中々忙しく書く暇がないので、次もいつ更新できるかわからない状況です。読んでくださっている方には申し訳ありませんが、ちゃんと完結するまでは続けようと思っていますので、なにとぞよろしくお願いします。
「
3本の氷の
今日もシロウは授業が終わった後エヴァの別荘で魔法の修業をしていた。
別荘に来てから5時間ほど矢を増やす修行を続け、ようやく3本まで出せるようになり任意の方向への誘導もできるようになってきた。
「ふぅ、やはり矢の本数を増やすのはなかなかに難しい」
魔法の矢1本分の威力はそれほど強くはない。だから、戦闘で使うにはもっと数を増やさなければ難しいだろう。
相手の体勢を崩すくらいならできるかもしれないが、相手が高位の魔法使いの場合、魔法の矢程度の速さでは障壁で簡単に防がれてしまう。
「……ん? まてよ?」
魔法の射手が剣の形状をしてるという事は
「試してみるか」
空に向けて
すぐに黒塗りの弓を投影し、新たな
弓から放たれた
「ほう、これならば少ない矢でもやりようによって使えるな」
だが、弓を使うならアゾット剣が邪魔になる。敵のいない状態での修行中ならばそれほど問題はないが、戦闘ならば一瞬のタイムロスが命取りとなる。
「その辺はエヴァに相談するか」
「くそっ」
「どうした?」
「ちょっとぼーや達が来ててな」
バツが悪そうにエヴァが言う。
しかも、ぶつぶつと「神楽坂アスナめ」とか「真祖の障壁をなんだと思ってる」等と言っている。大方エヴァがネギに無茶を言ってアスナにはたかれたのだろう。
「ああそうだ。ぼーやが貴様の弟弟子になるかも知れんぞ」
「ネギ君が?」
「ああ、なにやら力が欲しいとか言ってたな。今度の土曜日弟子入りテストをすることになった」
魔法使いの師としてならばエヴァは最適だろう。だが何故ネギは急にそんな事を?
シロウは嫌な予感がした。ネギの目指すもの、理想は衛宮士郎に近いものを感じる。
「そうだ、貴様の調子はどうだ?」
「あ、ああ。とりあえず氷の矢は3本まで出せるようになった。それと、これだな」
ネギの事を考えていた思考を一旦中断させ、先ほど編み出した
「ほう、中々面白い発想だな。しかし、弓を使えるのは知っていたが、先に放った魔法の矢を狙い撃つ程の腕とは驚きだな」
「まあな、以前はアーチャーと呼ばれていたこともある」
「魔法の才能はないくせに色々と器用なヤツだ」
エヴァは呆れたような感心したようなどちらともいえない返事をする。
「なに、もとよりとりえのない男でね、一つを極めるより多くを収める道を選んだのさ。それよりも、弓を使うときはアゾット剣が邪魔になるのだが、何とかならないか?」
「ん? ああ、それならこれをやろう」
そう言ってエヴァはこちらに向かって何かを放り投げる
「これは、指輪?」
「形は指輪だが、杖の代わりになる」
「いいのか? こんなもの貰って」
「別に構わん。もともと、お前に渡すつもりだったからな。色々と面白い存在であるお前への対価だ。せいぜい私を楽しませろ」
エヴァは腕を組み、別になんでもないといった感じで言う。
断るのも悪いし、何より今後この指輪は必要になる。大人しくもらっておこう。
「ありがたく使わせてもらうよ」
指輪を指にはめる。
「今日は闇属性の
エヴァの指示により闇属性の
「ほう、貴様は闇と相性がいいようだな」
氷の矢より出来が良かった闇の矢を見てエヴァが面白そうに言う。
「相性がいい?」
「ああ、貴様は特殊な属性だから色々と試してみるつもりだったが、貴様自身は闇に適正があるようだな。闇の属性なら他にも色々と使えるんじゃないか?」
「闇の属性か……」
ふと思い出すのは黒き太陽と炎の記憶。あれは衛宮士郎が生まれた瞬間。
あまり嬉しくはないが、なるほど。確かにエミヤシロウには闇の適正があるのだろう。
その後もしばらくエヴァの指示通りに
「よし、ではこれから貴様に私のとっておきを教えてやろう」
「いや、けっこうだ」
エヴァの提案に即答する。基礎の魔法もろくにできないシロウがエヴァのとっておきなど扱えるわけがないし、エヴァに何を対価に取られるかわからない。
それにエヴァがそこまでする義理は無いだろう。これはまさに、凛の言う心の贅肉というヤツだ。
「おい! 断るとはどういうことだ! この私、
断ったことにより教える気満々だったエヴァが激しく怒り出すが、シロウはこの世界の魔法使いではない。
いかにエヴァがこの世界で有名な魔法使いだとして、その魔法がどれほど珍しいものだったとしても、まったく興味がわいてこない。
「どういうことも何もない、魔法の射手もろくに使えない私が君のとっておきなど使えるわけが無いだろう。それにそんなものを教えてもらうと、私の魔術に対する対価にしては貰いすぎる」
「ふん、そんな事はどうでもいいな。経緯はどうあれ貴様は私の弟子になったのだ、私の魔法を教えるのは当然だろう。対価の事を気にしているなら、私は貴様に呪を解いてもらったという借りがある。それにその魔法を
自信満々に言うエヴァにしばし唖然としてしまった。
経験上こういった輩は一度言いだしたら絶対にやめないだろう。むしろここで断れば自身に矛先が向きかねない。
それに、ここまで自分にお節介を焼いてくれる相手というのは久しぶりだ。
「ああ、わかった私の負けだよ。君のとっておきとやら、ご教授願おう」
「ふ、ふんっ! はじめからそう言えばいいんだ」
照れたようにそっぽを向くエヴァは気づかなかったが、参ったと言った風に両手を上げるシロウの口元は、嬉しそうにほころんでいた。
「で? そのとっておきとやらは私にも使えるのか?」
「ああ、アレに一番重要なのは技術よりも肉体と精神の強さだからな。貴様なら肉体の頑丈さも精神力の強さも大丈夫だろう。とりあえず私が実際にやってみるからそこで見ていろ」
エヴァはシロウから数歩離れると呪文を唱える。
「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック」
呪文を詠唱しはじめた瞬間空気が変わった。
空気中の
「
「(あれは、私との戦闘で見せた確か闇と氷の複合魔法だったか……)」
「
「!!」
本来放出されるべき闇の吹雪の魔力が圧縮され拳大の球体になる。
「
エヴァは圧縮された魔力の塊を握りつぶした。いや、正確には握りつぶしたのではない。
エヴァの魔力の跳ね上がりようからいって、あれは握りつぶしたというより取り込んだというほうが正しいだろう。
闇の吹雪を取り込んだエヴァの体からは魔力が噴出し、肌の色が黒く変化している。
「これが私の編み出した魔法“
凄まじい魔力に威圧感。
先程の戦いでコレを使われていたら、負けたのはシロウのほうだったかもしれない。
「まずは、魔法の射手の術式を固定してみろ。矢は1本でいい」
「
始動キーを呟き、エヴァの指示通り見よう見まねで術式を固定してみる。
「
掌の上で闇の矢が圧縮され球状になる。
「ほう、いきなり成功させるとはな。……そういえば貴様は投影、魔力を物質に変化させるのが得意な魔術師だったな」
なるほど、とシロウは納得した。シロウは固有結界から零れ落ちた投影、変化、強化に長けている。
つまり、投影や変化の魔術に近い魔力の固定化などの行為も、他の魔法に比べ成功率が上がるというわけだ。
「では、その魔力を取り込んでみろ」
「
まるで剣を鞘に収めるかのようなイメージで、圧縮された闇の矢を形を崩さないように自身の体内へと取り込む。
「!!」
体内に取り込んだ闇の魔力が全身を汚染していく。
この感じはまるで操作系の魔術を掛けられたかのような感覚。自身の魔力なのに体全身が侵されていく。
否応なしに体の中の鐘が警戒を鳴らす。意思とは関係なしに浮かび上がる死のイメージ。
しね シね しネ シネ 死ね 死ネ 死ね 死ネ
死死死し死死し死死し死死死し死死死し死死死
死死し死死し死死し死死死し死死死し死死死し死
死死死し死死し死死し死死死し死死死し死死死
死死し死死し死死し死死死し死死死し死死死し死
「がっ!!(まずい、意識が……くっ! 落ち着け。冷静に魔力を制御しろ)」
自分を叱咤し気持ちを落ち着かせ魔力を制御する。しばらくすると闇の魔力は体に馴染み、さっきまでの苦しみが嘘のように体が軽くなる。
「……い! ……おい! ……返事をしろ! 大丈夫か!!」
意識がハッキリするにつれエヴァの声が鮮明に聞こえてくる。
「おいっ!」
「……すまん。もう大丈夫だ」
とりあえず無事をアピールする為、片手を挙げエヴァに言う。
「ったく、心配させおって。で、体の調子はどうだ?」
エヴァに言われ体を確認する。
体からは僅かだが魔力が溢れ、もとから黒かった肌は更に濃くなり、先程のエヴァ同様完璧に黒くなっている。
そして、筋力魔力共に上がっているのが立っているだけでもわかる。
「問題ない、どうやら体に馴染んだようだ───む?」
バシュッ と音を立てて魔力が霧散し、体が元に戻る。
やはりまだ長時間は使えないようだが、多少のけだるさがある程度で体に異常はない。
「今はまだその程度だが、いずれは長時間使用する事も可能だろう。次からは今までの修行に加え闇の魔法の持続時間の延長、取り込める矢の本数の増加の修行を追加しろ」
「了解した」
これで今日の修行は終わりにし寮へと帰った。
寮に着き、部屋へと向かう途中向かい側からやってきたネギと会う。
「やあ、ネギ君」
「あ、こんばんは、シロウさん」
いつも通り笑顔で丁寧なお辞儀をするネギ。しかしその眼には何か闇雲な力強さの感情が見える。
その眼を見た瞬間、シロウはエヴァの話を思い出した。
「ネギ君、君はエヴァに弟子入りするらしいな」
「はい、エヴァンジェリンさんに聞いたんですか?」
「ああ……なあネギ君。君はどうして急にエヴァに弟子入りしようと思ったんだ?」
どうもネギは頑なに強くなろうとしている気がする。
杞憂であればいいのだが……
「京都の一件で僕はまだまだ弱いという事がわかりました。だから僕はもっと強くなりたいんです」
ネギは拳を握り興奮気味に言う。
弱いから強くなりたい。10歳の少年ならばそう考えても仕方ないといえよう。
しかし、ネギは良くも悪くもただの子供ではない。確かに子供ではあるが、考え方などはいしっかりしていて、そんな単純な……いや、理由もなく強さを求めようとはしないはずだ。
「何故強さを求める?」
一番心配だった事をネギに尋ねる。
「僕は強くなって父さんのようになりたい。全ての人を救えるような
「俺は全てを救えるような正義の味方になりたい」……過去の自分を思い出す。
ネギは昔のシロウに似ている。父親の背中を追うその姿も、
そして───
「京都でこのかさんがさらわれた時、僕がもっと強ければすぐに助けられたはずなんです。いえ、そもそも僕が強ければさらわれる事すらなくあのフェイトと名乗った少年達を止められたかもしれない。……でも、僕が弱かったからたくさんの人を傷つけた」
───力がないことに嘆く姿も。
「だから、英雄である
「そうか……だが、本当にそれでいいのか?」
シロウは辛そうな表情でネギに問いかける。
ネギ・スプリングフィールドは衛宮士郎と同じだ。父親に憧れ、その生き様が呪いとなっている事にも気づかず理想を信じて無茶をする。
「はい? 僕はいつか父さんに追いつき、立派な魔法使いになります。それではおやすみなさいシロウさん」
シロウの質問の意味が理解できていないネギは、的外れな答えを答えると部屋へ戻ってしまった。
「まいったな……嫌な予感ほどよく当たる」
お節介だと思ってはいるが、このままネギを放っておくことはできない。
このままでは、おそらくネギは確実にエミヤと同じ末路を辿る。同じ間違いをネギが犯してしまうというのなら、一度は間違えてしまった自分が教えてやらねばならない。
けれど、シロウには上手く伝えてやる手段が見当たらない。
「衛宮士郎……貴様だったらどうするのだろうな」
知らずの内に自分を倒した少年の名を呟く。
残酷な事実、冷たい真実を突き付けられ、尚も絶望せず立ち上がった少年。
その果てに、己の信念を貫き大切なことを教えて───否、思い出させてくれた。
《俺は後悔なんてしないぞ。どんな事になったって後悔だけはしない。だから……絶対に、おまえの事も認めない》
その時、脳裏に浮かんだのは衛宮士郎が自分に向けて言った言葉。
「……フッ、そうだな。ネギ君がもしお前と同じならば」
シロウは覚悟を決め、自室へと入る。
───戦う覚悟を。
翌日の昼休み、シロウはエヴァを尋ね屋上へと向かう。屋上へ着くとエヴァと茶々丸がシートをひいてくつろいでいた。
「エヴァ」
「ん? なんだお前か。何か用か?」
エヴァは片目だけ開けて返事をする。
が、真剣な表情のシロウを見てその体を起こした。
「ああ。ネギ君の件だが、私にネギ君の相手をさせてもらえないだろうか?」
「馬鹿か貴様。ぼーやではお前に触れる事すらできずに終わるだろう」
呆れたように言うエヴァに昨日の事を話し、ネギと戦いたい理由を説明する。
「なるほど、そういうことか……私としては今のままのぼーやの方が私好みだが、いいだろう。ただし条件がある」
「なんだ?」
「もともとはぼーやの実力を測るのが目的だったからな。お前は投影した武器によるぼーやへの攻撃は禁止、ぼーやがお前に一撃でも入れられたらテストは終了にする。これが条件だ」
無理難題を吹っ掛けられるかと思ったが、意外とまともな内容。
投影による攻撃を禁止されたのは痛いが、今のネギとの実力差ならば十分だと言える。
「了解した。で、今日も別荘を借りるが構わないか?」
「好きに使え」
放課後
今日もエヴァの別荘で修行をする。このかは刹那達とボウリングに行くらしく、後で来ると言っていた。
いつも通り初めは
「……ふぅ」
やはり闇の魔法の持続時間はそう簡単には伸びないらしい。
今の所矢の本数は3本、持続時間は1分弱が限界といった感じだ
「闇の魔法、か」
『暗き夜の型』により肌が黒く染まり身体能力、魔力量が上がる。
『
『
「もしかすると、投影した宝具も術式兵装可能かもしれんな」
そう、
「
「帰るぞ茶々丸」
「はい、マスター」
授業後、エヴァは茶々丸と共に茶道部に顔を出し、何回か茶を点ててから帰宅する。
その途中、近衛このかに話しかけられた。
「あ、エヴァちゃん!茶々丸さん!」
「ん? ああ、このかか」
「こんにちは、このかさん」
こちらにやって来たこのかに茶々丸がペコリと頭を下げる。
私達に連れ添って歩き始めたと言うことは、おそらくこのかは今日も別荘へ向かう気なのだろう。
「今日も別荘に来るのか?」
「うん、今日こそは火を出してみせるんや!」
拳をぐっと握り、気合を入れるこのか
「ま、せいぜい頑張るといい」
このかと茶々丸の3人で家まで帰り、別荘へと向かう。
別荘の中に入るとズドォン!!! と浜辺の方で巨大な爆発が起きた。
「ひゃっ!?」
「なんだ!?」
敵襲、ということはありえない。では何があった?
確かあそこら辺は、いつもシロウが修行に使っている場所ではなかったか?
「茶々丸このかを連れてついて来い!!」
「はい、失礼しますこのかさん」
嫌な予感がして、空中浮遊の魔法を使い全力で浜辺へと飛ぶ。
「な、何だこれは!?」
浜辺に着くとそこには───大量に血を流すエミヤシロウがいた。
「
手に現れるのは彼の英雄フェルグス・マクロイの所持していた、螺旋剣ではないオリジナルの形状の魔剣カラドボルグ。
初めは普通の剣で試そうと思ったが、それでは付加能力が付かないので、ランクは高いが使い慣れたカラドボルグを選んだ。
「
投影により物質化された魔力を更に圧縮し固定するのはかなり難しい。
シロウは魔術により身体強化と掌握を強引に強化し、カラドボルグを圧縮する。
「ぐっ……
圧縮したカラドボルグを無理やり取り込むと、カラドボルグの付加能力なのか体全体から稲妻を放電される。
不安ではあったが、どうやら投影した宝具は術式兵装可能なようだ。
ドクンッ
「……? がっ!?」
最初は問題なかったが、カラドボルグを取り込んで数秒。体内を巡る魔力量が膨れ上がり制御が利かなくなる。
いくらシロウの肉体が頑丈で剣とは相性がいいとはいえ、やはり高ランクの宝具を取り込むのはまだ早すぎたようだ。
「ト、
取り込んだカラドボルグを急いで廃棄する。急に廃棄した事により、放電していた魔力は行き場をなくし爆発を起こした。
そしてシロウの
「な、何だこれは!?」
そこに、学校から帰宅したエヴァ、茶々丸、このかがやってきた。
「しろう!」
「衛宮先生!」
血だらけのシロウを見てすぐに駆け寄る2人。
それを、エヴァがあわてた様子で止めた。
「まて!」
エヴァは見た。シロウの傷口。その中でギシギシと蠢く銀色の刃を。
それは、まるで止血をするかのように傷口を塞ぐ。
「このか。すぐにシロウを治療できるようにアーティファクトを出しておけ。茶々丸は安静にできる部屋の用意だ」
2人に指示をだし、エヴァもシロウの傷口に触れぬよう容体を確かめる。
「生きてるか? シロウ」
「ああ……見ての通りっ……情けない姿だがね」
何とかシロウはエヴァへ返事を返す。
それを聞いてエヴァは安心した。重傷なのは確かなようだが、軽口が言えるほどには元気なようだ。
「シロウ、その状態からどれ位経った?」
「2分弱……くらいだ」
「よし。このか、アーティファクトでシロウの傷を治せ。傷口には決して触れるなよ」
「うん!」
その後、このかのアーティファクトによって傷は完治したが、出血が酷かったので今はベットで横になっている。
今部屋の中にいるのはエヴァとシロウだけ。
「おい、どういうことか説明してもらうぞ」
エヴァが怒った様子で話しかけてくる。さて、どこまで話したものか。
流石に宝具を術式兵装しようとした事は伏せたほうがいいだろう。
「ああ、少し無茶をしてな。魔力が暴走した」
「ふざけるな。多少の無茶程度であそこまで大怪我をするかボケ。それに、貴様の傷口を塞ぐように蠢いていた刃を私が見逃すとでも思ったか?」
シロウの魔力が暴走し肉体が崩壊しかけたとき、幸いな事に過剰な魔力が体内のアヴァロンを起動させ、シロウの肉体を守った。その治癒力はセイバーがいた頃に比べれば微力なれど、確かにシロウの傷を塞ごうとしていたのだ。
「まいったな……そうたいしたものでもないのだが。魔力の暴走は、まぁ本当に無茶をしただけだ。傷に関しては起源によるものが大きい」
「起源……だと?」
「ああ」
起源。それはその生物の根底にあるもの。始まりの因で発生した物事の方向性。aという存在をaたらしめる核となる絶対命令のこと。
例えば“禁忌”という起源を持つモノは人に生まれようと獣に生まれようと植物になり代わろうと、群における道徳から外れた存在になる。
起源を覚醒したモノは起源に飲み込まれる反面、肉体は強大な力を手に入れることができる。
「以前、私の属性が“剣”だと説明しただろう? これも起源が剣である事によってのものだ。故に、私の体が私を生かそうとする時、あのような現象が起きてしまうのだ」
「貴様、今は英霊とはいえ本当に元人間か? 貴様の話から考えれば、貴様は起源の覚醒者だろう。それで自我を保っているなど」
ありえない。エヴァはそう言いたげな表情で息を飲む。
無理もない。人間とは過ぎた力を手に入れればそれだけでどんな人格者でも多少なり精神に影響を及ぼす。
精神に影響が及ばないものがいるとすれば、それは世で聖人と呼ばれるものか、もしくは……
「私は……元から破綻していたからな」
「っ……すまん。つまらんことを聞いた」
シロウの過去については何も知らない。けれど、前にシロウが自分を“正義の体現者”と言い表したことからどんな人生を歩んできたかはだいたい想像ができた。
だが、それはシロウが選んだ道であって、他人がどうこう言う話ではない。
たとえそれが───どんなに破綻していた道であっても。
「このかはもう帰らせた。明日はぼーやの試験もある、休んでいけ」
そう言ってエヴァは部屋を出て行った。
「……感謝する」
翌日、ネギの弟子入りテストの時間がやってきた。
「ネギ・スプリングフィールド、弟子入りテストを受けに来ました!」
元気よくネギがやってくる。後ろにはアスナ、このか、刹那、のどか、そして……古、楓、真名がいた。
「何故、君達までいる?」
古はネギに中国拳法を教えていたらしいからまだわかる。
だが、なぜ楓と真名までいる理由がわからない。楓なら性格上特に理由もなく見に来てもおかしくはないが、真名に至っては見当もつかない。
「まぁ、いいじゃないか。邪魔はしないよ、なぁ楓?」
「そうでござるよ士郎殿。一緒に戦った仲ではござらぬか」
悪びれる様子もなく2人が言う。
正直アレを一緒に戦ったと比喩してよいものか悩むところだが、邪魔をしないのであれば追い返すこともないだろう。
「来たか、では別荘へ移動するぞついて来い」
「はい!」
奥から出てきたエヴァに言われ別送へと移動する。
「うわー!」
「すごーい!」
別荘の中に入り浜辺へと移動すると、ネギやアスナは驚きの声を上げる。
「おい、遊びに来たわけじゃないんだ。すぐにテストを始めるぞ」
「は、はい!」
「テストの方法は以前話した通り、シロウに何でもいいから一撃を入れる事だ。ぼーや、絶対に手を抜くな。手を抜けばその瞬間貴様の負けは確定するぞ」
「分かりました、お願いしますシロウさん」
ネギが一度頭を下げ構えを取るのに対し「ああ」と短く答え、シロウはだらりと腕を下げる。
「はじめっ!!」
エヴァの声で戦いを開始する。が、シロウは相変わらず腕を下げ構えを取らない。
その様子に戸惑ったのかネギは攻めてこない。それどころか、気が緩み隙まで出来ている。
そんなネギの虚を突いて接近し、ネギに拳を叩き込む。
「くっ!」
ネギはギリギリのところで反応し、自身を魔力供給で強化してシロウの拳を受け止めるが、甘い。
シロウは即座にネギの腕を掴み投げ飛ばす。
「なっ!」
投げ飛ばされたネギは器用に空中で体勢を立て直し、杖を構えて呪文を唱えた。
「
ネギの放つ魔法の矢をシロウは魔力で強化した腕で防ぎきり、その光景を見て唖然とするネギに再び隙ができたのを見逃さず、蹴りを入れる。
蹴り飛ばされたネギは、大きな飛沫を上げて海の中へ。
「先ほどから隙が多すぎるぞネギ・スプリングフィールド。君はこの程度か? エヴァに言われただろう、手を抜くなと。この様では、
皮肉げに口を歪め、ネギを嘲笑う。
「ちょっと酷くない士郎? そりゃネギはまだエヴァちゃんや士郎みたく強くはないけど、頑張ってるじゃない」
シロウ言葉にアスナが反論する。それに同意するかのように刹那や古達もこちらを睨んでいる。
「事実だよアスナ。この程度の実力では
「
話し終わる前に、いや、話を遮るかのようにネギから中級の魔法が放たれる。
「
白き雷をかわしたシロウに、追尾型の魔法の射手を放つネギ。
投影を禁止されているシロウでは防ぎようがない本数の矢。ネギはそれを想定して矢を放った。
しかし、その予想は大きく外れた。
「
「え!?」
今まで魔法を使ったことがなかったシロウが始動キーを口にした事により、ネギは驚きの声を上げる。
シロウは始動キーを呟きながら弓を投影し、5本の闇の矢を弓に番え放った。
弓に番え威力が上がった闇の矢は、ネギの雷の矢を全て打ち消す。
「
「うわっ!?」
魔法の射手同士の衝突で一瞬視界が奪われた瞬間ネギの足元へ氷の矢を放ち、懐から
「
『
「……はぁ。いったいなんの真似かな?」
だが、間に割って入った刹那の夕凪に
刹那の後ろでは古とアスナが構えネギを庇っている。このかには事情を話してあるので動かないが、明らかに怒っているのがわかる。
「どういうつもりですか士郎先生! 貴方は今本気でネギ先生を斬ろうとしたっ!!」
「どういうつもりも何も、未熟なくせに
「貴方はっ!!」
シロウの行動に対し怒鳴る刹那はいつも通り、いや、いつも以上に冷静なシロウの言葉に殺気を膨れ上がらせる。
今にも爆発しそうなその殺気はネギの「待ってください」という声によって止められた。
「シロウさんの相手は僕です。刹那さん達は下がっていてください」
「でも、ネギ!」
「これは僕の問題です。アスナさんは口を出さないで下さい」
アスナが立ち上がるネギを引き止めるが、ネギはその手を振り払いシロウの前に立つ。
その眼にはもはや周りの事が見えていない。いや、それどころかシロウすらも見えてはいない。
ネギの見ているものは更にその先、英雄と呼ばれた父親の背中のみだった。
「シロウさん、確かに僕は未熟者です。ですが、僕は英雄を目指す事を愚かだとは思いません」
再び自己流の『戦いの歌』で身体を強化し構えるネギ。
「貴方にはわからないかもしれませんが、僕の父さんはすべてを救った英雄です。そして、小さい時僕のことも助けてくれました」
「クッ、それはそうだろう? 英雄とは人を救う為だけに存在しているようなものだ。しかし、それは表面上の姿に過ぎない。英雄とは、より多く人を殺した者に与えられる称号だ」
「違う!!」
怒りと共にネギの魔力は膨れ上がり、先ほどの倍以上の魔法の矢を放つ。
シロウは冷静に最小限の矢の数で全てを防ぎきる。
「違わんよ。私はナギ・スプリングフィールドという男など知らないが、救ったというからには敵がいたはずだ。その敵はどうやって止めた? まさか話し合いで解決したわけでもあるまい」
シロウの言葉を聞くたびにネギの魔力は溢れ出し、攻撃も激しくなる。
しかし、それとは対照的にネギの呼吸は乱れ、シロウは余裕の表情を見せる。
「英雄とて万能ではない。君は英雄という存在の綺麗な部分しか見ていない。汚い部分から目をそらしている。君は───ただ父親に憧れているだけだ!」
ネギの魔法の雨を掻い潜り、シロウはその拳をたたきつける。それだけで、無防備だったネギは数十メートル吹き飛ばされた。
「憧れだけでは駄目なんだよネギ君。君はスクナが最後の一撃を放とうとした時、君は重傷にもかかわらずナギ・スプリングフィールドならこうしたと言って前に出た。自らを犠牲にしてでも皆を護ろうとしたな。だが、自分を犠牲にするようなやり方では何も守れない。何を護るべきかも定まらない」
「何を守るべきかはわかっています」
ネギはよろよろと立ちあがり、曇った眼でシロウを睨み付ける。
「英雄が守るものとは全てです! 僕は父さんのように全ての人を救える英雄になって見せる!」
「……一人でか?」
「え?」
「君は、一人で全てを救うというのか?」
とても辛そうに言うシロウに一瞬あっけにとられるネギ。
けれど、直ぐに頭を振って頷いた。
「そうか……やはり、な。───投影、開始」
次の瞬間、シロウは瞬動でネギの近くにいたアスナの後ろへ移動し、剣の檻にアスナを閉じ込めその頭上に剣を一本投影し待機させる。
あまりに突然の行動に見学していたメンバーはおろか、エヴァでさえ驚いている。
「さて、ネギ君。ここで質問だ」
シロウはネギに再び皮肉げな笑みを見せる。
「今の君にはアスナを助けられるほどの力は無い。しかし、この場にはこ状況を打破する可能性が残っている。さあ、君ならどうする?」
独りでは助けることができないネギがアスナを助ける方法。それは簡単だ。
多少の危険はあるが、ここにいる刹那達に協力を仰げばいい。いくらシロウが経験豊富な戦士だとしても、これだけの使い手全員が協力すればアスナを助けることなどたやすい。
だがそれは、1対1の試合を放棄するということ。弟子入りテストを放棄するということになる。
そうなれば、ナギに近づくというネギの夢は大幅に遅れてしまう。
「なに、それほど悩む必要もあるまい? 簡単な話だよ、多少怪我を負わせてしまうかもしれないが、テストを放棄して皆で確実にアスナを救うか。それとも、危険ではあるが自らを犠牲に無茶をして一人でアスナを助ける賭けに出るか」
シロウはネギを睨む。
無茶をして全てを救うか失うかの賭けに出るか、無茶をせず最善の方法を取るか。
ネギは拳を握り、血が出るほど歯を食いしばって葛藤し後、全身の力を抜いた。
「さあ、
「……父さんなら、きっと一人でアスナさんを助けるでしょう。力があるから。でも、僕にはその力がない」
その言葉を聞いて、シロウはネギが次にいうであろう言葉がわかり笑みを浮かべる。
「刹那さん、古老師、楓さん、龍宮さん。僕に力を貸してください!」
「はいっ!」
「任せるアル!」
「承知!」
「ま、今回は無料サービスとさせてもらうよ」
言うが早いか、撃ち込まれる真名の弾丸を回避。アスナの剣の檻から離された所で刹那と楓にピッタリとつかれ、接近戦闘を余儀なくされる。
その間に古は剣の檻を拳法で砕きアスナの救出に成功する。
「クッ……やはり君たち二人相手では防戦一方になってしまうな」
投影武器での戦闘禁止を律儀に守っているシロウは、
そんな2人が急に距離を取った。
「なるほど、即急にしてはいいコンビネーションだ」
2人が離れると同時にシロウの懐にいたのはネギだった。
その拳はすでに構えられ、目にはシロウの腹が見据えられている。
「そうだネギ君、それでいい」
抵抗しようと思えば防げたであろう一撃をシロウは満足げに受け、ダメージと疲労によりネギはその場で気絶する。ネギを介抱する為、茶々丸の案内のもとネギと見学に来ていたメンバーは別荘の中の部屋へと移動した。
「フッ、色々と楽しめたよ」
浜辺に残っていたシロウに、今まで静に傍観していたエヴァが近づいてくる。
「ケケケ、エミヤ、オ前ノ悪者っぷりサイコーダッタゼ!!」
いつの間にいたのか、エヴァの足元のチャチャゼロも愉快そうに声をかけてくる。(ちなみにチャチャゼロは、主に戦闘面でシロウの修行を手伝う為、以前エヴァに紹介された)
「まぁ何にせよ、ぼーやはシロウに一撃入れたから約束通り弟子にしてやる」
「ほぅ? 君にしては珍しいな。刹那達の協力を得ての結果をよしとするのか?」
「ハッ、あれは貴様の反則ギリギリの小芝居で大目に見るさ。どうせここでぼーやを不合格にしたら、貴様は私にぼーやを合格にしろと説得しにきただろう」
「やれやれ、君には敵わないな」
シロウは両手を上げて降参しながら出口へと足を向ける。
「帰るのか?」
「ああ、今私はこの場に残らない方がいいだろう。ネギ君の目が覚めて皆が落ち着いた頃にでも又来るさ」
「貴様もぼーやの事を言えんくらいお人よしだな」
「なに、これは死ぬまで治らなかった性分でね。今更変えることなどできんよ。できるのは、私のような存在を生み出さぬよう若者の手助けをするくらいさ」
その言葉を残し、シロウはゲートから別荘の外へ出た。
誰もいなくなった浜辺で、エヴァはさっきまでシロウがいた場所を憐れむような眼で見つめ呟いた。
「ふん……本当にお人よしめ」
1
なんというか、間が空きすぎると自分でも前話までの流れがわからず、キャラブレなどが起こっていないかとても心配です。
そうならないよう頑張りたいと思います。
それではまた次回。