは平凡……とはいえないが、楽しい日々が始まった。
毎日のように家に来ては騒ぎを起こす、姉のような存在の藤村大河。
切嗣は料理をしないうえに、大河も料理の腕が絶望的なので士郎の料理の腕はどんどん上がる。
家を度々空ける切嗣だが、家にいる時は士郎を鍛えた。
そして、何度も頼みやっと教えてくれるようになった魔術の修行。
士郎にとってはかけがえの無い日々だった。だが、そんな日々も長くは続かなかった。
「僕はね、子供の頃……正義の味方に憧れてた」
ある日、切嗣と共に縁側で涼んでいると切嗣が自分の夢を語りだした。
その顔はどこか悲しげで、なにか諦めたようで。
自分にとって
「なりたかったって、諦めたのかよ」
「うん……
「そっか、それじゃしょうがないな」
「ああ……本当にしょうがない」
でも、士郎は切嗣に助けられた時、彼が本当の正義の味方に見えていた。
自分を抱えた時の切嗣の笑顔を見て、自分もあんな笑顔をしてみたいと思った。
だから───
「しょうがないから、俺が代わりになってやるよ」
自然とそんな言葉が出た。
「安心しろって、爺さんの夢は俺が───」
その言葉を聞いた切嗣は、一瞬驚いたような顔を見せたあと目を瞑る。
「ああ、安心した」
この日、衛宮切嗣は静かに息を引き取った。その顔はとても穏やかだった……
それから数年の月日が経ち衛宮士郎は高校生となる。
ある日の放課後、士郎は悪友の間桐慎二に頼まれ、かつて自分が所属していた弓道部の掃除をしていた。
掃除に夢中になりすぎて日が暮れ、辺りが暗くなった頃、校庭の方から金属がぶつかり合うような音が聞こえた。
「なんだ?」
疑問に思った士郎は校庭へと向かう。すると、そこには信じられない光景が映っていた。
赤い騎士と青い戦士が互いに双剣と槍を持ち、目にも止まらぬ攻防を繰り広げていた。
「あれ? ねえ士郎、あそこにいる赤いヤツ、さっきネギの記憶見た時のアンタと同じ格好してない?」
「そういえば、しろうに似てるな~」
双剣を手に戦う赤い騎士、アーチャーを指差し言うアスナ。
アスナ言葉にこのかもアチャーとシロウが似ている事を不思議に思う。
「どういうことだ、シロウ?」
「そうだな、アレは私であって私ではない」
「意味がわからないぞ?」
「もったいぶるようですまないが、今の段階で私はそこにいる小僧だ。ヤツの事もいずれわかる」
皆は不満げだが、シロウは気にせず進める。
「あれは、人間じゃない……」
校庭で戦っている2人は、未熟な士郎でもわかるほどの魔力を放っている。
士郎はこの場にいてはまずいと直感し引き返そうとしたが、うかつにも木の枝を踏んで音を立ててしまった。
「誰だ!」
気づかれた! そう感じた瞬間士郎は走り出していた。
無我夢中で、呼吸すら忘れて。
「な、なんなんだ、いったい」
「よぉ、ずいぶん遠くまで逃げたじゃねえか」
逃げ切れたと思ったのも束の間、目の前には青い槍兵が立っていた。
逃げられない。そう感じたのもつかの間、紅い槍に心臓を貫かれ意識が失われていく。
そんな中誰かが近寄ってくる足音と、どこかで聞いたような声が聞こえた。
「っ、何でアンタが……やめてよね」
何か暖かな力を感じる。力のはいらなかった体に熱が篭る。
胸の痛みは次第に消えてゆき、気がつくと胸の傷は塞がり、廊下に座り込んでいた。
「帰らなくちゃ」
朦朧とした意識の中、無意識に近くにあった赤い宝石のペンダントをポケットに入れ家へと帰った。
家へ帰ってしばらくすると、瓦が割れたような切嗣の張った外敵進入の警報がなった。
士郎は大河の持ってきたポスターを強化し構える。突如現れた青い槍兵の奇襲は防いだものの、二撃目は防ぐことが敵わず外へと蹴り飛ばされ、土蔵の中まで追いつめられる。
「なかなか楽しめたぜ、もしかしたらお前が七人目だったのかもな」
槍兵に槍を向けられた士郎が思ったことはただ一つ「死ねない」。
自分ははまだ誰も救えてない。正義の味方になっていない。
そう思った瞬間、床には魔方陣が浮かび上がり、一迅の風と共に槍兵が土蔵の外へ吹き飛ばされた。
目も眩むような風が落ち着き、現れたのはとても美しい金髪の少女だった。
「サーヴァント セイバー、召喚に従い参上した───問おう、貴方が私のマスターか?」
声が出なかった。突然の出来事に混乱していたのだろうか。
いや、そうじゃなかった……ただ目の前の少女に、そのあまりの美しさに言葉を失っていた。
セイバーと名乗る少女は先程の槍兵、ランサーを負傷しながらも迎撃した。
そして、すぐさま新たな敵の存在に気づき塀を越えて外へ向かう。あわてて後を追った士郎が見たものは赤い少女に斬りかかろうとするセイバーの姿。それを士郎は叫んで止める。
「止めろ、セイバー!」
士郎の叫びにセイバーは不服そうにしながらも、なんとか動きを止めてくれた。
安堵しつつも赤い少女に視線を向けると、そこにはよく知る人物がいた。
「お、お前は遠坂!?」
「こんばんは、衛宮君」
そう。彼女こそ士郎の通う学園のアイドル遠坂凛。なんと彼女も魔術師で、学校でランサーと戦っていた騎士は彼女のサーヴァントだそうだ。
その後、遠坂とセイバーにより聖杯戦争の説明をされ、監督役である言峰奇礼のいる言峰協会へ向かった。
教会に着き言峰と話をする中、士郎はこの戦い『聖杯戦争』を戦い抜くことを誓う。
教会からの帰り道、黒い巨人を従えた白い少女と遭遇した。
「こんばんはお兄ちゃん、こうして会うのは二度目だね」
「やばっ、桁違いだアレ」
白い少女の後ろに控える巨人、バーサーカーを見て凛が絶句する。
白い少女、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンは巨人の名をギリシャ神話の豪傑ヘラクレスだと言った。
神話や伝説に詳しくない士郎でも知っているような大英雄である。
「やっちゃえ! バーサーカー!」
イリヤの声に反応しバーサーカーは動き出す。
迫り来るバーサーカーの一撃をセイバーが不可視の剣で受け止めるも吹き飛ばされてしまい、アーチャーと凛の援護も空しく、セイバーは怪我を負ってしまう。
そんな彼女を助ける為、士郎は信じられない行動に出た。
「このぉぉぉぉおおおお!!!」
士郎はバーサーカーの斧剣からセイバーを救うべく、彼女を突き飛ばしあろうことか斧剣の一撃を受ける。
体が抉り取られてしまい意識を失った士郎は、気がつくと自分の部屋だった。
体には包帯が巻かれ治療が施されている。居間へ降りると凛とセイバーに説教され、その後昨夜の事を教えてもらった。
どうやら士郎の体は自然に治ったらしい。
凛は不完全な召喚によりセイバーの回復力が流れているのではないか? と言っていたが本当にそうなのだろうか?
「士郎、私と同盟を組みなさい」
話し合いの末、バーサーカーを倒すまでは凛と同盟を組む事になった。
同盟を組んだ次の日、学校へ行くと学校は得体の知れない結界に包まれていた。その結界を張ったのはライダーで、放課後マスターである慎二に同盟を組まないか?と言われるが士郎はその提案を拒否する。
夜になりセイバーがいないことに気づいた士郎は、凛が怪しいといっていた柳洞寺へと向かう。
そこではセイバーとアサシンが激しい剣戟を繰り広げていた。
しかし、セイバーは宝具を開放しかけたせいで倒れてしまい、責任を感じた士郎はセイバーの負担を少しでも減らす為、セイバーに剣の稽古を頼む。
翌日から士郎は学校を休み、午前中はセイバーと剣の鍛錬、午後は凛による魔術の指導が行われた。
数日後、間桐慎二に電話で呼び出され学校へ行くと学校に張り巡らされた結界が発動し、学校に来ていた人達は皆倒れ廊下には平然とした慎二とライダーが立っていた。
「慎二、お前!」
「怒るなよ衛宮。僕たちは魔術師なんだ、自身の魔力が足りなきゃ他から持ってくるのは当然だろ」
士郎は令呪でセイバーを呼び、何とかライダー達を退かせる事ができた。
しかし、被害は多く慎二を野放しにしておくのは危険だと判断した士郎はセイバーと共にライダー撃退を決意する。
夜の新都ビルでライダーと遭遇、屋上へ向かったセイバーを追い士郎も屋上へ向かう。そこで目にしたものは白き天馬に跨るライダーと黄金に輝く剣を構えたセイバーの姿だった。
「あれは……黄金の剣?」
黄金に輝く聖剣と呼ぶに相応しい剣。その剣の美しさに士郎は惹かれ目が離せなかった。
何故だろう。体がひどく熱い。
ライダーの宝具は間違いなく必殺の威力をもっている。だというのに、セイバーの剣からはそれすらたやすく打ち砕く輝きを感じる。
『
自らの宝具の真名を開放し白い流星となって突っ込んでくるライダー。
対してセイバーは微動だにせず黄金の剣を振りかぶると剣がさらに輝きを増す。
『
真名開放と共に放たれた黄金の光が白き流星を飲み込み、夜空を照らす。
その一撃によりライダーは消滅した。
しかし───
「セイバー!?」
魔力を大量に消費したセイバーは意識を保てずその場に倒れてしまう。
凛に見てもらったあと、とりあえずセイバーを寝かせ様子を見る事になった。
その夜、士郎は不思議な夢を見る。岩に刺さった剣を引き抜き、アーサー王となったセイバーを。
そして、セイバーの持つエクスカリバーとは違う美しい剣を。
「いい、衛宮君。落ち着いて聞きなさい……このままだと、セイバーはいずれ消えるわ」
翌日、セイバーがこのままでは消えてしまうと凛に言われ、今後どうするか悩みながらも買い物へ出た。
その帰りに士郎は公園でいつぞやの少女イリヤと出会う。以前とはあまりのも雰囲気の違うイリヤに警戒を解いてしまった士郎は、アインツベルンの城へと連れ去られてしまうのであった。
捉えられた士郎は1人になった時を見計らって拘束を解く。すると、凛とアーチャー、そして、動けないはずのセイバーまでも助けに来ていた。
イリヤが気づく前に逃げようとするが出口付近で待ち伏せていたイリヤに見つかってしまう。
今のセイバーでは満足に武装することもできない。勝機もなく、逃げることすら敵わない絶望的な状況で凛は覚悟を決めた。
「アーチャー聞こえる? 少しでいいわ、1人でアイツを足止めして」
以前、万全のセイバーとアーチャーの2人掛かりですら傷を負わ出ることができなかったというのに、アーチャー1人で足止めなど無謀すぎる。
そう、早い話が凛は自らのサーヴァントに向かって死ねと言った。自身の聖杯戦争を諦めたのだ。
「遠坂!?」
「ばかな!? 正気ですか凛! アーチャー1人ではバーサーカーには敵わない!」
セイバーも無茶だと思ったのかあわてたように言う。
しかし、自らのマスターに死刑宣告をされた当の本人は、顔色一つ変えず凛たちを庇うように一歩前へ出た。
「賢明な判断だ。凛達が先に逃げてくれれば私も逃げられる。単独行動は、弓兵の得意分野だからな」
凛は自分が酷い事を頼んだのを悔いているのか目を伏せていた。
それはそうだろう。たった数日とはいえ、命を預けたパートナーを自分は裏切ったのだから。
「アーチャー……私」
「ところで凛、一つ確認していいかな?」
凛が謝罪の言葉をかけようとした時、アーチャーがそれを止めた。
「……いいわ、何?」
凛は自分が非難される事も覚悟していた。どんな罵詈雑言でも甘んじて受ける気でいた。
しかし、アーチャーから出たのは予想外の言葉だった。
「ああ、時間を稼ぐのはいいが─────別に、アレを倒してしまっても構わんのだろう?」
あまりにもいつもと変わらない、いやむしろいつも以上に自信に満ちたアーチャーの声に一瞬呆ける凛だが、すぐに笑みを浮かべる。
そうだ、何を自分は諦めていたのだろう。初めて会った日、彼は言ったではないか。
遠坂凛は最高のマスターだと。そのマスターが召喚した自分が最強でないはずがないと。
その彼が、バーサーカーを倒すといった。ならば彼を信じよう。
たとえそれが───彼の不器用な嘘だったとしても。
「ええ、遠慮はいらないわ! ガツンと痛い目にあわせてやって、アーチャー!」
「そうか。では、期待に応えるとしよう」
そうと決まれば凛の行動は速かった。すぐさま出口へ向かって走っていく。
士郎もセイバーと凛の後を追うが、アーチャーに呼び止められ振り返る。
「いいか。お前は戦う者ではなく、生み出す者に過ぎん。余分な事など考えるな。お前に出来ることは一つだけろう? ならば、その一つを極めてみろ」
アーチャーの言葉は何故か士郎の胸に強く響く。
「忘れるな。イメージするものは常に最強の自分だ。外敵など要らぬ。お前にとって戦う相手とは、自身のイメージに他ならない」
そう言ってアーチャーは天井を崩し出口を塞いだ。
最後に見えたのは、黒き巨人を前に威風堂々と立ち塞がる赤い騎士の背中だった。
士郎、セイバー、凛の3人はひたすら森の中を走る。しばらくすると凛が急に立ち止まる。
袖をまくった凛の腕から令呪が消滅した。つまりそれは……
「遠坂……まさか」
「イリヤスフィールはすぐに追ってくるわ、急ぎましょう」
感情を押し殺したような声で言う凛。だがその手はわずかに震えている。
「あいつらに殺されるような事があったら、許さないからね」
凛は再び走り出す、士郎とセイバーは何も言わずすぐに後を追った。
アインツベルンの城からだいぶ離れた場所で小さな小屋を見つけそこで休む事にする。
凛の提案によりバーサーカーをここで倒す事になったのだが、それにはセイバーの回復が必要不可欠である。
その為、士郎はセイバーとラインを繋ぐ事になった。
いきなり景色が白くなり、エヴァを始め何人かが不満の声を上げる。
「おい、どういうことだ」
「エヴァよ、君ならば魔術を使うものがラインを結ぶ為にどうするか、予想がつくのではないかね?」
私の言葉に何か思い当たる事があったのか、納得のいった顔をした後あきれ顔に変わる。
「つまりガキどもには刺激が強すぎると?」
何を今さら、とあきれるエヴァを見てこのか達は疑問符を浮かべていた。
確かに今さらだが、極端な話同じ18禁でも猟奇的なものと性的なものではベクトルが違うのだ。
「これでも今は一応麻帆良の教員なのでね」
「ハッ、教師の鑑だな貴様は」
若干ばかにしたようなエヴァの言葉を最後に、再びシロウの記憶へと戻る。
無事に士郎とラインが繋がり、セイバーは宝具の使用こそ危険だが通常戦闘が可能になるまで回復した。
日が昇りきった頃現れたイリヤとバーサーカー。セイバーが攻撃した隙を突いて凛がバーサーカーの頭を吹き飛ばす。その一撃は確実にバーサーカーの命を奪った。
士郎達が勝利したと思った瞬間、凛がバーサーカーの腕に捕まる。
そう、これこそがバーサーカー、ヘラクレスの宝具『
生前の十二の苦行を遂げたという伝説により十二個の命、すなわち十一個の命のストックがあるのだ。
「あぐっ!? う、うぅ……」
「凛! ……已むを得ません」
「駄目だ! 使うなセイバー!!」
苦しむ凛を見てセイバーは宝具を使おうとするが、士郎の令呪によって発動を止められる。
もうこれしか手が無い。というセイバーに背を向けた士郎は、バーサーカーの前に立ちはだかりアーチャーの言葉を思い出す。
《現実で勝てないのなら想像の中で勝て。自身が勝てないのなら勝てるものを幻想しろ》
「セイバーは宝具が使えない。なら、俺が勝てるものを用意してやる!!」
難しい筈はない。
不可能な事でもない。
もとよりこの身は、ただそれだけに特化した魔術回路――――!
「うぉぉぉぉおおおおお!!」
士郎の手にぼんやりと現れたのは夢で見たセイバーの剣。
その剣は不完全ながらもバーサーカーの腕を切断すると、役目を終え砕け散ってしまった。
「もう一度だ!」
砕けないはずの剣が砕けたのは想定に綻びがあったからだ。
「───
創造の理念を鑑定し。
基本となる骨子を想定し。
構成された材質を複製し。
製作に及ぶ技術を模倣し。
成長に至る経験に共感し。
蓄積された年月を再現し。
あらゆる工程を凌駕し尽くし。
「ここに、幻想を結び剣と為す――――――――――!」
「あれは……私の……」
士郎の手に現れた、エクスカリバーとは違う黄金の剣にセイバーは声を漏らす。
剣の投影は完了したが、士郎には投影した剣を扱う技量が無い為バーサーカーに吹き飛ばされてしまう。
「シロウ、手を」
倒れる士郎にセイバーは近づき、共に剣を握る。
「はぁぁぁぁああああ!!!」
黄金色に輝く剣はバーサーカーの剣を砕きその体を貫き、しばしの静寂が訪れた。
静止して数十秒。今まで一度も喋る事の無かったバーサーカーが口を開く。
「それが貴様の剣か、セイバー」
「これは、
「今のは貴様の剣ではなかろう。ソレはその男が作り上げた幻想に過ぎん」
そう、バーサーカーが指摘した通りこの
だが、セイバーにはこの剣が偽物だとは思えなかった。
「所詮はまがい物。二度とは存在せぬ剣だ。だが、しかし―――」
バーサーカーは一度言葉を区切り、口元に小さな笑みを作る。
「―――その幻想も侮れぬ。よもやただの一撃で、この身を七度滅ぼすとはな」
まるで、士郎を称えるかのように満足げにバーサーカーは消滅した。
その後、戦う意志の無いイリヤを衛宮邸に置く事になる。
ある日、士郎はまたセイバーの夢を見た。1人の人としてでは無く国を守る王として生きるセイバーの夢を。
そのことをセイバーに尋ねると、セイバーは自らの事を語りだした。どうやらセイバーはまだ完全に英霊となっているのでは無く、聖杯を手に入れる為、死の直前に英霊となったらしい。
そして、士郎は己の為ではなく、国の為に聖杯を使うと言うセイバーに怒りを覚える。
士郎とセイバーの間の小さな亀裂は癒えぬまま、士郎達はキャスターの襲撃を受けピンチに陥るも突如現れた黄金の鎧を纏ったサーヴァントによってキャスターは倒された。
翌日、士郎はセイバーにもっと自分を大切にしてもらう為、聖杯戦争とは関係なく、ただ楽しむという目的でセイバーをデートに誘う。
新都を色々と周り、夕方頃、士郎は自分の考えをセイバーに伝えた。
「たとえどんなに惨い結末だろうと、起きてしまった事を変える事なんてできない。だから、セイバーには自分の為に今を生きてほしい」
「思いあがらないでほしい! 貴方程度の人間に、私の何がわかると言うのです!! 自分の為に生きてほしい? それを貴方に言われたくは無い!!」
士郎は言葉を返すことができなかった。
セイバーには自分自身の為に生きて欲しい。そう願って言った士郎の言葉はセイバーには届かなかった。
唖然とする士郎にセイバーは言葉を続ける。
「自身の命の重みも知らない愚か者が、よくもそんな事を言えたものです……シロウなら、解ってくれると思っていた」
茫然自失の士郎は、セイバーを1人残し家へ帰った。
だが、夜になっても帰ってこないセイバーが心配になり探しに行くと、セイバーはまだ橋の上にただずんでいた。
「セイバー、お前」
「あ……シロウ」
「まだ、ここにいたのか」
「はい……シロウに見放されて、これからどうしようかと」
淡々と述べるセイバーがとても孤独で、いつの間にか消えてしまいそうな気がして。
士郎は思わずセイバーの手を強引に引き、歩き出した。
「シ、シロウ?」
「言っとくけど、俺は絶対に謝らないからな」
返事はない。けれど、そんな士郎の手をセイバーはしっかりと握り返してくれた。
家に帰る途中、士郎とセイバーは黄金のサーヴァントと遭遇する。
自らを最古の英雄王ギルガメッシュと名乗ったサーヴァントの宝具『
『
「シ……ロウ。貴方だけでも、逃げ……て」
死んでいると思った。そう思ってしまったほど、セイバーはズタズタだった。
それでも士郎を逃がそうとするセイバー。その姿を見て士郎は立ち上がる。
「俺は……俺には、セイバー以上に欲しいものなんて無い!!」
「ほう? よく立った。で、どうするのだ?」
ギルガメッシュは再び乖離剣エアを構える。
「失せろ、英雄王!」
痛む体に活を入れ、力の限り虚勢を張る。
自分では目の前の英雄には敵わない。そんなことは初めからわかっている。
《イメージするものは常に最強の自分だ》
士郎は魔術回路に魔力を通し、アーチャーの言葉を思い出す。
「イメージしろ!!!」
無我夢中で士郎が投影した物により、ギルガメッシュの『
出血による貧血と、魔力切れによりふらつく士郎。そんな士郎をセイバーは抱きとめた。
「─────やっと気づいた。シロウは、私の鞘だったのですね」
次の日、士郎はギルガメッシュの事を言峰に報告する為言峰教会へ向かう。
そこで士郎が見たものは十年前の大火災での生き残りの人達が生きて……いや、生かされている姿だった。
唖然とする中、現れたランサーに胸を刺され意識を失う。しばらくして言峰に起こされ、視界にはセイバーの姿が。どうやら助けに来てくれたらしい。
朦朧とする意識の中、言峰がまるで傷口を広げるかのように十年前の日を思い出させ問いかけてくる。
「十年前のあの出来事を無かった事にできるなら、またやり直せるならお前は聖杯を欲するだろう?」
言峰は言った「お前が望むのなら聖杯を与えよう」と。セイバーは思った、士郎ならきっとやり直しを望むだろうと。士郎にはその権利があるだろうと。
だが胸を穿たれ、心の傷を抉られて尚、士郎から出たのは拒絶の言葉だった。
「いらない、そんな事は望めない」
士郎から出た言葉にセイバーは驚き、言峰は落胆した。
「……そうだ。やりなおしなんかできない。 死者は蘇らない。起きた事は戻せない。そんなおかしな望みなんて持てない 」
「それを可能とするのが聖杯だ。万物全て、君の望むままとなる」
「その道が。今までの自分が、間違ってなかったって信じている」
言峰の言葉を聞いても士郎は意見を変えない。悪魔の囁きを、確かな意思をもって跳ね除ける。
「そうか。つまり、おまえは」
「聖杯なんて要らない。俺は、置き去りにしてきた物の為にも、自分を曲げる事なんて出来ない」
セイバーは信じられなかった。士郎は自分と同じだと、聖杯を使ってやり直しを願うと思っていた。
でも違った、士郎は自分よりもずっと強かったのだ。
言峰はもう士郎には興味が無いといったようセイバーへと士郎を突き飛ばした。
言峰はセイバーに言った「マスターを殺せばお前に聖杯を与えよう」と。
だが、セイバーの心にもう迷いはなかった。
「聖杯は欲しい。けれど、シロウは殺せない」
剣を言峰に向けて、偽りのない心で言った。
「な───に?」
「判らぬか下郎。そのような物より、私はシロウが欲しいと言ったのだ」
その言葉により、さらに落胆した言峰はギルガメッシュとランサーに士郎達を殺すよう命じ、教会を出て行った。
ギルガメッシュとランサーは武器を構える。士郎は意識を保つのが精一杯なうえ、相手は2人。
この絶望的な状況を救ったのは、思いもよらぬ人物。ランサーだった。
「気が変わった。降ろさせて貰うぜ」
「ランサー、貴方は……」
「勘違いするな。貴様に肩入れしているわけじゃねぇ」
セイバーに対し、心底うんざりというランサー。
彼はいつもそうだった。たとえ相手が仇でも、気に入れば酒を飲みかわし。たとえ相手が親友でも、理由があれば殺し合う。自らの信条を尊重し動く彼だからこそ。
「俺は、俺の信条に肩入れしているだけだ!! 」
この状況に異を唱え。主の命に逆らった。
ランサーの厚意を無碍にしない為に、士郎とセイバーは言峰教会を後にする。
体内にあるエクスカリバーの鞘『
部屋は荒され、血まみれになって壁に寄りかかる凛の姿が。
「やっと帰ってきた。……あとちょっと遅かったら、寝ちゃうとこだったわよ」
教会から出て行った言峰は衛宮邸へ向かいイリヤを連れ去ったらしい。
遠坂の手当てをしている時、一つのアゾット剣を渡される。
その後士郎は最終決戦に向けセイバーに鞘を返し、凛のアゾット剣を持って言峰とギルガメッシュの待つ柳洞寺へと向かった。
士郎とセイバーはお互い言峰、ギルガメッシュとそれぞれ対峙する。
「よくきたな、衛宮士郎。最後まで残った、ただ1人のマスターよ」
笑う言峰の背後ではイリヤが黒い穴の前で磔にされている。
「さあ、私を止めたくば命を懸けろ。あるいはこの身に届くやもしれん」
言峰の言葉を合図に、穴からあふれ出す泥は蛇のような動きで士郎を襲う。
士郎が紙一重でかわすと、先程立っていた地面が腐敗していた。
「
士郎はアーチャーの使っていた夫婦剣、干将・莫耶を投影し蠢く泥を斬って進む。
だが、完璧ではない投影の干将・莫耶は数度泥を斬ると壊れてしまい、その隙を突かれ言峰の泥に飲み込まれる。
死死死し死死し死死し死死死し死死死し死死死死死し死死し死死し死死死し死死死し死死死し死死死
死し死死し死死し死死死し死死死し死死死死死し死死し死死し死死死し死死死し死死死し
死死死死し死死し死死し死死死し死死死し死死死死死し死死し死死し死死死し死死死し死死死し死
死死死し死死し死死し死死死し死死死し死死死死死し死死し死死し死死死し死死死し死死死し死
頭には強制的に圧倒的な死のイメージが流れ込んでくる。
「切嗣は……こんなものに十年間耐え続けてきたのか!?」
「あ……れは」
体に魔力を通し思い浮かべるのは、彼女が夢見た理想郷。
何物にも穢されぬ光。その名は───
『───
そのことに驚愕する言峰。
「宝具の投影!? 貴様、何者だ!」
狼狽える言峰の隙をついて、凛から託されたアゾット剣を片手に突っ込む士郎。
「言峰奇礼ぇぇぇえええええ!!」
襲いかかる泥を避けた士郎は、言峰の心臓にアゾット剣を突き刺し。
「"Läßt"!!!」
アゾット剣の宝石部分に溜まった魔力を開放する。それにより言峰は絶命し
イリヤを救いだした士郎は、ギルガメッシュを倒したセイバーと合流する。
後はこの泥の原因である汚れた聖杯を破壊するだけだ。
「セイバー、その責務を果たしてくれ」
令呪により『
すると丁度夜は開け、朝焼けで黄金色に輝く高台にセイバーと移動した。
全てを終わらせるために。
「貴方の剣となり敵を打ち、御身を守った。……この約束が果たせてよかった」
日の光に輝く彼女はいつも異常に神々しく見える。
「シロウ、貴方に感謝を。貴方のおかげで私は大事な事に気がついた」
「俺もセイバーといられて楽しかった。ありがとう」
セイバーの体が足元から消え始める。
話をできるのは後数秒だろう。後数秒で、二度とセイバーと会うことは敵わなくなる。
「貴方は……やはり、正義の味方を目指すのですね?」
「ああ、俺はいつか正義の味方になってみせる。俺を救ってくれた
───そして、いつも俺を助けてくれた、お前の様に。
セイバーの手にはいつの間にか『
ふふっ と微笑みながら、セイバーは『
「では、これを貴方に持っていてほしい」
「……いいのか?」
「貴方の事だからどうせまた無茶をするのでしょう? 私との契約が切れれば、今までのような治癒の恩恵はありませんが、良ければ御守りとして。私にはもう必要ありませんし……貴方には私の鞘でいてほしい」
「セイバー……」
その言葉が自分をいつまでもパートナーだと言ってくれているようで嬉しかった。
「最後に一つだけ、伝えないと」
「ああ、どんな?」
最後の言葉に対し、セイバーを心配させぬようできるだけ普段通りに問いかける。
「シロウ────貴方を、愛している」
そう言って彼女は朝日の輝きと共に消えた。
ずるいじゃないか。返事も聞かずに消えるなんて。でも───
「ああ、本当にお前らしい」
数日後、士郎は大河や大河の祖父であり書類上士郎の保護者となっている雷画を説得し、表向きは留学として学校卒業後に凛と共に倫敦へ魔術の修業をしに行くことにした。彼女と約束した正義の味方になる為に。
「それじゃ、行ってくる」
玄関まで見送りにきてくれたみんなに振り返る。
「士郎がいない間、この家の事はお姉ちゃんに任せなさい!」
胸を叩いて言う大河。
「ここは、士郎の家なんだからいつでも帰ってきて良いんだからね。リンの事も仕方ないから迎えてあげるわ」
寂しそうに、けれども笑顔で見送ってくれるイリヤ。
「衛宮先輩、遠坂先輩、頑張ってください。必ず帰ってきてくださいね」
多少頬を赤く染め、目に涙を浮かべながら士郎と凛を応援する桜。
「ありがとうみんな。と、桜熱でもあるのか? なんか顔が赤いけど」
「え? だ、大丈夫ですよ先輩」
あわてたように言う桜。
だが衛宮の家には大河もイリヤもいるから、何かあっても大丈夫だろう。
「そっか、でも体には気を付けるんだぞ。それじゃ行ってきます!」
「「行ってらっしゃい!!!」」
こうして衛宮士郎は正義の味方を目指すべく旅立った。
……この後、桜が倒れたとも知らずに。
はい。というわけでエミヤの過去《前》です。あと《中》《後》と続く予定です。
《前》はほぼ原作をなぞるので、箇条書きっぽくなってしまうところが多くオリジナル感があまり出せませんでしたが、《中》と《後》はもう少しオリジナル感を出していきたいと思っています。
それではまた次回。