ソードアート・オンライン 二次創作 『3人のユリ』   作:マスカルウィン

3 / 5
予約投稿


3話

 2016年3月

 

 カランカラン。

 どう見てもバーにしか見えない扉を開いて、和人達に続いて店内に入る。

 そこには数人の学生がカウンターに座って、談笑をしていた。

 

「はじめまして、私は早百合って言います」

「はじめましてお嬢さん、私はアンドリュー・ギルバート・ミルズと言います。 キリト達にはエギルと呼ばれています」

「私は 綾野 珪子って言います。シリカって読んでくれても構いません。よろしくお願いします早百合さん」

「私は、 篠崎 里香。 リズって呼ばれてるわ、よろしく!」

「俺の名前は 壷井 遼太郎、クラインって呼んでくれ!」

「私の名前は朝田 詩乃よろしくね」

「つーかクラインなんでお前ココにいるんだよ、仕事は?」

「今日は早く終わったんだよ! ALO行こうかと思ったんだが、飲みたくなってな!」

「飲み過ぎないようにな、それで皆、少し早百合さんの話を聞いて欲しいんだが」

 

 キリトの合図で数度目の彼女の説明が始まる。

 その説明の途中でエギルがちらちらと俺のほうを見たのは、きっと気のせいではあるまい。

 

「なるほどねー、ユリさんねぇ……うーん私は記憶が無いなぁ。店に来てもらった可能性は無いかなぁ」

「そっちの彼は何度か来たけどね、そうでしょユーリ」

「あぁ、あの時は助かった」

「現実世界でもよろしくね!」

 

 リズから握手を求められそれに答えていると、シリカがぽつぽつと話し始めた。

 

「多分ですけど、私達より少し上のレベルに槍使いのユリって言う人がいたはずです」

「あぁ、俺達もその記憶はあるんだが、流石にどんな行動してたかまで覚えてないんだよな」

「確か、ユリさんって結婚していた筈なんですけど……その話も聞いてません?」

「え? それは初耳だったな」

「へぇ、キリト達以外にSAO内で結婚しているプレイヤー居たんだなぁ」

「そりゃそうだろ、結婚しておかないと結婚の情報なんて流れないんだし」

「そ、それで、シリカさん相手のプレイヤーとか、今結婚した相手がどうかしてるかは知りませんか!」

「流石にそこまではすいません。 でも中層プレイヤーで結婚したプレイヤーが居るって一時期噂になりましたから」

 

 静かにため息を吐き、これ以上情報が出ない事を感謝する。

 エギルも話す気がない様だし、少し安堵しわいわいとあーでもない、こーでもないと話してる連中から少し離れてカウンターに座る。

 

「で、なんで隠してるんだユーリ」

「そうだ、俺たちが話さなかったからいいものの、話したら一発でアウトだぞ」

 

 エギルとクラインに問い詰められるように話しかけらる。

 

「エギルはともかく、クラインまで知ってるとはな」

「俺は俺で、独自のコミュニティってのを持ってるからな」

「で何で隠してるんだユーリ」

「そもそも俺が知ってるユリと彼女が言うユリが同一人物である可能性がない」

「まぁ、そりゃそうだが」

「それとも、お前ユリが亡くなった事は、今でも自分の責任とか思ってるんじゃないのか?」

「っ……」

「図星か、別に止めないけどな、キリトがこの話題に突っ込んでいる以上、最終的にはお前に彼女はたどり着くぞ」

「わかってる。 それまでに気持ちを整理しないといけない事も」

「んなら、俺はユリとユーリの関係の話題は、知らない事にするぜ、エギル?」

「あぁ、そうだな、他人の過去をべらべら喋る趣味は俺にはないからな」

「俺にだってねぇよ!」

 

 その後クラインとエギルは真実を隠し、

 それ以外のSAO経験者たちが、ユリの事を話していたが、結局のところ和人が仮想課に所属している人物、名前は菊岡と言う人に相談するという事で落ち着いた。

 しかし、話しはそれだけでは終わらなかった、和人達がこの話題に興味を示し、どういう結末になるのか気になったのだ。

 本来当事者であるはずの俺は、断りたかったが真実を話していない現状では、当事者ではない、当事者である早百合さんが勿論と言った時点で、和人達は関係者になってしまった。

 

 

 2013年1月頃

 第2層ウルバス郊外にて

 

 

 成り行きでソードスキルの使い方を教えて、成り行きで一緒にパーティーを組む事になったユリ。

 ちなみに俺は何度も俺となんかとコンビを組むぐらいならば、多人数でパーティーを組んでる人のほうが安全と言ったのだが、軽くスルーされてたりする。

 2層のボスを倒し、攻略組みが3層に上がろうと言うところで、俺たちは初めて2層のフィールドに出た。

 レベルは13前後の二人なので、冷静に考えたら3層も大丈夫なんだろうが、攻略組みになってひたすらレベルを追いかけるつもりは俺にはなかった。

 以前その話をユリにしたところによると、

 

「ユーリは攻略組みから一歩引いてのんびりするんでしょ? ユーリが攻略組みに行かないなら興味ない」

 

 と言われた以上、攻略組みに参加する? と言う話題はもう二度と振らない事にした。

 頼られているのは嬉しいのだが、そういう風に面と向かって言われるのは非常に恥ずかしいのだ。

 

 そんなわけで俺たちは、武器強化に必要なアイテムを落とすウインドワプスを狩り続けていたのだが中々経験地効率が良い事に二人は気づいてしまった。

 周りには他のプレイヤーがいたが、俺たちは競うようにワプスを狩っていた時の話しだ。

 

「ユリ、そろそろ一度安全地帯で一度休憩しよう」

「んーんー、もう少しでレベル上がりそうなんだよー」

 

 とは言っても、ここは死のゲームに変わった気を抜くと本当に死ぬゲームだ、適度な休憩も大事なのだろうが……

 

「まぁ今は他のプレイヤーも少ないからな、狩りつくしたほうがいいんだろうけど」

「でしょ! 針なんて一つもドロップしてなんだよ!」

「え? マジ? 一つも落としてないの?」

「全然ドロップしないんだよ~。 このエリアドロップ率設定した人だれよホント!」

「えぇ……かれこれ2時間狩り続けて針が一つのドロップ無しとか……うん、やっぱり一度気分を入れ替えるために休憩しような?」

「むー」

「そんな顔するな、針は強化90%ブーストまで譲るから、な?」

「え、ホント? ありがとうユーリ。 じゃぁ行こう! 今すぐ休憩しよう!」

 

 にへへーと笑いながら、お礼を言われて顔が少し熱くなったが、ユリは今すぐにでも安全地帯に行きたくなったらしく、感づかれてはないらしい。

 ワイプが沸く場所からユリに手を引かれつつ街のほうに向かう途中、石橋が見えてきた。

 情報によると、この場所から落ちた場合レベル5ぐらいなければ即死だそうだ。

 あいにくお互いのレベルは14を超えているので、死ぬ事はないだろうが、用心に越した事はない。

 流石のユリもこの石橋だけは、ゆっくりと歩いている。

 石橋の半ばだろうか、差し掛かった時にユリの身体がふらっっと揺れ、俺の手を引っ張る力が大きくなる。

 

「おい!」

 

 大声を挙げるが、ユリはそのまま石橋の下に吸い込まれるように落ちていく。

 慌てて俺は脚で踏ん張ろうとするが、その甲斐虚しく石橋の下に吸い込まれていってしまった。

 

 

「おい、ユリ大丈夫か? しっかりしろ」

 

 石橋の下で意識がなくなったユリを揺さぶってみるが、どうにも応答がない。

 第1層に居る時に、大規模な回線切断は体験したが、あれともどうにも違う。

 嫌な予感がし、索敵を行うとビンゴだ、敵の姿が数対確認できた。

 情報だと恐らくスライム系列のぬめぬめ系モンスターだろう。

 彼女を守りつつ、ここで篭城するか、それとも出口を目指すか……

 あまり考えている余裕はない、彼女の容態がどういうものかわからない以上、早めに圏内に戻るのが妥当だろう。

 そう決心した俺は、リアルでも触れた事がない異性の体を持ち上げ、背中に乗せた。

 この状態だとソードスキルは使えない、つまり敵から逃げるしかない。

 索敵スキルを連打しながら、敵の位置を把握しつつ全速力で出口を目指した。

 

「他のプレイヤーが居ませんように」

 

 敵にモンスターを押し付けるMPKにならない事を祈りつつ、敵の攻撃を出来る限り避けながら谷底を進む。

 マップは提供されていたので、出口の方角はわかるのだが、いかんせん敵が多い。

 全ての攻撃を避けているつもりで、防御力を低下させる酸のような攻撃が少しずつ命中してしまう。

 スライムの酸の攻撃を腕に装備したレザーでやむ得なくガードすると、防具破壊が発生し、レザーが溶けていく。

 慌ててHPバーを見るが殆ど減っていない、単純に防具だけを破壊する攻撃らしい。

 安堵のため息を出した時だった、背中にドバァという効果音と共にバケツの水をひっくり返したかのごとく防御を破壊する液体が流れた。

 慌ててユリのHPを確認するが殆ど減っていない。

 

「よかった……いや……よくない」

 

 レザーで防御する→防御した部分が溶ける。

 身体全体に液体がかかる→全ての防具が溶ける。

 

 頭の中で高速回転し出した結論に、驚きながらも谷底をかけていくと、背中にはっきりと突起物が感じられる。

 これは、まずい。

 

「冒険者さん! こっちです!」

「へ?」

 

 そんな色々とヤバイ谷底で急に離しかけられて面を上げる。

 そこにはクエストマークがついたNPCが隠し扉のようなドアを上げて手を振っていた。

 そこに転がり込むように入ると、NPCが慌てて扉を閉める。

 

「大丈夫ですか? 今のスライムたちは攻撃力はないですが、防具を破壊する特性があるんです、良ければ休憩していきませんか?」

「助かったよありがとう、それじゃその言葉に甘えさせてもらおうかな?」

 

 そういうと、クエストマークが点滅しビックリマークに変更された、どうやらクエストを受注したらしい。

 では此方にと案内された場所は、洞窟の中のはずなのに宿屋みたいな環境であった。

 とりあえずベッドに彼女を寝かす、寝かしてから気づいたのだが布団の中に彼女を入れたほうが言いと後悔したのはその後でだ。

 

「そもそもなんで、ユリは論理コード解除してあるんだよ……」

 

 ため息をつきながら下着姿なのだが、下着も所々解けてしまっている彼女を布団をかぶせる。

 するとその重さで気がついたのか、それとも偶々目が覚めてしまったのかはわからないが。

 

「大丈夫か?」

「え、あ私どうしたの?」

「知らんが、橋の上で気を失った、んでもって、橋の下にまっさかさまで谷底にいたNPCに助けてもらって今ここ」

「そうなんだ、ありがとう」

 

 身体を起き上がらせようとしたので、それを肩を掴んでとめる。

 

「な、何?」

 

 頬を染めながら驚いた表情を向ける。

 

「そのままおきると、多分俺が死ぬからやめてくれ」

「それってどういう!」

 

 そういうと慌てた様子で飛び起きると、解けた下着を身に着けた裸体で、床にユリが立った。

 

「なん、でっ私裸……」

 

 ふっ、死んだな。

 その後に頬と腹にダメージを食らったのは、言うまでもない。

 

 その後裸になった理由を話すと、納得したのか謝ってくれた。

 

「そもそも何で論理コード解除してるんだよ」

「何それ?」

「システムメニューの深いところにあるだろ、説明読んだらわかる」

 

 そういうとユリがメニューをスクロールして確認する。

 操作するところを見ると、キチンと論理コードを復活させているのだろう。

 

「あー、これねなんとかログアウトできないかって色々弄ってた時に、解除しちゃったのかなぁ……」

「あぁなるほど、あの時はパニックになってたからなぁ俺も」

「でこれからどうするの?」

「まずはNPCにクエストの確認だな」

「そ、その前に!」

「なんだよ?」

 

 こういう風に喋る前に、少し詰まるのが彼女の癖らしいと最近覚えた。

 そして大概そういうのを言う時は、いろんな意味で破壊力がある言葉だ。

 

「た、助けてくれてありがとうございます。 橋から落ちる瞬間滅茶苦茶怖かった」

「気にするな、コンビだからなパートナーを助けるのが、パートナーの基本だ」

 

 照れくさそうに言うと彼女は嬉しそうな笑みを浮かべた。

 

「じゃ、じゃあお嫁に貰ってくれますか! 裸見られたんだしそれぐらいして!」

「ぶはっ、それはそれとは別問題だろ!」

「それじゃ、アルゴにユーリは人の裸を見るために谷底で酸の攻撃受けたって言おうかなー」

「おいこら、そんな捏造するなよ」

「ふふふー、こういうときは女の子は強いのですよー」

「だーもう、嫁云々は置いておいてお前は大事なパートナー! これから先もだ! これでいいだろ!」

「むー、それじゃ恋愛感情無い気がするんだけど」

「そもそも俺にお前惚れてないだろ! これで勘弁してくれ!」

「むー、むー、んー、わかったそれじゃ私のユーリはこれから先ずっとパートナーだよ!」

「わかった、わかった、だからそのむーむー言うのやめてくれ」

 

 その後クエストを確認すると、部屋を提供した変わりに、谷底にあるとあるアイテムが欲しいと言われたので、それを届けるとスピア系列の武器をクエスト報酬としてくれた。

 彼女が軽鎧のヤリ使いと名をはせる要因になった出来事である。




6月2日最終話予約投稿予定。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。