ソードアート・オンライン 二次創作 『3人のユリ』 作:マスカルウィン
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2016年3月
数日後和人から菊岡と言う人と連絡がとれ、早めに会いたいという連絡を受けた。
そのことを伝えると、早百合さんは時間も聞かずに行く! と即答したのを覚えている。
かくして、早百合さんを初めとするメンバー、俺、和人、明日奈、里香、珪子と何故かエギルが同行する事になった。
「エギル付き合ってくれるのは嬉しいが、店は大丈夫なのか?」
「あぁ、問題ないあいつもいるしそもそも夜がメインだ、昼間は問題ない」
「そうか」
「それにだ、悠里その様子だとまだ早百合さんには言ってないんだろう? フォローするつもりで来たんだ」
「そいつは助かるが、なんでだよ。 借りや義理なんてなかっただろう?」
「あの時俺は70層にいた――、いや近くにいたんだ」
「そう、だったのか」
「あぁ、それによく店にきてくれた常連さんだったからなお前達は、これぐらいはさせてくれ」
「すいまない。 ありがとう」
「おいおい、礼は終わってからにしてくれ、それがどのような形であれな」
「あぁ、そうだな――」
「おーい、エギル、悠里! 何話してんだよ!」
女性人に囲まれたキリトが声をかけてくる。
まったく、あの世界の勇者様は本当に羨ましい限りだ、俺のような悩みも持ってないんだろうなきっと。
「悠里! 一緒に行くんでしょう! 早く早く!」
早百合さんにも催促され、仕方がなく一歩を踏み出す。
今まで逃げてきたんだ、これ以上逃げるわけには行かないし、そろそろ向き合うしかないんだろう。
そう考えてはいる、考えてはいるんだが、いつも考えるだけで実行に移せないのも、また現実であった。
「初めまして、泉 悠里君そして袴田 早百合さん 総務省仮想課の菊岡と言います」
「始めまいして、菊岡さん、なぁキリト紹介してもらってなんなんだけど、非常に胡散臭いんだが」
「安心してくれ、中身も胡散臭いから」
「酷いなぁキリト君も、悠里君も」
「そ、それで妹の行動ログを見せてくれると言うお話だと思うんですが!」
早百合さんはいつにもなく積極的に、菊岡さんに言い寄ると、菊岡さんはその前にと椅子から立ち上がった。
そしてお手本のような礼で俺達に頭を下げた。
「私達は力不足で、悠里君には2年間あの世界に捕らわれ、早百合さんにいたっては妹を亡くす事態にしてしまった、本当に申し訳ない。 どんな罵りでも受ける覚悟だし、どんな小さなことでも協力したいと思っている」
静寂が部屋を包む。
あの事件の事でこうやって面と向かって頭を下げられたのは初めてだからだ、どういう風に答えていいか分からない、わからないが――。
「俺は……俺は、あの世界に捕らわれたこと自体は気にしていない」
「私は、気にしてないと言えば嘘になります。 あの世界の事を怨んでいないと、生き残って楽しそうに学校に通っているSAO帰還者を見てなんであそこに妹がいないの? と考えた事もあります。 けどそれを怨んだところで、菊岡さんを罵ったところで、妹が帰ってきてくれるわけじゃないですから」
「菊岡さん、この二人はアンタに謝ってほしくてここに来たわけじゃない、アンタが持っている行動ログを見たくてここまで来たんだ」
「あぁ、そうだったね。 それでは早速『ユリ』さんの行動ログを見ていこうか。 先に注意を言うと亡くなったプレイヤーは僕の権限で名前を見れるようにしてる。けど、無事に生還したプレイヤーに関しては、プライバシーの権限上見れないんだ、そこのところを留意してほしい」
部屋の電気を消し、菊岡は大きなディスプレイにポリゴンで再現したアインクラッドを表示させる。
「早百合さんの妹さん、『ユリ』さん本名袴田 百合さんは2014年11月5日亡くなった。 場所は70層迷宮区」
ポリゴンで表示されている場所の近くには、数人の名前が伏せられたプレイヤーが表示されている。
つまり今この世界で生きているプレイヤーだ。
「70層から遡るのと、最初から遡るのどっちがいいですか……? 自分でも嫌な質問だと思っていますが、もし意見があるのなら――」
「最初からでお願いします」
「わかったそれでは、最初……1層からどのように生活していたか、行動ログを遡っていこうか」
「ユリさんは初めて1ヶ月はずっと、同じ場所に閉じこもっていますね。 キリト君はこの場所がわかりますか?」
「あぁ、宿屋だな。 彼女は初めはずっと引きこもったプレイヤー達と同じように引きこもっていたみたいだな」
場面が変わり、彼女が移動を開始する。
丁度第1層が攻略され、次の階層への道が繋がった時の話しだ。
「こうみると、第1層攻略はディアベルが言った様に、始まりの街にいる人たちに影響を与えたんだな」
「そうね、ディアベルさんがいなかったら、もっと攻略は遅れていたのかもしれない」
「ボスを倒し2層に到達し、いつかこのゲームがクリアできるって始まりの街にいるみんなに伝えなきゃならない……、か俺も覚えている、その後話しもしたからな、あいつは良い奴だった」
「……そうだな」
キリト、アスナ、エギルはあの頃を思い出すかのように話している。
俺は攻略組みではなかったから、あの会議でどのような話しをしたかは知らないが、結末だけは知っている。
リーダーであるディアベルはボスに挑み亡くなった、そして噂ではβテスターがその後LAを奪ったという事だ。
次々に場面が変わるのを俺達は、早百合さんにどのような場所でどのような物がある等口頭で説明しながら、ログは進んでいく。
そして遂に来てしまった、50層アルゲート、エギルの店の前に。
「ここは何がある場所なんですか? 和人さん」
「ここは――ここには……」
珍しくキリトが言葉に詰まっている、覚えていないわけではない、言っていいのか悩んでいるのがわかる。
「ここには俺の店がある」
そんな誰もがいえない空気の中で、エギルはその言葉を言った。
「すいません菊岡さん、ログの再生をとめてもらってもよろしいでしょうか?」
「あぁ、勿論」
「エギルさん、エギルさんはもしかして、ユリ……妹に会った事があるんですか?」
「あぁ、今ここで確証を持った。 彼女がユリという事に」
「それでは、妹とずっと一緒にいるプレイヤー! その人の事をご存知ですか!」
これまで行動ログをずっと見てきて、ずっと聞きたかったのだろう。
寝るとき以外ずっと一緒にいる名前を隠したプレイヤーの事を。
「知っている。 それもその後結婚することも知っている。 結婚式に呼ばれたからな」
「じゃぁ!」
「教える事は出来ない」
「何故ですか! この人が一番妹と一緒にいたんですよ! あの世界での妹の事を――」
「知っているだろうな、このゲームにログインしたプレイヤーの中で」
「だったら何故!」
「彼女は亡くなっているんだ、誰が一番悲しんだと思う? 2年間ずっと一緒にいて、お互いを支えあって、このデスゲームに挑んだ彼とは思わないか?」
「それはっ、そうかもしれませんが……」
声が小さくなっていく、エギルは……エギルは悪役を引き受けてくれたのだ。
俺がずっと逃げれるように、彼女とこの現実世界で嘘で塗り固めた俺と友達でいられるように。
けどそれは本当に正しい事なんだろうか?
俺は――、まだ彼女の死を受け入れてないのか? 認めてないのか?
「早百合さん」
そんな中キリトが声を掛けた。
「俺は――、あの世界で一番最初に甘えた相手を亡くしている。 いや多分好きだったんだろうな……」
え――? あの黒の剣士が?
キリトはアスナ達を見ながら非常に辛そうな表情を浮かべつつ、ぽつぽつと話しを続ける。
「サチ達は、ソロで攻略組みに挑んでつかれきっていた俺を迎えてくれた。 けど結果はサチ達の全滅で終わった。 俺のせいでだ。 未だに夢に出るよ、俺のせいで皆は死んだんだって言う罵倒の声、そしてその後サチ達のギルドマスターはアインクラッドから身を投げた、そんな夢」
「俺はサチの死を乗り越えられなかった、だからクリスマスイベントで死んだ人がよみがえるアイテムが手に入ると聞いて、死に物狂いでレベルを上げたクライン達に言わせると狂気を感じるレベルにだ」
「結果は、俺の想像とは違うアイテムだったがな――。 あの頃のレベリングのおかげで俺は攻略組みにいられたと言ってもおかしくはないレベルだったな」
「それが――どうしたというんですか、この話に関係なんか――」
「人の死は簡単に乗り越えられるもんじゃない。 乗り越えたと自分で思っていても、それは乗り越えてないんだ。 SAOが終わって一年以上経つけど、そのユリのパートナーだった人は、未だに彼女の死に向き合えてないのかもしれない」
「だからと言って、その人が乗り越えるのを待って? そんなの――」
「――でも早百合さんには、多分聞く権利があるとは俺は思うんだよな。 菊岡さんキャラクタネーム『ユーリ』の名前を表示してほしい」
「わかった。 でも本当にいいんだね?」
「あぁ、多分背中合わせじゃダメなんだ、見てる振り、見てない振りはもう終わりなんだ」
俺は初めて、あの世界で生きていた、ユーリというアバターと向かい合った気がする。
どんな罵倒や罵りが飛んでくるかわからない、それは確かに恐怖だが、彼女の死に向き合わなくちゃならない時なんだ。
覚悟して待っていると、罵声の言葉も、何も聞こえてこない。
ドスンと胸に重みを感じで目を開ける。
そこには俺の胸で謝りながら泣く早百合さんの姿があった。
「な、なんで謝ってるんだよ早百合さん、俺がずっと隠してきたんだよそれが問題なんだ」
「ごめんなさい。 ごめんなさい。悠里君」
「だから謝らなくて、罵ってくれよ。 彼女を助けられなかったって、なんで助けなかったんだって! 頼むよ……」
「そんなの……いえるわけないじゃないですか! だって悠里君今泣いているんですよ!」
「え?」
頬を触ると涙の感触が手に引っ付いた。
あれ? おかしいな泣くつもりなんてなかったのに。
なんで涙が出るんだろう。
「ユーリお前は、俺の話の途中から泣いていたんだ。 ずっと」
「キリトの話しの途中から?」
「あぁ」
そうだったのか――。
キリトの話を聞いて、俺はずっと背中合わせで立ってたあの世界の俺とようやく向き合ったのかもしれない。
キリトはずっと向き合っていたんだ、その上でこの世界で生きていたんだ。
それに気づかされて、改めて気づいてしまった。
「俺が愛した、『ユリ』はこの世界にはもういないって事を」
2014年11月5日
70層迷宮区
「ねぇユーリ私のこと好き?」
「何度聞くんだよ、好きじゃなきゃ結婚なんてするわけないだろ」
「そっかー、そうだよねー」
にひひーと笑いながらユリが先行して迷宮区を歩く。
もう少し警戒心を持ったほうがいいかもしれないが、俺達のレベル85、この辺りならばお互いソロでも狩れるレベルだ。
数ヶ月前エギルに色々頼んで、ようやく俺達は結婚することが出来た。
とは言え、結婚してもお互いやる事は変わらない。
毎朝決まった時間に起きて、狩りに出て食事をして笑いあうのだ。
唯一変わったとすれば、同じ部屋の宿屋で毎日寝泊りするようになった事ぐらいか。
「そういえばさ、ユーリ」
「ん、なんだよ また好き云々だったら怒るぞ」
「違うよ、ねぇ、マイホーム持ちたくない?」
「マイホームねぇ……」
お互い贅沢やら趣味にお金を掛ける人間ではない、故に結構な金額が共通化されたストレージに入っているが、家を買うとなったらどうなんだろうと首をかしげるレベルだ。
「ねっねっ! 休日は川につりに行ったり、山登りしたりピクニックして毎日幸せに暮らすんだ。 ここじゃそれも出来る!」
「まぁ確かに理想的な日々だな」
「でしょ? これで子供も作れたら最高なんだけどなぁ……」
「ぶはっ」
思わず飲んでいた飲み物を吐き出してしまう。
いや確かにそういう行為はしてないわけではないのだが――。
「あれ嫌だったの? 夫の愛はその程度なのかー妻は悲しいなぁ……しくしく」
「いや別にそういうわけじゃないんだがね、その」
「嫌なの?」
「いやだから……」
「嫌なんだーそっかー……」
「別に嫌じゃないです! そういう風に生活できたら毎日楽しいだろうな!」
半分やけになりながらいうと、にひひーと言った風に笑顔を振りまいてくれる。
俺は彼女のこの笑顔が非常に好きだったりする。
いや違うな、この笑顔に俺は惚れたんだろう。
すると少し前を歩いていた、ユリがぴたりと歩みを止めた。
「どうしたんだ?」
「んっとねー」
見えていないはずの俺のシステムメニューをなれた手つきで弄って、索敵スキルを発動させる。
すると情報屋で貰った地図の壁の向こうに、死神タイプのモンスターの姿が確認できた。
「隠し扉?」
「みたいだね、多分こうやったら開くんだけどどうする?」
「罠の可能性のほうが大きい気がするんだが」
「でも未探索エリアなら、宝箱の可能性もあるよ?」
「そうなんだけどなぁ……ポートとかキチンと準備してから行くか。 とめても無駄なんだろ?」
「さすが私のこと良くわかってる!」
ユリがちょいちょいと扉らしき部分を触ると、石の壁がゴゴゴと動いて小さな扉を作り出した。
ユリは開いたー♪ と言いながら、その中に入っていき、俺はその後に続いた。
そこは明らかに異質な空間であった、まるでそうゲームの世界とはかけ離れた場所。
周りの石壁が真っ白なコンクリートみたいな物質で出来ており、その真ん中にゆらゆらと黒い死神が浮かんでいる。
その黒い死神の足元には小さな黒い石碑のようなものが存在している。
「なんなんだここは」
短剣を構えながらつぶやいて周りを見渡すが、それ以外に何もなさそうだ。
「ユリ引こう、何かがおかしい」
「うん、これはヤバイ逃げよう」
そう二人で言い合い、そのおかしな空間から出ようと話し合った後に、ハラにユリの槍の柄の部分がソードスキルを発生させながら命中する。
「ガハッ」
溜まらず空気を吐き出し、身体が空中に浮き扉に向かって体が飛ばされる。
薄れていく意識の中で、彼女は此方を向きながら叫んでいた。
「大好きだよ!」
彼女の眼前には死神の鎌が迫っている。
その後の事が容易に想像できた、そして何故俺に向かってソードスキルを発動させたかも。
「ユリっ!」
落ちていく意識の中で、ありったけの声で叫んだ、その声が彼女に届いたかわからない。
そのまま扉に叩きつけられて、俺の意識は消え去った。
そして目を覚ますと俺は病院のベットの上で寝ていた。
2016年3月
「それが俺が見た彼女の最後の姿だ」
「そう、でしたか。 妹は本当に悠里君の事が好きだったんですね」
「あぁ、俺もアイツの事は絶対に忘れる事は無いな」
「補足させてもらうと、その後ユーリを宿屋のベットまで運んだのは俺達だ」
エギルが申し訳なさそうに言う。
「じゃぁエギルはあの部屋の事を知っているのか?」
「いや知らない、俺達がお前の元に駆けつけたときには扉なんてなかった。 念のため索敵スキルを使ってもらったが、辺りにモンスターなんていなかった」
「じゃ、じゃぁあの部屋は俺の妄想だって言うのか! エギル!」
「そうは言っていない、落ち着けユーリ。 ただ何かしらの限定の部屋だったんじゃないかと俺は考えている。 今ではたしかめる術なんかないけどな」
「で俺は、ゲームが終了する2日間ずっとベットで寝てたわけだ」
自虐的に言うと早百合さんが、ぽんぽんと頭を撫でてくれた。
「けど……妹が亡くなった場所がそんなよくわからない場所だったなんて、もし亡くなった場所がわかるのなら、一度訪れたいと思っていたのですが」
「訪れたい……? あぁALOか」
流石に今の俺にあの場所に行く勇気は俺にはないなぁ……と心の中で苦笑していると、今まで聞いた事がないような声が部屋の中に響いた。
「パパ、ママ多分その場所はコンソールがある場所です!」
「ユ、ユイ? ダメじゃないか急に出てきちゃ」
「ちょっとまってキリト君、ユイちゃんそれって私達がアインクラッドの地下で見つけたあの場所の事?」
「そうです! パパがここに行けばその場所に行く事ができるはずです! 菊岡さん!」
「いやしかし、この場合はちょっと職権乱用とかに抵触しそうなんだけど……」
「お願いします菊岡さん、妹が亡くなった場所見たいんです」
「俺からもお願いします。 アイツが、ユリが最後に居た場所に行きたいんです」
「わかった、ちょっと待っててくれ一応聞いてみるだけ聞いてみるよ」
ため息をつきつつ菊岡さんはどこかに電話を掛け始めた。
行った所で彼女がそこにいるはずがないし、現状は何も変わらない、けどそれでもっ……。
30分ぐらい経過したんだろうか菊岡さんが頭を掻きながら戻ってきた。
「どうでしたかっ!?」
「ちょっと複雑な事情が出来てしまった、いや茅場先生に複雑な事情にされてしまっていたというべきか」
「70層迷宮区のデータは貰った、けどこのデータだけは旧SAOのデータで構築されていることがわかったんだ」
「というと?」
「クリアして崩壊されたと思っていたあの時のSAOのデータでここだけは構築されている、と言えばいいか?」
「なんだって?」
キリトが驚いた声をあげる。
それはそうだろう、ALOで実装されている新生アインクラッドはアインクラッドコピーであり、表向きは旧SAOサーバーにあったとされているが違うのだ。
「それでこの迷宮区は何故か、茅場によってロックが掛けられている地点があるんだ、そのせいで今のALOの管理者達が手を出せないようになってる、その場所がここだ」
70層でユリが亡くなった場所を菊岡が指差す。
居ても経っても入れなくなった俺は、部屋から飛び出そうとする所をキリトに腕を掴まれる。
「ここからダイブは可能か?」
「すいまいが人数分のアミュスフィアは用意できてないんだすまない」
「それなら問題ない、俺達はアミュスフィアは自前で用意している」
「準備がいいな和人……くそっ俺は家に帰ってもアミュスフィアなんて……」
すると菊岡は一番大きな引き出しから、見慣れた物を引っ張り出してきた。
「なんで、それがここに――」
「もしかしたら必要になるかもしれないと思って、ここに用意していたんだ、使ってくれ」
「わかった」
菊岡さんから政府に預けたはずの俺のナーヴギアを預かり被る。
早百合さんのほうを見ると、用意していたのかアミュスフィアを被っている。
「いいかい? ログインポイントはその扉の前に設定してある、モンスターは沸かないから安心してログインしてくれ、後は向こうで」
菊岡のいう事を聞いて、過去一度だけ唱えた異世界に行くための呪文を叫ぶ。
「リンクスタート!」
2016年3月
70層迷宮区
まるであの場所の再現だな。
再びログインした場所で自分の姿を確認する。
あの場所に行ったときのままだ、腰に備え付けられた武器もポーチの中身もそのままだ。
周りを見渡すと、キリト達が先にログインしているのがわかった。
キリト達の姿は、ALO用に改良されており、耳が生えたり尻尾があったりしている。
早百合さんのアバターは現実世界の早百合さんとは似ても似つかない姿をしている。
本来オンラインゲームはそういう物なんだろうけど、なんだろうか少し残念だ。
「そのアバターはなんというか懐かしいな」
「俺にとっては、ようやく出会えたって感じだな」
キリトの問いに答え、そのまま扉があったとされる場所に向かう。
1年以上前ユリが行った仕掛けをはずす行動をしてみるが、扉はうんとも言わない。
「クリスハイトこれは?」
「扉が管理者権限でロックされている、本来開くはずのない扉ってことかもしれない」
「ここはコンソール部屋ですから、GMが色々操作するための場所のはずなんです、権限がない人は本来開くはずがないんですが」
キリトの妖精? のユイとクリスハイトがそれに答える。
俺は溜まらずガンガンと扉があったらしき場所を蹴ってみるが、開く気配がない。
「やっぱり、何もないのか――」
「クリスハイト、これから聞く事は他言無用、いや絶対に聞かなかったことにしてくれよ」
「あぁわかったよ」
「システムログイン。 ID<<ヒースクリフ>> パスワード……」
「キリト君、君は何故そのIDとパスワードをっ……」
「他言無用で頼むといったはずだクリスハイト、これならどうだ開くか?」
キリトが扉をクリックすると、メニュー画面が開く。
メニュー画面にはコンソールの扉を開きますか? 書かれている。
キリトは俺と早百合さんを一瞥した後、扉を開くというボタンを押した。
ゴゴゴという音と共にゆっくりと扉が開いていく。
扉の中に全員が入ると、また扉が静かに閉まっていく。
反射的に剣を持ってしまったが、何かが襲っていく気配がない。
しかし前回入ってきたときより暗い、なんていえばいいのか、電力が足りてない部屋と言うべきか。
『この部屋に入ってきたという事は、運営者か、それともハッカーか……誰かかはわからないがこのメッセージを残す』
「この声は、茅場の声!?」
キリトが驚きながら声を主を探すがそこには茅場は存在しない、恐らく録音メッセージだろう。
『私はこの世界を作り出した、茅場晶彦だ。この場所でやってはいけない唯一のミスをおこしてしまった』
「唯一のミス?」
『みていただいたほうが早いだろう』
そう声が聞こえると、一気に明かりが辺りを照らした。
あまりのまぶしさに目が眩んでしまったが、徐々に目が慣れてくる。
そしてかつて死神が居た場所に、一人のプレイヤーが倒れていた。
「ユリ……? ユリ!」
慌てて走り出すユリは現実世界には帰っていない、けどあの姿はっ あの時の……。
抱きかかえて顔見ると、間違いなくユリだ、あの時のままの姿のユリだ。
『彼女とその相棒がこの部屋に迷い込んでしまったのだ。 本当にこれだけは私のミスだ。 そして本来ある程度の権限を持つユニットしか入れないこの場所でそのユニットを近づけないようにするためのボスモンスターと戦ってしまったのだ』
「そのせいでユリは死んでしまったのか」
『しかし彼女はその相棒を守って、あの死神に勝利をした。 パートナーの元に帰りたいという一心でその心の力と言えばいいのか、その力を持って本来倒す事ができないボスモンスターを倒してしまった』
『しかしながら、この場所は死神を倒したつまり、プレイヤー以外が入ったと勘違いをし、この場所を自動的にサーバーから切り離したのだ。 それと同時にナーヴギアは彼女が死んだと誤認識し、10秒間の死の宣告をし始めた』
「そんな馬鹿な……じゃぁ彼女はお前の殺されただけじゃないか! 勝手に! 無慈悲に!」
『私は、機械を止める術を持ち合わせてなかった、死の宣告は絶対でありそれを慈悲で私でも解除出来ない様にしていたのだ、しかし――、彼女の脳のデータはフラクライトにコピーさせてもらった。 彼女の肉体は死んでしまったかもしれないが、彼女の意思はまだ生きているはずだ』
ユリの顔を見るが、その素顔は静かに眠ってるようにしか見えない、それこを現実世界で死んでるようにしか見えない。
『そこれでお願いがある。 この場所を見つけた人よ、彼女の事を本当に思う人の手により目覚めてやってほしい。 彼女の事を心のそこから想い、願う。 そう彼女が見せてくれた心の輝きがあるなら、彼女は間違いなく目覚めるだろう。 彼女が目覚めてくれる事を願う」
そういうと、その音声メッセージは続きをいう事はなかった。
どういう事かわからない、わからないがもしかしたら彼女が目覚める可能性があるかもしれないという可能性だ。
「ユリ、聞こえるか?」
「色々な事があったんだ、君の姉さんにあったり、そのお姉さんに振り回されたり、ほらユリお前は誰よりも嫉妬しやすかったよな?」
しかし彼女が目覚める気配がない。
心のそこから願う? 心のそこから想う? そんな事したって彼女が目覚めるわけがないじゃないかという考えがよぎる。
「あきらめるなユーリ!」
「キリト……?」
「願うんだ、願い続けるんだ! もう一度彼女と話したいと。もう一度立ち上がる力がほしいと! この世界は答えてくれる!」
「もう一度……」
「ユリ、一緒にマイホームを買って過ごすんだろ? 何度も何度もお前が嫌がるぐらい好きだって言ってやる、だから起きてくれよ……」
自然に出てくる涙をぬぐう事を忘れて、結婚式に一度しかしてことないキスをした。
目覚めてくれるなら毎日キスだってしてやる、毎日好きだって言ってやる、だから起きてくれ頼むっ!
どれぐらいそうしていただろう、目を瞑っていると、俺の涙をぬぐう手を感じた。
「遅いよユーリ、待ちくたびれちゃった」
「ユリ! 俺は俺は――」
「マイホーム買って、毎日キスで目覚めて、毎日好きだって言ってくれるんだよね?」
「もちろん、もちろんだ約束する」
にひひーと笑って彼女は俺に抱きついてきた。
俺はそれに答えて抱きしても、もう一度愛おしい彼女にキスをした。
ソードアートオンライン 二次創作『3人のユリ』 終わり。
最後はかなり急ぎ足になった気がします。
ていうか実際急ぎ足でしたし、
とりあえず予約投稿はここまで、
エピローグはちょっと考えてはいますが、書くかは未定です。
お付き合い頂きありがとうございました。