ソードアート・オンライン 二次創作 『3人のユリ』   作:マスカルウィン

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エピローグと言う蛇足。
正直無くてもいい気がしてくるのは言わない。


エピローグ

 2016年3月

 

 仮想世界で彼女を見つけて、数週間が過ぎた。

 俺に大きな変化は起きなかった、しかし変わった事がある。

 学校とアルバイトの往復の時間以外は、殆ど仮想世界で暮らす様になってしまったという事だ。

 

「やー、死んでましたね。 お墓も用意しちゃって……」

「なんて声かけたらいいかわからねーけど」

「ユーリ!」

「はい!」

 

 仮想世界で……ALOでキリト達にお金を借りて購入した小さな家で俺達は平和な時を過ごしている。

 それは本当の意味で平和なのかどうかはわからない、けどようやく俺の中のSAO事件は終わった気がする。

 

「約束してほしい事があります!」

「えーっとなんでしょうか?」

「一つ、毎日10分は仮想世界に来る事!」

「二つ! おじいちゃんになっても絶対に来る事!」

「三つ! 私のことを嫌いにならない事! 以上!」

「え、あぁうんわかった約束する」

「本当に? 数十年先の話だよ?」

「――絶対に、約束する」

 

 すると彼女は俺の胸に顔を埋めた。

 

「お、おい?」

 

 抱きしめようか悩んだが、そこは肩を持ち引き剥がそうとする。

 すると彼女のほうから俺を抱きしめてきた。

 

「ユリ?」

「ごめん、しばらくこのまま、そしたらね? そしたら前みたいにいつも通りユーリが知ってるユリに戻るから」

 

 涙混じりの声で言う彼女に対してようやくわかった。

 怖いはずがない、現実世界の身体が無い事が。

 現実世界に帰れると信じて生き残ってきたので、その希望が打ち砕かれた事が――

 俺はそんなユリをしっかりと抱きしめた。

 

 

 ユリに関しては、戸籍上も死亡という扱いに処理された。

 理由は二つ、肉体的には完全に死亡を確認されている事。

 ネットワーク上に存在する、彼女は人格のコピーという事だ。

 もっともオリジナルが死亡している以上、コピー云々は無粋なのかもしれないが、と菊岡が語ったのを覚えている。

 その後、絶対に彼女を戸籍上に……そして現実世界に帰してみせるといった事も覚えている。

 

 

「なぁ悠里、ちょっと聞きたい事があるんだが」

 

 教室であれこれ考えていると、和人に声をかけられて、現実に引き戻される

 

「なんだよ和人」

「悠里メカトロニクスコースに来ないか?」

「なんだよ急に俺が機械系あんまり得意じゃないって知ってるだろ?」

 

 あの一件以来、和人たちとは友人と言ってもいい交友関係を築くに至った。

 同じ学生という事で、仮想世界でパーティーが組みやすくALOでも一緒に戦ったりしている。

 

「その代り、プログラム系列はそれなりに出来ただろ?」

「あーいや、まぁ触りだけだけどな」

「アルゴリズムわかるだけでも良いからさ、俺の研究に協力しないか?」

「コースを移ってまでか? 一体何をしているんだよ?」

「百間は一見にしかずだ、今日エギルの店来れるか? 来れるなら今実験中の奴見せるんだが」

「今日はアルバイトもないし……ユリに連絡入れ置くよ」

「あー、ユリさんってさその端末に顔出す事できる?」

「ん、あぁ出来るようにしてある。 あんまりバッテリー使うから多様できないけど」

「それなら、エギルの店一緒に来てくれないか? ユリさんにも関係ある事なんだ」

「ん、わかったけど、ユリに関係してる事?」

「とりあえずみてもらったほうが早いと思う、放課後エギルの店でな」

 

 そういうと和人は急いで準備だといいながら、教室から駆けていった。

 何をするかはわからないが、ちょっとだけ楽しみだったりする。

 

『というわけで、ユリ放課後和人と一緒にエギルの店に行く事になった、ちょっとだけ仮想世界に行くのが遅れる』

『りょーかーい。 最近ユーリがキリトばっかりと遊んでて、私は悲しいです』

 

 しくしくと端末内で泣くようなポーズをとるユリ

 

『別にホモじゃないから安心してくれ』

『誰もそっちの心配してないよっ!』

『そんだけ元気あれば大丈夫だろ、エギルの店に着いたら回線繋ぐから』

『わかった、またねユーリ』

『あぁ――、またすぐに連絡する』

『うん』

 

 そういって俺は端末の切断のボタンを押す。

 その後少し、端末の通話のボタンをもう一度押そうと悩んだ後、端末をポケットに入れた。

 

 

「着たぞ和人」

「いらっしゃいユーリ」

「ちわっす、エギル」

「ちょっと待っててくれよ、ユーリ……ここをこうして、こうやってっと」

 

 その様子を、アスナ達と一緒に眺めていると、ポケットに入れた端末が震えた。

 慌てて端末を起動し、カウンターに置く。

 

『おっそーい!』

「悪いユリ忘れてたわけじゃないんだ、和人が面白そうな事をやっててさ」

『むー、やっぱりキリトと遊んでたんじゃないの! 最近キリトばっかりと遊んでさ、やきもちやいちゃうぞ!』

「ごめんってユリ」

 

 そのやり取りを聞いていると、アスナを初めとするメンバーがくすくすと笑い始める。

 するとエギルは無言で充電コードを手渡してくれた。

 それに微笑で返して、受け取ると端末に差し込む。

 

「それでアスナ、キリトは何をやっているんだ?」

「んー、私も詳しい事はわからないんだけど、多分ユイちゃん専用の奴だと思うんだけど……」

「ユイって……二人のこ、子供だよな?」

 

 震えるような声で言うと、今度はユーリを含めた全員に笑われた。

 ここでAIと言っても怒られそうだし、子供が一番妥当だと思ったんだけどなぁ……

 

「っとこれでいいはずだ、ユイ!」

『わかりましたパパ!』

 

 そういうといつの間に店の四隅の置いてあったカメラが、ジジジという音と共に少し動く。

 

「で?」

『これがどうしたの?』

「んー、簡単に言うと全てのカメラの直線状で交差する場所に、ユイがいるイメージがユイに認識されている」

「あー、VR空間?」

「に似たようなもんだ。 仮想世界をつくり出すんじゃなくて、仮想世界にいる人間が現実世界を認識するようにするシステムと言ったところか」

『えっ! ねね、キリト! それ私にも使える?』

「多分、ユイ、ユリに使い方を教えてあげてもらって良いか?」

『りょうかいしました!』

『よろしくねユイちゃん』

 

 そういうと端末から音が聞こえなくなった。

 ユイにこのシステムの使い方を聞きに行っているのだろう。

 

「それでこのシステム作るのに協力しろと?」

「話しが早くて助かるぜユーリ、どうだ?」

「どうせ今のコースはやることなくやってたしな、親を説得してみるよ」

「よしっ! これで作業員確保だ!」

「あれぇ……?」

「キリト君がやってることって、私達にしたら面白い事なんだけど、仮想世界から現実世界を見る必要って、今のところ少ないのよね。 だから研究人数も多くない」

「な、なるほどな。 まぁでもユリが喜んでくれそうだしやりたいことになるかもしれないし、丁度いいさ」

 

 彼女にとって現実は、はたしてどっちの事を指すのか考えたが、答えが出る事はなかった。

 

 

 バイトの帰り道、早百合さんに捕まった。

 正直なところさっさと家に帰って、ユリに会いたいのだが。

 

「さっさと家に帰って、妹と一緒に遊びたいって顔してる」

 

 わかっているなら何故止めたんだよ。

 いやまぁ、早百合さんも色々複雑なのだろうが。

 

「で、悠里はユリと仲良くやってるんだ」

「仲良くというか、一緒にゲームやってるだけだよ」

「でもユリにとっては、そのゲームは唯一の現実だよ?」

「――――」

 

 そんな事はわかっている、俺達が遊びでやっているゲームが、現実に変わってしまった。

 いつか脱出できるかもしれないという希望があったSAOとは違い、絶対に脱出できないゲームの世界。

 ユリはその悲しみを俺には出来るだけ悟らせないように、振舞っているのはなんとなくわかっている……つもりだ。

 

「約束したんだ、ユリの傍にいるって、そのために出来る事からしていきたい」

「そっか、いい彼氏持ったじゃないユリは」

「え?」

「なんでもなーい」

『いくらお姉ちゃんでもユーリは渡さない!』

「え? そういう話!?」

「隙あらば奪っちゃうからちゃんと見張っときなさいよ、ユリ」

『……わかってるよ!』

 

 

 未来と言うのは不確定である。

 

 ユリの存在を見るたびに思うことがある。

 

 現実という物が不必要になる時代が来るのではないかと。

 ネットの世界で永久的に生きる人間が生まれてくるのではないかと。

 制約だらけの肉体など捨て、仮想世界で生きる時代が来るのかもしれないと。

 俺はさっさと、ユリの世界に行くべきではないかと。

 色々考えても、世界がどの方向に向くかわからない。

 

 もしかしたら、アンドロイドが普及し、その人工知能にユリが利用され、現実世界に帰ってくる可能性もある。

 今以上にVR技術が進歩し、街中でもユリと散歩できる日が来るかもしれない。

 はたまた、全人類がネット世界の住人になり、向こうの世界で彼女と一緒になる可能性だってある。

 

 色々と思うことはある。

 けど今は――

 

 

「どうしたのユーリ?」

「あぁうん、ちょっと色々考えてて」

 

 仮想世界のベットの上で、隣で静かに眠る愛しい彼女を見つつ、色々考えていると、一緒に寝ていた彼女が目を覚ましたらしい。

 

「色々?」

「うん、色々この先の事とか、未来の事とか」

「そうなんだ」

「けど、色々難しく考えても先の事はわからんかった。 だからさ」

 

 ユリの頭の上に手を置く。

 

「今はこうやって、触れ合える事に感謝する」

 

 しかしどうやら彼女は不満そうだ。

 

「あの言動じゃ、その後の展開はやっぱりキスでしょ! 抱きしめでもOK!」

「その勇気はない」

「ヘタレめ!」

「ヘタレで悪かったな!」

 

 身体を伸ばして、ベットから降りてドアを開く。

 外には偽りの空が広がっている。

 となりで彼女が空を見上げる。

 彼女にとって、この空は偽りではなく現実の空なのかもしれない。

 

「今日はいい天気だねユーリ」

「あぁ、そうだな」

「ねね、ユーリ。 ユーリは一度あっちに帰って戻ってくるんでしょう? 今日はダンジョンに行く予定もないし22層でピクニックでもしない?」

「ん、そうだなキリト達も誘ってみるのも――」

「むー」

「……わかったよ。 二人っきりだそれでいいだろ?」

「うんうん。 じゃぁさっさとログアウトする! ユーリは私と違って、肉体の心配しないといけないからねっ!」

「――。 あぁ――、そう……だな。 直に戻ってくる。 だから一緒にピクニック行こう」

「うん! 直ぐに戻ってきてね。 今日はずーっと一緒だからね!」

 

 

 悠里は少し悲しそうな顔をした後、私の目の前からログアウトボタンを押した。

 その後で私は、システムメニューからログアウトボタンを押すが、その機能が発揮される事はない。

 

「だよね」

 

 毎日一回は、ログアウトボタンを押してしまう。

 もしかしたら、何かしらの影響でログアウト出来るんじゃないかって、そうちょっと考えてしまって。

 

「私未練、たらたらだなぁ……お父さん、お母さん元気してるかなぁ……会いたいなぁ」

 

 現実世界にいる友達や、両親に自慢したい。

 私にこんなカッコイイ彼氏が出来たって!

 自慢の彼氏が出来て、未来も約束してもらったって、

 お父さん怒るかなぁ、お母さん喜んでくれるかなぁ。

 ポタリと家の床を濡らしてしまう。

 

「直ぐに消せると言っても、ユーリが来たらばれちゃう。 だから泣き止まないとね」

 

 そう考えるが、涙が止まらない。

 止めようとすると、一向に止まる気配がない。

 床に座り込んで泣いていると、後ろから抱きしめられた。

 

「ごめん。 ごめんな」

 

 耳元で囁かれて、今まで必死に隠していた涙が溢れ出してしまう。

 

「ユーリが、悪い……わけじゃないっ。 私がっ、私が弱いから……」

「違う、違うんだ」

 

 ユーリの声も震えている、ユーリが悪いわけじゃないの!

 私が、私がもっと強かったら――。

 

「ごめんユリ。 ユリの気持ちを理解してあげれなくて、でも……それでも俺はお前に辛い事を願ってしまう」

 

 くるりと身体を180℃回転させられ、泣き顔をユーリに見られてしまう。

 ユーリの顔は申し訳なさそうな、寂しそうな……そんな複雑な表情をしている。

 

「それでも、俺はお前が存在してくれて嬉しかったんだ。 またこうやって傍にいてくれて――嬉しいんだ」

 

 肉体がなくなったと聞いた時は、仮想課の人に頼んで、私を削除して欲しいと思ったことがある。

 こんな閉じられた世界で、行き続けなければ行けないというのは苦痛でしかない、そう思っていたときもある。

 

「でも、俺の願いはユリにとって不幸ならば――ユリがして欲しい事を言ってくれ、それをやる。 やらせてくれ」

「わ、私は――、私は偽者だよ? 記憶は持ってるし、ユーリと過ごしたSAOの事も知ってる。 けど本当の私はもうお墓の下なんだよ?」

「そんな事は、偽者とか本物とかそんな事はどうだっていい、俺の目の前にいるお前は――俺にどうして欲しい?」

「私は、ユーリに……、笑っていて欲しい」

「そっか、ユリ俺も同じ気持ちだ。 一緒に傍で笑っていて欲しい」

「こういうのって、依存症って言うんだっけ?」

「なのかもしれない。 でもそれでもユリには、ここいて欲しいと、呪いの言葉をかけたい」

「そんな事言われたら……どうする事も出来ないじゃない。ホント呪いだね。 だったら解呪されるまで、頑張らないとだね」

「一緒に頑張ろうユリ、一緒に生きて欲しい」

「うん、ユーリ一緒にね」

 

 未来の事はわからない。

 でもそれでもこの日私達は、何があっても生き抜くと決意した。

 

 

 

 

 

 現在

 

「いやぁ……思い返すと、若かったなーと」

「いやユリお前は年とらないじゃん、そこまで青春やべー若いってやべー、とか思ってないだろ? 俺なんて思い出す度に赤面してるぞ」

「あー、フラフライト差別はダメなんだぞー」

「フラクトライトな、お前自分が保存されてるデータの場所ぐらい覚えとけよ……」

「ふーんだ、知らなくても死なないですよーだ」

 

 俺は今、現実世界で彼女と共に彼女の家に向かって歩いている。

 正直胃が痛いが、今更逃げ隠れできるわけでもない。

 俺の隣で歩く彼女は、俺の歩幅に合わせて自然に歩いている、ぱっと見は人間と区別はつかない。

 彼女の家で、インターホンを押す。

 するとあらかじめ連絡を受けていたのか、家から彼女の両親が出てくる。

 心臓がどくどくと早鐘のように動いている。

 正直逃げ出したいし、彼女を一緒にいるのには正直な話彼女の両親にいう必要なんて無い。

 それでも、俺はこうしたかったんだ。

 百合は現実世界に戻ってきて、人間として認識されるべきだと思ったから。

 

「百合さんのお父さん、お母さん。 彼女を……私にください。 お願いします」

 

 

 




本当に終わりです。
最初は長編にして、
SAO編→SAO終了後→早百合との絡み→ユリとの再開→現実世界でのごたごた→終了
と言う予定でしたが、ばっさりとカットして書きました。
オリキャラは始めて書いたので口調が安定していないの悔しいところ、精進しなければ、
いつかはリメイクし、長編に書き直そうかと思っていますが、他の作品がいろいろと放置状態で、新しいのはどうなのよ? ってことで、とりあえずはユリ達の物語はこれにて終了です。

やーもう少し心情とか、キャラの区別とかそういったものが出来るようになりたいですね。

最後まで読んでいただきありがとうございました。
またどこかでお会いできる日を楽しみにお待ちしております。
それでは、

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